刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は番外編として閑話編をお送り致します。
時系列はアニメ本編24話、可奈美と姫和が隠世にいた頃になります。
内容は大筋、タイトル通りとなります。

それでは、どうぞ。


兄妹喧嘩、勃発!

 ー刀剣類管理局 官舎内自室ー

 

 タギツヒメや近衛隊、維新派とのいざこざや、二十年前の大災厄の再来とも言われ、首都東京を舞台に繰り広げられた多数の荒魂との死闘。彼個人としては、全ての因果が一旦収束したという意味合いを込めて、それらとの最後の戦闘を『東京決戦』という言い方をしている。そんな大動乱が収束して、まもなく二ヶ月が経とうとしていた。

 

 クリスマスイブの夜。タギツヒメを隠世へと封印しに向かった可奈美、姫和両名の行方は、未だに判然としていなかった。最後の痕跡が残っているであろう隠世を捜索しようにも、理論上は宇宙のように無限に広がる空間を調べるなど、かなり途方もないことでもあった。

 半ば二人の生存を絶望視する者も現れるなかで、それでも彼や彼の仲間達、舞衣や沙耶香など多数の刀使達もまた、生存の可能性を諦めていなかった。

 

 荒魂討伐と同時並行で、二人の捜索が続けられていたのだが、強制的に休暇を取らせた時を除いて、ずっと働き詰めであった彼の心身の状態を考慮し、紗南の方から二日間の謹慎(と言う名の休養)を言い渡された。

 実のところ、誠司や里奈、現在は別部署と兼任の姫乃の、三人の同僚もまた、今の彼の状態が気掛かりであった。日頃は彼に毒を吐く里奈が、真っ先に紗南へ彼の体調を懸念して休ませるように嘆願したことからも、その深刻さが窺い知れる。

 

 

 

 

「…なんか、だいぶ久し振りに部屋でゆっくりしているかもな。」

 事実上の業務停止を言い渡された彼だが、ここは仮住まいであるため、なるべく私物を置いていなかったことがこの時に災いすることとなった。そう、携帯やパソコン以外に、浮いた時間を潰せる物があまりなかったのである。

「舞草の諜報員としての肩の荷が降りたと思ったら、今度は部隊の立て直しを依頼されるとはなぁ…。」

 

 鎌倉特別危険廃棄物漏出問題以降、事実上舞草の諜報員としての彼は役割を終え、後任への引き継ぎがようやく終わったのもつい最近の話である。

 その間に自身も命を狙われたほか、自身や刀使達などにも災難が数多く降りかかることになったわけだが、一旦それも落ち着きつつはあった。

 近衛隊で活動していた綾小路の刀使の復帰には、まだ時間が掛かることが分かっていたため、彼の部署でもその間の刀使や一般の特祭隊員の遣り繰り、部隊指揮、対荒魂・対刀使向けアグレッサー部隊の指導や人員再配置等々の、一部業務を行っていた。

 ただでさえ負傷者が多数出た後なのに、日頃の人手不足も相まって頭を抱えたくなるような綱渡りな状況が続いていたことも、彼の健康状態の悪化に拍車を掛けていた事実があった。

 

「…一度、家に帰ってみるか…。」

 のびのびとゆっくり休める場所でもあるため、実家への帰省を思い立った彼。どのみち、仕事詰めだったこの鬱屈した空間でリフレッシュをするなど、彼の今の状態では難しいだろう。

 思い立ったが吉日。鍛錬がてらの弓道用具や竹刀と木刀を一本ずつ持ち出し、珠鋼製の十手も入れたライフルバッグを準備して、少し膨らんだ荷物を纏め終えると、彼は官舎を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 ー埼玉県入間市 彼の実家ー

 

 鎌倉から車を飛ばすこと、約一時間半。

 一年に数回帰るかどうか位の頻度になる、実家の方へと帰りついた。

「あー、ほんと久し振りに我が家に帰ってきたなぁ。」

 昼頃に着いたため、今の時間帯では誰もいないかもしれないとは思っていた。

 

 ところが、玄関に上がると、本来この時間帯には居ないはずの人物が声を掛けてきた。

「あれ、お兄ちゃん?お帰り。」

麻美(あさみ)!お前、学校は!?」

 一つ年下の妹である、麻美が彼を出迎えた。

「ああ。今ね、受験シーズンだから変則的な授業形態なの。だから、この時間でも家にいるってわけ。」

「もうどこにするとか、決めたのか?」

「う、うん。それはもう、バッチリ。」

 どこか一瞬、彼女の歯切れの悪い返事が気になった彼。聞き間違いというもあるため、敢えてすぐ聞き返すようなことはしなかった。…実は既にこの時、互いを支えてきた兄妹の関係に、大きな亀裂を入れかねない事態が進行していたのである。

 

 

 

 

 持ってきた荷物を置きに、二階にある自室へ向かう彼。

「麻美が台所で皿を洗っている間に、部屋をちょっと片付けるか。」

 今のうちに私物や管理局本部から転送していた、荷物の整理を行おうと考えた彼。

「…ま、見られて困るようなものは無いから、多少散らかってようがいいけどな。」

 

 彼も年頃の男子ではある…のだが、思春期の男子が大抵抱えているであろうはずの性的欲求に関しては、女子の同僚からも心配されるレベルで超抑圧状態となっている。このため、家族に部屋を物色されたところで大した心配はない。

 それとともに、以前彼に刀使などへ色目を使っているのでは、などと言ってきた、麻美の発言が的外れであるのを証明するという点でも、大きな意味を持った。

 

「…うわぁ。相変わらずとはいえ、引っ越し荷物のようなダンボールの山だな、これ。」

 

 年間の生活の過半を全国各地で過ごしている今、実家の自分の部屋は半ば物置状態となっている。もちろん、実家へ帰って来たときはいつもこれらの荷解きを行うのだが、だいたいそれだけで実家での滞在時間が過ぎ去ってしまうこともある。

 なので、直接麻美と話す機会そのものも、年を追うごとに少なくなっていった。荷解きが終われば、だいぶスッキリとした空間が広がることもあり、つい部屋の掃除などに夢中になってしまう、自身の悪癖もあるのだが。

 

「…普段に比べたら今日の量は少ないな。まあ、この数ヶ月、ずっと動きっ放しだったし。」

 ダンボール箱を開け、中身を取り出して折り畳む、この作業を十数回繰り返す。

「よし、これでおしまい。アニメの円盤やらは、流石に家族に任せるわけにもいかないしな…。割ったときに泣くのはこっちだし。」

 慣れた手つきで作業を終えると、室内にある机の上へ、ダンボールから取り出した中身を置いていった。

 

 

 

 

 再び一階へと降りる彼。中身を分別した複数のゴミ袋を持っていく。

「風呂も掃除してお湯を張っているし、これを置いたらソファーでちょっと転がるか。」

 日頃が家に居ないため、家で寝転ぶという習慣がないため、久し振りにグデ~ンとしたくなった彼。

 ゴミ袋を置いてリビングに入ると、皿洗いを終えて夕食を作り始めていた、麻美の姿を捉える。

「お兄ちゃん、またいつもの作業やってたの?」

「まあ、な。…麻美達が荷物を俺の部屋まで運んでくれるから、いつも助かっているし。」

「そうは言うけど、帰って来た時にはもうちょっと私と話す時間があっても、いいと思うけどなぁ…。」

「荷解きはしていかないと、俺の部屋が本当に物置になり兼ねないからな。そこは勘弁してくれ。」

「分かってるって。」

 

「…で、今日ゆっくりする感じで家に帰ってきたってことは、職場で何かやらかしたの?」

「その逆。働き過ぎだからという理由で、謹慎くらった。二日間の。」

「…ええ~っ!?」

 兄の何気ない発言に、若干引く麻美。

「お兄ちゃん、働けばいいってものじゃないんだからさあ、…もう少し自分の身体は労ったらどう?」

「馬鹿言え。前線で戦っている刀使達は、一日休みなんてない中でクリスマスあたりの荒魂対処に当たっているのに、なんてことのない一般人がそう簡単に休んでたまるか。」

「…彩矢(さあや)さん*1、心配してたよ。お兄ちゃんがいつも以上に頑張り過ぎているらしいから、気をつけてって。…秩父で怪我した出来事だって、お兄ちゃん自身の無茶がきっかけだったんだし。」

「まあ…。そう言われると、そうなんだがな。」

 

 あの『秩父会戦』後、麻美は彼が生死をさまよっている間、仕事で忙しくなかなか病院に赴けない父母に代わって、土日の学校休みの時にずっと見舞いに来ていた。

 その頃、同様に彼のところへ見舞いに来ていた、彩矢と知り合ったわけである。そのため麻美からすれば、彩矢は年上のお姉さんに近い存在でもある。時には、鎌倉よりも秩父に近いここで彼女を泊めたこともあった。無論、両親と顔を合わせたこともある。

 

「よ~し。下準備も終わったし、私もちょっと休も~っと。」

 ダイニングテーブルの椅子の方へ腰掛ける麻美。

「今日はカレーか何かか?」

「ハヤシライス。…って、お兄ちゃん、痩せてきてない?元々痩せてるのに更に。」

 普段と比べてより痩せているようにも見えた彼の姿に、麻美は心配の声を上げる。

「そう言うお前は…、…気付かない間に色々成長したんだな。」

「えっ、そう?…まあ、胸が大きくなるにつれて走りにくさは感じてたけどね。その分、身長も伸びたからいいかな、って。」

 陸上部に入っていた彼女にとっては、身体の成長も一長一短な部分だと思っていた。

 彼からすれば、そこまで気にするようなことか、とは感じてもいたのだが。

「…でも、悪かったな。中学最後の大会、見られなくて。」

「いいんだよ。お兄ちゃんが忙しいのは、分かっていたし。結果も悔いが残らないものだったから。」

 埼玉県の夏の中体連での結果は、個人三位、中学の団体では五位入賞というもので、彼女の中学での競技人生はそれで幕を下ろした。

「一応、まだ体力は落としたくないから、部活の頃でもやってた、家の周りを走るとかのトレーニングはしているけれど。」

「もう日頃のルーチンと化しているわけか。…でも大丈夫か?治安は悪い方ではないとはいえ、一人で走っていると、車での連れ去りとかの危険性はあるわけだが。」

「あー、うん。それは大丈夫。…大丈夫。」

 なぜかバツの悪そうな表情を向ける麻美。

「…まさか、危険なやり方をしているとかじゃないよな?」

「ううん、全然。至って普通なものだよ。」

(…まだ、刀使やっているって、言ってないんだよね。お兄ちゃんには。)

 刀使の力を使ってトレーニングを行っていると聞いたら、彼は何と答えるのか、正直怖いところもあって言い出せなかった。

 

 

 

 

 そして、彼女の中学卒業後の進学先へ彼が話を移した時だった。

「そういや、麻美。今の中学を卒業したら、どこに行くつもりなんだ?もう決めた、って言っていたが。」

「…ああ、うん。それね。」

「県立高校か?それとも、また違う選択なのか?」

「…後者、かな。」

「ふ~ん。そうなのか。」

 彼女の普段の明るい雰囲気が、この時に関しては彼へぎこちない返し方をしていた。どこか表情も強張っていた。

 その様子に違和感を覚えつつも、彼は麻美への質問を止めなかった。…それが、滅多にない兄妹喧嘩の口火になるとは知らずに。

 

 

「ちなみに、その学校ってドコなんだ?」

「み、美濃関学院…。」

「…ん?悪い、麻美。もう一回言ってくれないか?よく聞き取れなかった。」

「……美濃関学院、だよ。」

 彼女がそう言った瞬間、彼の中の時は突如止まった。

 

(……今美濃関学院って言ったのか、麻美は。)

「あ、麻美。もう一度頼む。何て言ったんだ。」

「だから、美濃関学院だって。お兄ちゃんもお世話になっている、伍箇伝の。」

 それを聞き、彼の表情は一気に硬くなっていった。

「…冗談は止してくれよ、麻美。日頃から言っているだろ、伍箇伝や刀剣類管理局本部の方は大変だって。生半可な気持ちや覚悟では、絶対に心が折れるぞ。…確かに人手は足らないが、だからと言って入ることは…。」

 当然、彼がこう言ったのにも根拠がある。直に荒魂と対峙しているから、身内にまでその大変さを感じさせる必要はどこにもないと思っていたからだ。

 

 だが、彼の家族だからこそ、それで食い下がるような程の人間ではなかった。

「私は別に、遊び半分で刀使をやりたいとか思ってないよ。本気も本気だから。」

「しかしなあ…。大体、刀使になれると決まったわけじゃあ…。」

「…お兄ちゃん。もう(・・)、刀使だよ。私。」

「――は!?」

 あまりに衝撃的な一言が妹の口から飛び出したので、彼の口は開いたままとなった。

「もう、ここ一、二年の話になるかな。話せば長くなる*2けれど、実際に私、荒魂と闘ったりしてるよ。」

「……ちょっと待て。それは一人でか!?」

「え、…うん。勿論、無理しない範囲でだけど。ノロの回収は私にはできないから、いつも発煙筒とか置いて帰っているけど。」

「…はぁ…、なんてこった。」

 頭を抱えた彼。それは無理もなかった。

 

 本来は刀使を含む特別祭祀機動隊が荒魂討伐を行ったあと、ノロの回収を行わなければならないのである。だが、確かに入間市を中心とした、飯能・日高・狭山・所沢市の一部、更には東京都青梅市や瑞穂町などで、荒魂が斬り祓われた後のノロだけが残された現場が、複数あったことは知っていた。それにまさか、身内が関わっていたとは思わなかったのである。

 

「で、親父や母さんはこれを知っているのか?」

「うん。…お兄ちゃんに言ったら、絶対に大変なことになるって分かっていたから。」

「そりゃそうだろ…。あー、マジでどうしよ…。」

 彼自身、頭を休めるつもりが余計に痛くなるネタを持ち込まれるとは、世の中何があるか分かったものでもない。ましてそれが、自分の職務の領分に掛かるとなれば尚更である。

 

 

 

 

 麻美の活動の何が問題か。実は、結構不味い部分も含まれているのである。

 

 第一に、刀剣類管理局の許可なく御刀を所持していること。これは後に許可を取得すれば、所持に関してはそこまで咎められることはない。

 

 第二に、不法に荒魂を討伐したこと。一見すると問題がないようにも思えるのだが、荒魂を斬り祓ったとしても、時間の経過とともにノロの特性として再結合が進み、また荒魂が出現してしまう。もし一度討伐した荒魂が他者を襲っていた場合、この責任は誰が負うのかという話にもなってくるわけである。ここが最も深刻な問題で、麻美本人の証言と実際の討伐現場での情報とを整理しなければならないが、現状は麻美に非常に不利な条件が揃っているのである。彼女が荒魂を討伐した後、すぐにノロが回収されていたかどうか、そこが最も大きな事実関係となる。

 

 第三に、麻美が荒魂討伐時に立ち入り禁止区域へ侵入したこと、及び避難指示を無視して留まっていたことである。これ自体が罪に問われることは無いが、上記の行動を取っている以上、非常に微妙な問題にも繋がる。荒魂の被害を拡散させていないのか、という点が問われてくるのだ。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 つい心配になった麻美だが、これが彼の感情に火を点けることになってしまった。

「そんなわけあるか。……あー!麻美、何で今の今まで黙っていたんだよ!これじゃ、何かあった時の責任が全部お前に掛かるじゃねぇか!」

「…私だって、刀使としての力を持っているんだから、そりゃ人の役に立ちたいと思ってたよ。……でもさ、前に伍箇伝のどこかに入れてって言った時、反対したのお兄ちゃんじゃん!」

 

 双方、気付かぬうちに火花を散らしていた。

 

「うぐっ!…それでもやっていいこと、悪いことくらいの分別はあるだろ!」

「私、伍箇伝の生徒じゃないんだから、どこまでが良くてどこまでが悪いかなんて分からないよ!」

「…もういい、これじゃ埒が明かない。お前は一度知るべきだ。刀使達の現場は決して甘くないってことを。」

「そう言うなら、私だって!」

 かくして、遂には兄妹が直接殴り合うこととなってしまった。

 

 

 

 

 実家近くの小さな公園。最初は持ってきていたライフルバッグ内にある、ゴム弾入り89式小銃で麻美と対峙しようとしたのだが、流れ弾が他人に当たる可能性を考慮し、代わりに珠鋼製の十手を持ち出した。

「まさか、お前が刀使になっているとは思わなかったよ。麻美。……お前には悪いが、意地でも止める。俺さえ倒せないなら、正式に刀使になったとしてもすぐに生死に直結する。言っておくが、手加減はなしだ。」

「…いいの?刀使の力って、普通の人さえ簡単に殺してしまうようなものだよ。お兄ちゃんが、それを分かっていないはずがないと思うけど。」

「…それは今からやり合えば分かる。来い、麻美。」

 ちなみに、銃火器が使用できないため、今の彼の武器は先述の十手と警棒である。最も、警棒は収納しているが。

「…分かった。言い出したら聞かないしね。…写シ!」

 御刀を構え、正眼の構えを取る麻美。

(御刀のモノは打刀タイプか。…思っていたよりも様になっている。)

 そんなことを思いつつ、間合いを測る彼。

 

 

「やあっ!」

 当たり前というか、十手の握られていない左手側を攻める麻美。八幡力を用いて一気に加速する。

「…やっぱりな!」

 初めて戦う相手ならば奇策に徹するのが常道、というのを予測していた彼は、瞬時に警棒を抜いた。

「―ぐっ!」

「うそっ!」

 特注した高硬度の警棒によって、彼へ振り向けられたはずの御刀の方向が変えられる。やはり彼は、御刀と接触するモノとの間で滑らせる方法を、徐々に編み出していたようである。

 

 カーンッ

 

「悪いな!こちとら現役の刀使に鍛えられてんだ!実際に御刀を持った刀使との戦闘だってやってんだよ!」

 

 普通の一般隊員であれば、こんなことにはなっていなかっただろうが、様々な刀使達との交戦や鍛錬を積んできたこともあり、自らの経験則と戦闘時の勘を頼りに応戦する。彼が、敗色濃厚な中のあの東京での戦いから、生還の道筋を立てられたのはそれが極めて大きかったからだ。

 

「なら!これは!」

 

 瞬時に御刀を軸回転させ、彼の身体を真横にぶった切るように振り返す。

 

「うげっ、やば!」

 

 咄嗟に警棒を御刀と垂直に立てたことで、彼の首と胴体がおさらばすることは無かったが、警棒は見事に二つに斬り分けられてしまった。

 

「…ふふっ。お兄ちゃん、悪いことは言わないから、降参した方がいいかもよ。」

「確かに、な。」

 

 実質、彼の身体を防護できるものがリーチの短い十手しかない以上、圧倒的に彼女の方が有利であった。

 

「じゃあ、」

「だがな。戦いってのは正々堂々やるだけとは限らないだろ!」

 

 そう言った瞬間、麻美の顔面目掛けて、先程斬られた警棒が投げられる。

 

「っ!?」

 反射的に御刀でそれを払い除けようとした彼女だが、彼はその一瞬の隙を逃すはずがなかった。

 

 

「隙あり!!」

「えっ!?」

 

 

 麻美が気付いた時には既に兄の姿は視界になく、下腹部に左腕が回され、両腕は御刀の先端を地面に付けて、右腕にあった十手で押し下げられていた。御刀を上げようとしたが、十手に鮎口付近を抑えられ、動かすことができなかった。八幡力や迅移を用いようにも、体をがっちりホールドされている以上、振りほどくことができない。

 

「―ぐっ、動かせない!」

「…ちなみに麻美。この状態から、俺はお前の身体の軸バランスを崩して、組み伏せさせることもできる。…さあ、どうする?」

 これ以上、麻美に本気の刀使の力を使われれば彼も負けるため、これはハッタリではあったが、敢えて精神攻撃を仕掛ける。

 

「……お兄ちゃん、降参するから。」

 写シを解き、戦闘継続の意思が無いことを示した麻美。

「分かった。」

 彼の方も十手に掛ける力を緩め、抱きしめる恰好になっていた麻美から離れる。

 こうして、兄妹喧嘩という名の闘いは彼の戦術勝ちで終わった。

 

 

 

 

 実家に帰り、ダイニングテーブル上で再度向き合った二人。

 先に口を開いたのは彼だったが、その言葉は意外なものであった。

 

「……麻美。俺の負けだ。」

「え?」

「正直に言えば、お前を危険な場所へと送り出したくない、ってのがあった。家族だし、一度大変な目にもあっているからな。」

「お兄ちゃん…。」

「でも、お前と直接ぶつかり合って解った。とっくの昔に、覚悟が出来てたんだな、ってのが。…同時に俺は、麻美の意思を遮っていたともな。悪かった。」

「…反対するのは当たり前だと思うよ。でも、折角授かった力なんだから、私は人の役に立てることに使いたいよ。」

「そっか。…あの頃とはもう違うんだな、麻美は。」

 ふと、幼き日々の彼女を思い返した彼。

「ん?何の話?」

「こっちの話だ。…取り敢えず、お前の件はこっちでどうにかする。…仕事、増えたな。」

 

 

 頭を抱えつつも、正式に刀使になろうとする妹のことを支援しようと思った彼。

 その後、夕食に出された麻美の作ったハヤシライスを食べた時には、久し振りの家族の味に、スプーンを掬う手が止まらなかった。

*1
小池彩矢(平城のとじともサポメン)のこと。本作では、彼の命の恩人と親友という立ち位置である。

*2
閑話編『近くて遠い距離』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

彼個人が抱える問題というのはあまりなかったと思いましたので、今回兄妹喧嘩という形で書かせていただきました。超人のごとく思われがちですが、一般的な感覚は持っているという部分もございますので、このような流れに。

余談ですが、ここ最近の招集で可奈美や舞衣、つぐみ(ブライト)が来ましたので、運を使い果たしてないかなど、ちょっとばかし不安が募ったところがございます。
(なお課金額…。)

次回から戻りまして、真希編へと移ります。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽にご投稿頂けたらと思っております。

それでは、また。
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