刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は結芽編その6-1 後編となります。
長くなりましたので、前後編に分割させていただきました。

執筆して思ったこと。結芽離脱後(かつ真希が再合流するまで)の寿々花は、筆者の想像以上に精神を病んでいたのでは?
そんなことを考えつつ、執筆させていただいております。

とじともでは超電磁砲とのコラボが始まりましたが、それはそれとしてお読みいただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


⑨ 夢、舞い散りて 後編 【アニメルート】

 ー某官舎 結芽の自室ー

 

 親衛隊に配属されて以降、その命が尽きる直前まで使われていたこの部屋。

 彼はなるべく、結芽のプライベート空間へ入ることを避けていたことがあり、実際に室内へ入ったことがあるのは一、二回程度だ。

 

「結構綺麗に使っていたんだな、結芽は。」

「来た当初は大変でしたのよ。真希さんや夜見さんの助けも借りて、結芽にようやく部屋の片付けを教え込んだぐらいですから。」

「…寿々花達の教えは、きっと結芽に届いていたと思うぞ。少なくとも、部屋の中の物は大切に扱われていたようだし。」

 そう言って、室内の刀掛台を指差す。

「鞘を傷つけたくなかったのか、刀掛台にはウレタンのシートが取り付けてあったみたいだ。」

「…御刀は、ずっと大切にしていましたものね。」

「それで、結芽の部屋の荷物はどうすればいいんだ?」

「ああ、手筈では結芽の両親の方へと送ることにはなっていますわ。…ただ。」

「……あの親に、というか、親族にか…。個人的には凄く引き渡したくなくなるのは、なんでだ。」

 

 生前、結芽の身の上話は多少把握する程度に留まっていた。というのも、彼女自身があまり過去のことを話したがらなかったという部分があり、加えて自身の病のことを伝えてしまうと、また自分から彼も離れていってしまうのではないか、という恐怖心があったのだろう。

 結果として、それが彼の判断を遅らせる理由にも繋がったわけである。彼の鈍感さが悪い方向に振れてしまった、その一例ともなってしまったわけだ。

 そんな彼だが、結芽が家族のことに関してはあまりいい話をしていなかったことが、記憶のなかでは強かった。

 結芽が循環器系疾患を罹患し、その最も大変な時こそ手を差し伸べるべき両親が、彼女のもとを去ったのだから。幼くして死を間近に感じていた少女にとっては、どれほど辛く、寂しく、悲しいものだったのか。その時の心情は、彼ごときが推して測れるものではないだろう。

 

「…職員の立場からすれば、慣例通りにすべきだろう。…しかし。俺個人の感覚では、結芽の生きた証を、その一端を、彼女を見捨てた者のもとへ返すわけにはいかないだろう、とも思っている。」

「…難しいところですわね。」

 一旦、結芽の遺品の送り先などは後回しにすることにし、部屋の整理へと動きだす。

 

 

 

 

 開始から四十五分。

 彼や寿々花、その他数名の施設課の人間は、結芽の荷物を汚損させないようにゴム手袋を嵌めながら作業を行っていた。大量に荷物を置いているわけではなかった彼女の部屋は、少しずつ物が無くなっていっていた。

 結芽の荷物は、寿々花の方でコンテナを手配しており、此花家の関連企業の方で一時的に保管するという。彼もその方がいいと考えており、契約書を交わしたうえで彼女に頼んだ。

 彼が以前、結芽の誕生日に贈ったイチゴ大福ネコのクッションの一つも、丁寧に包まれて運ばれていく。

 

 

「あとは、机まわりか…。」

「あら、懐かしい…。」

 寿々花は、卓上の写真立てを取り寄せる。

「親衛隊と…、紫様の写真か。」

「結芽が来て、親衛隊の四人が初めて揃った時に撮ったものですわ。……もう、こんな写真は二度と撮れないのですね。」

「……寿々花。」

 

 彼も彼女から詳しく聞いたわけではない、結芽の最期。それを聞くことは憚られた。まだ、彼自身の気持ちの整理がまったく追いついていない状況であるため、というのもあるが。

 

 

 

 

 机の引き出しを開けていた時、彼は一冊の大学ノートを見つける。ふとそれを開いてみると、日付と数行ごとに綴られた筆跡を捉える。彼の知る限り、この字の書き方をしていたのは一人しかいない。

 

「これは…、結芽の日記か?」

「…そういえば、以前結芽から日記の付け方を教えてほしいと頼まれたことがありましたわね。もしかしたら、それなのでしょうか?」

「…他人の墓を暴くようで気は進まないが、読むか。」

 二人は、結芽の遺したノートをパラパラと読み進める。

 

 

 

 


 

 ◯月×日

 

 今日は他の刀使と打ち合いをしてみたけど、弱すぎて全然話になんない。道場で一人でニッカリ青江を振っていたら、××お兄さんが声をかけてきて「立ち合ってくれないか?」って聞いてきた。

 不思議だった。お兄さんも強くないのに、時間を見つけては私に立ち合いを頼んでくる。私にとっては時間潰しになるけど、私より忙しいはずのお兄さんは、どうしてそんなに構ってくれるんだろう?

 よく分からないや。

 


 

 

 

 

 日記で書かれていた、その頃を懐かしく思い出す彼。

「あー、確かに立ち合いは頼んでいたなぁ…。俺自身、剣術の基本のきの字もなかったけど。」

「…よくそれで、結芽に挑もうと思いましたわね。」

「まあ、元々剣術は俺の専門外だし。そこの辺は結芽も分かってくれていたんだろうよ。でなきゃ、俺なんかに付き合ってくれるはずもないし。おかげで、剣を避けたり捌く技術は上がっていったけどな。」

「刀使相手でも臆さない理由は、そこにあったのですね…。」

 寿々花もまた、彼の刀使への対応力が裏打ちされていた理由を、この時初めて知るのであった。

 

 

 

 


 

 △月×日

 

 今日は、色々なことがあった一日だった。××お兄さんにスケート場や横浜の方まで連れて行ってもらった。ちょっとヒドいことも言っちゃったけれど、あれは私の本心。また、パパやママ達みたいに離れていっても嫌だったから。

 …まさか、雪が降る中で告白されるなんて思ってもみなかったなあ。あんなの、ドラマとかそんなことでしかありえないと思ってた。

 嬉しかったな。こんな私でも、お兄さんは好きって、言ってくれたことが。…余計に、病気のことを言えなくなっちゃうじゃん。きっと、私のことでまた無理しちゃいそうで、それはそれでね…。

 


 

 

 ノートを捲っていた彼の手が、プルプルと震えていることに気づく彼女。

「……◯◯さん?」

「…なんで、この時に言ってくれなかったんだよ…。…もっと長く、一緒に話したりできただろ…。結芽。」

 過ぎたこととはいえ、自分のことより彼のことを気遣ったその優しさに涙し、同時に自分の鈍さを呪った。

「……すまない寿々花、見苦しいところを見せた。」

「いえ。……やはり、貴方は…。いえ、何でもありませんわ。」

 対人関係でドライな対応を取ることもある彼が、こうして感情を表に出している姿が、彼女には珍しく映る。

 

 

 

 


 

 □月×日

 

 千鳥のお姉さん*1や突き技のお姉さん*2はまだ見つかってない。早く私の凄さを皆に見せつけてやりたいのに…。そうすれば、私は…。

 

 咳がまたひどくなってきた。胸も時々苦しくなる。もう、時間が無くなってきてるのに…。

 


 

 

 

 

「もう十分、結芽の凄さは伝わっているさ…。頑張り過ぎだよ、本当に…。…ぐっ。」

「そうですわね。舞草の拠点を一人で壊滅に追いやったのもそう、折神家を強襲した刀使*3を返り討ちにしたのもそうですわ。」

「…寿々花。結芽は、戦闘時にノロは使ったのか?」

 そう聞くと、彼女は首を横に振った。

「いいえ、まったく。最期に戦った益子さん達にも聞きましたわ。暴走寸前の体内のノロを、自力で抑え込んだことも。」

「きっと『純粋な剣士』として、治療以外ではノロの力を使わないと決めていたんだろう。……凄いよ、結芽。」

 

 身体能力強化目的でノロを投与した真希と寿々花でさえ、ノロ投与の副作用である性格の凶暴化や違法薬物のような渇きの感覚などに悩まされたにも関わらず、彼女は誰一人として殺しはしなかったのだ。身体に二つの爆弾を抱えていた状態であっても、だ。

 

 

 

 

「日記はこれより数日後で終わっていますわね。ちょうど、舞草の拠点へ結芽が赴いた時と重なりますわ。」

「――!?…これは―。」

 

 少し白紙が続いたあと、裏表紙のある最後のページには丁寧な字で綴られている文章があった。

「…これは、貴方だけが読むべきものですわ。私は少し、離れていますわね。」

「えっ、ああ。…分かった。」

 

 寿々花がなぜこう言って離れたのか、その理由はこの結芽の文章にあった。

 

 

 

 


 

 ××お兄さんへ

 

 多分、これが読まれているってことは、私はもう死んじゃっていないってことなんだろうね。もっと、一緒にいたかったけれど、結芽はお兄さんと過ごした時間がすっごく楽しかったよ。もちろん、最後までお兄さんの剣の腕が上がることはなかったけれど、少しでも私に構おうとしてくれたことは嬉しかった。

 

 告白された時、きっと長くは生きられないって私も分かっていたから、刀使とは別の意味で、お兄さんの心の中に私の存在を刻み込みたかったんだろうね。だから、私はその言葉にうなずいたんだと思う。…あとで私が死んだときにお兄さんが苦しむかもしれないって、分かっていたはずなのにね。

 

 私のことを彼女って言ってくれていた時、他の女の人よりも優越感?って言うのかな、そんなことを感じたりもしたけれど、同時に私には未来が残されていないんだなっていう、そういう寂しさもあったよ。

 

 私がニッカリ青江に選ばれた時、神童って周りの人達から言われていた時、…病気がもとで皆いなくなっちゃった時、色々あったけれど、私は一生懸命刀使として認めてもらおうと、必死でがんばってきたよ。お兄さんにとって、結芽(わたし)はどう見えていたかな?

 


 

 

 

 

「…結芽。……ずっ、…ずるいぞっ。…なっ、なんで直接、…言って、くれなかったんだよ。」

 きっとこれは、俺に宛てた結芽からの遺言なのだろう。だから、寿々花は自ら見ない判断を下したのだと気がついた。あれこれ口では言っていたのも、彼女はここに書かれた本心を隠してしまいたかったのかもしれない。最期まで、結芽に一本取られ続けて終わったというのも、勝敗にこだわる彼女らしいものであったというのが、一層俺の心に揺さぶりをかける。

 

 

 

 


 

 あと…、もし心残りがあるとすれば、ウエディングドレスを着て、お兄さんと一生を共に過ごしたいとか、ぶっちゃけ言えば結婚式を挙げる歳まで生き延びたかったんだけどね。そこまでは無理そうだって、自分の身体だから分かるよ。

 でも、これだけは書き残していておきたいな。

 

 

 

 

 ××お兄さんと、出会えて良かった。短い間だったけれど、幸せってものが何なのか、ちょっとだけ分かったような気がする。私の、結芽の彼氏でいてくれて、ありがとうね。

 私のこと、絶対に忘れないでね。約束だよ?

 

 

 

 

 折神家親衛隊第四席 そして貴方の最愛の彼女

 

 燕 結芽より

 


 

 

 

 

 

 

「……う、ウアァァァァーーッ!!」

 彼は、その場で泣き崩れた。

 現実味が無いなんて、結局詭弁でしかなかったのだ。

 彼女に自分は何ができたのだろうか。もう二度と戻らない時間に対して、後悔とただただ深い哀しみが湧き続けた。

 

 その光景を見て、同室にいた寿々花は、静かに目頭を押さえ込む。施設課の人間達は彼の男泣きに驚きつつ、それぞれが結芽への思いを多少なりとも馳せていた。

 

 

 

 

 どれほど泣いていたのだろう。

 若干過呼吸に陥りかけていた時に、寿々花から酸素スプレーを渡される。

「…今は、泣いていい時ですわ。あの娘のことをそれだけ深く悲しむ人間がいるだけで、私達もまだ立てますわ。」

「…わっ、…悪いっ、寿々花っ…。」

 

 シュコー、という酸素吸入時の音が、先ほどまでの彼の泣き声と入れ替わりに室内へと響く。

 

「……ありがとう、寿々花。」

「いえ。…部屋も、その日記以外はもう何も残っていませんわね。」

「……結芽の代わりに掃き掃除をして、ここを出よう。」

「私も手伝いますわ。」

「助かる。」

 

 部屋の隅々までを箒と雑巾で仕上げ、次の人間が利用しても問題ないくらいにまでは綺麗に整えた。

 

 

「終わって、しまいましたわね。」

「そう、だな。…寿々花、俺が最期に部屋を出る。それでもいいか?」

「構いませんわ。」

 

 結芽の部屋から退室する際、静かに室内へ向かってお辞儀をすると、次の部屋の利用者が来るまでは開かれることのないであろう、玄関のシリンダー錠を閉じる彼。

(ココからはお別れだな、結芽。…墓参り、何時かしに行かないとな。)

 

 彼女の家族とは、荷物の件で最低でも一度は話し合いの場を持つ必要がある。何もかも落ち着いた時には、必ず、彼女の眠る場所へと赴きたいとも決めていた。…結芽の尊厳のためにも、結芽の家族へ言うべきことは言わせてもらうつもりだ。

 彼女の日記が綴られていた大学ノートは、透明なポリ袋に包み、寿々花へ託した。

 

 

 

 

 既に施設課の人間はここを去っており、通路上には彼と寿々花の二人しかいない。

 彼から件のノートを受け取った寿々花は、確認のために再度問い返す。

「よろしいのかしら、私がお預かりしても。」

「ああ。他の親衛隊についてのことも書いてあったし、それは君が持っていてくれ。」

「…これから、どうなさるおつもりですか。」

「荒魂の異常出現状態が落ち着いてきたら、結芽の今までの足跡を辿る。それからは、…また後で考えようと思う。気持ちの整理がつくまでは、少し時間が掛かるだろうけれどな。」

「……私を、貴方は咎めようとは思いませんの。結芽のことを、私は………。」

「……寿々花。ノロを使用していたことをどうこう言うつもりは、今の段階では俺のなかには無いし、それを求めた理由も当然あっただろうから、頭ごなしにあれこれ口を挟むつもりもない。それに。」

「それに?―何ですの?」

 彼は一度ためると、再び泣き出しそうな顔で彼女へこう言葉を続けた。

 

 

「…結芽を、人として弔ってくれて、ありがとう。有象無象の荒魂になる前に、彼女を『刀使』として送ってくれて、本当に、ありがとう…っ…。」

 

 

 最後の方は涙声になっていたが、彼女もまた、堪えていた感情を表に吐き出した。

 

 

「…っ、…結芽っ、結芽ぇーーっ!!」

 

 

 彼は、寿々花を落ち着かせるように彼女を優しく抱き留め、倒れてしまわないように支えた。また、他人に泣き顔を見せまいと、彼は自身の胸元で彼女の姿を覆い隠した。

 

 

 

 

 

 

 すっかり目元も赤くなり、普段の高潔さを失うレベルであった寿々花の顔だが、その瞳には、いつもの芯の強さを取り戻しているようにも、彼には思えた。

 

「辛かったよな。苦しかったよな、寿々花。君にとって結芽に関して何か不利になりそうなことがあった時、俺は全力でサポートするから。」

「…もう、大丈夫ですわ。◯◯さん、ありがとうございます。」

「…朱音様にも、寿々花のメンタルケアを行うように言っておく。絶対に悪いようにはしないから。」

「…お願い、しますわ。」

 

 心のダメージが想像以上に激しい彼女を助けるのもまた、結芽が生きていたら、きっとそうするように言うだろう、と感じたからだ。

 

 

 別れ際、寿々花からこう訊ねられた。

「◯◯さん。結芽と過ごした時間は、貴方にとって幸せだったのかしら?」

「もちろんだ。…間違っても、後を追うつもりはないさ。それこそ、結芽に怒られる。」

「それを聞いて安心しましたわ。…落ち着いたら、また話をしましょう。それでは、お先に失礼しますわ。」

 

 結芽の荷物を届けた後、そのまま医療施設へと送られるという寿々花。

 去りゆく彼女の真っ直ぐとした足取りに、彼もまた前を向こうと決める。

 

 

 

 

 

 

 どんなに過酷な試練があろうとも、人は前に進むしかない。例え、愛する人を亡くしたとしても。

 

 いなくなって初めて、燕結芽という少女が彼の中で大きな存在であったこと、彼女としても刀使としても、絶対に忘れてはならない娘であることを心の中で強く想うのであった。

*1
可奈美のこと。

*2
姫和のこと。

*3
この場合、薫とエレンのことを指す。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

結芽の離脱ルートという道筋は、恐らく大多数の選択肢で変えようのないものであり、当然のことながらこの主人公との接点があったとしても、圧倒的な高確率でこのルートのように彼女の死と向き合わなければならないことになったであろうというのが、筆者の一つの考えではあります。
…ただ、彼女をまた死なせるのか、という点においては筆者も悩みました。

前話と今話に関しては、アニメと似たような経過を経った形で執筆しておりますが、次話以降は生存ルートでの執筆を進めております。
(つまり、本作では前話と今話がIFルートとなります。)

…筆者も、結芽が生きている方がいいと考えている一人ではありますので、其方の方向性で綴って参ります。

それでは、また。
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