刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

いよいよ、本部などを制圧した武装集団側との会談を迎えます。
今回は特務警備隊となった、親衛隊の面々が登場します。(無論、紫も出ます。)

それでは、どうぞ。


⑩ 男性排斥運動(ブルー・パージ) 後編

 ー折神家 離宮ー

 

 冬の『年の瀬の大災厄』以降、長年の無理がたたり現在は静養中の紫。以前は当主住居に住んでいたものの、現在の当主兼局長の朱音からの厚意を固辞し、現在は同じ折神家の敷地内にある離宮で生活していた。それは妹の立場をこれ以上悪くしないためという、紫なりの気遣いでもあった。

 刀使としての力の大半を無くしてもなお、日頃の鍛錬は欠かさなかった。無論、無理はするなと医師から釘は刺されていたが。

 

 そんな日々だが、今晩はたまたま、特務警備隊に改名された元折神家親衛隊の面々が、紫への顔見せと共に継続的な調査報告を伝えに来ていた。

 

 

 

 

「―以上で報告を終わります。紫様。」

「ご苦労だった、真希。寿々花や夜見、それと結芽。皆、息災そうで何よりだ。」

「はい。紫様もお元気そうで何よりですわ。」

「…お身体の具合は如何ですか?紫様。」

「ああ、だいぶ回復はしてきている。が、以前のような激しい運動は難しいだろう。」

「ちぇー、…でも、紫様が元気になったらまた構ってもらえるかもしれないんだよね?もちろん、立ち合いじゃなくて。」

「…まあ、そうだな。医者が良いと言うまでの辛抱だ。それまでは結芽、三人を助けてやってくれ。」

「はーい。」

「……!?」

「どうした、夜見?」

 

 突然、夜見の表情が強張る。

 その異変に気付いた真希が声を掛けるが、

 

「……どうやら、今晩は騒がしい事になりそうだ。」

 

 そう紫が呟いたことを彼女は聞き逃さなかった。

 

「……皆さん、御刀を抜いてください。どうやら、囲まれています。」

「夜見、紫様を頼む。結芽、外を見てきてくれ。」

「はーい。で、真希お姉さん、何か見つけた時はどうすればいいの?」

「取り敢えず引きつけて、狭い通路に誘い込みつつ無力化してくれ。」

「うん、分かったぁ!じゃ、行ってきまーす!」

 

 そして、結芽は外へと繰り出していった。

 

「…で、これからどうしますの?」

「夜見、囲まれていると言ったが、人数は分かるかい?」

「…だいたい十名ほどでしょうか。全員、武器を持っているようです。」

「夜討ちか。まさか、ここで私を消しにきたのか。」

「……?おかしいですね。」

「どうかなさいましたの、夜見?」

「相手に、動く気配がありません。ある距離で止まったまま、動きません。」

「どういうつもりなんだ、一体。」

「……襲う気が無いのなら、結芽は一度待機だ。倒してしまっては、相手の都合も分からないからな。」

 

 紫と特務警備隊の面々は、安易な行動を避ける選択を採った。

 ちなみに外に出た結芽は離宮の建物周辺を見るも、囲んでいるであろう相手を発見できなかった。周囲が木々などで覆われており、夜で薄暗いという視界条件の悪さも影響した。加えて、結芽は透覚や明眼といった索敵向きの能力が弱いため、尚更発見するのが難しかったわけだ。

 双方とも迂闊に打って出ることができず、数時間はこの状態が続くことになった。この間に、真希達は鎌府を含めた伍箇伝各学校や本部への連絡を試みるも、通じることはなかった。その原因が、取り囲んだ側の電波妨害装置にあったことを知るのには、また少し後の事になる。

 

 

 

 

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部 作戦指揮室ー

 

 制圧下に置かれた作戦指揮室だが、誠司が聞いた放送を除き、朱音達は指示された場所から動くことができなかった。

 部屋の制圧からおよそ三十分。事態は動く。

 

「折神朱音殿、貴女にウチのリーダーが顔を見せたいと言っている。無論、各施設を制圧したことに対してのお詫びと解放条件も話したいそうだ。」

「…分かりました。話し合いの場は、どちらでなさいますか。」

「局長室、だそうだ。」

「分かりました。私と真庭本部長、記録役に一人の同伴を許可願えますか。」

「…いいそうだ。ただし、外部への連絡できる手段のモノは、全て置いていけとのお達しだ。従わない場合は…、」

「勿論従います。」

 

 そうして携帯などを引き渡す僅かな隙に、紗南へ耳打ちする朱音。

 

(なーちゃん、一つだけお願いがあるの。)

(ん?)

(鎌府以外の各校に、緊急事態の発報をしてから来て欲しいの。理由は…)

(分かったよ、朱音ちゃん。任せておきな。)

(お願い。)

「準備ができました。では、行きましょうか。」

「まあ、そう急かそうとするな。リーダーは少し遅れてくるそうだ。逃げるつもりも無い。」

 

(今のうちに!)

 

 紗南は武装集団の面々が自分から目を離した隙に、各校へと無音で送信できる緊急事態を知らせる発報ボタンを押す。…後は、江麻達が気付くかどうかだ。

 

「リーダーが局長室に着いたそうだ。」

「行きましょうか。真庭本部長。」

「はっ!」

 

 そして、互いに頷き合った。これは気合いを入れるという意味と、発報に成功したという二つの意味であった。そして、今回の事態を主導した人間と相対することになる。

 

 

 

 

 局長室の前まで来ると、桃色のスーツに身を包んだ女性と、その後ろにはミリタリージャケットと防弾チョッキを羽織る、二人の武装した女性が立つ。

 

「初めまして、折神朱音様。私が今回の計画を立案した、山崎(やまざき)(けい)と申します。行動に不自由を強いてしまい、申し訳ございません。」

「いいえ。…それで、貴女が私に用があると仰られていましたが、一体何の用でしょうか。」

「まずは先に座りましょうか。落ち着かなければ、おちおち話し合いすらできませんから。」

「…分かりました。では、まずは入りましょうか。」

「はい♪」

 

 赤眼鏡に隠れる目元の表情と顔面についた傷が、彼女の猫なで声に反して得体の知れぬ恐怖感を与えていた。

 

(朱音様、彼女は…。)

(まずは、相手の出方を伺いましょう。話はそれからです。)

 

 紗南と朱音は、圭の動向を注視することにした。…その圭が真奈美であることに、二人ともこの場では気付くことはできなかった。

 

 

 

 

「さて、座りましょうか。あ、間隔は開けてくださいね。何か談合でもされたら困りますので。」

((!?))

「いいでしょう。間隔は開けて座ります。」

 

 朱音は、圭の指示に従うように同伴する他の二人へ合図を送る。

 

「指示に従っていただき、感謝いたします。さて、話し合いの前に、私共が何者なのかを説明する必要がありますね。」

「…お願いします。」

「はい、折神朱音様からのお言葉でしたら是非。…えー、まずですね。各施設ごとに制圧へ向かった者もそうですが、私達を含めて構成員は全員、女性しか居りません。これは私達の思想・主張に関わっていますから。」

「…その主張とは?」

 

 

「ええ、『全世界からの男の抹消・女性中心社会の復活』でした。私共は自分たちの団体を、『男性排斥運動(ブルー・パージ)』と名乗らせていただいております。」

 

 

「『抹消』…つまり、虐殺ですか!?」

「いえいえ、そんなことは考えていませんよ。『計画的に減らしていく』だけですから。」

「「なっ!?」」

 

 朱音と紗南、そして記録役の女性は戦慄した。虐殺などという勢いに任せた方法ではなく、目前の女性は平然と意図的な人口減少計画を告げたのだから。しかも、男性のである。だが、彼女は二人の反応を特に気にするようなこともなく続ける。

 

「まあ、驚かれることも無理はないでしょう。ですが、私達も全世界で男を減らすという目標を達成するには、流石に私達が生きている間には無理ではないか、という結論になりましたから。そこまで無謀なことは考えておりません。」

「「ほっ。」」

「ですが、それならば早い話、男性優位の社会システムを破壊して女性がのびのびと生きられる社会に変えていけばいいではないか、という話にもなったわけです。」

「…それがつまりは、クーデターですか。」

「ええ。日本でのクーデターがあまり上手く行かないことは歴史が語っていますが、ならば男性を排除しやすい環境が比較的整っているところから変えていこう、という方針となった訳です。」

 

 あっさりと武力行使を認める圭。ここからは朱音に変わり、紗南が話を深堀りしていく。

 

「つまり、貴女方はこの刀剣類管理局がその計画を進めるに当たって、最も都合がいい、そう思ったわけだな?」

「そうです。」

「はあ…、貴女方は知らないかもしれませんが、別にウチは男性優位であるとか、そんな空気は全くないのですが。ただでさえ、過酷な労働環境で刀使も辞めていく者もいるというのに……。」

「それですよ。それだから、男を排除するんです。ならば女性のみが働きやすい環境に創り変えればいいだけじゃないですか。刀使は女性しかなれないのにも関わらず、特に彼女達を守りもしない男性を荒魂討伐に連れて行くだけで、はっきり言って盾にもならないのに邪魔でしかありませんよ。……それならば、この組織を女性のみが働けられるようにすることで、いかがわしいことを含めた不祥事や組織の風通しも更に良くなると思いますが。」

「…確かに刀使を除いた特別祭祀機動隊員の多くは男性です。が、彼らがいることで刀使達が万全に戦えていることも、また事実です。仮に女性のみにしたところで、今度はいじめなどが酷くなるだけでしょう。閉鎖されたコミュニティーは、悪循環しか生まなくなります。」

「それはどうでしょうか。既に伍箇伝の五校のうち二校は女子校です。元々ここ鎌倉にある鎌府も、共学から女子校化に成功していますし、女性のみにすることは簡単だと思いますが。」

「簡単に言ってくれるな。それに、」

「それに、何ですか?……ここまで来て、お役所の出来ないやれないを私達は聞きに来たわけじゃないんですよ。それに、特別祭祀機動隊員の女性隊員化なんて、そう難しくなく簡単に出来ますよ。ウチの人間を充てれば直ぐにでも。現に、私共が展開している部隊の戦闘員は、全員女性ですよ。私達ができているというのに、それのどこが一体難しいと言うんです?」

「ばっ、馬鹿を言わないでくれ!全国で必要な隊員数は、人員のローテーションまで含めて数千人から一万人ほどなんだぞ!其方の戦闘訓練を受けた人数は知らないが、少なくともそれには遠く及ばないはずだろう!」

「……うるさいですね。」

 

 圭の後ろに立つ構成員が、紗南へ銃口を向ける。既に引き金に指は置かれており、圭の気が変われば即座に紗南の体を銃弾が抜けることになるだろう。

 

「!」

「いいですか、私は無理かどうかなんて一言も訊いてません。やれ、ただそれだけです。ならついでに私、いえ私達からの本部などから制圧解除を行うための条件を伝えましょう。」

 

 圭は武力をちらつかせつつ一方的に、そして相手への反論の時間を与えなかった。その姿勢は、暴君とでも言うべきなのだろうか。

 

「一つ、刀剣類管理局及び特別祭祀機動隊からの可塑的速やかな男性の排除。二つ、伍箇伝の各校からの男性生徒・職員の排除、今後一切の敷地内侵入の禁止。従わない場合は迅速な物理的排除の実施。これがまず第一段階です。例外は認めません。これは、条件承諾後すぐにやっていただきます。」

「それは…!?」

「三つ、今後折神家は私達『男性排斥運動(ブルー・パージ)』の策定する案のもと、主導的立場として、荒魂討伐などにおける刀使などの刀剣類従事者と男性のいかなる接触を禁止すること。これに逆らった者は毅然たる措置として、重度のペナルティーを科すことを義務付けること。最後に四つ、これを刀剣類管理局は不可逆的なものとして認め、以後、男性の社会からの排除に賛同する団体や活動に対し、これを妨げないことへと協力すること。……以上の四つを貴女方が呑むことが、私達からの生徒などの解放条件です。」

 

 つまりこの条件は、刀剣類管理局や伍箇伝などから『男性』という存在そのものを排除しない限り、この武力制圧状態を継続するということを意味した。…公務員が性別を理由に職業選択の自由を排除するということはあってはならないのだが、それを知っているのかと問いたくなるような条件だと、紗南は思った。

 まさしく、性別を入れ替えただけの前時代的発想である。

 

「…ちなみに、これを我々が受け入れない場合、貴女方はどうされるおつもりですか?」

「まさか受け入れないと仰いますか?…ご冗談は止してくださいよ。私達は折神朱音、貴女が受け入れないという選択肢など、端から考えていませんよ。」

「…それは、どういう…」

本町(ほんまち)!あれを持ってきなさい。」

「はっ!」

 

 本町と呼ばれた、作戦指揮室を制圧した時のリーダーが何かを持ってきて、圭に渡す。圭の手元に渡されたのは、ヘッドセットの取り付けられたタブレット端末だった。その画面を朱音達に見せながら、ヘッドセットを装着する。

 

「このタブレッドは、今の各制圧部隊ごとの様子がリアルタイムで表示されているものです。…今拡大したのは、ヘリポートに逃げようとしていた刀剣類管理局本部の人間を、男女別に分けて固めたものです。…第二部隊、指示通りの散油開始!」

「おっ、おい何をするつもりだ!」

「動くな!」

「くっ!」

「何って、男性の集団の周りに油を撒いているんですよ。逃げ出さないように。……勿論、交渉が決裂した時には、火を放つつもりではいますよ。男性は特にその方針ですが。」

「や、やめてください!」

「なら、私達の要求を受け入れますか?…あ、言い忘れてましたけれど、鎌府女学院にいる生徒や職員も、その気になればサクッと殺りますからね。一人でも生徒達が逃げ出そうとした場合も同じですよ。連帯責任で、その周りの人間を撃つよう私から指示を出していますから。」

「……貴様ら、外道か!そこまでして、男共やウチの生徒達を!」

「どう言っておられようと構いませんが、貴女を殺さないのは単に貴女が女であるから、ですよ。男性だったならば、即座に撃つように命令を出していますから。」

「真庭本部長、落ち着きましょう。頭に血が上ってはいけません。」

(なーちゃん、冷静になって。)

(…分かってるよ。)

 

 かなり圭のペースに乗せられていた二人。記録役の女性も時々、ペンを走らせる手が止まるなどしたことから、潜在的に恐怖を感じていることは朱音が見ていても分かった。

 

「…貴女方、いえ、貴女の考えている最大の猶予はどれくらいですか。」

「出来れば今すぐに打ち切るということも出来ますが…、そうですね。タイムリミットは、翌日午前6時でどうでしょう?それ以上伸ばすのであれば、幾ばくかの犠牲は覚悟していただきますが。…ただし、逃げ出す人間が居た場合、この限りではありません。」

「…分かりました。午前5時30分を目処に結論を出しましょう。」

「早期に受け入れた方が、楽だとは思いますがね。いいです。精々、無駄な時間を足掻いてみてくださいね。私達へのいい返事を期待していますよ。」

 

 そう言って圭は立ち上がり、局長室を離れた。

 

 

 

 

 室内には、朱音と紗南、記録役の女性、そして彼女達に銃口を向け続ける二人の戦闘員が残っていた。

 

「…このままでは数百名の命が人質のままです。一体、私はどうすればよいのでしょうか。」

「加えて、外部との連絡手段は絶たれ、この状況を伝えることもままならない。…孤立無援ですか。」

「…まるであの時を思い出します。舞草の里を脱出する時を。……あの時、衛藤さん達や◯◯(彼の苗字)さんのお陰で、私は捕まることなく助かったのですから。」

「朱音様…。」

「今は考えて、時を待ちます。……希望は必ずあるはずですから。」

「そう、ですね。…なんせ、ウチの懐刀は、ちょうど鎌府を不在にしていましたから。…後は、『鎌倉の六英雄』いや『東京の英雄達』に託しましょうか。」

「はい。……。」

(あとは、◯◯さんが見つかってくれれば、この状況を打ち破る方法を編み出してくれるかもしれませんが…。恐らく、間に合わないでしょうね。)

 

 朱音は彼への期待もあったが、見つかっていない以上は諦めるしかない。紗南もまた、たまたま荒魂討伐に出ており、不在により被害を受けなかった薫や可奈美達などに、後のことは託そうと思った。…ともかく、今は時間を少しでも稼ぐ方法を考えるしかない。

 二人は、人質状態の生徒や職員達にどうにかして即座の脱出を避けてもらうように伝える方法は無いのかと、思案するのであった。記録役の女性は、二人が何を考え意見を出し合っていたのかを、克明にメモへと残し続けた。

 

 

 

 

 

 

 ー鎌府女学院 学生寮某室ー

 

 『男性排斥運動の主導者・山崎圭』としての芝居を終え、タトゥーシールを一旦剥がす真奈美。室内には、世話役として別の同年代くらいの構成員が入っていた。

 

「女王、お疲れですね。」

「当たり前でしょ!なんでわざわざ変装までして対応しなきゃならないのよ!」

「それもそうですね。何か食べられますか?」

「じゃ、肉野菜炒め。材料はその中に入ってるから、適当にやって。」

「ふふっ、私はまだ幸せですね。見回りせずに、こうして女王向けの料理を作ればいいのですから。」

高鍋(たかなべ)、それは言っちゃだめなお約束よ。」

「分かってます。」

 

 先ほど、殺人予告までふっかけるような人間とは思えないほどの変わりようだが、今でも『男性排斥運動』の主導者として各制圧部隊の動きを確認しているのだ。常に情報を纏め続けていた。

 

 ちなみに真奈美が『女王』と呼ばれているのは、男性への排斥思想に対して最も現実的に計画を進められるという、お墨付きを他の構成員に示すことができたことが大きい。彼女が政治的・軍事的な行動を起こせる人間であり、統制力の高い人物として周囲へ知らしめることができるようになった結果、自然と『女王』呼びが定着していった。真奈美本人も悪い気はしていない、というかそう呼ばれることで、ついつい付け上がることになってしまったのだが。

 

 

「さて、…高鍋、相手は反撃してくると思う?」

「可能性はありますよ。ただし、それが誰の指示によってもたらされたかによって、それは変わってきますでしょうが。」

「まっ、まず自衛隊は無いわね。次いで、他の伍箇伝からの派遣は…午前6時までならば不可能ね。ヘリが飛ばせないもの。高速も同様。まず一番近い美濃関でも、派遣する人員組成に一時間以上、移動に三時間以上掛かるなら、ほぼ間に合わないわ。新幹線はもう動かないし。」

「あとは…荒魂討伐に出ていた刀使さん達、ですか?」

「ああ、強行突入?無理ね。先に姿を発見次第、人質を殺すと言っておけば動きにくくなるでしょうし。もし、山などから来ても、警告無視と判断して目前で人質を撃てば、どの道その動きは止まるわよ。自分が突っ込んだことで殺したも同然なんだし。」

「…結構、エグいこと考えますよね、女王って。」

「別に人間なんて死ぬ時は死ぬのよ。それが早まっただけの話よ。あとは、世論工作ね。」

「私達が仕掛けた情報戦は、どうなっていますか?」

「……おおっ、いい感じいい感じ!やっぱり数ね。女性の権利団体に軽く吹っ掛けた甲斐があったわ。これで、刀使や生徒達をこの世から解放する準備も整ったわよ。」

「えっ?女王、一体何をなさるおつもりですか?」

「えっ?…刀使の公開処刑だけど?別にここで人質に取っている者以外を殺すわけではないけど。…今までの刀使達の不手際と全個人情報を公開するだけで、後は世間がどうにでもやってくれるわよ。単に流出させたのは管理局側っていうことにすれば、私らが仕組んだことにはならないし。これで刀使の社会的地位も完全に失墜するわよ。」

 

 すると、高鍋の表情がみるみる曇っていく。おずおずとだが、真奈美に進言する。

 

「……女王。それは止めた方が、いいと思います。」

「なぜ?刀使も結局、女性の皮を被った『人あらざる』人なのよ!……なら、男共々その存在を一度消し去った方が、世の中の普通の女性は生きていけると思わない?どうかしら?そうすれば、私達ももっと動きやすくなるわよ。」

「それは本当に止めたほうがいいと思います。本当に。…いくら女王と言えど、あの荒魂に対処できますか?彼女達無しで、本当に全て上手くいくとお思いですか?」

「……私が御刀に適合しなかった、とでも言いたいんでしょ。貴女は。…………私だって、本当は分かっているわよ、これがただの妬みだってことは。でも、これぐらいやれば、世間は私達の本気度に気付くわ。」

「…まだ女王はお気付きではないかもしれませんが、ひとえにもったいないじゃないですか。折角、地上最強の存在を私達が何の支払い代償もなく、駒として手中に収められるというのは。上手く使えば、政治家達に圧力も掛けられますよ。私達の理想の社会や国へ作り変えることだってできます。」

「……それも、そうね。刀使向けの工作は止めにするわ。…その代わり、全国からできるだけ多くの人間を集めなさい。伍箇伝の各校に、人海戦術によるデモを仕掛けるわ。一ヶ月以内に、世論を私達の行動への支持に回す方向でいくわ。幸い、資金に関しては手を打ってあったし。外患誘致罪や内乱罪で捕まる前に、こっちに流れを寄せるわよ。」

「……上手くいきますでしょうか。」

「大丈夫よ。一番目先の障害は既に此方の手中にあるし。それに、回答期限までには応援は間に合わない。これで、後は午前6時、いえ逃げ出す人間が出ればもっと早まるわね。それまで、人質達にプレッシャーを掛け続けなさい。それで、今までの刀剣類管理局の体制は崩れるわ。法の抜け道も使っているから、自衛隊も私達には迂闊に手出ししてこないでしょうし。…やってくるなら、やり返すまでよ。」

「了解です。…あっと、女王。出来ましたよ、肉野菜炒めです。」

「ありがとう。貴女も食べなさい。これから忙しくなるわよ。」

「はいっ!」

 

 

 真奈美は確信していた。この交渉には必勝が見えていると。

 仮に今、荒魂討伐などで鎌府にいない刀使達が人質の奪還に動いたとしても、その時はその時だ。条件を呑まなかった相手側の責任なのだから。こちらは誠意(制圧&脅迫)を示しているのだ。悪いが、向こう側の意見や事情など知らない。交渉事で最後に求められるのは、結果なのだから。

 

 

 

 

(千里、○○××。私達の崇高な革命まではあと少しよ。…驚くかしら、解放した時には自分の帰る場所すら無くなっているなんて。……ウフッ、アハハハハハッ!!)

 

 真奈美は、二人の絶望に打ちひしがれる顔が楽しみであった。解放予定の二ヶ月後が、実に待ち遠しかった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、後に『鎌倉事変』と呼ばれた『相模湖擾乱』での武力クーデターは、状況としては折り返しの時を迎える。ここまでは順調過ぎるほどに、事が上手く運んでいた。

 しかしながら、勝ちを確信していたこの真奈美の計画には、後に彼女が想定していなかった複数の誤算が生じることになる。その結果、彼女の計画は徐々に崩壊へと突き進んでいった。

 

 そして、刀使達の逆襲が始まる。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

なかなかヤバい事を考えた真奈美ですが、実際のところこれを男女逆に入れ替えた場合でも同じことが言えます。ただ確かに、真奈美が考えていることもあながち間違っているわけでもないのですが。

いよいよ次回から、人質に取られた朱音達の奪還作戦へと流れが変わっていきます。
本文中での真奈美の発言どおり、確かにこの深夜帯では『人』を送ることはできません。が、『モノ』は果たしてどうでしょうか?

それでは、また。
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