今回は番外編の主人公編をお届け致します。
時系列は主人公編『Turning Point』前後編の少し後の頃になります。
冒頭部分に「?」を浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、話としてはキチンと繋がっていますのでご安心ください。
今回、筆者が考える主人公の舞草の所属意義も書いています。
全編に及ぶ話の接点を見出して頂ければと思います。
それでは、どうぞ。
※一部実態と合わせるため、文書を変更しました。(2019/3/30)
ー十数年前 相模湾上ー
ノロの軍事利用・民間利用研究(所謂デュアルユース)を目的として、アメリカ本土へ向けてノロを輸送している一隻の超大型タンカー。スーパータンカーとも称されるこのタイプの船舶は、台風時の荒波にも耐えきれる強度を誇っていた。
日本からの輸送に際し、鎌府高等学校*1の刀使も乗り込み、不測の事態に備えた万全の状態、
しかしその油槽内では、当時まだ解明されていなかったノロの急激なスペクトラム化により、後に引き起こされる全ての因果へのカウントダウンが、音もなく迫っていた。
「後は、本国に無事辿り着けばいいだけなんだがね。」
後にエレンの祖父となるリチャード=フリードマンは、
今回彼がこの船旅に乗り込んだのは、研究者として輸送時のノロの状態を知りたい、というのもあったのは否定出来なかった。勿論、単なる知的好奇心もあったが。
油槽の一部には御刀も置かれており、先端技術の進む米国で更なる研究が出来るとの期待もあった。
そんなことを考えている最中だった。
「な、何これ!」
「身体が、いや霊体が浮いてる!?」
「い、一体何が起こっているんだ!?」
彼の目前でタンカーの警備に当たっていた、鎌府の刀使達がまるで幽体離脱のような感覚を訴え始めた頃だった。
ドドーン!!
船体中央部から激しく吹き上がる、ノロの柱。
当然ながら、垂直方向に一気に負荷が掛かったタンカーの油槽は、船内を激しく暴れ回るノロによりせん断される。建造時の溶接部分に沿って、数十万トンクラスのスーパータンカーは硝子細工のように真っ二つに破断されていく。
フリードマンはノロの噴出と同時に起きた、タンカーの航行に必要な重油の引火により生じた爆発に巻き込まれ、海上に投げ出される。
「あれは……。いや、
眼前の光景に目を疑いながら、ノロのスペクトラム化を経て大荒魂が形成されていく姿を、彼はしがみついた木片と共に漂うなかで、ただ見つめるほかなかった。
本来、暗闇であるはずの海上には、橙色に強く光るノロが海面を照らしていた。
これが大荒魂・タギツヒメの誕生と、相模湾岸大災厄の発災。そして、二十年に及ぶ全ての因果の始まりであった。後に時の政府、特別刀剣類管理局と折神家が真実を隠蔽し、相模湾沿岸部一帯に死傷者約二万人を出す、その僅か数時間前のことだった。
ー現在 長船女学園 研究施設内某部屋ー
「…はっ!……夢、だったのか。」
フリードマンが目を開くと、白いシーツの掛かった布団が彼の体を包んでいた。
自身の記憶がフラッシュバックしたのだろうと思い、目覚めの悪いものだと感じた。
「そう言えば、今日は舞草に加入したいという人間が居ると、朱音様から聞いていたような…。少し早いが、出迎えに行こうか。」
ピンク色のYシャツに下はスーツ、それと普段は着ない白衣を纏い、長船の学長室へと向かう。
「ここが長船女学園か…。なんか、美濃関とはまた違った雰囲気だな。」
そのフリードマンが言っていた舞草への加入者が、美濃関からやってきた彼。
江麻を通して、紗南やフリードマンのもとへと向かうように仕向けられた手紙。
現代的な校舎や建物を横目に、指示された場所まで移動する。
「それにしても、羽島学長から女子校とは聞いていたが、研究者だろうか、白衣の男性の姿も見えるな。…先端技術を扱うとはいえ、結構無機質な建物もあるようだ。」
S装備をはじめとするノロの利用方法を模索する研究は、主にここ長船女学園が中心となって生徒も交えた実証実験が繰り返されているという。
自身が未だに知らないノロや御刀、ひいては珠鋼のことも深く知ることが出来るのかもしれないという、その行動理由も舞草に加入しようと考えた点ではあったため、ここにはどの道来ることになっていただろう、と彼はそう思った。
学長室のある校舎に入場する際、警備員のいる詰所で一旦立ち止まる。
「すみませ~ん。」
「はい。…どちら様でしょうか?」
若干警戒気味の警備員。通常、彼の訪問した今の時間帯は授業中であるため、ここに通う生徒の家族が荷物を届けに来たというのもおかしいと思ったのだろう。
「今日、ここに来るように言われた者なのですが…。ああ、これがそうです。身分証明書代わりになると思うのですが…。」
彼は警備員へ、江麻から渡された封筒内にあった紹介状と、自身の所属する美濃関学院の手帳を差し出す。
「…これなら問題ないですね。どうぞ、中にお入りください。」
「ありがとうございます。」
紹介状と手帳を返却してもらう彼。
「しかし、最近の少年はこうも律儀なのですね。ここにわざわざやってくる人も、そう居ませんから*2。」
「警備員さんが知らないことで、後に騒ぎになられても困りますから。なら、ここに寄る事は最善の手段ですよ。」
「学長室は上の階です。行ってらっしゃい。」
「はい。」
手を振る警備員に、手を振り返して校内へと進む彼。
「学長室は確か…、ああ、ここか。」
校内地図を頼りに目的地にたどり着く彼。
扉をノックする直前、一度深呼吸をする。
「一体、どんな人達なんだろうか。」
江麻からは、紗南のことを『頼りがいのある後輩』とは聞いていたものの、短期間に二つの学長と直接面会するというのもまず無い体験である以上、カチコチになるのも無理はなかった。
コンコン
「失礼致します。美濃関学院から参りました〇〇(彼の苗字)です。」
『おう、来たか。早速入ってくれ。』
そして、学長室に招かれる彼。
部屋に入ると、ソファーに座る白髪で白衣を羽織った中年男性と、丹前(ドテラ)を纏う男勝りな雰囲気を見せる女性が、彼の目に入る。
「はじめまして。美濃関学院中等部一年の〇〇です。真庭学長は…。」
「ああ、私だ。お前が羽島学長の言っていた奴か。」
正確には彼の入学前から知っていたのだが、敢えてそのことは伏せた彼女。
「恐らくそうだと思います。真庭学長が舞草のことを知っている、というような話を羽島学長からは伺っていますが、色々聞いてもよろしいでしょうか。」
「まあ、そのつもりだ。…それと、紹介が遅くなった。そこの男性はリチャード=フリードマン博士。S装備開発の第一人者にして、舞草を立ち上げた設立者の一人だ。」
そう紹介を受けたフリードマンは、ソファーから立ち上がり彼の方へと歩み寄る。
「Mr.〇〇、君のような存在を舞草は歓迎するよ。今後ともよろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」
ガッチリと握手を交わす二人。
「立ちながらもなんだ。座って話そう。…まず、僕ら舞草がなぜ、折神紫と対立しているのかを。」
「お願いします。」
その後、舞草設立の発端の一つとなったフリードマン自身のS装備の研究や、現在確立されている中央集権型のノロ回収システム、そして、あの大災厄で一体何があったのかを紗南からも色々聞かされる彼。
「…俺が調べていたあの時の違和感の理由は、そういうことだったんですね。大荒魂は討ち漏らし、そのまま隠世に潜ってその時のノロもそこに一緒に引っ込められたと。…どおりで大災厄の後、数ヶ月間のうちにノロの保管場の増設がほぼ無かったわけだ。」
「…そこまで調べていたのかい、君は。」
「どうも、白黒ハッキリさせたい性分みたいでして。推測できる範囲はやってみた結果ですよ。それで江ノ島で大荒魂討伐にあたっていた、真庭学長と羽島学長のお二方のご友人は…。」
「一人は今も存命だが、もう一人は数年前に亡くなったよ…。」
「そうですか…。…こう言うのも筋違いかもしれませんが、お悔やみ申し上げます。」
「…ありがとう。」
この言葉で、彼の優しさの一端を感じ取った紗南であった。
しんみりした空気になったところで、フリードマンは彼に問いかける。
「君はなぜ、舞草に入ろうと思ったんだい?単なる興味だけで、自身を危険に晒すことを厭わない人間には、僕はとても見えないんだがね。」
「…勿論、人間には考えの相違がありますから、現在の紫様の体制に不満を持つ人も居るとは思います。この仮初めの平和でもいいじゃないか、という人だって居るでしょう。…でも、相模湾岸大災厄の時の映像や資料を見て思ったんです。『あの時、決死の覚悟で被害を食い止めようとした人々が居たから、今のこの平和な社会がある』とも。…俺は、異常を正常と偽って過ごしていくほど、人間まだ出来上がっていません。自分の感じた違和感を信じて、行動してみようと思ったわけです。」
「我々の行いが正しいとは限らないよ。それでもかい?」
「…権力側が正しい行動を常に行っているとは限りません。現状の刀剣類管理局や折神家には、チェック&バランスの機能がない、極端に言えば独裁体制と同じ構図です。もし折神家、いや紫様が暴走した時に止められる存在が居なければ、その被害を被るのは刀使や伍箇伝の生徒、特別祭祀機動隊、そして何も知らない民間人です。現状はいいかもしれない。だが将来、この平和を保障することなんて誰にも出来ません。なら、敢えて反体制派に付くのは筋が通ると思いませんか?」
「…一理あるね。我々にとっても耳の痛い話でもあるがね。」
この論が成り立つのは、舞草自身がキチンと律せているという前提条件を含んでいるためだ。彼はそこまで言わなかったが、言うまでもないことだと思ったのだろう。
行動には責任が伴うという、その原則を舞草の設立者の眼前で放ったのだから。
「博士、彼は…。」
「朱音様も、とんでもない人材を発掘してくれたものだね。…折神紫の側に取られていたら、此方は痛い損失を得るところだったよ。実にmiracle、奇跡的だよ。」
「?はあ。」
一人納得するフリードマンと、クエスチョンマークを作る紗南。
「あっ、あの…。」
「Mr.○○、時間はあるかい?」
「は、はい。今日は、羽島学長に公欠扱いとして認めてもらっていますので。」
「早速、舞草への所属試験を行わせてもらうよ。」
「分かりました…、えっ!?」
あまりに急なことで、頭が混乱する彼。そのまま、フリードマンに手を掴まれる。
「なに、君ならあっさり通るさ。さあ、行こう!」
「えっ、ちょっ、フリードマンさん!? あーれ~。」
「…行ってしまったな。少し片付けてから、後を追うか。」
一人学長室に残された紗南は、執務机の書類を纏め二人の後を追う。
簡単な筆記試験を経て、長船の研究施設の地下に置かれた素材耐久試験場を少し弄り、即席の射撃場が作られた場に彼の身はあった。
「おかしい…。話を聞くだけのはずだったのに…。」
『射撃試験十秒前、構え!』
「あー。もう、どうにでもなれ!」
遂に投げやりになった彼は、目前の標的を渡された9㎜けん銃で撃ち抜いていく。
「…結構当たっているね。本当に、数回しか銃を扱ったことの無い人間の射撃には見えないがね…。」
彼の射撃動作を見るフリードマン。紗南も遅れて到着する。
「どうですか、彼の様子は。」
「最初の数発以外は、全て当ててきているよ。…今の弾は外したみたいだがね。」
「…本当に数回しか撃ったことのない人間の動作ではないですね。
「これなら、実戦に出しても他の隊員と遜色なく行動できそうだね。」
「…本人がそれを望めば、の話でしょうけれどね。まだ一年ですし、色々な可能性を探ることも必要だとは思います。」
『射撃試験、終了。』
終了のブザー音と共に、ヘッドセットを外す彼。
「これなら、間違いなく合格だろうね。」
「博士もそう思いますか。」
「まあ、最初は馴染ませていくのがいいかもしれないがね。学校生活はまだ始まったばかりだろう。」
若い彼の姿を見ながら、今後どのような道を示していくのかも気になる二人であった。
その後、たまたま所属試験を見ていた舞草のブレーンが彼に声を掛けて、本部に引き抜こうとあれこれ動くのだが、それは後の話である。この数年後、舞草が本格的に行動を起こすのを、彼は知るはずもなかった。
運命の歯車は、少しずつ回り始めていた。
ご拝読頂きありがとうございました。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。
次回は真希編に戻ります。
それでは、また。