今回は番外編の主人公編をお送りいたします。
時系列は『死線を越えて』前後編のあと、沙耶香の誕生日手前の頃になります。
この話単発では流れが分からない方は、『死線を越えて』前後編と『設定集・時系列まとめ』を参考にお読みください。
それでは、どうぞ。
ー大阪府某所 とある墓地ー
段々と体にあたる風が冷えこみだし、秋らしさが身に染みはじめるこの頃。
先頭を歩く男は右手にはコスモスなどの花束、左手には入り口付近で汲んだ水桶と柄杓を持っていた。
ぞろぞろと複数の制服姿の男女が、ある家名の入った墓石の前に止まる。一行は、彼を筆頭とした友人達であった。
今回、彼らがここにやってきたのは、秩父での荒魂による攻撃で殉職*1した、彼にとっての先輩のお墓参りである。本来なら今年は夏頃に来る筈だったのだが、鎌倉特別危険廃棄物漏出問題による影響が長引き、何とかこの時期に墓参となった次第だ。
「今年も来ましたよ、先輩。」
先輩の亡骸が収められている墓石へと語りかける彼。
「というか、お参りする人がこんなに多くていいのかな?」
隣で線香を取り出している彩矢。彼女もその当事者の一人であった。
「いいんじゃないのか?あの人、女の子結構好きだったし。」
「にしても、僕達も来て良かったんですか?生前の関係が無いのにも関わらず。」
以前、彼の話で聞かされていたこともあり、この場にやってくることを承諾した葉菜。陽菜も今回は一緒だ。
「…故人が一番辛いと思うのは、誰からも記憶されずに忘れ去られることだと、俺はそう感じる。なら、一人でも多くの人間に覚えておいてもらったほうが、あの人も浮かばれるだろうし。」
「そういうものなんですかね…。」
後ろの方からは陽菜が声を上げる。
「そういえば、◯◯(彼の苗字)さんにとって、□□(先輩の苗字)さんは恩人のような方でしたよね。」
「生きてりゃ、今頃はどんな風に話してくれたのかね…。あの人、当時は刀使と付き合いたいとか言っていたが、思いの外一途な人だったからな…。」
過去を懐かしむ彼。無情だが、時間が巻き戻ることはない。
「…んで、糸崎、三原。お前らは別に来んでも良かったんじゃねえのか?わざわざ忙しい時に、コッチに時間を割いてくれたのはありがたかったが。」
準備をしながら、管理局内でも有数な
「まあ、配属直後に前任者の人間のことなんて調べる奴は、そう多くないだろうな。ただ、俺はその前任者がどんな人間か気になったんでな。…早希と巡り会わせる機会をくれた人間のことを。」
「私も似たような理由です。…最も、陽菜ちゃんに誘われたのもありますが。」
「…確かに、そうだったな。先輩達の補充要員として、糸崎、お前は本部に来たもんな。そして、その後三原に出会ったと。」
「そういうことだ。…故人への報い方として、これが良いのかは分からないけどな。」
「私にも、この人に花を手向ける理由はありますから。」
「…ありがとう。」
改めて、いい
全員で墓石や墓誌を水と柔らかいスポンジを使って磨き、花立の水も入れ替えたあと、風が強くならないうちに蝋燭に火を付ける彩矢。
「一人あたりはこんなものかな?」
「サンキュー、彩矢。あんまり多いと、線香入れが溢れ兼ねないから程ほどがいいな。」
火災の危険性も考え、線香をなるべく少ない量で抑える。
「まず、俺からか。」
線香入れに、持っていた線香を立てて合掌する。
(思えば、あの戦いがあったのもこの季節だったな。…やはり命日近くに来て良かったのかもな。あの時のことを色々思い出させてくれる。)
先輩の一言一言を、ふと思い返す。
『いいか、刀使の娘達は巫女さんだ。俺達の仕事は、端的に言えば彼女達の手伝いだ。お前は彼女達の力になれるように今後頑張っていけよ!』
『無茶するなと言ったのに、この大馬鹿野郎!怪我しているじゃねえか!…すぐ包帯とガーゼを持ってくるから待ってろ!』
『…俺達の犠牲を決して無駄にしないでくれ!…
(先輩、俺は彼女達の力になれているのでしょうかね…。)
墓石から離れる際、空を仰いだ彼。
その答えは、後々自ずと返ってくるものになるであろうと思うしかなかった。
「次は、私だね。」
彩矢が、線香を供えて合掌する。
(…貴方とは何度か任務でご一緒しましたね…。その最後の時も。…貴方との最後の連絡が途絶えた時の彼の顔、今も忘れられません。)
秩父での出来事を思い出しながら、彼女は墓石を真っ直ぐに見る。
(先輩、彼は絶対に死なせません。せめて、私の手が届く時だけでも彼を守ります。…だから、安心して眠りにつき続けてください。)
そう胸に誓い、墓石を離れる。
「僕はお話しでしか貴方のことを知りませんが、花を手向けさせて頂きます。」
続いて、葉菜も線香と花をそれぞれ置いていく。
(…もし、僕が任務中とかで死んだ時には、こうして手を合わせてくれる人が居るのかな…。)
諜報員という立場上、彼女が裏で意図的にやられる可能性はある。ある意味、そんな不安が募るのも仕方ないといえばそうである。
(…でも、貴方が指導していた
舞草に居ても、本部に居ても、彼のその基本的なスタンスの変わらなさに関しては凄みを感じている、葉菜。一貫性が強いため、彼と他者との間で意見衝突もたまに起こるが、最終的には上手く妥協点を見いだしている。だからという訳ではないが、彼女がそんな彼に好意を抱いてしまったのもまた事実であろう。
「私も存命中に直接お会いすることは叶いませんでしたが、一度くらいはお話ししてみたかったです…。」
彩矢の次に年上である陽菜。鎌府所属なので、一度くらいは会ったことがありそうではあるのだが、残念ながらその機会は永遠に失われてしまった。
(…なんででしょう。この人に親近感が湧いたのは。…私と同じ一般の人だったから?…もし青砥館に来ることがあったら、色々とサービスさせて欲しかったです…。)
色々な感情が渦巻くが、故人を偲ぶという一点は変わらなかった彼女。亡くなってからその人の存在を知るというのも、こういう際にはありがちなものではあった。
「最後は俺らだな。」
「そうだね。」
最後は糸崎と早希が、線香と花を添える。
前述のとおり、先輩が故人になったことで形成された縁というものもある。二人が出会った経緯もまた、それにあたる。本来なら誰も死なないような世界が望ましいのかもしれないが、そんなものは存在しない。誰かが亡くなった人の役割のところへと入っていくことも、しばしばだ。
(嫌な話で、貴方が死ななければ早希とこうして会うことさえ無かったかもしれない。…志半ばで倒れた貴方の分まで、俺達も頑張っていきます。)
(不思議なもので、亡くなった後でも縁というのは形成できるのかもしれませんね…。天国があるならば、其方の方でゆっくりしてらしてください。…現世は、私達で守っていきます。)
こうして、彼一行の先輩の墓参りは一段落ついた。
ある程度線香も燃焼したところで、彼はそれらに水をかける。線香による火災を防ぐためだ。
「来年もまた来ます。…生きろと言った貴方の言葉、不可抗力以外では必ず守っていきます。…ダメな時は、あの世で叱ってください。同じところに逝けるかは分かりませんが…。」
去り際に、墓石に向かってこう語りかけた彼。
墓地から去ろうとした時、ふと後ろに気配を感じたが、当然ながら誰もそこには居なかった。
だが、また前を向いた時、冷たい風が圧倒的で曇りがちの天候であった筈なのに、背中に穏やかな温風が一瞬抜ける。
「どうかしたの?」
「何でもないぞ、彩矢。今追いつく。」
(…降りてきてたのかもしれないな、先輩。さようなら。)
非科学的なものもまた科学的である、なんてことは必ずしも言えないが、少なくとも科学だけでは理解できないものもあるのだろう。
彼は彩矢に追いつき、先輩の眠る墓地を後にする。
ー大阪府某所 □□(先輩の苗字)家ー
その後、毎年墓参りの後に訪れている先輩の実家へと足を運んだ一行。
連絡を事前にしていたこともあり、先輩の家族も上手く応対してくださった。特に先輩の母親は、いつも此方に気を遣ってくださる。
「今年もお世話になります。」
「いえいえ。あの子も、こんな人達に参ってもらえて嬉しい筈よ。小池さんも、毎年ありがとうね。」
「いえ、私達は息子さんの死に目には立ち会えませんでしたから、せめてもの墓参です。」
「…よく出来た同僚さん達ね…。後ろの方々も、狭いですがゆっくりしていってください。」
「「「「お邪魔しま~す。」」」」
六人は、先輩の実家へと足を踏み入れた。
チーン
仏壇に一人ずつ線香を立てていく一行。
毎年、彼と彩矢の二人で来ることが多いのだが、今年は少し前に彼の口から秩父での戦闘と先輩のことを話していたこともあり、葉菜と陽菜、糸崎と早希が加わったのである。ちなみに彼は、先輩をよく知る当時の同僚から話を交換し合ったりして、先輩のことを思い返すこともある。
彼と先輩の母親は、食事をどうするのかで少し話す。
「皆さん、ご飯はどうしますか?」
「ああ、それならまた外で食べていきますから大丈夫ですよ。あまり此方もご迷惑はお掛けしたくありませんから。」
「そうですか…。それじゃあ、飲み物だけでも出させて下さい。」
「…ありがとうございます。ご厚意、受け取らせて頂きます。」
先輩の兄弟は一般の中学・高校に現在通っている。
兄弟の学費の仕送りをしていることを生前話していたことを知る彼は、彼らの成長している姿を写真などで見ながら、立派になっていることも再度知ることが出来た。
先輩に関する様々な話を母親から聞かされながら、一時間程の滞在を経て、六人は先輩の実家を後にする。
ー大阪府某所 某ファミリーレストランー
一行は、無難な食事処として大手チェーン店を選択する。
席位置はなるべく壁側の角席を選んだ。四人席と二人席で分かれ、通路に面した席に彼と彩矢、その向かいに葉菜と陽菜、カップル二人が二人席となった。構図的には、葉菜と彼が真ん中である。
注文を終えて、ドリンクバーなどへ向かって立ち上がる者もいるなか、互いの好みが分かっている糸崎と早希は、糸崎がとっとと飲み物を注いで席に戻ってくる。
彼は二人に話し掛ける。
「注いでくるのが早いな。」
「まあな…。早希、オレンジジュース。」
「ありがとうね。…ブラックコーヒー、お砂糖を入れなくて良かったの?」
「あまり甘ったるいのは好みじゃなくてな。」
「確かに、お前さんら二人のやり取り見てたら、コーヒーに砂糖なんざ要らないだろうしな。」
「いや、それはお前の視点だろ!」
「…まっ、二人が平常運転でいいこっちゃ。俺は他の面々が帰ってきたら取りに行くか。」
「…私達の関係って、そんなに変わったものなのかな…?」
「客観視すると、…おかしくはないと思いたい…。
その後、彩矢達三人が戻ってくる。
席が隣であることもあり、彩矢と少し言葉を交わす。
「お待たせ。君は飲み物を取りに行かなくていいの?」
「いや、彩矢達と入れ替わりで行くつもりだったからな。んじゃ、行ってくらぁ。」
葉菜と陽菜もその入れ違いのタイミングで戻ってくる。葉菜はちょっと驚いたように口を開く。
「あれ?まだ、飲み物を取りに行ってなかったんですね。」
「アイツ、俺らの荷物番してたみたいでな。…全く、お人好しなのも考えようだな。」
「あの人の良さは、そういうところですよ。以前、青砥館が忙しい時に来店されたことがあったのですけれど、ついでと言って私達の仕事を手伝ってくれましたから…。あの時は本当に助かりましたよ。」
陽菜が彼の長所に触れる。
それに触発されたのか、葉菜も思い返すように話す。
「…僕、何度かあの人には助けられているんですよね。任務でも、それ以外でも。一回市街地で荒魂が出た時に、『お前なら出来る!』とか言われて討伐中に急に指揮を任された時は流石に焦りましたけれど、後で特祭隊員の牽制射撃指揮と、自衛隊から依頼されて赤外線誘導ミサイルの
「…やっぱり、無茶をするのは昔から変わってないのね。」
彩矢は少し汗を浮かべながらも、先輩の遺言を自分なりに考えながら行動し続ける、彼の信念の強さを改めて感じるのであった。
立ちついでにトイレに行っていた彼が戻ってくるまでには少し時間があったため、この際彩矢に聞けることは聞いてみようと思った葉菜。
「話は変わりますけれど、あの人から小池さんも以前は刀使だったと聞いていますが、…その、関係とかはどうだったんですか?」
葉菜が秩父での話を彼から聞いて以降、心の内で引っかかっていたこと。…そう、彼の
「う~ん…。」
頭を抱えるように悩ましい顔を見せる彩矢。
「…ちなみに、彼はなんて言ってた?」
「確か、『親友よりの友人兼同志』とか言っていたような…。」
「鈴本さんの言っている通りです…。その発言を聞いた場に私も居ましたから。」
陽菜も葉菜の発言を補強する。
「…はぁ~っ。分かりやすいくらいのアプローチ、かけてたつもりだったんだけどな~。…なんか悔しい。」
「小池さん、
「鈴本さん、顔顔。凄く必死な表情になっているよ。」
「はっ!…す、すみません。」
彩矢からの指摘で、冷静さを取り戻す葉菜。彼女がここまで感情的になるのも珍しいことであった。
「意外と乙女なところもあるのね、鈴本さん。」
「全く、アイツにはもったいないくらいの人達だな。」
二人席のカップルは、彼の預かり知らぬところでこんなことになっていることを、少し喜んでいた。
「…本当に、二人とも早いところ行動を起こせばいいのにな。これだけ好いてくれているのに、気付かないアイツにはキツいお灸を据えてやれよ、とも思うし。」
「糸崎君、鈍感さは慎重さとしても現れていると思うんだよね…。◯◯さん、女難の相が出てないといいけれど。」
リア充組からも今後を心配される彼。…修羅場一歩手前なのは事実ではあるが。
「さて、ホットドリンクとメロンソーダを注いだところで早いところ席に戻るか。」
先ほどまでの彩矢と葉菜のやり取りを知らない彼は、呑気にテーブルへと戻ってくる。
「…なんで葉菜と彩矢はゲッソリしているんだ?」
「それはお前の心の中に聞いてみろ。」
「どういうこと!?」
戻ってきて一発目に、糸崎から無茶苦茶なことを言われる彼。
「彩矢さん、一緒に頑張りましょう…。この鈍過ぎる人を振り向かせられるように…。」
「…うん。同じ目的なら、組むことはお互いメリットになる筈だし、協力するよ。」
彼がトイレに行っていた間に、もう既に二人の共同戦線が張られていた。…ちなみに、女子グループの恐ろしい点は団結するとより強力な力に発展していくことなのだが、その事実に気づくのは比較的後になることを彼は知らない。
「鈴本さん達、なんだか仲良くなったみたいですね…。」
「陽菜ちゃん、友情って案外こんな感じに形成されるのかもしれないね。…まあ、糸崎君が居る私も二人の行動に口を挟める立場ではないけどね。」
陽菜と早希は、彩矢と葉菜の恋路の行方を静観しつつ、飲み物を啜る。
(なんだかんだありますが、少なくとも先輩の守りたかった人達は俺の手の届く範囲では守れているとは思います。…この日常が守り続けられるかどうかは、遠くから見守っていてください。)
彼は、席に座る前に店の窓を見て、そう祈った。
その後、注文していた料理に手を付けつつ、親睦会のように六人の会話は弾んでいくのであった。
縁というのは、過去も現在も未来も全て繋がっているということを忘れてはならない。例え、死した後であっても、である。
ご拝読頂きありがとうございました。
現実でもこうした話はよくあると思いましたので、執筆させていただきました。
次話は真希編へと移ります。
いよいよ春が迫ってきますね。(投稿翌日から三月)
別れと出会いの季節がやってくると共に、自身にとっても今春からは正念場だと考えています。
それでは、また。