刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。ちょっと間が空きました。

今回は閑話編として、『兄妹喧嘩、勃発!』の後日談をお送り致します。事前に『兄妹喧嘩、勃発!』をお読みいただくと、本話での流れは掴みやすいかと思われます。
彼と麻美が中心として登場する話となります。

評価をしていただいた方からの私見として、面白いのだが主人公が渋いとのお言葉を頂きました。(執筆当時)
筆者の年齢自体は若者のはずなのですが、筆者自身にエネルギッシュさや若々しさが無いということなのでしょうかね…。人物を書くってなかなか難しい…。

それでは、どうぞ。


武蔵野の守護者

 ー神奈川県鎌倉市 某弓道場ー

 

 本部での勤務が何年も経過してくると、彼も精神統一の一環として弓道をやる機会が増えてきた。勿論、実際に現場で射ることがあるので鍛錬を重ねているところもあるが、剣術や剣道と異なり射法八節によって一連の動作がある程度定められている弓道は、マニュアル的動作がやりやすい彼との相性が非常に良かった。

 流石に弓道と剣術の二刀流というのはなかなか大変ではあるが、武道という観点から等しく視ることができるので、彼個人としてもやってきて良かったと思っているスポーツである。

 

 

「ふ~っ。」

(中心を狙って…………今!)

 

 

 パンッ!

 

 

 三射目を終え、的には二本の矢が中っている。

 続いた四射目は、残念ながら的の右隣に刺さる。

 

 射場で礼をして、退場する彼。再度、神棚へ礼をして射場の敷居を跨ぐ。

 

 

「あー。ダメか…。真上と右隣、ということは手ブレだけが原因じゃないな…。」

 

 的に中っていた矢が返ってくるまで、射法八節という基本的な弓の引き起こし動作を練習し直す。

 弓道にも派生としての弓術がある。が、彼は弓道での一般的なやり方を取っていたこともあり、あまり意識したものでは無かったという。強いて流派の所属として挙げるならば、小笠原流と呼ばれる流派なのだろうが。

 

 

 

 

 そんな風に射形の見直しを進めていると、後ろから声を掛けられる。

 

「お久しぶりです。○○(彼の苗字)さん。最近顔を見せないものですから、お忙しかったのかと思いまして。」

「ああ、町田君。確かに久し振りだな。年の瀬の災厄の時は迷惑をかけた。」

 

 町田と呼ばれた、彼と同じ位の歳の青年が彼へ首を横に振った。

 

「いえいえ。まさか、あの時に腕っ節の弓仲間を準備してくれとは思いませんでしたが。結果的に僕たちの出番が無かったので安心こそしましたけれど、○○さん達が東京で大変な目にあったとは後で刀剣類管理局の方からお聞きしました。」

「…ホント、五体満足で帰ってこられたのが不思議なくらいだ。」

「この後お時間はございますか?」

「ああ。一時間程度なら大丈夫だ。…その前に、もう一射していっても構わないか?」

 

 ちょうどいいタイミングで、四本の矢が立て置かれている矢筒に戻される。

 

「なら、僕もご一緒に。」

「悪いな、付き合わせて。」

「いえ、僕も射ようと思っていましたから。」

 

 そして二人は、再度射場へ入り直すのであった。

 

 

 

 

 あらかた矢を撃ち終えた後、二人は道着から着替えて弓道場を離れる。そして向かった先は、話をするにはうってつけな大手チェーン店のファミリーレストランだった。

 二人は少し角に近い席に陣取ると、ドリンクバーや軽食を注文する。ドリンクサーバーから飲み物を汲むと、彼の方から話を始める。

 

「流石に神奈川県内でも有数の腕前をもつだけはあるな、町田君は。…ほぼ的の中心に沿った皆中とは。」

「そうは言いますが、見たところ○○さんの腕もあまり落ちていないように思えますよ。あれだけ多忙を極めていたら、休養を取るのも一苦労だったはずだと思いますが。」

「まあそこは、…俺も同僚から色々と気を遣われてなあ。あげく過労の恐れがあるから、っていう上からの指示で謹慎を受ける羽目になったし。」

「えっ、そんなことってあるものなのですか?」

「あったんだよ、それが。…最も、今回のようなケースの謹慎処分が出されたのは俺が初めてらしい。…笑ってくれよ。」

「は、はあ。」

「そうそう、あの時に招集をかけた弓道仲間は元気にやっているのかい?」

「はい、おかげさまで。国家機関からも腕を見込まれた、ということだけでモチベーションを取り戻した人もいましたし、何より僕の高校の人間も、夏の高体連でのインターハイ出場を目指すことに熱が入っていますね。」

「…災い転じて福と為す、の好例になってくれたのなら、あの招集に意味はあったんだな。」

「はい。」

 

 町田と向き合う彼。

 その時、テーブル上に置いていた業務用携帯が激しく震える。

 

「あ、すまん町田君。ちょっと出る。」

「はい、どうぞ。」

 

 掛けてきたのは、同僚の姫乃だった。今は改組中の情報部隊にて、所属こそ彼の部署のままだが指導に当たっている。

 

「もしもし、俺だ。」

『水沢です。◯◯さん、休養中のところ失礼致します。』

「何かあったのか?」

『はい。◯◯さんの妹さん、麻美(あさみ)さんのことで。入間市周辺での活動と、特祭隊の討伐データ、及び戦闘地域一帯の防犯カメラ映像での行動確認などの情報解析が終わりました。…ご都合がよろしければ、麻美さんと共に私のところまで来ていただいてもよろしいですか?』

「勿論だ。すぐ行こう。」

 

 二つ返事で姫乃に伝える彼。

 

『では、本部の私達の部署で待ってますね。』

「おう、じゃあ後でな。」

 

 時間にして一分ほどだったが、通話を終えると彼は大きくため息をついた。

 

「何か、あったんですか?」

「ああ、まあ。身内がやらかしたことに対しての調査が終わったらしい。今のは同僚からだ。」

「大変ですね。…僕らもあと何年かしたら、こんな風に忙しく動き回るのでしょうか。」

「今のうちに高校生活は楽しんでおいた方がいいぞ。まあ、俺の話はあまり参考にもならないだろうが。」

「そんなことはないですよ。…そうそう。◯◯さん、知りませんでした?貴方、ネット上じゃちょっとした有名人なんですよ。」

「え?何でまた俺なんだ?」

「多分、これが理由だと思います。」

 

 町田が差し出したのは、自身のスマホ画面。そこには、陸上自衛隊の中型トラックへ担がれていく負傷した刀使達と、その近くで指示を出す若い男性が映し出されていた。

 

「この映像って…、まさか」

「ええ。年の瀬の災厄の時に、東京都心でとある報道機関が偶然撮影したものです。で、その映像の解像度を上げたものがネット上に上がったんですよ。それがコレです。」

 

 彼もその解像度の上がった映像を確認する。…どう見ても自分の顔であることを理解するのに、時間は要らなかった。

 そして、自分以外の最後の特別祭祀機動隊員や自衛官が乗り込んだのを確認すると、彼はそれらを見送る。映像はそこで終わっていた。

 

「……これ、撤退命令が出た時のだな。でも、何でこの映像だけで有名人になるんだよ。こんなの、大災厄のごく僅かな部分じゃねぇか。」

「そりゃそうですよ、◯◯さんがその後どうなったのかを調べる人が一定数いたらしいので。今だと情報開示請求も比較的簡単にできる時代ですから。…そしたら、荒魂の大発生したエリアにまだ取り残されていた、民間人や刀使達を救援しに貴方が再突入していった、という事実を知って驚いたらしいですし。」

「……それはただの命令違反だ。遵法精神もあったもんじゃねえ。曲げて良いこと悪いことの区別くらいは付けたかったんだがな。生憎、そこに命が掛かっているなら仕方なしだ。」

「それでいて、その時に救われた人達が◯◯さんのことを探していらっしゃるそうですよ。お礼が言いたいと。」

「そうかい。…無事に家族のもとへ帰れたのなら、良かったじゃねぇか。俺達は、当たり前の仕事を当たり前にこなすだけだ。むしろ、未然に防げなかった俺らの落ち度のほうが遥かに酷い。苦情はあれど、お礼は俺ではなく他の人間に言ってやってくれ。勿論、刀使達にもな。」

「………◯◯さん。」

 

 冷めたようにどこか遠くを見つめる彼。町田は、あの戦いで彼の身に何かあったことだけは悟った。

 

 なお、そんな彼に対してのネット上での渾名は、刀使の守護者(メイデン・ガーディアン)などという大層なものとなっている。最も、当の本人たる彼はそんなことを知りもしないが。

 

 腕時計に目を落とすと、討伐現場にて見習い刀使扱いを受けている麻美を回収して本部に戻るために、ここを最も遅く出られる限界の時間が迫っていた。

 

「……おっと、そろそろ出ないと不味い。悪いな、町田君。」

「いいえ、僕も久しぶりにお話しができて良かったです。また、一緒に射れる機会があるといいですね。」

「夏の大会、インターハイまで行けるといいな。俺も程々には頑張っていくわな。それじゃ、お先に失礼。」

 

 彼は提供されたピザやドリンクを一気に飲み込むと、自分が頼んだ分の代金以上の額をテーブルに置いて店を離れる。

 

「……相変わらず、同じ世代とは思えないほどに義理堅い方ですね。…ネットの情報ほど玉石混交なものは無いと、改めて思い知らされるのはなぜなのでしょうか。」

 

 ネット上では、刀使達の救援へあたった彼に対しての、僻みとも嫉妬とも取れるような複数の書き込みが散見される。…ただし、女たらしだの天然ジゴロだの、という書き込みに関しては、そうあながち間違いでもないというのは悩ましい部分ではあるのだが。

 町田はそんな書き込みなどから目を離し、今後の彼の身を案じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 新たな情報部隊の指導のため、一時的に彼の部署との兼任状態となっている姫乃。彼女自身の持つ情報通信技術ならば、この新情報部隊の部隊長、つまり責任者としての実力はあると見込まれていたのだが、彼女はそれを断った。

 理由は、彼の部署でやり残した仕事がまだ多い、というものだった。当然、勘の良い者はその理由の裏にある本音を知っていたが、鈍い一部の者は本当に不思議がっていたという。

 

 普段のように部屋の扉をノックし、姫乃の待つ室内へと入る。本部で合流した麻美も、美濃関の制服を着て入室していく。

「待たせた、水沢。」

「は、初めまして。水沢さん。」

「お待ちしてました。…そちらの美濃関の制服の人が、◯◯麻美さんでよろしいですね?」

「はっ、はいっ。」

 

 麻美がここへ来るのは初めてであった。何せ、兄の職場へ足を踏み入れたこと自体が初めてなのである。まして知らない人間が前にいるともなれば、緊張しないわけがなかった。

 

「…大丈夫ですよ。そう固くなられなくても。これでも私、麻美さんとは同い年なんですよ。」

「えっ、そうなんですか!?てっきり、もっと年上の方とばかり……。あっ、すみません!」

 途端に表情が曇る姫乃。

「……◯◯さん。私、そんな老けて見えます…?」

「まあまあ、大人びているってことだから、そこは気にするな。実際、俺も水沢が大人びていると思っていることに変わりないし。」

「…そう、ですか。何だかこう、素直に喜んでいいのか悩ましいですね。」

「そこまで気にすることでもないとは思うけどなぁ…。それはさておき、情報が揃ったのは本当なのか?」

「あっ、はい。ちょっと待ってください。」

 

 姫乃への悪い流れに進みそうな会話をぶった切り、麻美がやらかしたことの後始末を確認する彼。姫乃も引き摺られることなく、意識が其方に向いた。

 

「…え~っと、確かこのフォルダだったはずですが…。…ああ、間違いないですね。これです。結論から言えば、麻美さんがやったことに関しては、映像と資料を突き合わせてみた限りの部分で大丈夫だとは思いますよ。」

「助かる。…ちなみに、防犯カメラ等の情報はどれくらいまで遡れたんだ?」

「基本的に年単位のものはありませんでしたが、ここ数ヶ月前後の討伐現場周辺のデータは揃えられたはずです。少なくとも、急激に出動数が増加したここ数ヶ月以内のものは、確実に検証できました。」

「…ちなみに、どこの部署がそれをやってくれたんだ?」

「はい、私が指導を任されたあの情報部隊です。新人やチームワークを図るための肩慣らしにちょうど良いのでは?とも思っておりましたので、◯◯さんからの依頼は本当に渡りに船でした。」

「……すまない、半ば私用に使わせたようで。後で彼ら彼女らにはお礼を言いに行かせてくれ。」

「構いませんよ。…麻美さん。」

「はっ、はい!?」

「お兄さんを、どうか無茶させないようお願いしますね。」

「……というか、兄が言っていたことは本当だったんですね。同僚の方から心配されるって…。」

 

 頭を抑えた麻美。任務に必死すぎて色恋沙汰との縁が皆無であるというのは、正に事実であったことを今の言葉で理解できた。

 

「……分かりました。ただ、私でも止められるかは分かりません。これでも私、兄に年単位で伍箇伝に入ることを止められ続けてきましたから、兄の頑固ぶりは理解してきているつもりです。」

「…ご苦労されておられたのですね。」

「はい。」

「…なんか俺、悪者扱いされてない?」

「「事実です(だよ)。」」

「……さいですか。」

 

 妹、というか身内のことを考えていたが故の衝突だったわけだが、麻美の覚悟を知った以上は彼も腹は括っている。だからこそ、美濃関の江麻や友人知人達へ妹の指導や鍛練を任せたわけだ。

 

「じゃ、水沢。今から本部長のところへ行ってくるわな。麻美の責任問題を晴らすためにな。後顧の憂いは無くしておきたい。」

「まあ、問題ないとは思いますよ。私の情報分析、信じてますよね?」

「勿論だ。ただ、極僅かな可能性をゼロにすることが大切なんだ。」

「水沢さん、今日はありがとうございました。困った時には、また頼らせていただきます。」

「麻美さんも、頑張ってくださいね。」

 

 姫乃は、兄妹が背を向けて立ち去る姿を見送った。

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室ー

 

 姫乃のもとを離れた二人は、紗南やいろは、江麻といった新体制として朱音を支える面々が詰める場所へと赴いていた。

 

「…麻美、一言先に言っておくぞ。学長達はそこまで怖い人たちじゃないから。そこまで怯える必要性はないぞ。」

「う、うん。わ、分かってる。」

「…陸上の大会に比べりゃ、多分緊張するようなことは無いと…思うぞ。うん。」

 

 美濃関の制服姿で妹と向き合うのは今日が初めてではあるのだが、陸上部に所属していたこともあり、身体の引き締まり方も制服の上からはっきり分かる。とはいえ、その服を着た生活が送れるかどうかは、今からの紗南との話し合いの結果次第による。…万に一の確率に悩むのは、兄の彼も同じことであった。

 

 

 

 

「失礼致します。○○××(彼の名前)、及び○○麻美、入ります。」

「…おう、来たか。待っていたぞ、二人とも。」

 

 二人を出迎えた紗南。事前にこの時間には訪れることを彼女に伝えていたため、来るべき時がきたのだという実感が湧く。室内にはいろはや江麻の姿もあった。

 

「で、○○…いやこの場合だと××の方がいいか。お前の妹がしでかしたことは、どうだったんだ?」

「まずは、これを見ていただいてから話に入ろうと思います。」

 

 彼はおもむろに取り出した、先ほど姫乃から貰ったデータの入ったUSBメモリーを近くのUSBハブへ差し込む。

 

「スクリーンに映っているんは、何やの?○○君。」

「この映像は、麻美が荒魂討伐を行っていた埼玉県入間市、及びその周辺自治体で撮られたモノです。麻美が荒魂を討伐した後に、ノロの回収班が辿り着くまでの時間を測定してもらいました。…ノロの再結合が起こっていた場合では、先に討伐した麻美への責任があります。本来は起こらないはずの被害を生み出した、その原因ということもありえますから。」

「……○○君、貴方は実の妹であっても容赦はしないということなのかしら。」

「自分自身であれ、身内であれ、やってはいけないこととその責任は付いて回りますから。…だからこそ、何もないことを信じたいだけです。」

 

 いろはと江麻に掛けられた言葉を返す彼。麻美は静かに、映像をじっと見つめ続けた。

 

「××。ちなみに、どれ程の量の映像なんだ?時間にして。」

「えーと、確か……数ヶ月分の時間数だったかと。」

「流石に私も暇ではないぞ…。それで、大方この情報を纏めたのは水沢じゃあないのか?ならば、別に私へ必ずしも見せなくとも良かったのではないのか?」

「……身内が出す情報を、本件の関係者である俺が見て良しと言ったところで、その情報に信用はありませんよ。なら、本部長や学長達にも見てもらった方がいいと思っています。」

「……この映像、テレビ番組のように時系列ごとで図やグラフを出してくれているから、見やすいわね。」

「ほんまにねえ。……しかしまあ、私も驚いたわあ。未登録の御刀を持って荒魂を祓っている娘が、実際におりはったんやなあ。」

「その辺りは俺も思っていませんでしたよ。システム化が進んだ近年では、麻美のようなケースは稀でしたから。」

 

 いろはや彼の言うとおり、まだ刀剣類管理局による御刀の管理が厳しくなる以前の頃であれば、野良の刀使も珍しい話ではなかった。だが、電子化や伍箇伝各校等での御刀保管が義務付けになってきた現在では、麻美のような刀使が活動している例は報告されることそのものが珍しがられる次元なのだ。

 

「……倍速にしますか?水沢からの資料じゃ、何ヶ所か判断に迷うところを事前にチェックを入れてあるようですし。」

「…すまないが、頼む。時間が幾らあっても視きれないからな。」

「…◯◯さん、大丈夫?」

「はっ、はい。…今なら、兄の言葉の意味をよく噛み締めることができます。」

 

 客観的な情報が加わってこそ、自分の行動の大変さを理解できるようなものだ。討伐に手順があることを知らなかった、正式に認められていなかった刀使だからといって、世間はそれを許してはくれない。彼は口には出さないだろうが、言ってみればこれは麻美を守るための通過儀礼のようなものである。

 対外的には強硬派のように見せていたが、その実妹をどうしたいのか対してに最も悩んだのは他でもない彼自身であったのもまた、難儀なものだろう。

 

 

 

 

 紗南、いろは、江麻からの映像チェックを経て、数ヶ所の判定が難しい討伐現場の映像も確認してもらった。

 映像が途切れたところで、紗南が彼に向き直る。

 

「……終わったな。ようやく。」

「はい。」

「…そうだな、まず結論から話すが、お前の妹の処分は口頭での厳重注意だ。それで手打ちにしよう。」

「…………え、本当ですか?」

 

 さらりと言われたこともあってか、少しポカンとした表情を浮かべた彼。麻美も同様だった。

 

「私らが幾ら、ノロの再結合による被害が無かったとお前の妹に証拠を求めたとしても、それは悪魔の証明に他ならないからな。そこまで求めるほど、私らも鬼じゃない。」

「それに、麻美さんは刀使としての実力もあるわ。今は刀使の人手も足らないうえに、非公認であったとはいえ実際に討伐にまで持ち込んだケースも多い。そんな娘に対して、わざわざ辞めろとは言わないわよ。むしろ本人はやりたがっているのならば、尚更よ。」

「そうそう、麻美ちゃん。貴女、平城の娘との面識もあったんよねぇ?」

「あっ、彩矢さん*1のことですか?…そういえば、確かに出身は平城学館と仰っていましたが。」

「機会があったらでええから、ウチのところにも腕試ししに来てええからね。何だったらウチのところへ…」

「いろはさん、そこまでです。○○さんはウチの生徒ですから、ね?」

「…麻美の前途が明るそうで良かったわな。」

 

 

 

 

 今までの杞憂は一体どこへやら。

 一つ彼が確信を持てたのは、妹が歩む刀使としての道のりは自分が居なくても大丈夫である、ということだろう。

 

 

 

 

 

 

 作戦指揮室を離れ、鎌府の食堂へと向かっていた二人。

 その途中、ふと立ち止まった麻美。それに気付いた彼は、彼女の方へ体を向けた。

 

「ねえ、お兄ちゃん。」

「なんだ、麻美。」

「ありがとうございました。」

「…どうした?急に。」

「なんだかんだ言って、私はお兄ちゃんに助けられていたんだなって。今日の出来事でそう思った。」

「別にそんなことは…。」

「今後も、もっと迷惑かけちゃうかもしれないけれど、よろしくお願いします。お兄ちゃん!」

「……ああ!ただ、贔屓はしないからな。」

「分かってるよ~。…さ、行こ。皆さん、私のことを待ってくださっているし。」

 

 二人は、麻美のことを心配していた仲間や同僚達の待つ食堂へと駆けて行く。

 

 

 

 

 後に武蔵野の守護者と呼ばれるようになる、麻美の伍箇伝での生活は、まだ始まったばかりだ。

*1
小池彩矢(平城学館、とじともサポメン)のこと。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

麻美の彼に対する呼び方ですが、対外的には「兄」呼び、一対一もしくは家族間では「お兄ちゃん」呼びです。年相応に、公私を切り替えた振る舞いができる娘ではあります。

新型コロナウイルスの影響で就活も大わらわな時節でございますが、とっとと収束に向かってほしいと思うのですがね…。(おのれコロナ…。)
感染の急拡大が未だ危惧されているなかでは、アニメを含めたエンターテインメント業界等々の方々にとって苦境な時であるのが、辛いところではございます。…終息したら、更に消費を増やしていきたいところです。(程々にはですが)

次回以降も引き続き番外編として、アニメ本編及びとじともで登場するキャラの話を続けさせていただきます。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告等へご投稿いただければと思っております。

それでは、また。
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