今回は番外編として、閑話編をお送り致します。
この話はエレン編や紫編などで、なぜ主人公が刀使やサポートメンバーとの恋愛面での距離を置こうとしているのか、というその遠因になった出来事になります。
前後編形式になっておりますので、ご容赦ください。
今話は前編です。
時系列は御前試合より遡り、姫乃が配属される更に前の頃になります。
前半は御前試合前の三月頃を想定して執筆しておりますので、ご注意ください。
なお今話から、糸崎の地の文での表記を、名前である誠司表記に変えています。(なるべく分かるような配慮はして参ります。)
それでは、どうぞ。
ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー
生徒会などでは対応しきれなかった、伍箇伝各校の刀使達や生徒の相談や要望などが届く、彼の部署。
これはここでの業務の一部ではあるのだが、新型装備の試験や改良点の提案なども行っているため、どちらかといえば地味なものではある。だが、これも荒魂と日々対峙する彼女たちの不安を払拭するためなら、という彼の願いを聞き入れた紫の計らいで、こうした業務を回してもらった次第だ。
部屋で作業中の彼と誠司は、その一部に取り掛かりつつ話す。
「しっかし、お前も悩み相談室みたいなことをやろうなんて、変わったことを考えたもんだなあ。」
「そう言う糸崎も、そんな俺によく付いていこうと思ったな?」
「まあ、お前には早希のことで色々世話になったからな。」
「それだけか?」
「…その節*1はすまなかった。」
「あん時のことは、別に責めてねえよ。」
試み自体はやりだしてしばらくになるのだが、相談を受理された者達からは概ね好評であったという。
単に聴く、というだけではなく、彼や同僚たちも実際に相談などを持ち込んだ本人たちに、アドバイスやらを行うので、そうした点からも評価されているのだろう。
「ただいまー。」
「今戻りました~。」
「お疲れさん。中島、水沢。」
鎌府の方に出向いていた女性陣が戻ってくる。
「糸崎。三原さんに会ったら、アンタのことが恋しい、って嘆いてたわよ?」
「仕方ないだろ。俺だって、早希のところに行きたいのは同じなんだからな。」
「その前に、その溜まった書類を片付けてからにしろよな。…だいたい、お前の処理能力なら一日二時間くらいでそれらが片付くのに、なんでいつも纏めてやってんだよ…。」
「そう言うなら、○○(彼の苗字)も手伝ってくれよ。」
「無理だ。こっちもちょっと手が離せない。」
「…ん?恋愛相談?珍しい案件ね。」
里奈が彼のパソコン画面を覗き込む。
…当然ながら、彼はパソコン作業中なので、彼女の体は彼と接触してしまう。
ふにっ、という柔らかい感覚が彼の上腕に伝わる。
「!?…中島、お前の身体が当たってるんだが。」
「はっ!?―アンタ、まさか!」
一瞬、彼が不埒なコトを考えたのかと思い、刀ケースに収めていた御刀を抜く里奈。
「待てまて!単に注意したかっただけだ!…その反応だど、おおかた無自覚だったんだな?」
「…うっ。…悪かったわね。」
自身の不注意に気が付き、すぐに御刀を仕舞う里奈。
それを見ていた誠司と姫乃が、それぞれ思ったことを口にする。
「ホント、仲良いよな。お前ら。」
「まるで夫婦漫才ですね。」
「「どこがだ(よ)!!」」
ハモる二人の声。…確かに、こうも息ピッタリならそう思われても仕方はないのだろうが。
少し動転していた里奈が落ち着きを取り戻し、先程彼がとっかかっていた相談内容に話を移す。
「で、話は戻るけどさ。さっきの相談は、刀使の娘からのなの?」
「文面を読んだ限りはそれっぽいけどな。…ただ、似たような構図の相談を、つい数日前見た記憶があるんだよなぁ。」
「そりゃ、五校もあればそれくらい普通にあり得る話でしょ?」
「…同じ学校で二件とも刀使なのにか?」
「……確かに、偶然にしては不自然ね。しかも数日以内となると。」
「どう、不自然なんだ?」
横から誠司が疑問をぶつける。
それに、何とも歯切れの悪そうな口ぶりで返す彼。
「あー、…昔俺と中島が関わった案件に似ている、って言ったら分かるか?」
「……言伝に聞いた、あの修羅場のことか?」
「そう、それ。」
「でもそれって、◯◯さんが解決なさったって、里奈さんからお聞きしましたけれど?」
「…いや、実は中島にも言ってなかった部分があるんだよ。また似たようなことがあっても困るし、この際だから話すか。」
「何よ、言ってなかったことって。」
「取り敢えず、知らない糸崎と水沢のために、発端から話していくか。」
そして、彼は一年以上前にあった、第三者からすれば遭遇したくない修羅場を語り始める。
ー一年以上前 刀剣類管理局本部 彼の職場ー
その発端となった相談は、どこにでもあるような普通の恋愛相談だった。
相談者は鎌府の刀使で、その内容は、
『本部にカッコいい先輩が居て、その人から告白された。異性に告白されるのは初めてで、性格も良さそう、かつ自分のことを可愛いと言ってくれた。』
と、ここまではただの惚気話であるが、問題は後半部分で、
『しかし、出掛けた時に時々携帯を長時間扱うことがあり、何度か予定を途中で切り上げられて、先輩が先に帰ってしまうことがあった。先輩の同僚に、早期帰宅したそれぞれの日に、先輩の出動はあったのかと尋ねたところ、全然そんなことはなかったという。先輩のことは信じているが、念のため其方で調べてもらえないだろうか?』
ということだった。
「一種の内偵調査をしてくれ、ってことかこれ?」
「○○、なんか珍しく頭を抱えてるわね?どうかしたの?」
右手の親指と人差し指で眉間を押さえていた彼に、里奈が声を掛ける。
「いや、この相談者が名前を挙げているのが、昔世話になった先輩*2の一人でな。…そっか、あの人にも春が来たのか。」
「どんな人なの?その先輩って。」
「よく言えば柔軟、悪く言えば優柔不断って感じの人だったな。主に事務系、決裁文書の作り方とかを教わったんだよ。」
「へー。そうなんだ。」
「しかし、あの人に彼女ねえ…。」
一瞬微笑ましくも思ったのだが、相談者の文言に違和感を覚える。
「その割には、何か引っ掛かるところもあるな。」
「予定を切り上げていたってところ?」
「無論それもだが、もし彼氏と一緒に居たいなら、二人で居る時の携帯を扱う時間は、普通は減らないか?極度の人見知り、若しくはコミュニケーション能力に不安を抱いていないとかでない限り。」
「…確かに、変な話ね。―まさか、浮気?」
「そう決めつけるのは時期尚早だろうよ。もしかしたら、家族が急病に罹って大変とかかもしれないし。」
「…そうね。」
「ということで、相談者の方はお前に任すわ。」
「はあっ!?アンタは?」
「俺は先輩の方をあたってみるさ。…何も無けりゃ、いいけどな。」
「はーっ。仕方ないか。…短期で片付けるわよ。」
「分かってるよ。」
こうして、彼と里奈はこの案件に首を突っ込むことになった訳である。…この時に感じた、彼の嫌な予感は後々的中するのだが、それは追々綴るとしよう。
翌日、相談者の方は里奈が、先輩の方には彼が話を聞きに向かった。
まず、鎌府の方へと向かった里奈の方を見てみよう。なお、相談者は以後Aとする。
「初めまして、貴方が相談をしてくれた娘でいいのよね?」
「はい…。」
「私は中島里奈、本部の人間よ。…と言っても、貴女と同じく刀使なの。よろしくね。」
相手の警戒心を解くため、Aに握手を求めた里奈。
「あ、ありがとうございます。」
差し出された手を握り返すA。
「それで、早速だけど今回の相談は、貴女に告白した男が何をしているのか知りたい、ってことでいいのかしら?」
「はい…。どうしても、気になってしまって。」
「でも、部外者の立場からこういうことは失礼を承知で言うけれど、彼氏がいるだけ、幸せかつ珍しいことよ。」
「えっ、そうなんですか?…中島さんのほうが綺麗だと思うんですけれど…。」
「生憎、男運が無くてね。だいたい、出会ってすぐに愛想尽かされるのがオチよ。…貴女のような後輩にさえ先を越されていくのは、世の常なのかしら。」
「き、恐縮です。」
「まあ、それはさておき。貴女は、彼が何をしているのかを知って、その後どうするの?」
「関係は…出来るだけ続けたいです。初めての彼氏ですから…。裏切られたと、私が感じない限りはですが。」
「そう…。分かった。結果は、なるべく早く伝えられるようにするわね。」
「わざわざ相談依頼を引き受けて下さり、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「これが私達の仕事だから、気にしなくていいわよ。それじゃ、分かり次第連絡するわね。」
「はい。」
この時の里奈の対応には、何ら問題は無かった。
相談者には申し訳なかったのだが、常時、対応に問題が無かったかを後で検証できるように、録音も行っていた。これには、試行錯誤を繰り返している彼なりの苦悩もあった。何しろ、相談に関しての量的・質的データが揃うには時間が掛かるうえ、相談者の内容も千差万別であるからだ。
正直、蓄積データから論文一本を書くことも容易なレベルではあるだろうが、個人情報の絡みもあり、現状では金庫内にて日の目を見ることがないように、固く収められている。
同じ頃、彼の方は本部内の別の部署を訪れていた。
相談者が調査対象者として挙げていた、先輩に会うためだ。
「お疲れ様です。△△(先輩の苗字)さん。」
「○○か。なんや、元気しとるんか。」
少し大阪弁風の話し方をする先輩。
「何度か死にかけたことはありましたが、この通り両足揃えて立ってますよ。」
「そうなんやな。んで、どないしたんや。普段、お前がここに来るなんてことはまず無いやろ?」
「ええ、実はあるところからの依頼でして。お話を聞くために、通して頂いてもよろしいでしょうか?」
「おっ、おう。それは構わへんが…。」
話を聞くと言った途端、何故かたじろいでいた先輩。
(…何か、あるかもしれないな。)
感じ取りたくない嫌な予感が、更に強くなった気がしてならなかった彼。
先輩の部署内にある、小じんまりとした応接セットの椅子に腰掛ける両者。
「それで、話って何や?」
「単刀直入にお訊きします。…どなたかに、何か隠し事をなさっていませんか?」
「隠し事ぉ?……そんなもん、あらへんよ。」
「そうですか。」
(今、不自然に間が空いたな。限りなくクロに近いグレーか。)
「もし何かあるようでしたら、此方の方に連絡をください。すぐ対応しますので。」
そう言って、先輩へ自身の名刺を手渡す。もしも長話になった時に備えて手帳を開いていたのだが、今日の段階では得られるものが無いと判断し、撤収準備を始める。
「もう帰るんか?」
「ええ。何も無いのでしたら、此方が突っ込んで聞くようなことはありませんから。」
「そうか……。ふ~っ。」
安心したかのように、息を吐く先輩。
「ですが。」
その安心感へ釘を刺すように、彼は静かに告げる。
「もし隠し事があるなら、早めに打ち明けておいた方が身のためですよ。…打つ手なく、一度悪い方向にコトが進めば手遅れになりますから、それは覚えておいてくださいね。」
その瞬間、先輩の表情は酷く凍りついていた。
それを見ること無く、彼は先輩の部署を後にした。
先輩の同僚達は、この二人のやり取りを不思議そうに眺めていたが、すぐに自身の業務へと戻っていった。
彼が職場に戻ると、相談者から聞いた内容を纏めていた里奈を見つける。誠司と姫乃は、どうやら席を外していたらしい。
「中島、どうだった?」
「間違いなく、彼氏の方は何かありそうね。アンタは?」
「…少なくとも、家族が罹患したとか、そんな類いでは無さそうだ。だったら、俺が訪問した時に話せる内容だしな。…それに、俺が来たとき、えらく動揺してたよ。」
「…ますます怪しくなってきたわね。」
「勘弁してくれ…。」
その後、先輩の両親に連絡を取り、ここ数ヶ月以内に傷病で病院に罹った親類が居ないか尋ねたところ、一人としてそうした人間は居なかったという。
これによって更に疑惑が深まり、先輩の両親には此方が連絡を入れたことを
それから一週間程、先輩の同僚や友人に聞き込みなどを行った結果、どうやら二股を掛けている可能性が浮上してきたのである。
だが、いずれも証言に留まっていたため、決定的な証拠には欠けている部分があった。これでは、相談者もモヤモヤしたまま日常を過ごすことになり兼ねない。
そこで、先輩の同僚に協力を仰ぎ、白黒をはっきりさせることにした。…まさかそれが、彼にとっての修羅場を引き起こす火種になるとは、彼自身、思いもよらなかっただろう。
ー神奈川県横浜市 横浜・八景島シーパラダイスー
クリスマスシーズンの足音が迫るなか、カップルなどが多数居るこの場に彼と里奈の姿もあった。
二人共、片耳にインカムを付けていた。
「それで、何でこんなカップルだらけの中に混じって、私も駆り出されたワケ?」
『仕方ないだろ。俺一人だと捲かれる可能性が高いし、リスク分散だよ。』
「…まさか、探偵でもないのに尾行することになるなんてね。本当に上手くいくんでしょうね?」
彼がとった作戦。それは、遊園地の割引チケットを使った、誘き出し作戦だった。
『もし、誘いに呼んだのが相談者なら、疑念はあるが経過観察。他の女子なら、クロだ。』
「…男同士で、という可能性は考えなかったの?」
『カップルプランの割引チケットで、それをやると思うか?それに、相談者の任務が無い日へわざわざ誘導したんだ。…ここまでお膳立てしておいて、彼女以外を取るというなら…。』
途端に声が低音域に変わる彼。
「ちょっと。アンタ、恨み節が混じってるわよ。」
『あっ、ああすまん。…万一に備えて、スタンバトンとゴム弾入りの自動拳銃は準備しといた。確か、中島の背負っているギターケースには、御刀が入っているんだろ?』
「ええ。これなら、刀使と気付かれないだろうし。」
後に可奈美や姫和が御刀を隠す際に実践するこの方法は、集団の中であれば案外バレにくいものであった。…但しこのような場でなければ、余計目立つものではあったが。
インカムでやり取りをしている中、調査対象者である先輩が里奈の視界に入る。
「…来たわね。調査対象者よ。」
『こっちからは見えないが、先輩は一人か?』
「ええ。今のところは…。…えっ!?」
彼に話しかけていた里奈は、思わず自身の目を疑った。
『どうした?中島。』
「…嘘でしょ。報告、調査対象者に女子が近づいているわ。しかも、刀使よ。」
『相談者か?』
「いえ、違うわ。彼女は白色の鞘だったはず。今見えるのは、紫色よ。」
『…偶然か?』
「もう少し見てみる。…そろそろ、アンタのところからも見える筈よ。」
『了解。』
双方、一度インカムの通信を切る。
「あれか…。此方には気付いていないみたいだな。」
ちょうど、自身の横を通過する先輩と刀使。制服から見るに、鎌府の娘のようだ。
「変装しといて正解だったな。…だが、どうなんだ?怪しさはあるが、もしかしたら任務帰りでたまたま会った可能性も……。―はあっ!?」
思わず、変な声を上げた彼。
なんと、先程の刀使と調査対象者が手を繋いでいるではないか。しかも、あろうことか恋人繋ぎである。
思わず声を上げてしまったが、幸いなことに周囲の雑踏がそれを打ち消したため、先輩達には気付かれていなかった。
インカムを通話モードにし、里奈に現状を伝える。
「中島、動きがあった。先輩はクロだ。今、さっきの刀使と恋人繋ぎをしている。」
『えっ!!嘘でしょ!』
「取り敢えず写真は撮ったが、追うか?」
『念のため、より強固な証拠を掴みに行きましょう。…これじゃあ、あの娘が可哀想だわ。』
「…現実は非情だな。」
二人は、調査対象者達に気付かれないように追尾する。
あちこちのアトラクションなどを回り、ベンチに腰掛ける先輩と紫鞘の刀使。以後Bとする。
「あ~、ホントBは楽しそうにしーはって、こっちも連れてきて良かったわい。」
「私もです、△△さん。」
「なあ、こっち向いてもらってもええか?」
「はい?」
「……言わんでも、分かるやろ?」
「△△さんって、意地悪な人ですね。…目を閉じますから、後は好きにしてくださいね?」
Bからの言質を取った先輩。ニッと笑うと、自身の顔を徐々に近付けていった。
近くの茂みに隠れて、集音装置で状況証拠を収集していた彼と里奈は、先輩の驚きの行動に衝撃を隠せなかった。
「くっそ、止めるべきか?」
「駄目よ。今行ったら、調査対象者が逆上することが目に見えるわ。…決定的な証拠を押さえるのが先よ。」
「…なぜだろう、物凄くあの人をブチのめしたくなるのは…。」
「あの感じなら、Aさんには黙っていそうね。…あの娘も知っているのかしら。」
「…恐らく、刀使の娘は性格的にも良い娘が多いから、それにつけ込んだんだろうな。」
「……なんで、こんな気分の悪いことやってるのかしらね。私達…。」
そして、先輩とBの顔がもう数㎝という距離まで迫っていく。
そんなタイミングでふと、不自然な風切り音を彼は耳にする。
「―ん?……!!中島、集音装置はほっといて構わん!すぐに御刀を抜け!」
「何でよ!」
「上空から降ってくるぞ!依頼人が!!」
「は!?」
里奈が聞き返す前に、彼は先輩達のもとへと駆け出していた。
遂に口付けを交わす、先輩とB。
ここだけ切り取るならば、至って純愛な関係性を築いていると思われそうである。事実、お互いに幸せそうな顔をしていた。
ドスン
だが、そんな時間は瞬時に瓦解する。
誰でもない先輩が原因で、である。
「……随分と、お楽しみだったようですね。先輩。」
「―な、なんで、お前がココに!?」
先輩の表情は、みるみるうちに青ざめていく。
着地時に生じた砂塵が消えた後、眼前に立っていたのは、瞳からハイライトの消えたAだった。
「それはこっちのセリフです。……こんな人だなんて、思いたくなかった。…先輩のこと、私信じてたのに!」
「ま、待て!な、話し合おうや!」
「△△さん、あの娘は一体?」
「ああ、え~っとやな。その…。」
歯切れが段々悪くなっていく先輩。
「貴女も、先輩に騙されたクチですか。」
「はっ、何をぉ!」
「この人、私に告白しておいて、貴女にも手を出していたみたいですね。…最も、大切にされていたのは貴女の方だったみたいですが。」
「―△△さん、どういうことですか?」
「…ぐ、クソッ!!今まで、バレてなかったはずやのに!」
「私が聞き出す際に圧力を掛けたら、貴方の同僚が今日ココに行くと教えてくれましたよ。…股がけしているのを聞いたのは、それが初めてでしたが。」
「…さいっってい、ですね。まさか、唇を許した相手がこんな男だとは思いませんでしたよ。」
「どうせこの後、ホテルにでも貴女を連れ込むつもりだったんじゃないですか?…そうはさせませんけど。」
既に抜刀状態のA。その剣先は先輩に向いていた。
一般人の先輩相手ならば、命を取ることも簡単だろう。
「ま、待てA!お前、刀使としての使命を忘れたんか!?」
「貴方に言われたくありません。……初めて告白されて、好きになった人だったのに。……貴方を殺して、私も死にます!!」
覚悟を決めたAの目には、悲哀と憤怒の感情が混じっていた。
「…おっ、おいB!どないかせんかい!」
「残念ですが、△△さんには愛想が尽きました。…私としても、くたばってもらって結構です。」
Bの方も、二本の御刀を鞘から抜き出す。
「な、なんでこうなるんやー!!」
先輩は、自身が招いた結果を認めようとしなかった。
その時、一発の弾丸がAの目前を過ぎる。
「そこの刀使二人、動くな!!」
Aが飛び出す前に、彼が警告射撃を行ったのである。
飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのことか。
流血沙汰へ発展直前の修羅場に、彼は突入した。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
あと二話で百話の大台に乗るのだなぁ、などと思いつつ、意外とあっという間に過ぎゆく日々に恐怖する筆者でございます。
本日は美奈都さんの誕生日になります。
存命中も隠世でも娘に剣術の楽しさを教え、伝え続けた彼女の想いはきちんと可奈美に受け継がれていったのだと、筆者はそう考えています。
(だからこそ、24話での親子の抱き合うシーンで号泣してしまったのですが。)
早めに後編も投稿させて頂きます。
それでは、また。