投稿前日(執筆当時)は可奈美役の中の人(本渡さん)の誕生日だったそうで、刀使ノ巫女への熱意を落とさず強く放ち続けていることを、刀使ファンの一人として凄いの一言では言い尽くせないものを感じさせられております。
戻りまして今回は番外編として主人公編、その前編をお送りいたします。なお、今回から章表記を主人公編として変更致しております。
時系列は近衛隊結成前後の頃となります。
アニメ17・18話やとじとものメインストーリーともリンクしてくる内容です。
今話は、とじともの綾小路のサポートメンバー達とのやりとりが中心となります。
…タイトルから、今話の内容の方はご想像ください。
それでは、どうぞ。
ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー
タギツヒメによる防衛省本庁舎への襲撃からしばらく。
彼や彼の同僚たちは、負傷した刀使達のリストアップや部隊再編による補充要員の確保などに追われていた。もし、第二波の攻撃を受ければ、タキリヒメを守り切ることなど不可能になるかもしれない。その予測が容易についた彼や作戦参謀本部もまた、準備を急いでいたのだ。迫りくる危機から、多くの人々を救うために。
だが、その努力を根底から破壊しかねない事態は、彼の知らないところで既に進行していた。
その最初の異常事態に彼が遭遇したのは、残業のためデスクワークをこなしていた時だった。
他の同僚も残る中で、彼の業務用携帯から着信音が鳴り響いた。
「…ん?こんな時間に一体…。」
極端に遅い時間というわけではなかったのだが、一般的な業務時間からは既に何時間も経過したあとだったため、彼は不審に思う。その画面に表示された名前を見て、一瞬考えこんだ。
「…『蓮井麻由美』?―あー、思い出した。葉菜の後輩か。」
「はい、もしもし。」
『あっ、繋がりました!○○(彼の苗字)さんの連絡先で間違いありませんか?』
何やら、緊迫した様子で電話をする麻由美。状況が分からない彼は、取り敢えず普段通りの対応を取る。
「ああ、そうだが。」
『お願いです!助けてください!』
「…?どうした、イジメにでも遭ったのか?」
彼はこの発言を後悔した。次に飛び出した彼女の言葉が、そんな想像を遥かに吹き飛ばすようなものであったことを。
『違います!もっと深刻な事態です!―外を歩いていた他の生徒達が斬られました!!』
「―はあっ!?ちょ、ちょっと待て。蓮井、この電話は絶対に切るんじゃねえぞ!」
『あっ、はい!』
「それと、御刀は抜刀した状態で、かつ安全を確保した上で話し続けてくれ!」
『りょ、了解致しました!』
電話口からは、少しドタバタとした音が続く。彼の指示のもと、安全な場所を探しているのだろう。
彼が電話を切るなと言ったのは、通話中であれば彼女の安否が確実に分かるからだ。
麻由美が安全を確保するまでの間、彼はジェスチャーを使い、室内にいた三人の同僚にそれぞれ指示を出す。
誠司は録音用機材を準備し、姫乃はそれをパソコンに繋いで音響データの収集準備を行い、里奈は通話内容のメモを取る準備を進める。この辺りは長い付き合いなのか、阿吽の呼吸で上手くコトが運んだ。
通話中のスマートフォンを録音用機材にセットし終えると、ほぼ同時に麻由美の声が入る。
『○○さん、ご指示のとおりに動きました。』
「それで、…順を追って説明してくれ。まず、生徒が斬られたところから頼む。」
『は、はいっ!それでは、説明させていただきます。』
そこから、麻由美の目撃した、綾小路の生徒達の惨事が語られていく。
いつも通り、鍛錬を終えて一足早く学生寮の方へと戻っていた彼女は、御刀を帯刀した状態のまま、学生寮の二階へと上がっていた。一部がテラスのように張り出した構造のところから、紙コップに淹れたお茶を飲みつつ、彼女と同じように鍛錬を終えた後続の刀使達を見ていた。彼女がテラスへと向かった理由は、何となく夜空を見たくなったからだった。周囲は暗かったものの、建物の明かりなどで人の顔が判別できる程度には敷地内は明るかった。
そして一瞬、彼女たちから麻由美が目を離した途端、惨劇が起こる。
『…一瞬でした。中には悲鳴を上げる娘もいましたが、あっという間にその声すら掻き消えてしまいました。…私は、声を抑えることしか、できませんでした……。先輩や後輩たちを、同級生さえ、私は…。…見殺しにしたようなものです。』
「…いや、蓮井の行動は間違っていなかった。仮に突っ込んで行ったところで、二次被害が増える可能性だってある。動かず留まったのは、危機管理の判断としては正しいよ。」
『…そういう、ものなのでしょうか。』
「ともかく、今は落ち着け。冷静さを欠いたら、お前も危ない。」
『はっ、はい。』
「それで、その後は。」
『しばらくして相楽学長が飛び込んできたあと、襲った人が何かを言い合った後に立ち去っていきました。…なので、今襲った人がどこにいるかは、分かりません。』
「……それで、生徒達を襲った人物は分かるか。」
そう彼が訊いた時、麻由美は何か言い淀むような、唸るように口を開いた。
『―元親衛隊第三席、皐月夜見さんです。』
その瞬間、彼は信じられないといったような表情を、同僚たちへ見せた。
「ほっ、本当かそれは!?」
『私にさえ、皐月さんがなぜあんな凶行に走ったのか、分かりませんよ!!』
「…見間違えということは。」
『綾小路の白い制服ではなく、元親衛隊の制服で、かつ白色と黒色の髪をした方はあの人しかいません!私も刀使の端くれですから、有名な方の容姿くらいは分かります!』
「…分かった。今のところ、麻由美は無事なんだな?」
『はい。……本当に今のところは、ですが。』
「斬られた生徒達は、今どうなっている?」
『相楽学長の指示なのか、衛生科の方達が続々と搬送しています。…ただ、遠目から見る限りでは多くの人が深手を負っているようです。』
「そうか。…蓮井、今から俺の本部権限で指示を出す。学長命令は無視して構わん。」
『わ、分かりました。…それで、その指示とは。』
「―高等部三年の
『…?なぜ、そのお二人の先輩と共に、それも公共交通機関を利用してとは?』
彼の言葉に麻由美は疑問符が付いた。
「その理由は今から説明する。」
そして、彼に救援を求めた刀使を脱出させるべく、話を進める。
麻由美は移動しながら、奈緒と綿花の二人を探す。御刀は一旦、下ろした状態で走る。
「蓮井、先に一つ確認だが、浦賀と水科の二人の刀使とは面識があるか?」
『あっ、はい。お二人共、お話しはしたことがあります。』
「なら、大丈夫だな。二人には俺から指示を受けたと言えば、すぐに分かるはずだ。」
『…何か取り決めでもしていらしたのですか?』
「最悪を想定して動くのが俺の信条だからな。二人がまだ無事なら、この先何があっても綾小路の生徒はどうにかなるはずだ。二人とも刀使としての実力は高いし。」
『鈴本先輩と木寅ミルヤ先輩は、一緒でなくて良いのですか?』
「むしろ今、これ以上纏まって動く方が危険だ。五~六人で纏まっていたら、それこそ何かあった時に残存ができない。…それに、恐らくこれは俺の勘だが、調査隊の葉菜とミルヤは、由依も連れて綾小路を脱出しようと行動しているはずだ。俺はその可能性に賭ける。」
『ですが、相手は親衛隊を務められたほどの実力者の方ですよ!そんな方ともし対峙することになったら、私のような刀使ではとても太刀打ちできませんよ!』
「……無茶苦茶を言っていることは理解している。…本当にすまない。だが、こっちの掴んでいる情報が正しければ、どのみち綾小路に居ては危険だ。特に刀使はかなり危ない。」
彼もまた、鬼気迫る表情を浮かべつつ、麻由美に言葉を返す。
『なぜですか?』
「近衛隊の話は、もう聞いているのか?」
『ああ、はい。小耳に挟む程度にはですけれども。』
「その近衛隊、下手をすると破防法*1対象の団体に指定されかねないぞ。…本当だったら綾小路の刀使達を本部に呼び寄せるとかしたかったんだが、もう時間がない。蓮井達だけでも逃がす!」
『―通話を切ってはダメなんですよね?』
「ああ!少なくとも、京都を脱出するまでは絶対に切るな!」
『はいっ!―あっ、水科先輩、浦賀先輩!』
どうやら彼女は、たまたま二人が一緒にいたタイミングで見つけたようである。
「周辺の状況を確認して、二人の安全が保たれていることを確認してくれ!」
『了解です。……大丈夫そうです。』
「分かった、すぐに浦賀に代わってくれ。」
『分かりました。浦賀先輩、本部の○○さんです。』
よく状況が掴めない奈緒と綿花は、取り敢えず彼からの電話を受け取る。
『もしもし~。どうしたん、後輩からいきなり代われなんて。』
「浦賀、端的に話す。『本部と伍箇伝の非常時における行動』が発動段階になった。すぐに、そこの三人で綾小路、いや京都を脱出して平城に向かってくれ。」
『…!?―さっきの騒ぎと関係があるってこと?』
「ああ。ともかく、時間がない。急いでくれ。」
『分かったわよ。そん代わり、無事にそっちに着いたら色々説明してもらうからねぇ。』
「お手柔らかに頼む。それと、綿花*2に代わってもらえるか?」
『え、うん。ええよ。ほい、綿花ちゃん。』
『もしもし、お久しぶりです。水科です。』
「水科、さっきの言葉どおりだ。すぐに御刀と身分証、最低限度の貴重品を持って綾小路を離れろ。」
『あ、はい。』
「それと、本部の絹香は無事だ。一時的に、絹香の身はウチの部署で預かるから安心してくれ。」
『―!!…ありがとうございます。お姉ちゃんを、よろしくお願いします。』
「ああ。絶対に本部まで来い。絹香に元気な姿を見せてやれ!」
『はいっ!』
「すまん、水科。蓮井に携帯を戻してくれ。」
『はい。蓮井さん、○○さんから。』
『はい!今また、代わりました!』
再び、はきはきした麻由美の声が電話口から聞こえる。
「今、携帯の充電はどれくらい残っている?」
『あと…、70%くらいですね。』
「通話は切らないまま、荷物をとっとと纏めて脱出してくれ。」
『了解しました!お姉様方、急ぎましょう!』
『あいよ。』
『うん!』
そして、三人が駆け出す音が続いた。
通話は繋いだままなので、三人がどのような行動を取っているのかは音で何となく分かるのだが、微かに聞こえる会話までは、彼らの耳で捉えることは難しかった。
そんななか、誠司が彼に対して疑問をぶつける。
「…それにしても、○○。どうして、蓮井に強く公共交通機関の利用を勧めたんだ?」
「ぶっちゃけ、もし夜見が単独で生徒を斬りつけたのなら、下手に目につく場所で襲撃を起こすとはとても思えないんだ。まして、不特定多数が一緒の空間であるなら尚更。こんな言い方も嫌だが、『人波の壁』に紛れる方が単独で市街地を逃げるよりもよほど安全だ。まして京都は、大都市だろ?」
「…なるほどなあ。ホント、お前は嫌な方向には頭が回るもんだな。それに助けられていることも事実なんだが。」
苦笑いをする誠司。それに代わって、里奈も口を開いた。内容そのものは懸念のほうではあったが。
「でもさあ、それって皐月さんがもし『綾小路の刀使』のみ狙うんだったら、あまり有効な手ではないわよ?」
「ま、中島の意見も最もだ。…だが蓮井達の生存確率を上げるには、正直この短時間ではこれ以外の方法は浮かばなかったのが本音だ。」
「…いつものこととはいえ、アンタが目の前で困っている人に躊躇せず手を差し伸べようとする、その姿勢は見習いたいものね。」
「…中島。ありがとう。」
この提案が正解なのかは彼には分からない。それに、今進行している事態が深刻であるなら、葉菜やミルヤ達に連絡を今入れるわけにはいかなかった。通話に取られた僅かな瞬間で、彼女達の運命が決まってしまうのならば尚更だった。
もどかしさはありつつも、助けを求めた刀使達の動向を気にかけ続けていた。
「○○さん、今通話されている蓮井さん達のスペクトラムファインダーの位置情報を特定できました。」
「水沢、前のモニターに出せるか?」
「ちょっと待ってくださいね。…これでいいはずですが。」
表示されたのは、京都市街を移動するリアルタイムの三人の位置情報だった。移動速度的には、恐らくタクシーを利用しているのだろう。
「このパソコンで追えるのはこの三人までです。…他の方の情報までは、ここにあるパソコンでは処理しきれませんでした。」
「いや、十分だ。ありがとう、水沢。これでオペレートしやすくなる。」
「今逃げるのに大変なお三方に比べたら、私なんて全然ですよ。」
取り敢えず、目下の彼の部署の方針としては、この三人の刀使達を平城学館、そして本部へと辿り着かせることを第一目標に切り替えた。今日は他の書類作業があらかた済んでいたことや、事前に残業を覚悟していたこともあって業務上の問題はなかった。
現状で手の空いていた里奈が、内線で作戦指揮室に一報を入れてバックアップの要請を行った。
本部長の紗南はそれを聞いて天を仰いだそうだが、刀使に危険が迫っている以上は協力の方を惜しまなかったという。
そして、彼や姫乃の指示のもとで少しずつ綾小路から公共交通機関を乗り継ぎつつ離れていき、京都駅方面へと三人は進んでいく。
ー近鉄京都線 京都駅ー
綾小路と平城の刀使達が模擬戦などを行う時によく利用している、近鉄京都線。
電車によっては奈良に直通するものもあるため、平城へと真っ直ぐ向かい、かつ速さが求められる公共交通機関となればこの路線に限られる。
麻由美達は、停まっていた近鉄特急の車両へと急ぐ。
「よかった!先輩達、近鉄奈良行きの特急があります!」
「気を抜くにはまだ早いわよ~。彼の言っていたとおり、平城に着くまでが勝負なんだから。」
「それに、まだ京都から離れられたわけじゃないから、○○さんの指示通りに動きましょう。」
「はっ、はい!冷静さを欠かないとは流石です、お姉様方!やっぱり綾小路には、素晴らしい先輩たちばかりで誇らしいです!」
「何を言っているのよ。今度は、貴女がその先輩になっていくんだから。ね?」
「まったく、後輩の扱いが上手いんですから。浦賀先輩は。…お姉ちゃん、待っててね。」
そうこう言ううちに、三人の乗る近鉄奈良行きの特急電車が京都を離れる。
幸運なことに、彼女達に追手はやって来なかった。夜遅くに近鉄奈良駅へ降り立った時の三人は、つい緊張の糸が解れてしまい、ホーム上でへたり込んでしまった。幸い、彼の連絡を受けていたいろはの指示のもと、平城の生徒・刀使が迎えに駆け付けたことで、三人は誰一人として欠けることなく平城に辿り着いた。
そしてその後、彼女達はいろはや他の平城学館の生徒達の鎌倉移動と同時に、本部の彼の部署預かりで一時保護される運びとなった。
その鎌倉に着いた際に、綿花は姉の絹香からかなりの時間を拘束されることになったが、彼女自身はそのことをまんざら悪そうには思っていなかったという。
辛くもこの三人は彼の指示のもと、更なる難を逃れて綾小路から脱出することができた。このほか、彼と事前に面識のあった刀使のうち、他の討伐任務に出ていたことで刃傷沙汰に巻き込まれず、身の無事が確認できた
これはその、依頼を頼み込んだ時の彼と彼女の会話である。
「仲野、本当に申し訳ない。…伍箇伝が分裂状態のなかで、話が通じる人間が多くないというのも分かっている。だが、だからこそお前の力を借りたい。万一のことで綾小路が孤立しないために。」
『そんなガッカリせんでくださいな。…あんさんのことは皆さんから聞いてはります。だから、私に遠慮せんといてください。それに、近衛隊の話は私も看過できへんことと存じております。私の情報で本部の方達が助かるならば、幾らでも協力しはります。』
「ありがとう。仲野。…気を付けてな。」
『…ご忠告、おおきに。』
「短歌を返してやりたいところだが、生憎今浮かばんもんでな。今度、元気な姿を見せた時に返歌をさせてくれ。」
『ふふふっ。やっぱりあんさんは、律儀な方どすなあ。…ほな、私も頑張りますわ。』
「どうか、ご無事で。」
『お気遣い、感謝致します~。では、また~。』
この時彼が依頼した記録である、彼女が綾小路の内情を本部へと送り続けた『仲野レポート』は、混乱を極めていた時の伍箇伝の貴重な情報として後世に残るものとなった。必ずと言っていいほど、レポートごとの締めの一文には和歌や短歌が挟まれていたことから、別名『綾小路和歌集』とまで言われるほどに書き方に特徴があった。誤解されそうだが、レポート内容そのものはキチンとしたものである。
このように二次被害を逃れた刀使や少女達がいた一方で、この後に騒動の中心に引きずり込まれていった綾小路の生徒も数多く存在した。…つまり、彼が救うことさえできなかった者達のことでもある。
彼はこの事実を、タギツヒメと近衛隊による二度目の襲撃の後に、それを現実として突きつけられることとなった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
一般人である主人公が、精神的なダメージを最も大きなものとして受けることになったのが、今回の話となります。
この話は一話ガッツリ割いてやる、というような予定はありませんでしたが、後々書く話の前段階として必要になりそうだと判断し、執筆した次第です。
次回は後編となります。
それでは、また。