一週間ほど投稿が停滞しておりました。
今回は夜見編 その3をお届け致します。
時系列は御前試合前、梅の花が咲く頃の話です。
それでは、どうぞ。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 控室ー
親衛隊が紫の警備から離れている際に休憩等を行うこの部屋。
局長室でゆったりしていることも勿論あるが、何も無ければ入れ替わりつつ一時を過ごす。
この日、夜見と寿々花が紫の警護に当たっていた。
「夜見さん、それでは私は紫様の警護に向かいますわ。交代まで、ゆっくりしてらしてください。」
「…お気をつけて。」
寿々花を見送る夜見。
「…さて、部屋の整理をいたしましょうか。」
控室には大量の書類も持ち込まれることもあり、その整理が追いつかなくなることもある。
「…この書類はこのファイル、あの書類はここに…。」
とはいえ、一人でやるには多過ぎる量まで積まれたプリントの山々。この苦労を苦労と思わなくなってきたら、それはそれでマズいことではある。
そんな折、控室の扉がノックされる。
コンコン
『失礼する。親衛隊宛ての書類を届けに来た。…誰も居ないのか?』
「来客ですか…。…取り敢えず、中にお通し致しましょうか。」
鍵を開錠し、控室の扉を開ける。
そこには、自身にとって見慣れた男子の姿があった。
「おっ、夜見か。四人分の書類を届けに来たんだが…、えらく部屋が書類まみれだな…。」
「ちょうど部屋の書類の整理をしていたので。…用が無ければこれで失礼致します。」
「待ってくれ、夜見。その量、一人でするつもりか?」
「他の御三方は現在出払っていらっしゃいますから。」
「…その整理、手伝ってもいいか?」
「よろしいのですか?」
「同僚に連絡入れて、ここの作業が終わるまで戻れないって言っておけば大丈夫だ。…糸崎がサボらなけりゃ、恐らく今日の仕事はさして量は無いはずだしな。」
「…貴方が私を手伝う理由が見当たりませんが。」
「一人でやるより、二人でやった方が早く終わるだろ?なら、手伝う理由はそれだけで充分だ。」
「…貴方の考えは、よく分かりません。」
夜見の彼への理解が及ばないなか、気にせずマイペースに物事を進める彼。
「夜見、どの書類をどこに置くとかを教えてくれ。」
「…分かりました。では…。」
結局、彼女は彼の提案に押し切られる形で、書類整理を二人ですることになった。
「それにしても、何だってこんなに沢山の書類がそのままなんだ?」
「…一応、これでも二月分の量なのですが。」
「…ペーパーレス化の進んだ現代社会でも、未だにこれだけの量が流通するなら、案外製紙会社の術中に嵌まっているのかもな。」
なんてことをボヤきながらも、少しずつ書類の山を崩していく。
「段ボール箱はどの程度用意すればいいんだ?」
「…少なくとも二十は必要ですね。公文書用の倉庫がありますから、そちらに運びましょう。」
「了解。じゃ、施設課の方から段ボールを持ってくるわ。」
一旦控室から退出する彼。
「…よくあそこまで、人のために動くことが出来ますね。…一息、入れましょうか。」
棚から下ろされた書類の載るテーブルの一部を空け、紅茶を淹れる準備を進める。
「台車が必要になるとは思わなかったな…。とはいえ、二十箱分も持ってくるならそれなりの重量になるか。」
ゴロゴロと台車を押す彼。
ピーピーピーッ
業務用携帯から通知音とバイブレーション動作が伝わってくる。
「ん?中島からか。」
同僚からのメールを読む彼。
From:里奈
『お疲れ様。糸崎はキチンと仕事をこなしているわ。…正確には、溜め過ぎていた書類を片付けているけど。今日分の仕事はもう終わらせて、今は姫乃と一緒にアイツの残り仕事を手伝っているとこ。アンタは皐月さんの方を手伝ってきなさい。こっちはどうにかするから。』
「中島、いつもすまねぇな…。こっちもとっとと済ませるか。」
携帯を胸ポケットに仕舞い、再度台車を転がす。
「…しかしなあ。一体どのくらい時間が掛かるのか、全く予想が付かないな…。いっそ焼いちまうのも手だが…。いや、様々な人間の手の入ったものなら、処分方法は夜見達親衛隊に任せるか…。」
色々思索にふけるなか、控室に向かう。
(それにしても夜見、最近は高津学長に手酷く扱われることはあまり無くなったな…。だが、それは俺が見える範囲だけ。…悩みとかありゃ、言ってくれればいいのにな。)
「まあ、それは俺じゃなく真希達に言えばいいだけの話か。」
控室に入ると、紅茶の匂いが漂っていた。
「お戻りになりましたか。紅茶をご用意致しました。」
「退室している間にすまないな。…いい匂いだ。夜見の淹れる紅茶は逸品と真希達が言っていたが、どんな感じなのかね?」
「それは買いかぶり過ぎですよ。…冷めないうちに、頂きましょうか。」
「ああ。」
書類の山々の狭間に置かれたティーセットを前に、革製の椅子へと腰掛ける二人。
砂糖やミルクを入れる前に、紅茶本来の味を確かめる。正確に言えば、夜見の淹れた紅茶の味がどんなものなのかが気になったのである。
スッ
(…!?このお茶、飲みやすいな。渋すぎず、かといって薄くもない、本当にちょうどいいバランスだ。緑茶と紅茶は確かに違うが、こんな淹れ方、俺には難しい。)
日頃からお茶を淹れることの多い彼もまた、彼女の紅茶の味に驚く。
「夜見の淹れたお茶、美味しいな。」
「お褒めの言葉を頂き、ありがとうございます。」
「でも、これだけ上手い淹れ方を一体どうやって身に付けたんだ?独学なのか?」
「…まあ、そうですね。」
「凄いな。…いつか、俺と夜見のお茶の出し方を比較したくなったな。」
「貴方も紅茶を淹れられるのですか?」
「基本は緑茶が多いが、紅茶もまあまあ嗜む程度にはな。…実家の近くに茶畑があったのも大きいけどな。好んで飲むようになったのは、本部に来て以降だが。」
「…そうですか。」
自身の紅茶の水面を覗き込む彼。ここ数年、激務で実家に帰れてはいないが、家族に連絡も定期的に入れているし、妹からは『私もどこかの伍箇伝の学校に入った方がいい?』*1と言われる程度の心配はされる。
但し、次に帰る時は本部で勤務している際の土産話もしなければならないな、などと考えている節もあったが。
「…どうかしましたか?」
「あっ、ああ。ちょっと考え事をな。実家の家族、今どうしているかな、とか。そんなことをな。」
「ちなみに、どちらのご出身ですか?」
「実家は埼玉だ。だが、何時でも帰れるだろうな、とか考えていたらもう数年経っちまった。…夜見も、帰れる時に帰っておいた方がいいぞ。何があるか分からないのが、この職業なんだからな。」
「ご忠告、ありがとうございます。」
「さて、そろそろ作業を再開するか。…スッキリした空間で、また夜見の紅茶を飲みたいしな。」
二人はティーカップの紅茶を飲み切り、部屋の端の方にある食品関連系の棚の一角にカップを置く。
「…まだ、これだけの書類があるのですね。」
「多くがファイリングされていて良かったよ。…段ボールはギリギリだがな。」
段ボールが満杯になったら、四つほど台車に載せて纏めて倉庫に運んでいく。
「最初に比べれば結構減ってきたみたいだが、埃もスゴいな。」
整理するにつれて、棚上にあった複数の箱も目に付き始めた。
「…上にも何かありますね。下ろしましょうか。」
「脚立は…、小さいヤツか…。夜見、気を付けてな。」
脚立を展開したものの、棚の最上部には彼女が手を伸ばしてようやく届くくらいの高さはあった。
「大丈夫か?」
「ご心配には及びません。」
だが、少しつま先立ちになる彼女。足もプルプルと震え始めた。
「夜見…?」
「…今から下ろします。」
と言って、段ボール箱を下ろし始めた彼女。
…しかし、想像以上に重さのあったそれは、彼女の両腕では支えきれないくらいのモノであった。
「!?」
「マズい!」
つま先立ちだったことが災いし、足元のバランスを崩す彼女。
偶然なのか必然なのか、彼女が倒れる方向には彼の姿があった。
段ボール箱は脚立に向かって真っ逆さまに落ち、夜見の方は仰向けになりながら、後頭部直撃の落下コースを描いていた。
「間に合え…。」
気づいた時には、彼の体は動いていた。
ドスン
彼は夜見を危険から救うことに成功した。
…彼女の下敷きになりながら。
「…痛てて…。…夜見は、仰向けに倒れたか。」
鍛えているとはいえ、床と彼女からの衝撃は防ぎきれるはずもなく、若干意識が飛んでしまった彼。
「…頭が無事なら、大丈夫か…。」
状況を少しずつ確認しながら、咄嗟に彼女を抑えるために出した両手のうち左手を動かす。
ぽふっ
本来、この状況でもしてはいけない感覚が左手から伝わった。
途端に青ざめる彼。
「…夜見、ゴメン。見えないとはいえ…、その…。」
「…取り敢えず、お手を退けて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…ハイ。」
とっとと両手を退け、立ち上がる夜見の後ろ姿を目にしつつも、そのまま足を正座に組み直す彼。
「…どうぞ、斬って煮るなり焼くなり紫様に突き出すなりしてくれ。夜見。」
土下座は見苦しいと思い、首を差し出す彼。事故とはいえ、本来一線を越えた関係であっても問題のある行動であった。
「…?…あの状況で、なぜ動けたのですか?」
一方の夜見は、胸部に手が接触したことよりも、落下まで僅か一、二秒しか無かった筈なのに、どうして彼が瞬時に身を挺することが出来たのかが気になっていた。
「…偶然だ。夜見が倒れてきた方向が、たまたま俺の居た方向だったからな…。反対側だったら、間に合わなかっただろう…。」
「…そうですか。落ち度は私にありましたので、おあいこということでよろしいでしょうか。先ほどのは半ば事故のようなものでしたし。」
「…夜見がそう言うのであれば…。まあ…。」
内心納得していないところもあった彼だが、彼女がそう言う以上、この話題を打ち切った。
以後、気まずい雰囲気も流れたが、黙々と書類を積み替えるなどしていった結果、紅茶を飲み終えて一時間半ほどで作業を完了した。
「終わったな。…腰が少し痛いな。」
「手伝って頂き、ありがとうございました。」
「夜見一人でやらせるワケにはいかなかったしな。あれだけの量なら尚更。」
「それでも、ありがとうございます。」
「まあ、また困ったことがあれば、いつでも言っていいぞ。」
ちょうどそこへ、寿々花が紫の警備任務を夜見と交代するため、控室に戻ってきた。
「あら、貴方もおいででしたの。」
「夜見と一緒に、親衛隊の書類整理を手伝っていたところだ。ついさっき終わったところだけどな。」
「…此花さん、交代のお時間ですか?」
「ええ。ですので、夜見さんを呼びにきたところでしたの。」
「では、私はこれで失礼致します。」
彼に頭を下げる夜見。
「おう。今度、茶淹れの風景を見させてくれよ。」
「…考えておきます。」
そう言うと、控室を後にする彼女。
そのまま、扉が閉められる。
「…あの無表情だと、どう捉えていいのか分からなかったぞ…。」
「むしろ、夜見さんと親密な関係を築いていらしたのですね。去り際の一瞬でしたが、口角が上がっていましたわ。」
「…本当なのか?それ?」
「貴方に嘘を言う理由がございまして?」
「そうなんだが…。夜見なりの社交辞令じゃないのか?」
「…いっそ、後程夜見さんに訊いてみてはいかがですの?」
「いや、いい。…分かる時には、分かるからな。」
「…一つ私からアドバイスするなら、機は逃さぬように、ですわ。」
そう言うと、お手洗いに向かうと言って控室を去る寿々花。
「…?…何の機会なんだ…?」
結局彼は、彼女の言葉の意味が分からず困惑した。
(…彼の淹れる紅茶、飲んでみたいものです。)
控室から局長室に向かっていた夜見。
廊下から見える景色を見ながら、前へ進む。
「…梅の花が、もう咲く季節なのですね。」
白く咲く梅の花を横目に、あと一月もすれば、いよいよ春真っ只中になるのだと感じた。
(高津学長、休まれているのでしょうか。)
彼女の尽くし人のことも考えつつ、局長室の前に辿り着く。
コンコン
「失礼致します。」
「夜見か。…ん?」
中で待っていた紫は、彼女の顔をじっと見る。
「紫様、いかがなさいましたか?」
「…いや、夜見の表情がとても穏やかそうだったからつい、な。」
「…穏やか、ですか。」
自身でも無自覚なものだったらしく、瞳孔が少し伸縮する。
「そう、かもしれません。」
「思い当たる節でもあるのか?」
「…いえ。…それでは、皐月夜見、これより紫様の警備任務に入ります。」
「う、うむ。」
はぐらかされた気もした紫だったが、仕事モードの彼女に聞ける様子でも無かったため、それより先の話は広がらなかった。
御前試合前の静かな時の一コマだった。
ご拝読頂きありがとうございました。
とじともも一周年を無事迎えられたことに安堵しつつ、『刀使ノ巫女はまだ終わらん!』という気概を持ちながら執筆を続けて参ります。
みにとじが終わってしまったのを寂しく感じますが、最終回の『またね』を信じて待ち続けていこうとも思います。(円盤は無事予約出来ました。)
とじとものメインストーリー(激動編第3章)の方は、予想出来るものだったとはいえ、ちょっとメンタルブレイクされかけました。…今後、どう話が転がっていくのでしょうかね…。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。
次回から少し番外編を挟みます。
それでは、また。