平成最後の投稿になります。
今回は結芽編その4 後編です。
アニメ部分と一部リンクする部分がございます。
長くなっていますが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。
ー紀伊半島某所 舞草の里ー
ノロを祀る祭りも佳境を迎え、人々が日常へとまた還り始もようとした頃、祝い場に似つかわしくない、軽装甲車の駆動音と拡声器の声。そして、89式小銃やライオットシールドといった様々な武装を抱える特別祭祀機動隊。
『こちらは特別機動隊です!この地域は特別災害予想区域に指定されました。我々の指示に従い、速やかな行動をお願い致します。』
舞草と関係の無い人間はともかく、この展開速度の早さは舞草と関係のある人間にとってはまさに“奇襲”であった。
「クソッ、やられた!」
平城に居た姫乃から彼へ、関西方面の特祭隊に大きな動きがあると伝えられたのは、正にこの直前だった。
「◯◯(彼の苗字)、どうするつもりだ。俺達がここに居ることがバレたら、真面目にヤバいぞ!」
糸崎が思っている以上に、真っ青な表情だったのは彼であった。
「…朱音様に、判断を仰ごう。話はそれからだ。」
こんな時でも冷静な思考でいられたのは、不幸中の幸いだった。
「だが、里の位置がバレるとは思わなかったぞ。まさか内通者か!?」
「その判断は後回しにしろ!ともかく、御社へ向かうぞ!」
男二人と平城の生徒二人の計四名で行動しているが、もし紫派の部隊が山中にまで分け入って来られたら、明らかに四人で固まっているのは、不自然だと捉えられるだろう。
「糸崎、ここから最短で社に向かうにはどうすりゃいい?」
「確か、この辺りの岩肌に降下訓練用のロープを打ちつけていたはず…。あった!これだ!」
アンカー代わりの二つの鉄杭に結ばれた、二本のカーボン製ワイヤーを手に取る。
「これで一気に下れるぞ。」
「だが、降下訓練を受けたことのある俺らはともかく、彼女達はどうする?」
糸崎が不安がったのは、一緒に行動し巻き込まれた平城の舞草構成員の二人。非戦闘員の彼女達は、こうしたものには不慣れだと感じたからだ。
「ああ、それなら心配ねえよ。ワイヤーにはあちこちに玉が作ってあるし、滑り止め付きの手袋を人数分持っているしな。急ぎたいが、安全第一だ。」
「準備いいな…。」
彼の用意の良さに、うっすら汗を浮かべる糸崎。
「俺が先に下りて、下り先のクリアリングをするが、◯◯、それでいいか?」
「頼む。俺は彼女達より後に下る。」
「分かった。」
先に確認作業のため、糸崎が下り降りる。
一分ほどして、下から声がする。
「下は大丈夫そうだ!」
「分かった!」
確認は取れたようなので、平城の舞草構成員を下ろす準備をする。
「二人は、それぞれで下りていってくれ。」
「「はっ、はい!」」
手袋を装着した二人は、それぞれのワイヤーを掴みながら岩肌を下り降りる。
「◯◯!こっちに、二人とも下り終わったぞ!」
「わーった!二十秒で下る!」
平城の生徒が下り終わった事を聞き、慣れた手つきで懸垂下降の準備をする。
「…急がなければ。」
朱音やフリードマンのこと、里に居る舞草の面々のことを気にしつつも、手元を崩さないようにテンポよく下る。
里の中心にある、大規模な社。
朱音達が、紫の指示によりやって来た特祭隊のことを知らされたのは、彼が姫乃から連絡を受けたのとほぼ同じ頃だった。彼らが社に戻ってきた時には、可奈美達や長船の刀使から編成される部隊が、朱音達を守るように出撃準備を整えていた。
「朱音様!博士!」
「!◯◯さん、無事で何よりです。」
「遅いぞ。一体、何処で油を売っていたんだ。」
姫和から抗議される彼。
「すまない、心配を掛けた。状況は、…やはり悪いですか。」
「君の思っている通りだよ。我々はここから、戦略的撤退の方針だよ。」
彼の推測を肯定するフリードマン。
「小川さん達はここで折神家からの部隊を迎え撃ち、我々は潜水艦で脱出致します。ですが、貴方がたは…。」
指示を出す朱音は、ここで少し言い淀んだ。
と言うのも、彼と一緒に来ていた平城の生徒は兎も角、彼や糸崎は管理局本部の人間である。
一緒に脱出するのも、かと言って聡美達に混じって迎撃に加わるのも、どちらにしても問題しか生じなかった*1。まして、本部に所属している彼や糸崎は、未だに舞草の構成員とは紫派の人間に気付かれていない人間だった。
このアドバンテージを殺すわけにもいかない。
思い悩む彼女に助け舟を渡したのは、彼だった。
「…朱音様、ご批判を受けることを承知で、提案させていただきます。」
「…聞かせてください。」
ゴクリと唾を飲みこみ、真剣な眼差しで朱音を見る。
「我々は陸路で脱出し、後続で増派されてくる特祭隊部隊に合流します。……聡美達を、ここに置いていき、敵対するような形になります。」
「…!…お、お前、それは!」
誰よりも先に声を上げたのは、意外にも糸崎だった。
「朱音様達に、俺達はついて行くことも出来ない、迎撃も出来ない、そうなったら残された手段はそれしかない。」
「……◯◯、お前、自分が何を言っているのか、分かっているのか‼」
彼の胸倉を掴む糸崎。
彼の信念を身近で知る糸崎にとってみれば、こう叱責するのも何らおかしな話ではない。なぜ彼がこんな提案をしたのか、意味が分からなかったのである。
「…それを分かっていなかったら、俺はどれだけ楽でいられたんだろうな。」
そう呟いた彼の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「こんな提案が出てくる時点で、俺は糞野郎なんだろうよ。はっきりそう言える。仲間を見捨てて、自分達は逃げ出すんだからな。………だが、俺はともかく、
途中から、彼の目に力が籠る。不退転の覚悟をした聡美達の、その決意も無駄にしたくなかった。
「…。糸崎さん、その手を離してあげてください。」
「…朱音様。」
「貴方のその提案、受け入れましょう。」
「「「朱音様!?」」」
可奈美達を含め、周囲も目を見開いて驚いた。まさか、彼女がこの提案を承諾するとは思わなかったのだろう。
「…◯◯さんや糸崎さん達を、我々が連れていくわけにはいきません。…それに、もし私達が脱出できれば、反撃の狼煙を上げることが出来るかもしれません。そうなった時に、必要になる人は多いに越したことはありません。」
「…確かに、そうでしょうな。」
フリードマンもこれに同調した。
「お前達、正気なのか!?この状況下で、しかも陸路で脱出なんて、とてもまともな思考じゃない。」
唯一、姫和は彼の提案に異議を唱えたが、
「…大丈夫だ。それに、これだけ少人数なら森の茂みに隠れて撒くことができる。後は運だ。」
「……その言葉、信じるだけの価値はあるんだろうな?」
「朱音様や博士の居る前で、大見得切って駄目でした、なんて根拠が無い賭けなぞ俺はしないさ。」
「…分かった。」
と、そう納得した。
朱音や可奈美達一行などと別れた彼らは、山側に向けて舞草が整備していた小道を避け、旧日本軍が建設途中で放棄した地中要塞の中を進んでいた。
「行きに車を停めた場所に繋がっているとは、とても思えないところだな。」
「ここを見つけたのは、比較的最近だったからな。潜水艦を停泊させられる場所があるんだから、こうした遺構が有っても不思議はないさ。」
そう言った彼を先頭に、糸崎、そして平城の生徒達が連なる。
「何か出そう…。」
「怖いなぁ…。」
少女達からそうした声が上がるのも仕方ない。
複数の懐中電灯が内部を照らしていると、湧き水だったり、昔の砲弾がそのままだったり、中の環境の凄まじさを感じさせられる。
朱音達と別れて一時間。
「おっ、夜明かりが見えてきた。」
「…ってことは、出口か?」
「糸崎、先に出口に異常が無いか確認してくる。」
「分かった。」
暗くどん詰まりな空間から、新鮮な空気の広がる夜空へと向けて駆け出す彼。
その少し前、社で構えていた聡美達は、結芽のヘリボーンと迅移の高速発動により、次々と地に伏せていった。
「つまんないの…。」
聡美から《ニッカリ青江》を引き抜き、月夜に照らされる結芽。
瞬間、どこからか銃声が鳴り響く。
「…あっちかな?」
斬り足りなく、血の気が増えつつあった彼女は、潜水艦が停泊するドックへと向かう。
「あった!まだ車は確保されてない。」
場面は戻り、遺構の出口に特祭隊が居ないことを確認した彼は、道路脇の森林に隠すように停めていたミニバンタイプの車を見つける。
「よし、これで平城に戻れるぞ。やったな、みんな。」
「早く帰らないと…。」
「良かった~。」
糸崎の発言で、一緒に居た平城の生徒は安堵の声を出す。
「いや、安心するにはまだ早い。里に来た特祭隊の包囲を抜けられたかまでは、分からないからな。」
こう言った彼。実際問題、遺構を歩いてきたが故に特祭隊の遭遇を避けられたのも大きく、ここから先はどうなっているのか分からないからだ。
「◯◯、どうする?」
「糸崎、忘れたか?ウチには、情報のスペシャリストが居ることを。」
業務用携帯に表示された画面には、『水沢姫乃』の名前があった。
―平城学館 学生寮某室―
彼と糸崎が、紀伊半島に詰めている平城の生徒のもとを訪問するという、最もらしい理由でここを発ってかなりの時間が経過していた。
あまりにも帰ってこない二人に、苛立ちを隠せない里奈。
「あの二人、こんな時間まで一体何やってのよ…。」
「まあまあ。話が弾んだりとか、道に迷ったのかもしたのかもしれませんから。それに、さっき連絡は着きましたし、無事なのは確かですよ。」
「ただでさえ、何かきな臭い事態が進んでいるっていうのに。…全く、だらしないったらありゃしない。」
「あははーっ。」
取り敢えず、笑って誤魔化した姫乃。
そんな時、姫乃の携帯が鳴り響く。
「誰からだろ…って、◯◯さんじゃないですか。」
「アイツ、今頃電話?」
姫乃から携帯を取り、通話に出る里奈。
「もしもし!一体何時だと思ってんのよ!」
『中島か!?水沢は居るか?直ぐに代わってくれ!早く!』
「な、何よ!」
「里奈さん、失礼しますよ。」
携帯を里奈から取り戻す姫乃。
「今代わりました、水沢です。」
『水沢、すまないが直ぐに送って欲しいデータがある!』
「何でしょうか。」
『紀伊半島に送られた、特祭隊の位置情報、その全データだ!』
「…?ちょっと待ってくださいね。」
机上に置いていた自身のパソコンを立ち上げ、折神家と刀剣類管理局のネットワークを開く。
「さっき合流するって言ってましたけど、合流出来なかったんですか?」
『ああ。少し遅れるだろうが、どうにかする。』
情報を欲している真の理由は明かさない彼。
「…ダウンロード完了っと。現時刻での位置情報を、◯◯さんの携帯宛にメールで送りましたから、後で確認してください。」
『恩に着る!先に糸崎をそっちに返すから、二人は先に寝て明日に備えてくれ。以上!』
里奈の発言する暇は無く、そのまま通話は切られる。
「何なのよアイツは~‼」
「落ち着いてください、里奈さん。再会した時に、色々ぶつけた方がいいと思いますよ。」
何とか宥める姫乃。
(…何があったか分かりませんが、無事に帰ってきてくださいね。)
彼女はそう、彼の帰還を願った。
姫乃からの情報を確認する彼。
「頼む。どうか包囲を抜けていてくれ。」
包囲網は基本的に二重三重で組まれていることが多いが、今回は最初の包囲さえ抜けられれば、後は誤魔化しがきくと考えたのである。
そして、包囲網は…、
僅か数百mの差で、外側だった。
「糸崎、里から離れるぞ!」
「ってことは、大丈夫だったんだな!」
「ああ。…それと、途中で俺を下ろしてくれ。出来れば、次の検問で。」
「は!?」
「水沢や、紫派の人間に怪しまれないようにするためだ。…紫派の人間として、里に戻る。朱音様達が脱出出来ているなら、少なくとも舞草の人間が再度そこに戻るとは思わないだろうしな。」
「…状況報告、頼むぞ。」
「勿論だ。…後ろでぐっすり寝てる、彼女達を平城まで無事に送り届けろよ。」
「了解。」
そして、車を平城学館に向けて北上中に、特祭隊員の居る検問を発見する。
幸いにして、側道に誤って進入してしまい、その最中に近隣のエリアが包囲されていることに気付かなかった、という嘘を信じ込ませることに成功した彼は、後続で増派されてきた特祭隊の車に移乗し、再び里へと戻る。
糸崎の方は、無事に彼の言いつけを守り、里に居た平城の舞草の構成員を送り帰すことに成功した。
―紀伊半島某所 舞草の里―
つい十数時間程前までは、祭りの喧騒が響いていたこの場所は、ボロボロになった露店や、篝火を失った松明の焦げ臭さが、異様な雰囲気を作り上げていた。
そして、確保された長船の刀使達が、手錠と麻縄で連れて行かれる。負傷した刀使達は、担架に乗せられ、何処かへと運ばれていった。
連れ去られる彼女達に睨まれるのを覚悟しつつ、それを無言で見送ることしか出来ない彼。
(…今は、耐えるしかない。絶対に、全員助け出す。)
固くそう誓い、初めて里に来たかのように装いながら、被害状況を写真に収める。
潜水艦があったドックを確認し、少なくとも朱音が脱出できたことは知ることが出来た。これだけでも、まだ舞草が終わっていないことを伝えられると思った。
それと同時に、周辺に落ちていたカーボン製の矢を拾い上げる。
「何だコレ?」
それがまさか、刀使を傷つける目的で作られた物だと知るには,少し時間を要する。
社に到着した彼は、建物の異常が無いかを確認しようとした。その時だった。
「…!?結芽!」
「…おにい、さん?」
想い人と、まさかの再会を果たす。
「どうして結芽がここに?」
「ここに敵の拠点があるから抑えて来いって、紫様に言われたから…。お兄さんこそどうして?」
「平城の方で仕事をしていたからな。駆けつけたんだ。」
「そっかぁ。…ねえ、お兄さん。褒めて褒めて~!私、いっぱい刀使を倒したよ!」
「…!」
思わず、声が出なかった。命令とはいえ、自身の仲間が傷つけられる要因を彼女が生み出したからだ。更に言葉は続く。
「でもなあ…。すぐに終わっちゃって、つまらなかったなあ…。…って、お兄さん聞いてるの~?」
「あっ、ああ。…凄いな、結芽は。」
「そうでしょ~!」
フフンと笑う彼女。舞草に入っていなかったら、彼女の行動に対して、純粋に褒めることが出来たのだろう。
だが、彼の心のうちはグチャグチャだった。
(…結芽は悪くない、分かってる。本当は褒めるべきなんだろう。…でも、捕まった仲間は。傷ついた彼女達は。…俺はどうしたらいいんだ…。)
感情を押し殺したかった。だが、彼はそれを抑えることは出来なかった。
「お兄さん、頭撫でてくれる~?」
「……うん、分かった。」
ニコニコする彼女の頭を、素手でゆっくり撫でる。
彼女の顔も、少しトローンとしてくる。
「…結芽、このまま抱き締めてもいいか。」
「えっ?…別に、構わないけど。」
「ありがとう……。」
周囲の目を気にせず、彼女の身体を両腕でギュッと強く締める。
「ちょっと、強いって~。…お兄さん?」
「……グズッ、ハウッ…。……こんなことって…。」
結芽の首もとで、泣き出す彼。
「…どうしたの?」
「…ゴメンな、ちょっとだけ泣かせてくれ。」
愛した人が、自身の謂わば身内を傷つけた。その事実だけでも重いが、加えて彼女はこれを『良いこと、褒めて欲しいこと』と思ったのである。
結芽に責任を求めるのは、おかしいことだと分かっている。だが、この感情をどうしたらいいのか、分からなくなってしまった。
だから、泣くという表現が表に出てきたのである。…要は精神崩壊を防ぐための自己防衛だった。
「どうかしたの?」
「悪い…。……なんで、こんなことになったんだろうな、ってな。」
たまたま彼が本部から離れていた時に、この作戦は立案・指令がされたのだろう。もし、自身が残っていれば、舞草の損害をある程度軽減出来たかもしれない。そんな後悔も、彼の頭を駆け巡る。
様々な感情が一挙に渦巻く彼の頭へ、徐に自身の手を置いた結芽。そのまま、泣く子を落ち着かせるように手を動かす。
「…大丈夫だよ。お兄さん。」
「…結芽?」
「お兄さんの辛いもの、私が全部斬っていくから。…元気出してよ。」
これは結芽なりの、反応に困った彼への気遣いだったのだろうが、ほんの少しだけ、彼の心持ちは軽くなったようにも思えた。
「……ありがとう、結芽。ちょっと楽になった。」
「良かったぁ。…でも、締めすぎたら駄目なんだからね?」
「分かっている。ゴメンな、結芽。」
謝る彼に、ほんのりとした笑顔で対応した結芽。
つい先程まで、失意のどん底まで追い落とされそうになる程、悪いことばかりだったが、底を打ったのなら、あとは良くなっていくだろう、彼がそう思った時だった。
「ゴホゴホッ!」
突然、結芽が咳き込む。
「大丈夫か、結芽……!」
彼は、口を抑えていた彼女の掌を見て、唖然とした。
その場所には、本来あってはならない朱色の液体が、大きく広がっていた。
「ゴメンね、お兄さん…。お互い様みたいだね…。」
「結芽、…まさか持病が!?」
自身が知らなかった、彼女の弱さ、いや苦しみを。
「…隠してもしょうがない、よね…。…お兄さんに嫌われると思って、今まで黙ってたんだ。」
「そんな…。」
衝撃の告白に、彼の頭は真っ白になった。
(…そういえば。以前、長く生きられないって言っていたこと*2があったが…。まさか、その原因は…。)
気付きたくなかった、その事実に目を疑いたくなった。
度重なる絶望感に心を折られかけるなか、それでも彼は、彼女に語りかける。
「…結芽、一つだけ言えることがある。俺は、病気のことを言ってくれて良かった。…ありがとう。……でも、もう少し、俺のことを信じて欲しかったな。」
「…うん。…ごめんなさい。」
彼女にしてみれば、病気が切っ掛けで親族郎党から縁切りにあったのだから、他者である彼に黙っていたことも無理はなかった。
それでも、彼は温かくそんな彼女を受け入れた。…自身の精神が、崩壊寸前であったにも関わらずだ。
「…お兄さん、ちょっとだけ眠らせて…。」
「ああ。……。」
彼女をお姫様抱っこの要領で抱えると、彼は開いていた社務所内で横にさせる。どのみち、綾小路の刀使が来るのを待つ必要があったためだ。
「…結芽…。…なんで、…なんでだよ。」
あの時の言葉は誇張でも何でもなかった。
「…俺に出来ることは、まだあるのだろうか。」
彼はまだ、結芽がノロを体内に注入したことも、それが病の進行を抑えるためだったことも、本人から聞いていない。
「刀使達や舞草も、結芽の未来も、将来に繋げたい。…俺の命に賭けてでも。」
その後、綾小路の刀使達がやってきた後、相楽学長との面会で結芽のことについて、色々聞かされることになる。
彼の中で、結芽の生きる時間を延ばす足掻きを、遅まきながらも始めようとしていた。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
今作の投稿数時間後には、平成から令和に移り変わるというのも不思議な気がしますが、刀使ノ巫女も令和に移っても、まだまだ止まらないよ~!という気持ちでいって欲しいとは思います。
次回は夜見編、令和最初の投稿になります。
それでは、また。