刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は紫編その4 前編です。
今話はとじともの刀使のエピソードと、現実でもあり得そうなシチュエーションを交えて考察しながら執筆致しました。

それでは、どうぞ。


⑤ 要人警護

 ー沖縄県那覇市 某リゾートホテルー

 

 南国情緒の漂う国際都市、那覇。

 今回、近年続発するテロリズムに対しての、先進諸国による国際会議がこの街で開かれることになった。それに伴い、各国の警察機関のコンベンションも同時に行われることが決まった。

 当然ながら、警察機関である刀剣類管理局もまた例外でなく、このコンベンションに参加することとなった。とはいえ、基本的にテロリストと対峙するのは、日本国内では各都道府県警や自衛隊になるため、オブザーバーとしての出席となったワケである。

 

 

 

 

 紫や親衛隊の面々が到着する前日、会議を行う施設の設備確認と危険物の有無の調査、警備担当者との打ち合わせを行った彼。

 今回のコンベンションには、紫自ら出席することになっており、先行して現地入りした彼も緊張感は拭えなかった。

 

 

 そして今、紫達も後ほど宿泊するこのホテルに詰めている。

「今回、他の刀使の派遣は…那覇基地にて待機か。そりゃそうだな。」

 那覇空港に隣接する、航空自衛隊那覇基地と陸上自衛隊那覇駐屯地。南西諸島防衛の最前線だが、国際会議を前にあそこもだいぶ慌ただしくなっているように感じた。

 この国際会議に際し、長船から二小隊、十二人の刀使と、彼女らを支援するサポート部隊の計二十名も沖縄入りするという。

 

「どうか無事に終わりますように、っと。」

 荒魂と日頃対峙する自分がこんなことを言うのもどうかとは思ったが、何も無いに越したことはない。

「にしても、同伴者がな…。」

 今日分の簡易的な報告書を本部に送っている彼の近くで、ベッドでいびきをかきながら寝ている糸崎の姿を見ながら、今回は大丈夫なんだろうか、と不安に思うのであった。

 

 

 

 

 翌日、那覇空港に向かった彼と糸崎。

 ハイエースを駆るのは、珍しく糸崎であった。…というのも…。

 

「ふあぁぁ~っ。…よく寝たぁ。」

「…あれだけ派手な寝方をしていて、なお眠いなら病院行ってこいや。…むしろ、酷いいびきを一晩聞かされながら寝た、俺の身にもなってくれ。」

 

 防音対策の施された部屋での大音量のいびきは、音が外に出ない分、隣で寝ている人間にとって耳栓が欲しくなるほどのものだった。

 緊急時の連絡に備えて、耳栓を付けることが出来なかった彼は、まさに今酷い眠気に襲われていた。

 

「というか、運転出来るって今日初めて聞かされたぞ。…お陰で少し眠れそうだが。」

「オートマだけどな。つか、お前ミッション運転出来たのな。」

「何があってもいいようにな。…大型や牽引やらは流石にまだ無理だが。」

「いや、普通の人間はそこまで取らねえから!」

 冷静なツッコミを入れる糸崎。少し黙ったあと、会話を再開する。

「…大体、お前は無茶し過ぎなんだよ。早希も心配してたぞ。『○○(彼の苗字)さん、いつも他の人達の書類とかも作って、残業し過ぎではないですか?』って。」

「…気のせいだろ。生憎、俺はお前ほど事務処理能力は高くねえしな。」

「どうだかな。…そういや、葉菜ちゃんから言伝。『仕事や諜報もいいけど、ちゃんと休んでおくんだよ。』…だそうだ。」

「…休むべらくは葉菜の方だろうにな。綾小路の動きを追うのはいいが、何かあったら元も子もないのは同じだろうに。」

「…◯◯、お前さっきの言葉の意味、分かってないのか?」

「は?…何事も加減してやれ、って意味じゃないのか?」

「……葉菜ちゃんや他の娘達が苦労する理由がよく分かるよ。彼女らに、一発殴られてこい。」

「いや、どうして俺が殴られにゃならんのだよ!訳が分からんわ!」

「…早希のしていた懸念は、どうやら酷く当たっていたみたいだ。」

 糸崎は、鎌倉に残してきた彼女のことを考えながら、乙女の気遣いが分かっていない彼に呆れるのであった。

 

 

 

 

 移動中に少し仮眠を取った彼は、那覇空港に着いたことも気付かない程度には寝息を立てていた。

 夢見心地に入る前に、肩をユサユサと揺らされる彼。

「◯◯、着いたぞ。」

 隣に座っていた糸崎が、彼を起こす。

「ん…。…那覇空港か。…よいせ。」

 シートベルトを外し、首を双方向に一回転ずつさせる。

「…首痛ぇ…。」

「もうすぐ、紫様達の乗った便が着くぞ。」

「あいよ。…警棒と拳銃は、あるな。…よし、行くか。」

 折神家一行を出迎えに、到着ロビーへと向かう二人。

 

 

 

 

「経費削減のためとはいえ、通常の旅客便での往来というのもな…。…警備上は小型ジェット機の方がやりやすいんだが。」

 思わずボヤく糸崎。

「頻度に使う訳じゃないんだから、仕方ないだろ。おまけに、コンベンションの開催が決まったのは数日前だ。チャーター便が居るほどの人数でもなかったからな。…ただ、機内の圧迫感は相当じゃないのか?一般の人からすれば。」

「…まあ、テレビで映るような人が物々しい雰囲気で乗っているんじゃ、落ち着かないのは確かだな。」

「とか言っていたら、ようやくいらしたぞ。」

 到着ロビーにやってくる親衛隊の四人と、その中心に居る紫。特例として機内に御刀の持ち込みは可能になっているため、結芽以外の親衛隊の面々にとって、警護は楽なものだろう。

 

 

 姿を確認した二人は、ロビーの入口まで進もうとした時だった。

「さて、出迎えに…。」

 足を運ぼうとした途端、エスカレーターと柱の近くに不自然な動きをとる男達を見かける。

 隣を歩いていた同僚に耳打ちする。

「……糸崎、エスカレーターの方の集団を見てくれ。後ろの柱の方にも、二人ほど変な動きをしてる奴がいた。」

「…狙いは紫様か?」

「分からんが、警棒と拳銃は何時でも出せるようにしておけよ。…動くなら、一瞬だ。」

「防刃チョッキじゃない方が良かったかもな。」

「知るか。…扉から出てくるぞ。」

 お互いに、不審な動きをする集団に対して、すぐ動けるように緊張の糸を張る。

 

 

 

 

 一方、そんな到着ロビーの様子を知らない折神家一行。

「やっと着いた~。飛行機長かったな~。」

「結芽、遊びに来た訳じゃないんだから、もう少し大人しくしてくれ。」

「良いではありませんの。真希さんも、少し肩に力が入り過ぎているのでは?」

「獅童さん。紫様の前ですので、ご自身の声量にも注意してください。」

「まあ待て。…コンベンションが終わったら、結芽の好きそうなところに行くとしよう。」

「紫様、いいの?やったあ!」

 そんな結芽の喜んだ顔を見た後、紫は待合スペースに繋がる自動ドアの向こうで待つ、本部所属の彼らを見かける。

(出迎えか…。…視線の方向が我々に向いていない。何かあるのか。)

 二人の目線が気になった彼女は、龍眼による未来視を発動する。

(…ほう、面白い。無謀だが中々悪くない動きだ。…警備を突破出来ればだが。)

 そして、真希と夜見が自動ドアに到達し、待合スペースに入ってくる五人。

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

「折神紫!その命、貰い受ける!お覚悟ー!!」

 柱の方に居た二人組の男が、紫目掛けて突っ込む。一人は両手、もう一人は逆手持ちにしたサバイバルナイフを持っていた。

「糸崎、エスカレーターの方は任せた。」

 ふっと動くと、瞬間的な加速で暴漢に立ち向かっていった彼。

 

 

 それとほぼ同時に、エスカレーター付近の五人程の集団が並び出て、紫達の方にアサルトライフルを向ける。

「取引を潰した恨み、ここで晴らさせて貰おう!」

 銃火器による犯罪が皆無な日本国内において、この事態はあまり想像したくないようなものだった。

 

 

 …だが。

「…来るか。なら、どれほど足掻いてくれるか見物だな。」

 紫は、敢えて相手を挑発してみせた。当然、そこに根拠があるからだ。

「ふざけるな!これだけの数で何が出来る!」

 リーダーらしき男がそう吠える。

「我々の力を侮ってもらっては困るのでな。」

 売り言葉に買い言葉なのかはさておき、紫や待合スペースに居る人間へ向けて、男達は無慈悲に銃弾をばらまく…筈だった。

 

 

 

 

「紫様に降りかかる火の粉は僕達が払わせてもらうよ!」

「白昼堂々、良い度胸ですわ!」

 御刀を抜いていた真希と寿々花が、迅移を使って間合いを詰めると同時に、アサルトライフルを斬り落とす。

「んな…!!馬鹿な!」

「おじさん達、遅~い。」

「…脇が甘いですね。」

 遅れて結芽と夜見が峰打ちで銃を持っていた集団を無力化する。

 

 

 ドサドサッ

 

 

 無造作に倒れて気絶する男達。

「…俺が行く暇も無かったな…。」

 彼に対処を依頼されていた糸崎は、呆然としながらも一時的に一人になった紫を守る。

「ご無事ですか、紫様。」

「私は構わん。…お前は、あちらを助けにいかなくていいのか?」

 一人をあっさり無力化していた彼の方に目をやる紫。

「ああ、心配要りませんよ。…ああ見えて、やる時はやる奴ですから。」

 やれやれとでも言いたげに、両手を挙げる糸崎。

 それだけ、彼の力を信じているという証左なのだろうが。

 

 

 

 

 その彼は、襲撃してきた暴漢の最後の一人と対峙していた。

「余程の覚悟で挑んだ割には、お仲間があっさりやられるとはねぇ。」

「うるせえ!俺が残っている限り、計画はまだ終わっちゃいねえ!」

 紫に突っ込んでくるはずだった二人のうち、真っ先にやって来た両手持ちの男の方へは、スタンバトンを両手首と首の左側に当てて、電撃で無力化した。どうやらこちらは、銃を持っていないようだ。

「早いところ、投降した方がいいと思うけどな。」

「こちとら面子を潰されてイライラしとんじゃ!お前みたいな若造に、この気持ちが分かる訳ないじゃろ!」

「………言いたいことはそれだけか。」

 途端に彼の声音が変わる。

「お前さえ殺ってしまえば、折神家の威厳は地に堕ちる!…目の前の折神紫の首が取れないのは残念だが、お前の命と引き換えにその名声も終わらせてやるよ!」

「…そうかい。」

 

 この時の彼の顔を見た人間は、皆無に等しかった。

 だが暴漢は、怒りとも憎しみとも悲しみとも取れない、無表情、いや人の形をしたロボットのような彼の顔を目にした。…そして、それは男が意識の飛ぶ前に見た最後の光景だった。

 

 

 その際の動きだが、彼が口を閉ざしたあと、一瞬静止した時間があった。かと思ったら、バッと駆け出し、サバイバルナイフを持つ男の右腕に、全力でスタンバトンを振り下ろした。ナイフが手から離れたのを確認すると同時に、暴漢の顔面目掛けて肘鉄を喰らわせた。気絶しそのまま右手を、人差し指を立てたような姿で倒れた最後の暴漢は、後ほど救急車に乗せられ病院へ搬送されていった。

 

 

 

 

 この那覇空港の一件は、負傷者ゼロという奇跡的なもので解決した一方で、事前に襲撃を防ぐことが出来なかった沖縄県警がとばっちりを受けるという事態に発展した。

 とはいえ、これを除けば国際会議の開始までは平和的に物事が進んだと言えるだろう。

 ちなみに紫達を襲撃した集団は、荒魂討伐の際、たまたま違法薬物の受け渡し作業を刀使達に抑えられ、逮捕された反社会的勢力の仲間だったらしく、これがもとで警察庁主導のもと壊滅作戦のやり玉に挙げられていったのは、因果応報というのか自業自得というのか、少なくとも同情の余地を挟むものでは無かった。

 

 

 

 

 制圧後、紫や親衛隊のもとへと駆け寄る彼。糸崎が声を掛ける。

「本当にやっちまうとはな。」

「糸崎、紫様は?」

「私なら心配ない。お前は…、少し擦っているようだな。」

 どうやら戦闘の際、左頬の皮が少し捲れたようだ。

「これくらい、なんてことはありませんよ。皆、無事で良かったです。」

「そうか…。治療は済ませておくようにな。」

「はっ。」

 紫に敬礼で返す彼。

 

 コンベンション開始の時刻が迫っていたこともあり、紫と親衛隊の四人は那覇空港を離れざるを得なかった。そのため、事後処理は彼と糸崎が中心となって行うことになった。

 

 

 

 

 沖縄県警の協力のもと、詳細な実況見分が作成されていくのを見ながら、糸崎は彼に問いかける。

「なあ、◯◯。最後に残った奴を抑える時に、少し不自然な間があったんだが、何かあったのか?」

「ああ…。ちょっとな。…合理的理由を欠いて、紫様や親衛隊の面々に危害を加えようとしていたことに対して、頭に血が昇ったみたいでな。…どうも、良くない動きだった。」

「どうだかな。俺は気が付かなかったのに、お前はあっさり異変を察知した。…改めて凄い奴だよ、お前は。こんなことを言うのは、久し振りかもしれないが。」

 糸崎は、そう言って彼の顔を見据える。

「…それは買いかぶりだ。…今回は良かったが、次もこうなるとは限らない。紫様や親衛隊、刀使達に人を斬らせるような真似は、絶対にさせちゃならないんだよ。その矢面に立つのは俺達でいい。」

 一般人に対峙するべきは一般人、その原則に立ちたい彼にとってみれば、彼女達が傷つく要素を排しにいきたかった。…まさかこれより後、刀使同士の戦闘が勃発するとは、この時の彼には夢にも思っていなかったのだが。

 

 そんなこんなで、那覇空港での実況見分が終わり、彼と糸崎も紫達の居るコンベンション会場へと向かう。

 

 

 

 

 コンベンションの開始まで僅かに時間があったため、紫のもとへと事後報告に参った二人。紫の前には、真希が控える。

「今回の対応、ご苦労だった。◯◯、糸崎、お前達は一度休め。」

「いえ、俺はこのまま警備に就きます。…その代わり、糸崎は休ませますから。」

「おっ、おい。さっきやりあった、お前の方が疲れているだろ?俺は、この通り元気はつらつだぞ。」

「…紫様、ご指示を。一人なら減っても、まだやりくりがつきますが、二人も抜けるのは流石に不味いかと。」

「ふむ…。」

 

 疲労が無いと言えば嘘になるが、他の人間が動いていて自分が動かないというのは、彼の考えとしてはどうしても嫌だった。

 

「…分かった。糸崎、お前は休め。その代わり、本日のコンベンション終了以降、警備を任せる。」

「…はっ。」

「◯◯、会場警備へ向かうことを許可する。…無理はするな。」

「了解しました。…それでは、失礼致します。」

 先に紫の詰める部屋を後にする彼。

 

 パタン

 

 部屋には、紫と糸崎、真希の三人が残る。

「…不器用というのか、頑固というのか。全く。」

「糸崎、お前は彼をどう思っている?」

 真希が、徐に糸崎へと尋ねる。

「まあ、いい奴ですよ。…本人が倒れないようにするのは、恐らく無理でしょうが。何言っても頑固なんで。」

「…ふっ。」

 思わず、紫が僅かに噴き出す。

「紫様…?」

「いやなに、あの男は少しも変わらないと思ってな。…初めて会った時もそうだった。」

 そう言って、彼女は夜見の淹れた紅茶を口に運ぶのであった。

 

 

 

 

 そうして、各国の警察機関が交わるコンベンションが始まるのだが、これまた波乱含みなものになっていくことを、誰もまだ知らない。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

…絡みを増やしたいのに、自分からハードルを上げているような気がしなくもない筆者でございます。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

次回は後編に移ります。
それでは、また。
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