刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は、事情聴取時の一幕と捜索活動の一端を綴っております。

それでは、どうぞ。


⑦ Silent Abduction 後編その2

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 取調室ー

 

 朝から姫乃達が映像分析を進めている最中、部署内に常駐するもう一人の女子、里奈は別の方向から調査を進めていた。

 それは里奈をはじめとした部署の面々と、姫乃が指導・育成した情報部隊の人間が分担して、彼や千里が失踪した時に非番・休暇であった局員や特祭隊員を中心に事情聴取を行うことだった。これは刀使や研究職員も例外ではなく、概ね十五分から三十分程度で進められた。

 

「…当たり前だとは思っていたけど、多くの人はアリバイ有りのシロよね。一部、市街地の防犯カメラやらで確認する必要があるけれど。」

 

 神奈川県警が共同で捜査を行っているのだが、彼や千里が失踪した時間帯は各門に守衛がいた事や進入を一時遮断するポールやバーが稼働していたことから、外部の人間が衝動的に侵入することは不可能に近く、内部の人間が関与していることを疑う方が自然なのも分かっていた。ただ、車の通行量が最も多い正門や駐車場の防犯カメラに映像が残っていないこと*1が痛手となっており、不審車両や不審人物の特定には至っていない。県警の方は、管理局では捜査の手を及ばせにくい彼や千里の家族などへの聞き込みを行うという。二人の何らかのトラブルの線を疑っていたためだ。

 

「学生寮周辺の監視カメラ…もダメだったんだっけ。…あーーっ!!―なんでこうもあのタイミングでは録画できてないのよぉ~!!」

 

 自身の上司や仲間が失踪してから、もうまもなく一日が経過しようとしていた。時々刻々と、時間は過ぎていく。彼らの居場所が未だ分からないことが、更に焦りを募らせていった。

 

「…はあ。…で、次の相手がねぇ…。まさか、同僚、しかも新しい娘を事情聴取することになる日が来るとはね。」

 

 里奈が捲ったページには、『祇園真奈美』の名前が記されていた。

 

「…まさか、ね。」

 

 正常性バイアスが働いていたかは分からないが、どうしても身内の人間を疑う気にはなれなくなるのも、人間なのであり得る。が、しかし。

 

「…女としての直感か、刀使としての感覚なのか、どうも祇園さんからは疑念を払拭できないのよね…。こう、黒いモヤが背中から見えるような、そんな感じの。」

 

 ただ、荒魂に憑りつかれた人間ならともかく、一般人がそんな禍々しいオーラを纏い続けるというのは無理があるのでは、とも考えてはいた。どの道、自分やもう一人の情報部隊の人間と一緒に、彼女の言葉の真偽をふるい分けることに変わりはない。

 そして、部屋に真奈美が入室してきた。

 

 

 

 

「どうも、中島先輩。」

「こんにちは、祇園さん。こっちの椅子に掛けてもらえるかしら?」

「はあ。…今日は何だか酷く疲れますね。本当だったら、今日中にはもう綾小路に帰り着いているはずでしたけれど。何なんですか、この厳重な態勢は。」

「まあちょっとね。本部の方でトラブルがあったのよ。」

「…そのトラブルとやらで、私は呼び出されたわけですか。それで、そのトラブルって一体何ですか?ず~っと拘束されるのも窮屈で仕方ないのですが。」

「それは追々説明していくわよ。…まず先に、昨日はどこで何をしていたのか、話を聞かせてもらえるかしら?」

「はい。構いませんよ。別にやましい事もありませんし。」

 

 里奈は、真奈美の瞳が若干動いたことに気付くも、取り敢えず彼女に話をさせる。

 

 

「昨日の朝、起床したのは何時頃?」

「確か、八時半くらいでしたか。昨日は休暇でしたので、ちょっとだけ遅く起きましたが。」

「続けて。」

「その後、鎌府の食堂で食事を摂りましたよ。同じく綾小路の人間の何人かに聞けば、朝食を摂ったことは証明されるはすです。」

「…その後は?」

「午前中は特にすることもありませんでしたから、使っていた部屋の掃除と荷物整理ですね。途中で水を溢しちゃって、拭くのが大変でした。ここまでで、だいたい正午くらいまで掛かりましたよ。」

「順当にいけば昼食よね?誰か一緒だった?」

「ええまあ。…確か、綾小路の刀使で、…仲野さん*2でしたか、彼女と相席になりましたよ。それがだいたい…午後一時頃だったかと思います。」

「昼食は何を食べたのかしら?」

「野菜ちゃんぽんです。…健康志向なのは、悪かったですか?」

「いいえ。―じゃあ、貴女の午後一時以降の行動を教えてくれるかしら。」

 

 本題はここからである。

 これから語られるであろう範囲の、彼が失踪したとみられる午後四時前後から発覚する六時頃までの間、彼女が何をしていたのかを尋ねる。

 

「えっと、確か三時頃、自前のバイクの修理のためにこの学生寮を後にして、藤沢市にある行きつけのバイク屋さんに持ち込みましたよ。確か、四時くらいだったと思いますよ。それから藤沢駅のあたりの飲食店とかを回りながら、午後八時半頃にバイクを引き取って帰りましたよ。帰り着いたのが、だいたい十時過ぎくらいでしたか。」

「…そう。分かったわ。」

 

 実のところ、真奈美が証言した行動には真実が半分、嘘が半分混ざっている。だが、この場で里奈がやるべきことは嘘を暴くこと、ではない。彼女の一挙手一投足の動作をよく観察することだ。

 

「…その時間、誰かと一緒だったかしら?」

「いいえ。折角一人で充実したアフタヌーンを過ごせるのに、どうして他の人と一緒じゃなきゃならないんですか?……さっきから思ってたんですけど、なんかまるで私、中島先輩から犯人扱いされてるみたいで嫌ですよ。」

「犯人だなんて、またまた。ドラマとかの見過ぎでしょ?」

(…私はまだ、『トラブル』としか言ってないのだけれどね。彼女には一言も『犯罪行為』とは言ってないのに『犯人扱い』と言うのは、何か不自然ね。)

 

 この時点で、里奈の中では彼女に疑惑の目を向けることが決定的となる。何か、彼女には後ろめたいことでもあるのだろうか、と。

 

「でも、中島先輩。どう言い繕っても、事情聴取というより取り調べだと思うんですよね。今の私の状況。」

「そんなことないわよ。そう思い込んでいるだけじゃないかしら。」

「……いいですよ。どうせ私なんか、中島先輩にも信用されてない人間なんでしょうし。…でっち上げで罪とか着せられそうで嫌ですよ。というか、今更ですけれど刀剣類管理局って、色々と闇に葬ってきたことだってありますよね?…まさか、私がこれからそうなるってことですか?」

「でっち上げだなんて、とてもじゃないけど考えてないわよ。第一、そんなメリットがどこにも無いもの。」

「………先輩の噓つき。ならどうして、私は今ここに呼ばれているんですか!おかしいですよ!だいたい理由も言わずに抑留するなんて、人権侵害ではありませんか!?何もないのなら、とっとと私を解放してくださいよ!ねえ、何とか言ったらどうなんですか!?先輩!」

「…………そこまでにしなさい。」

 

 真奈美から捲し立てられるように言葉責めに遭った里奈だが、静かに、かなり声音の低い話し方で真奈美に言葉を向ける。

 

「なっ、何ですか、中島先ぱ…いっ!?」

「私の堪忍袋の緒が切れる前に、一度落ち着きなさい。いいわね。質問をするのは私、貴女は訊かれたこと以上の内容を話す必要なんて、今この場ではないわ。」

 

 それはドス、いや殺気という表現が正しいだろう。真奈美は気付くのに時間が掛かったが、里奈の右手は御刀の柄を掴んでいた。それがどういう意味なのか、分からない彼女ではない。抜刀可能であるということは、つまり制圧も辞さないということだ。刀使の体面が悪くなろうが、それでもかなり感情を抑えているということが伝わる。

 

「……っ!…はい。」

(……適当に誤魔化すなり喚き散らすなりで早く解放してもらう算段だったのに、これでプランが崩れちゃったなぁ。)

 

 表に出ている感情とは異なる内面だが、真奈美の想定以上にストレス耐性を持ち、無言の圧力を激しく当てる里奈の姿に、真奈美は早期の退場を諦めるしかなかった。

 

 

 

 

「で。話を戻すけど、具体的に藤沢駅の周辺をどう回ったのよ。」

「だいたい大型商業施設や駅ビル、周辺の出店などを食べ歩いてましたよ。何なら、今からその映像を視ます?」

「…流してちょうだい。」

 

 真奈美が里奈に見せたスマホ画面には、彼女が藤沢駅周辺で撮影したと思われる映像が記録されていた。しかも、約三時間分である。流石に全て見切るのにはこの場では難しいと思った里奈は、その真贋を情報分析のプロに委ねることにした。

 

「このデータ、預かってもいいかしら。」

「はい。そのデータが証拠になるなら、私の潔白は証明されるはずですし。…まさか、映像を改竄しようとか思っていませんよね?映像は私のところにも残っていますから、直ぐに違いは分かりますよ。」

「…誰もそんなこと考えてないわよ。あとは、姫乃に分析してもらおうかしら…。」

 

 真奈美の態度に苛立ちを通り越し、半ば呆れてくる里奈。だが、彼や千里の命が掛かっている以上、一々反応を示すのも面倒に思えてきてしまった。

 

「……そうそう、事情聴取の最後に一つ聞いておきたいのだけれど。」

「…何でしょうか。」

「貴女、舞草や昔紫様の派閥に属していたってことはある?あるいは、何らかの政治団体とか。」

「…答えて、どうするおつもりですか。」

「いえ、単なる興味本位よ。」

「…黙秘します。」

「そう。…分かったわ。主義主張に干渉する権利は、私にもないわよ。……ただ、もし、誰かを傷つけるようなことを起こしたら、その時は貴女の想像しているよりも遥かに後悔することになる、ってことは覚えておいてもらいたいわね。」

「……はて、何のことでしょうかね。」

 

 どこか遠くを見るように、窓辺を見つめて視線を逸らす真奈美。その視線の違和感に、里奈は無言で睨むほかなかった。その後、里奈は彼女へと最近の部署への不満等々の質問をぶつけつつ、この日の真奈美への事情聴取は終わることとなった。

 

 

 

 

(……今のところは、私がやったとは思われていないようね。しょっ引かれないところを見ると、証拠がないのかしら。…それなら、バレていないうちに計画を進めるとしますか。)

 

 真奈美はアリバイや偽装工作が発覚する前に、計画を一つ先に進めることにした。…彼女の本来の目的を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 場面は、姫乃達が必死に映像解析を進めているところへ戻る。時系列そのものは前に倒れ、午後四時頃である。

 

「…なあ、水沢。一回作業を止めないか?」

「え、何でですか?」

「いやお前、もう午後四時だぞ!朝食も昼食も摂らないで。そんな飲まず食わずなら、過労でぶっ倒れる◯◯のことを他人ごととして言えなくなるぞ!」

「……なら、食べながら作業を進めます。カ◯リーメイトのような栄養補助食品はありますか?」

「はい、姫乃さん。どうぞ。」

「ありがとうございます、三原さん。…糸崎さん、飲み物を頂けますか。」

「はいよ、水沢。緑茶でいいか?」

「ありがとうございます。…ペットボトルのお茶ではありますが、こうした時に◯◯さんの淹れたお茶を思い出しますね。…一刻も早く、◯◯さんを見つけ出したいところですが。」

「そうだな。…俺はともかく、他の奴が落ち着かないだろうし。」

 

 と、手掛かりになる情報が少ないなかでも、三人はどうにか前向きであろうとする。

 そんな時だった。

 

 

 

 

 ピリッ ピリッ ピリッ

 

 

 

 

 事務机の一つに置かれた固定電話が、外線用の着信音を伴って画面を明るく染める。

 

「こんな時に外線?何かあったのか?」

「…もしかしたら、神奈川県警の方からかもしれません。出ますね。」

 

 姫乃は迷わず、受話器を取る。

 

「はい、▽▽(彼の部署名)の水沢です。…はい、…はい。分かりました、ちょっと調べてみます。教えて頂き、ありがとうございました!」

 

 通話を終えた後、沈み気味だった姫乃の表情に、短時間ながらも変化が現れる。

 

「……どうした?水沢。」

「糸崎さん、三原さん、映っているか調べてほしい車両があります。八王子ナンバーの黒色の業務用バン、ナンバープレートは□□-◇◇◇*3、です。」

「ちょっと待てよ…。…あー、この車か?これには映っているな。和田塚駅付近を16時48分頃に通過している。」

「車の進行方向は?」

「…これ、鎌倉市街に向かってないか?…うん、あー、この車、刀剣類管理局(ウチ)の正門に通じる道を通ってるな。そんで、この車がどうかしたのか?」

「…姫乃さん、守衛さんの記録にも書いてあるよ。黒い業務用のバンだよね?」

「三原さん、その時間は?」

「えーっと、正門入場が17時02分、出場が17時16分、だね。」

「…見つけた。」

 

 姫乃の目に、生気が戻る。

 

「え、おい!見つけたって、どういうことだよ!」

「先ほど、神奈川県警の交通課の方から連絡が入りまして、黒い業務用バンが相模湖近隣の道路の崖下で、爆発炎上した状態で見つかったとのことです。…焼け跡からは人の姿などは見つかっていないそうですが、焼けた車両からは複数の弾痕が見つかったそうです。」

「弾痕、ですか。」

「…もし、この車で◯◯さんや四条さんが連れ去られた痕跡があれば、証拠隠滅のために爆破したとも考えられます。」

「…ちょっと待て。弾痕ってことは、相手は銃火器を所持しているってことか?」

「…私が最も恐れているのは、探しているお二方がもう既にこの世にいない、ということです。そうではないと示すために、私も早く見つけたいんです。たとえ、どんな情報であっても。」

「取り敢えず、その車の行動を調べてみようよ。姫乃さんは、どなたかを連れて相模湖まで向かってください。私と糸崎君で、この黒い車の立ち寄り先と利用道路を調べますから。」

「お願いします。あ、正確なナンバープレートは、『八王子 ◯◯◯ く □□-◇◇◇』です。里奈さんが帰ってきたら、よろしく伝えておいてください!」

「ああ、行ってこい!こっちは任しておけ!」

「行ってきます!」

 

 簡単に、タブレット端末など必要そうな荷物を纏めて職場を離れる姫乃。その際、葵*4を同伴させることになった。理由は、今後の人材育成と彼女の持つ理系分野での知見を活かすのが目的であった。他の男性局員一人と、運転手を一人の計四人で相模湖近くの現場へと向かう。

 

 

 

 

 僅かな情報が集まるなか、少しずつだが確実に事態は動こうとしていた。それは姫乃達が立ち向かおうとしていた人間もまた、同じであった。

*1
『Silent Abduction 中編その1』参照。

*2
綾小路武芸学舎の仲野順(とじともサポメン)のこと。

*3
作中世界の車両のナンバープレートは五桁であるため、本作の表記もそれに即している。

*4
水無月葵のこと。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

事態は少しずつ動き始めましたが、それはどちらの立場でも同じだという。
次回からは節が変わりまして、突如として本部へ危機が訪れます。それに対して、彼の同僚達はどう対処していくのかが問われる話となっていきます。

それでは、また。
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