今回は『Surgical Strike』の後編になります。
申し訳ございません、今話は最長文量になりました…。(約9,000字程)
もう少し、文章を丁寧に纏められるように頑張ります…。
原宿駅に彼らが着いたところから、話は始まります。
それでは、どうぞ。
ー東京都渋谷区 原宿駅ー
明治神宮前駅で千代田線の電車から降り、構内が繋がっている原宿駅から地上に舞い戻る彼と里奈。
「さて、やっと着いたか。」
「…命を狙われているとは思えないほど、堂々としてるわね。」
「しゃ~ないだろ。狙われている理由が分からない以上、くよくよしている理由もないしな。」
「とはいえ、普段ここに来る時は青砥館に行くか、他の刀使の娘と一緒に、ウィンドウショッピングとかをしにやってくるんだけどねぇ…。」
「意外だな。もうちょっとガサツなイメージがあったんだが。」
「アンタはっ倒すわよ!…近衛隊の代わりに斬り払おうかしら。」
「…悪い…。」
「はあー。…彩矢は、なんでコイツを守るようにあれだけ言ってきたのかしら。」
親友からの約束*1とはいえ、何故だか上野での決意を挫かせられたような気がした里奈。
「ん?彩矢と何かあったのか?」
「…こっちの話よ。で、青砥館に行くんでしょ。」
「ああ。…近衛隊の部隊が俺たちに追いつく前に、取りに行こう。」
「迅移は使う…時じゃないわね。今は。」
「本当にヤバい時の切り札は、最後に取っとくもんだ。ともかく、走るぞ。」
二人は、青砥館を目指して竹下通りを疾走する。
「隊長、本当にここで待ち構えれば来るのでしょうか?」
「どのみち、あの男が本部に戻るには、渋谷で乗り換える必要がある。そこを抑えるわ。」
一方、先回りして銀座線の電車を待つ近衛隊。S装備は、バッテリー稼働時間の三十分を超えないようにするため、移動の時はバイザーとバッテリーを外した状態で追っていた。当然ながら、その分の荷物によって余計に行動が制限されることになる。
そして時間の経過とともに、嫌な予感が頭を過る隊員達。
「隊長、目標は既にここではない場所に向かっているのでは?」
「…さっきのサポートの娘を呼んできてちょうだい。」
「はっ!」
上野公園で撒かれた件と言い、先手を打って渋谷に向かったものの目標が見当たらない件といい、何か不安を感じた実行部隊の隊長。
(…あの男、一体何者なの?)
正確に言えば、周囲の人間も大概なのだがここでは触れない。
「連れてきました!」
「ご苦労。いつでも移動できるように待機して。」
「はっ!」
隊員の刀使は、残りのメンバーに呼集を掛けに行った。
「先程の情報分析、流石だったわ。」
「いえ、タギツヒメ様のためになるのなら私は。」
「そこで悪いのだけれど、もう一度貴女の力を借りさせてちょうだい。」
隠れ鉄オタのサポート要員に、協力を懇願する隊長。
「構いませんよ。それで、何をすればいいんですか?」
「あの男が逃げそうな方向を探ってほしいの。」
「私でよろしければ。…路線図を持ってきてください。」
スマートフォンアプリでは見にくいため、近くのコンビニから東京近郊の地図を買ってくる近衛隊。
(私があの男なら…。)
彼の思考をトレースしようとする少女。
「…恐らく、JR線は使わないでしょう。」
「どうして?」
「我々に襲われる確率が高まりますから。それに、明眼持ちの刀使に見破られる可能性が大きいですからね。」
「そうなると、私鉄か地下鉄ね。」
「私なら地下鉄を選びますね。外からはあまり見えないでしょうから。」
「…我々が追えるのは都内まで。それより先への進行は許可されていないわ。」
「…いっそ、相手の退路を塞ぎますか?」
「妙案でもあるの?」
「鈴本葉菜と山城由依をエサに、あの男を引き摺り出します。」
「…確かに、以前からあの男は懇意にしていたわね。しかも、それなら此方に手出しすることは出来ない。…本人達は連れてこさせるつもり?」
「いえ、ブラフです。ですが、確認の為に現れざるを得ないでしょう。あの男なら。」
「一気に形勢が変わるわね。」
「はい。実行場所は……、ここですね。」
少女が指差したのは原宿駅の西側に広がる、広大な緑地。
「…これだけ広ければ、始末する瞬間がバレることも無いでしょう。」
「貴女、策士ね。…これが終わったら、作戦参謀にでもなれば?」
「タギツヒメ様のためになるのでしたら。」
そして、彼を仕留める位置を定め、実行部隊は再度動き始める。会敵の時は近い。
―東京都渋谷区 青砥館―
陽菜の父である陽司が店主の、刀使御用達の刀専門店。
ここに駆け込めたのは、追跡下のなかで不幸中の幸いであった。
「よお、久しぶりだな。坊主。」
「陽司さんもお元気そうで。」
カウンター付近に居た、中年の職人気質な男性。彼こそが陽司である。
「そっちの嬢ちゃんも久しぶりだな。」
「はい。娘さんには、いつもお世話になってます。」
「そうか。…それは陽菜が聞いたら、喜ぶだろうな。」
娘のことに思いを馳せる陽司。一方、切羽詰まった状況である彼は、単刀直入に陽司に問い掛ける。
「それで陽司さん、例の物は来ましたか?」
「ああ。こっちで勝手に拵えまでしておいたが、良かったか?」
「ありがとうございます。…それと、水沢から何か窺ってます?」
「ああ、ウチは刀一筋だが、まさかこれを坊主に渡すためにこの店に置いておいてくれたぁ、坊主もなかなか慕われてるなぁ。」
「…これって…。」
思わず里奈が口にしたのは、その置いていた物に対してである。
それは御刀に対しての防御試作品の一つ、盾だった。
「…ここまで気を回してくれたのか、水沢は。」
「そういえば、ここで頼みたいことがあるって言っていたのは、これのこと?」
「いや。…しかし、紺色の盾か。珍しいな。」
「なかなか変わった盾じゃないか。」
「俺もそう思いますよ、陽司さん。…最後に、十五分だけ時間と二階を貸してください。」
「いいぜ。店は閉めた方がいいか?」
「いえ、普段通りでお願いします。陽司さんの生活を壊すのは、本意ではないので。」
「わ~った。…無事に戻れるといいな。」
「意地でも戻ります。それに、ここに優秀な刀使の同僚が居ますから。」
「…褒めても何もしないわよ?」
ジト目で此方を見てくる里奈。
「けっ、良い仲じゃねぇか。…上がっていきな。」
陽司は二人を上げ、普段通りの仕事に戻っていった。
二階に上がった二人は、先ほど陽司から受け取った盾と、彼が頼んでいた十手を点検する。
「盾は分解可能か…。ただ、ちょっと重いな。」
「この盾、アンタが頼んだ奴じゃないの?」
「いや、心当たりはないな。…そういや、少し前に糸崎と水沢が、何かコソコソやっていた記憶があるが、それか?」
「…アンタじゃなきゃ、そうじゃないの?で、その盾、材質は何なの?」
「表面は防刃チョッキと同じ材質の複合繊維、中は上から順に炭素繊維、ジュラルミン、超硬合金、そして最新のマグネシウム合金の重ね合わせだな。確かに、これなら御刀に斬られても、突かれてもどうにかなる。」
収納袋も一緒に巻かれていたこともあり、その袋に仕舞ってみるとおかもちのような形になった。
「黒コンテナと一緒に運べそうだな。」
「でも、この盾効果あるのかしら?」
「中島、取り敢えず十手から先に試験してくれ。」
「斬れないかどうかってこと?」
「ああ。写シを張る前、張った後も頼む。それによって、逃げる時に要るか要らないかが分かるからな。」
「分かったわよ。」
十五分という時間はあっさり過ぎたが、青砥館に近衛隊がやってくる気配は、全く無かった。
結論を言うと、どちらも持っていくことにした。
里奈の写シの発動時でも、組み立て式盾、十手共に割られたり、斬られることは無かった。特に組み立て式盾は、重さこそ異なるがライオットシールドと同じように扱えることが分かったため、御刀からの護身具として有効であることが立証された。彼の頼んだ十手も、珠鋼を使っているためか、写シを張った状態の里奈に打ち込まれても折れることはなかった。
このうち組み立て式盾は、この後に大きな活躍を果たすことになるが、二人はまだそれを知らない。
陽司に別れの挨拶をして青砥館を出発する直前、里奈の携帯に着信が入る。
「姫乃からだわ。…もしもし?」
『里奈さん、青砥館には向かえましたか?』
「ええ。隣に居るコイツと一緒に、今ここを離れるところよ。」
『…里奈さん、◯◯(彼の苗字)さんに代わってもらってもいいですか?』
「えっ?いいわよ。」
はい、と携帯を彼女から渡される彼。
「水沢、今代わった。」
『◯◯さん、つい先程本部宛てに電話が入りました。…近衛隊からです。』
「俺に報告するということは、用件は俺宛てだな?」
『はい。内容を簡潔に言えば、◯◯さんを差し出せば鈴本さんと山城さんの身柄を解放する、その場所も指定するとのことでした。』
「よし行くか。」
聞いて秒で解答した彼。それを聞いて慌てる姫乃。
『待ってください!まだ話に続きがあります!』
「…続けてくれ。」
流石に即行動を起こす愚はしなかった彼。一旦、頭を冷やす。
『で、この話が本当なのかどうか確認するために、鈴本さんと山城さんの携帯の位置情報を調べてみました。』
「で、結果は?」
『クロです。間違いなく、向こうは騙し討ちするつもりでした。お二人の位置情報は、現在東京駅から動いていません。』
「…トコトン、俺だけにターゲットを絞っているな。」
『正直、この話には乗らないべきだと思います。はっきり言って、罠です。』
「まあ、そうだな。…だが。」
提案が破綻している以上、相手のテーブルに上がる必要はない。だが、問題はそれだけではなく、なぜ彼が狙われているのか、それを向こうから聞かないことには、この先近衛隊にずっと命を狙われ続ける公算が高い。
「…水沢、相手が指定してきた場所は?」
『……代々木公園です。』
「…めちゃくちゃ至近距離じゃねえか。」
代々木公園は、ここから線路を挟んで反対側にある。…恐らく、此方を最初から誘き出す目的で場所の指定までしたのだろう。
「水沢、代々木公園でケリがついたら、入間基地へ向けて脱出するが、それでいいな?」
『……!◯◯さん、罠だと分かって行くつもりですか!?』
「どの道、彼女達にも俺を狙う理由があるんだろ?…俺も、この先その理由が分からないまま、外もオチオチ出られないみたいな状況なんざ、御免だ。」
既に、葉菜達の件で精神がだいぶ参っているところにこれである。自分を強く保たせてきたが、それも限界に近い。
「まっ、何かありゃ中島も居るし、為せば何とかなるだろうよ。」
「アンタ、安桜さんに毒されたりでもしたの…?…はぁ~。…ま、アンタは言い出したら聞かないし、私も付いて行くわよ。」
彼と行動を共にする選択をする里奈。守る責任を最後まで負う構えだった。
『里奈さん…。』
「姫乃、大丈夫よ。それに、相手の数は分かっているんでしょ?」
『あっ、はい。…代々木公園付近には八人の綾小路の生徒さんの反応があります。うち、六人が刀使だと思われます。』
スペクトラムファインダーから、御刀とノロ・荒魂双方の反応で検索を掛けると、そうなった。
「六対一か…。」
「いや二人だろ?」
「アンタは相手の標的でしょうが!…まあ、そう簡単にやられるとも思ってないけど。」
『…やっぱり、応援の人を向かわせた方がいいのでは…。』
「水沢、寧ろこれはチャンスだ。相手は一般人目掛けて御刀を振り回す危険な集団だと、世間に情報戦を仕掛けられる。俺が生きても死んでもだ。」
『…会話は録音しておいてくださいね。』
「すまない。では、後で。」
最後の会話になるかもしれないのに、彼は姫乃にいつもと変わらない挨拶を返して通話を切る。…死亡フラグを立てない目的もあったからだろうが。
彼は持っていた警棒、青砥館で検査した十手と収納した盾を纏める。準備は整った。
「中島、八幡力を使って、線路を飛び越えてくれ。」
「言われなくとも!」
そして、二人は決戦の地へと向かう。
ー東京都渋谷区 代々木公園ー
作戦を決行して、約四時間。
実行部隊の隊長は、苛立ち始めていた。
「ええい!あの男はまだ来ないの!」
「隊長、落ち着いてください。あの男が絶対に無視できない名前を出したのですから、必ず来ます。」
「ぐぐっ。…何で、あんな男に私は、私達は苦労しなければならないのよぉ!!」
意気揚々と東京駅を出発した時の自分を、ボコボコにしてやりたくなった隊長。一時間以内に終わる簡単な奇襲・暗殺計画だったはずが、最初から躓いた結果、今のように散々攻撃目標に待たされることになろうとは、思いもよらなかった。
そして、園内の一角で隠れていた近衛隊の刀使は、彼と里奈の姿を捉える。
「隊長、ターゲットが来ました。…一人、刀使を連れているみたいです。」
「大丈夫よ。こっちは六人。数や力は上回っているわ。」
「…何か持ってますね。」
「此方への土産物かしら?」
そう言っていると、二人はベンチに座り、何か準備を始める。
「…?展開しているのは盾かしら?」
「馬鹿な男。御刀で斬れないものは無いというのに。」
「ですが、人の目がまだあります。出るのは少し待ちましょう。」
この時に待っていたことが、後々仇になったことを知るのは少し先のことである。
人目も一時的になくなり、近衛隊の実行部隊隊長と副隊長の刀使が、彼と里奈の前に現れる。
「初めまして、近衛隊第五小隊の隊長を務めさせて頂いている者です。」
「私はその副隊長です。」
二人の刀使が彼に挨拶をする。
やはり、冥加刀使になった者はどこか焦点が合っていないように感じたのは、偶然でなかったことに確信を持った彼。
葉菜や由依がここに居ないことを知っていた彼は、長居を避けるため、手短に演技を行う。
「単刀直入に聞こう。鈴本葉菜、山城由依の両者は、今ここに来ているのか?」
「勿論です。」
「何なら、今からお連れして来ましょうか?」
「ああ。…本当に居るなら、五秒で出てこれるだろうがな。」
ワザと相手を挑発するような言動を取った彼。もう既に、ペースを此方に引き込んでいた。
その間、隣に座っていた里奈は、敢えて無言を貫いていた。
(…アイツからのハンドサインはまだね。)
『俺がベンチから立って、近衛隊が不意討ち、もしくは交渉決裂になった時は、左手親指を下に向けて合図を出す。中島が攻撃を察知した時は、その限りではないけどな。』
彼が代々木公園に入る前、里奈に出していた指示。基本、数的不利の場合は防御に徹するのも一つの手段ではある。だが、彼が自衛隊などで学んだのは、戦いにおいて重要なのは『数』だけではない。
近衛隊の刀使が木陰に隠れた隙を突き、姫乃から送られてくる、実行部隊のリアルタイムの位置をスペクトラムファインダーで確認する。当然のことながら、画面は赤く表示されていた。
(後方に二人、前方に四人、少し離れて二人…。離れているのは、サポート要員ね。)
敵の配置も把握し、いつでも御刀を抜ける態勢を取る。…恐らく、事態が動くのは数秒だと思った。
秋風が、二人の背中を吹き抜ける。
その時、戦端は突発的に開かれる。
里奈と、近衛隊の刀使の一人が持つ御刀同士が、大きな金属音を立てぶつかりあう。
「○○××(彼の名前)!覚悟!」
「はあっ‼」
迅移で一気に間合いを詰めて、彼の胴と首を斬り飛ばすつもりだった、近衛隊の刀使。
だが、自身の透覚と明眼を発動させていた里奈に、その攻撃は阻まれる。
「○○!盾、準備して‼」
ベンチに立て掛けておいた、組み立て式の盾を手に取る彼。
打ち合う里奈に、彼は敵の配置を聞く。
「中島、敵の位置は!」
「この娘含めて、ベンチの後方に二人!さっきの奴らの方には四人!あと、補助要員*2が離れて二人!」
「よし!中島!ちょっとだけ時間を稼いでくれ!」
「分かったわ!」
一人に付いた状態の里奈。
運悪く、彼女は二刀流の流派ではないため、二人を一度に相手取ることが出来ず、実質無防備な彼のカバーに入れなかった。
当然、もう一人の刀使が、ベンチの後方から真っ直ぐ彼に向かってくる。
「―くっそ、実戦で刀使とやりあうってのは俺くらいなもんか。…やるしかないな。」
見たところ、姫和の流派である
「迎撃は無理…、スタンバトン持ってくりゃよかったな…。―なら。」
そう思った彼は、取っ手の持つ手を右から左に変え、右手を盾の縁に添える。
(――少し動きを変えた?)
一方、ツーマンセルで事に当たろうとしていた突き技を繰り出している刀使。ペアを組んでいたもう一人が、先走って襲撃をかけたため、なし崩し的に戦闘に突入してしまったのだ。
やむなく、標的である彼の首を取ろうと動いたのだが、その相手は中腰で1m超の盾を展開している。
(―よし、このまま盾諸とも、串刺しにしてやる!)
東京駅を出る際に、研いでもらっていたこともあり、切れ味は抜群であった。普通のジュラルミン盾やライオットシールドなら、御刀は貫通するはずであった。
そう、
御刀と盾が接触する、その零コンマ数秒。
盾は僅かに斜めへ傾けられる。
(―なっ‼)
彼は、相手の突き技を利用して、その御刀の切っ先を盾に沿って
来るであろう衝撃に備えていた刀使の驚いた表情は見えたが、丁度彼女の背中が彼の左隣を通過。一瞬、足が地面から浮いていたその隙を、彼は見逃さなかった。
「ふん‼」
そのまま、彼は盾をその刀使目掛けて、力いっぱい突き当てる。
「がはっ‼」
腹部にハンマーで殴られたような衝撃を受け、刀使は意識を失って写シが自動解除される。
そのまま地面を滑走し、数mほど進んで横倒しになる。御刀も、手から離れていた。
「せい!」
里奈の方も襲ってきた刀使を斬り、相手の写シを剥がす。
これにより、実行部隊の刀使は一部の戦力を無力化される。
「考えたわね。突かれる前に、突かれないようにするなんて。」
「御刀で斬れないものはない。なら、斬れないくらい極限まで摩擦をゼロにすればいい。そういう発想だったんだな。…水沢と糸崎のおかげで、首は繋がったままだ。それよりも…。」
前方に展開する、近衛隊の残りの刀使。
彼と里奈の足元に横たわる二人の刀使は、既に戦闘不能だ。
「軍事において三割は撤退基準だが…。奴さん達は退く気も無さそうだ。」
「でも、こっちが勝てそうね。音を聞いて、人が来始めてる。」
「俺らも退き際だな。…ただ、去る前に狙う理由は聞いておきたい。」
対峙する近衛隊の隊長に、声を掛ける。
「隊長さん!葉菜や由依の姿は見えない上に、いきなりアンタ達のお仲間が急襲してきたんだが、本当の目的は俺の命だろ!」
「…くっ!」
図星とでも言いたげな、実行部隊の隊長。
「俺の命を狙う理由は何だ!」
彼も直球で、理由を聞き出そうとする。
「○○!お前は、タギツヒメ様の計画にとって邪魔な存在だ!維新派以外の刀使を支えるお前は、彼女達の精神面にも多大な影響を与える!その存在を消してしまえば、奴らの戦意の喪失も不可能ではない!」
確かに、対刀使用の装備を考えているという点でも脅威だが、本部側の彼女達を守ろうと動いている姿が、近衛隊の一部からすればそこが本部側のアキレス腱であり、ウィークポイントであると考えていた。
彼のことを知っていた近衛隊の人間も居た*3ため、敵陣に居るには厄介な相手だとも聞いていたのだ。
「……ざっけんじゃないわよ。」
「なに?」
「ふざけんな!アンタ達、なんでコイツが刀使の娘達のために動いているのか、分からないの‼」
「我々の知ったことか‼」
洗脳状態の相手に、理性的な言葉は通用しなかった。
「…中島、もういい。逃げるぞ。」
「でも。」
「……今は戦う時じゃない。彼女達も、タギツヒメの被害者だ。」
「…分かった。」
撤退準備に入る二人。
「逃がすか!」
そうはさせぬと、近衛隊は二人に迫る。
二人の10m手前で、彼から何かが投げられる。
ボン‼
地面に向かって投げられたのは、煙幕弾。
白く包まれていた近衛隊の視界が再び開けた時には、彼と里奈の姿はなかった。
「くっそぉぉおーー‼」
見事に目標に逃げられた近衛隊の隊長は、悔しそうな雄叫びを上げた。
その後、人垣ができ始めていたため、実行部隊は仕方なく代々木公園から撤収した。
近衛隊から逃れた二人は原宿駅に戻り、再び明治神宮前駅から西武池袋線直通の飯能行き快速急行電車、Fライナーへ駆け込む。
西武池袋線内で乗り換えが一回必要になるが、姫乃に言った目的地の航空自衛隊入間基地の最寄駅、稲荷山公園駅までは停車駅もあまり無い。
「はあ、はあ…。…撒けたか?」
「どうやら、そうみたい…。あとは新宿三丁目を警戒するくらいね。」
「Fライナーは最速達列車だからな。…まあ、負傷者を置き去りには出来ないだろう。いくらタギツヒメに操られているとはいえ、近衛隊もそんなことは出来まい。」
「…自分の命を狙っている相手も、気に掛けるのね。」
「中島、さっきはありがとうな。」
「アンタに死なれたら、彩矢に顔向けできないもの。」
親友の約束を、どうにか守りきった彼女。
礼を彼から言われた際に、若干頬を染めていたのは気にはなったが。
「…だが、次に彼女達と遭遇する時は、この程度ではいかないだろうな。…助けられるのか、俺は。」
「…大丈夫よ。近衛隊になった綾小路の人を助けたいと思っているのは、アンタ一人だけじゃないわよ。それに、さっきの相手にキッチリお返ししなきゃ、私の気が済まないしね。」
「程々にな。」
彼女に苦笑しながらも、トンネル内の照明を目で追う彼。
その後に近衛隊からの襲撃はなく、都内から脱出した彼と里奈は、無事に目的地である航空自衛隊入間基地に辿り着く。
「本部から、ヘリコプターが来るまで格納庫近くで待っててくれってさ。」
「結構心配かけちまったな。…ここまで来たら実家に立ち寄りたかったが、また今度だな。」
「今押しかけたら、それこそ大変よ。」
「そうだな。…なあ、中島。」
「なに?」
「彩矢と、何か約束でもしていたのか?」
「―それは、女同士の秘密よ。」
敢えて、彼女は親友と交わした約束を彼に明かすことはしなかった。
ちなみに、渋々東京駅に戻った実行部隊は、葉菜や由依などから抗議を受けることになるが、二人はそれを知る由もない。
夕陽も沈みかけ、暗闇が場を支配しようとしていた。
太陽は必ず沈み、夜が来る。だが、どんなに暗くとも陽はまた昇る。
困難や絶望は、いずれ乗り越えることができる。そう彼は信じるしかなかった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
今回で一旦、番外編は終わります。
次回は可奈美編になります。
…可奈美編の前回投稿が五ヶ月前という恐怖。(;゚д゚)
感想やツッコミ等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告にご投稿頂ければと思います。
それでは、また。