刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
二日連続投稿になります。

今回は結芽編 その1です。
時系列的には、御前試合の遥か前の頃になります。

それでは、どうぞ。


結芽編
① 打ち合いの果て


 ー鎌府女学院 剣道場ー

 

 刀剣類管理局本部の近くにある、鎌府女学院。

 鎌府の生徒だけでなく、親衛隊や折神家で警護にあたる刀使達も、この剣道場で鍛錬を積む。

 

 

 鎌府女学院内を歩いていた彼は、舞草の指示のもと、秘密裏にノロの人体実験が行われているとされる、これら校舎内を巡っていた。

 

「…やはり、表で分かりやすい部分には、進入口なぞ作っているわけないか…。高津学長の行動を掴むにしても、俺はそこまで深く潜れないしな…。陽菜(ひな)に頼んでみるか…。」

 全国の刀使達の御用達である、御刀整備などを一手に引き受ける青砥館。

 そこの主人の娘にして、鎌府(ここ)で刀匠を目指す青砥陽菜に、彼は自身が立ち入ることの出来ない細部の調査を依頼することを考えていた。

 

 剣道場の横を通りかかった時、中から声が聞こえた。

「誰か振るっているのか?」

 ちょうど休憩用具を一式持っていたので、お邪魔させてもらうことにした。

 

 

 

 

「あーあ。全然つまんないや。…なんか面白いこと無いかな~?」

 道場内にでーんと横たわっていた、親衛隊第四席 (つばくろ)結芽(ゆめ)

 珍しく鍛錬に気が向いた彼女は、一人剣を裁いていた。

 ドスドスと、床に伝わる振動。

「中の声は結芽だったのか。」

「あっ、お兄さん。どうしたの?」

 彼の姿を見て、上体を起こす結芽。

「通りかかったら、声が聞こえたもんでな。調子はどうだ?」

「う~ん。私が強いから、ここの娘たちは全然相手にならないんだもん。真希お姉さん達は今居ないし、紫様も忙しくて構って貰える雰囲気じゃなかったし、誰も構ってくれそうな感じじゃないんだもん。…ちょっとつまんないな…。」

 両頬を膨らませる結芽。

「なら、俺が相手になろうか?…といっても、結芽に瞬殺される気はするがね。」

 どこからか、二つの竹刀を持って来ていた彼。

「…暇つぶしでもいいかな。じゃあ、お兄さん。あ~そぼっ!」

 にっこりと、彼に笑いかける結芽。

「…あれっ…。もしや俺、サラッと地雷踏んだ?」

 かくして、結芽と彼の剣戟の幕が上がる。

 

 

 

 

 道場の中心で相対する二人。

「んじゃ、始めるか。」

「うん。…そうだ!お兄さんから先に打って来てよ!」

「えっ。」

 マジで、と彼は言葉を続けたかったが、彼女はこちらの出方を窺っている。

 もう既に、闘いは始まっていた。

「…分かった。こっちも手加減抜きで、全力でやらせてもらおう。」

 

 

 彼は気持ちを切り替えるために、一度目を瞑る。

 カッ、と目を開いた時は、まだ結芽は正面に立っていた。

「やあぁぁぁっ!!」

 真っ先に、竹刀の剣先を結芽の手首に向けて振り下ろす。

「させないよっ、と。」

 その行動を読んだ彼女は、むしろ彼との間合いを詰めてきた。

 

 

 カンッ

 

 

 互いの竹刀がぶつかり合う。

 下手に力押しでは勝てないと踏んだ彼は、一度結芽の方に力を押し出し、その力の反作用で体を後方に下げる。

「お兄さん、考え無しかと思ってたけど、そんなことないね。」

「バカ言わないでくれ。現役刀使とやり合うのって、案外キツいんだぞ。」

 意外に体力と精神を持っていかれることに気づいた彼は、結芽の機動力を警戒しながら、いかに引き分け(イーブン)に持っていくかを考える。

(下手に防御に徹するのは悪手か…。…なら。)

「お兄さ~ん。こっちから仕掛けてもいいよね?」

「ああ。来るならいつでもいいぞ。」

「それじゃあ、行っくよ~!」

 無邪気ながらも、若干の殺意のある笑顔を浮かべながら急速に間合いを詰める彼女。

 彼は、まだ動かない。

「まだだ…。」

(…ん?お兄さん、そのままやられるつもりなのかな?)

 少し不思議に思いながらも、高速で彼の懐に突っ込む結芽。

 彼との相対距離が、2mを切った時だった。

(今だ!)

 

 

 彼は、静かに、だが高速の斬撃を繰り出す。…そう、居合いだ。

 真っ直ぐに、結芽の進んでくるであろう予測進路に、それは振り向けられる。

 

 

「!そうこなくっちゃね!!」

 ある程度その予測が出来ていた彼女は、彼の竹刀と垂直に交差するように自身の竹刀を立てる。

 

 

 ガキッ

 

 

 互いの威力が、相殺しきれずにどちらともの体を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

「お兄さん…。大丈夫?」

「結芽こそ、大丈夫か?」

 今、二人は互いに折り重なるような形で床に伏していた。

 僅かに結芽の力の方が上回ったため、彼は数mほど吹っ飛ばされたのだが、結芽もまた高速の移動速度を下げることは出来なかったため、彼の上に乗るような形になった。

「…こりゃ、俺の負けだな。先に尻もちついているしな。」

「えっ、私の勝ちなの!?……やったー!」

 勝利に喜ぶ結芽。下敷きになっていた彼も、どこか嬉しそうにしていた。

 だが、取りあえずこの状態は、他の人間が見たらマズい光景ではあるので、早いところ彼女に離れてもらうよう促す。

「結芽、喜んでいるところ悪いんだが、上をどいてくれるか…?」

「えっ?…分かったよ。」

 そくさかと、彼の腹上からどく彼女。

 

 

 立ち上がる際に生じた身体中の軋みを無視し、服の埃を落とす。

「…お兄さん、ホントに大丈夫?」

「大丈夫だ。結芽の方こそ、怪我は無いか?」

「うん。…お兄さんが庇ってくれたから。」

「偶々だろ。…まあ、結芽を怪我させたら、間違いなくこっちが真希からお叱りを受けることになるだろうけどな。」

「ちなみにさ。今日はもう一回、立ち合いできるの?」

「今日は厳しそうだ。俺もこっそり職場を抜いてきているからな。もう戻らないと、流石に同僚に怪しまれる。」

「そっか…。」

 少ししょんぼりする結芽。

 彼は、彼女の目線まで腰を下ろして言葉を続ける。

「でも、また一人だけの時は声を掛けてこい。構えるかは分からないが、なるべく時間を作ってみよう。」

「えっ、いいの!?やった!」

 彼女は年相応のはしゃぎ方をする。

「だから、なるべく他の人に迷惑をかけることなく、過ごしていくんだぞ。」

「分かった!…お兄さんには、迷惑かけてもいいの?」

「あー。…その負担が背負いきれる程度ならな。」

「ふ~ん?まあいいや。ありがとうね、お兄さん。」

 お礼を言う結芽。

「別に大したことはしてないんだけどな。」

 と、ぼやく彼であった。

 

 

 

 

 立ち去り際、俺は結芽に手を振る。

 それに気が付いた彼女もまた、手を振り返す。

 

 

 こんな変わりない一日が、続くことを願って。




ご拝読頂きありがとうございました。

結芽は胎動編のみの登場で、離脱の方も早い段階でしたが、残り僅かに迫る命の灯火と闘いながら、自分の存在を他人に強く印象づけようとしていた娘だったと思います。
現に、可奈美はタギツヒメとの東京決戦時、結芽の技の三段突きを繰り出していた(これは他の方から知ったのですが)ことから、僅かの手合わせの中でも、彼女の心の中には結芽の存在が刻まれていたことを窺い知ることが出来ました。

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それでは、また。
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