刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は可奈美編その8 前編となります。
時系列はアニメ24話、可奈美が隠世と現世の隙間をさまよっていた頃の話となります。なお、アニメでの内容と若干話している言葉や順番が異なります。ご容赦ください。

それでは、どうぞ。


⑫ 最後の対話

 ー現世と隠世の狭間ー

 

 一面に広がる、果て無き空間。

 どこまでが上でどこまでが下なのか、自分は一体どこへ向かって進んでいるのか、可奈美には全く分からなかった。

 タギツヒメを隠世の奥深く、それこそ永遠ともされる時間の潮流まで押し込むため、タギツヒメに御刀を突き刺したまま、彼女は姫和とともに迅移を最速の第五段階まで加速させた。

 ただ、可奈美と姫和とでは、どうしても最速の一の太刀を繰り出せる姫和の方が迅移の速さが上回ってしまうため、途中で彼女とは離れてしまった。

 今は一人。進む道を見つけられず、ただ前に向かって歩き続けていた。

 

 

 

 

 

 

「姫和ちゃ~ん!どこ~?」

 

 音すら反響しているのかさえ分からないなか、互いに最期を誓った戦友の名を叫ぶ。

 

「困ったなぁ。…私、どうしたらいいんだろう。どこにいるのかも、全然分からないし。」

(……◯◯さんに、結局嘘を吐いちゃったな…。姫和ちゃんからあの嘘を言われても、私はちゃんと解っていたからそれはいいと思ってる。でも、◯◯さんには……。)

『―絶対、帰ってきますから!約束させてください!』

『俺も最善を尽くすから、行ってこい。』

(……あの時、◯◯さんは私を信じて送り出してくれた。師匠や篝さん達のことや、相模湾岸大災厄の中のあの出来事を知っていて、それでも私の背中を押してくれた。…申し訳ないことになっちゃったな…。)

 

 彼は彼女が生きていることを知らない。だが、結局その事実はあまり関係のないことだ。なぜなら、可奈美が彼へそれを伝える手段を、現状持っていないからだ。スマホも、スペクトラムファインダーも、いずれも圏外を示していた。手っ取り早く伝えられる手段が意味をなさないのは、彼女としても非常に不便なことだ。

 恐らく、自分の生死が分からないまま、彼は今も日々を過ごしているのだろう。可奈美がそうした考えを導き出すまでに、そう時間は掛からなかった。

 

(…◯◯さんは、多分生きていると思う。あの人は、確かに死にかけるような動きを見せることだってあるけれど、周りの人たちが絶対にそうさせないように動いてくれているだろうから。…自分が大変なのに、◯◯さんのことを心配している場合じゃないよね…。)

 

 彼のことをふと考えたが、会えないものに縋ったところで、ただただ虚しいだけである。ともかく、姫和を先に探し出さなければ、可奈美の意識は其方に向いた。

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、可奈美は共鳴音を発し続ける《千鳥》に導かれて、神奈川県にあった彼女の実家が視界に飛び込んできた。もちろん、本物ではないが。

 

「私の、ウチ?…入ってみよう。」

 

 可奈美は、門扉を抜け、玄関から家内に入る。中に家族の誰かがいるのかもと思って、父や兄のことを呼ぶも、その気配は無い。

 

(…中の雰囲気、机とかの配置…。間違いない、これはウチの家だ。)

 

 リビングダイニングや、そこから見える庭の雰囲気から、彼女はそう確信した。

 そんな時、彼女の後ろから何かの気配を感じ取る。ふと、後ろを振り返った。

 

「―!?あれっ?」

「お客さん?…あら、可奈美じゃない。どうしたの?」

「し、師匠!?どうして、ここに?」

 

 それは、思いがけない再会であった。彼女は、夢の中でここしばらく会っていなかった美奈都と出会えたのである。

 

 

 

 

 

 

 二人は、リビングにあった短脚テーブルを挟み、相対して座った。座布団の感覚も、家のものそのままだった。可奈美は、タギツヒメを姫和とともに封じるべく、この空間まで潜ってきたことを美奈都へ簡単に説明する。

 

「…なるほどねえ。結局、可奈美は友達と一緒にここまで来ちゃったわけだ。」

「うん。まだ、はぐれたままだけどね。それでも、また会えるって信じてるんだ。」

「そっか。」

「でも驚いたなあ。師匠がまさか、ウチそっくり…ううん、ウチと同じ空間に住んでたなんて。」

「中の感じとかも全部そうなの?」

「うん。師匠は知らないだろうけれど、そっくりそのまま。ここにお父さんとお兄ちゃん、私と師匠も一緒に暮らしてたんだよー。」

「…って、私結婚できてたの!?…あ~、そういえば篝も結婚してたから、そうおかしな話でもないのかー。」

「お父さんと師匠も早くに結婚したって、お父さんが話してたよ?」

 

 そう言った可奈美に、美奈都はその縁が思い当たる節のある異性のことを思い出した。

 

「ええ~っ、私、あんな奴と結婚したんだー。想像したくないな~。恥ずかしいよ~。」

「えっ、お父さんのこと昔から知ってたの?」

「まっ、まあね。腐れ縁の同級生だったし。何がどうなってあんな奴と…。…でもそっか、アイツとねぇ…。」

「きっと、奇跡の大逆転があったんだよ。お父さんとお母さん、ラブラブだったもん。」

「うえぇぇ~っ…。…でも、そのおかげで可奈美が産まれてくれたんだよね。」

「そうだよ。」

「だったら、まあいっか。…ちなみにさ、可奈美にはできた?そんな男の子は。」

「う、うん。」

 

 可奈美は彼のことを思い浮かべたが、それと同時に少し暗い顔を浮かべた。

 

「…どうしたの。急に元気なくなったじゃん?」

「実は、ね。…嘘吐いちゃったんだ、その人に。『絶対に帰ってくる』って。でも、私、その約束を果たせなかった。『後ろは任せておけ』って、私を送り出してくれたのに。…『本当は行かせたくない』って、はっきりと明かしてくれた優しい人なのに。」

 

 きっと、彼は深く傷ついているだろう。自分のことを、もしかしたら悲しんでくれているのかもしれないと。

 

 

 

 

 可奈美は沈痛な面持ちで、その顔を美奈都へ向けていた。それを聞いた美奈都は、彼女に意外な言葉をかけてきた。

 

「…そっか、可奈美はもう見つけたんだね。自分を大事にしてくれる人を。」

「えっ?」

「だってさ、もし可奈美のことが好きだとしても、ただのご機嫌取りなら、頑張ってこいよ、とか、荒魂いっぱい倒してこいよ、とか結構無責任なことを可奈美に言うんじゃないかな?―でも、その男の子はそうじゃない。ちゃんと可奈美のことを、刀使としてもそう、大事な女の子としてもそう、きちんと見てそう言ってくれたんでしょ?それに、可奈美はその人のことを罪悪感を感じるくらい大切に想ってる。私は、可奈美が幸せな娘だと思えたよ。その素敵な男の子のこともね。」

「…そう、なのかな。」

「うん!きっと、その男の子も可奈美のことをちゃんと想っているんじゃないかな。…もし可奈美が戻れたら、その男の子はきっと喜ぶんだろうなぁ。」

 

 美奈都は、可奈美が話した彼のことをそう評価した。それと同時に、娘が幸福な道を歩んでいたことを喜ばしく思っていた。

 

(…師匠から、◯◯さんを素敵な男の子って言ってもらえて、私、嬉しいな。…ちょっとだけ、嫌な気持ちが軽くなったかも。)

 

 彼へ嘘を吐いたと感じた罪悪感が、少しだけ薄らいだように思えた可奈美。

 過去であれ未来であれ、言葉を発するその人の本質はあまり変わらない。剣を交える時でなくとも、その言葉に含まれる想いは何も変わりはしない。それは等しく、彼女の胸に入っていくのだ。

 

「そこまで言ってくれるなら、その人を師匠にも見せてあげたかったなあ。そこは、残念だと思うけれど。」

「そうかな?可奈美が安心できる子なんだったら、私は何にも怖くないよ。…ちなみにその子、剣は振れる?」

「うーん。私みたいにずっと振ってるわけじゃないし、本当は刀を使うような人じゃないけど、何度も実際に打ち合ってみたことがあるよ。…私達刀使を守りたいっていう、強い信念のある人だった。それが、その人の剣から伝わってくるように、ね。」

「…その子と、剣で会話ができたんだね。」

「その人との立ち合いでは、私しか読み取ることができなかったけどね。それでも、私はあの人のことを解ったよ。」

「ますます、気になる子だなぁ。」

「あっ、師匠にはあげないからねっ!?」

「ふふっ、冗談冗談。可奈美はほんと、可愛いなあ。」

(…可奈美、本当にその人のことが好きなんだろうね。)

 

 美奈都は、可奈美の言葉の節々から、彼に寄せる想いを汲み取ることができた。

 剣の高みを目指すことで生じていた彼女の孤独を、少しでも晴らしてくれようとする存在は、彼女自身の手で既に探し出していたようだ。

 

 

 

 

 

 

 それからまた、可奈美と美奈都、親子の対話を深めていたなかで、再び共鳴現象が起こる。

 今度は、同じように母親である篝と再会できた姫和と、その姫和に引き連れられた篝が、二人と再会した。お互いに再会を分かち合いながら、涙を流し合った。

 可奈美から姫和のことを度々聞いていた美奈都は、姫和が篝の娘であることを直接見て実感し、納得していた。

 篝もまた、可奈美の姿を見て、美奈都と同じように剣術が大好きな娘であることを理解できたようであった。

 

 お互いの親子で会話を重ねるなか、ついにその談笑の時の終わりが迫っていた。少しずつ、美奈都達のいる空間が隠世に飲まれ始めてきたのだ。

 その際、篝から現世に帰還できる可能性がある、残念ながら美奈都と篝はすでに現世では故人となってしまっているため叶わないが、ということを聞かされた娘二人。二人は、その提唱された方法をそれぞれ実行した。

 

 可奈美は、美奈都との今生最後の立ち合いをし、姫和は、篝へ今までの人生に後悔は無いかを尋ねた。

 そして、可奈美は美奈都から判定勝ちを告げられ、涙声で美奈都からの免許皆伝を受け入れた。

 姫和は、篝から娘が幸せであるなら後悔はないとの言葉を聞き入れ、満足そうな笑顔を見せた。二人とも、未練をある程度断ち切ることができた。

 

 

 

 

 

 

 そして、永遠の別れの時。

 可奈美は、美奈都へ『師匠』ではなく『お母さん』と言って、感情を爆発させ、涙腺から溢れんばかりの涙をこぼした。

 姫和は、篝から、他人行儀な『姫和さん』ではなく『姫和』と呼んでもらえたことで、復讐に囚われる前の在りし日の母の姿を思い出すことができた。篝の胸元に飛び込み、姫和は抱きしめられた。

 

 可奈美と姫和、この奇妙な二人の体験は、恐らく彼女達にしか分からない出来事であろう。だが、例え存在が消えてしまおうとも、親子で紡いだ時間や経験が潰えることは絶対に無いのだ。

 二人は、美奈都と篝に別れを告げ、現世への帰り道を歩み始めた。

 その後にタギツヒメが美奈都達と剣戟を交わしていたのは、彼女達の知るところではなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 可奈美と姫和は、互いの手をしっかり握りながら、先の見えない道を前へ前へと歩み続けていた。

 途中、姫和が篝から託されていたスペクトラム計内のノロを案内役として出し、二人と一体で現世へ向かう。

 

「のろっ、のろっ。」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、二人への道を示していくのろろ*1。その後ろを二人は歩む。

 

「姫和ちゃん、疲れてない?」

「大丈夫だ。可奈美、お前はどうだ?」

「私も平気だよ。」

「そうか。」

「…姫和ちゃんのお母さん、姫和ちゃんと同じで芯の強そうな人だったね。」

「お前の母親も、お前と同じで剣術が大好きだったんだな。」

「うん。……本当なら、お母さんが亡くなった時に、もう二度と会えないはずだったんだもん。でも、《千鳥》がこうしてお母さんに、姫和ちゃんに、篝さんに引き会わせてくれたんだよ。私は、この御刀を大事にしたい。姫和ちゃんも、そうでしょ?」

「…ああ。現世に帰ったら、父と母の墓を参らないとな。それに、可奈美、お前には家族以外にも待っている奴がいるだろ?」

「…えっ!?な、何の話かなぁ~。」

「お前が嘘を吐くときは、目線が逸れる癖があるな。」

「ウソッ!?」

「……冗談で言ったつもりだったんだが、まさか本当に引っかかるとはな。」

「うっ…。姫和ちゃん、ヒドいよぉ~。」

 

 乗せられて引っ掛かった以上、可奈美も反論の弁を持っていなかった。つまり、姫和の問い掛けは図星であるということだ。

 少しの沈黙の後、可奈美は真面目なトーンで姫和に話し掛ける。

 

「姫和ちゃんの言うとおり、多分、待ってくれている人はいるよ。舞衣ちゃんや沙耶香ちゃん、エレンちゃんや薫ちゃんだってそう。皆、待ってくれていると思う。…でも、姫和ちゃんが言っている人は、そうじゃないんでしょ?」

「ああ。お前の意中の人物、と言えば分かるだろう?」

「…やっぱり、バレてたんだね。」

「お前たち二人は分かりやす過ぎるんだ。…それに、剣術馬鹿とでも言うべきお前を好きになるような男は、恐らくそうはいないだろう。…あの男ほど、お前に長時間付き添う力が無い限りはな。」

「……うん。私、今でも◯◯さんのこと、好きだよ。姫和ちゃん達とは違う、別の意味での好き。」

「…まあ、可奈美ならあの男とやっていくのに苦労はしないだろうな。むしろ、お前がアイツに振り回されそうな予感はするがな。」

「あー、うん。それは、ありそうだね…。」

 

 好意を持つ異性の、普段のオーバーワークを振り返って、少し顔が引きつった可奈美。それが自分たちのために振るわれているのだから、一層申し訳なさも湧き上がってくるのだが。

 

「そっ、それでだな、可奈美。」

「ん、なーに?姫和ちゃん。」

「お前とアイツは、その、…き、キスとかはもうしたのか?」

「……それがね、全くそんなことは無かったりするんだよね。」

 

 可奈美は、少し遠くを見るように視線をぼやかした。その顔は、寂しいもののように見えた。

 

「私が◯◯さんに告白したのは、ちょうどタギツヒメが暴れ回る騒動の起きる直前くらいだったんだ。そこからはずっと、任務とかで一緒の時間は取れなかったし。…それに、ちょっとギスギスしてたからね。タギツヒメのこととかで。」

 

 好きであるからこそ、彼も譲りたくなかったところはあったはずだ。それでも、彼は可奈美の意を汲んだ。だから、戻ったら今度は彼女が彼の気持ちを受け入れる番なのだと。

 

「…◯◯さん、戻ったらどんな顔をするんだろうな。」

「きっと、可奈美の姿を見たら泣くんじゃないか。ああ見えて、あの男は涙腺が緩いところがあるからな。」

「そうかもね。…姫和ちゃんにもきっと、良い人に出逢える日が来ると思うよ。」

「…なら、その時までにもっと鍛えねばな。相手の方もだが。」

「ええ~っ、姫和ちゃん、スパルタ過ぎない?」

「私の相手がなよっとした男であってたまるか。…流石に、ずっと一人は嫌だからな。」

「…そうだね。どっちみち、早く皆のところに帰らなきゃね。」

「ああ。……っと、お前そっちに行くのか。…荒魂というのは、本当に気まぐれな奴だ。」

 

 のろろが進行方向を変え、現世へ向かって飛び跳ね続ける。二人の旅路は未だ道半ばだ。

 

 

 

 

 

 

 暗く先の見えないなかで、光を目指して前へ進む。戻った先に待っているであろう、大切な人達のもとへと着実に帰るために。

 彼女達の足はまだ、止まらない。

*1
このノロの命名は姫和の中の人(大西さん)によるもの。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

個人的に最終話である、アニメ24話『結びの巫女』は全てを通して視聴したうえで、涙が止まらなくなる要素が多いシーンに視聴当時も現在も心打たれました。
思えば、個人的に刀使ノ巫女を追っていこうと決めた理由があの最終話であった、とも言えますね。

なお、二人の現世への帰還までには約四ヶ月前後の時間が流れていますが、特に最後まで戦っていた舞衣達は、二人の帰還を感涙のなか迎えたのでは、などと筆者は考察しております。

次回は、可奈美が現世を離れている間の主人公側の視点になります。

それでは、また。
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