今回からは、ちょっと趣を変えた話となります。番外編の閑話編の系譜ではありますが、編自体を独立させた話構成でお送りする形となります。
穏やかではない新編となりますが、その最初の話はアニメ本編24話(+とじとも)以降で変化のあった、彼の部署での大まかな話からとなります。
なお、時系列は可奈美と姫和が現世へ帰還後の頃を想定して執筆しています。…とじとものメインストーリーとも齟齬が無ければいいのですが。(前倒しで執筆していたため)
新規のオリジナルキャラ名がポンポン登場してきますが、最初に登場する二人の女性キャラが今編では主に関わってきますので、彼女達のことさえ把握しておけばこの編での大筋の理解に影響はありません。(…恐らくはですが。)
それでは、どうぞ。
① 新しき仲間と不穏な影
日頃の事務作業や現場派遣などの激務に追われる、彼の部署。本部の中でも異端扱いされているのだが、試作装備の実験的運用や伍箇伝各校からの相談や依頼など、多分野において都合良く利用されていることも多い。
特に、浮気調査などの恋愛相談と調査は、主に彼自身が的確なレポートに纏めて依頼者側へと渡すことが多く、各校の男女問わず好評を得ていた。
そんなある日、一つのメールが彼の部署に送られてきた。そのメールは、彼を中心とした刀使や特祭隊員へ波乱の渦を巻き起こすことへの発端となった。それは、あまりに突然の出来事であった。
だが、その前に彼の部署で起こった変化を話しておこう。でなければ、今回起こった混乱の背景を掴みづらいであろうからだ。
ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー
四月に入ると年度ごとの人事異動に伴い、彼の部署にも新たに数名が加わることになった。とはいえ、その人員は必ずしも彼と共に業務を行うわけではない。基本的に彼の部署では、誠司や里奈、姫乃と彼の四人が同じ部屋で業務を行うのだが、それとは別に編成された実働部隊として、他部署の人間が彼の部署まで手伝いにやってくることがある。要するに実働部隊の人間は部署を兼任・兼業している者達である。今年はその実働部隊に、男性二名、女性四名の計六名が新たに加わることとなった。
「…と、まあ、ウチのところがやっているのはこんなところですかね。基本的には自分が勤めている部署で頑張ってもらえればいいから、特段無理矢理に呼びつけるような真似もありませんので、その点では安心してください。」
「「「「「「はいっ!!」」」」」」
「…まあ、本当に人手が要るときには声を掛けるかもしれない、ということだけを頭に入れておいてもらえればありがたいです。はい。私の方からは以上です。何か質問とかは…、ございますでしょうか?」
初対面の方も多いため、対外的に用いる話し方で応対した彼。ただ、いざ目の前で彼の話し方や雰囲気を見てみると人伝に流れている噂と異なるため、驚く人間もいたようだ。そして、新人の中でもこの認識はバラバラであった。
(…ねえ、本当にこの人が女の敵なの?…どうも私には、そんな風には見えないけれど。)
(甘いわよ、千里。私らがこの部署と兼任になったのなら、コイツの化けの皮を剥がす絶好のいい機会よ。きっと今見せている表情も、きっと罠よ。あんな顔をしておいて数多の女子を食らってきた、その貪欲の塊を捉えるまでは通い詰めてやる。)
(…真奈美、何か怖いよ?)
(だいたい、この男もきっと、女の身体目当てなのよ!そうに違いないわよ。私がぜーったいに、暴いてやる。)
(…ダメだ、コレは。)
(…愛実、本当に大丈夫なのか?この人のもとで働くのは。色んな噂が渦巻いているってのに。)
(大丈夫でしょー。それに、圭吾っちもわざわざ私のところにまでついて来るなんて、物好きだねぇ?)
(…きっ、気のせいだろ!別に俺は、お前のことが気になったわけじゃあ…。)
(じゃまー、そういうことにしとくわぁ。)
一方、
(……なんかこの方、死相が常に浮かんで見えるのは気のせいだろうか。)
もう一人の男である
(……私、ここと兼任って、大丈夫なのかなあ…。)
最後の一人、
各人の簡単な紹介が終わったところで、早速真奈美が彼へ向けて挙手を行う。
「一つよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
「◯◯(彼の苗字)さん。貴方の言い方だとここへ来ても来なくてもよい、という風に受け取れますが、その認識でお間違いはありませんでしょうか?」
「ええ、そのとおりです。…まあ、その最たる理由が、他の同僚三人が非常に優秀ですので、わざわざご足労頂かなくても大抵のことはどうにかなる、というわけです。」
「なるほど。…ただそれは、私達も来てよろしいということでもありますよね?」
「…そんな物好きな方はいらっしゃらないと思いますがね…。歓迎はしますが、兼任されている部署の職務をキチンとこなしておられているというのが、一応この部署のトップである私からの条件ですね。」
「ふ~ん、分かりました。ありがとうございます。」
何やら棘のある返し方だが、彼は特に気にしなかった。年末年始以降の出来事を経て泥を被る人間でいることを決めてからは、どんな乱雑な対応を取られても、人前でいる時の精神は図太くありたいと思うようになっていたからだ。…時々、泣きたくなりそうな当たりを受けることもあるが。
「では、私から。」
「どうぞ。北野さん。」
「一応、私達は各校からの出向扱いで来ていることになっていますが、学長命令と本部からの相反する命令が出た場合、我々はどちらを優先するべきですか?」
倶晴の質問は、昨年中の争乱を経験したからこそ出された純然たる疑問だった。その彼の解答は、こうだった。
「自分の考えで最良だと思う方を取れ、だな。」
「!?…その理由は、なぜでしょうか。」
「個人によって己の環境や考えは当然異なる。だから、命令を出した本部の命令に対してそれに納得するならば、そちらを取ってくれ。そうでないならば、学長命令に沿って行動するといい。あ、但し一つ付け加えておくが、その命令がもし普通の刀使や他のサポートを行う人間に手を出すという場合ならば、俺は容赦せずそれを阻止に動く事だけは言わせてもらおうか。」
「そんな事、する訳ないじゃないですか。私からの質問はこれだけです。」
(…巷で騒がれているような考えなしの方、では無さそうですね。)
倶晴は、少なくとも今から仕える事になるであろう上司が無慮無策の人間ではないことを、この質問から理解することができた。
その後は他の四人からの質問もなく、彼は一度解散の号令を掛けることにした。そして、バラバラに元々の部署へと各人が戻っていった。
「どうやら今年は、ウチのところに関しては人員不足に悩まなくて済みそうだな。……◯◯?どうかしたのか?」
「あ、いや。何でもない。」
(……何だ、この嫌な感覚は。……単に、俺が疲れているだけなのかもな。)
彼は誠司からの声掛けまで、憎悪に近い感情が向けられていたように感じた彼。だが、それは自分の気のせいだろうと思って、特に重大視しなかったのである。…しかしながら、彼の第六感にも等しいその危機管理能力は、確実にこの時機能していたのだ。残念ながら、彼はそれに気付くことは無かった。
彼は誠司の手引きのもと、里奈や姫乃が作業中だった事務机へと混ざるように戻るのだった。
各部署に戻っている面々のうち、愛実と圭吾は幼なじみということもあり、美濃関から一緒に本部へと移ってきた仲でもあった。二人は戻り際、彼の印象について見解を述べて合っていた。
「なあ、愛実。」
「ん?どしたの、圭吾っち。」
「…さっきの人のこと、どう思った。」
「……ん~。…少なくとも、悪い人にはとても見えなかったねぇ。私、そういう人の雰囲気を感じた時って、態度の変化が激しいじゃん。」
「まあ、…そうだな。」
のんびりした口調からは想像もつかないだろうが、彼女は幼い頃に両親からの卑語流言や虐待を受けた経験を持つ。そんな過酷な環境の中で彼女に救いの手を差し伸ばしてくれたのが、横にいる圭吾や彼の家族だった。愛実の両親が刑期を満了するまでの間、彼女の身元引受人として長い間共に過ごしてきたのだ。心に深い傷を負ったが、虐待の経験が人と付き合う上での悪意の判別に繋がったというのも、彼女に生きる力をもたらしたという意味では皮肉なものだと、愛実本人はそう考えている。
「……ん?でもさっき、◯◯さんの説明を聞いている時には、何度かえらく青ざめた顔した時があったよな。あれは一体……。」
「ああ、あれねぇ。……間違いなく、一人は真っ黒い感情を持っている人があの場に居たんだと思う。それじゃないかなぁ~。…今は平気なところからして、そうだろうね。」
「その感情って、どんな奴なんだったんだ?」
「う~ん、そうねぇ~。……明確な『害意』、あとは『底知れない憎悪』、ってところかなぁ。幸い、私らに向けられたものでは無さそうだから、心配しなくて大丈夫だと思うよぉ。」
「そっ、そうか。…って、俺は別にお前のことなんか、気にしてないからな。」
「ふっ、そうだねぇ~。……。」
(あれは恐らく、◯◯さんに向けられたもの。…まあ、アレを発していた人間はだいたい予測できるけどねぇ…。様子見かな。)
ともあれ、愛実と圭吾は比較的アウターな視点から見ながらも、彼の部署に関わることになるだろうと思っていた。
一人、鎌府の研究所へと戻る葵。人事異動は何の感情もなく行われるため、無情だなと感じた一方、彼からの説明を聞いた時には、自分の不安要素が既に払われていたことで安心してしまったのだ。
「ホントに、なんで私だったんだろう?…まあ、説明していた◯◯さんは話しやすそうな人だったし、私が困った時は頼るなり投げるなりすればいいかな。」
計算高いとは思わなくとも、ある程度そうした状況になった時の想定ができているのは、彼女の強みでもあった。最も、彼女は彼の部署との兼任になっても楽ができるとは考えておらず、自分ができる範囲での手助けを行うしかないだろうとは思っていた。…まさか、これから日を置かず彼の部署へと駆り出されることになるとは、彼女も想定していなかっただろうが。
そして鎌府の学生寮では、彼を目の敵にしていた真奈美と、友人の怪しげな動きに警戒感を示す千里が、寮内の休憩スペースで話しをしていた。
「……真奈美、さっきの◯◯さんの話からさ、なんか顔が怖いんだけど。」
「そんなわけないわよ。私は至って平常よ。なに、千里?何か私が企んでいるとか、そんなこと考えているの?」
「別にそんなんじゃないよ。…たださ、真奈美が◯◯さんに酷く固執しているような気がしてさ。さっきの質問もそうだったし。」
「はあっ?何言ってんのよ。…そもそも、刀使でもないのに色々口出ししてくるのは向こうでしょ?あんなの、私が刀使だったらイライラしかしないし、だいたい女同士の事柄に男が首を突っ込むな、って言いたいわよ。あの男がどういう人間かなんていうことよりも、そんなことよりどうやって排除するのかを考える方が先でしょ。何か私が言っていることって、おかしい?」
「真奈美さぁ…。◯◯さんと昔何かあったの?」
「別に無いわよ。…強いて言えば、現在進行系で私らのところに関わってんじゃん。あの男。」
「…まあ、そう言われたら、確かにそうだけどさぁ…。」
この二人の所属校は綾小路武芸学舎であり、近衛隊の影響で大きくガタついた、学校全体の戦力再建の最中なのだ。その再建案の立案・実行は、彼(と彼の同僚達)が結月から承認を得た上で進めている。千里を含めた大半の生徒や刀使はそれに対して協力的な姿勢でいたのだが、真奈美は違った。
「まして、舞草とかいう得体の知れない組織の、それもスパイやってたわけでしょ?…何でそんな奴の指示に従わなきゃならないのよ。おかしいじゃない。学長やそれに乗っかる千里、あんたも含めてよ。」
「そうかな?…◯◯さん、あんまり自分のことを誇って話すような人じゃなかったし、以前木寅先輩や鈴本さんに聞いた時にも、自分より刀使や後方支援の人間のことを考えてる人だ、って口を揃えて言っていたけれどなあ。…結構論理的な二人が話してたんだから、説得力はあると思うけれど。」
「そんなの、見せかけよ。まして、男なんて女の前じゃ平気で嘘を吐くし、女を侍らせて夜は寝る暇も無いほど情事に走っているっていうじゃない。きっと、その二人もあの男の毒牙に掛けられて、正常な判断が出来なくなったに違いないわよ。」
「……その二人の前でそんなこと言ったら、絶対に無事じゃ済まないと思うけれどなあ…。」
この場にミルヤや葉菜が居なくて良かった、とつくづく思った千里。真奈美の暴走ぶりを下手に止めることなく一方的に言わせ続けるのは、却ってストレス解消に繋がるのではないかという、計算された彼女の考えからだった。…ただ、できることなら真奈美には少し黙ってもらいたいところではある。此方までとばっちりを受けかねない。
「真奈美さ。ちなみに◯◯さんがその…、情事?にふけっているっていう情報はどこから得たの?」
「勿論ここからよ。はいコレ。」
真奈美が千里に差し出したスマートフォン上には、とあるWebサイトの画面が映し出されていた。
「…『裏・特祭隊掲示板』?…バリバリなデマ情報満載のサイトじゃない?これって。」
「そんなこと無いわよ。コレとか、それにコレとかも。」
「あ~、確かにあったけどさ…。」
例として挙げられていたのは、以前警察沙汰にまで発展した八景島での抜刀騒ぎ*1や、本部局員と鎌府の生徒間での淫行現場を捉えた写真や重要情報だった。…なお、真奈美は知らないだろうが、いずれも彼が巻き込まれる側で現場での確保や保全指示を出している。
「でも、ここの情報だけで◯◯さんが性犯罪者扱いっていうのもねえ…。本当にやったっていう事実があるならともかく。」
「…ところどころであの男の情報はココでも上がってくるのよ。でも、確実な証拠が無いのは事実ね…。」
「やってないなら、そりゃ証拠なんてあるわけ無いでしょ。」
「甘い!きっとあの男は巧妙に隠蔽し続けているのよ。それなら、どうしてここで情事の現場にあの男が立ち会っているのよ!?―実際はヤることやってから、何食わぬ顔で立ち会いに参加しているってことじゃないかしら!」
「……真奈美のその豊富な発想力、少しでもいいから分けて欲しいな…。…あー、でもこんな感じなのはいいか…。」
「…何か言った、千里?」
「いや、別に。」
(……これはちょっと、思ってた以上にヤバいかも…。いよいよな時は、◯◯さんに知らせておかなきゃ…。)
ただの友人の妄想で終わってくれればいいのだが、これに行動力まで付け足された日には目も当てられない事態に突き進むことが、千里には容易に想像できた。万一の時には、彼には身辺の警戒を強めるようにメールを送ろうと考えたのだ。
(…女の敵である◯◯××。いずれはお前の存在を刀剣類管理局から消した上で、本部から男共を一掃してやる。…そうすれば、きっと私達にとって良い方向に転ぶはず!)
一方、真奈美の方は千里の懸念通り、彼の社会的な抹殺に動こうと考えていた。彼女の最終的な目標は刀剣類管理局からの男性の完全排除、永久的な女の園の確立であった。
…ただし、彼女は現実を見ていなかった。特別祭祀機動隊を構成する現場部隊の多くは、圧倒的に男性の数が多いことを。そして、彼のように刀使達へ関わろうとする人間はかなり例外的なケースであることを。
その事実を見ることなく、彼女は人事異動が決まって以降に練った綿密な計画のもと、強行的な手段へと打って出ようと考えていた。
だが、真奈美は意外なことにそれを直ぐ行動へと移すわけでは無かった。千里に言わせれば、彼女の姿勢は不気味なまでの化け具合だった。
これでは彼や誠司をはじめとした同僚達も、真奈美のその攻撃的な思考に気付けるはずがなかった。当たり前である。彼ら四人の前では、よく質問しよく手伝う綾小路の生徒として上手く誤魔化していたからだ。
その間も彼女と共に行動していた千里は、真奈美が変な気を起こさないよう監視を続けていた。その行動理由は、友人として彼女を止めようと考えていたのが半分、もう半分は彼女の思想・言動を知っていてそれを止めなかった時の後悔をしたくなかったからだった。
学生寮での問答から一ヶ月ほど経ったが、その間の真奈美は行動を起こすような素振りを見せなかった。
しかし、その素振りこそが真奈美の仕掛けた罠だった。千里は、そして彼は、一瞬の隙により事件へと巻き込まれていくことになる。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
こんな感じの出だしではございますが、たまには主人公が介入することのできない話を綴るのも良いかと思いまして、今編の執筆に至ったわけです。
ある程度の流れは決めていますが、細々としたところで刀使やサポートの面々も出す予定です。補足として、今話は主人公編同様、誰ともくっついていないルートを辿っています。ですので諸々の共通イベントはあっても、そのまま独り身を貫いているようなイメージです。
それでは、また。