刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は閑話編として『ガールズトーク』の二回目をお送りさせていただきます。…といっても、今話は鎌府が舞台となりますので悪しからず。
女子同士の会話シーンを描くのは、未だに変わらず難しいですね…。

時系列はアニメ本編24話中、二月頃になります。
それでは、どうぞ。


ガールズトーク 二振目

 首都・東京で繰り広げられた、維新派との決着がついた刀使達。『年の瀬の大災厄』と呼ばれることになった大荒魂・タギツヒメの復活と、それに連動した首都圏消滅の危機は、可奈美や姫和などの数多くの刀使・特祭隊員達の尽力により、相模湾岸大災厄のような惨憺たる人的被害に対してはだが、食い止めることができた。

 しかし、荒魂被害により大破・損壊した建造物に関してはその限りではなく、建設業界は絶賛復興バブルに湧いている。…翌年に控える東京五輪*1での資材不足に更なる拍車が掛かるなかでも、刀使やそれを支える多くの者達は目の前の任務や職務に向き合い続けていた。

 

 

 

 

 ー鎌府女学院 食堂兼レストプレースー

 

 刀使やサポート要員が集まる食堂。夕食時ということもあって、内部は非常に混み合っていた。その中には鎌府の刀使である、玉城(たまき)真梨江(まりえ)の姿もあった。

 

「ああ、玉城さん。こちら空いていますよ。」

「苗場さん、お疲れ様です。お相席させていただきますね。」

「ええ。どうぞ。」

 

 同じ鎌府の刀使である苗場(なえば)和歌子(わかこ)に誘われ、食事を摂る席が彼女とお相席になった。

 

「此花さんはお元気そうですか?」

「ええまあ。ただし、朱音様が局長代行を務められて以降、紫様の時以上に慌ただしく動かれていますわ。…親衛隊ではなくなりましたが、あの方が文武共に優れたお人であることに変わりはありませんし。」

「そう言えば、苗場さんも此花さんも綾小路からの転籍組ですよね。こっちの人と慣れるのに苦労はありませんでしたか?」

「確かに移ってきた当初は、ごく一部の方から因縁をかけられることもありました。ですが、文字通り力でねじ伏せて以降は、そうした方達からの言い掛かりはありませんね。というか、私は寿々花様と一緒に居られれば、それでいいと考えている節がありましたから。」

「……鎌府は、だいぶ変わりましたね。」

「まあ、綾小路から移ってきたよそ者の私が言うのも難ですが、高津学長がいた頃はどこかこう、陰鬱な空気が漂っていましたし。ギスギスしていた、というのが正しいのでしょうけれど。」

「…特に刀使科・刀使予科はそうですね。学長の贔屓が無くなったこと、他の伍箇伝の学校との交流が深まったことで、新しい風が入ってきつつありますし。」

 

 実際、高津学長は事実上の更迭を受けており、現状では長船の学長であった真庭本部長が鎌府の学長として運営を代行している。最も、そのおかげでタギツヒメら維新派との衝突時には、鎌府の刀使が直接的なダメージを受けずに済んだわけだ。

 また、多くの刀使の実力者達と会する機会も増え、剣術の技術向上目的や、今まで積極的な行動に対して抑圧的になっていた意欲的な刀使が、彼女たちとの立ち合いを増やしているという。

 

「お相席、よろしいですか?二人なんですけれど。」

「はい、…えっ、三原さんと水沢さんじゃないですか!?」

「どうも、玉城さん、苗場さん。」

「あー、まさかあの男の関係者とは…。…まあ、どうぞ。」

 

 早希と姫乃を見て、真梨江は驚き、和歌子は複雑そうな顔を浮かべる。

 

「失礼しますね。」

「苗場さん、お隣失礼します。」

 

 それぞれ、真梨江の隣に早希、和歌子の隣に姫乃が腰掛ける。

 席に全員が座ると、早希に向けて和歌子がこう切り出す。

 

「…本当に、以前は敵同士だった人間とは思えないほどの明るさよね…。」

「そうですか?私は苗場さんのこと、昔からそんなに嫌いではないですけれど。」

「そこはまあ、感情的な問題です。…今となっては舞草主体の管理局体制になりましたけれど、寿々花様に仕えている以上は、当時の積極的排除が妥当な考えだと思っていたわけですし。安易に納得しろというのも、難しいですよ。」

「…確かに、苗場さんが仰る通り、未だにしこりが残っている方もいらっしゃいますからね。」

 

 紫体制の先鋒であった鎌府が、舞草の構成員の多数を占める長船に対して思うところがあるように、同じ鎌府の中でも寿々花との関わり上紫派であった和歌子は、舞草の構成員として暗躍していた早希へのわだかまりが残る。こればかりは互いの信条の衝突もあったため、どちらがいい悪いとは言えないのだが。

 

「そもそもとして、私からすれば荒魂を討つこと自体には、以前の紫様も今の朱音様も大して変わりないように思えますが。単に上層部が入れ替わっただけでしょうから。」

「……玉城さん。タギツヒメが隠世に送られた今だからこそ言える話ですが、実は紫様の中にそのタギツヒメが居たんですよ。紫様が身を挺して長らくその内に封じる形でですが。その封印を行おうとした時に生じたのが、あのノロの大拡散*2だったわけです。三原さん達舞草の方々は、その大荒魂の復活を阻止するために、散々行動してきたわけだったんですけれどね。」

「というか、そう言ってくだされば、当時の私達も協力くらいはできたでしょうに。」

「まあ、舞草の人間と分かった日にはどんな目に遭うのか分かったものではありませんでしたし。まして、『御当主様が大荒魂だ!』なんて言って、信じる人間が一体どれほどいるのか、という問題もありましたから。苗場さんなら、その意味が理解できると思いますけれど。」

「「ああ…。」」

 

 早希の言葉に思わず納得する二人。まして和歌子なら、早希の言っている意味が余計に分かってしまった。そんなことを言えば、戦前どころか現在に至るまで刀使の頂点たる折神家に対しての、不敬罪案件にしかならない。

 

「この辺の話はオフレコでお願いしますね。あんまり他の方をいたずらに混乱させたくありませんから。」

「そこはまあ、分かりますが。…ということは、維新派と言っておられた方々もそれに関連して?」

「その推測どおりです。ギリギリのところで私達が勝ちましたが、…やはりその代償も大きかったのは悔いが残る点です。特に当時は、○○さんは綾小路の被害を回避できなかったことを嘆いておられましたから。」

「……今更ながら、あの時寿々花様と一緒に行く判断をしたおかげで、私は難を逃れられたのかもしれませんね。…それで、綾小路の刀使の方達は?」

「今も治療とリハビリ中です。ノロ使用の反動で、薬物投与と似たような症状に悩まされる人も、まだいらっしゃいます。○○さんや糸崎さん、里奈さんと一緒に聞き取りやアンケートはしていますが、やはり味方に御刀を向けたという事実は拭えませんから。真面目な人は尚更です。」

 

 主に葉菜などがそれにあたる。同じく舞草の人間であった彼とは話しができるものの、時々塞ぎこむこともあるという。彼女達もまた、被害者なのだ。

 

「……どうしてこう、高津学長に関わったところでは不幸が舞い降りるのでしょうか。」

「まあ、あの学長でしたから。残念ですが、当然の結果です。というか私、あの学長のこと好きではありませんでしたし。」

「え、意外ですね。三原さん、私から見れば結構人あたりはいいと思っていましたから。」

「まさか。共学から女子校へと転換したうえに、男はなるべく関わらせない方針でいた以上は、はっきり言って敵意しかありませんでしたし。……糸崎君と一緒に学校生活、送りたかったのに…。」

(……三原さん、愛が重くないですか!?―というかそれ、学長を敵に回すほどの理由ですか!?)

 

 姫乃は持っていたスプーンを思わず落としかけるほどに、和歌子の呟きに対しての早希の返しに啞然とし、彼女が持つ誠司への愛情深さとうっすら窺い知れるほどの雪那への憎悪を感じ取った。

 

「もしかして、三原さんが舞草に入ったのって…」

「えっ、ああそれとは別の話ですよ。……まあ結果的に排除されたので僥倖だとは思いましたけれど。」

(…三原さん、怖いです。)

 

 真梨江は夕食のヒレかつ定食を頬張りながら、今の話しは仲間内でも知らない方が良かったかもしれない、と思うのだった。

 

 

 

 

 さて、会話を交えていくなかで、話題は姫乃のことに移っていく。

 

「そういえば。水沢さん、なんでも荒魂討伐の効率化を目的とした情報部隊の再編もやっていらっしゃるとか。」

「ああ、真庭本部長から頼まれたものですね。情報部隊が各地で複数に分かれていましたから、本部の方で直轄組織にして、地域ごとの荒魂の特性や討伐時における過去の討伐例のフィードバックがすぐにできるように進めているところです。まあ、私はそうしたところでしか刀使さん達の支えになれませんから。」

「それでもすごいことだと思いますよ。」

「ただそれも、あの男からの意見だったりしませんか?―情報部隊といっても、舞草の人間と紫様の派閥の人間とで混ざり合いますから、あまりいいことではないようにも思えますが?」

「ああ、苗場さんのご意見は最もですよ。私が最初にやったのは、その意識の壁を壊すことでしたから。」

「意識の壁、ですか?」

「刀使の皆さんがお互いに仲間意識やライバル意識などを抱いているように、私達情報を扱う人間もそうしたものはあります。と言っても、だいたいは自分の実力の誇示が多い傾向にありますけれど。―それを一度粉々に砕きました。変なプライドは業務上の支障にしかなりませんから。」

「具体的には、何を?」

「一つは膨大な量の情報整理と各伍箇伝の生徒用のデータベースの作成、もう一つは荒魂討伐時の情報を全国的なネットワークとして共有できるようにシステムを組むよう、依頼しました。」

「それで、その結果は…。」

「主に前者で関わった人は、地味な作業や聞き取り調査も行いましたのでそのあたりの大変さを身に染みて理解していただきました。後者の方は期限を切っていたこともありましたので、各地で微妙にシステムが異なっていることをそれぞれで見つけながら紐づけしていっていましたね。―あ、私は知っていましたけど、自力で見つけるほうが面白いことになりそうだなぁと思いまして、敢えて黙っていましたが。」

「……この娘、怖い気がしたのは私だけでしょうか。」

「姫乃さんは基本的にこんな感じですよ。ただ、困っている時には必ず何かしらのアドバイスはしてくれていますから、反感を持たれることも少ないんです。」

「なるほど…。」

「この試みが良かったのかは分かりませんが、今では派閥を超えて協力し合う仲にはなっていると思いますよ。最も、今は○○さんから依頼された案件*3で息つく…いえ、反抗させる暇を与えてはいませんが。」

(……おかしいですね。情報系で頼れる人間と聞いていたのに、何だか滅茶苦茶敵に回したらまずい人間に思えてきたのですけれど。)

 

 和歌子は、さらりと流した姫乃の言葉に少し恐れ、彼女とはなるべく良好な関係でいようと思った。最も、基本的に穏やかな彼女がキレる時はよっぽどの逆鱗に触れた時くらいなので、和歌子の懸念自体は杞憂に終わるのだが。

 

「ということは、私達刀使がこうしてスペクトラムファインダーからの情報を得ているのは、水沢さん達のおかげでもあるのですね。」

「私達はあくまでも補助的な役割です。今でこそ色んな情報を扱う部署に変わりましたが、将来的にはこの情報部隊が刀使さん達の負担軽減に大きな役割を果たしていくと考えています。」

「では、水沢さんはそこの責任者に?」

「いえ。私は再編と育成が終わったら、また○○さんのところでのんびり仕事をしていきたいと考えていますので、お断りしています。たまに見に行ったりはしますけれど。」

「姫乃さん、意外ですね。技術を見込まれてその先を提示されたのに、それを辞退されるなんて。」

「○○さんのもとで仕事をするのが楽しくなっちゃいまして…。それに、まだやり残した仕事がありましたから、中途半端で投げ出したくありませんでしたし。」

「仕事、ですか。」

「はい。刀使の方だけでなく、伍箇伝の生徒や刀剣類管理局の職員の方達などから、現在の不満や良い点を簡単に投稿できるアプリ開発を進めているところです。投稿形態も匿名・実名どちらでもできるように考えています。」

「確かに今の状況では、そうした声が上がってきてもおかしくはないですから。アイデアそのものはいいんじゃありませんか?」

「はい。セキュリティー面や登録者の重複・偽装ができないように対策を進めてはいますが、そんな時に呼ばれましたからね…。なので、断ったというのもありますけれど。恐らく最初は、本部と鎌府の方向けにデモ版を配信することになるでしょうが。」

「その時は使わさせてもらいますね。」

「もちろん、私も利用させていただきますね。」

「ありがとうございます。玉城さん、苗場さん。」

 

 自身が考えているアプリに対して、刀使二人が前向きなことを言ってくれた。それだけでも、制作意欲は向上するというものである。

 

 

 

 

 その時、荒魂が出現したことを知らせるアラームが、それぞれの持つスペクトラムファインダーより鳴動する。

 

「あーもう!折角の夕食時が!」

「苗場さん。食べ終わり次第、行きましょうか。」

「ええ。三原さんも、…って、もう食事を済まされているっ!?」

「今日もご飯が美味しかったです。ごちそうさまでした。」

「玉城さん、苗場さん。本部のほうには今連絡しておきましたから、焦らず食事していただいて大丈夫です。」

 

 料理としては結構な量があったはずの早希の完食ぶりや、静かに手回しした姫乃に驚きつつも、和歌子はなるべく早く食事を済ませていく。真梨江も同様だ。

 

「「ごちそうさまでした。」」

「さ、急ぎましょう!」

「はい。」

「姫乃さん、行ってきま~す!」

「お三方、お気をつけてー!三原さん、糸崎さんには帰りが遅くなるって伝えておきますね。」

「ありがとうございます!」

 

 刀使三人は少しバタバタしていたが、それを見送った姫乃。

 

「さて、あと少しで私も食べ終わりそうですね。…カツカレーとサラダ、組み合わせとしてはやはり良さそうですね。」

 

 健康志向の彼から言われたことを、地味に意識していた姫乃。とはいえ、過労で倒れることもしばしばな状況では、まずは彼に対して自分の健康状態を省みろと言いたくなるのは仕方がないところだ。

 

「……刀使の皆さんがゆっくり休める時は、一体いつ来るのでしょうかね…。その環境をつくるのも私達次第、ということなのでしょうが。」

 

 カツカレーをスプーンで食べ進めながら、今後の彼女達の負担軽減を考える姫乃。

 配属当初は荒魂に怯えていた彼女だが、今では彼の考えに賛同し、すっかり彼の色に染められたようである。カレーの中に含まれるスパイスが、彼女の思考を纏めるように作用していった。

*1
現実世界では2021年への延期が決まっている。(執筆当時)

*2
鎌倉特別危険廃棄物漏出問題のこと。

*3
閑話編『武蔵野の守護者』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございます。

サポートメンバー同士の話もあったら面白そうだな、などと思いながら執筆いたしましたがいかがでしたでしょうか。

アンケートは本話の投稿後、数日程度で締め切らせていただきます。
次回から再び、相模湖擾乱編のほうへと戻って参ります。

それでは、また。
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