刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回から、少し変則的な投稿になります。
番外編として投稿するものです。

一発目は主人公編その1 前編です。
なんでやたらと、刀使の被害軽減を説いたり、自分でサポートに回ろうとするのか、その理由の一端がこの話になります。
なお、オムニバス形式である関係上、前後編では紫以外のメインヒロインキャラは登場しませんので悪しからず。
その代わり、サポートメンバーが複数登場します。

今話は少し長めになります。
それでは、どうぞ。


主人公編
① 死線を越えて 前編


 ―鎌府女学院 食堂兼レストプレース―

 

 鎌倉特別危険廃棄物漏出問題から四ヶ月。姫和も鎌倉に戻ってきたこの頃、荒魂を斬り祓う刀使達とは異なる闘いに、彼は直面していた。

 

 

「だあぁぁっー!!もう俺の精神(こころ)は限界じゃあっ~!」

 

 大空間で大声を上げる彼。

 その理由は至極簡単。現在担当している全国横断の各校・自治体間交渉に加えて、度重なる野党からの、局長代理である朱音の証問喚問への一部対応が、こちらまで回ってきたのである。

 

「クソったれがあ~!!政治家連中は何なの!暇なの!馬鹿なの!」

「落ち着いてくださいよ、みんな驚いてますから。」

 彼と相席だった、鎌府女学院所属の青砥(あおと)陽菜(ひな)が、彼の声にドン引きする周囲を見て反応する。

 陽菜の言葉ではっとした彼は、周りに謝るように頭を下げ、弾き出された椅子を引き寄せる。

「…すまない。取り乱した。」

「もう、しっかりしてくださいね。…オトンも心配してましたよ。働き過ぎじゃないのか?って。」

「休みがあまり取れないんだよ…。…ストライキ起こしちゃ駄目かね?」

「駄目です。全く、衛藤さん達が聞いたらなんて言うか…。」

 ホントに刀使の損害率減少に一役買っている人間なのかと、ふと半信半疑になる陽菜。

 

 そこへ、綾小路の制服に身を包んだ二人組がやってくる。

「あれ、どうしたんだい?珍しく凹んでいるじゃないか。」

「あっ、鈴本さん。それに浦賀さんも。」

 綾小路武芸学舎所属の鈴本(すずもと)葉菜(はな)浦賀(うらが)奈緒(なお)が、二人に近づく。

「ホント、どうしたんよ。そこでうなだれて。貴方らしくもないじゃないの。」

 四人が同じテーブルの椅子に揃う。

「葉菜、浦賀、聞いてくれよ。…俺、真面目に過労死しそうだ。」

「またまたご冗談を。それを言い出したら、僕はもうあの世行きだよ?」

「そうね…。貴方、単にサボりたいだけじゃないの?」

「お二人もなかなか辛辣な…。まだ事情を話されてませんよ…。」

 綾小路の二人の言葉に、陽菜も少し彼に同情する。

 

「真面目に休みがぶっ潰れそうなんだよ…。もう十連勤だぞ。毎晩毎晩、文書を書いては変え、書いては変え…。加えて伍箇伝の各校に行く間も文書作り…。もう沢山だ!こっちは頭おかしくなりそうだぞ!」

「まあまあ。そのおかげで僕達も動き易くなっているから、それには感謝しているよ。」

「まあ、私も人のことは言えないか。確かに、貴方のところにこっそり仕事を持ち込むことも、間々あるし。」

「……浦賀。後で、山城のとこに放り込むからな。」

「!?…ちょ、ちょっと待った。堪忍して!ホントに。ね?」

 彼に向かって、手を合わせて懇願する彼女。

「なら、後で仕事手伝ってくれよ。それで手打ちだ。」

「…分かった…。」

「浦賀さん、山城さんのこと得意じゃないのね…。」

「由依、これ見たらショックだろうな…。」

 陽菜と葉菜は、涙目の浦賀を見て思い思いに口走った。

 

 

 

 

 職員や刀使達が集まり始める、夕時の食堂。

「そういえば、たまに特祭隊内で話題に上がる、過去に君の関わった戦闘の話って、一体何なんだい?」

 食事がてら、葉菜は彼に質問を投げ掛ける。

「ああ、あれのことか…。…こんな食事時にするには、気分が良くないものだがな…。」

 コップに注いだ水面に、彼の顔が映る。

「まあ、今はだいぶマシになったから話してもいいか。」

 そう言って、彼は過去にあった自身の戦闘体験を、三人に話し始めた。公式には『秩父会戦』と称され、彼の人生の転機にもなった、荒魂たちとの死闘である。

 

 

 

 

 

 

 ー数年前 埼玉県秩父市ー

 

 東京都・山梨県・長野県と隣接するここ秩父市は、近年大手私鉄の経営戦略で、終着駅の駅舎の大規模改装や観光客を呼び込むための環境整備が進められてきた。

 

「…少し肌寒いな。もう時期的には、冬に近づいているんだっけか。」

 立冬を過ぎたこの頃、本部に入ってそんなに経っていない頃の彼は、自身の関わる五度目の荒魂討伐に向かっていた。

 

 当時は、特祭隊で現場のノウハウを学ぶことを目的に、彼自ら現場に加わることを望んでいた。

 既に舞草に所属はしていたが、刀使と立場は違えども荒魂を祓うパートナーとなるには、現場を何も知らないよりも、知る方が遥かにいいと考えた結果だった。

 

「おい、新入り。あんまり張り切り過ぎるなよ。荒魂の目撃情報はあるが、今のところは何も起きていない。今日は、聞き込みが任務だ。…まあ、適当にこなしておけば大丈夫だろう。」

 先輩の特祭隊隊員が、彼に指図する。この男子は、彼がまだ右も左も分からない頃に、何度か教えを請うてもらった兄貴肌の強い人だった。

「はい!」

「まあ、この任務が終わったら、鎌府の可愛い娘たちと一緒に出掛けたいものだな。上手くいけば告白して、付き合いたいぜ。ここの荒魂も、小さなサイズだろうし、直ぐに帰れるだろうな。」

「そっ、そうですね。」

 先輩、それはフラグでは?と言いたくなったが、それを口に出すのは憚られた。

「…ああ、それと言い忘れていたが本部(ここ)を離れる際には、必ず89式(小銃)と自動拳銃(オートマチック)を忘れていくなよ。」

「…?了解…しました?」

 この時はまだ知らなかった。この先輩が言った護身用の武器たちが、数時間後に自身を助けることになるなど。

 

 

 

 

 彼ともう一人の特祭隊員は、見た目的には私服警官として秩父市内を歩く。

「いやあ~。まさか、本部付きの人と行動することになるなんて思いませんでしたよ。」

 

 そう漏らすのは、平城学館所属の小池(こいけ)彩矢(さあや)。年上の刀使ではあるのだが、彼に気さくに話しかけてくれた。因みに、彼女は他校の交流も兼ねて、今は鎌府で短期の寮生活を送っている。

 

「小池さんも、実戦は何度か経験していらっしゃるんですか?」

「まあね。でも、私は強い方じゃないから、後方からの支援が中心かな。」

「そうなんですか。…丁度いいところに、お土産物屋さんが見えてきましたね。」

「ここのお店で聞き込みしてみようか?」

「そうしましょう。」

 そして、ここに立ち寄ったことが、この時の二人の運命を大きく左右することになる。

 

 

 

 

 個人経営のお土産物屋に立ち寄った二人は、店の女将から情報収集にあたる。

「荒魂ねえ…。そういえば、この前武甲山の方で出たとかで、セメント会社や秩鉄(秩父鉄道)の人たちが大変そうにしてたわね。」

「武甲山で目撃情報有り…と。市街地で見かけたという人は居ませんでしたか?」

「さあ…。あっ、お父さんなら知っているかも。ちょっと待ってて。」

 女将は店の奥に向かい、主人を呼び出しにいく。

 

 

「関東の人って、あまりジョークとか交えないんですね。」

「小池さんは、結構冗談を交えながら情報を聞いたりするんですか?」

「う~ん。時と場合かな。まあ、どこに行っても教えてくれる人の方が多いからね。」

(そりゃ、こんな綺麗な人から尋ねられたら、大抵の男はコロッと態度変えそうだしなぁ…。)

 口には決して出さない、彼の各人に対する評価。これは過去も現在も変わらない部分だったりする。

 

 

「お待たせ~。お父さん連れてきたわよ。」

 いかにも職人気質な、老練の男性が登場する。

「母さんや、この人たちは?」

「この辺りに出てくる荒魂を調べに来た人たちよ。」

「ご主人、初めまして。」

 彼は刀剣類管理局の身分証明証を提示し、彩矢も彼に倣って特祭隊の手帳を見せる。

「ご苦労様なことで。それで、俺に聞きたいことって何だぁ?」

「ご主人が最近市街地の方に行かれたと、そちらの女将さんから伺ったものでして。私達は、早く荒魂の情報を掴んで、皆さんを安心させたいんです。」

「そうさなぁ…。綺麗なお嬢さんが居るのに申し訳ないが、最近は市街地では見かけてねぇなあ。」

「いえ、その情報でも充分聞けて良かったです。ありがとうございます。」

 お辞儀をする彩矢。彼も続けて礼をする。

「よろしければなんですが、秩父土産をここで幾つか買っていってもよろしいでしょうか?」

「兄ちゃん、いいのかい?」

「ええ。協力頂いたのに、何も買っていかないなんて、とても失礼ですから。」

 礼には礼で返す彼。

「…そうかい。分かった、ゆっくり決めていきな。」

「「ありがとうございます。」」

 こうして、ここで秩父土産を選ぼうとした二人。

 

 

 

 

 だが、荒魂は前触れ無く、突如として襲いかかった。

 

 

 

 

 街を駆け巡る人々。

「キャー!!」

「なんでこんなところに荒魂が居るんだ!?」

「みんなー!走れー!」

 店外は、秩父市役所の方向から逃れてきた人々の、走る姿を映し出していた。

 

 

「!?小池さん!」

「ちょっと待ってて!」

 スマホの着信と共に、けたたましい警報音が店内に鳴り響く。スペクトラムファインダーから発せられた、荒魂の探知情報だ。

 それとほぼ同時に、彼のスマートフォンに通話が届く。

「はい、こちらA2班です。」

『無事か!?』

「その声は、先輩!?荒魂の出現はどこですか!」

『よく聞け!もう臨時指揮所(ここ)は手遅れだ!小池が一緒なら、彼女を連れて一緒に街の中心部から離れろ!!』

(まさか、指揮所に荒魂が!?)

「…先輩達は、先輩達はどうするつもりですか!」

『…お前は頭がキレる。お前さえ作戦参謀として生き残れば、必ず荒魂を倒せる!…俺達の犠牲を決して無駄にしないでくれ!…彼女(とじ)達のことを頼む!』

 

 

 通話はここで途絶えた。いや、先輩(かれ)が切ったというべきだろうか。

 その後、その番号で掛かってくる電話は、もう二度と無かった。

 

 

 

 

 

 

 ツー、ツー、と通話終了を告げる音が流れる。

「本部は!なんて言ってた?」

 彩矢は、彼の言葉を待つ。

 

『俺達の犠牲を決して無駄にしないでくれ!彼女(とじ)達のことを頼む!』

 

(先輩、すみません。貴方の言葉に、少し背くことになります。)

 心の中で先輩に謝りながら、自身の覚悟を決める。

「小池さん、今から俺の指示に従って貰ってもいいかい?」

「何を…って、まさか。」

 彼女が考えた、最悪の想定に首肯する彼。その目に迷いは無かった。

「状況はこちらに不利みたいだ。…お二人も、早く市街地から避難してください!荒魂が現れました!」

「わ、分かった。母さん、逃げるぞ。」

「えっ、ええ。」

「ご主人、女将さん。落ち着いたら、買いに戻って来ます!」

「分かった!そん時はバーゲンしてやる!」

「はい!」

 夫婦を見送り、彼は彩矢の手を引きながら、二人は県立秩父高等学校を目指す。

 

 

 

 

 ー埼玉県立秩父高等学校 仮設避難所ー

 

 携帯キャリア基地局が無事だったため、市内に二人同様散開していた特祭隊員や、刀使達に連絡を取り合い、ここで合流する。

 既に高校内には、市街地の荒魂から逃れてきた人々でごった返していた。

「あっ!彩矢、無事だったんだね!」

「皆、心配かけてゴメン。」

 刀使達は、再会を喜ぶ。

 

 

 一方、紫に直接電話を入れる彼。指揮所付近の特祭隊員が生死不明であるため、今は彼が現場の最高指揮官だ。

『なるほど。…指揮所は壊滅か。』

「可能性が高いとだけ言っておきます。…希望は、まだ捨てたくありませんので。」

『…分かった。だが、こちらも増援を派遣するのに時間を要する。』

「どれほど?」

『ヘリの巡航速度でも、今から30分後だ。』

「…っ!」

 30分後では、恐らく秩父市街はこれ以上の被害拡大を受けてしまうだろう。既に市役所はじめ、羊山公園や西武秩父駅と秩父鉄道で囲まれたエリアは、火の海になり始めていた。

『どうするつもりだ、お前は。』

「…まだ残っている刀使達に、荒魂討伐を託します。」

『いいのか?増援が来てからの方が、討伐を確実に出来るぞ。』

「今は、時間がありません。今作戦の責任は、全て自分が負います。」

『…了解した。ただし増援は送ろう。』

「感謝します、紫様。」

 通話を切る彼。

 自身の人生にとって他人の命を左右する、初めての重い決断が迫る。

 

 

 

 

 

 精神的に幼い彼には、背負うものがあまりに大き過ぎた。だが、それでも彼は前に進んでいく。

 時間は、彼を待ってくれなかった。




ご拝読頂きありがとうございました。

今編では、刀使の誰とも付き合っていないルートというイメージを抱いて頂ければ、と思います。
感想等は感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

後編に続きます。
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