刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
ちょっと間が空きました。

今回は夜見編 その5になります。
時系列は、アニメ6話と7話の間あたりの頃になります。
…と言っても、今回は寿々花とのやり取りが多くを占める構成となっています。(申し訳ありません。)
夜見もちゃんと登場いたしますので、その辺りはご安心いただければと思います。

なぜ今話、寿々花とのやり取りを入れる必要があったのかは、お読みいただければ分かるかと思われます。

前置きが長くなりました。
それでは、どうぞ。


⑦ 現実との葛藤

 ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー

 

 可奈美と姫和の逃亡からしばらく。

 伊豆・石廊崎へと向かっていた二人は、警察へ寄せられた目撃情報により、南伊豆に居ることが判明していた。親衛隊もその情報をもとに、道路沿いを中心とした山狩りを行うことになった。

 

「…真希からの誘いは断っておいたのは、正解だったのかどうか、わかったもんじゃないな。」

 

 この少し前、真希から、自分たちと共に二人の捜索へ加わってもらうように頼まれていた*1彼。鎌倉で抑止状態だった美濃関や平城の生徒の対応や、可奈美と姫和の人物背景などの調査を行うという、建前のものと、舞草の構成員としての下準備や工作を行うためという、本音の両面から、その依頼は断った次第だ。

 その後真希、寿々花、夜見の三人で可奈美達を確保するべく、伊豆半島へと部隊を率いて出た。

 

「博士やエレンからの話じゃ、親衛隊を撒くことはできたようだが…。一体全体、あっちで何があったんだ?」

 

 薫とエレンとの接触を果たした可奈美と姫和だが、当然のことながら、彼女達も夜見達の索敵・追撃に遭い、それぞれ負傷したとのことだった。幸いにして、怪我の程度が軽いものだったのを聞いた際には、ホッと胸をなで下ろした。

 だがエレンから、親衛隊との戦闘で、ノロや荒魂が使用されたという情報がもたらされた。その使用者が夜見であることも。

 

「…とにもかくにも、伊豆に行った面々から話を聞かなければ…。特に、夜見からは。」

 

 本来孤独感や喪失感の強いノロには、荒魂になるのを防ぐため、御神体として奉るという方法が現状の最善策ということを、舞草にいる彼は知っていた。

 今の折神家は、祭殿地下にある大規模貯蔵設備へと回収したノロを一括集中管理しているため、相模湾岸大災厄時を遥かに上回る量が保管されており、研究目的で採取したとしても、量の変動そのものはほぼ分からないものとなっていた。

 そのため、折神家直近にある鎌府の荒魂研究の中で、舞草の理念とは対局である人体実験の類があるのかも調べてはいた。…結局それは、エレンからの情報で初めて確実な証拠が揃ったことになるのだが。

 

 

 同室で仕事をしていた、舞草の同僚を呼び出す彼。

「糸崎、そろそろ伊豆に派遣されていた親衛隊が帰ってくるらしいから、出迎えと聞き取りに向かうぞ。」

「俺もかよ…。じゃ、中島。後の仕事任せた。あと一割くらいだから大丈夫だろ。」

 仕事を投げられた里奈は、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。彼女は、二人が都内からは離れたことが既に知らされていたため、通常の職務に戻っていた次第だ。

「アンタの一割って、私からすれば倍くらい違うんだけど。…見返り無しだと、ダラダラやるわよ。」

「水沢の分も一緒に、駅前のケーキ屋で何か買ってくるから、それでどうだ?」

「三原さんの分も、よ。アンタ最近、彼女と碌に会えてないでしょうが。だいぶぼやいてたわよ。会いたいなぁ、って。」

「…分かったよ。四つ買ってくる。」

「分かればよろしい。」

「…すまんが中島、何かあったら連絡を寄越してくれ。特祭隊本部に行ってくる。」

「◯◯(彼の苗字)、糸崎。行ってらっしゃいな。」

 彼女の口調がキツかろうと、離れ際に見せた笑顔で少し気分が和らぐ彼であった。

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 駐車場ー

 

 伊豆から戻ってくる部隊と親衛隊の面々を待っていた、彼と誠司。

「しかしなあ。まさか人体実験が本当に行われていたとはな。」

「ああ。…ただ、今の今まで露見しなかったことを考えると、かなり秘匿されていたようにも思えるな。」

「◯◯。お前、親衛隊と一緒に任務をしていることだって多かったんじゃなかったのか?その兆候くらい、掴めそうな気がしたんだが。」

「お生憎様なことで、後方支援である以上は前で何をやっているかを見るなんてことは稀だ。しかも、親衛隊が出動する数自体は多くない以上、それを捉えるなんてのは至難の業だぞ。幾ら刀使に顔が利くとはいえ、な。」

「まあ、そりゃそうか。しかもお前の場合は、顔が利くからこそ警戒の対象になっていそうだし。」

「違いないな。」

 

 

 そんなやり取りをしていると、数台の軽装甲車と一台の医療用改造トラックが戻ってくる。恐らく、あのトラックに夜見はいるのだろう。

 

「来たか。」

「…?あれ、あのトラック、ここを素通りするぞ。」

「!?…まさか、この先の医療施設に直接入れるのか。だったら今、俺達は動けんな。…じゃあ、後で忍び込むとするか。」

「…◯◯、悪い顔してんぞ。」

 彼のその声の変化に、ゾワリとした恐怖が走った誠司。何かを隠そうとするならば、地の果てまで追い立てようとするのではないか、そんなことを思った。

 

 

 

 

 停まった軽装甲車の一台から降りる、真希と寿々花。

 彼と誠司の姿を見た二人は、強張っていた表情を少し緩め、戻りの挨拶を交わす。

 

「◯◯、糸崎。出迎えありがとう。」

「わざわざこちらまで出てこられなくとも、よろしかったでしょうに。」

「こればかりは俺の性分でな。補佐で、こっちにはついてきてもらったわけだ。」

「ど、どうも~。」

(ホント、この二人相手に物怖じしない性格って凄いもんだぞ。◯◯。…それだけ、コイツは人徳があるってことなのかもなぁ。)

 誠司は彼らのやり取りを見つつ、話を脇から聞く。

 

「それで、真希、寿々花。簡単な概要は聞いているが、南伊豆で何があった?夜見も重傷を負ったというのは、本当なのか?」

 既に彼や誠司は、捜索中の可奈美や姫和、そしてその逃走を幇助する薫やエレンの姿を発見したこと、その際に戦闘になり親衛隊と派遣部隊の数名が負傷したことを把握していた。その内容が、事実とは異なる(・・・・・・・)情報だということも。だが、敢えてそれを知らないように装う。

「それは後で寿々花から聞いてくれ。…僕は先に、紫様へ報告しに行ってくる。」

「了解。糸崎、お前は真希の方についていってくれ。」

「あっ、ああ。分かった。」

 真希と誠司はその後、紫のいる特祭隊本部へと向かっていった。

 

 

 

 

 二人と別れた寿々花と彼は、刀剣類管理局本部内の一室に入っていた。これは、人目に付かない話もできるようにという、彼なりの狙いもあった。

「それで、寿々花。改めて聞きたいんだが、伊豆で一体何があったんだ?…その件と交えて、夜見が負傷した(・・・・)経緯も知りたい。」

 彼は敢えて夜見の負傷という言い方をしているが、実際のところはノロの過剰投与による暴発というところが、正しい表現だろう。最も人伝に聞いているうえ、その場を直に見たワケではないので、何とも言えないところではあるが。

 

 

「まず、順を追って説明いたしますわ。」

 と、寿々花は前置きした上で、伊豆に入って以降の話をしていく。無論、彼には一部の情報を伏せた形で説いていった。

 

 最初に、夜見の(荒魂による)索敵により可奈美と姫和、そして(舞草の試験官役として)近くにいた薫とエレンを発見。各個に分断するように手を打ち、それぞれ戦闘を行ったものの、結局逃げられてしまった。

 その後、一人仮設テントに現れたエレンへ様々な尋問をかけ、薫の夜見に対する攻撃に関連して、彼女の身柄を拘束していた。だが、エレンはその拘束具を自力で解き、逃走。重要な資料(ノロのアンプル)が奪取されてしまった。

 逃走するエレンを抑えるべく追撃した夜見だったが、その際に負傷した、というのが一連の流れであった。

 

 ちなみに、彼が航空課へ依頼して、こっそり南伊豆に派遣していた偵察機能付きの国産無人航空機(UAV)の暗視映像からは、暗闇の中でも多数の荒魂が群れ動いている姿も捉えていた。それが明らかな、自然発生的な荒魂ではないことは間違いなかったが。

 

 

「…まあ、こんなところでしょうか。」

「―で、夜見の容態はどうなんだ。」

「右目付近を骨折したのと、身体全身が切り傷を負ったくらいでしょうか。まあ、命に関わるようなものではありませんでしたわ。」

 当然、これは嘘である。夜見の体内に取り込んだノロの摂取量と許容量のバランスが崩れたため、鬼のような姿になった彼女は、ノロの暴走後に事実上行動不能となった。彼へは、敢えて嘘を吐いたのである。

 

 

 

 

「そうか。…なあ、寿々花。俺達一般の本部職員に、隠していることとか、まさか無いよな?」

 事前に買って持ち込んでいた、お茶入りのペットボトルを口に含んだ後、そう彼女に聞いた彼。

「ええ。誓って、そんなことはないとお約束致しますわ。まさか、貴方は私達を何か疑ってらっしゃいますの?」

「いや。紫様に危害を加えた者を確保すべし、というのは至って普通だし、なおかつ紫様本人が抑えるように寿々花達親衛隊を派遣したことから、その判断は妥当だろう。…しかしだ。なんで、荒魂の反応がなかったはずの夜間の南伊豆に、多数の群れた荒魂が居た(・・・・・・・・・・・)んだ?」

「…あら、何のことかしら?」

 冷静を装った寿々花だが、一瞬の凍りついた表情を見逃さなかった彼は、畳み掛けるように続ける。

「親衛隊からの簡単な概要報告書は俺も読んだ。…だからこそ、おかしな点があったんだよ。真っ先に書いてあるべきはずの、荒魂の出現・討伐情報には何も記載されていなかったことがな。」

「…あの報告書に漏れがあるという可能性は考えましたの?」

「つい熱が入りがちな真希はともかく、頭の回る君や任務に忠実な夜見が、そんな大事なことを書かずに、普通飛ばすとは到底思えない。ダブル、トリプルチェックは普通なのにな。ならそれが、普通じゃない(・・・・・・)荒魂だとしたら?それも記載ができないような。」

「私も人間ですから、一つや二つ、ミスすることくらいありまして?そもそも、本部のスペクトラムファインダー表示機には、私達が派遣された南伊豆では、荒魂の反応は無かったかと存じ上げておりますが。」

 頑なに、現地での荒魂の存在を否定する寿々花。

 

 

 

 

 だが、彼はその嘘を暴く切り札を持っていた。それも二つもである。

「…実はここに、綾小路武芸学舎所属の木寅(きとら)ミルヤが班長を務める、赤羽刀調査隊からの簡易報告書がある。場所と日付は、親衛隊が派遣されたのと同じく南伊豆山中だ。」

「…彼女達にも確かに遭遇いたしましたわ。ですが、特段は何も無かったかと。」

 

 今のところは涼しい顔を浮かべる寿々花だが、それを崩しに掛かる彼。そこに容赦など、なかった。

 

「その彼女達からの報告には、『スペクトラムファインダーで検知されない多数の荒魂が出現していたこと』、『その荒魂対処の最中に、親衛隊から攻撃を受けたこと』が書かれていたよ。ちなみにその報告は、親衛隊の概要報告書の初報が届く、その五分ほど前のことだ。」

「彼女達が嘘を書いた可能性もおありではありませんの?…どうです、そのあたりは。」

「これに関しても、もう詳しい時間経過の報告書類を貰っている。既に紫様へ提出したものとは、別にな。」

 その報告書を、彼女の前へ出す彼。ぶっちゃけこれは、本部の他部署に届いていたのをコピーしてもらったものである。

 これは彼女も想定していなかったらしく、ポカンと口を開けていた。

 

 そして、言い逃れができないレベルの証拠も明かす。

 電源の入ったタブレットを、寿々花の前に立てる。

「それと、親衛隊には黙っていたんだが、俺の方から航空課に依頼して、伊豆半島上空へ無人機を飛ばさせてもらっていたよ。…夜間でも地上の様子がはっきり見える、何なら人の顔まで識別できるレベルの光学機器を積んだ最新鋭の物だ。この映像には、当然ながら本部が追う衛藤や十条、次いで長船の古波蔵や益子*2の姿も映っている。真希、寿々花、夜見の動きもな。」

「………。」

 その時の映像が流れ出すと、沈黙する寿々花。

 

 

 

 

 再度口を開いた時には、頭を抱えたように困惑していた。

「…貴方は、どの程度知っていますの。あの戦闘を。」

「少なくとも、無人機が捉えた映像の範囲は。…夜見の動きも、知っている。…映っていたからな。」

 

 こうした物的・状況証拠の積み重ねが、今までの舞草としての活動にも繋がっていると考えると、知らぬが仏である方が良かったこともあったのかもしれない。

 最も、今の動きは一介の本部職員というだけであるため、相手が強硬手段を取らない限りは状況を幾らでもコントロールできるというのは、彼にとって非常に有利にであった。

 

「…まさか、この私が手玉に取られるとは思いませんでしたわ。」

 これ以上の嘘を吐くのは諦め、素直に認めた彼女。

 それと同時に、彼がただの仕事人間というわけではないということも理解できた。

「寿々花はじめ、親衛隊の人間がこんな雑な仕事をするとは思えなかったからな。…まして、俺以上に頭がよく回る君なら、尚更な。」

 仕事をよくやる人間であるからこそ、という信頼感がこうした時に裏目に出るとは、寿々花にとっても思わぬ誤算であった。

 

 

「…それで、どうされるおつもりですの。口封じとして、私が貴方の首を落とす、ということは考えてらっしゃらないのですか?」

「当然、考えているさ。この腕時計型ウェアラブル端末と、室内に置いてある隠しカメラは連動していてな。端末上で俺の脳波が検知されなくなったら、端末からすぐに警報が鳴るようになっている。勿論、このやり取りの映像も録画してあるから、俺に何かあった時はすぐに、ネット上へ流出するように施してある。」

 徹底的な対策を行っていたために、寿々花は彼への武力行使を諦める。

「…幾ら、お望みですの?」

「いや、別にたかり強請りが目的ではないぞ。何なら、この件を()公表する気もさらさらないし。」

 金銭で解決するつもりだった彼女は、彼のまさかの解答に驚きつつも、次の言葉を聞いてなお驚いた。

 

「取り敢えず、伊豆での話は聞いた。先に夜見のところへ向かうから、また後でじっくりと細かいことは聞かせてもらおう。連絡を後で寄越すから、それまでは真希のところへ合流してくれて構わない。今の話をしてくれても結構だ。」

「…わっ、分かりましたわ。」

 寿々花はこれに戸惑いを隠せなかったなか、彼は話し終えるとすぐに立ち上がり、夜見の搬送された医療施設へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局 医療施設ー

 

 寿々花との会談を終えた彼は、夜見の容体を確認しに向かう。

「すみませ~ん。」

「はい。」

 受付にいた女性がこちらを確認する。

「少し前に此方へ搬送された、皐月夜見さんへの面会はできますでしょうか?」

 そう言うと、彼は刀剣類管理局の身分証を提示する。

「…少しお待ちください、確認いたします。」

 女性はその身分証を持ち出すと、パソコンとクリアファイルとを交互に見ていた。

 

 こんな時にここを訪問するというのは、荒魂の人体実験の裏付けのために動いていることや、舞草としての此方の動きを察知されるというリスクの高いものではある。しかし、夜見の容体が純粋に気になったこともあり、そのリスクを取ってでもここへ赴いたわけである。

 

「…○○××(彼の名前)さん、皐月夜見さんの部屋は地下になります。ただし、面会時間は二十分間です。容体がまだ完全に安定したわけではありませんので、その辺りはご配慮ください。」

「ありがとうございます。…ちなみに、何か持ち込んではいけないものとかはありますか?」

「いえ。入室する際には、感染症対策として手洗いなどを済ませたうえで、面会をお願いいたします。」

「了解しました。面会許可を下ろしてくださり、ありがとうございました。」

 こう告げると、彼は受付を離れて夜見の居るであろう病室へと向かう。

 

 

「…普段来ることが無いから知らなかったが、結構綺麗な感じだな。」

 だがそれは、同時に無機質な空間であるということでもあった。最近では、患者の心理的負担に配慮した病室づくりを行っているところも多いなか、ここは病院というよりも研究施設に近いものなのだろう。

「確か、ここだな。」

 渡されたカードキーをリーダーに通し、重厚な鋼製ドアのロックが解除される。

「…まるで軟禁用の部屋だな。」

 つい、そんなことを口走った彼。

 入室前にノックはしたものの、ドアからの甲高い音が響くだけであった。

「ドアの開閉は…、さっきのリーダーの隣か。…って、これさっき扱った時には無かったよな。こんな面倒な機構にしなきゃならないようなものって、一体…。」

 彼にとってはますます、悪い意味で事実が裏付けされていくことに頭が滅入りそうになった。

 

 

 開閉ボタンを押すと、ドアがゆっくりと開かれていった。

「夜見、入るぞ…。……!?」

 部屋に入った彼は、中の光景に絶句した。

 彼が思い浮かべていたような一般的な病室ではなく、多数の機器が置かれているという、何かの治験者のような印象を受けさせられた。

 その傍らには、眠っているであろう夜見の姿も視認できた。

(…これ、やっぱり現実なんだな。)

 伊豆での行動を上空から見ていたとはいえ、改めて夜見が荒魂を使用しているという、その事実の裏付けがされたようでならなかった。

 

 

「…◯◯、さん?」

 そんな時、眠っていた夜見の目が開かれる。右目側には、包帯があてがわれていたが。

「気が付いたか、夜見。」

「…ここは。」

「本部の医療施設だ。夜見が伊豆で負傷してから、ここに運ばれたわけだ。…俺は心配になって、面会許可をもらったんだよ。取り敢えず、会話ができる状態ではありそうだな。」

 

 そうして彼は、室内の適当なところから椅子を持ってきて、彼女のベッドの隣に構える。

「…獅童さんや、此花さんは。」

「無事に戻ったよ。二人とも外傷は無かった。」

「そうですか。…ならば、私も職務に戻らなければなりませんね。」

 あちこちが痛んだ身体を無理に起こし、立ち上がろうとした夜見。それに驚いた彼は、つかさず制止する。

「おっ、おい夜見。まだ怪我は回復してないんだろ!?…ここに運ばれてまだ時間はそう経ってないんだ。少なくとも、今日一日は安静にしなきゃダメだろ。」

「…ですが、あの方は。」

「…あーだこーだ言わないで、ケガ人は休む!でないと、治るものも治らなくなるぞ!」

「…私は。…いえ、何でもありません。」

(…荒魂の力のおかげで、ケガの治りは速いのですが。…これを言うわけにはいきませんね。)

 

 親衛隊(こちら)側の事情を明かすわけにもいかず、口を噤まざるを得なかった彼女。実際には、彼は既に、夜見が荒魂を使っていることを知っているのだが。

 

 彼の言葉に従って、再度横になる彼女。

「はあ…。夜見も夜見で、時々融通が利かなくなる時があるのがなあ…。」

「…それを貴方が仰いますか。」

「いやまあ、そりゃ。夜見も俺を比較対象にする時点でおかしいとは思うけども、結局人間という括りからは、俺も夜見も逃れられないしな。…ただ、その無茶のおかげで、札幌の時*3に助けてもらったのは、事実だし。」

 とはいえ、その時には命の危機に瀕していたことについては、彼自身も知らないことではあったのだが。

 

「…それにしても、貴方だけがここに来るというのは、何かあったのですか。」

「単純に夜見の容体が気になってな。後で他の親衛隊の面々も来るだろうよ。」

「そうですか。…貴方は、どうしてそこまで、私のことを気になさるのですか。」

 夜見個人からすれば当たり前の疑問をぶつけられる彼。

「―さあな。ただ、心配になって目が離せなくなる時がある、っていうのは確かだ。単なる俺のお節介なのかもしれないがな。」

「…変わっていますね。貴方は。」

「そうか?…でもな、夜見。どう言われようが、何が何でも他人を見捨てるなんてことは、やりたかねえんだよ。…何があっても、どんなことがあっても、な。」

「…○○さん?仰られていることが、よく分かりませんが。」

「…ただの愚痴こぼしだよ。不快にさせたなら、謝る。」

 

 夜見が荒魂を使っていることを知っていてもなお、彼はそのことを彼女へ追及しようとは思わなかった。今の彼女の状態で聞くことが憚られるのもあったが、その力を欲した理由を、彼女がいつか話してくれるのではないか、そう考えたところも大きかった。少なくとも、今は聞くべき時ではないと。

 

 

 

 

 そして、気がつけば面会許容時間の二十分に近づこうとしていた。

「んじゃ、職場の方に戻るわな。またな、夜見。すぐに、復調するといいな。」

 こう言って椅子から立ち上がり、元の場所にそれを戻した時だった。

「…○○さん。」

「―なんだ、夜見。」

「…いつもお気遣い、ありがとうございます。」

「……お礼を言われるようなことはしてないさ。」

 その言葉に、つい、目頭が熱くなりかけたが、それを彼女に悟られないよう、静かに退室した。

 

 

 

 

「―俺は酷い男だよな。結局、自分や舞草の利益のために動いているに過ぎないわけだから。」

 医療施設からの帰路、一人そう呟いた彼。

「…取り敢えず、寿々花に話を通しておくか。」

 直後に寿々花の方へ、夜見が全快するまでは、彼女を任務の類に就かせないように頼みこんだほか、伊豆の情報の取り扱いに対しての事柄を、真希も交えて後日話す段取りとなった。

 

 

 

 

 体内に宿した荒魂を使役しているという事実を知ってもなお、彼は夜見が一時的に行方知れずとなるまでの間、彼女に対しての接し方を変えることは全くなかった。

 彼女に放った彼の言葉が、虚言となるのか、有言実行となるのかは、この時以降の行動で示すこととなる。

*1
真希編『静穏な駆け引き』参照。

*2
苗字呼びなのは、寿々花から面識があることを悟られないようにするため。

*3
夜見編『吹雪を掻き分けて』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

一話挟みまして、また真希編の方に戻ります。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽にご投稿頂けたらと思っております。

それでは、また。
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