今回は番外編として閑話編をお送り致します。
時系列は胎動編から波瀾編にかけてになります。
今話から、研究職のオリキャラが二名登場します。
それでは、どうぞ。
ー数ヶ月前 長船女学園 某研究施設ー
近衛隊ら維新派との衝突が勃発する、その数ヶ月前。彼の姿は、ここ長船女学園にあった。
訪問した理由は、旧紫派が開発していたある武装に関して、ここで解析と転用研究を依頼しており、それが完了したとの連絡を受けたためだ。
施設に入ると、白衣を羽織った彼と同年代くらいの男子が彼を出迎える。
「お~い。来たぞー。」
「ああ、◯◯(彼の苗字)さん。今日はお一人ですか?」
「まあな。ウチの同僚にはこの件を話してないし。」
「解析が終わったと聞いてから、ホントにすぐ飛んで来ましたね。」
「…色々思うこともあってな。で、どんな感じなんだ。
「それはこれから説明いたします。百聞は一見に如かず、まずは実物を見てください。」
春日井と呼ばれた男子は、彼をとある部屋に誘導する。
誘導された部屋のスライドドアを開くと、春日井は中に居た人物に声を掛ける。
「
「あら、意外な人が来ましたね。」
部屋の中には、長船女学園の制服を着た黒髪の少女が、オフィスチェアに座っていた。
「春日井、この女の子は?」
「ああ、紹介がまだでしたね。
「あー、はいはい。」
「改めまして、宮古綾奈です。そこの春日井さんとは、今年の一月から一緒に仕事をさせてもらっています。○○さん、舞草や本部での活動は伺っています。」
「大したことはしてないと思うんだがねぇ…。まあ、よろしく…。って、握手は大丈夫か?」
「あっ、はい。」
双方、左手で握手を交わす。
「それで
なぜか、言い方を戻す彼女。
日頃鈍感な彼も、この理由に思い当たる節があった。
ポンと手を叩くと、合点がいったように口を開く。
「…あっ、そういうこと。宮古さん。名前で呼び合っているなら、それでもいいぞ。別に俺は適当な置物くらいに思ってくれ。」
「えっと、○○さん?」
「春日井も。…彼女と付き合っているんじゃないのか?」
彼が恭一にそう聞くと、相手は途端に苦い顔を浮かべる。こういうおしとやかな雰囲気の少女が、男を名前で呼ぶ理由はだいたい想像がつく。
「うぐっ。」
「…図星か。…全く、
「えっ、○○さんは彼女さん、いらっしゃらないんですか?」
「居るわけないだろ。居る奴の応援はするけどな。」
「「ええっ…。」」
若干引き気味の恭一と綾奈。
「…なんでそんな目で見る…。」
彼からすれば、二人の目線が怪訝なものであるのは解せなかった。
「出向扱いでこっちにずっと居ますが、会話を聞く限りでは貴方に気がある娘が多いのですが…。」
「いやいや春日井、それはねえよ。長船は伍箇伝の中で舞草の中心的なところはあるが、だいたいそれ絡みだろ。」
「○○さん、最近まで舞草のことを恭一さんに黙っていた私でさえ、それ抜きにしても貴方絡みのお話しを、他の生徒とかからはちょくちょく耳に挟みましたよ。」
「……気にしたら負けか。思想信条の自由は誰にも妨げられないし、本人達が行動を起こさない限り、俺はただ静観するだけだ。気付くかどうかは別の話だけどな。」
「はあ。」
「それにな。…ポンポン彼氏彼女が出来る状況の方が、本来おかしい訳だし。いや、だからといって別れろとかは言わんし、やり過ぎない付き合い方であれば、本部の俺らも何も言わんよ。」
「…それも、そうですね。」
「おっと、話が逸れた。そろそろ本題に入るか。」
脱線していた話題を戻し、彼と恭一、綾奈の三人は少し厚みのある扉を開け、隣室へと入る。
隣室は、一種の風洞実験設備のように見えたが、風を発生させるような装置は見当たらず、白い台座の上に黒いボウガンの矢が置かれている。
それを見た彼は、顔を歪ませて苦々しい表情を作る。
「…これが、舞草の刀使達を無力化した矢か。何本か回収したあの時*2には、こんなものが使用されているなんて思わなかったしな。」
「材質はカーボン。ですが、刀使の写シが剥がせるように矢を長くしてあります。写シを剥がせば、刀使もただの人間ですしね。」
ちょっとした説明を挟む恭一。
「珠鋼は使われてないんだな?」
「もし使われていたら、おそらく刀使の体は引き裂かれていたでしょうね。体内に残ったカーボン部分によって。」
「…死人が出なかったのが、奇跡的だな。」
「長期戦線離脱を余儀なくされた刀使も、いたようでしたけれど。」
そう言って影を落とす恭一。
「ホローポイント弾のように体内へ残るようなタイプのものじゃなかったというのは、比較的まだ人道的だったか。」
これも、紫が三女神を抑えながら刀使達を生かすための抗った形跡だと思えば、彼も彼女の抵抗を感じ取る。
「さて、解析そのものは終わっていますが、○○さんが来た理由は、この結果を聞きに来ただけではないのでしょう?だったら、メールで済む話ですし。」
「春日井、お前のその勘の良さは一体どこからくるんだよ…。…まあ、宮古さんのことも大方それで見抜いたんだろうがな。」
「鎌倉での騒動が終わった時に、舞草の一員だったって聞いた時は驚きましたけど、それで彼女のことをどうこうとはなりませんからね。」
「恭一さん…。」
「ま、元々本部や鎌府で研究してたなら、お前の場合はあんまり組織のしがらみ的なものもないだろうしな。末永くお幸せに、としか言えんけど。…で、春日井、それと宮古さん。名義は俺だが、ウチの部署としての依頼をお願いしたい。」
「…聞きましょう。」
「ただ、個人的には気が進まないことだし、二人にとっても嫌なものかもしれない。依頼を聞いてから判断してくれ。」
「分かりました。○○さん、内容をお願いします。」
メモ帳を取り出す綾奈。
そして、彼は依頼内容を語る。
その表情は、非常に苦しいものだった。
「…この矢のデータをフィードバックして、刀使、使用者双方の安全が確保できる対刀使用の制圧装備を開発してもらいたい。一応、図式化した案も持ってきた。」
元々、一般の特祭隊員向けの装備の試験運用などを行っているため、対刀使向けのものをこうして依頼するのはそこまで不思議なものではない。…彼が刀使のことや仲間たちのことを大切に思っているという、その一点を除けばだが。
「…○○さん、それは本気ですか。本部に居た時、貴方が口癖のように僕に言い聞かせ続けたことですよ?『刀使やそれを支える人達のことを守りたい』って。」
恭一も、彼の信条を知っているが故に、今の言葉の矛盾を聞き返す。
「もちろん、自分が何を言っているのかは分かっている。分かっているんだよ。………でもな。もう俺は、刀使同士で殺し合いに発展しかねないような状況になるのなんか、はっきり言ってもう嫌なんだよ!なんで仲間同士で傷つき合わなきゃならないんだ!おかしいだろ!!」
「…○○さん。」
「…すまない、取り乱した。俺は、二度と舞草の刀使のような、あんな目に遭う人間を出したくはない。その手段が、俺の信条に矛盾しているっていうのも。…だが、だからこそ、もし彼女達が暴走した時に、止められる手段は増やすべきだと思っている。刀使が刀使を止めるのが不可能な時に、一般人であっても使える、一つの抑止力として効果を発揮できるようなものを、な。」
「…それが例え、貴方が彼女達に恨まれるようなことになったとしても、ですか。」
「…軍事の鉄則は、『最悪の最悪に備える』ということだ。誰にも制御できなくなった彼女達の命を、自衛隊や米軍に奪われるくらいなら、俺がこの装備の使用によって全ての恨みを引き受ける。それで彼女達の未来を繋げられるなら、それで構わない。」
「本気なんですね。……でも、彼女達のことを考えてこそ、ですか。」
脇から聞いていた綾奈が、そう呟く。
「春日井、宮古さん。言っておくが、この依頼は断ることが出来る。だが、春日井。俺はお前の力を信じている。特祭隊の対荒魂用大型硬化シールドの設計、製作に携わったお前なら、絶対にできると思っている。返事は後日でいい。ゆっくり考えてくれ。まだ時間はあるから。」
策定案を纏めて置いていく彼。この後、岡山県北部で出現した荒魂討伐に加わるべく、長船女学園を発った。
彼が去ったあと、綾奈と技術者としての意見を交わす恭一。
「綾奈。○○さんの案、どう思う?」
「悩ましいところは、○○さんの案は非常に安全に、かつ効率的に刀使を制圧できる案だということですね。」
「…素材研究と流体工学をやっていた綾奈なら、そう思うのですね。」
彼から出された対刀使制圧用装備案。
ボウガンタイプの矢を固定砲台化して、多連装・発射速度の超高速化ができるタイプのものや、通常の弓矢型、更には通常兵器での使用なら一発アウトなタイプまで含まれていた。
「…まさか、クラスター弾方式をあの人が出してくるとは…。」
通常兵器の中でも、非人道的兵器として悪名高いクラスター弾だが、その搭載される弾種が使用される相手と、その相手の後世への影響を残さないものであるならば、話は大きく変わる。これは設計素案からも、それを意識したものであることが窺える。
「炸薬を写シ剥ぎカーボンに切り替え、矢の胴体部は事後に回収が容易なよう鉄へ換装する…。モノそのものは軽量化かつ大型化。…普通の兵器開発とは、まるで逆の発想ですね。」
素案の回収が容易、というのは、磁石や電磁石にくっつく鉄の性質を用いて簡単に片付けられるようにしている。サイズの大型化も、それと刀使達を最大限傷付けないようにするためという、彼の苦悩が窺え知れる。
「だからこそ、刀使を生きて帰したいと思っている、ってことでしょうね。」
「…人に好かれるのが、よく分かりますね。非情になりきれないところとかも含めて。」
「基本的に優しい人ですから。…そんな人がこんなことを考えなければならないというのも、悲しいものでしょうが。」
「引き受けるつもりですか?」
「…やろうと思えばできますしね。それに、僕ならこの素案を改良できると思って○○さんも依頼したのでしょうし。」
「恭一さんがやるというなら、私も手伝います。」
「綾奈…。ありがとう。」
「いいんです。彼女だから、じゃなく貴方の力になりたいから。」
そう言って彼女は、恭一の頬に口を付ける。
「全く…。余計に引けなくなったじゃないですか。」
恭一の顔は、一層明るくなった。
そこから彼へ電話を入れるには、そう時間は掛らなかった。
そこから極秘裏に、朱音や紗南、後に紫へは話を通しておき、研究チームを発足させて着々と開発を進めていった。時には、S装備の開発に携わったフリードマンから、S装備を装着した状態の刀使へ制圧武器を使用した際の問題点などを聞くこともあった。
ある時はこの装備開発に、長船の刀使達が有志で名乗りを上げ、性能向上に協力していった。中には、里で襲撃を受けた際にあの矢を受けた者もいた。あの時に何もできず倒れていった悔しさから、立ち直るための手段としてそれに携わった者もいたという。
そして、当初予定からは遅れたものの、タギツヒメがメディアに露出しだした頃。
長船女学園では、彼から提案されたもののうち、耐久試験や性能試験をクリアしたものから、順次試作品の量産態勢に入っていた。
なお、彼の考案した対刀使用クラスターバーユニットの実射試験は、在日米軍が射爆撃場として利用している沖縄県の久米島周辺の島嶼で行われるという。ただし、発射するのは海上自衛隊の護衛艦である。炸薬の代わりに大量の軽いカーボン製の棒(矢)を突っ込んでいるため、搭載予定のミサイルそのものはかなり軽量化されている。航空機搭載型だと、発射速度の調整とユニットの搭載量が問題となり、艦載型*3での開発が行われた。後にこちらの試験も成功した。ただ、これらの製造数は試験弾を含めて五発に留まった。この理由は、後に恭一自身の口から語られることとなる。
ー刀剣類管理局本部 彼の職場ー
長船に依頼をしてから暫く。本部に掛かりっきり状態の彼は、近衛隊からの暗殺未遂事案*4への文書作成や書類作業などで忙殺される。
由依や葉菜が巻き込まれるなどした近衛隊絡みの案件で、自身の頭から対刀使用制圧装備のことがすっかり抜け落ち、その量産態勢に入っていたことすら、まだ把握していなかった。
この日は彼以外の同僚三人も、彼の職場に詰めていた。
プルッ プルッ プルッ
ガチャッ
「はい、水沢です。…はい、…はい。分かりました。◯◯さん、守衛さんから連絡が入ってます。」
電話応対した姫乃が、彼に内線を回す。
「俺に?内容は?」
「なんか、◯◯さんが長船に依頼していたものが急ぎできたらしいが、書類確認が出来てないまま本部に入ろうとしている車両があったので、ゲートで止めている、と守衛さんは言っています。」
「…まさか、アレのことか?」
「ちなみに、複数のトラックが止められて道路渋滞を起こしているそうなので、急ぎ早く来てほしいだそうです。」
「おう、分かった。すぐ行く。…中島、ちょっと手伝ってくれ。」
「え?なんで私が?」
「いや、ゲートまでお前の八幡力で連れてってくれねえかな~、と。」
「…はあ。」
刀使の力の私的利用というのが、こうした形で行われるというのに対して、やれやれとため息を吐きたくなる里奈。
「鎌倉駅前のケーキ屋のスイーツ、私が好きなもの何個かで手を打つわ。」
「…ああ。分かった。すまんが、頼む。」
流石に手を引いて、とはいかなかったため、本部の建物から出ると、やむなく里奈の背中に乗る彼。
両耳に風切り音が突き抜ける。
「いつものことながら、これ慣れないよな…。」
「速度が出るからって意味?それとも、私の背中では不満が出るという意味?」
「いや、女の子に背負われている感覚が。…なんか、申し訳ない気分になるというか…。」
「なら、さっき断れば良かったかしら?」
「いえ、口が過ぎました。」
「アンタは黙って背負われてなさいよ。…っと、そろそろゲートね。うわぁ…。何なの、あの大型トラックの数。」
本部に入るためのゲート脇の道路には、多くのウィングボディタイプの大型トラックが列を成していた。しかも、見たところ同じ企業のものらしい。
「…俺、そんな大量に依頼した記憶が無いんだが…。」
それを見た彼もまた、開いた口が塞がらないほどに驚いていた。
守衛の待つゲートにやってくると、先頭のトラックのあたりで立ち並んでいたのは、つい数ヶ月前に長船で見かけた顔であった。
「春日井!それに、宮古さんも。」
「あっ、◯◯さん。実はトラックの入場申請が遅れまして。」
彼に応対したのは恭一。
やはり、トラック群が入れない理由は書類の不備だったらしい。
「守衛さん、この紙がこのトラック列の入場申請書の写しだ。中に通してやってくれないか?」
「…確かに。これなら通って大丈夫です。ご迷惑をかけました。」
「いえ。…というか、春日井。今来たのか?」
「先に鎌倉に入って、トラックを待っていたんです。まさか、到着予定時間より早く着くとは思わなかったので…。」
「◯◯さん、トラックはどちらまで向かわせたらよろしいですか?」
恭一の脇から、綾奈が誘導指示を待つ。
「あーっとだな。…ちょっと待ってくれ。」
某所に連絡を入れる彼。
「ああ、つぐみ*5か?俺だ。すまんが、研究所近くの空き地に大型トラックを何台か停めてもいいか?」
少しのやり取りの後、つぐみから許可をもらった彼。
「場所の手配、助かった。後でお礼に向かうわな。じゃ、後で。」
「宮古さん、トラック置き場に使うところの相手に了解が取れた。鎌府の研究所へ回してくれ。」
「了解しました。」
彼女はトランシーバーを取り出すと、トラックに積まれた無線機に連絡を入れる。
「トラックの運転手さん達。鎌府女学院の研究所までお願いします!」
連絡が終わると、一台ずつ大型トラックが敷地内へと入っていく。その数、六台。
「…春日井、このトラックの数は後で説明してくれるんだろうな?」
「もちろんです。ちょっと作り過ぎましたかね?」
「…多分。」
最も、この作り過ぎが後に近衛隊へ悲劇をもたらすのだが、その当事者になる彼は知るはずもなかった。
そして、この対刀使用制圧装備たちが、彼の同僚達へ波乱を巻き起こさせるのだが、それはすぐのことであった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
今回と次回は、舞草の刀使に向けて使われたあのボウガンから、筆者なりの見方で話を執筆させていただく次第です。
後編では、主人公の同僚達との間で衝突が起こります。ギスギスはしませんが、普通に考えたらそうなるだろう、ということを書かせていただきます。仲違いなどは起こりませんので、そのあたりは安心して読んでいただければ幸いです。
それでは、また。