刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編として、主人公編をお送りします。
主人公編その2 前編です。(ホントは一話で終わらせたかった…。)

主人公が刀剣類管理局、舞草、刀使達との関わりを持つ出発点となる話です。
今回もメインヒロインキャラは登場せず、サポートメンバーが複数登場します。
この話は飛ばしても本編にはあまり影響しませんので、それでも読みたい方は下に進んでください。

少々長めですが、お付き合いください。
それでは、どうぞ。


③ Turning Point 前編

 ー綾小路武芸学舎 休憩所ー

 

 彼は珍しく、同じ舞草の諜報員である葉菜が所属するこの学校内に通されていた。

 舞草のお遣いでパシらされ、何度も立ち寄ったことのある場所ではあるが、今回は違う。他の舞草に所属する面々と共に、校内の見学と彼女らとの打ち合わせにやって来たのである。

 

 

「にしたって、参加者全員の待ち合わせ場所がここって…。やっぱり目立つな。」

 男の参加者がそう多くないことも相まって、複数の綾小路の生徒からは不思議そうな視線を送られる。

 すると、彼の後ろから足音が聞こえてきた。

「やあ、少年。久しぶりだね。」

 長船の制服に白衣を羽織った、研究者風の少女がやってくる。

「…誰かと思えばエミリーか。」

 渡邊(わたなべ)エミリー、長船女学園でねねの特殊性やら御刀素材の研究をしている。そんな彼女も、今回ここに呼ばれた。

 ちなみに下の名前から誤解されやすいが、本人曰く純粋な日本人だとのこと。

「最近、素材調合中に爆破未遂事故を起こしたと聞いているが。…それ以降、危ない実験はしてないよな?」

 彼女はジト目で見てきた彼の視線を、わざとらしく逸らそうとする。

「うぐっ…、まっ、まさかぁ~。あっはっはっ。」

「…ごまかしたな。…死んだら悲しむ奴もいるから、安全第一で頼むぞ。それと、警察組織で重大事故なんか起こしたらマジでシャレにならないから、その辺もな。」

 立場的には彼が上なので、公私両面の意味でもこの言葉は重たく彼女に刺さる。

「はっ、は~い。…しょぼん。」

「分かったならよろしい。…っと、続々来だしたな。」

 今日の校内見学兼会合に参加する、綾小路以外の舞草構成員達も続々とこちらにやってきていた。

 

 

 

 

 今回、名目上は伍箇伝各校の親善交流である。そのため、舞草以外の人間も混ざっているが、見学終了後に意見交換会と称して舞草構成員同士での会合が持たれることとなっていた。

 

 

「それでは各校毎に整列してください!焦らなくて大丈夫ですよ。」

 作戦参謀を担当する水科(みずしな)絹香(きぬか)ら綾小路生徒陣が、全体で約百数十名の参加者を並べる。

 なお、彼の所属は刀剣類管理局本部付きであるため、他の伍箇伝の生徒とは別に列を作る。といっても、だいたい舞草の人間しか居ないうえ、本部も多忙であるためこっそり参加できた彼を除いても数人程度しか来られなかった。

 

 

「そういや糸崎、最近になって新しく舞草に入った人間はいたか?」

「んにゃ全く。脱退は皆無とはいえ、人手不足感は否めないな。」

 糸崎(いとざき)と呼ばれた、同僚で同じ舞草の構成員の男子と話す彼。

 

 この男子は秩父で起きた荒魂討伐部隊の壊滅事案*1を受けて、急遽補充要員として本部に送り込まれた人間である。

 互いが舞草であることを知るのはしばらく後のことになるが、その時の衝撃たるや中々なものであったそうだ。

 年齢が同じであることもあり、男が相対的に少ない刀剣類管理局ではいい男相談相手であり、時に仕事の請け負い合いをすることも間々であった*2

 

 待機中、一人の綾小路の生徒が彼らのもとにやってくる。

「おや?お疲れ様です。会合ですよね。」

「あっ、葉菜か。お疲れ。…といっても、先に今から綾小路内を廻るんだが。」

 基本刀使達は各校に居るため、平時である現在は派遣等が行われていない。

「葉菜ちゃん、久しぶり。」

 糸崎も葉菜に挨拶をする。

「これはどうも。いらっしゃったなら、連絡くらい寄越してくださいよ。」

「いや、コイツがな。『もし葉菜に会えたら、お前が驚かせてみろよ』みたいなことを「だーわーわー!俺そんなこと言ってないぞー!」…ほれ見たことか。」

「…先輩、後でこの人借りていってもよろしいですか?」

「ああ、いいぞ!」

 スッキリした笑顔で葉菜に答える糸崎。

「やべ、終わった…。俺。」

「後でお仕置き、覚悟しておいてくださいね♪」

 彼女の声は上擦っていたが、彼からすれば地雷を踏んだも同然だった。

 命を取られる心配は無いとはいえ、彼以上の諜報テクニックがある彼女のお仕置きが想像出来ないことに恐怖を感じる。

 …まあ、自分で蒔いた種なので自業自得ではあるのだが。

 

 

 

 

 その後、見学会が始まる。

 葉菜を加えて、舞草やそれ以外の人間と共に各棟を巡る。

 

 綾小路武芸学舎はその立地の関係上、建築基準法や京都市の景観配慮条例の関係からか、三階以上の木造校舎が設置出来ず、複数の和風建築が分散して建てられている。

 当然ながら多くが木造建築であるため、火災の危険は無いのかという点は、正直刀剣類管理局にとっても耳の痛い部分ではあるが、重要文化財にも使用される屋外型大規模スプリンクラーの設置により、危険性を排している。

 ガワだけ和風建築の建物もあったりするが、大半はそんな感じだ。

 

「…こうして見ると、結構素材が生かされた設計だな。」

「だな。…まあ、本部みたいにあそこまでの洋風テイストも考えようだがな。」

「…意外とお二人共、建物を見られてますね。」

「そりゃ京都だし。伍箇伝で一番歴史長いのここだし、といった感じだな。」

「まあ、突入作戦とかやる羽目になった時に、構造を知っている方が良かったりすることもあるだろ?」

「…なんだか物騒なワードが飛び出しましたけど、僕スルーしていいんですよね…?」

 本部の二人の着眼点の違いに少し呆気にとられながらも、葉菜は彼との会話も重ねる。

 

「そうそう。お二人が舞草に入った経緯、聞いたことなかったですよね?どうだったんですか?」

 その質問に、糸崎の方が先に答える。

「俺はまあ、当時好きだった刀使の娘から誘われてな。実務の方で採られたらしい。きっかけを作ったその娘とは未だ…というか普通に付き合っているな。」

 

 

「「…………。」」

 

 

 誰もメリットの無い、糸崎の爆弾発言に数秒ほど固まる二人。

「……このタイミングで、俺はノロケ話を聞かされるとは思わなかったぞ。というか、お前。なんか俺らに恨みでもあるの?体内の糖分絞り出させたいの?」

「まあまあ。…ふっかけた僕も僕ですが、そんな経緯で舞草に入った人、初めて見ましたよ。…二人を引き合わせる程の愛の力なんでしょうかね?」

 彼の発言に対し、糸崎へ半ばフォローを入れる彼女。

「ま、いいだろ。俺の話はこの辺で。…それで、そういうお前はどうなんだよ?俺も、どういう経緯でお前が舞草に入ったか気になるぞ。」

「そうだな…。話せば長くなりそうだけどな…。」

 二人が聞き耳を立てるなか、彼は自身の記憶を舞草加入当時以前まで巻き戻させる。

 

 

 

 

 ー数年前 入学前史ー

 

 国家公安委員会に属する特別刀剣類管理局(以下刀剣類管理局)。折神家が纏めるその下部に伍箇伝各校と特別祭祀機動隊(STT)が組織されている。美濃関学院も、この下部組織の扱いであった。

 

 

 彼の家庭事情としては、幼い頃より家族が仕事で多忙な日々を送っており、彼と一つ年下の妹で家事等々を必然的にこなさざるを得ない日々を送っていた。

 そんな両親ではあったが、年に一度必ず旅行に連れていってくれたのである。普段子供たちに構ってやれていない、そのお詫びの側面もあった。

 それも、ある程度の日数を確保して国内外の観光やレジャーへと彼や彼の妹を連れていった。

 

 

 そのため、海外でできる様々な経験をさせてもらったりした。

 銃の使用経験も、実はこの時に韓国や台湾の実弾射撃場で体験したものが元だ。

 …まさか、たったそれだけのことが彼の今後の人生を大きく変えることになろうとは、家族一同誰も思っていなかったが。

 

 

 

 

 そして公務員志望だった彼は、ようやく美濃関への入学が決まったことで、経済的にも精神的にも家族に楽をさせてあげられると考えていた。

 だが、両親は美濃関への入学に当初猛反対していた。

 明確に生死が絡む職場であることを知っていたからだ。まして、相模湾岸大災厄を間接的に経験している二人にとっても、親心に待ったをかけたくなるだろう。

 

 

 彼と両親との間に軋轢が生まれていた中、唯一妹だけは彼の意思を尊重していた。一つ年下だったが、最も長く彼と共にいた家族だったため、彼の考えがよく分かっていたからだ。

 

 

 

 

 …だが、彼は両親、妹ととは離れてしまう。

 きっかけは父親の海外転勤が決まったことだ。

 父親の派遣先はフランス。ちょうど、シリア情勢の悪化に伴い、難民や移民達が続々と欧州を目指していた頃だった。

 加えて、母親の方も何の偶然か、イギリスの首都ロンドンにある支店へ配置替えとなったのである。

 両親は妹を日本に残すかどうかまだ決めていなかったのだが、美濃関の学生寮で生活する予定だった彼は、流石にもし両親が妹を連れて行かない場合、家に妹を残して行きたいと思うほど薄情な男でもなかった。

 

 

 そんな折、彼の家族に悲劇が訪れる。

 両親と妹が先に欧州入りし、英仏で新しい住居を探している時だった。

 三人の乗った欧州連絡特急「ユーロスター」が、フランス国鉄の列車に追突・脱線炎上したのである。

 当然ながら三人も巻き込まれ、命に別状はなかったものの、それぞれ全治半年~一年程の重傷を負ってしまった。

 追い討ちをかけるように、乗っていた車両が脱線時の衝撃で炎上してしまい、一緒に載せていたパスポートを含む荷物を全て失ってしまったのである。

 海外で旅券、つまりパスポートを喪うことは、即ち日本国の支援が受けられないことを意味した。命と同等に大切なものを無くした、どころか『日本国民』という証明さえも喪失したことが、どれほど絶望的であろうか*3

 当然ながら、在仏日本総領事館の職員も状況確認のために事故現場と三人の入院する病院までやってきていたのだが、『事故による旅券喪失は想定されるが、残念ながら他のケース同様、再発行*4までには非常に時間を要する(つまり例外扱いできない)』との言葉が。

 

 この件で運が良かったのは、彼のみ日本に残っていたため、再発行に必要な戸籍抄本などを送ってもらうことが出来たことだった。

 だが、書類の到着まで時間がかかる上、三人共最低でも一ヶ月は安静にしなければならない程の症状だった。

 三月の初旬に事故は起きたため、四月の彼の入学式には出られないことは決定的であった。

 彼もフランス入りしようとしていたのだが、一番症状が重かった父親から、要約すれば

「こっちに来なくていい。」

 という連絡を受けて、断念するしかなかった。

 当時の彼と家族とのやりとりはこんな感じであった。

 

 

「母さん、親父や妹は無事なのか!?」

『落ち着きなさい。みんな生きてるわよ。でも、困ったことになったわ…。』

「えっ。」

『みんな、怪我を負って今同じ病室に居るわ。…荷物も全部焼けてしまったわ…。』

「…そんな…。」

『そんな声をしないの。命があっただけ儲け物よ。…流石にパスポートは再発行してもらわないと無理ね…。』

「こっちでやらなきゃいけないことを言って!」

『助かるわね…。貴方が無事で居てくれて…。』

 

 その後母親は、日本に居る彼がやっておくべきことを全て言い、それをメモする彼。

 

「全部書いたよ。」

『ごめんね。忙しい時に…。』

「何言ってるんだ!一番大変なのは母さん達じゃないか。」

『…元気な声が聞けただけ、私は十分よ。…お父さんに代わるわね。』

「…分かった。」

 

『すまないな、進級前の時期にこんなことになってしまって。』

「…親父、やっぱり俺、そっちに行くよ。」

『いや、お前は来ちゃいけない。日本に居なさい。』

「えっ…、なんで?」

『…お前が進みたい道が、こんなことで絶たれるなんて本来あっちゃいけないんだ。間違いなく、俺達は四月までには帰れそうにない。…ゴメンな。お前の入学姿を見られなくて。』

「親父…。…それでもやっぱり、そっちに俺は行きたい。」

駄目だ!

 強い口調で彼に怒鳴る父親。

「親父…。」

『こっちは大丈夫だ。…お前のその気持ちだけで、俺は十分だ。』

 通話口から、すすり泣く声が聞こえる。

『だからな…、お前のしたいことを…、やってこい…。俺は…、お前が笑顔でやっていってくれたら…、それだけで幸せなんだ…。』

「……うん。…分かったよ。妹に代わってもらってもいいかい?」

『ああ…。』

 父親は受話器が離れると、

「…あの子に心配かけてばかりだな。…立派に成長しているじゃないか。」

 と呟いていた。

 

『兄ちゃん、そっちは大丈夫?』

「俺は大丈夫だ。…お前は大丈夫なのか。」

『私は大丈夫。…お父さんが咄嗟に守ってくれたの。』

「親父が…。」

 改めて、心の中で父親にお礼を言う彼。

『兄ちゃん。』

「何だ?」

『兄ちゃんが行きたいと思う道を進んでね。私は、ずっと兄ちゃんの味方だよ。』

「…こんな時に言うなんて、…反則じゃないか…。」

『えへへっ。』

 思わず、涙が零れる彼。

「…分かった。お前が背中を押してくれた、その思いに応えたい。…しばらく会えなくなるな。」

『…うん。でも、大丈夫。どんなに離れていても、私達は家族だから。また会えるよ。』

「…ありがとな。…母さんに代わってくれ。」

『うん。…またね、お兄ちゃん。』

 微妙な言葉の変化に気づけるほど、彼の頭の中は余裕が無かった。

 

 

『もしもし。…家の方は、お父さんの両親にお願いするわ。…行って来なさい。貴方の進みたい道へ。』

「母さん…。…行ってきます。」

 電話越しでは分からないだろうが、彼は敬礼をしていた。彼なりの人生の通過儀礼だったのかもしれない。

『うん。じゃあ、また後でね。』

 そして、電話は切られた。

 

 

 

 

 ーその年の四月 美濃関学院 正門ー

 

「服装、良し。髪型、良し。…行きますか。」

 フランスに残る家族が母方の親族に頼み、入学式の写真や映像を撮ってもらうことになった彼。

 彼の長きにわたる、刀剣類管理局と伍箇伝、舞草との…、いや刀使やサポートメンバー達との全ての関わりは、この門を潜った瞬間から始まった。

 

 

 

 

 自身の波乱含みな人生は、改めてここで再スタートが切られたのであった。

*1
この経緯は番外編の主人公編『死線を越えて』前後編参照。

*2
ちなみに、寿々花編『爆弾処理の下準備』にて彼から仕事をぶん投げられたのはこの同僚である。

*3
事実上の無国籍者扱いをされるため

*4
正確には紛失扱い→新規発行という流れ




ご拝読頂きありがとうございました。

可奈美編をお待ちの方、もう一話分だけお待ちください。

タイトルが英字の理由は、ヒロイン達の話と異なるという表現を簡単に表すためです。
取り敢えず主人公の人物背景を描きましたが、如何だったでしょうか。
時折悪しく、とはこういうことを指すのでしょうが。

後編に続きます。
それでは、また。
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