刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編の閑話編として、胎動編終盤の折神家突入時の主人公達の動きを執筆させていただきます。
時系列はアニメ10話とリンクします。
このため、閑話編では珍しく一部ヒロイン達が登場いたします。

それでは、どうぞ。


反撃の狼煙

 ―折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室―

 

 舞草の主導者であり、特別刀剣類管理局局長である紫の実妹である朱音が、舞草の保有する米海軍所属の原子力潜水艦ごと横須賀港で投降に応じる、ということが伝わる頃。

 その情報の真偽が裏取れないなかで、真希や寿々花は刀使などの戦力配置に悩んでいた。

 

「全くもって困った。紫様は祭殿に籠ったままだし、僕たちだけで方針を決めてもいいのだろうか。」

「あら、親衛隊第一席ともあろう御方が、何をそう迷う必要がありまして?」

「…これはブラフかもしれない、ということだよ。先程の不可解な現象といい、裏で折神朱音が糸を引いているかもしれないからね。」

「確かに、私もあの現象は気になりますが、私達親衛隊がここを離れるわけにはいきませんわ。…高津学長が、鎌府の生徒の大部分を連れ出してしまったのは手痛いところではありますが。」

「…おかげで、鎌府の一部生徒と、折神家を警備する刀使、僕たち親衛隊くらいしかこちらには残っていないからこそ、そこは頭を抱えたくなるけどね。」

 とはいえ、今は伍箇伝のうち美濃関・平城・長船の三校は事実上機能停止、残る鎌府と綾小路だけでも短期間ならばどうにか荒魂討伐なども回すことはできる。

 問題は真希の懸念通り、比較的少数の人員しか残されていない本部に、もし残っている舞草の刀使達が強襲をかけた場合、相手の練度が分からない関係上、どのような配置を行えば最適なのか、という点であった。

 

「まあ。…では、私達親衛隊は、その戦力の足しにもならないほど弱いとでもお思いですか?」

「そうは言っていない。結芽もあと少しで綾小路から戻ってくるはずだし、守備自体は盤石だと思う。」

「それでも弱気になられるのは、伊豆で逃した十条姫和や衛藤可奈美、古波蔵エレンに益子薫の存在ですの?」

「…あの時は僕が慢心しただけだ。次に剣を交えるときは、彼女達を必ず斬り捨てる。…特に、十条姫和は。」

「それまで私達が行動を起こすには、まだ余裕がありそうですわね。」

 二人はほぼ壊滅に追いやったとはいえ、舞草側の動向を警戒していた。

 

 

 

 

 それとほぼ同じ頃。

 様々な苦難が立ちはだかったなか、里からどうにか脱出を行うことができた彼は、綾小路で書類仕事と相楽学長との対談を経て、東海道新幹線と在来線を活用して鎌倉に緊急帰還を果たしていた。

 

 その後、寿々花から拘束された舞草の構成員リストを渡され、内心啞然とするなかで仕事をこなしていた。他でもない自身も舞草の構成員である以上、その動揺を気取られないようにしながらも、この状況の打開が求められていた。

 そして、あの幽体離脱に似た現象が里奈の身体で起きたことで、状況がさらに切迫したものであることに気付かされた。その後の潜水艦側からの連絡で、S装備射出コンテナによる奇襲作戦を実施することを知らされ、同僚達へ、二十年前の大災厄以降の出来事に対しての説明責任を果たしたうえで、それを支援する準備に入ろうとしていた。

 

 

 可奈美達の支援を行うのはいいものの、どう動いたらいいのか分からないため、里奈は彼に訊いてみる。

「それで、○○。具体的に私達は何をすればいいの?」

「可奈美達が突入してくる直前、つまり潜水艦上で朱音様が演説中の時に、火災報知器とスプリンクラーを本部や鎌府で作動させる。誤報と思わせないために、大量の発煙装置を仕込ませる。少なくとも、刀使以外の非戦闘員は退去させることができる。避難訓練どおり動くならば、ヘリポートに避難していくはずだしな。」

 一般人への対応は一般人が行うに越したことはないため、建物内での火災発生時の心理状態を上手く使う彼。

 誠司からは、こんな提案も出される。

「いっそ、鎌府の使ってない部屋を爆破するのもアリじゃね?爆破って言っても、軽く扉を壊す程度の。」

「いや、今からそれをやったら確実に怪しまれるし、何よりそんな直ぐにTNT爆薬やC4爆薬なんて準備できないぞ。使用許可の書類を回すならば、余計に不審がられるわな。」

「だよなあ…。」

「なら、発煙装置には黒煙の発生装置を使うのはどうでしょうか?文化祭や避難訓練でも使われているあれなら、今からの暗い時間帯ではかなり恐怖心を煽ることができますが。」

 脇から聞いていた姫乃が、そう提案する。

「あー、確かにあれなら夜の閉鎖空間では恐怖だわな。…スプリンクラーは廊下と常用階段だけでいいよな?」

「室内に撒いたら、それこそ電子機器は軒並みアウトになるから、それでいいんじゃねえか。」

 彼の意見に誠司も賛成する。

「あとは…。鎌府や刀剣類管理局と、折神家本部の間にある作戦指揮室への回線を遮断するくらいか。」

「それは私に任せてください!数時間くらいなら、何とか誤魔化すことができますから。」

「じゃ、それは水沢に任せる。世界が終わるかもしれない状況で、持ってる力のセーブなんかしなくていいからな。後の責任は全部俺が取る。心配するな。」

 姫乃の情報処理技術を知っているからこそ、日頃抑えているであろう彼女の真の実力を解放できる場は、今しかないと考えた彼。

「はっ、はい!頑張ります!」

「…さて、やることも決まったところで、行動を始めるとするか。行くぞ!」

「おう!」

「はい!」

「任せなさい!」

 彼を含めた四人は、突入する可奈美達を支援するべく、それぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 それから数時間後。

 秘密裏に舞草用として改造を行っていた、キャンピングカー改造の指揮車両から彼以外の十数人の同僚達を指揮する。

「全員、配置に着いたか?」

『こちらA班糸崎。班員の五名全員、準備完了。』

『B班中島。班員の六人は、いつでもいいわよ。』

「◯◯さん、私達も準備できました。」

 いつも共に仕事をしている三人を、それぞれ班に分けてその責任者とした。姫乃と二名の本部所属の舞草構成員は、彼と共にこの指揮車両で作戦を行う。

「糸崎、中島。各班全員に伝わるよう、なるべく携帯の音量を上げてくれ。」

 それを聞いた二人はふと首を傾げながらも、それぞれ音量を上げる。

 

「糸崎、中島、水沢。そして、今回の作戦に加わることを希望してくれた舞草構成員、及び鎌府の生徒達。この場を借りて、改めて感謝する。」

 お互いの顔は見えないものの、彼の言葉を静かに聞いているあたり、全員の覚悟は決まっているのだろうと思った彼。

「俺達の行動は、今から突入してくる刀使達のものに比べれば、遥かに地味で後世にも残らないものかもしれないだろう。…だが、彼女達が大荒魂を鎮めやすい環境を整えるためには、この作戦は必須になる。彼女達が戦いやすい環境を作らなければ、日本が、…いや世界が終わりかねない。」

 そう言うと、一旦口を閉ざす彼。

 過去何度も特祭隊員や刀使達を見送っていく言葉を掛けてきたが、今回は違う。可奈美達に比べれば確率は下がるが、彼ら彼女らに、死にに行ってこいと言うようなものである。

「…一か八かの一発勝負で、完璧に作戦をこなすなんていうのは、俺も不可能だと思っている。かなりの無理を言っている自覚もある。…それでも、これだけは言わせてくれ。『全員、無事に帰ってこい。』…全て終わったら、祝杯を皆で上げよう。」

 そして目を閉じ、大きく息を整えると、気持ちの切り替えが終わったのか目を見開く。

 

「これより、突入支援作戦を開始する。各員、行動開始!!」

『『『『了解!!』』』』

 携帯から響く、幾重もの声。

 作戦の火蓋は静かに切られた。

 もう、後戻りは出来ない。彼は腹を括りつつも、そう思った。

 

 

 

 

 作戦の経過に関しては、比較的順調であった。

 誠司が班長を務めたA班は、刀剣類管理局本部に対して工作を行った。各棟二ヶ所ずつに発煙装置を設置し、彼からの合図のもと、大量の黒煙を発生させることに成功した。

 一方、鎌府女学院へ向かった里奈達B班は、途中警備の刀使との戦闘があったものの、それ自体は数人だったこともあり、彼女と他二人の刀使が抑えた。

 実は、鎌府を守っていた刀使の多くが折神家の警備へと回されていたこともあり、其方は美炎やミルヤ達の赤羽刀調査隊が相手をしていたため、警備中だった鎌府の刀使からすれば、手薄になっていたところへ不意を突かれた形となった。

 その後、校内各所に発煙装置を設置し、そして防火設備のスプリンクラーのある職員室を抑えた。残っていた教員からすれば生徒が刃を向けてきたことに驚いたが、里奈達が峰打ちで彼らを気絶させていったあと、安全な場所まで搬送した。校舎内でスプリンクラーを稼働させたことにより、パニックになった生徒達は体育館へと急ぎ避難していくのであった。

 

 

「経過はどうだ?」

「非戦闘員の避難率は上々です。管理局本部と鎌府女学院のそれぞれに置いた、電波妨害装置のお陰で、まだ作戦指揮室には今の状況は伝わっていないようです。」

 こっそり室内に設置しておいた高性能盗聴器から、真希達の動向を聞く姫乃。

 彼は車内に設置されたテレビから、ある映像を見る。

「…そろそろだな。」

 テレビ中継に映し出された、潜水艦の甲板上に立つ朱音。既に横須賀港にはマスコミや警察、鎌府の刀使などが集結していた。

「朱音様、此方はやれるだけのことはやりました。…後は、お願いします。」

 

 これから突入してくる可奈美達が紫のもとに辿り着くには、間違いなく真希達親衛隊が立ちはだかるはずだ。残念ながら、彼は刀使である彼女達に勝てる算段などない。本気で来られたら、確実に負けるだろう。

 

 しかし、それでも。

「…真希、寿々花、結芽、夜見。親衛隊の四人には悪いが、ここで俺達(舞草)が負けるわけにはいかないんだよ。捕まった他の仲間のためにも、これから被害を負いかねない民間人のためにも。…そうでしょう、朱音様。」

 彼の目は、テレビ画面に映る彼女へと向けられていた。

 

 

 

 

 ー神奈川県横須賀市 横須賀港ー

 

 同時刻。

 朱音はマスコミ関係者、警察、そして鎌府の刀使などを見渡せる潜水艦の甲板上に立っていた。

(どうやら、私達の目論見は上手くいったようですね。…恐らく、フリードマンさんも同じことを思っていらっしゃるでしょう。)

 

 カリスマ的存在の局長、折神紫擁する刀剣類管理局・特別祭祀機動隊に反旗を翻す、実の妹が主導者の反体制派組織・舞草。マスコミからすれば、舞草の関係者であろうがなかろうが、すぐに食いつくネタであることは間違いない。

 

 だが、そんなマスコミの思惑とは裏腹に、朱音は自分の命を引き換えにしてでも、この国の未来を案じていた。当時タギツヒメに呑まれていた紫もまた、同じように抵抗していたことを知るのはまだ後のことになるが、そうしたところでも姉妹で似通ったところがあったのだろう。

 

 

 警察のサーチライトに照らされるなか、遂に彼女の演説が始まった。

「皆さん、私は折神朱音です。私の話を聞いてください!」

 彼女の身には、既に警察の狙撃手からスナイパーライフルの銃口が向けられていた。それでも、彼女は言葉を紡ぎ続ける。

「今、この国には大きな危機が迫っています。二十年前の、いえ、それ以上の災厄が起ころうとしているのです。二十年前の災厄の元凶、大荒魂が、再び甦ろうとしています。…刀使の皆さんも感じたでしょう。先程の不思議な現象を。それは、大荒魂が現れる前兆です。最早、一刻の猶予もない。」

 そして、原子力潜水艦の上部VLS*1ハッチが開かれる。

「どうか皆さんのお力をお貸しください!」

 その直後、六機のS装備射出用コンテナが、轟音とともにミサイルの如く高速で撃ち出される。

「これは、攻撃ではありません。今飛び立ったのは、私達の、希望なのです!!」

 悲痛な表情を浮かべながらも、可奈美達の乗る射出用コンテナを見送った朱音。

 

 上空でブースターを切り離した六機の射出用コンテナは、鎌倉の刀剣類管理局本部へ向けて、夜空を切り裂くように数十秒間の飛翔を行う。

 反撃の嚆矢は、まさに今放たれた。

 

 

 

 

 一方、対応が後手に回った作戦指揮室の面々。

「これは…、ストームアーマー*2のコンテナです!」

「予想着地点は!」

 寿々花の声に、男性オペレーターが鬼気迫る表情を浮かべていた。

「ココです!ココに向かって飛んできます!!」

 

 ミサイル同様、弾道と最高到達点が判っていればどこに飛んでくるかは、すぐに判る。だが、誰が敵の本陣目掛けて飛んでくるなど思うであろうか。少なくとも、この場に居た人間でそれを事前に予測できた者は居なかった。

 

「はっ!」

 朱音の意図に気付いた真希だったが、既に時遅し。

 六機のS装備射出用コンテナは、刀剣類管理局本部の駐車場へほぼ同時に着弾した。

 

 

 

 

 その僅か数分前。

 彼の方は非戦闘員の避難が完了していることを把握していたため、人員の撤収準備に入っていた。

「A班、B班。避難完了を見届け次第、事前に指定した集合地点αを目指せ。…S装備のコンテナが着弾するまでは、なるべく遮蔽物に隠れるなどして、駐車場には近づかないように。」

『『了解!』』

「私達も一旦、駐車場から離れますか?」

「ああ。着弾は一瞬だが、その時の揺れでこの車が横転でもしたら目も当てられないからな。」

(…エンジンはアイドリング状態にしていて良かったな。これで怪しまれず移動ができる。)

 

 パソコンや液晶ディスプレイを大量に積んだことで、通常よりも電力消費量がバカにならないためエンジンを稼働させたままにしていたのが、いい方向に転がった。元々、刀剣類管理局本部の駐車場は広いため、妨害電波の拡散に向いていることもあり、ここにキャンピングカーを陣取っていたわけである。着弾エリアがここに指定されたのは痛かったものの、着弾の前後数分さえ移動すれば問題ないことに彼も気付いたため、その時が来たのだと思った。

 

「水沢、他の二人にシートベルトを付けるよう言ってくれ!なるべく揺らさないように動く!」

「はい!」

 このキャンピングカーはキャブコンタイプであるため、著しく振動が発生しやすいというわけではなかったのだが、中に積まれた電子機器・精密機器を考慮すればそう言うのも無理はない。

「…法令が変わる前に免許を取れて、ホントよかったわな。」

 ミッション車ではあるが、幸い運転操作はしやすかった。クラッチの段階を調整しつつ、低速で駐車場を離れる。

 

 無事に刀剣類管理局本部の建物群の陰に隠れたことで、着弾時の破片からは守られるこの車両。

「さて、退避は終わった。あとは電光掲示板を出して、可奈美達を鼓舞するくらいだな。」

「ああ、あの車体に取り付けたLEDパネルって、そういう意味合いのものだったのですね。」

「…もう着くか。」

 そう言った瞬間、音速の壁を越えて耳をつんざくような衝撃波と衝撃音が伝わる。

 可奈美達が色々な障壁を打ち破り、ようやく鎌倉の地に辿り着いた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 駐車場では、S装備射出用コンテナから降りる可奈美達。

「姫和ちゃん、舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん、薫ちゃん、エレンちゃん。皆、準備できた?」

「ああ。行くぞ、可奈美。」

「皆は私がしっかり指揮するから。」

「…私も、平気。」

「んじゃあ、とっととラスボス倒して、休みをもらいたいもんだ。」

「ワタシも準備OKデスよ。」

「じゃあ、行こうか…!?」

 六人が折神家に向かおうとする直前、刀剣類管理局本部から一台のキャンピングカーがやってくる。

 当然ながら、もう刺客が来たのかと思い、全員が抜刀できる構えを見せていた。

 だが、車両は彼女達の手前で右に方向転換すると、左側に取り付けられていた電光掲示板を光らせる。

 

 

『貴女方の無事なる帰還と健闘を祈る 舞草』

 

 

 彼女達には不審がられる行動だと思ったが、このメッセージだけでも伝わるだろうと思った彼。

 

 

 

 

 それを見た可奈美は、一度驚いた表情を見せるも、それに向けて微笑んだ。

「行こう、みんな。この人たちを守るために。」

「分かっている。」

「うん!」

「分かった。」

「ったく、こんな粋なことをする奴はどこのどいつだぁ~?」

「とか言って、薫も分かってるんじゃないデスか?…全く、変わりませんネ。アナタは。」

 各々、あのメッセージに対して色々思いつつも、折神家へ向けてS装備の機械音を轟かせながら、突き進んでいった。

 

 

 

 

 これは大荒魂・タギツヒメが三つに分裂し、関東一円に多量のノロが降り注ぐ、その数十分前の出来事であった。

*1
Vertical Launching Systemの頭文字より:日本では垂直発射システムとして訳される。主に現代の軍艦では必須の装置であり、内部に装填されたミサイルを真上に撃ち出す。

*2
S装備のこと。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

本日10月4日はゴロ合わせで刀使の日となります。(二年目二回目)

あともう少しだけ番外編が続きます。
感想等ございましたら、お気軽に感想欄・活動報告へご投稿頂ければと思います。

それでは、また。
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