今回は番外編の主人公編その2 後編です。
…すみません、思いのほか長くなりました。
今話は入学して以降、舞草参加への話となります。
もし、あの大災厄に対して一般人目線で気になることがあるとすればこうかな?という私見も入れています。
それでは、どうぞ。
ー美濃関学院 武道館ー
無事入学式に間に合った彼。
「いよいよ、俺の公務員生活が始まるのか…。ワクワクするな。」
事故の影響で帰国出来なかった家族のことを思いながら、自身の人生で初めて選んだ道だったこともあり、期待と喜びが同時に湧き出てきた。
まだこの時点では、舞草のもの字すら知らない、ただの小学生上がりの少年であった。
式が始まり、来賓などの挨拶を経て羽島学長の祝辞が述べられる。
「皆さん、はじめまして。この美濃関学院の学長、羽島江麻です。…(中略)…。皆さんが刀使として、あるいは技術者等として成長し、日々精進していくことを願いながら、楽しい学校生活を送ってください。」
祝辞が終わると同時に、全体から学長に向けてパチパチと一斉に拍手が送られる。
式そのものは比較的あっさり終わった。
ー美濃関学院 某教室ー
入学式と先輩方からの簡単なレクリエーションが終わった後、教室に戻る彼。
「ここは優しそうな人が多いな。…これなら、六年間を穏やかに過ごせそうだ。」
一部共学である美濃関では、男女間交流も活発であった。
彼の所属する学科も、女子の割合こそ高いが案外仲良くやっていけそうな雰囲気だった。
「さて、色々な知識を吸収して目指せ安泰、ローリスクの公務員生活だ!」
…だが、この彼の願いは次のアナウンスと共に消し飛ぶこととなった。
同時に安泰・ローリスクからは遥かにかけ離れた、特別祭祀機動隊や刀使達の実状を目の当たりにすることとなる。
見事なまでの発言のフラグ回収でもあったが。
「△△予科所属の○○(彼の苗字)君、至急学長室までお越しください。繰り返します…」
この無機質な放送に、教室中の人間全員が彼を見たことは言うまでもないことだろう。
(…待って。俺何かしたの?というか、周囲の目線が辛いんだけど。)
それもその筈、入学初日からいきなり学長室に出頭するように放送を受けるような人間が、果たして真っ当な者なのかという疑念を他者から受けるのは、ある意味正常な思考であると言えるだろう。
現に、教室内からは
「あの人、何か問題があったのかな?」
とか、
「春休み中にどこかへ喧嘩でも売ったのかな?」
とか、結構散々な謂われのない言葉が飛び交っていた。
(…仕方ない。どちらにせよ、学長室に向かうほか無さそうだな…。)
教室に居づらい空気が形成されつつあったため、彼はやむなく学長室へと足を運ぶ。
ー美濃関学院 学長室ー
室内では、江麻が彼に関する文書を再度黙読しながら、到着を待つ。
「…こんな子まで巻き込まないといけないなんてね…。」
彼女は備考欄を改めて見る。それと同時に、最近になって入った身辺調査書も確認した。
『先月発生したフランスでの鉄道事故の乗客の中に、日本人が居た模様。当該乗客は◯◯氏(彼)の家族である可能性大。』
この部分は、江麻にとっても非常に反応に困るものであった。
加えて、朱音からの要請とはいえど、彼の意向とは関係無く舞草の所属試験を実施しようというのだから、この段階での勧誘策はあまりにタイミングの悪過ぎる条件であった。
断られることさえ、彼女の頭の中には正直浮かんでいた。
生徒一人ひとりの自主性を重んじる彼女にとっては、彼の選択がどう転ぶのか全く読めなかったのである。
「気が重くなるわ…。まさか、話していた時より状況が悪化するなんてね…。」
どうであれ、自身は舞草への窓口。そこから先はフリードマン博士や
コンコン
「どうぞ。」
書類を纏め、ドアの方を見る。
「失礼致します。羽島学長。」
これが彼と江麻との最初の直接的な縁であった。
(写真と比較しても、好青年ね。)
彼女は彼の初見をそう見た。
一方、当の彼はというと…。
(えっ、俺なんでココに呼ばれたの?…やっぱり、知らない間に何か問題を起こしたとか?)
少々パニックを起こしていた。
…まあ、入学初日から呼ばれるなんて、まず何か訳ありの用件であることは間違いないし、実際そうであった。
(…親父、母さん、妹よ。親不孝者でごめんなさい。)
退学、いや下手をすると除籍扱いをされるのではないか、そんな不安が押し寄せ、江麻からの言葉が発せられるまでかなりガチガチな緊張状態であった。
そんな彼の状態を知らない彼女は、ともかく声をかける。
「いらっしゃい。そこの椅子に座って。」
「はっ、はい。」
ソファー状の椅子にもたれ掛かる彼。
遅れて江麻も、彼の反対側の椅子に座る。
「そっ、それで俺がここに呼ばれた用件は一体何でしょうか?」
「…その前に、お茶を用意するわ。少し長丁場になりそうだから。ちょっと待っていて。」
二の言葉をお預けされた彼。更に不安の渦が広がっていく。
「お待たせ。ごめんなさいね。簡単なものしか無くて。」
「い、いえ。ありがとうございます。…頂きます。」
心を落ち着かせる意味も込めて、お茶を少し含む彼。
「…ほぅ。すみません。落ち着きました。」
「なら、良かったわ。」
彼の警戒の解けた顔を見て、安心する彼女。
「今から時間はあるかしら?」
「はっ、はい!…ちなみに改めてお聞きしたいのですが、俺が学長に呼ばれた用件は……もしかして退学勧告ですか?」
彼の発言に、江麻は思考が追いつかなかった。
「えっ……。………えっ?」
一体彼は何を言っているのだ、という状態に追いやられる彼女。
「いや、入学初日から学長室に呼ばれるなんて、何か問題を起こしていない限りまずあり得ないですよね?…だとしたら、退学勧告が一番筋が通るかと思いまして。」
思ったことをそのまま江麻にぶつける彼。彼の疑念を解くため、即座に否定する江麻。
「……いえ、そのような理由でここには呼んでいないわよ。」
「では、一体……?」
これは説明に骨が折れるかもしれないと、瞬時に悟る彼女。ともかく、話を前に進める。
「貴方をここに呼んだ理由は他でもないわ。…貴方に協力してもらいたいことがあるの。」
「協力……ですか?今日入学したばかりの人間の身なのですが…。」
いまいちピンとこない彼。
想定内の反応だった彼の表情に気を配りながら、舞草に関する話の前段階、舞草設立に至った発端の事象を話す。
「ええ、分かっているわ。まず、最初の話として、貴方は相模湾岸大災厄を知っているかしら?」
「はい?まあ、一般の人並には…。…海上で発生した大荒魂が相模湾一帯で暴れまくって、それを鎮めようと刀使達が活躍したとかなんとか。」
「…だいたいの人の認識はそうね。私は、大荒魂を鎮めに行ったその当事者の一人だったのよ。」
「へぇ…、そうだったんですか。…どおりで、雰囲気が普通の人と違うとは思いましたが。」
威厳やら貫禄から、というよりも刀使であった面影を感じたうえでこんな発言をした彼。
なお、この段階では刀使に対して、彼自身はあまり細かいことまで知っていた訳ではなく、一般に周知されている程度のことしか知らなかった。
(先程の言葉はともかく、至って普通の子ね。)
「それで、貴方に協力してほしいのはそのことに関してなの。」
「…?話が視えてきませんが?」
「…公の発表ではあの時、現地で大荒魂の討伐に当たったのは今の折神家当主、折神紫。そして今の私を含めた伍箇伝の各学長の計六人とされているわ。…でもね。あの時、本当はもう二人居たの。紫と共に向かった私の友人達が。」
「…つまり、当時の政府や刀剣類管理局は事実を隠蔽した、ということですか?」
「正確には、大荒魂討伐の功績を受けて当主になった紫の要請でね。…今となってはそれが不思議なのだけれどね。ただし、秘匿された事実はこれだけではないの。…今の私の立場ではこれ以上のことを話すことは難しいから、細かい話は他の人からお願いね。」
「分かりました。…自分の耳目で見聞きしないといけないことは、理解できました。」
ちなみにタギツヒメ討伐時の諸々のことは、後に紫自身の口から語られることとなるが、それはこれから数年後のことである。
そして、本題に入る。
「それで、それに関連するのだけれど…。」
「…何か言いにくそうですね。」
「管理局内部では、今の紫の体制を良しと思っていない人間も一定数居るの。『舞草』と言ってね。その反紫派の人間で組織された集団があるの。…私は中立的な立場をとらざるを得ない以上、どちらにも与しはしないけれど貴方はどうかしら?」
事実上の勧誘へと動く江麻。ただ、口調は穏やかなものであるため、本当に彼の判断に委ねることとなる。
彼は、一旦情報を整理したかった。そりゃそうである。なんせ、政府、ひいては国民全体の知っていることと実情は大きく異なっていたからだ。それが十数年もその状態であるならば、客観的に見ても異常なことであることは確かだ。
「…羽島学長、一度持ち帰って考えさせてもらってもよろしいでしょうか。」
即答せず、自身の考えを纏めたい彼。そうなることも分かっていた彼女は、頷き返した。
「勿論よ。時間はあるわ。ゆっくり考えてみなさい。」
「ありがとうございます。…それでは、失礼しました。」
椅子から立ち上がった後、扉に直行する彼。
退室時に江麻にお辞儀すると、足早に教室へ帰る。
「ふう…。」
執務机の椅子に腰掛け直し、深く息を吐く江麻。
「…最初はどうなるかと思ったけれど、しっかりとこちらの話を聞いてくれていたわね。…後は彼次第ね。」
プルップルップルッ
備え付けの外線電話が鳴る。
「どこからかしら?」
机上にある受話器を手に取る彼女。
『どうも~。江麻センパイ。』
「その呼び方の時で良かったことは無いのだけれど、紗南。」
電話の主は長船女学園の真庭学長(後の本部長)であった。
『んんっ。すみません。ちょっとふざけました。』
「それで、このタイミングで連絡を入れてきたってことは、結果を聞きたいのね?」
『まあ、そうです。どうでしたか、彼は?』
「人当たりは良さそうな子だったわ。…ただ、舞草に協力するかまでは…。正直まだ分からないわね。」
『そうですか…。…フリードマン博士と会わせてみますか?』
「それはそちらに任せるわ。…最も、情報を纏めたいと言って即答はしなかったわ。」
『やはり、一筋縄ではいきませんか…。』
「…多分、彼なりにあの出来事を知りたいのかもしれないわね。朱音様の言っていた通り、もしかしたらとんでもない人材になるかもしれないわね。」
『刀使たちの力になると、そういうことですか?』
「そこまでは分からないわ。…はっきり言えるのは、彼は良くも悪くも慎重な人間ね。」
その後、いくつかやり取りを経て電話を切る。
江麻の胸中は、どこか複雑なものであった。
ー美濃関学院 学生寮ー
その日の晩以降、彼は舞草に入るかという判断を後に回し、相模湾岸大災厄というものがどういったものかを改めて調べて上げた。
その間、級友達には少し心配されたが。(目の下の隈がひどいなど)
無論、勉強の合間を縫って大手動画サイトや新聞各社の特集、更には政府の情報開示済みの公的文書、神奈川県警・警視庁、特別刀剣類管理局の文書比較などから、自分なりの見方を固めていった。
「情報量が膨大だったが、思いのほか新聞と写真が役に立った。」
文字通りの総力戦だったあの災厄では、多数のヘリや艦船が撃墜・撃沈されたり、遠距離から砲撃していた高射砲部隊も損害を負うなど、民間人だけでなく数多くの治安組織の人間も犠牲になった、ともかく出鱈目な規模であったことを知ることができた。それが、たった十数年前に起こったのである。
だが、単純な疑問も浮かぶ。
『それだけの質量・大きさを持った大荒魂が、本当に封じられたのか?』
確かに、荒魂の中には一部物理法則が通用しないものも居るが、それは例外的なものである。
だが、そんな荒魂でも重力などは必ず影響を受ける。まして、それだけ大きなものであれば尚更である。御刀で斬り祓うにせよ、限界がある。
そこで目を付けたのが、御刀や刀使の力、ノロや荒魂との関係である。
「…流石に、おかしいな。」
ここから荒魂を祓う現場を直接見ようと思って、刀使達の苦労を知ったり、自身も戦闘に巻き込まれることとなるが、それは少し後になる。
どうであれ、その疑念と紫の指示との因果関係を不可解に思った彼は、一月ほどの時間を掛けて舞草に入る意思を固めたのである。
桜の木もすっかり緑に染まった頃、改めて江麻のもとを訪れる彼。
「羽島学長。時間がかかりましたが、結論から申し上げます。…俺を舞草に加入させてください。」
「…貴方の判断は、そうなのね。」
「…大災厄時の違和感がどうにも拭えなかったので。もしかしたら、その答えが舞草にはあるんじゃないかと思いまして。」
「…分かったわ。貴方がその意思を示した時に、渡そうと思ったものがあるの。」
彼女は、彼に一封の白封筒を手渡す。それは、少し厚みのあるものだった。
「その封筒には、貴方がこれから会うべき人たちの居場所が載っているわ。」
「…ありがとうございます。羽島学長。」
「貴方の判断が、良きもので有らんことを。…困ったことがあったら、私のところにまたいらっしゃい。」
「はい。」
こうして、彼は舞草へ参加することを選んだ。
その後、フリードマン博士や真庭学長と出会い、向かい先で所属試験として筆記・射撃試験を受けることとなった。
…その際に、刀剣類管理局本部に居る舞草の構成員に引き抜きを喰らうことになったが。(二度ほど断ったが三度目はダメだった。)
そして、秩父での戦闘を経て、力不足を味わった彼は各治安組織で自身を鍛えに向かったのである*1。
戦闘後の退院から約数ヶ月の出向期間を挟み、刀剣類管理局本部へと帰参した。
ー現在 綾小路武芸学舎 武道場兼講堂ー
「…ざっくりこんな感じだ。」
ひと通り自身の来歴を語りきった彼。
「…意外と波乱万丈ですね。いつものノベっとした感じと全然違いますし。…あと、所属した理由も。」
「…なんか、すまねぇ。」
葉菜と糸崎は、正直呆気に取られていた。
「まあな。…でも、俺はこれで良かったと思っている。葉菜や
自身にとってもいい選択だったと感じる彼。
「…そう言えば、ご家族は今どうされているんですか?」
「あ~。…結局、事故の影響で日本に帰国することになってな。今は国内で仕事や通学をしているぞ。」
「良かったんだか、悪かったんだか、だな。」
「結果論としてはな。…まあ、あの時以降、連絡をとっても家族で揃うことはまだ無いな。」
「…顔見せに行ってやれよ。」
「糸崎、仕事代わりにやるか?」
「…出過ぎたことを言いました。」
ちょっと焦る糸崎。彼はそのまま続ける。
「それにな。」
「はい?」
「帰る時には、もう一人横に居てくれたほうが俺は良いんだ。…今までの説明役が要るしな。あと、紹介したいし。」
「…それは高望みなんじゃないかな?……でも、僕は案外いいと言ってくれそうな人は多いと思うけれどな。」
(言ってくれれば、僕はついて行くのに。変わらず鈍感だなぁ…。)
内心がっくりする葉菜。
「そうか?…まあ、親元に帰るのは何事にもケリがついてからになりそうだがな。」
彼らは場内に掲げられた日章旗を見ながら、案内する綾小路のガイド役の声が響く。
…今後忍び寄る危機を回避する努力が報われるかは、この時の三人には知る由もなかった。
時間は、ただ前へと進んでいく。
ご拝読頂きありがとうございました。
気が付けばもう40話目の投稿になります。
まだまだ書きたい話もあるので、無茶せず頑張ろうと思います。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。
次話ですが、お待たせ致しました。
可奈美編に戻ります。…年が終わるまでにメイン六人の話、一話ずつ追加したいな…。
それでは、また。