今年は一身上の都合により新年を祝うことができませんが、本年もよろしくお願いいたします。
今回は可奈美編 その10となります。
時系列はアニメ1話よりも前、可奈美が美濃関学院に入学して以降の話となります。同じ可奈美編の『人材選考と出会い』及び『真剣会話』の後の出来事です。
美濃関のとじともキャラも一名登場いたします。…その存在が賛否分かれる方ではありますが。
それでは、どうぞ。
ー美濃関学院 武道館ー
美濃関での生活にも慣れ、舞衣や美炎といった同世代の友達もできるなか、可奈美は自身の御刀である《千鳥》を持って鍛練を行っていた。
打ち合い稽古と立ち合い練習が一旦終わり、一緒に鍛錬をしていた舞衣とともに、壁の方へ寄っていた。
「…ふぅ~。ちょっと休憩しよっと。」
「可奈美ちゃん、最近は放課後もずっと鍛錬を続けてるよね。疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫だよ、舞衣ちゃん。むしろ、鍛錬が終わった後にクッキーを焼いてくれる舞衣ちゃんの方こそ、大変じゃないかって心配しちゃうよ。」
「ふふっ。心配してくれてありがとね、可奈美ちゃん。でも、私が好きで焼いているから。可奈美ちゃんがいつも美味しいって言ってくれるから、また作りたくなっちゃうんだ。」
「だって、本当のことなんだもん。…あれ、あの男の人って――」
「ウチの学校ではあんまり見かけない人だね。高等部の先輩と何か話しているみたいだけれど…。」
可奈美と舞衣の視線の先には、複数の高等部の生徒や刀使、その集団に話をするライトグレーのスーツを着た男性が目に入る。
「なんや、可奈美と舞衣、どうかしたんか?」
「あっ、
「ほーん?もしかして、可奈美はあんな男ん子を狙っとるんか?」
「ええ~っ!?ち、違うよぉ。高等部の先輩達と何を話しているのかなーって思っただけで。」
「友紀ちゃんはあの男の人のことを知っているの?」
「う~ん、私も先輩から噂程度に聞いた話やけど、なんか凄い人らしいで?ウチの学校から鎌倉の本部に引き抜かれた、っていう話も聞いたことがあるし。」
「…あの人も、剣を使ったりするのかな?」
「えっ、可奈美ちゃん?」
「可奈美ぃ~、アンタの悪いところはそういうところやねんでえ。それに刀使でもあらへん男の人が、わざわざ剣術を学ぼうとするんかねえ。」
「う、うーん…。」
友紀にそう言われて、黙り込んでしまった可奈美。
剣術が大好きな彼女にとっては、楽しみを共有できる志を持つ仲の人間を増やしたかったのだろう。同級生にはそれを分かってもらえなかったようだが。
「まあ、気になるのはええけど、程ほどにしときぃよ。当たって砕けるのも、うら若き女子の特権なんやけぇ。まして刀使なんて、出会いが皆無なんだから。」
「ちょっとぉ~、なんで私が振られた感じになってるのぉー!?」
「うーん。でも、言っていることは分かるかな。」
(…私にもいつかそんな人、できるのかな?)
可奈美が直撃を受けるなか、舞衣は舞衣でこれから訪れるかもしれない、青春の一幕に少し思いを馳せていた。
そんな会話を繰り広げるなか、話題にしていた男性が剣道場を去っていく。
「あ、先輩達から離れるみたい。」
「どーする?行かんの可奈美?」
「ええ~。…うーん、また今度でいいかな。それよりも、舞衣ちゃん、また立ち合いお願いね。」
「分かったよ、可奈美ちゃん。…じゃあ、やろうか。」
「うん!」
「ほんとに可奈美は、剣術ばっかりやなぁー。色恋沙汰より剣ばっかりって、それはそれで損な気がせんか…。」
友紀の言葉に、可奈美は少しウグッという声を上げた。が、それでも彼女は己の剣に向き合っていた。
(…立ち合いが楽しいのもそう、剣術の奥深さをどんどん知ってできるようになりたいって思っていることもそう。……それに、こんな私を好きになるような男の子なんて、きっといないよ。)
恋愛に興味がない、というわけではない。だが、それは彼女の剣術への探求心の前には、あっさり砕け落ちるほどのものでしかないのだ。
(……でももし、こんな私でも受け入れてくれる人が現れたら、その人と楽しい時間を過ごせるといいな。)
そんな都合のいい人間なんて、そう現れるものでもないことは彼女もよく分かっているので、口に出して言うようなこともなかった。
一方、先ほどまで美濃関の高等部刀使と話をしていた男子は、美濃関の校舎へ向けて歩いていた。
「はあ~。親衛隊、というか折神家から頼まれた案件とはいえ、そんなホイホイ送り込む人間が決められるなら、こっちだって苦労しないっての。…愚痴が漏れるなぁ…。」
彼が目線を落としていたのは、右手のバインダーに持っていたとある書類であった。
それは、今度折神家主導で行われる刀使の選抜強化案の概要と、各校の刀使のリストであった。S装備の開発が進むも、未だに刀使の負傷率、あるいは離脱率は高い傾向にある。このため、折神家や刀剣類管理局もあの手この手で対策を練っている。その一つがこの強化プログラムである。
とはいえ、今回は小規模に行われるものであるため、派遣する刀使をどうするのかは、各校で判断が分かれたのだ。
折神家親衛隊が編成される際、その栄誉ある任を拝命した真希・寿々花・夜見(後に結芽も加わる)の所属した平城、綾小路、鎌府に関しては、親衛隊各個人あるいは各学長の推薦により選別される。
その一方、親衛隊に所属する刀使がいなかった美濃関と長船に関しては、二学長それぞれの判断に委ねられることになった。言い方は悪いが、この二校に対しての今回の扱いはドライなものとなっていたのだ。明らかに、親衛隊に入った者のいる学校が優遇されている。競争意識を持たせたかったのかもしれないが、これでは多少なりとも反感を抱かれても仕方ないだろう。
公式な発表はまだであるが、既に刀使間のネットワークでそうしたものが実施されることは彼女達に把握されており、美濃関でもそれは同じであった。
「…だからといって、羽島学長も俺を指名しなくていいでしょうに…。公平性を担保する点は評価しますけど、これじゃどう転んでも選ばれなかった人間から言われることが決定的じゃないですか…。」
美濃関の江麻は、本部の人間が選定した人間を認める方針を採用した。取りうる選択のなかで、恐らく一番公平性のある方法であると、彼女もそう踏んだのだろう。
とはいえ、その人間を指名する権利は江麻の方にあったため、人を見る目に定評があるとされた彼が指名されたわけだ。最も、当の本人は絶対そんなことはないと反対したのだが。最終的には、同僚達に押し切られた。
なお、長船は舞草の刀使を何人か派遣して、折神家の動向と裏の目的を注視する方針だという。これは紗南経由で聞いた話であるが。
「……ま、開き直って見ていくか。」
依頼された以上、諦めて刀使の選定を行う。
以前、本部に引き抜く人間を決める時に使ったデータ*1とは別に、今回は直接目で見ること、直近数ヶ月の戦闘データからの総合判断方式を取った次第だ。
「今回、中等部は外す予定だしな。だいたい六~七十人くらいなら、見るのもそんなに苦労しないだろうし。」
選定に際し、中等部よりも高等部を優先したのは、技術的習熟度、戦闘経験数、そして負傷確率の高さだ。
普通ならば負傷確率が低い刀使を強化プログラムに送り込む方がいいのだろうが、今回は少人数であるため、負傷要因に繋がる原因を分析できる可能性が上がるため、敢えてそうしたのだ。
彼としては、過度な戦力集中よりも総合的戦闘力を重視する傾向にあった。個よりも集団、特に荒魂討伐においてはそれがかなり重要な意味を持ってくる。彼の最終的目標を思えば、この意図も見えてくるであろう。
(刀使の負傷率、殉職率の極低確率化と負担軽減、後方支援部隊の強化とその被害対策。これは両輪で考えて初めて意味を持つ。…舞草であっても、正攻法で変えられるところは変えていくべきだしな。体制転換のような覇道は、あくまでも最終手段だ。)
そんな考えもあって、中等部で今後も伸びしろがある刀使のことも把握はしつつ、本来の目的を果たしていく。
彼のやり方は基本的に抜き打ちであるため、その人の動き全てから判断している。利害関係がないからこそできる芸当ともいえるが。
平城や綾小路に寄る用事もあったため、数日空けて再び美濃関に来ることにしていた彼。
今日は学生寮で一泊していき、翌日平城へと向かう。そのため、彼は日没後の時間をどう過ごそうかと悩んでいた。
「…仕事とは別で、美濃関の中を見て回るか。」
ふとそんなことを思い立った。今日に限っては時間的拘束がないため、のんびりと回っていく。
「あー、やっぱり美濃関の購買は変わった道具を置いてるもんだな。ハサミと包丁に関しては、百均で買うよりも遥かにコスパがいいしな。練習のためとはいえ、鍛冶科の生徒が作ったものだから切れ味もいいし、丈夫で折れにくい。刃物の街、関と言われるわけだ。」
「お、誰かと思えば。本部の有名人さんが一体何の用だ?」
たまたま購買に来ていた、美濃関の鍛冶科に所属する刀匠見習いの男子生徒と立ち話になる。
「服部*2か。いい掘り出し物でもないかと思って、ちょっと売店に寄っただけさ。」
「ふ~ん。で、何か目ぼしいものでもあったのか?」
「折角なんで、この刀型のペーパーナイフと火箸を買って帰る。」
「ほーん。ペーパーナイフはまだ分かるが、なんで火箸?」
「冬場の任務に備えてな。刀使達や後ろで頑張っている人間が暖まれるなら、その方がいいだろ?それに練習で制作されたものでも、職人技であることには変わらないからな。業物になるまでは時間も掛かるだろうが、買ってそれを支えられるなら、それに越したことはない。」
「…そんで、ウチの購買にちょくちょく買いに寄るわけか。義理堅いんだか、物好きなんだか。」
「…話は変わるが。服部、長船や鎌府からの最新技術と美濃関の伝統技術。その融合は上手くいきそうか?」
「まだ途中の段階だからなぁ。…それに、長船と組んだのは単に技術だけじゃないぞ。俺好みの年上女子も多いし。」
「はあ。」
何とも間の抜けた声で返す彼。
「そうだ、お前確か長船の瀬戸内さん*3と知り合いだっただろ?今度会う機会をセッティングしてくれよ。以前、あの人に玉砕覚悟で告白しようとしたら、俺は好きなタイプじゃないことが分かって困ったんだよ。次こそは、成功させたいんだよ。」
(……言えねえ。智恵が反体制派の舞草の連絡要員で、恋愛にはそこまで気が向いていないってことを。)
達夫には申し訳ないが、可能性だけで言えばワンチャンすら無いことを知らないのは、ある意味で幸せなことなのだろうと思った。彼女の内情を知っているが故に、これも青春の一幕なのだろうな、などとふと思った。
「……まあ、覚えていればな。どのみち玉砕するだろうが。」
「まさかな。もしかしたらが有り得るかもしれないだろ?」
「……忠告はしたからな。それで俺を恨んだりするなよ。」
「恨んだりするものかよ。じゃあな。」
「ああ。んじゃまあ、頑張れよ。」
売店にて目的の物と複数のスポーツ飲料、タオルを買い、また再び学内を歩く。
そして、武道館を訪れた時であった。時間はもうすぐ夜七時半。
さすがに平日のこんな時間まで残っている人間もいないだろう、そう思って見回っていたのだが、その予想はよい意味で裏切られた。
『はあっ!…たあっ!…う~ん、もう一度!はっ!』
「……誰か残っているのか?」
まだ初秋とはいえ、寒さも厳しくなり始める頃だ。加えて、今の時間帯では入浴や夕食に向かう生徒も多い。
人の気がないこの時間帯なら、ちょっと体を動かすのに向いているかと思っていたが、先客がいるなら仕方がない。
「一体、どんな人間がいるのやら…。」
興味本位で剣道場の中を覗いてみる。場内を見回すと、巫女服調の美濃関の制服を着た少女が一人、御刀を振るっていた。明るい栗色をした髪を束ねるように、黒いリボンで左側頭部に髪を結っている。彼よりも少し年下のようにも見えた。
その少女、いや刀使は練習用に置かれた長い竹棒を、イメージトレーニングでもするかのように見つめ、斬撃を繰り出す瞬間を作ろうとする。
「―はっ!」
それは一瞬だった。
彼が少女から目を離さないようにしていたにも関わらず、その動きは視認できず、気付いた時には竹棒が幾つかの大片になってバラバラと落ちていった。
彼は思わず息を呑んだ。
(……凄い。俺も彩矢*4から多少教わったことはあるが、太刀筋が見えないほどの速さとは…。)
刀使に敬意をもって日頃から仕事に向き合っているとはいえ、いざこうした鍛練の風景を見ていると、改めて彼女達の剣技・剣術の素晴らしさやその技量の高さを実感させられる。鎌府や親衛隊の鍛練風景を見たり時には混じることもあるが、彼女の技はそれに匹敵するほどのものであった。
向こうは気がつかなかったようだが、その刀使が此方の方に顔を向けた時に、彼は少し驚いた。
(あの娘、以前俺に立ち合いを頼んだ娘じゃないか。確か、衛藤可奈美だったっけか。…って、美奈都さんの娘さんかよ!)
忘れもしない美濃関の校内模擬戦時*5に、一般人である彼に勝負を挑んできたことのある娘だ。あれ以降も彼女との立ち合いを経て、剣術への見識を深めようと思ったきっかけになった出来事ではあったが、その彼女とこうしてまた巡り合うなんてのも、また変わった縁だな、そう彼は思った。
(あれが彼女の御刀、《千鳥》か。実際に振るっている姿を見ると、彼女が刀使であることを実感するな。)
なんてことを思っていると、納刀した彼女が一度道場の端のほうに寄る。
「う~ん、なんかやっぱり違うな~。…お手洗いにでも行ってきて、気持ちを入れ替え直そうかな。」
どうも先程の斬り方に納得いっていなかったらしく、可奈美は《千鳥》を壁に立てかけてトイレに向かったようだった。彼のいる廊下とは反対側に出たため、彼の存在には未だに気付いていない様子だった。
トイレへと離れていった彼女を目で見送ったあと、何の気なく彼は可奈美のことを応援したくなった。
「……あ、そうだ。どうせ大量に買い込んだ飲み物とタオルだし、一~二本置いていってもいいか。…さすがに書き置きくらいはしていったほうがいいだろうが。」
可奈美の鍛練風景を見ていた彼は、自身の手元にあったスポーツ飲料と未使用のタオルに視線がいった。折角鍛練を頑張っているのだから、それを見ていた彼としては、何かそれに役立つようなことをしたくなった。他人が見ていないとはいえ、それは自分勝手ともとれる行動ではあるが。
とはいえ、見ず知らずの人間のお節介ほど怖いものもない。それを考慮したうえで、飲料とタオルを置いていくついでに残す書き置きに、あるメッセージを残した。
数分の後、可奈美が剣道場内に戻ってくると、《千鳥》や彼女の持ってきていた荷物以外に、若干露がついたスポーツ飲料とビニール包装された未開封タオルが、その傍に置かれていた。
「あれっ、私こんなの持ってきてたっけ?」
隣に置かれたそれらのそばに、もう一つメモ紙サイズの書き置きが残されていた。
『鍛練お疲れ様です。ささやかながら飲み物とタオルをお渡しします。今後も頑張ってください。陰ながら応援しております。』
差出人はなかったが、そのメッセージはとても綺麗な字で書かれていた。
「舞衣ちゃん…ではないね。誰だろう、これを置いていってくださったのは。」
親友のことが一瞬浮かぶが、もし持ち込むなら彼女なら直接手渡しするだろう。可奈美のことなので、そのまま立ち合いを頼むことだって、舞衣ならば分かっているはずだ。
「…まだ開けられてないね。」
飲み物は流石に持ってきていなかったため、そのペットボトルを開け、中身を口内に注ぎ込む。
「…んぐっ、んぐっ…。…あ~、染み渡るぅ~!」
少し動き回っていたこともあって、身体の方は水分を欲していたようだ。適度な温度になっていたので、よく飲める。
「…でも、折角なら直接手渡ししてくれたらもっと嬉しいのになぁ。お礼も言いたかったのに…。」
何か事情でもあるのだろうか、とは思ったが、彼女は敢えてその人物のことを追うことはなかった。
これ以降、彼が美濃関に立ち寄った時に可奈美が鍛練している姿を見掛けたときは、飲み物や季節に応じたものを置いていったりすることがあった。
可奈美のほうも何度かこれらを置いていく人物を探そうとしたのだが、なぜかいつもその姿を見つけ出すことはできなかった。ただ一言、彼へのお礼を言いたかっただけなのだが。
彼と可奈美が、本格的に接点を持ち始める御前試合以降の出会いまでは、終ぞお互いが直接言葉を交わす機会は訪れなかった。
そして、季節はめぐり、可奈美達の運命を決定づける時が迫ろうとしていた。二人が再会するまでの時は、もう目前であった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
話中に出てくる友紀という娘は、アニメ1話や漫画版で登場してくる美濃関のおかっぱキャラです。公式には可奈美や舞衣の友人であるとか。若干言い回しが関西弁風になっているのはご容赦ください。
なお1話では、この取り巻きに混じって美炎もいます。(岐阜羽島駅や御前試合予選など)
投稿当日に新しい情報も明かされましたが、公開されたイラストでは可奈美が目に見える形で成長してましたね。…今後は舞衣と並ぶくらいに身体的にも成長していきそうな予感が。
次話から事前の書き置きどおり、姫和編へと移ります。
今月中までには舞衣編に移りたいですが…、筆者個人はやることがまだまだ多そうです。
それでは、また。