刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編の閑話編をお送り致します。
現在登場している女性のオリキャラの中で、唯一刀使ではない(執筆当時)彼の同僚の話になります。
一部胸糞悪い描写がありますので、読まれる際にはご注意願います。

それでは、どうぞ。


刀使じゃない少女の奮闘 前編

 ―一年程前 刀剣類管理局本部 小会議室―

 

 荒魂や刀使などに関わることが無ければ、まず訪れることのないであろうこの場所。

 その建物の一室に、一人の少女が招かれていた。

 

 水沢(みずさわ)姫乃(ひめの)

 後に刀剣類管理局内でも電子情報戦において、彼女の右に出る少女はいないとまで言われる、彼の同僚だ。だが、この当時は荒魂や刀使の活躍などに対して、一般常識よりやや劣る程度の事しか知らない、どこにでも居そうな少女であった。

 

「はあ~。どうしてこんなことに…。」

 こう溜め息を吐いたのには訳があった。

(思えば、中学校に入って以降、周囲の目がどこか違ってきてたよね…。)

 そう思いながら、自身の今までの人生を振り返る。

 

 

 

 

 姫乃が生まれたのは、どこにでもあるような普通の家庭だった。父親は中小企業に勤めるITエンジニアとして、母親は保育士として日々を仕事に費やしていた。

 現在では働き方改革の流れとして、家事や育児に対する男性への支援の動きが出始めているが、当時としては珍しく、彼女の父親は育児休暇を取ったり、彼女の世話を積極的に行うなど家庭的な人物であった。

 両親の愛を受けてすくすくと育てられた彼女は、小学生になると本を読み漁ったり、周囲の児童との積極的なコミュニケーションの取り方を図りながら、模範的な娘として先生達にも写ったという。

 

 その間、ITエンジニアであった父親が、時々不要品として会社で処分されたパソコンや動作不良になって破棄されたタブレットなどを持ち帰る機会があった。

 好奇心旺盛で、かつ知識の蓄え時でもあった頃に、液晶画面を付けたそれらは、彼女にとって未知の世界でもあった。

 

 

 そうした背景もあり、とある休みの日に父親へパソコンの使い方を教わりたい、と相談した姫乃。

「お父さん、ダメかな?」

「分かった。但し姫乃が慣れるまでは、俺が居る時以外でパソコンに触ってはいけないよ。」

「ありがとう、お父さん。約束する。」

 

 彼女は父親の言いつけを守り、彼が休みの時に一~二時間程度、パソコンの基本的な使い方を教わり続けた。

 彼女の父親は、彼女の呑み込みの速さに驚きつつも、ネット検索からプログラミング、ホームページの作成など多岐に及ぶ基礎的な技術を教えていった。無論、ネットリテラシーや、パソコンなどを使ってやってはいけないこと(ウイルス作成など)もしっかり伝えた。

 そのお陰か、今日に至るまで彼女が情報を悪用するような真似を行っていないのは、彼女の父親の教育の賜物とも言える。

 

 

 

 

 中学校に入ると、その情報技術に更なる磨きがかかった。特に、生徒会から依頼された十数ページに渡る文書を作ったところ、

「これ、本当に水沢さんが作ったの!?」

 と言われる位には、プロ顔負けの広報紙と化していたという。それ以降、生徒間ではパソコン絡みの案件を彼女に依頼することが増えたという。中には、故障したパソコンや携帯の修理を依頼されることもあったという。

 このため、精密機器の分解・再建技術やはんだごての扱いにも長けることになった。

 

 

 当然、そんな彼女の存在に面白みを持たない人間も居た。教員の中にも、姫乃の存在に警戒感や忌避を抱く者も現れる。

 そして、あろうことかそれらの人間は彼女を追放しに動いたのである。

 

 

 

 

 きっかけは、校内での些細なパソコンの異常だった。パソコン室内に置かれたそれらは当初、大したことはないと判断されたため、その異常は放置されていた。だがその後、運の悪いことに姫乃のクラスが使用していた際に、全てのパソコンのブルースクリーンに変わった後、次々と画面がブラックアウトしていったのである。

 

 姫乃もこの異常に直ぐ気がついたのだが、同じクラスのある生徒が、

「先生!水沢さんが、何かパソコンを弄っていました!彼女がパソコンを壊したに違いありません!」

 と、虚偽の申告を教員に行ったのである。

 当然、彼女は、

「先生、私は電源ボタン以外、この部屋に入ってからパソコンには触っていません!」

 と、こう抗議したのだが、教員は、

「…言い訳は後で聞かせてもらうぞ、水沢。職員室まで一緒に来てもらおうか。」

 と、全くもって聞く耳持たず。

 

 客観的な証拠が何一つ無いにも関わらず、一人の生徒の声のみを優先する教員に呆れながらも、

「…分かりました。行きます。」

 と、彼女はやむなく折れて、職員室に連れて行かれるのであった。

 その際、多くの同級生が抗議の声を上げ、彼女に室内に留まるよう言うなかで、虚偽の発言をした生徒の口元が不気味なほどつり上がっていたのを、忘れることはなかった。

 

 

 

 

 結論から言えば、姫乃は無実だった。

 彼女の左右には彼女の友人達が座っており、パソコンがはっきり異常を示したのは、話している最中であったからだ。手元が動いているのなら、友人達もそう証言するはずである。

 しかし、そうした証言は虚偽の申告をした者以外で二人ほどしか出てこなかった。しかも、その三人は座っている位置からして、彼女の手元など見えるはずのない位置だった。

 

 だが、教員は虚偽の申告をした者の方を優遇したのである。この教員は、虚偽の申告をした生徒と裏で繋がっており、これ幸いと姫乃の排除に動いたのであった。

 この日、校長は出張のため居らず、教頭と学年主任が先程の教員共々、そのまま彼女の面談と言う名の魔女裁判を行ったのである。

 

 

 職員室横の小部屋に連れて行かれた彼女は、まるで警察の取調室のような状況に置かれる。

「水沢、正直に吐け。お前がパソコンを壊したんだろ?」

「やっていません。あの子の勘違いではないでしょうか?…もしくは、私になすりつける目的で、あの子が壊したとかはあり得ませんか?」

「水沢!お前、いい加減にしろ!同じクラスの人間を疑うなんて、そんな卑怯な人間だったのか!」

「…私としても不本意ですが、親御さんに連絡を入れなければなりませんね。」

 

 言い掛かりも甚だしいうえに、様々な圧力をかけられる彼女。これを理不尽と言わずして、何と言うか。

 

「両親に連絡するのは構いません。…それでも私はやっていません。」

「知っているぞ、水沢。お前の父親はITエンジニアだってな。なら、パソコンを壊すやり方くらい教わっているだろ?」

「教わってもいませんし、やってもいません!」

「いい加減、教師に歯ごたえするんじゃねぇ!」

 遂に頭に血が上った学年主任は、右手を彼女の頬に向けて繰り出す。

 

 

 バチンという、非常に鈍い音が室内に響く。

 

 

「……やって、ません。」

 どんなに酷い目に遭わされても、彼女は無実を訴え続けた。

「教頭先生、埒があきません。警察に突き出しましょう。」

「……そうですね。警察に連絡します。」

 

 

 

 

 そうして、無実だった彼女の“普通の”学校生活は、唐突に、無茶苦茶な理由で終わりを迎えることになった。

 

 

 

 

 校内でパソコンを壊した人間が暴れ回り、何とか抑えているという通報内容を受けて、中学校内に入る警察官達。

 学年主任に叩かれた彼女の左頬は、警察官が訪れた時には赤く腫れ上がっていた。

 

「警察の方ですか、お待ちしていました。」

「通報を受けてやってきた者ですが、…其方の生徒さんがですか?」

「はい。大人三人で抑えるのに苦労しまして。」

(……嘘だ。一方的に攻撃した癖に。)

 内心、反吐が出る思いをしながらも、グッと堪える姫乃。

 一人の警察官はこの状況に違和感を覚え、口を開く。

「……今から、其方の生徒を警察署まで連行しますが、よろしいでしょうか。」

「はい。キッチリ、更正させてやってください。」

 本来なら更正されるべきであろう学年主任が、そう言い放つ。

「……行こうか。」

 警察官にそう促されると、コクリと頷いた彼女は大人しくパトカーへと乗せられていった。

 

 

 姫乃が出た後、残った教員共と他の警察官とで話が持たれる。

「少女の身柄は此方で預かりますが、よろしいでしょうか?」

「はい。後ほど学年主任が、警察署の方へ伺います。」

 そう教頭が言い終えたあと、現場を統括する警察官がパソコン室の調査と、生徒の事情聴取に向かうように指示を出す。

 

 

 警察官の立ち去った小部屋から、三人の教員…いや、教員擬きの笑い声が上がる。

「やりましたな、教頭先生!」

「これで校長は引責辞任でしょうし、そうなれば自動的に私が校長に…。夢が叶いましたわ。」

「これで、私の立場が脅かされる心配もありません。私より秀でた能力を持つ生徒など、この学校には要らないのです。」

 

 …だが、扉越しからこっそり聞いていた、別の警察官が居たのを、彼らは知らなかった。

 

 

 

 

 パトカーに乗せられ、警察署へ護送される姫乃。

「……大丈夫?」

 隣に座る女性警官が、彼女に尋ねる。

「……。」

 今の姫乃には、誰も信じられない状態だった。弁明も抗議の言葉も届かないなら、いっそ黙っていた方が楽ではないのか、そうも考えだしていた。

「…警察署で話を聞くから、それまでちょっと辛抱してね。」

 女性警官は、通報内容と実際の少女の状態に大きな違和感を覚えながら、警察署に着くのを待つ。

 

 

 警察署に到着すると、両親が既にやってきていた。

「お父さん…、お母さん…。」

 パトカーで護送されて以降、初めて声を発した姫乃。

「警察の人から連絡があって、母さんと一緒に駆けつけたんだ。…大丈夫か。」

「……お父さん…、ウアァァァーーン!!」

 警察署のホール部分にて、大声で泣き崩れる彼女。

 父親は、そんな彼女を優しく抱きしめる。

「姫乃、お父さんたちは味方だから。…何もかも、正直に話してきなさい。お前が大それたことをするような娘じゃないって、知っているから。」

 外から見ると、三人で抱き合うような姿になっていた。

 

「…ありがとう、お父さん、お母さん。」

「…姫乃!貴女、ほっぺたが真っ赤じゃない!」

 母親は、少し鬱血した彼女の左頬の惨状に目を疑う。

「こちらで治療します。…ご両親も、一緒に来てもらえますか?」

 学校であの場の違和感に気がついた警察官が、姫乃の連れ先に両親を案内する。

 

 

 治療を終えた彼女は、警察官の事情聴取に冷静に応じる。

『今から事情聴取を始めるけれど、正直に、落ち着いて話してね。』

『はい。』

 マジックミラー越しから、娘の様子を見守る二人。

 そして、パソコン室で起こったこと、彼女の声を無視して教員達が一方的な制裁を行ったこと、父親を侮辱するような発言を行ったことなどを、次々切り出した。

 彼女の証言に、時々調書を書いていた警察官の手元が止まり、信じられないといった表情を浮かべた。

 そして、口を開いていくにつれて、涙が止めどなく流れ出る姫乃。

 

 娘の証言を聞くたび、彼女に冤罪を着せた生徒や、誹謗中傷、果ては暴力を振りかざした教師達に殺意を抱く、彼女の両親。

「…本来生徒を守るべき教員が、姫乃に傷を負わせたなんて。」

「貴方、深呼吸をして。…怒りに呑まれちゃだめよ。…できるものなら、私だって顔面に十発くらい叩き込んでやりたいわよ。」

 左頬に当てられたガーゼが、彼女の顔半分を覆い隠していた。

 後々、女性の容姿等を気にしない方である彼でさえ、姫乃の顔を美人だと評価しているのだが、学年主任にとっては、彼女の顔を化け物か何かと思ったとしか思えない、若しくは人を物としか思わない価値観の持ち主だったのかもしれなかった。

 それくらいには、普通の倫理観を持ち合わせているのであれば、あり得ない対応だったのである。

 

 

 

 

 事情聴取が終わり、両親に再会する姫乃。

 母親が彼女に声を掛ける。

「姫乃、よく頑張ったわね。」

「お母さん…。怖かったよぉ~…。」

 抱きついた姫乃は、安心しきったのか、そのまま眠りについてしまった。

「…姫乃が今まで生きてきて、一番大変な日だったわよね…。よく、我慢したね…。」

 寝息をたてる彼女の頭を撫でる母親。

「刑事さん、娘の証言は証拠になりますか?」

「少なくとも左頬の怪我は明確な証拠になり得るでしょう。ですが…、暴言の方に関してはどうにも…。」

「……そうですか。」

 娘を精神的に追い詰めた教員達に、仕返しをしてやりたいと思った父親。

 世が世なら、仇討ち上等で乗り込めただろうが、残念ながらそれは叶わなかった。

 

 

「いえ、出来るかもしれませんよ。」

 肩を落としていた父親に、そう声をかけたのはもう一人の警察官。

「どういう、ことでしょうか?」

「さっき、教員の声を録音していまして。頬を叩いたことと、この録音内容に因果関係が認められれば、こちらも立件が可能です。」

 警察官が胸ポケットから差し出したのは、ICレコーダー。

 小部屋を去る直前、教員の声をはっきり録音しておいたのである。

「お任せしても、よろしいでしょうか?」

「はい。娘さんのことは、此方で疑いを晴らしましょう。」

「…まだ、警察にこんな人達が居たんだな。」

 ドラマか何かでしか、こうしたことはあり得ないと思っていたが、自身の目と感覚から状況をよく考えている人が居たことは幸運であったと、この時の姫乃の父親はそう思った。

 

 

 

 

 それから一週間ほど経ち、姫乃は予防的措置で学校を休んでいた。

 その間にも、事件のあった時に出張で学校を空けていた校長が謝罪にやってきたり、カウンセラーから心的ケアを受けたり、親しい友人達が見舞いにやってきたりと、日々の経過は案外過密なものとなった。

 彼女に暴言や暴行を行った教員らは、現在警察から事情聴取を受けており、少なくとも暴行を行った学年主任については、数日中に逮捕される見通しが立ったという。頬を叩いた際に姫乃に付着した唾や皮脂が、明確な証拠になったとのことだ。

 

 

「姫乃の無実が証明されそうで、良かったわ。」

 一時休職することにしていた母親が、警察からの連絡を受けてホッと胸を撫で下ろす。

「…でもお母さん、学校どうしよう。今の学校に通い続けていても、また同じようなことが起こらないとは限らないし。」

 

 そう、教員の逮捕は今回大きな問題ではない。嫉妬心などを抱いた生徒や教員達が未だに学校に残っている方が、むしろ問題であった。これでは、彼女が今の学校に戻ったところで、何の抜本的な解決にもならないからだ。

 

「そうねえ…。姫乃の友達の話を聞く限り、姫乃が狙われたのは他の子よりも…、ううん。遥かにパソコンが扱うことが出来ていることかな…。普通は、それくらいで妬むようなことは無いのだけれどねぇ…。」

 どんな場所であっても、よく分からないことで恨みを持たれることがあるのは、ある種の必然なのかもしれないが。

「…勿論、今の学校の友達が嫌とか、そういうわけじゃないよ。…でも、このままじゃ、また友達を巻き込んで迷惑をかけちゃう。」

「そっか…。」

 娘の友人想いの一面を垣間見つつ、現実的には通い続けるのも難しいと、母親も考えていた。

 

 

 そんな時、仕事から帰宅してきた父親が、リビングに入ってきた。

「学校なら、俺に考えがある。」

「お父さん、転校先でも見つけてきたの?」

「正確に言えば、普通の学校ってわけでもないな。…伍箇伝って、聞いたことあるか?」

「確か…、荒魂を退治している刀使さん達が通っている学校よね?」

 母親が確認の為にそう答える。その言に頷いた父親は、そのまま続ける。

「もしかしたら、そこなら姫乃が睨まれた力も、存分に発揮出来るんじゃないか?」

「伍箇伝か…。ちょっと考えてみるね。」

 即答はしなかったが、後に姫乃自身が調べると中途半端な時期に転校しても怪しまれない*1ことが分かり、一週間ほど悩んだ末に転入届を本部の然るべき部署へと送ることになった。

 無論、今までの学校の友人達に突然の別れを告げざるを得なくなったのは、彼女としても不本意であった。

 だが、自分の身と友人達を守るにはこうするほか無かったというのもまた、無常ではある。

 

 

 なお、後に姫乃が通っていた学校に荒魂が襲来した際に、彼女を貶めた人間ばかりが被害を受け、中には亡くなった者も居たという。これを因果応報というのかは、分からないが。

 

 

 

 

 ―刀剣類管理局本部 小会議室―

 

 話を最初の場面へ戻す。

 そんなこんなで、彼女は転入先の伍箇伝のどの校でもいいように、刀剣類管理局本部へと直接届け出を行ったのだが、先方の返答は、本部に来るようにとのことだった。

 

「面接の人、遅いなぁ…。…それもそうですよね…。一時警察沙汰になった人間を受け入れるなんて、普通はあり得ないですもんね…。」

 などと、ネガティブな感情が支配しつつあったなか、部屋の扉を叩く音が聞こえる。

『失礼いたします。』

「はい。」

 扉が開かれると、部屋に入ってきたのは自分と同い年くらいの男子だった。

 

「刀剣類管理局本部、○○(彼の苗字)と申します。水沢姫乃さんでよろしかったでしょうか?」

「はい、そうです。」

「取り敢えず、立ったままでは難でしょうから、お掛けください。」

「あっ、はい。」

 彼が入ってきた時に思わず立ち上がってしまったのだが、彼は姫乃へ再び座り直すように言う。

「書類の方は拝見させていただきました。…ここで言うのも難ですが、人事課の人間が『面白い人間が入ってきた。』と言って、だいぶはしゃいでいましたよ。」

「はっ、はあ…。」

 どうリアクションを取っていいのか、戸惑う彼女。

「…っと、それはさておき、伍箇伝のどの校でもいいと要望欄に書いてありましたが、…過去に何かありましたか?」

 姫乃の転校理由になった部分について、知ってか知らずか切り込む彼。

「…誰にも言いませんか?」

「言いませんと言って、信用してもらえるとは思っていません。人間って、そういうものではありませんか?初対面ならば、尚更のことです。」

 表情からでは見えない彼女の懐疑心を、解きにかかる彼。

 固く緊張した面持ちだった彼女は、彼のその言葉を聞き、頬を緩める。

「…貴方なら、話しても大丈夫そうですね。…こちらに転入届を出した理由を、お話しします。」

 そうして、姫乃は今までの経緯を話し始める。

 

 

 

 

 静かに彼女の話を聞き終えた彼は、真剣な顔を浮かべていた。

「…水沢さん。辛くなかったですか。」

「勿論、警察署に連れていかれるまでは絶望しました。『なんで、私の話を聞いてくれないんだろう。』って。…でも、家族や仲のいい友達は最後まで信じてくれていました。だから今、私はここに居ます。」

「ならば、こちらはそのバトンをしっかり繋ぐ義務がありますね。…水沢さん、伍箇伝の各校ではなく、本部(ここ)で働いてみませんか?」

 床に向けて指を差しながら、そう彼女に提案する。

「刀剣類管理局本部で、ってことですか?」

「ウチは人手不足が常態化していましてね。それは勿論、本部も例外じゃありません。学業にも支障が出ないように勤める形となりますが、それでも構いませんか?」

 彼自身は、書類の文面でしか彼女の力を知らない。だが、彼女なら本部でも十分にやっていけるだけの力があると見込んだのである。

「…どのみち、私は前に進むことしか出来ません。私の、この力が必要ならば、ぜひお願いしてもよろしいでしょうか。」

 彼女は覚悟を決めた目で、彼にそう言付けた。

「決まりですね。こちらからも、よろしくお願いします。水沢さん。」

 そして、彼と握手を交わす姫乃。

 

 

 

 

 これが、彼が信じるに足る同僚(仲間)の一人と出会った、最初の瞬間であった。

 だが、姫乃はこの時まだ知らない。本当の意味での大変な日々が始まるのは、むしろこれからだということを。

*1
それだけ、生徒の転出入が多い。




ご拝読いただき、ありがとうございます。

実際のいじめ事件等も似たような経過を辿るというのは、なんだかなあ、と感じる筆者ではございます。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

後編へ続きます。
それでは、また。
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