少し間が空きました。
時代が令和へと移行して最初の投稿は、夜見編その4 前編です。
遠征任務をもとに執筆いたしました。
時系列は御前試合前の冬季です。
先日、UA51,000、全話PV145,000を突破いたしました。
このような作品でもお読みいただいた多くの読者さん達に、改めて感謝申し上げます。
それでは、どうぞ。
―刀剣類管理局本部 官舎内自室―
日の入りも早く、早朝は稀に氷点下を下回るこの頃。
北海道への討伐遠征のため、持っていく荷物を準備する彼。
「行き帰りが旅客機だから、持っていくものが限られるのは手痛いな…。」
使いたくはないが、サバイバルキットと衛星電話をスーツケースとは別のバックに突っ込む。この辺は航空機に持ち込みが出来るので有難かった。
「…しかしまあ、夜見が同行することをあっさり承諾したのは、意外だったな。」
今回の遠征には、鎌府と美濃関の刀使のほか、夜見も同行していくことになっていた。
「現地の特祭隊の練度がどうなっているのかの確認もとれるから、俺にとっては渡りに船だったんだが、…一緒に行く目的は何なんだろうな?」
考えの読めない彼女のことを思いつつ、準備をテキパキと進める。
その彼がついてくるのは珍しいと考えていた、夜見。此方も同様に準備を進めていた。
「…これで、荷物は全て準備し終わりましたが…。」
さてどうしようか、と考える彼女。
出発は翌朝。早々に眠るのもいいが、長い移動時間を考慮すると何か胃を膨らませるものでも作ろうか、と思い至る。
「…少し作っておきましょうか。」
手袋を外し、料理を作りにかかる。
といっても、大掛かりなものを作る訳でもなかったようであった。仕込みを終えると、彼女も早めに床につく。
ー翌日 羽田空港国内線ターミナル駅 構内ー
普段よりも、珍しく遅い到着になった彼。
「まさか、目覚まし時計が故障しているとはな…。しかもJRと京急が遅延のコンボだし。」
朝から気の滅入る彼。幸い、集合時間には間に合いそうであったが、男一人だけ遅れてくるのも、なんだか気まずい空気になりそうだと思った。
ホームに降り立った彼は、第一ターミナルに向かってスーツケースを転がす。
「夜見達は…、あれか?」
彼の前方に、女子生徒の集団が目に入る。
足を其方の方に向け、歩み寄る。
「……おはようございます。◯◯(彼の苗字)さん。」
彼の到着に気が付いた夜見が、朝の挨拶を掛けてくる。
「おはよう、夜見。俺が最後か?」
「…いえ、もう一名まだいらしてません。」
「今は遅れているしな。…とはいえ、快特乗り継いできた俺よりも後ってことは、実家通いの人間なのか?」
「…確か、寮生だったかと。」
「まあ今日に関しては、俺も人のことは言えんか…。……旅客機の時間はまだ大丈夫か。」
腕時計に目を落とすが、集合時間そのものも、旅客機の出発時間に対して余裕を持たせていたため、三十分程度ならどうにかなりそうである。
「他の遠征参加者は、先に検査場に向かってもらうか。御刀の持ち込み許可も必要になるしな。」
「…では、そう伝えてきましょう。」
「すまない夜見。」
待ちぼうけな他の鎌府の生徒に、指示を出す彼女。
それを受けて、エスカレーターの方へと動き出す鎌府生。
夜見が元鎌府生とはいえ、立場変われば何とやら、とは言えども、それを受け入れるだけの言葉であるというのは、周囲も理解しているらしい。
やはり、親衛隊の制服は伍箇伝の生徒達にとってみれば憧れであり、折神家の象徴でもあるのだろう。
…結成が一年以内という、まだ刀使の歴史として浅いものである点を除けばだが。
「他の方には、先に出発ロビーに向かっていただきました。」
「んで、遅れている生徒に連絡はついているのか?」
「はい。…確か、刀使のはずですが…。」
二人がそう話している最中に、地下特有の反響音を轟かせてホームへと滑り込むのは、三崎口発のエアポート急行電車。
「しまったな…、集合時間を過ぎて皆さん待たれているかも…。」
ぞろぞろと降りてくるビジネス客に混ざり、刀ケースに御刀を挿した一人の少女が、焦ったような表情で真紅色のスーツケースを引いてやってくる。
「あれか?」
「…恐らくそうでしょう。」
二人のもとに駆け寄る少女。
「申し訳ございません!集合時間を過ぎての到着になりましたこと、お詫び申し上げます!」
少女は大声で、彼と夜見に頭を下げる。
「い、いや、大丈夫だから。顔を上げて!」
「
「本当に申し訳ございません!」
元々刀使の家系である彼女。
昔から厳しめの教育を受けてきたのか、このように同世代相手でもかなりの謙遜ぶりである。
「取り敢えず、出発ロビーに向かおう。先に来ている鎌府の娘達が待っているだろうし。」
「…行きましょう、玉城さん。」
「はっ、はい!」
三人は、長いエスカレーターに乗り、出発ロビーへと向かう。
その後、遠征に向かう一同が揃ったため、手荷物検査場で御刀の持ち込み許可のため、生徒手帳や刀剣類管理局の発行する証明書を提示していく面々。
「夜見のやつは折神家の発行なんだな。親衛隊であるが故なのか?」
「恐らくそうでしょう。…貴方は、武装を持ち込んでいないのでしたら、通常の検査を受ける方が速く抜けられるのでは?」
「一応、何か遭った時に責任の一端は負うんだ。なら、一緒に検査を見ていた方がいいだろうし。」
「…そうですか。」
表情こそ変わらないが、彼は変なところで頑固な人だと感じた夜見。
十分程で全員の検査が終わり、出発ゲートへと一列に並んで進む。
今回は、函館市に出現した荒魂に対して、討伐遠征を行う運びとなった。
元々北海道は、ノロの量や荒魂の数が本州に比べると少ない方であるため、このように緊急の時以外では鎌府、あるいは美濃関とで分担し合いながら刀使達を派遣している。
旅客機に乗り込んだ一行は、それぞれ席に座る。
中型の航空機だが、予約席は機体左側に取られており、そこは二人席が並んでいるため、必然的に彼と夜見が相席になる形となった。
「夜見、お相席で悪いな。」
「…いえ、構いません。通路側に座られますか?」
「窓の外を見たいなら構わないが、もし夜見がトイレに行く時に、気遣いとか躊躇いがあるのも嫌じゃないか?」
「…そこまで外の景色を見たいわけではありませんが…。」
「俺は最悪、函館空港まで持たせられる。…俺が窓側に座ろう。」
「分かりました。隣、失礼させていただきます。」
ゆったり座る二人。
『おはようございます。本日は日本航空585便、函館空港行きにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。当機の離陸まで、しばらくお待ちください。』
客室乗務員のアナウンスのもと、シートベルトを締めるなり、非常時の際の安全のしおりを読むなり、各々の過ごし方をする遠征メンバー。遅れてきた真梨江も、隣席の友人と何やら話しているようだ。
「なあ夜見、今回の遠征に参加した理由って何だ?」
「何、とは何でしょうか。」
「いや、日頃から紫様の傍を離れることが無いのに、どうして今回は同行を決めたのかと。」
「…北海道で用事がありましたので、一緒に向かえるなら時間の有効活用になると思いまして。」
「ちなみに、その用事って?」
「…お米の買い付けですが。私用と折神家で使う分の物です。」
「ああ~。…確かに、それなら夜見が適任だな。」
「当然ですが、荒魂の討伐にも参加いたします。紫様のご命令ですので。」
「気負い過ぎないようにな…。…とはいえ、俺は討伐後の方が気怠いけどな…。」
函館市の荒魂討伐が終わったあとには、札幌市にある北海道エリアの特別祭祀機動隊本部*1へと訪問することになる。全国各地を飛び回る彼にとってみれば、定型の挨拶やら確認項目やらに追われるのも、最早様式美なのだが。
「…私もご一緒いたしましょうか?」
「いや、多分討伐で心身ともに疲れているだろうから、札幌に着いたら休んでいてくれ。そう長くは掛からないはずだしな。」
「…分かりました。お気遣いいただき、ありがとうございます。」
「俺がやらなければならない範囲に、負担を負わせる理由はないから、ゆっくりとしていてくれ。」
「はい。」
しばらくして、羽田空港を飛び立った旅客機は巡航高度にまで上がり、頭上のシートベルト着用サインのランプが消える。
ポンという音が鳴り、多くの人がシートベルトを外しているようだった。
「機体が安定したか。…腰がちょっと張ったな。」
「…そういえば、朝食はもう摂られましたか?」
夜見が訊ねてくる。
「…あっ、やべ。…摂るどころか、朝慌ててたから飲み物しか機内に持ち込んで無えわ。」
こんなことなら栄養食品でも買っておくんだった、と思った彼。
「…宜しければ、此方を食べられますか?」
そう言って、少し大きめの巾着袋から、おむすび数個とタッパーが一箱、彼女の座席テーブルに置かれる。
「これは…?」
「昨晩仕込んでいたものです。おむすびは塩ですが、よろしいでしょうか?」
昨日の夜に、自身の分と万一誰かが朝食を忘れてきた時に備えて、準備していたものだ。
タッパーの中には、ウインナーと卵焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草の煮浸しが詰まっていた。
「いいのか?夜見?」
「はい。まだ、おむすびは鞄の中にも入っていますので、心配ありません。」
ちなみに、鞄の中のおむすびは保温バックに入っており、温かいまま食せるようになっている。これも、冬という季節だから出来たことでもあるが。
「形の綺麗なおにぎりd「おむすびです。」…おむすびだな。」
うっかり忘れていたが、彼女はおにぎりとおむすびは違うと、かなり強く指摘する人だった。
「「…いただきます。」」
二つの割り箸をそれぞれの座席テーブルに置き、手を合わせる二人。
「ぱくっ。…塩と米が程よく馴染んでいる…、美味い。」
「はむっ。…やはり、塩おむすびは至高です…。はむっ…。」
食べるペースはあまり変わらないはずなのだが、彼女の方は彼がおむすびを半分食べきる頃には、一個を食べきっていた。
「…夜見、喉、詰まらせないか?」
「いえ。こんなおいひいお米を、飛行機の中で食べれるだけで、しあはせです*2。」
「…そっか。」
浮かべる表情がポーカーフェイスで変わらなくとも、本人が顔に出さない幸福感に包まれているのは、幾ら鈍感の彼でも、十二分に伝わってきた。
ー北海道函館市 函館空港ー
日本の戦後史において度々重大事件の舞台になる、この空港。
こう記す理由は、米ソ冷戦時代には亡命してきたソ連のパイロットと、その機体を巡って行われた水面下の攻防戦や、時代変わって平成の世には、ハイジャック事件で史上初の強行突入が行われたりなど、何かとここでの出来事はその後の社会情勢に影響を与えることが多いからだ。
降り立った一行は、前日に現地入りしていた美濃関組と合流し、出発準備を整える。
「…で、美濃関の遠征要員とも出会えたのはいいが、何で荒魂の出現場所が函館駅なんだ?」
「…私にも、分かり兼ねます。」
どうにも、その荒魂は函館駅の近くで現れたのだが、人を襲わず、海の方をじっと見ているという。
まるで、故郷に帰りたがる子供のように。
「……もしかしたら、母たる珠鋼を、感じられる場所だと思ったのかね…。」
「…?どうかされましたか?」
「…いや、ちょっと感傷に浸っていただけだ。取り敢えず、鎌府と美濃関の混合部隊でいいか?異なる学校でも、協調性を養う必要はあるからな。」
「分かりました。…雪が、降り始めましたね…。」
「防寒コート、人数分手配しておくか。」
彼は追加物資に、刀使達の防寒コートをリストに入れる。
この日は朝晴れていたのだが、昼前になって急速に天候が悪化し始めていた。
彼と夜見は、急ぎ荒魂討伐の準備を進める。…北国の冬が刀使達に牙を向く前に、カタをつけるつもりで。
「夜見、刀使の指揮はお願いする。こっちは、特祭隊の部隊を指揮する。…まあ、大丈夫だとは思うけどな。」
「油断は禁物です。」
「そうなんだがな。…今回はなるべく丁寧に、斬り祓ってやってもらえるか。無論、もし刀使に危害が及ぶなら、即座に戦闘に切り替えてくれ。」
「…?…はい。」
彼女はその言葉を不思議に思ったようだが、深くは訊かず、刀使達に指示を出す。
彼の予想通り、今回の荒魂は目立った抵抗もせず、鎌府と美濃関の刀使により函館駅横の岸壁にて討伐された。
「……。」
討伐が終わったことを確認した彼は、ノロの回収部隊が来るまでの間、討伐された荒魂の痕に近寄る。
「…如何されましたか。」
「いやな、この荒魂が昨日からずっとここに居たっていうのが気になってな。」
「…荒魂に感情があると?」
「さあな。…ただ、遠くから見ても哀愁漂う姿が伝わってくるようでな。」
舞草、ひいてはフリードマンからも教わり、荒魂にも人で言う感情があると考えている立場の彼からすれば、今回討たれた荒魂は本州にあるであろう御刀のもとへと、帰りたかったのではないかと考えた。
まして、じっとこの場から動こうとしなかったのは、函館駅という場所も関係しているだろうと。
「ここは昔、青森から来たり北海道を旅立ったりする人が訪れる、海の玄関口だったしな。…もしかしたら、二度と来ることのない青函連絡船を、ずっと待ち続けていたのかもな。」
「…荒魂の心、ですか。…私にとって荒魂は、討つべき存在ですが。」
彼が未だ詳細な探索を続けている、ノロを使った人体実験の被験者でもある夜見。
刀使になれる切っ掛けにもなった、自身の中に取り込んだノロのことを、彼女自身は特別気にしていたわけでもなかった。
だが今回の彼の発言は、彼女の体内に抱える存在へ、多少なりとも意識を向けさせる機会になったとも云えるだろう。
「…人それぞれの考えがあってもいいと思うんだが、刀使の損害を減らしていくには共存の選択肢もあっていいじゃないのか?…まあ、討った後に残ったノロを管理する方が、確かに楽だとは思うけどな。」
「…それでも、私は荒魂を斬る必要があります。…私の存在価値は、任務をこなしあの御方のために動くことなのですから。」
「…まっ、所詮は口しか出さない人間の戯言だと思ってくれていい。事実、そうだしな。」
こんなことであっても、極僅かな確率でも言い続けることに価値があると考えている彼。
彼が対話を重視し続けるのは、その可能性を広げる目的もあるのだろうが。
この意見に夜見が靡いてくるのかは、正直彼でも難しいと思っている節がこの時でもあった。…数ヶ月後に起きた出来事を考慮すれば、彼女を説得させることなど容易でなかったことは間違いないだろう。
ノロ回収班の到着により、現場を彼らに託した遠征要員一行は、函館駅で札幌行き特急列車の到着を待っていた。
「しかし冷えるな…。雪も積り始めたし。」
「……さんび。」
あまりの寒さで、無意識に実家のある秋田の方言が飛び出す夜見。
彼が彼女を見ると、表情は変わらないものの明らかに震えているのが分かる。
コートを着ると動きにくいと考えたのか、防寒着を親衛隊服の下に着込んでいたのだろうが、それでも寒かったようだ。
「……夜見、特急が来る間だけでもこれ着てくれ。」
自身が羽織っていたコートを彼女に掛ける彼。
「…そうなると、貴方の身体が冷えませんか?」
「女の子の体を冷やさせる方が問題だろ?まして、自分だけぬくぬくするくらいなら、夜見を温かくした方がよっぽどいい。…押し付けがましいかもしれないけどな。」
「……いいえ。…防寒着、お借りさせていただきます。」
「ああ。…カイロ、買い増ししときゃ良かったな…。」
思わずそう溢した彼。
彼女は、掛けられたコートをギュッと握り、彼に聞こえない程度にこう発する。
「…貴方はどんな時でも、優しい方です。…おぎに*3…。」
それから十数分後、車体前面や床下に雪を吹き付けた、札幌行き特急スーパー北斗が函館駅になだれ込む。
彼にとっての大変な時間は、ここからであった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
次回は後編になります。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させていただきます。
それでは、また。