ついにみにとじ、始まりましたね。
果てさてどんな話になるんでしょうか?
話を戻し、今回は番外編です。
といっても、珍しく主人公さえも脇に置かれる話となっております。
ちょいちょい出てきたオリキャラ達の話になります。
…閑話のはずがどうしてこうなった…。(前後編)
時系列は御前試合の少し前になります。
それでは、どうぞ。
2019/1/16 最後に追記あります。
とある刀使カップルの恋愛談 前編
ー鎌府女学院 食堂兼レストプレースー
刀剣類管理局本部の職員もたまに利用するこの場所。本来なら女子生徒が圧倒的多数のこの空間は、本部の野郎共も使うため、必ずしも乙女達の安息地になるとは限らないのである。
そんななか、黒髪を腰近くまで伸ばした一人の大人びた刀使が食堂の入口を潜る。
細身ながらも、出るとこはしっかりメリハリがついているといったところは、流石刀使といったところか。
今からの食事を確保し、無数に並ぶ机と人混みの中をキョロキョロと見回していると、どこからか手が挙がる。
「お~い、早希~!ここココ!」
「あっ、糸崎君!」
「俺も居るんだけどな…。」
一テーブルに本部組の糸崎と彼、そして早希が合流する。このメンバー以外にも親衛隊やらが集まることもあるため、三人が集まると結構目立つ。
卓上にお盆を置き、座るべく設置された椅子を引く。
「よいしょ、っと。二人共ここで食べていくの?」
「俺は断ったんだが、糸崎がな…。『早希は人が多い方が好みだ』とか理屈付けられて、ここまで来たわけだ。」
「別に良いだろう?お前は大体仕事のし過ぎで、飯食うタイミング逃すこと多いんだから、なおさら良いじゃねえか。」
「そりゃそうなんだが。」
男二人のちょっとしたじゃれ合いも終わり、三人で手を合わせる。
「「「いただきま~す。」」」
各々が箸を持ってどんぶりへと食指を伸ばす。
「…そういやずっと疑問だったんたが、糸崎と三原、お前達二人がここまでベッタリになったのは、やっぱりウチのところのおかげか?」
未だに彼女すら居ない彼が、目の前のカップルに舞草が切っ掛けで作ることになったのか?と遠回しに聞く。
「糸崎君と私が付き合う切っ掛けね…。」
なぜだか思い出したくないような素振りを示す早希。
「…何か三原が急に固まったんだが。…糸崎は、どうなんだ?」
いつも、相方のように居る同僚に声を掛ける。
だが、その同僚もなぜか気まずそうな顔をしていた。
「まあその…。一つ言えることは、付き合い始めが普通の奴らのそれではなかったな。」
そう言うと、近づけば磁石の如くくっつく今の二人からは、とても考えられない過去が二人の口から語られる。
ー数年前 鎌府女学院ー
彼が秩父での戦闘*1から復帰し、自身を鍛え上げるべく各治安組織へ出向していた頃。
早希は既にこの頃から鎌府の刀使として活動をしていた。
「多くの人を守りたい」という、刀使なら多くが思い浮かべることに加え、「引っ込み思案をどうにかしたい」という彼女自身のコンプレックスも、刀使としての行動の原動力となっていた。
日々荒魂を斬り払い、人々から感謝されたり、たまに建物ぶっ壊して怒られたりなど様々なことがあった。
そんな折、原宿の青砥館で御刀を診てもらう機会があった。
拵えも自分に合ったモノにしようかな、とほんの思い付き程度で訪れることになったが、そこから舞草へと勧誘されることとなった*2。
それ以降、舞草の中心的な構成員が多く在籍する長船女学園の刀使との交流を通して、ノロの一括集中管理体制への疑念や、自身の在籍する鎌府女学院が非人道的な人体実験を行っている可能性が高いことを知らされた*3。
刀使と舞草の工作員という二足のわらじを履きながら、鎌府での情報工作を主としてやってきていた*4。
そんなこんなで一年程の月日が経過した頃。
刀剣類管理局本部へ派遣された今の彼氏である、糸崎と知り合う。
元々、彼は神奈川県内の高等専門学校を志望して勉強を重ねていたのだが、何のイタズラか、親族が刀剣類管理局の追加人員募集に応募し、見事に当選してしまったのである。
加えて、落ちるつもりで受けた面接試験もパスしてしまったことで、いよいよ退路が無くなった彼は、しぶしぶ神奈川県内の刀剣類管理局の施設へと赴くこととなった。
「はあ…。いよいよ来ちまったよ。…高専ほどではないにせよ、色々モノを弄れるのは救いだったな…。」
当時はまだ、事務方に飛ばされるなど微塵も思っていなかった糸崎だったが、かなり複雑な心境ではあった。
「どうかされましたか?」
彼はその声がした方向を振り向いた。
そこに立っていたのは、年頃の彼の好みに見事噛み合った、長い黒髪の刀使だった。
さざめく北風に、その髪が靡く。
そう、彼と後に付き合うことになる早希であった。
(俺は今、幻でも見ているのだろうか。)
こんな娘が現実に居るものなのだろうか、そう思っても不思議ではないほど、彼は早希に一目惚れしていた。
そんなことは知らない彼女は、数秒ほど固まる彼を見て声を掛ける。
「?何か、お困りですか?」
「い、いえ!…今日、ここに来るように言われた者ですが、大会議室はどちらですか?」
よく考えると糸崎は矛盾したことを言っているのだが、ともかく困っている彼を大会議室へ案内する彼女。
移動の間、初対面の二人は会話を広げていた。
「…へえ。三原さんは日々荒魂と戦っているんですね。こんなことを自分が言うのはおこがましいですが、いつもありがとうございます。」
「いえ、糸崎さんのような人達のおかげで頑張っていけてますから、そう言って頂けるのはありがたいです。」
「ちなみに三原さんはお幾つですか?」
「歳?今◯◯かな。」
「えっ!本当ですか!自分も同じ歳です!」
「そんなことってあるんだね。」
「何かの縁かもしれないですね。」
まさか後々、縁は縁でも縁談に寄る方の縁になるとはこの時の両者は知る由も無いだろう。
そんな時間も必ず終わりがやって来る。
「ここが大会議室です。」
「三原さん、ありがとうございました。」
「いえ。これから講習、頑張ってくださいね!」
「はい!…また、会えるといいですね。」
「私も。じゃあ、いってらっしゃい!」
糸崎は早希にお辞儀をして、部屋の扉をノックした後、自身も荒魂との闘いに身を投じる最初の一歩を踏み出した。
その後、管理局幹部などからの講習の後、たまたま混ざっていた本部事務職の幹部*5から目を付けられ、事務方に配属される羽目となった。
最初の配属先はまさかの東京。
荒魂の頻繁に現れるエリアで、大量の書類との間に血反吐を吐きながらも、何とか力を付けていった。
事務方ではあったが、時には人手不足で前線に駆り出されることもしばしばあった。
この時に、早希と再会して連絡先などを交換している。なお、意外なほどあっさり再会したため、その際にはお世話になる意味も込めて握手を交わした。
それからは、少しずつ互いに話をしたり、荒魂討伐の合間を縫って散歩をしたりなど、案外順調に関係を深めていった。
次第に互いの呼び名も、糸崎は「三原さん」呼びから「早希」呼びへ、早希の方は他人行儀な「糸崎『さん』」から親しみの籠もった『君』呼びへと変わっていった。
しかし、二人の周囲は既に交際しているのかと思っている節があったのだが、実際のところ、二人はそこまで著しく恋愛関係に、とは至っていなかった。というよりは、お互いに親友止まりな面が強かった。
その理由は早希の方にあった。…そう、舞草の構成員であることだ。
彼女自身、その話を糸崎へしたことが無く、加えて舞草と無関係である彼と交際した場合、万が一発覚した時には自身の巻き添えにし兼ねないことを憂慮したためだ。
反折神紫体制派であることは、それだけでも取り締まられるリスクを背負っていることに等しい。単なる自身の信条に、大切な人間である彼を巻き込む訳にはいかなかった。
まして、紫派・舞草のどちらの立場でも無い彼に、危害の及ぶ可能性だけは絶対に排除したかったのである。
そんなにっちもさっちもいかない状況が変わったのは、たった一通のメールだった。
事の発端は、早希が長船の刀使に定期的に送信している、鎌府・親衛隊に関する暗号化されたファイル入りのメールを、彼女のうっかりミスで糸崎に送信してしまったことだった。
当時、入浴直後と夕食を食べた直後で眠気が来ていた彼女。
いつも通りパソコンに向き合っていた際に、眠気からなのか、お気に入り欄に入れていた長船の刀使と彼のアドレスとを押し間違えたことに気付かず、そのままの流れで送信ボタンを押してしまった。
その際の早希の動きである。
「ふあぁ~っ。これでいつもの定期連絡が終わった~。」
そのまま、送信ボックスを確認する。必ず、送れたかどうかを見るためだ。
…この時は、見なかった方が良かっただろうが。
「………あれっ。」
段々と顔から引いていく血の気。
この定期連絡時に普段載る筈のアドレスとは、明らかに異なる文字列が並んでいた。
「アドレス、まさか間違えた!?」
先ほどまでの眠気が吹っ飛ぶ。
(ちょっと待って!一体、私は誰に送ったの!?)
該当するアドレスが誰なのかを探す。
「糸崎…君のところに…。」
送信相手は、無関係で想定外の相手であった。
これまで隠してきた事実を自らの不手際で暴いてしまうなど、お笑いでは済まない。
(どどどどうしよう!やっちゃったとか言ってる場合じゃ無いのに!)
彼女の脳裏に浮かんだ様々な対応策。
(軟禁?拘束?あるいは既成事実で黙ってもらう?…まさか物理的に口止め!?いや、落ち着け私!)
中には物騒な方法まで浮かんできたが、部屋の中でじたばたしていることに変わりはない。
そんな彼女に、そのメールの誤送信相手である糸崎からメールが届く。
From:糸崎
『なんか流出したら不味そうなモノが送られてきたんだけど、何処かと送り先間違えたのか?』
(あっ、私終わった…。というか、糸崎君も巻き添えじゃない…。)
この文だけで、早希は全てを悟った。バレてはいけないことがバレたと。
「…仕方ないよね。……正直に、糸崎君に全部話そう。」
彼女の表情は既に泣きそうではあったが、意を決して彼に隠し事全てを打ち明けることにした。
「…でも、その前に…。」
彼女はある人物に連絡を入れた。
『はい、どうしました?早希さん。』
「通話するのは久しぶりね。陽菜ちゃん。」
彼女が舞草の入る切っ掛けになった、青砥館の主人の娘へ回線を繋ぐ。
「時間が無いから単刀直入に言うね。…今からちょっと交渉してきたい相手が居るの。その立ち会いに付き合ってもらってもいい?遠くからでもいいから。」
『今から、ですか?』
「ゴメンね。…もしかすると
『……分かりました。早希さんの頼みなら、断るつもりも無いですからね。』
陽菜もすぐに同意する。
『それで、どこに向かえばいいんですか?』
「……横須賀駅近くの公園、って言ったら分かるかな?」
『確かにあそこは盗聴には不向きな場所ですね。じゃあ、横須賀駅で会いましょう。』
「うん。後でね。」
「ふう…。」
幸い、翌日は二人とも非番であったため学業などへの心配は無い。
「後は、糸崎君か。」
普段なら何のことは無い、通話ボタンを押す手が震える。
「…彼をどうするかなんて、今決めることじゃない。会って、話してそれからかな。」
そして、渦中の彼へと連絡を入れる。
時系列は少し遡り、糸崎が早希からの誤送信メールを受信した頃。
「ん?早希からメール?…何だろう?」
彼女とは、メールではたまにやり取りをする程度であったため、何も無い時に送ってくることを少し不思議に思った。
「メールを開いて…っと。」
彼は全く警戒していなかった。…まさか、一目惚れした人間が情報工作員であったことなど。
「……?なんだコレ?」
一瞬、なりすましかとも思ったが発信元は彼女のパソコン。
メールにあった添付ファイルは暗号化されていて見ることが出来ない、…筈だった。
「こんな時のための暗号化解除ソフト、と。」
伊達に高専を目指していた人間ではない。暇な時に作り上げた、自身のパソコンを攻撃するインターネットウイルスを発信源ごとぶち壊す、セキュリティーソフトの副産物で出来上がったこのソフト。
因みにこのソフトを使って、サバゲーにハマる前の趣味で闇で蠢いていた犯罪組織を複数ぶっ潰していたのは、彼以外誰も知らないことであった*6。
「コレは…!?鎌府と…親衛隊の人間の行動記録!それに本部の動きまで。…何でこんな代物が。」
早希のメールは、彼にとって青天の霹靂であった。
自身の知らない、彼女のウラを見てしまった気がしてならなかった。
「……取り敢えず、返信っと。」
糸崎は文字を打ちながら、彼女と親しくなっていった日々を振り返っていた。
(…人間、誰でも黙っていることはある。…やっぱり、俺は早希とは異なる立場の人間なんだろうか。)
彼が感じたのは、打ち明けて貰えなかった悲しさと彼女への変わらぬ想いだった。
「後は、早希から何らかのアクションがあるまで待つか。」
(……次に顔を合わせるのが気まずい。)
そんなことを考えながら、十分程仮眠を取る。
タラタタタンタタンタタ~ン タタ~ン
長い着信音で、彼は目を覚ます。
「…早希からだ。」
すぐに彼女の電話に出る。
「…もしもし。」
『糸崎君?』
「どうしたんだ?」
取り敢えず平静を装う。現時点で既に精神的にはパニックになってはいたが。
『ちょっとね…。今から二時間くらい、時間あるかな?』
「あっ、ああ。明日は昼から仕事だしな。」
『…良かった。今から指定する場所に来てもらってもいい、かな?』
「…分かった。言ってくれ。」
即決だった。
彼女との通話を終え、少し早い春物のジャンパーを羽織って駅へと駆け出した。
彼女の待つ場所へと、向かうために。
ご拝読頂きありがとうございました。
後編へ続きます。
それでは、また。
追記
ちなみに糸崎の携帯の長い着信音ですが、2クール目のOPである『進化系Colors』が元です。
…着信音にしたかったなぁ…。(筆者の携帯、非対応)