刀使の幕間   作:くろしお

132 / 235
どうも、くろしおです。

今回は夜見編その2 前編です。
会話メインな回になりました…。
時系列は、御前試合の遥か前の秋頃です。

UA20,000、全話PV54,000を達成致しました。
…ひしひしと読者さん達の多さに驚きながらも、執筆を続いているところでございます。

それでは、どうぞ。


② 鎌倉警邏(けいら)任務

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 廊下ー

 

 残暑も引き払い、ようやく秋らしさを感じられる頃になった今朝。

 高津学長のもとを訪れた後、控室に戻っていた夜見。

 彼女は相変わらずの傍若無人で傲慢な態度であったが、夜見にとってはそんな人間であっても恩人に他ならない。

 彼女に尽くせていることに、自身の存在意義を見出している。

 そんな彼女に対して、やたら気にかける奴がいる。

 

 

「お~い、夜見!」

 

 彼女の進行方向からやってくる彼。

 

「……お疲れ様です。どうかされましたか?」

「いや、さっき紫様から言伝で『夜見と共に巡回して来い』とな。ちょうど、夜見を探していたところだったんだが。」

「……紫様にその内容の確認を貰ってもよろしいですか?」

「気になるんだろ?行ってくればいい。俺は出る準備をしているから、また後でな。」

 

 そう言って、その場をあとにする彼。

 

(紫様が本当にそんなことを?…確かめなければ。)

 

 夜見は、少し速歩きになりつつ局長室へと向かう。

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー

 

 コンコンコン

 

「失礼致します。」

「来たか、夜見。」

 

 執務机で待っていた紫が、夜見を出迎える。

 

「先程、彼の方からお話を伺いましたが本当ですか?」

「ああ。鎌府の刀使達の気の引き締めにと思ってな。たまには親衛隊が巡回している姿を見せないと、全体の士気にも関わる。」

「……了解しました。ご命令とあらば私は直ぐに出動致しますが、紫様の護衛はどなたがなさるのですか?」

「それは僕が担当するよ。」

 

 夜見の後ろから、真希が声を出す。ちょうど部屋に入ってきたタイミングだった。

 

「確かに僕達親衛隊は、紫様の剣であり盾であるべき存在だが、同時に刀使達を率先して引っ張る存在でもある。紫様は、そうしたところに気を配られたのだろう。」

「……分かりました。それでは獅童さん、紫様のことをお願いします。皐月夜見、只今より警邏任務に就きます。」

「うむ。」

「気をつけて。夜見。」

 

 パタリ、と局長室の扉が閉じられる。

 

 

 夜見の去った後、部屋に残る二人。

 

「しかし、紫様。なぜ付き添いが彼なのですか?」

 

 真希が紫に疑問をぶつける。

 

「単にシフトの都合だ。それ以外に特に理由は無い。」

「……出過ぎた事をお訊きしました。」

「気になったことを訊く姿勢は評価できる。他に何か疑問に思ったなら、遠慮なく私に訊いてみろ。」

「はっ!」

(…まあ、アイツが反体制派であるかを知るいい機会だろう。夜見がその意図を理解しているかは、私にも分からないが。)

 

 紫は継続的に反体制派(舞草)の調査を進めていた。

 これから先の計画の障害になるものは、なるべく排しておきたい考えだったからだ。

 ただ、結局タギツヒメが紫の身から離れるまでの間に、彼が舞草の構成員かつ諜報員である確証はついぞ得られなかった。

 

 

 ……まあ、彼が諜報員のクセに情報管理がガバガバだった点*1も、バレにくかった原因ではあるが。(それでいいのか諜報員…。)

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 駐車場ー

 

 警邏任務に必要そうな装備や荷物をミニバンに載せていく彼。非常時には緊急車両の扱いにもなるため、赤色灯も搭載した。

 今日は車を使って、荒魂の動きを監視する。

 

「あとは夜見がやって来るのを待つだけか。」

 

 車のスライドドアを閉じ、タイヤ回りの点検を行う。

 

「特に異常はなさそうだな。」

「…お待たせ致しました。」

 

 点検が終わった時、本部の方から夜見もやってきた。

 

「おっ、やっと来たか。こっちはいつでも出られるぞ。」

「では、参りましょうか。」

「そうだな。」

 

 二人は両側の前扉を開けて、車に乗り込んだ。

 運転する身の彼が当然ながら運転席、夜見は助手席に座る。

 キーを差し込み、エンジンを始動させる。

 

 

 

 

「車載のスペクトラムファインダーは?」

「…今のところは何も変わりありません。」

 

 山と海に挟まれた地形である鎌倉一帯は、海岸部よりも陸側の方で荒魂が多く目撃されている。

 そのため、まずは山沿いを走りながら動きを見る。

 今日の任務行程としては、鎌倉の山間部から藤沢を回り、帰りに海岸沿いを走って本部に戻るプランを立てていた。

 

「最近の親衛隊はどんな感じだ?」

「いつもと変わりありませんね。燕さんは相変わらずのお姿でしたが。」

「まあ……、そうだろうな。夜見は何か変わったことでもあるのか?」

「少しでも親衛隊としてお役に立てるように、日々研鑽しているところですかね。」

「うん……。それも大事…だな。」

(これ、会話が続かないパターンじゃん!……夜見の話を聞けるいい機会だと思ったのに。)

 親睦を深めるまではいかないにせよ、話し相手位の立ち位置にはいきたいところだと考えていた彼。

 ……話すネタが無いというのも、如何なものかとは思うが。

 

「なあ夜見。海と山、もし自主的に行くならどっちをとる?」

 かなり関係ない話題ではあったが、特に荒魂の動きも無い以上彼の話に付き合う彼女。

「……海でしょうか。山の装備は入念にする必要がありますから。その点、海は比較的軽装で荷物が済みます。」

「そういう理由か…。言われてみれば確かにそうなんだがな……。」

「……貴方はどうなのですか?」

「季節次第だな。夏の期間は海だが、冬以外は山だな。」

「なぜ冬を外しているのですか?」

「……冬に関しては、海山問わず死にかねないからな……。冬の海の幸が美味しいのは認めるが。」

(久し振りに寒ブリが食べたくなるな…。まあ、数ヶ月先なんだが。)

 シーズン的にはもう目前であるため、こんなことを思ったわけである。

 

「そうですか。」

「しっかし、海派か……。水着似合いそうだもんな。」

 他意なく呟いた彼。

「……似合いますか?私が。」

「あくまで思っただけだがな。……あ~、でも目立つだろうな。」

「……確かに、この髪では奇異な視線を向けられるでしょうね。」

 

 少ししょんぼりしたように、声のトーンが僅かに下がる彼女。

 彼は、自身の言葉の真意が彼女に伝わっていないことに気がつく。

 

「……ん?あっ、いや。そういう意味で言ったつもりではなかったんだが。」

「では、どういった意味で仰ったのですか?」

「いや、まあ。……こんな美人が砂浜に居れば、目を惹くよな、というニュアンスだったんだが。」

 

 その言葉から、少し考え込む彼女。

 

「美人、ですか。……そんなことは無いと思いますが。」

 

 いつもの無表情で彼に返す。

 

「う~む。…そうか。」

(普通に秋田美人だと思うんだが…。本人がそう言うんじゃ仕方ないか。夜見の水着姿、いつか見れると良いな…。)

 

 これには迂闊な否定も肯定もできないため、内心思うことを留めながらも、やむなくこの話題から離れることにする。

 

 

 

 

 そんな折、ポーンという着信音と共に、夜見の携帯へメールが入る。

 

「少し失礼します。」

「急ぎの用かもしれないからな。確認した方がいい。」

「はい。」

 

 ロック画面を解除し、通知欄を見る。

 メールの送信者は寿々花だった。内容の方は以下の通りである。

 

 

『夜見へ

 

 任務中失礼致しますわ。

 今、彼と一緒に居ると伺いましたので、このメールを送らさせて頂きます。

 紫様から、夜見へ伝え忘れていたことがあるようでしたので下に記しますわ。

 

『彼が舞草の人間であるかどうか、可能な限り探りを入れてみよ。もしそうであったなら、何らかの形で報告せよ。』

 

 以上ですわ。

では、無事なる帰還を。 寿々花』

 

(ご命令とあらば謹んで実行致しますが、彼にですか…。)

 

 普段はまずすることの無い、困惑した表情を思わず浮かべる。

 彼女は、彼のことがどちらかといえば苦手であった。

 本来、ガツガツ聞いてくる側の彼に、こちらから聞きにいくというのはかなりハードルの高い話であった。

 

(……弱りましたね。此花さんの方がこの手の任務向きだと思うのですが。)

 

 確かに今は運転席と助手席に別れての一対一、しかもこちらは御刀を持っている圧倒的優位な状況のため、カージャック紛いの手段をとって聞き出すことも可能だろう。

 だが、それでは関係ない一般車両も巻き込み兼ねないため、その案は即却下した。

 

(…ストレートに聞こうとも、オブラートに聞こうとも、話術で勝てる気がしないのですが。)

 

 あまり普段から口を開く方ではない夜見は、この会話の切り出し方も悩んでしまい尚更困ってしまった。

 それに加えて、万が一舞草とは何も関係ない場合、双方にとっては一生モノのトラウマに成りかねないことは明白だった。

 

(…どうしましょうか。)

 

 一人苦悶することとなってしまった彼女だが、案外チャンスはすぐやってくるものである。

 

 

 

 

「夜見、何かあったのか?……まさか、荒魂が出たのか!?」

 

 あまりに夜見が口を開かなくなったため、心配して真っ先に思い当たりそうなことを言い放つ彼。

 

「い、いえ。……何でもありません。」

「そうか…。なら、いいんだが。」

 

 彼女が言葉を返したことで、一旦双方事なきを得た。

 

 

 

 

 ……だが、人というのは恐ろしいもので、何気なく言ったことがドンピシャで相手の考えに当たってしまうことも間々あるのである。

 メールを貰って僅か三分。先手を取るかのように、彼が口を開く。

 

「そういえば夜見。舞草って、知っているか?」

「!?…その名前を、どこでお聞きになりましたか?」

「いや、噂でな。食堂で食ってた際に聞こえたんだよ。誰が言ったかまでは知らないがな。」

(…まさか知っていたとは。此方が質問する手間が省けました。)

「聞こえた言葉は藻草(もぐさ)かもしれないから、話半分でスルーしてもらっても構わないぞ。」

「…いえ、続けてください。」

「?…夜見がこの手の話に乗ってくるとは思わなかったぞ。」

「…私にも気になることの一つや二つ、あります。」

「そっか。まあ、それは脇に置こう。」

(何か有益な情報が聞けるかもしれない。)

 

 夜見は、運転する彼をじっと見ながら次の言葉を待つ。

 

 

 

 

「舞草という言葉自体調べるまで知らなかったが、日本刀の源流となった刀匠達の集団のことみたいだな。夜見の出身地である秋田の隣県、岩手の一関市がその発祥の地らしい。」

「…それで何故、その言葉が食堂の方で聞こえたのですか?」

「それはさっぱり。まあ、御刀を扱っている以上、刀匠を目指す奴の中には歴史を知りたがる者もいるのかもな。」

「…そうですか。」

 

 新しい情報が聞けるかと思った彼女は、声のトーンこそ変わらないがガックリしていた。

 

「……なんか、ガッカリしてる?」

「……『紫様に仇なす者達』の名乗っている集団も、同じく舞草という名でしたので。」

 彼は、彼女の言葉に一瞬ドキリとしたが、親衛隊ならそれを知っていても不思議は無いと思い、口を開く。

「……もしかしたら、俺達の感知しないところで紫様に反感を抱くことがあったのかもな。」

「……私は、紫様が間違ったことをしているとは思っていませんが。」

「そうかもしれない。だが、全員が全員正しいと考えているわけではない、ということでもあるのだろうな。」

 

 全員が互いに正義だと思う信条があるが故に、人間の争いは古から絶えない訳だが、親衛隊である夜見と現折神紫体制への疑念を持つ彼とで仕事が出来ている時点で、信条の違いなど簡単に乗り越えられることは確かだろう。

 最も、明らかに他者へ危害が加わる場合ことが想定される場合などは、なおさら客観的目線でいることが求められるが。

 

 

 

 

「……貴方はどうなのですか。」

「どう、とは。」

「紫様や親衛隊(私達)のことです。何か思うところは無いのか、と。」

「う~ん。……俺は正直、上のこととかはどうでもいいんだわ。他人の主義主張に、お節介をかけるようなことは避けたい節もある。組織であってもそれは同義だな。」

「……つまり、私達には興味が無いと。」

「んにゃ、そうは言ってない。……いや、取り方によってはそうもとれるか。」

 

 赤信号で止まった際に、頭を少しかく彼。

 

「主義主張と人間性は分けて考えたいからな。たとえ紫様が裏で良からぬことをしていようが、少なくとも俺が見てきたあの人は、刀使達の頂上に相応しい人だとは常々思うぞ。それを守る親衛隊もだな。」

「……私のことは、どうお思いですか。」

「えっ?」

 

 彼は思わず聞き返す。

 

「……いえ、何でもありません。」

 

 特に期待していた訳でもなかったため、彼女も直ぐにこの話題から引こうとするが、彼の耳にはしっかりと届いていた。

 彼は夜見を逃さず、言説で追撃にかかる。

 

「無口で職務に忠実だが、お米と紅茶には妥協しない。粒揃いの親衛隊の面々に仲良く接している、それだけの適応力がある女の子だとは思うぞ。……まあ、高津学長のアレはどうかとも思うけどな。」

 

 全く嘘偽り無く、彼から見た彼女の人物観を挙げる。

 

「……それに関してはお気遣いは無用です。あの御方に遣えるのが、私の生き方ですから。」

「そうか……。」

 

 少し悲しさを覚える彼。やはり要らんことを言ったかな、そうも思ったが次の言葉ではっとさせられる。

 

「……ですが、貴方の言葉に嘘が無いことも分かります。……貴方を信じてみましょう。」

 

 バックミラー越しから見た、その彼女の目は据わっていた。

 

 

(舞草に居ることを隠し通すのは……、正直心苦しい。)

 

 幸いにも、彼は彼女にボロをこぼしていなかった。

 諜報とは相手に気取られないように、密かに情報を抜き取りに動くことである。たとえ親しかろうと、対象に情報を漏らすことは論外、いや諜報員として失格だろう。

 ここは、彼なりの義を押し通す。半ば、裏切るようなことになろうとも。

 

 

 

 

「夜見自身が俺をどう思っているのかは、この際聞かない。一つ言えるのは、信じていた者に裏切られてもなお信じ続けることができるか、ということだ。よく考え、本当に信じるに値する人間であった時、俺にその言葉をもう一度聞かせてくれ。」

 

 彼は、敢えて彼女と距離を置く選択を採った。

 好意を持っていようが無かろうが、安直に彼女が彼を信じて欲しく無かった側面もあるからだ。(親密であるほど衝撃の反動がデカイため)

 

 

(ちょっとキツい言い方だったかな……。現に夜見、シュンとしてるし……。)

 

 彼の言葉を聞き、項垂れる彼女。

 

「……分かりました。しばらくしたら、その返事をさせてください。」

 

 夜見も彼の意図を知ってか知らずか、それに応じた。

 二人の間柄は、未だ変わらず平行線であった。

 

 

 

 

 葉が緑から赤に変わろうかという鎌倉の山々は、山道を縫うように進む一台の車を包み込むように季節の移り変わりを告げようとしていた。

*1
例として、寿々花が彼の部屋を訪れた際に、部屋に普段使用する書類と舞草から送られてきた書類がメチャクチャに混在している状態だった。(あまりの部屋の惨状に、彼女が部屋に入るのを諦めた程)なお、姫和が御前試合で紫に刃を向ける頃には、部屋の中は粗方片付いていた。




ご拝読頂きありがとうございました。
…なんか心理戦めいているような…。気のせいか。

クリスマスイベント、召集は今回対象のサポートメンバーが全員来たので良しと思っています。
(可奈美達は、って?…お察しください)
エレンと小池さん(サポート)も無事完凸しましたので、とりあえず一度撤退です。
…どんな時でも運はつきものですね…。

後編の方も少々お待ちください。
…イチャイチャにしにくい展開になってるような…。(なんとか書いてみます)

感想等ありましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。