刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。
本日(投稿当時)はポッキーの日ですね。

前回に引き続き、主人公編をお送りいたします。
今回は後編となります。彼の独白に前編登場の二人が突っ込んでいく、という話の流れです。…トータル200話目はこれで良かったのだろうか…。(本編200話目は次回となります。)

それでは、どうぞ。


⑫ 舞草での立ち位置 後編

 ー刀剣類管理局 官舎内某室ー

 

 現部署のできたての頃を話していた彼。いよいよ、舞草としての動きにも触れていく。

 

「二人も知ってのとおり、ウチの糸崎と、鎌府の刀使である三原は舞草の人間であり、周囲を気にしないほどの親密な関係だ。そんなこともあって、まさか工作活動に従事しているとは俺も考えていなかったからな。」

「…で、お前はその二人のことをどうやって知ったんだ?」

「同士討ちしかけた時に、初めて。」

「「……は?」」

「え、いや同士討ち。」

 

 葉菜も薫も、お前は何を言っているんだ、といった呆気にとられた表情で此方を見る。そんな顔を向けられてもそれが事実なのだから、どう返せばいいのか若干反応に戸惑う。

 

「…その時は色々とあってな。それ以降、相討ちを防ぐために舞草での情報共有は定期的にやったさ。…まあ、その辺のメールとかを辿られたことで、その後に舞草の多くの人間が身動きとれなくなる結果になっちまったのは皮肉なもんだが。」

「それで、糸崎さんと中島さんと知り合って以降、君はずっと今みたいなことをやっているのかい?」

「ちょっとずつ業務範囲を広げていくような形だったけどな。当時はまだ水沢が来る前の頃だったし、事務作業が中心だったんだ。そこから、色んな部署との関係を築いていって、伍箇伝各校の内部で処理しきれなかった相談やら、新型の試作装備の機能実験に関わることになったとか、だいたいそんな次第だ。今じゃ、荒魂討伐時のピンチヒッターだったり、先行派遣部隊として送り込まれることもあるけどな。」

「…どおりで、お前の部署と全然繋がりのなさそうなところからでも声が掛かると思ったら、そういうわけか。」

「新しくできたからこそ、何のしがらみもないし先入観もない。水沢が来る前から話し先への理解を深めるために、当時でも情報を仕入れたりしたことで相手に沿った話とかがしやすかったからな。おかげで、その伝手が今でも活きてくるわけだ。」

「なるほど…。」

「で、恋愛相談とかも受け入れるようになってからは、主に女子生徒からの追跡調査を依頼されるようになったな。ちょうど水沢が入ってくる直前には、それに関連して刃傷沙汰に発展したケースにも巻き込まれた*1し。…あん時ほど恋愛に無縁で良かったと思ったことはねぇな。恋愛に恐怖感を抱いたのも、思えばこの頃なのかもな。」

「…まさかとは思うけれど、君が色恋沙汰にあまり触れたがらないのは、そのときの経験なのかい?」

「……ノーコメント。」

 

 彼は渋面を作ってごまかしたが、葉菜はこの時に何かあったのだろうと悟った。

 

「この騒動の直後に、水沢はウチの部署へやってきた。最初はかなり戸惑っていたみたいだったが、腹を括って以降はメキメキその才覚を発揮していったさ。…まあ、水沢は俺と糸崎が舞草の人間であることを、明かすそれよりも前に知っていたみたいだったけどな。」

「それっておま、諜報員じゃなかったのか!?」

「葉菜ほど真面目な人間じゃなかったからな。だいたい、もし発覚したとしてもそのリスクヘッジくらい計算はしているさ。刺し違えるくらいの気持ちでなきゃやらねぇよ。…最も、水沢は特に言うこともなく去年まできたけどな。何でバラさなかったのかは、俺にもよく分からんが。」

「水沢さんのことは、舞草としての君の方でも調べたのかい?」

「もとは一般の学生だったし、別に旧体制派の人間じゃないことくらいはすぐに分かったさ。身元、思想信条も特に変な項目も無かったしな。」

「んで、今じゃお前のところの一番弟子みたいな扱いか。」

「彼女の場合は情報、特にIT技術の面で強みを持っていたけどな。今は基本その辺の技術はもう全部任せている感じだ。」

 

 彼の部署が少数精鋭ながらも今までやってこられたのは、姫乃の存在も大きな要因であった。死地に何度か赴くことがあったにせよ、彼や里奈などが無事に帰ってこられたのは、彼女の情報収集能力に依るところが多々あった。

 朱音を局長とした現体制で、姫乃は兼務責任者として情報部隊の編成・育成にあたった。舞草・旧体制派の情報統合を進める中で、情報部隊の面々の余計なプライドをへし折るように仕向け、育て上げたことは彼女への一定の評価に繋がっている。

 それと、彼は知らなかったが、常駐部隊の三人のなかで、姫乃が最も彼からの教えを受け入れていた。これもあって、自分で考える力と刀使や後方支援要員への気遣い、荒魂への理解を進めたことで、仮に彼が去っても大丈夫なほどに彼女の力は養われていた。最も、姫乃自身はまだ彼には部署にいてもらいたいと思っている節があるようだったが。

 

 

 

 

 

 

 薫が来て、四杯目の緑茶を口に含む彼。他の二人もそこそこ飲みはするのだが、それでもなお彼の飲む量は多かった。

 

「舞草の諜報員としては、基本は連絡要員として舞草の里に行ったりとか、鎌府や刀剣類管理局本部、あるいは特祭隊本部での情報収集、あとは不審な動きが無いかを探ったり、というのが多かったな。当時の親衛隊のノロアンプル投与の証拠も、あと一息のところまではいけたんだがなぁ…。…ものの見事に姫和が真正面からぶっ壊していったなぁ…。」

「そういえば舞草の他の人から聞いた話だけど、君は今、紫様の派閥の人間や他の舞草の派閥との調整役を担っているってきいたんだけれど、それは本当かい?」

「ああ。朱音様やフリードマン博士との繋がりもあって、かつ刀使やサポートをする仲間達に話を通しやすいって理由で、俺も巻き込まれた。…事実っちゃ事実なんだがなぁ…。」

 

 不満げな顔をする彼。

 

「わざわざな、自分からスパイ止めますって言ったにも関わらず、そんな人間を調整役に回すのはまずいだろ、とは思うんだがなあ…。常々、変な反感買いかねなさそうで怖いな。ああ。」

「オレやエレンはともかく、他の刀使の奴らに素性を明かして、本当によかったのか?お前自身は。」

「まあ、な。俺自身が諜報活動をわざわざする必要性もなくなったし、前からいてあまりにも古い人間はとっとと離れるべきだろ?結果として、本部のあの職場で動き続けることにはなったけどさあ。」

「…スパイ活動をしなくてもいい環境にはなった、とは言えるか。お前自身、舞草の主流派である以上は変な動きをする必要性もないしな。」

 

 諜報活動を終えたあとは、舞草での活動は最低限度にまで下げている。とはいえ、現状は刀剣類管理局がほぼほぼ舞草の人間で組まれている以上、あんまり負担が減った気はしていない。

 それでも、頼られることを悪いとは思っていない。基本的に他人とは分け隔てなく接しようと努力するので、あまり悪く言われることも少ないのだ。勿論、初対面の時にはきつく当たられることだってあったが。

 

「思い返せば、僕が初めて君と出会った時は、『頼りなさそうな人だな』なんて印象を抱いてしまったことを今となっては恥じているよ。…舞草の人間とは悟らせないほどの指揮能力を、あの時に見せつけられましたし。」

「…まあ、当時の葉菜が疑うのも無理はなかったさ。第一、年下でも計略に特化している人間なんてごまんといる。諜報活動を行うのにその年上の人間が頼りなかったら、排除するなり、不安に駆られたりするのは自然な話だ。」

「……でも、君は僕達がどんな目に遭っていても、見捨てることは絶対にしなかった。鎌倉のあの夜も、僕や由依達が近衛隊に加わった時もそう。…どうして、そこまで他人のために自分を犠牲にしてまで行動できたのか、僕には難しい感情だよ。」

「別に、葉菜達だけじゃないさ。薫や可奈美達だってそう、調査隊の人間だってそう、後ろで支えて回る奴らだって、俺にとっては守りたい存在なんだよ。舞草の人間だろうが、そうでなかろうが、な?」

 

 彼自身、必ずしも舞草の方針に対して心酔しきっているわけでもない。これは加入してからずっと、どこかしらで一定の距離感を置こうとする。朱音やフリードマンの話をよく聞いたうえでこそ、自分なりの考えを導き出しているのだ。

 その考えの結論こそ、敵味方に関係なく、助けの手を差し伸べることに躊躇わないことだと。勝手に助けに向かうこともあるが、そこはあくまで自分の意思だ。独善的と言われるだろうが、目前で命を落とすような事態を見過ごせるようなほど、彼は大人ではなかった。

 

「諜報活動に従事してもなお、旧体制派、とここでは置くか、彼ら彼女らの意見交換は欠かさなかった。勿論、ノロドーピングこと冥加刀使計画には、全容が判った時点で俺個人は全面的に反対だったけどな。…結芽や夜見のケースもあることは、俺も理解はしているんだがな。…それでも、な。」

「皐月夜見や燕結芽のことか。…あの二人にとって、冥加刀使になること自体を受け入れていた節があったな。オレはまっぴら御免被るが。」

「…僕は…、…正しく使われるものなら良かったのかもしれません。でも、結果的に僕達は、美炎たちに、…皆に刃を向けた。…あの力は、人が扱うには手に余る代物だと思いますね。」

「かといって、S装備も万能ではないしな。一番いいのは、ねねみたいな荒魂を、より多く見つけて保護することだろうな。人との共存を目指す荒魂を、な。」

「ね?」

「そう、お前のことだねね。…そういや可奈美が帰ってきた時に話していたが、アイツ、タギツヒメのことを理解しようとしてたみたいだな。剣で。」

「その話は俺も聞いた。…可奈美のようにはできないが、俺は俺で、荒魂達に優しく接していければな、とは思っているぞ。」

「…結局それが、舞草が目指している人間と荒魂との関係、なんですよね。」

 

 葉菜は茶を啜りながら、舞草主流派の目指す将来を改めて彼から見せられたような気がした。その横で薫とねねがじゃれ合う姿に、頬を無意識に少し緩ませながら。

 

 

 

 

 

 

 昨年の春ごろまで、彼は諜報活動下で色々意見交換を行いつつ、紫派と直接殴り合いができるように情報を定期的に仕入れてきていた。里を往来しつつ、紫や親衛隊とも仲を深めてはいたのだが、事態が急変したのはやはりあの出来事だった。

 

「…それにしても、御前試合以降の目まぐるしさは、未だに忘れられないな。エレンや薫はともかく、可奈美達四人との繋がりが深まる接点という意味じゃ、あの出来事が大きいだろうし。」

「あー、あれな。…全く、ヒヨヨンが折神紫に突っ込んで行った時にはマジでヒヤヒヤしたぞ。それを幇助する可奈美も可奈美だけどな。…あれで剣術馬鹿というのが、マジで笑えん。」

「僕はその場には居合わせていませんでしたけれど、そんなに大変だったんですか?」

「大変も大変、超大変だったんだからな!舞草の事前計画はともかく、やってた仕事が全部ストップしたのが特に酷かった。…あれで引っ掻き回した結果はお釣りが出たもんだったから、まだ良かったが。伊豆で回収に失敗して、殺気満々の親衛隊によって可奈美と姫和がやられていたら、今頃はマジでヤバかった。舞草もこの世もな。」

「……思うんだけれど、別にあの時って君は舞草の人間ってバレていなかったんだから、それこそあれこれ細工ができたんじゃないのかい?」

「無茶言うな葉菜。突入作戦の時に色々行動こそ起こした*2がな、コソコソ動いていたらそれこそバレるぞ。あんな超厳重態勢の中で動き回れば尚更に。」

「…まあ、伊達に打算だけで動いているわけじゃねえってことなんだろうな。」

 

 長い付き合いなので分かりはするが、案外彼なら圧倒的不利な状況を一発で逆転するほどの策くらいは編み出しそうな気がしかねないという、葉菜の言葉に理解もできる薫。

 彼の場合、偶然と仲間からのヒントが事態を一変させる糸口を見いだしてしまうところがあるのだが、まあそこは本人もあまり気付いていないので他人であればなお分かるはずもない。

 

「疑問だったんだけれど、舞草の人間として君も多くの人と接してきたんだよね。…任務とはいえ、人の情報を抜くことを嫌だとは思わなかったのかい?」

「―そりゃ、抵抗はあったさ。さっき話したように、彩矢はもちろん、葉菜の先輩にあたる浦賀*3や、元々の学籍がある美濃関の人間にも裏の顔を話すことはできなかったし。親しい間柄の人間に明かすときはすぐに伝えたさ。ウチの部署の人間も含めてな。」

「明かすことに対しての抵抗は、無かったのかい?」

「ない。というか、とっととケリがついたおかげでこっちはコソコソ動き回る理由が無くなったからな。後継に譲るのもいい機会だったし、早々と退いたさ。…ただ、綾小路がああなったことを思えば、諜報を止めるのは早計だったのかもな…。」

「…ま、それは結果論だろ。葉菜も今は、生きて戻ってきているんだ。…まあ、後は本人が心とどう向き合うべきかっていう問題だろ?」

「…かもな。」

 

 彼も思うところは多少あれど、諜報活動からおさらばしたかったのは本音であった。そうであったからこそ、今ではすっかり新装備開発案やら荒魂討伐時の諸対策やら、刀使や生徒のメンタルケアのてこ入れなど、以前では抑制気味な部分を徐々に解除しながら動いてきていたわけである。それじゃ今も昔も変わらないじゃないか、と言われたらそれまでではあるが。

 

 

 

 

「諜報活動を止めてからは、後任の引き継ぎだったり、かなり物議を醸すことになった対刀使用制圧装備の開発依頼とか、目まぐるしい日々に戻ったな。当然、これに加えてクソ高頻度な件数の荒魂討伐や、普段の諸々の相談もあったわけで。週一日くらいは流石に休むが、基本は呼び出しやら緊急出動(スクランブル)で潰れるのがオチだな。その分、中距離の討伐遠征の時はのんびり過ごせるからまだいいんだがな。」

「あ、そういや、お前その遠征の時に車を運転している時があるだろ?アレいつ免許取ったんだ?」

「あー、本部に飛ばされて、短期出向が終わった後に取得したものだ。普通免許、その後に中型免許って感じだな。法令が変わる前に取得できて良かったわな。」

「…そのおかげで僕達は楽ができますけど、身体はキツくないんですか?」

「ま、まあその、な。大変は大変だが、薫や葉菜たちに比べればあれくらいはな。むしろ、前線に立たせてばかりで申し訳ないし。それくらいはさせてくれよ。」

「別にあのパワハラ本部長に文句くらい言っていいんだぞー。現に、オレはそうしているし。」

「ねぇ…。」

 

 主に対して、ため息を吐きたそうな顔でやれやれと首を振るねね。

 

「俺だって反抗する時はするさ。でも、俺はなるべくそうはしたくない。普段の業務で嫌がらせとかの割を食うのは、俺だって嫌だしな。それをするのは、本当に命を懸けてでも最善を尽くさなきゃならない時だ。もちろん、薫の意見も一理はあるけどな。」

「…最善を尽くさないといけない時、か。」

「お前もお前で、肩の力を抜くのが上手くないんだな。沙耶香とは少しちげぇみてえだが。…そんな感じだが、だからこそお前に興味を持っていたりする人間も多いってことか。」

「俺に興味?……いやいや、居ねえよそんな人間。せいぜい軽蔑の眼差しとか、事務的なやり取りでとっとと離れたいって人間ばっかだろうよ。特に、あの装備開発を公表して以降は尚更。―まあ、気を遣ってくれる人間も居るにはいるがなあ…。」

「………本当にそう、なのかな?」

「葉菜と同じ意見だが、お前、本当に周りを見て言ってんのか?」

「え?事実だろ?」

(……何でだろう、さも当たり前のように言われると何だかイラっときたのは。…まさか、僕がわざわざ押しかけた理由に心当たりがない、ってことかい!?)

(途端に葉菜の雰囲気が変化したな…。アイツ、何でああも的確に他人の地雷を踏み抜きにいくんだろうか。)

 

 葉菜は憤然とし、薫は呆れ返っていた。両者とも、もう少し彼は色々と自覚をした方がいいのでは、と思わずにはいられなかったが。

 

 

 

 

 

 

 葉菜の苛立ちも落ち着いた頃、三人とも既に茶菓子も食べ終えて緩い談笑をしていた。その頃には、葉菜が頼んだ録音も既に終わっていた。

 そんな時、彼の業務用携帯から着信音が鳴り響く。

 

「…いったい誰から…、…ああ。はい、薫。」

「ん?」

 

 彼から渡された携帯を、特に疑うことなく通話ボタンを流れで押した彼女。

 

「もしもしー、どちらさんで」

『おいっ!てめえ!薫っ!!お前一体どこで油売っとんじゃあ!!』

 

 聞こえてきたのは、本部長の爆音であった。

 

「…み、耳が死んだ…。」

『早く駐車場に来い!!…あ、それと○○に代われ。』

「……任務、ヤダ。休み、たい…。」

「大丈夫かい、益子さん?」

 

 薫を介抱する葉菜。彼は紗南との通話に移った。

 

「はい、○○ですが。」

『すまないな、ウチの薫が邪魔した。』

「い、いえ。それはいいのですが、何か急用でも?」

『近いうちに、お前には綾小路に行ってもらおうと思ってな。刀使の回復状況や現在の綾小路の様子をお前の目で見てきてもらいたい。』

「はあ、それは構いませんよ。行くのは、俺単独ですか?」

『いや、綾小路の誰かを付き添わせようと思っている。説明役がいるからな。』

「なら、その選定はお任せします。それじゃあ、もう少し休みますね。」

『休み時にすまない。では、よろしく頼む。』

 

 紗南との多少の打ち合わせが終わる。

 駄々をこねる制服姿の薫と説得する私服姿の葉菜、二人の対照的な姿を眺めつつ、薫を討伐任務に向かわせるため、彼女を立ち上がらせにかかる。

 

 

 

 

 

 

 薫の《祢々斬丸》を慎重に部屋から運び出し、半ば強制的に薫を任務へと向かわせようとする。

 三人は共用通路まで出てくると、葉菜と彼とで揃って薫を見送る。

 

「お前もなかなか鬼だな、くつろいでいる人間を追い出すなんて。」

「そうは言うがな、薫。別にまた来るなとは一言も言ってねぇぞ。任務が終わって一息吐きたいとか思ったなら、俺のところに来たっていいわけだし。まあ、エレンとかと一緒に来ても構いはしないがな。事前に言ってくれりゃ、色々準備もできるし。」

「……まあ、考えておく。葉菜も、大事にな。」

「はい。…戻るまではご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。益子さん。」

「ああ。…んじゃ、行ってくらぁ。」

「ねねー!!」

 

 背を向けて手を振る薫と、両手をブンブン振って二人に別れを表すねね。

 そのまま、エレベーターホールへと向かっていった。

 

「行っちまったか。…まあ、押しかけてきたのはあっちだし、あんまり気にする必要性はないか。」

「…さて、僕もそろそろ失礼した方が良さそうかな。帰りの新幹線の時間と病院に帰り着くまでの移動時間を考えるとね。」

「…そっか。またしばらく、直接は会えなくなるんだな。」

「まあ、ね。……お茶とお菓子、美味しかったよ。」

「そいつは良かった。」

「だから…、少しだけこうさせて欲しいな。」

 

 そう言って、葉菜はギュッと彼の左腕を抱き締める。彼は、押し当てられる彼女の胸の感覚を、半ば無視しようと思った。それからしばらく、静寂の時が流れた。

 

「…………葉菜?」

「……うん、大丈夫そうだ。これでまた、しばらく頑張れそうだよ。ありがとう。」

 

 そっと彼の腕から、手も体も放す彼女。少し寂しげな表情を浮かべながらも、その顔には自然な笑顔があった。

 

「今日録った音声は、君の親しい人に送る予定だよ。悪用は絶対しない人だから大丈夫。」

「…ま、許可出したのは俺だしな。葉菜がそう言うってことは、そうなんだろう。俺は葉菜の言うことを信じるさ。」

「ありがとう。…調査隊の皆にも、よろしく伝えておいてくれないかい?―まだ、顔を見せられるほど、自分を赦せてはいないから、ね。」

「ああ。伝えておく。…葉菜、新横浜まで送って行ってもいいか。」

「……なら、君のご厄介になろうかな。」

 

 彼女は、あともう少しだけ彼との時間を過ごせることを嬉しく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りの新幹線ひかりの車中、葉菜はある人物に電話をしていた。

 

「もしもし、…はい、鈴本です。…はい、録音データはさっき送ったモノです。○○さんからも了承を得ていますよ。…変わってませんでしたよ、あの人は。無理するところも、人に優しいところも。」

 

 そう言って、彼女は依頼した人物の名を口に出した。

 

「だから、安心してください。―小池さん。」

 

 

 

 

 友情は、時として駆け引きや恋路の邪魔にも成りうる。が、彼女たちは強固な縁で結ばれている。刀使という強い結びつきで。

*1
この時の出来事は、閑話編『股掛けした男の末路』前後編参照。

*2
この時の詳細は、閑話編『反撃の狼煙』参照。

*3
元綾小路武芸学舎の浦賀奈緒(とじともサポメン)のこと。現在の時系列では綾小路武芸学舎を卒業しているため、元生徒の扱いを採っている。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

次回から可奈美編になります。
更新頻度は現状と変わりませんが、どうにか前に話を進めて参ります。

それでは、また。
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