刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編の閑話編をお送り致します。
今話は後編になります。前編で彼が現場に介入した場面から始まります。
前編をお読みになったうえで、今話を読まれることを推奨致します。

それでは、どうぞ。


股掛けした男の末路 後編

 ―一年以上前 神奈川県横浜市 横浜・八景島シーパラダイス―

 

 左手にスタンバトンと右手に自動拳銃を持ちながら、刀使二人にそれを向ける彼。当然ながら、これが気休め程度にしかならないことは分かっていた。

「…な、何で○○(彼の苗字)。お前がここに…。」

「貴方の身辺調査ですよ!最も、ここまで一気に事態が深刻になるとは思ってませんでしたけど!!」

 二人の刀使を牽制しつつ、この場に居た理由を先輩に告げる彼。

「○○さんって、…私が相談したところの部署の人じゃないですか!どいてください!」

「誰かは知りませんが、私も腹の虫が収まりませんから、怪我をしたくなければそこから離れてもらえませんか。」

 相対していた刀使二人は、声音からもかなり怒っているのが分かった。双方、剣先が微妙に震えていたからだ。

 

「二人とも落ち着いて。今ここでこの男を斬り殺したところで、貴女達に残るのは割に合わないほどの殺人の罪と社会的制裁だ。…俺はそれを黙って、二人を犯罪者にさせるつもりは毛頭ない!」

「―そんな綺麗事を!!」

「そう言ってなあなあにされて、なんで此方が泣き寝入りしなきゃならないんですか!?」

 挙がる非難。彼女達の言い分は最もである。

「…君らの、この先輩(クソ野郎)に費やした時間は返ってこない。それは確かだ。だが、こんな奴のためにこれ以上君らの時間を奪われる必要なんてない!…だから、その刀を収めてくれ。頼む!」

 できる限り、第三者だからこそ言えることを彼女達に伝える。

 

 

「……ならせめて、せめてこの男が二度と女の子に手出しできないように、その股間のモノを切り落とさせてください!私のような娘が、もう再び現れないように!!」

 食い下がるA。

「駄目だ!どうであっても、絶対に君を犯罪者にする訳にはいかない!」

「ぐっ、…お願いですっ、どうか…。……やあぁぁぁぁっ!!」

 

 泣きながら、先輩目掛けて突っ込むA。脇構えであったが故に、下半身への斬撃を行うことは容易に想像てきた。

(感情に流されて、正常な判断力を失っている!マズい!)

 彼の言葉を聞いて、Bは御刀を収めて写シも解いていたのだが、彼女はAを止めるつもりも無かったようである。先ほどまでのやり取りからならば、むしろ彼女の行動を支援するだろう。

「駄目だ、Aさん!」

 彼は、Aに刺されることを覚悟して、先輩と彼女の間に入る。迎撃が間に合わないことを悟り、自動拳銃は撃たなかった。

 Aからの刺突を予測し、意地でも彼女を止めるべく目を閉じる。

 

 

 

 

 バキッ、カ~ン

 

 

 

 

 彼が甲高い金属音に気が付き、再び目を開けると、そこには彼の前に立つ里奈の姿があった。

 どうやら、御刀でAの攻撃を弾いたらしい。よく見れば写シも張っており、臨戦態勢だった。

「…遅いぞ。中島。」

「悪かったわね。ちょっと準備に手間取ったのよ。」

「中島さん、貴女もあの先輩の味方なんですか!?」

「いいえ。…この男はどうでもいいわよ。」

「なら!どうして!!」

「……でも、後輩の暴走を止めるのも、先輩の役割でしょ。」

 里奈はそう言って優しく微笑むと、Aに袈裟斬りをして、彼女の写シを剥がす。

 写シを剥がされたAは、そのままへたり込み、戦意を喪失した。

 

「うっ……、うわあぁぁぁぁ~ん!!」

 

 大声で泣き始めた彼女の手には、御刀がギュッと握られていた。その彼女に、Bが寄り添ってハンカチを渡して、肩に手を置いて共に泣き出す。

 

 

 御刀を向けた刀使と久しぶりに向かい合った僅か数秒が、何十倍にも引き延ばされたように感じた彼。場が落ち着いたことを理解し、里奈の傍に寄る。

「終わったな。」

「ええ。終わったわね。」

「…死ぬかと思った。」

 盛大な溜息を吐く彼。

「結果オーライ、と思った方がいいわよ。」

「…恋愛って、怖いわ。色んな意味で…。」

 二人は憔悴しきっていた先輩を一瞥し、応援の特祭隊員を待つ。

 

 

 

 

 

 

 そして三十分後、刀使二人が冷静さを取り戻し、落ち着いた頃に応援が到着する。

 先輩は、今回の騒動の原因となったため、一般の特祭隊員に両脇を抱えられて、連行されようとしていた。

「先輩…。」

「…◯◯、すまへんかった。結局、お前が来んければ俺の命は、今無かったやろうな。」

「…刀使云々と場違いな高説を垂れようとする前に、女の子二人を泣かせた罪は非常に重いです。しっかり、反省なさってください。」

「あっ、ああ……。」

「行くぞ。」

「…はい。」

 つい数時間前まで意気揚々としていたはずの先輩は、見る影もない程の力無い姿で連行されていった。

 

 次に二人のもとへAが訪れる。

「◯◯さん、中島さん。さっきまでは、申し訳ありませんでした。…危うく、一時の感情で道を踏み外すところでした。」

「いや、落ち着いたなら良かった。…こっちも死にかけたけどな。」

「…ま、アンタのことだから、刺されてでもAさんを止めるつもりだったんだろうけど。」

「ご迷惑をお掛けして、本当にすみませんでした!」

「…心の方は立ち直るまでに時間が掛かるだろうけれど、君ならきっといい人が見つかるよ。同性でも、異性でも。あれだけの行動力があるんだ。大丈夫。」

「…はい。」

「たぶん、これから事情聴取はあるだろうから、その辺りは不自由をかけるけど、そう悪く扱うつもりもないから、心配しないで。…それと、調査の方は纏めて終わったら、貴女に渡してもいいかしら?」

「はい、お願いします。…同じ失敗は、繰り返したくないですから。」

「強い娘ね。…どうやらお迎えが来たみたいだから、行ってきなさいな。」

「ありがとうございました!」

 Aは憑き物が取れたような、晴れやかな顔を二人に向けると、他の本部の人間に付いていった。

 

 

 最後に、一人ぽつんと残されたBに話しかける里奈。

「貴女があの先輩の彼女、…だったのよね。」

「ええ。…まさか、二股を掛けているとは思いませんでしたけれど。」

「聞きたいことは色々あるけれど、今すぐどうこうしようというつもりは無いから、そこは断っておくわ。」

「そう…。…あの男、よくもまあバレないと思っていましたね。…気分最悪ですよ。」

 

 遅れて彼もBのもとへとやってくる。

「中島、彼女が。」

「あの先輩が付き合っていた、もう一人の相手で間違いないわよ。」

「そうか…。」

 

 ゆっくり歩み寄り、Bに声を掛ける彼。

「改めまして刀剣類管理局本部所属、○○と申します。…先程は、すみませんでした。」

「いえ。此方こそ、仲裁に入ってくださったにも関わらず、面倒な態度をとってしまい、申し訳ありません。」

「…関係を打ち壊すような真似をしてしまった、その原因に間接的に関わった以上、我々もお詫びなどでは済まされないことは重々承知です。それでも、本当に申し訳ありませんでした!」

 

 精一杯の心で、頭を下げる彼。

 謝っても仕方のないこと、不毛なことだとは分かっていた。それでも、彼はBに謝る。本来此方が動かなければ、彼女は何も知らず、幸せに過ごせたかもしれないからだ。

 

「…顔を上げてください。」

「…はい。」

「貴方は、…あの男とは違うみたいですね。誠意を感じます。」

「そんなことは…。」

(これは誠意なんかではなく、ただの言い訳でしかないと思うのだが…。)

「ですが、それが命取りにならないことを、私は願ってます。…付き合った人が貴方のような人だったら、本当に良かったのに。」

「えっ。」

「それでは、失礼させて頂きます。」

 Bの含みのある言い方に彼は引っ掛かりを覚えたが、彼女は此方が追及する前に管理局職員によって誘導され、この場を離れていった。

 

 

 

 

 彼と里奈は、関係者が引き上げた後に今回の後始末を行っていた。

 その帰りのことである。

「…中島。俺、今日ほど仕事人間で良かったと思った日は無いわな。」

「何?彼氏のいない私への嫌味なの、それ?」

「そもそもな。……なんで他人の恋愛事情に首突っ込んで、死にかけなきゃならないんだよ。」

「…流石に今回は、危なかったわね…。はははっ…。」

 乾いた笑いしか出てこない里奈。

 

 一方の彼は、かなり深刻な顔をして彼女に問い掛ける。

「なあ、中島。…多くの男が思い描くハーレム、お前は現実的だと思うか?」

「…今日のいざこざから考えて、ってことでしょ。」

 少し考え込むと、自分の考えを口にする彼女。

「少なくとも、日本の法律で多重婚は認められていないし、平等に愛を注ぐなんていうのは、断言できるほどにあり得ないし、不可能よ。…最も、余程人たらしで、かつ女たらしではない限りは、っていう条件が付くけどね。」

「そうか…。まあ、今回の先輩のような場合は論外にせよ、現実問題として複数の異性から交際を勝ち取っている人間は居るからな。…もし、そんな案件に当たった時、俺は説教垂れられるような資格は、無いような気がしてならない。」

「○○、それは考え過ぎじゃないかしら。」

「刀使の娘がそれを自分の意思で望んでいた場合、むしろ責められるべきは俺なんじゃないのか、ともな。…あー、すまん。ちょっと頭が混乱しているみたいだな。」

「…さっきのことからそこまで考える人間なんて、アンタぐらいなもんよ。」

(ただ、アンタの場合はその当事者側にも立ち兼ねない素養はあるのよね…。今のところは全然気が付いてないみたいだけど。)

 

 里奈自身はお前がそれを言うか、とも感じはしたものの、現状は友人レベルな程度で誰とも親密な付き合いをしていない彼に、そんなことを言うのはお門違いというのもあって、その辺りは口を噤んだ。

 最も、彼の性格なら最善の策として、誰も選ばないという手段を取るであろうことは容易に察せた。ある意味、その性格が本で彼自身を苦しめることになるとも言えなくはなかったが。

 

「…よし、中島。決めた。」

「何を?」

「今日みたいなことが起こらないように、より『第三者・客観的視点』を重点に置いた相談対策を、本部に帰ったら纏めるぞ。刀使の娘だけじゃなく、それを支える人間にも同じくらいのことが出来るようにな。」

「…ほんと、自分の幸せよりも他人の幸せを優先するのね。…だから、アンタのことを嫌いになれないのよ…。

「ん?何か言ったか?」

「別に。…さ、私らも本部に帰るわよ。相談者の依頼は、まだ終わってないんだし。」

「そうだな。…糸崎も心配しているだろうし。早く帰るか。」

 その後、鎌倉へと真っ直ぐ帰った二人。

 

 

 経過についてだが、今回の騒動の原因になった先輩は、北海道・道東方面の刀剣類管理局関連施設へ、男性の監視役を伴って左遷されることになったという。理由に関しては言わずもがなであるが。

 荒魂が出現していないにも関わらず、御刀を公共の場で抜刀した鎌府の刀使A・Bだが、本部からの厳重注意処分と反省文の提出のみで、罰則の方は済んだようである。これには彼の部署で調査していた、先輩に関する報告書が彼女たちの処分に大きく関わったため、その内容を精査する限り、彼女達は被害者の側面が強かったこともあり、謹慎などの重い処分は下されなかった。

 結果として、自爆した先輩に殆どの責任が渡ったことになった。…その後、高等部卒業年齢までに先輩が鎌倉へ戻ってくることは、二度と無かった。

 

 

 

 

 ―現在 刀剣類管理局本部 彼の職場―

 

「…壮絶過ぎねえか。それ。」

「しかも今の話って、私がやってくるすぐ直前の話ですよね。…◯◯さんのメンタルって、凄かったんですね。」

 話を聞いていた誠司と姫乃は、二人の過去話にただただ唖然としていた。

「いや、あれは咄嗟に身体が動いただけだから。…まあ、中島が居なかったら、俺は確実にアウトだったことは間違いない事実だ。」

「まさか、自分で動いて相手のもとへ辿り着くなんて思ってなかったしね。その点では、完全に虚を突かれたわよ。しかも、鎌倉から横浜の人工島までよ?」

 過去のこととはいえ、人間の行動力を侮ってはいけないと痛感させられた出来事だった。

 

「…何でだろ。今、一瞬背筋に冷たい感覚が走ったんだが。」

 特に寒いわけもない室内で、病気以外でそんなことを感じるのならば、答えは限られる。

「糸崎。お前、なんか三原に隠し事でもしているのか?もしくはしていたとか。」

「いや待て、俺は何も疚しいことはしてないぞ!」

「あー、もしかして女の子と一緒に居たら、三原さんに色々感づかれるからとか?」

「へあっ!?」

「…何故だか、その光景が容易に想像できますね。」

「まあ、三原は明眼と透覚が他の刀使よりも少し優れているから、あり得る話だな。」

 地味に誠司の逃げ場を無くしていく、彼ら。

「おいおい、早希にそんな隠すようなことなんてなあ。無いぞ。」

「…そういやお前、確かメイド好きじゃなかったか?そのことは彼女に伝えたのか?」

「―あっ。…言ってねえな。」

「…今度、コスプレでもしてもらえ。彼女もお前の頼みだったら、喜んでやってくれると思うぞ。何も彼女にまで性的嗜好を隠す必要は無えだろ?」

「ああ。…今日のことを聞いてたら、打ち明けられるものはなるべく明かしておくか。」

「付き合っている以上、メンタルケアはきちんとやっとけよ。彼女を死なせたくないなら、尚更な。」

 彼女が刀使ならば、よりその辺りは慎重になるべきという持論を放つ彼だった。

 

 

「で、アンタは結局、あれから何を学んだのかしらね。」

「…少なくとも、自分が親密な付き合いを持つのはかなり慎重になるべき、というのが骨身に染みた教訓だな。それと、責任の持てない恋愛は絶対にするな、ということか。付き合うなら、別れようがゴールインを迎えようがちゃんとやれという。」

「ん~、でも○○さんなら、だいたいの女の子はついて行きそうですけれど…。」

「水沢、そんなあり得ない話をしてもなぁ…。糸崎と違って、俺と一緒になりたい人間なんて稀、というか居ないだろ。そんなモノ好きは。」

 その瞬間、バキッ、という音が室内に響く。

 半ばボーっとしていた彼が思わず目を見開くと、向かいの机に座っていた里奈がボールペンをへし折っていた。しかも、持ち手の部分はラバー部分以外が粉々に砕けていた。

「中島…?」

「…あっ、ああゴメン。急に指に力が入ったみたい。」

 

(里奈さん、そのボールペンは確か新品だったはずですよ…。)

 彼女の隣に座る姫乃は、里奈の一瞬の怒気を感じ取った途端に先ほどの事が起きたため、今の彼の発言の何かが里奈の琴線に触れたことだけは、すぐに分かった。

 

「うわっ、折れてんじゃん…。ケガはしてないか?」

「えっ、ええ。」

「不良品だったのかもな。すぐ取り換えるから。」

(…そういうところよ、ホント。)

 彼の考えに敢えて口を挟まなかったが、自分の評価が低すぎるのはどうなのかと、なお思わずにはいられなかった里奈だった。まして、親友のことを思うとやるせない気になる。

 

 

「それで、その相談はどうするつもり?」

「あっ、ああこれか…。」

 過去に起きた類似の相談案件。此方も同じ轍は踏みたくない。

「…同時に話を聞くか。同じ人間かどうか、その時に照らし合わせることができるしな。」

「りょーかい。じゃ、姫乃。アイツとの同伴、お願いね。」

「はっ、はい!」

「なら、すぐに出るか。中島、糸崎。今日は戻らんから、あとは任せる。」

「気を付けて行ってきなさいな、二人共。」

「土産物よろしくなー。」

「おいおい…。…二人共、行ってくる。」

「行ってきます!」

 彼と姫乃を、手を振って部屋から見送る里奈と誠司。

 

 

 

 

 桜の木が蕾を増やし始める、初春の頃であった。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

次回は可奈美編に戻ります。
いよいよトータル百話目になります。

感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告へご投稿頂ければと思います。

それでは、また。
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