刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は彼の捜索に動く、彼の部署の面々の様子と、監禁された彼や千里の動きがちらっと出て来ます。

それでは、どうぞ。


⑤ Silent Abduction 中編その2

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 彼と千里の失踪が発覚して、約四時間。

 時間は既に午後十時を回っていた。

 姫乃は、本部で二人の捜索に協力している連絡員の方から報告を聞く。…だが、その結果は芳しくないものだった。

 

「正門の防犯カメラの映像は!?」

「昨日から故障していたらしくて、明日修理予定だったそうです。ですから…。」

「映像は残ってないんですね!―守衛さんから情報は!?」

「証言や入出記録には特に怪しい人物や車両が入ったということは確認できていません。」

「…分かりました。一部の人を除いて、今日はもう休んでください。明日朝から、また情報収集と事情聴取を進めます。」

「「了解!」」

 

 姫乃の指示のもと、実働部隊の多くが帰宅の命令を受ける。

 特に、新しく加わった面々は慣れない業務などで疲労困憊の様子だった。なお、翌日に綾小路へと戻る予定だった真奈美は、この場にはいない。事情聴取が行われる人間として、現場から外されていたためだ。

 

「…姫乃。貴女も休みなさい。別に貴女を責めている人なんかいないわよ。むしろ、よく頑張ってるわよ。」

「里奈さん…。ごめんなさい、でも私は○○さんが見つかるまで休みたくありません。…私の不注意で、○○さんの異変に気付くのが遅れたのは事実ですから。」

「姫乃。……ウチの頭脳が倒れたら、一体誰がアイツを探せるのよ。私や糸崎じゃ、貴女ほど情報を高度に扱うなんて芸当、はっきり言って無理よ。」

「……すみませんでした、だいぶ頭に血がのぼっていたみたいですね。ちょっと休んできます。」

「そうしなさいな。」

 

 姫乃は里奈の進言のもと、部署内に併設されている仮眠室へと入っていった。眠れなくとも横になっているだけで、だいぶ疲労からの回復具合が異なるからだ。

 

「…で、アンタはどうするつもり?」

「俺は早希が止めると言うまでは手伝うつもりだがなあ。」

「なら、手伝ってもらってる三原さんも。悪いんだけれど、今日はここで一旦打ち止めよ。探せるもんも探せなくなるから、ね?」

「…はい。…分かりました。糸崎君、今日はここで止めない?」

「…早希が言うなら、な。…本当にどこに消えちまったんだ、○○。」

 

 誠司と早希も、作業を切り上げて自室へと戻る。最近は官舎内の誠司の部屋に泊まり込むことも多い早希だが、今日の彼女は珍しく別れて学生寮に戻っていったという。

 

「さて、山城さん。」

「はっ、はい。」

「貴女も、今日はもう寝た方がいいわよ。どの道、すぐには解決しそうにないから。」

「で、でも…。」

「山城さん、貴女がどれだけ大変な目に遭ってきたかは、悪いんだけれど私には想像がつかないの。…でもね、これだけははっきり言える。アイツはきっと、自分が関わっていることで貴女が疲れたりでもして、荒魂討伐で怪我したり死なれたりしたら、それこそ自分をずっと許さないと思うのよ。…まして、今日は荒魂討伐の後にこの騒動だから、余計に疲れていたでしょ?私は大丈夫だから、山城さんも。」

「…ううっ…、分かりました。では中島さん、先に失礼しますね。おやすみなさい。」

「…ええ。」

 

 千里の失踪以降、気が気でない様子だった彼女を心配していた里奈だったが、由依がそれだけ人の事を心配できる娘であることを知ることが出来たのは、今日の数少ない良いところであった。

 

(あれでおっさん並みの変態とかでなければ、もっと彼女への印象が変わると思うのだけれどねぇ…。まあ、それはアイツでも同じことが言えるかしら。)

 

 最も二人のベクトルが違うので一概な比較はできないが、正確な評価を得にくい人間であるという点では共通している二人なのだな、と里奈は感じていた。

 

「さて、私も一度眠ろうかしら。……◯◯、生きてなさいよ。必ず、助けに向かうから。…じゃなきゃ、私が彩矢に顔向けできないわよ…。」

 

 

 親友との約束を未だに守り続けていた彼女。対刀使用制圧装備の一件もあり、彩矢は彼が余計に危険な事へ首を突っ込むのではないかと危惧していたわけだ。その彼女の予想が当たってしまったわけだが、里奈は今彼が失踪している事実を伝えるわけにはいかない。…ようやく目指していた警察官への道を歩み始めているなかで、余計な心労を増やすことに繋がりかねないからだ。それを伝えるのは、最悪の可能性が現実のものになった時でいい。…つまり、彼の死亡が確認された時だ。

 

 

「…ダメね。ちょっと、私も寝た方が良さそうね。…まさか、こんな時に限って、アンタの存在を強く意識させられるとはね。」

 

 失踪という経過の不透明な視界不良のなかで、彼が戦友や同僚であると共に、大切な人であることを彼女に気付かせてくれるというのは、皮肉な話なのだろうか。

 

 その後里奈は、共同で捜索を行っている神奈川県警の方へ頼みこみ、一時的に二人の情報収集と捜査のほうを任せ、一度休養を取ることにしたのだった。

 

 

 

 

 そして、彼の身内であり、たまたまこの日に鎌府入りした麻美は、兄の失踪情報にただただ言葉を失うほかなかった。

 

「お兄ちゃん…。また、あの時みたいなことになったら嫌だよ…。」

 

 あの時、つまりは『秩父会戦』の時のことを思い出していたのだが、今回は全くもって状況が分からないという、見えないことへの恐怖が支配していたのだ。一応、両親には報告こそしたものの、どのように伝えるべきなのか悩んだ。どう遠回しな言い方を考えても、兄が怠け者であったような言い方だけはしたくなかったからだ。結局、いつものように無茶をして遭難した、という風に装うことを選んだのである。…麻美は、早期に兄が見つかることを願いつつ、翌日の荒魂討伐に向けて寝るのだった。

 

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室ー

 

 時間は少し遡り、累からの連絡を受けた紗南が、姫乃と直接連絡を取り合っていた時のこと。

 

「…つまり、◯◯が消えたのは、何者かが仕組んだことという認識で構わないのだな?」

『はい。…状況からしてみても、車を使って自分から失踪していたのならともかく、彼が恩田さんへの連絡を怠ったままな理由に説明がつかなくなります。』

 

 

 姫乃が紗南に対して、彼が何らかの事件に巻き込まれたと判断したのは、次の点においてだった。

 まずこの日、彼が累を迎えに行くために、自身の車ではなく公用車の使用申請を出した上で乗り込もうとしていた事実である。わざわざ行方を自ら眩ます人間が、そんな手間で追跡されるようなことをするとは思えない。また、累への連絡が行われなかったことである。もし迎えに向かうのが不可能であるならば、事前に一言連絡を入れれば済む話だからだ。そして、自殺を仄めかすような遺書や、失踪する旨を伝える書き置きなどはあちこち探しても見つからなかった。

 これらの点から、姫乃は彼が何らかの事件に巻き込まれたという根拠に繋げたのである。

 

 

「…それで、水沢。あの男以外にも行方が掴めない人間がいるとの報告を受けたが、それは本当か?」

『はい。…綾小路武芸学舎、高等部一年生の四条千里さんです。実は、彼女の方から◯◯さんの身に危険が迫っているとのメールが届いたことで、今回の◯◯さんの失踪のへと話が繋がります。これは後で文書にして、再度お送りさせていただきます。』

「分かった。…しかし、アイツの行方が分からなくなるとはな…。面倒事に関わらせ過ぎたのも、もしかしたら一因にあるのかもしれないな。」

『…そう、かもしれませんね。…折角、衛藤さんや十条さんが戻ってきて、仕事への意欲も元気も元のように取り戻されていたのに…、どうして…。』

「……お前達は今日は無理をするな。後は警察や他部署の人間に任せて、今日のところは早く眠るように。」

『…この場の全員に伝えておきます。失礼致しました。』

 

 こうして、彼や千里の失踪への事件化の動きが進もうとしていた。だが、手掛かりらしい手掛かりはこの日中には見つからなかった。

 

 

 

 

 その後、紗南は朱音に失踪した彼の情報を伝える。

 

「そうですか。…○○さんは、事件に巻き込まれた可能性が高いということですか。」

「…アイツのところの部下は、基本的に有能な人材が揃っていますから。その当人達が断言するほどに、今回の失踪は不可解なところが多いということでしょう。」

「…昔の姉の派閥、あるいは他の舞草内の派閥が仕組んだという可能性は。」

「可能性はゼロではありませんが、…なぜわざわざ、自ら刀使達からの猛反発を招きかねないような人間を攫う必要性があるのでしょうか。」

「…それもそうですね。ところで、○○さんの行方に関わる手掛かりになりそうなものは見つかりましたか?」

「それが、どうも全く見つからないのが気になっていまして。」

「…?○○さんは本部の駐車場から失踪したのですよね?ならば、防犯カメラがあるはずですが。」

「実は昨日の落雷で、一部の防犯設備に異常が見つかりまして、本来ならば明日修理が完了する予定だった、と施設課の方から連絡を受けています。」

 

 彼や千里の失踪する前日、神奈川県を含めた関東全域には雷を伴う大雨が降り続いた。この時、複数の雷が折神家や刀剣類管理局本部の周辺に落ち、電気設備の一部が被害を受けてしまったのだ。

 これに加えて、最も車両の出入りが多い正門の防犯カメラも、この落雷により機能を喪失していたため、事実上広範囲の駐車場や門がセキュリティーホールと化していたわけである。そこをたまたま狙われたわけである。

 

「……○○さんの失踪は刀使の皆さんに伝えるべきでしょうか。」

「…いえ、三日で見つからなければ公表にしましょう。それまでは、伏せます。」

「○○さんの部下の方も、お一人行方不明になっていると聞いていますが。」

「もしこの二人が関係して失踪しているならば、どのみち急ぎ探し出す必要があるでしょう。…最悪の可能性は、私も考えたくはありませんので。」

「よろしくお願いします。…三日経過しても見つからない場合、私が直接刀使の皆さんにお伝えしますが、よろしいですか。」

「…お任せします。」

 

 公表までのタイムリミットは三日。

 だが、紗南も薄々分かっていた。三日も情報統制が効くとは思っていないことも。しかしながら、現場の混乱を避けるべく、敢えて伏せる方針でいったことを責められる者はいないだろう。それほどにまで、彼の影響力が浸透していたという証左でもあったのだから。

 

 

 

 

 

 

 ー翌日 ??? 某建造物地下ー

 

 この場所に放り込まれてから、既に十数時間が経過していた。時計の類はなかったのだが、私用携帯が時計代わりにその威力を発揮していた。

 携帯の電源事情だが、実はモバイルバッテリーと一緒の袋の中に入れていたものがある。コンセントから給電できる充電ケーブルだ。空間を調べると、コンセントの穴が何ヶ所か設置されていたことが分かった。取り敢えず、これで時間感覚を喪失することはなさそうだ。

 

「…さて、一応脱出口らしきものはあったんだが、全く動かないところを見るに重しでも乗せられたか、あるいは埋めるか固められるかしたみたいだな。」

 

 人が通りきれる大きさの通路は、残念ながら真奈美により塞がれてしまっている。

 他には空気穴が何ヶ所か付けられているようだが、いずれの穴もせいぜい腕の太さほどしかない。ただ、一ヶ所だけ穴のサイズの異なるモノが取り付けられていた。これは真奈美がこの場所を監禁場所として整備する際に、衣料や食料などを地上から投げ込めるようにしたものである。脱出できないようにほぼ床面と同じ位置に開口部が設けられており、その間口も郵便ポストの取り出す側並みに狭い。トコトン、長期にわたって閉じ込める気満々の空間となっていた。

 

「まあ、最悪証拠隠滅を図ろうと思ったら、空気よりも比重の重いBC兵器あたりを流し込めばそれで完全犯罪の成立だしな。…大人しくしている方が無難か。」

 

 地上側がどのようになっているかは分からないが、先ほど開口部を覗いた時には、彼らのいる場所が地下ニ~三階に匹敵するほどの深さにあることだけは間違いなかった。極短期の脱出は、困難だった。

 

「…累さん、無事に鎌倉に着けたんだろうかな。…糸崎達、は特に心配もしてないか。」

 

 実際にはいずれの人達も彼の想像とは異なる事態に進んでいるのだが、こんな地下深くに押し込まれている以上は確認のしようもない。

 

「…あとは、四条が起きてくるまで待つか。…っても、結構長く眠っているよな。気絶状態だったから仕方ないとはいえ。」

 

 取り敢えず、彼女の様子を見に和室の方へと向かう。

 

 

 

 

(…う~ん…。…私、死んじゃったのかな…。全然身体も起きないし、身体に力も入らないし。…これが、死後の世界ってやつなのかな…。)

 

 まさかの友人だと思っていた人間からの襲撃で、意識が消し飛んでいた千里。そんな彼女がそう思うのも、無理は無かった。

 

 

『―ぅ!―四条!そろそろ起きろ!』

 

(……なんで○○さんの声が聞こえるわけ?……あー、もしかして真奈美に襲われちゃったのかな…。)

 

『…仕方ないか。足裏のツボを押して起こすか。…個人的に凄く気が進まないんだがな。』

 

(…ん?足裏のツボ?…ちょっと待って、死んだ人間が足ツボマッサージなんてできるワケ)

「ギャアァァァァーーッ!!痛い痛い!!……って、アレ?」

 

 構えていたものの、足裏からの痛覚は全く来ない。上体を起こした状態で目を覚ました千里の視界には、何時ぞや振りの上司こと彼の顔が見えている。そして、自身に微笑みかけてきた。

 

 

「よし、意識は戻ったな。目覚めはいいか、四条。」

「…あの、足ツボ、マッサージは…?」

「まだ何もしてないぞ。…した方が良かったか?」

「い、いえ。…取り敢えず、起きますね。」

「あ、ちょっと待て。」

 

 起き上がろうとする彼女を、両肩に手を置いて制止する彼。

 

「実はな、気絶状態でその布団に運んだんだが、…その。スカートが濡れていたんだよ。今はバスタオルを巻いているから、布団が湿っていたりとかの心配はない。が、一応な。女性物の下着を探るわけにもいかなくて、止む無くジャージとタンクトップは見つけたから、先にそっちに着替えてくれ。…後で下着の方は、見つけて付けてくれないか?…流石にその、女の子の物に触れるわけにはいかないからなぁ…。」

 

 彼の視線に誘導されると、確かにジャージとタンクトップが目に入った。

 

「幸い、ここの襖は閉められるから、安心して着替えをしてくれ。…その間に、俺は何か作っておく。」

「…はっ、はあ…。」

 

 

 起きて早々、状況がよく掴めていないものの、取り敢えず先に着替えることにした。意外にも彼は制服を脱がしたりはせず、応急的な対応で彼女が起きてから説明を行うという手段を取ったわけだ。

 その説明通り、とっとと彼は和室の襖を閉じ、室内が見えないように配慮していた。

 

「…何と言うか、紳士的なんだろうけれど、…本当に、刀使の人とかだいたいの人から聞く評判に違わない行動ぶりだなぁ…。」

 

 別に彼女の肢体を見られたわけでもなく、漏らしていてもなお嫌な顔一つせずに淡々と事実を述べてきたことには、もう少し何か言及があってもいいのでは、とは感じたが。とはいえ、彼女は特段怒るようなこともなく、粛々と着替えを進めていくのであった。

 

 

 

 

 ジャージ姿に着替えた千里は、彼がカセットコンロに置かれた鍋で何かを作っている光景を目にする。

 

「あの~、○○さん。着替えましたが。」

「あー、まだ少し時間が掛かるから、先に下着を見つけて着替え直しをしてくれ。多分、その段ボールのどっかに紛れていると思う。」

 

 彼がそう言うので、投げ込まれ乱雑に置かれていた段ボールの中から、女性物の下着を上下共に見つけ、先ほどの和室でまた着替え直す。

 

(……一つ分かったことがある。○○さん、別に変態ってわけではなさそうだね。ただ、下着を一切着けていない状態の私を見ても何も感じなかったのかまでは、流石に分からないか。)

 

 そうは思ったものの、思い返せば鎌府の学生寮からここで起き上がるまでの間、下半身への性的暴行が一切無かったことは彼女の身体の感覚からして断言できた。少なくとも、眼前の彼は何もしていないということは、タオルを巻くなどした行動からして信用できる。

 

(……あー、何となくだけど、刀使さん達が○○さんを意識する理由が分かった気がする。こういう気遣いからなんだ。)

 

 よそよそしい振る舞いよりも、実効的で実利的な振る舞いを、という意識かは別にせよ、彼女も先輩であり上司でもある彼の親切さに安らぎを感じ取る。

 

(………真奈美、残念だけど○○さんはそんじゃそこらの男とは違うよ。…間違いなく、優しい(・・・)人だよ。)

 

 彼がただのお人好しではないことも、この時には見抜くことができるようになっていた。計算されたものとそうでない振る舞いが混じっているからこそ、人に好かれるのだと。

 

 

 

 

「…とはいえ、早くここを脱出しないとなあ…。…○○さんは知らないかもしれないけれど、女子にも性欲そのものはあるんだよね…。…極限状態のなかで、私がおかしくならないとは言い切れないし、ね。」

 

 できれば、そのタガが外れる前にどうにかしたいと考えているのは千里も、まして彼も同じ思いであった。…もしかしたら、真奈美が本当の意味で二人を試しているのは今からなのかもしれない、と一層の緊張感を抱くのであった。

 

 

 

 

 その後、完全な形に着替え終えた千里は、鍋を完成させつつあった彼のもとへと向かう。

 

「着替え終わりました。○○(彼の苗字)さん。」

「あ、もう少しだけ待ってくれ。米と鍋があとちょっとで出来上がるから。…水があって良かったわな。」

「はあ…。対面に座りますけれど、よろしいですか?」

「ああ。立ちっ放しも辛いだろうし、座布団もあるみたいだからその辺に掛けてくれ。」

「…それでは、ご厚意に甘えまして。」

 

 千里が腰掛けると、一つの鍋には自衛隊向けのレーション…というか、大きめの缶詰が煮詰められていた。隣のもう一つは、野菜や豚肉などの具材が突っ込まれた塩味ベースの鍋が出来上がりそうであった。

 

「…結構本格的ですね、これ。」

「季節が梅雨時だから、なるべく早めに食材を消費していかないと腐るからな。まして、食中毒による腹下しに遭っても、誰も救援に来られない状況ならば即死に直結する。…そんなの、四条も御免だろ?」

「た、確かに、そうですね。」

(ただ、問題は、真奈美が私らをどうしたいのかが全く分からない、ってところかな。)

 

 食料や衣類などを置いている点からして、すぐに殺す気はないことは分かっている。だが、逆にそれが不安を煽っていることは事実だった。まして、彼女がこうして地下に閉じ込めていることからして、逃がすつもりもないことは確かだ。

 

(…本当に、何がしたいのかが全く分からない。近くにいたようで遠い存在だったのかな、私と真奈美って。)

「四条、そろそろ出来上がるぞ。」

「えっ、あっ、はい!」

「…何か、考え事か?」

「はい…。すみません。」

「ま、こんな空間に閉じ込められてるんだ。不安になるのは無理もない。」

「…それもそうなんですけど、私、少なくとも自分を襲った犯人の顔、はっきり見ちゃっているんですよ。…なのに、私を確実に殺さなかったのが気になって…。」

「…まあ、それは食べながら話していくことにしよう。幸い、時間自体はかなりあるようだし。」

「そうですね。」

「さ、食べるとするか。即席鍋と鶏飯の缶詰だ。」

「気になりますけど、…缶切りありますか?」

「あ、そうだった。…ほい、十徳ナイフ。これの缶切り機構を使って開けてくれ。」

「私、これ使うの初めてです。できるかな…。」

「それなら、最低限の使い方を教えるから。それでどうだ?」

「お願いします、◯◯さん。」

 

 

 

 

 こうして、二人の仲は緩やかにだが縮まろうとしていた。…というか、どうやっても助け合わねば生き長らえていけないので、二人の意向に関わらず距離感を縮めざるを得なかった。

 苦難は続く。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

案外と冷静に事にあたっている当人と、大パニックに陥っている本部の同僚達とで大きなギャップがありますが、むしろ後者の反応の方が自然です。(特に今回のような場合は)

今回は彼の状況や本部の動きが中心でしたが、着々と話を前進させて参ります。…ほぼオリジナルな話ほど、話の方針に悩むものもないと常々思わされますが。

それでは、また。
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