今回は夜見編その2 後編です。
今話でアニメメインキャラ陣は、一通り各3話(寿々花のみ4話)出揃う形となります。
それでは、どうぞ。
ー神奈川県藤沢市 片瀬東浜海水浴場ー
二人の乗るミニバンは山間部を降りて藤沢市街を回り、広い平地部分を駆ける。
途中、観光客や地元住民で混み合う江ノ電を横目見たり、相模湾岸大災厄で亡くなった犠牲者の慰霊碑に立ち寄り、当時大荒魂からの攻撃に立ち向かった刀使や自衛官、警察官らの供養塔で二人揃って手を合わせたりした。
そして二人は、慰霊碑から少し歩いてここを訪れた。
報道カメラが江ノ島を映す際に必ず下側に入ってくる、この海水浴場。
この時期では、サーファー達が少しうねりを伴う波に向かってサーフボートを進めていた。
「今日のところは、全然荒魂の姿が無かったな。」
「…そう高頻度で出てこられても、我々が困るだけですが。」
「…それもそうだな。」
夜見の意見に納得しつつ、海岸沿いの歩道を歩く。
すると、前方に鎌府の制服を着た二人の生徒が居るのを見つける。
「あっ、ちょっと!親衛隊の方!」
「えっ、ウソ!…ホントだ。何かあったのかな?」
後ろに御刀が見えたので、恐らく巡回していた刀使だろう。
夜見が二人に話しかける。
「…お疲れ様です。荒魂は見つかりましたか?」
「い、いえ。今のところは異常ありません!」
「私も、今日はまだ見かけていません!はい!」
「…分かりました。情報提供、感謝します。」
「そっ、それでは私達はこれで。失礼致します。」
「しっ、失礼致します!」
逃げるように二人の刀使はその場から離れていった。
「…私は、何か気に障るようなことでもしたのでしょうか。」
「うーん。…一つ言えるのは、夜見には何の落ち度も無いことかな…。」
そう言った彼の言葉に、首を傾げる彼女。
その仕草を見た彼は、思わずドキッとした。
(油断したらこれだよ…。反則やん…その表情。)
彼の心の声は、声に出す前に踏みとどまった。
その後、海岸パトロールも兼ねて海水浴場内を歩く二人。
「…静かですね。」
「確かにな。」
海水浴シーズンを過ぎ、サーファーや海沿いを走る車を除いて波音だけが二人の周囲に響く。
ピュウ ピュウ
海の方から、海鳥達がこちらに近づいてくる。
「ん?……なんだか、夜見の方に近づいてないか?」
「…言われてみれば、そうですね。」
複数の鳥達が、夜見の周囲にやってくる。
取り囲むように、彼女へチョンチョンとつついてくる鳥達。
「…やめてください。困ります。」
「…普段崩すことの無い、夜見のポーカーフェイスをいとも簡単に攻略するとは…。」
困り顔の彼女の姿も珍しいと思い、おもむろに自身のスマホを向ける。
ピピッ
カシャッ
スマホのカメラがオートフォーカス機能を用いて、海鳥達に囲まれる夜見の姿を写し出す。
「…夜見の困り顔を、もうちょっと見たいところだが…。」
流石にこのままでは可哀想なので、彼女から海鳥達が距離を置いてもらうように追い払う。
鳥達は、少し寂しそうに去っていったが。
「…もう少し早く、助けてもらえなかったでしょうか。」
「すまん…。つい物珍しい姿に、な。」
「…はぁ…。」
「あっ、その……。ゴメンな。」
「いえ、別に怒っているわけではありません。」
(むしろ、こうした姿を男性に向けること自体がありませんから…。)
結果的には、彼女をつついてくる海鳥達から救い出したので、彼女自身はそこまで怒ってはいなかったのだが、普段の硬い表情では彼に上手く伝わっていないようだった。
なお、彼が後にこの時の写真を親衛隊の他の三人に送ったところ、
『夜見(お姉さん)もこんな顔をするのか<しますのね>(するんだなぁ)*1。』
との言葉が此方に寄せられた。他の三人にとっても、珍しい彼女の表情だったようであった。
車に戻った二人は、腰越の併用軌道や鎌倉の大仏を経由し、海岸沿いの道路より車載スペクトラムファインダーを作動させながら、鎌倉市街を進んでいた。
観光地でもある鎌倉は、平日休日問わず多くの人々が行き交う。それは道路上でも変わらない。
「平日だが、やはり混んでるな。」
「…どこかに停めましょうか。」
「俺の記憶が確かなら近くに…、あった。ここに停めよう。」
車列から逃れるように左折して一本細い路地に車を進めると、小規模ながら普通車でも駐車できるコインパーキングを見つける。
「…よくこんな場所を知っていましたね。」
「いつも世話になる土地のことくらい、頭に叩き込んでおかないとな。まして、車を運転するなら駐車場の場所は絶対に覚えておく必要があるし。」
「…貴方は、自分の能力をひけらかすようなことはしませんね。」
「いや、これぐらい俺でなくても出来る奴はいるぞ。…まあ、たまに地形や更に広域まで記憶している化物も居るから、正直俺は凡人だよ。」
(…地域の細かい路地や建造物の場所まで把握している時点で、貴方も大概だと思うのですが。)
夜見はそうツッコミたくなったが、彼がサイドブレーキを引き終えて降りる準備をしだしていたので、彼女も荷物を纏めて車から降りる。
ー鶴岡八幡宮ー
観光客が鳥居や本殿などの写真を撮っているなか、二人は荒魂がここに居ないかを確認する。
「とりあえず、平穏無事だな。」
「…他の刀使の姿も見えますね。」
片瀬東浜海水浴場で会ったのとは別の刀使達が、この敷地内を回っていた。
「ここは彼女達に任せよう。」
「…そうですね。」
グーーッ
少し大きな音が彼の耳に飛び込む。
「今の音は…?」
思わず周囲を見渡すが、夜見以外に人は見当たらない。
「…まさか…。」
彼女の方を向くと、お腹を擦るように右手を当てる姿が目に入る。
「…申し訳ありません。お腹が空いていたようです。」
「…どっか、適当な店に入るか。」
彼は、駅前にある回転寿司店を思い出し、そちらの方に動こうとする。
二人は、鶴岡八幡宮から駅方向に伸びる道路を進む。
道路の途中には、鶴岡八幡宮の複数の鳥居がどっしりと構えている。
「思い返してみれば、こうして並んで歩くのもそう多くなかったな。」
「…日頃私は紫様のお側に居ますから。離れて良かったのかは、正直悩みましたが。」
「現に警邏任務も兼ねてるんだ。たまの息抜きでもバチは当たらんさ。」
「…それもそうですね。貴方といると、任務そのものを逸脱せずに過ごせそうです。」
「…夜見。それは俺を、褒めているのか?それともズル賢い奴だと思っているのか?」
「……お教え出来ません。」
「マジか。」
珍しく彼女の言葉に転がされる彼。日頃とはうって変わって、若干弱り目になる。
(…でも、こうした時間も悪くないですね。彼との任務、また機会があれば同行したいものです。)
夜見は内心こう思いながら、自身の忠を尽くす人間を思い浮かべる。
(高津学長に、後で何か買って帰りましょうか。)
ちなみに、食事を終えた後に買ったケーキを高津学長に渡した際には、
『ふん、役立たずの癖に気遣いは出来ているようね。』
と、いつもの如く彼女を罵ってきた*2が、キチンと美味しく頂いたようではあった。
その証拠に、翌日夜見が彼女の部屋を訪れた際、ゴミ箱の中には綺麗に畳まれたケーキの空き箱が突っ込まれていた。
…食べ物を粗末に扱わないだけ、良かったのかもしれないが。
ー鎌倉駅付近 某回転寿司店ー
警邏任務だったとはいえ、あちこち寄っていた割には今日はまだガッツリとした食事を摂っていなかったこともあり、比較的短時間で食事を済ませられる回転寿司店に足を運ぶ。
「…そういや、チェーン店のお米は大丈夫なのか?」
お米に関してこだわりをもつ彼女が、比較的等級の劣る米を使用していることの多い外食産業に抵抗が無いか、不安になる。
「…お米に罪はありません。それに、寿司店のお米はネタと合うように選ばれているはずですから。」
言われてみれば…、という気もしたので、彼はこの選択は間違いではなかったと思った。
店内に入ると、レジ付近に居た従業員が出迎える。
「いらっしゃいませ。お客様は二名様でよろしいですか?」
「はい。テーブル席でもよろしいですか?」
「少々お待ちください…。はい、どうぞ。奥側に進まれてください。」
昼のピーク時を過ぎていたこともあり、店内の客数はそう多くなかった。
入り口から最も離れた位置にある席に座る二人。
ここなら一目を気にせず、静かに食事を摂ることが出来ると思ったからだ。
「さて、お茶と水…っと。」
醤油皿と一緒にプラスチック製の湯呑みを下ろす。
「夜見は、水要るか?」
「…では、お願いします。」
「んじゃ、ちょっと待っていてくれ。注いでくる。」
少し離れた位置にある冷水機へと向かった彼。
「…彼、やたら私に気を遣いますね…。」
色々する側であることが多い彼女は、彼の動きに慣れない。
「お待たせ。」
コトリ、と置かれる二つの湯呑み。
「あとはお茶か…。」
夜見の方の湯呑みには適量、彼の湯呑みにはまあまあ多い量の粉末緑茶がぶっ込まれる。
「熱っ!…気をつけよ…。」
「大丈夫なのですか?」
「ちょっとプラの熱伝導性が良すぎただけだ。…ほい。」
彼女の前に湯気を立てる湯呑みが置かれる。
「…ありがとうございます。」
「いつも動いてもらってばっかだから、こういう時程楽にしていてくれよ。」
「…楽に、ですか。…分かりました。」
彼女も内心、急にそんなこと言われてもな、とは考えたが、現に彼があれこれしている以上それに応じることとした。
「さっ、食べるか。」
「…いただきます。」
二人は両手を揃えた後、レーンの皿を取り始めた。
入店して五十分程経過した頃。
「…なあ、夜見。」
「…何でしょう。」
「その…。…よく、それだけ入るな。」
テーブル席に置かれた寿司皿。
彼の方は数皿と汁物、小鉢を幾つか平らげた程度だったのだが、彼女はというと、十皿のタワーが三つ…いや、今食し終えたもので四つになった。
「…そうでしょうか?これくらいは普通かと思っていたのですが。」
「…俺が食べなさ過ぎるだけなのか。」
彼は夜見の胃袋のサイズに少し困惑するが、彼女の美味しそうに食べる姿を見ると、それも吹き飛ぶ。
「…何かついていましたか?」
「いや、幸せそうに食べるなと思って。…ここを選んだ甲斐があった。」
「そうですか。…幸せそうに、ですか…。」
「ん?何か変なことでも言ったか?」
「いえ、おかしなことは何も。」
(…そんな顔を、私が浮かべていたのですね。)
正確には、夜見が幸せそうに食べる“雰囲気”という意味合いで発した言葉だったが、彼女は表情の方に意識がよるのであった。
夜見の胃袋も無事満たされた後、会計札を見た彼は一瞬その額にクラリときかけたが、何も言わず退店準備をする。
「別々に払いましょうか?」
「いや、俺が払おう。」
「…ですが、」
私の方が多く食べているのに、と続けたかったが、それは彼の言葉で遮られる。
「こういう時ぐらいは、俺にも見栄を張らせてくれ。」
決して安い額ではなかったが、腹を括って財布を開く。
(…領収書、一応切ってもらうか。)
後で帰ってくる(予定)のお金とはいえ、彼女の印象的にもよい対応を取りたかった彼なりのエゴであった。
(…彼は、私を普通の人間として扱っている…。親衛隊ではなく、皐月夜見という人間として。)
一方の彼女も彼女で、彼の行動に時たま戸惑いつつも、立場などあまり考えずに関わろうとする彼の姿勢に、警戒と信頼とが入り交じる心理状態になっていた。
双方の距離感は縮まりつつも、まだ互いの距離を図りかねる、そんな感じであろうか。
その後、車に戻り本部へと帰還する。
気がつけば、もう日の入りの時間帯になっていた。
ミニバンに積んでいた車載スペクトラムファインダーを取り外し、簡素なレポートを持参すべく一旦それぞれ別れる。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー
彼と夜見が揃って紫のもとに舞い戻る。
「……以上で報告を終わります。」
「うむ。二人共、ご苦労だった今日のところは下がってよい。また明日、頼む。」
「「はっ!!」」
二人揃って紫にお辞儀をする。
「それでは俺はこの辺で。紫様、夜見、お先に失礼致します。」
彼は先に局長室を後にする。
「それで夜見。彼と舞草との関わりはどうだったか?」
「はい。…現状では、彼は言葉程度しか知らないようでした。むしろ、紫様を気遣っている様子でした。」
「…そうか。嫌なことを押し付けてしまった。すまない。」
「いえ、これも任務のうちですので。それでは、私も失礼します。」
「ああ。また明日。」
夜見が局長室の扉を閉める。
その後、鎌府女学院の地下にある研究室に向かう彼女。
スイッチを入れ、折神家支給のスペクトラムファインダーをテーブルの上に置く。
「…はあ…。私も、彼が舞草の人間だとは思いたくない…。接してくる変わり者の異性など、彼くらいなものです。」
夜見の御刀《水神切兼光》を抜き、左手にあてる。
「ですが…、」
そのまま、リストカットの要領で左手の前腕を切る。
「もし紫様に仇なすのであれば、私も容赦しません…。あの御方の為に…。」
そして、切り口からは大量の蝶型の荒魂が噴き出す。
本来荒魂を検知する筈のスペクトラムファインダーは、画面を変えること無く通常画面のままだった。
芽生えかける感情は、いつも静かに消え去る。
若き二人の道筋は、違いながらも未だ交わることは無い。
前に進む時はまだ見透せないが、彼が諦めない限り、その機会は時間の許す限り産み出せる。
選択の時は、僅かながらも迫っていた。
ご拝読頂きありがとうございました。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告の方で対応させて頂きます。
今更ではございますが、今作に高評価をして頂いた方々、本当にありがとうございます。
また、お気に入り登録をして頂いた皆様にも改めてこの場で感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
次回から少し番外編に移ります。(2話程度)
その後ですが、お待たせ致しました。
いよいよ可奈美編に戻ります。…その2が消化不良感あるから、どうにかしたいところ…。
それでは、また。