刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編の閑話編をお送り致します。
『刀使じゃない少女の奮闘』後編になります。
本編の主人公ら、オリキャラ陣営が揃った時の話になります。
なお、結芽がまだ親衛隊に入る前の頃になります。

長くなっておりますが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。


刀使じゃない少女の奮闘 後編

 ー一年程前 刀剣類管理局本部 廊下ー

 

 面接が終わり、彼は姫乃を人事課の方へと連れてきていた。

 彼女を自身の部署へと引き入れるためだ。

 

 人事課の人間に、今回姫乃の面接を彼に依頼してきた人物を呼び出すように伝える。

「すみません、石橋さんはいらっしゃいますか?」

「少々お待ちください。…石橋さ~ん!」

 呼び出して三十秒ほどして、当該の人間が現れる。中年の男性のようだ。

「ああ、○○(彼の苗字)君。終わったのかい?」

「ええ。…彼女はウチの部署で引き取りますが、よろしいですね?」

「本人がそう言ったのであれば、まあ…。それに、面接を君に任せた時点で、そうなることも予測するべきだったんだろうが…。」

 彼に一本取られたと思った、石橋と呼ばれた男性。

 

 その後、本部や隣接する鎌府女学院を行き来できるように、姫乃の身分証明証やカードキーなど、本部での生活で必要になるものを、一通り人事課や総務課などで済ませる。

 

 

 

 

 そして、彼は姫乃が今後働くことになる、自身の部署へと案内する。

「○○さん、私の配属される場所って、一体どんなところですか?」

「う~ん。…分かりやすく一言で言えば、『なんでも屋』だな。それくらい、ウチの部署はやることがごった煮の職場なんだよ。」

「『なんでも屋』、ですか…。」

「おっと、そうこう言ううちに着いた。」

 二回ノックを叩き、二人は入室する。

 これが、姫乃にとって今の同僚達との初対面(ファーストコンタクト)だった。

 

 

「帰ったぞ~。糸崎、中島。」

「えらく戻りが遅かったじゃねえか。」

「一体、どこで油を売っていたのよ…、って後ろの娘は?」

 彼の後ろにいた姫乃に気付く里奈。

「ああ、紹介する。彼女の名前は、水沢姫乃。今度からウチの部署に来ることになった。」

「み、水沢です!よろしくお願いします!」

 突然の紹介だったが、そこまで慌てることなく二人に挨拶をする姫乃。

「よろしく。」

「よろしくね、水沢さん。」

 糸崎と里奈も、姫乃に挨拶を返す。

「さて、この二人の紹介がまだだったな。こっちの男子が糸崎、主に書類作成とかの事務作業を担当してもらってる。」

「改めて、糸崎だ。困ったことがあったら、なんでも聞いてくれ。」

 姫乃に握手を求める糸崎。彼女もそれに応じ、にこやかな表情で糸崎の手を握り返す。

「んで、こっちの女子が中島。糸崎同様、書類作りもやるが、一応現役の刀使だ。ガサツなところもあるが、いいやつだから気にするな。」

「誰がガサツよ、全く…。私からも、改めて自己紹介するわね。私の名前は中島里奈、元々は平城学館に居たんだけど成り行きでね。貴女とは仲良くなれそうだから、よろしくね。」

「此方こそ、よろしくお願いします!」

 男気勝りの雰囲気がある里奈に安心感を抱き、両手で彼女の右手に握手をする姫乃。

 

 

 

 

 場も温まったところで、彼があることを切り出す。

「…さて、今日分の仕事も終わっていることだし、今から水沢の歓迎会でもするか。建物の詳細な案内は、また明日行うとしよう。」

「どこか予約でもしているの?」

 今日来たばかりの姫乃への、彼の手回しが速いような気がした里奈。

 

 だが、彼の回答は違った。

「いや、折角だし鍋を囲むのもいいかと思ってな。」

「鍋、ですか?」

 歓迎会の主賓である姫乃が、頭上でクエスチョンマークを作る。

「あ、嫌だったか?」

「い、いえ。…同い年位の人と一緒に食べるのが、ちょっと久し振りだったもので、つい。」

「まあコイツ、無神経なところも多いしな。大目に見てやってくれないか?」

「糸崎、無神経ってどういうことだよ、無神経って。」

「実際そうじゃないのよ、アンタ。」

 糸崎と里奈から、容赦ない追撃を受ける彼。

 言われっ放しも嫌だった彼は、反撃に出る。

「別に悪い発想じゃないだろ!…あんまりに仕事仲間がガチガチに固まるのは、流石にマズいだろうと思ったからこの提案をしたわけだし。」

「どうだかねえ~。…まあ、誰かれ手を出す甲斐性なしな奴でもないしね、アンタは。」

 

 付き合いが長くなるにつれて、彼の人間性を知れてきている里奈。

 この性格を知るにつれて、後に自身や自身の親友と、彼との関係性に難儀することとなるが、ここでは触れないこととする。

 

「で、お前は誰の部屋で歓迎会をするつもりなんだ?」

「そりゃ、言い出しっぺの俺だろう。昨日のうちに、数日間分の鍋の食材を買っておいたところだし。…まさか、一日で使い切ることになるそうなのがな…。」

 自身は少食なのでいいにせよ、周りに関しては程々に食べるので、量が足りるのか気になった彼。

「…まあ、どうにかなるか。」

「んじゃ、お前の部屋に連れていってくれよ。」

「ほいよ。」

 先へ進む男組。

「私達も行きましょうか?」

「ええ。…さ~て、何鍋かしらね~。まさかの闇鍋とか。」

「そ、それはちょっと…。」

 里奈の予想に、苦笑いが思わず出る姫乃。

 

 

 その後、彼の手で振る舞われたすき焼き鍋を囲いながら、四人は互いの親交を深め合うのであった。この時に、彼は姫乃から「さん」呼びを止めて、苗字で呼ぶようになった。

 

 

 

 

 翌日、姫乃は彼と里奈から、刀剣類管理局本部や鎌府女学院の施設を案内されていた。

 

「水沢、だいたいでいいんだが、覚えられてきたか?」

「はい、何とか。後で地図を貰えればありがたいのですけれど、よろしいでしょうか?」

「それは構わないぞ。略図と校内図は、後で部屋で渡そう。」

「ありがとうございます。」

「それにしても、アンタもよくこの広い敷地のことを知ってたわね。」

「まだ糸崎や中島(お前)と会う前に、何度か散策してるんだよ。勿論、女子しか入れないエリアは、行ったことがないが。」

「その割には、足に迷いなく歩いていたわね。」

「ちょっとばかし、記憶力には自信があってな。そのせいだろう。」

(…まあ、舞草の諜報活動の一環で知ってた、とは口が裂けても言えんわな。)

 

 誰しも一つや二つくらい秘密を抱えているとはいえ、刀剣類管理局に所属する人間が、そんな爆弾クラスのものをカミングアウトなどできるわけもなく、敢えて受け流す彼。

 そんな折、その彼の羽織っていた折神家のジャージから、スマホの着信音が鳴り響く。

 

「はい、◯◯です。…はい、…はい。了解しました。至急応援として、現地に向かいます。」

 終了ボタンを押すと、姫乃と里奈に向き合う彼。

「どうか、したんですか?」

「まさか、またお呼びが掛かった感じかしら?」

「…正解、中島。親衛隊は動けないらしいから、ウチにお鉢が回ってきたようだ。」

 はあ~、と大きな溜め息を吐き、ガックリ上体を前に少し倒した彼だったが、その頭を上げた時には、覚悟を決めたように固い表情へ変わっていた。

「中島、糸崎に連絡して諸々の装備の準備と、お前も御刀を持って出る準備を。俺は車を確保してくる。」

「了解。糸崎と一緒に、五分後には駐車場に出ておくわね。」

「じゃ、また後で。」

 そして、職場へと駆け出す里奈。

「あの~。私はどうしたらいいですか?」

 来てまだ一日程度の姫乃。当然、こうした時の動きが分からないのは自然な事だった。

「…よし。水沢、今から一緒に、本来の俺達の仕事を見てもらう。」

「本来の仕事、ですか?」

「……荒魂討伐だ。」

 

 ここから、姫乃の日常はいよいよ“普通の”ものでは無くなっていくことを、その身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 ー神奈川県横浜市 横浜火力発電所ー

 

 首都圏への電力供給を目的とし、天然ガスを主な燃焼物として発電を行っているこの場所には、一般向けにイチゴ狩りのできる施設が整備されていた。そこがオープンしてからそう日の経たないうちに、荒魂の出現が確認されたというのは、事業者にとっては泣きどころであろう。

 

 

 首都高速で赤色灯を回転させながら緊急走行する、彼の運転するワンボックス車。この時に初めて、いつもの四人での行動が行われることになった。

 ちなみに、本部ではYシャツにジャージを羽織っていた彼だが、今は防弾チョッキとカーキ色の戦闘服を着込んでいた。糸崎も似た服装をしている。

 

「んで、状況は?」

「芳しくないな。鎌府の刀使が交戦中だが、場所が場所だけに、迂闊に手が出せないそうだ。」

「…少し動けば天然ガスのパイプライン、此方が動かなくとも発電設備を襲いかねないのがな…。」

 

 助手席に乗る糸崎から、詳細な現状を伝えられる彼。

 作戦を練ろうにも、仮に東扇島火力発電所から送られてくる天然ガスのパイプラインや、液化天然ガスの貯蔵タンクに荒魂の攻撃や銃弾が直撃した場合、大爆発を起こす可能性を否定できなかったのである。

 

「…首都高速に誘導できるか?」

 ポヤッとそんな考えも浮かんだが、隣の糸崎は怪訝な顔をする。

「さらっと言うなよ、さらっと。だいたい、パイプラインにも接触させずに無事に引きずり出したところで、どう退治するつもりだ?」

「中島、S装備はまだ射出されてないんだよな?」

「ええ、確かまだな筈。現場の状況がコントロール出来てないから、と言うのが本部の見解よ。」

 加えて、まだ特祭隊の部隊が展開出来ていないという事情もあったのだが、まさに現場に向かっている彼らはそれを知らない。

「……さーて、どうしよ…。」

 珍しく、今回ばかりは手詰まりに感じる彼。発電所設備を壊さないように対処するという、通常よりもハードな条件が加わったことで、余計に悩ましく思った。

 

 

「…一体、何の話をされているんですか?」

 一人蚊帳の外に居た姫乃が、隣の里奈に尋ねる。

「ああ、今からどうやって荒魂を対処しようか、っていうのをね。本当なら親衛隊っていう、刀使の中でも精鋭の人達が居るんだけど、その人達が来られないから、私らが代わりにその討伐作戦の立案と決行を任されたのよ。」

「えっ、皆さんが考えられているんですか!?」

 里奈の言葉に衝撃を受ける彼女。てっきり、大人が指示を飛ばしているのだと思っていたのだ。

「生憎ウチは人手不足だからな。手が足らないなら、自分達でどうにかするしかない。…俺もこの道に進むまでは、水沢と同じことを思っていたぞ。」

 一般人だったが故に、彼女のそのショックにも共感できた彼。

 

「じゃあ、たまにニュースになる荒魂討伐って…。」

「大部分は現場の刀使達の指揮だな。たまにだが、俺も刀使への指揮を行うことはある。非常時だけどな。」

「えっ、そうなんですか!」

「ただ、その時に直接現場で指揮しようとしたら周りに止められるのは、どうにかならんもんかねぇ…。」

「「それはダメだろ(でしょ)!!」」

 彼のボヤキに糸崎と里奈が突っ込む。

「お前、自分から率先して死にに向かってどうすんだよ!刀使じゃねんだから、後ろで指揮しなきゃマズいだろうが!」

「しかもアンタ、この間もまだ戦闘が終わってない時に、身動きとれない刀使を救援しに行ってるじゃない!その時は、別の刀使がカバーに入ったおかげで事なきを得たけど、そう何度も幸運なんか続かないわよ!」

「…す、すまない。」

 声のトーンが下がる彼。

 

「……要は、◯◯さんって刀使さん想い、ってことですか?」

 先ほどまでの会話を聞いて、姫乃は率直な意見を出す。

「そう…、なるのかね?」

「何で自分で疑問に思ってんのよ?そこは自信持ちなさいよ!」

 親友(彩矢)から彼のことを託された里奈からすれば、たまにうっかりボケをかましてくるこの同僚()に不安を覚えることもあったりする。とはいえ、数ヶ月彼の人となりを見てきた彼女としては、十分信用に足る人物であるとも思っているのだが。

「まあ、謙虚なのは大事だけれど、あまりに謙虚過ぎると大変なことになったりするんだから、程々に頼むわよ。」

「ああ、うん。…ホントにやれているのかね…。」

「そういえば、私はその…。現場に着いたら何をすればいいんですか?」

 まだ現地で何を行うのかを聞かされていない姫乃は、彼に訊く。

「今日は、俺達が具体的に何をやっているかを見てもらうだけだから、特に何かをしてもらう必要はないぞ。」

「えっ、私はお荷物でしたか!?」

「違う、違う。」

 左手を左右に振る彼。ハンドルは右手でキチンと握っている。

「水沢は、荒魂討伐がどんな形で行われているのかを知っているわけじゃないだろう?まずは、何をしているのか、そこから入らないとイメージを湧かせにくいだろうしな。そこで、自分の出来そうなものがあれば見つけてほしい、と俺は思っている。」

「そういう、ことですか。」

 意外と自分のことを考えてもらっていることに、納得した彼女。

「…自分のできること、ですか…。」

 思わず自分の両手に目を下ろす、姫乃。中学校では尊敬と嫉妬の混じった自身の力が、ここで生かすことが出来るのだろうかという、不安と期待も実感として湧き出していた。

「あそこか…。」

 首都高速から見える、迫りつつある二本の長い煙突の下で、今まさに荒魂と刀使の闘いが行われている。

 姫乃以外の三人はいつも通りの、姫乃にとっては初めての実戦に繰り出そうとしていた。

 

 

 

 

 現場に滑り込んだワゴン車。

 車から降りると、後ろの荷台から銃火器や医療キット、電子端末などを下していく。

「よし、行くぞ。」

「「「了解!」」」

 四人は臨時指揮所へと入っていった。

 

 

「じゃあ水沢、椅子に座ってもよし、歩き回るもよし。今日掴めるものは掴めるだけ、見て行ってくれ。但し、ここからはあまり離れないこと。それが条件だ。」 

「分かりました。…お気をつけて。」

 彼から指示を受け、姫乃は糸崎や里奈も見送る。

「行ってくるな~。」

「また後でね。」

 三人は臨時指揮所を離れ、それぞれの配置に着く。

 

 

 臨時指揮所の中は、テントといえども複数のディスプレイやパソコン、無線などの通信機器をはじめ、簡易的な休憩スペースや携帯などの充電用スペースも設置されていた。

 一見すると税金の無駄遣いなどと言われそうだが、実際問題として必要になるものであるから、その辺りの折り合いは難しいところではある。特別祭祀機動隊の活動を分かりやすい例えで言うなら、頻度に実戦を積む自衛隊といったところか。実際、現場の刀使や特祭隊員は死と隣り合わせであることに、何ら齟齬は無いのである。

 

「私、知らなかったな…。荒魂と戦う場所がこんな感じだなんて。」

 姫乃は、思ったことを口にする。

「…あのモニター、○○さんと糸崎さんが映ってる。…って、よく見たら銃を持ってる。」

 別れた時、銃はケースに仕舞われていて分からなかったのだが、男二人は既に展開を終え、配置に着いているようだった。

「…ん?お二人、携帯か何かを見ている……!!動きが変わった!」

 スペクトラムファインダーの事をまだ知らなかった彼女は、突然画面に映る二人の構えが変化するのに驚く。

「お嬢ちゃん!一旦ここから離れるよ!」

 それと同時に、横から三十代くらいの男性特祭隊員が彼女の意識を其方に向かせる。

「えっ、何かあったんですか?」

「急いで!荒魂がこっちに来てる!」

「ちょっと、えっ!」

 そのまま、その男性に手を引かれ、テントの外へと引っ張り出される。

 

 

 

 

 そして、テントを出た僅か数秒後。

 

 

 

 

 ギャオォォォォーーッ!!

 

 

 

 

 喧しく唸る大蛇のような荒魂が、臨時指揮所のテントを軒並み吹き飛ばした。

 テントや中にあった装備などは、ボールのように宙を舞い、近くの軽装甲車などに直撃する。

 中には、フロントガラスが粉砕されるものもあった。

 

 

「…あれが…、荒魂…。」

 テントから少し離れた軽装甲車の陰に隠れた姫乃は、間近で初めて見る荒魂の姿に、体を強張らせる。

 

(逃げなきゃ…。…逃げなきゃ…!!)

 本能的に生命の危機を悟る彼女。彼女の手を引いてくれた男性は、ヘルメットをしていたとはいえ、物が頭に当たった際にどうやら気絶したらしく、足元で倒れていた。

 足元の男性も気にかかるが、まず自分の命の方が大事だと考え、荒魂から距離を取ろうとする。荒魂に対して無力な一般人にとって、その行動は何ら責められることではない。

 だが……。

 

 

「…!足が、動かない!!」

(どうして!お願い、動いてよ!)

 恐怖のあまり、両足が完全に硬直してしまっていた。

 これでは、駆け出すことさえ出来ない。

 

 

 バーン!

 

 

 遂に、自身や男性の盾として目前にあった軽装甲車が、荒魂の一撃で横に吹き飛ばされる。

 軽装甲車は、数十mほど飛ばされた後、ボンネットから地面に叩き付けられ、そのまま爆発炎上する。

 ブワッと、彼女の身体に熱波が襲うが、そんなことは気にしていられない。

 荒魂がもう数歩寄ってくれば、彼女の命を刈り取れる位置にまで迫ってきていたのだ。

 

 

「…いや。誰か…。誰か、助けてくださーーい!!」

 眼前の荒魂が、彼女へと無慈悲な一撃を繰り出す。

 

 

 

 

 もう駄目か。

 彼女は、せめて一瞬だけでも短い生涯を振り返ろうと思い、目を瞑ろうとした。

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁーーっ!」

 耳に、女性の大声が届くまでは。

 

 

 

 

 

 

 ガキーン!!

 

 

 

 

 百足の脚のような腕を、御刀で押し留めたのは里奈だった。

「まだ生きてる!?」

「中島さん!?」

「里奈でいいわよ!動けるなら、その人を連れて早く安全な場所へ!」

「はっ、はい!」

 言われるがまま、男性の腕を肩に回し、その場から脱出する姫乃。

 

 

 

 

 そして、そこから数分の後、S装備のコンテナが現場に到着。

 暴れ回った荒魂は、無事に討伐された。

 

 

 

 

 それから数日後。

「○○。水沢、来ないな。」

「…一応、掠り傷ではあったんだが、精神的な方は俺にはどうにも出来ないしな。…まして、最初の現場でこれだ。辞めたいと言われても、それを止める義務も権利も、俺には無いしな。」

 糸崎と彼がそう言い合っていた。

 姫乃をテントから引っ張り出した男性は、幸い意識を取り戻したという。とはいえ、秩父の時のような事態*1がまた起きたことで、彼の方も少しばかりショックを覚えていた。

「今回は死人も出なかったんだし、そうくよくよするなよ。」

「とはいえ、水沢を危険に晒したことに変わりはないんだよな…。……はあ。」

 不可抗力には相変わらず弱いと感じる彼。もし里奈が居なければ、姫乃も男性もどうなっていたのか、想像もしたくない惨状になっていたことだけは、考えても分かることだった。

 

 

「おはよう~。」

「「おはよう。」」

 そうこう言っていると、里奈が出勤してくる。

「えらくテンションが低いじゃないの。二人共。」

「まあ、な。そういう中島は、えらい上機嫌だな?」

「ええ。…入ってきて~、姫乃。」

 里奈がそう言うと、部屋に姫乃が入ってくる。

 

「水沢…!ケガはもう平気か?」

「はい。里奈さんが守ってくださったお蔭で、もう治りました。」

「そうか…。よかった…。」

「ところで、入室してくる時に何か躊躇ってたみたいだけど、どうかしたのか?」

 糸崎が、ふとした疑問を姫乃にぶち当てる。

「いえ。…ここに勤める覚悟ができましたから。」

「水沢、それって…。」

「…○○さん。あの日、ずっと貴方がたの行動を見てきました。里奈さん、いえ刀使さんやそれを支える人達の姿を、私は今まで知りませんでした。でも、その道に導いてくれたのは、他でもない貴方です。だから、私も刀使さん達の力になれるように、頑張りたいんです。」

 

 数日のうちに、自分の考えを纏めた彼女。荒魂に対峙した時に、死を覚悟してもなお彼女の命を救った里奈、いや刀使達に感謝と尊敬の念を抱いたのは、事実だ。

 その彼女達に報いることとして、何か出来ることをしたいと思うのは自然なことだろう。逃げても誰も責めなかっただろうが、彼女は同時に荒魂と向き合うことを決めたのである。

 

「私、水沢姫乃は、貴方の部隊の一員として今後も頑張っていきます。…改めて、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 こうして姫乃は、刀剣類管理局本部の一員として、荒魂に立ち向かう一人として、その人生の転換点を迎えることになった。

 そこから、刀使や荒魂について勉強して、頭がパンクしかけることになるのは、また別の話である。

*1
詳しくは主人公編『死線を越えて』前後編参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

番外編は残り二話ほどになります。
そこで一旦番外編からは離れます。そこから先は、また暫くメインメンバーの投稿へと戻ります。
もう少々お待ちください。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

それでは、また。
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