刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回から、刀使達や主人公(の同僚)側の逆襲が始まります。
今話はワンクッション置きまして、里奈や早希などの行動を明かしております。

先日、本作がUA100,000、全話PV290,000を迎えました。
このような物語へ多くの方々がお読みに訪れていただいたこと、高評価を付けていただいた方が多いこと、本当に深く喜びに堪えません。
現在の話では少し離れ気味な部分がございますが、なるべく早めに刀使達との話に戻っていこうと考えております。今後とも試行錯誤しつつ、執筆を進めて参ります。

前置きが長くなりました。
それでは、どうぞ。


⑪ 約束と合流

 ー神奈川県某所 誠司の実家ー

 

 時系列は朱音達と真奈美が対談を終えた後、午後十一時過ぎである。

 早希からの連絡を受けた里奈は、馬車道駅から指示された住所まで、鉄道やバスを利用しながら向かっていた。空になったスーツケースも持ったままだったので、地味に手間ではあったのだが。

 

「…えーっと、確か住所はこのあたりの場所だったと思うんだけど…。」

「あっ、里奈さ~ん!」

「三原さん!」

 

 出迎えのため、誠司の家の前から里奈を待っていた早希。夕方あたりに別れたため、そんなに時間は経っていないような気がするのだが、早希は里奈を見るやいなや直ぐに目に涙を浮かべて抱きついた。

 

「え、ちょ、ちょっと、三原さん?」

「ご、ごめんなさい。知ってる人を見たらつい緊張が解けてしまって……。…嵯峨野さんと亀岡さんは、先に家の方へ誘導しています。里奈さんも、どうぞ。」

「ええ。…糸崎のご両親、どんな方なのかしら。」

 

 こうした状況で同僚の家族と対面するというのも不思議なものだが、非常時であることを踏まえ、里奈もまたその甘言に乗ったわけだ。

 

 

 

 

「お義母様、長い付き合いのある誠司君の同僚の方です。」

「はじめまして、息子さんとは部隊の結成当初からの仲になります。」

「あらあら、まさか刀使さんだとは。早希ちゃんのことは知っていたけど、まさかあの子、こんな別嬪さんまで落としてたなんて。ホント、隅に置けない子だこと。」

「い、いえ。息子さんはそちらの三原さんにかなりベッタリですよ。…私も早いところ、息子さんや三原さんのような良い関係を築ける人を見つけたいところですが…。」

「ああ、ごめんなさいね。貴女の同僚さんも寛いでいるから、早く貴女もお上がりくださいな。二人は二階に居るわ。」

「恐縮です。」

 

 玄関で誠司の母親との挨拶を交わした里奈。何となくではあるが、確かに彼の親だなと感じる部分はあった。だいたい、顔が似ているところとかだろうか。

 今晩、誠司の父親は仕事のため不在らしく、太っ腹な性格であった誠司の母親が早希達の窮状に手を差し伸べたのである。

 早希曰わく、

 

『子どもが何人増えようが、自分の家族に関わりのある人間なら、皆家族だ。』

 

 というのが、誠司の母親の考えらしい。

 里奈はそれをポジティブな考え方だな、などと思いながら階段を上がる。

 

「三原さん、糸崎の話はもうしたの?」

「ええ。あの子らしい、と仰られておられましたよ。」

「…そう。」

 

 里奈は未だに本部で何が起きたのかを知らないため、早希や誠司の家族に掛ける言葉が見つからない。

 

「あっ、中島さん。ご無事だったんですね。」

「おっつー、リナリン。」

「その呼び名は恥ずかしいから止めてって言ってるのに、嵯峨野さん。あと古波蔵さんにも言えることだけど。」

「えへへーっ。」

「もー全く。…二人とも、ご迷惑はお掛けしてない?」

「はい、良くして頂いてます。…何というか、ウチみたいです。」

「うん、私もー。」

 

 人の感情の良悪が分かる愛実が我が家のように寛いでいる点で、糸崎家の空気が優しいものであることが、特に愛実と長いこと共にいる圭吾には分かった。

 

(糸崎さんのご家族、凄いな。愛実は、他人の家に入ることを壁だと思うほどには人見知りが激しいのに、たった数分話しただけで警戒を解くなんて。)

 

 その点においては正直、驚くしかなかったのだ。

 

「三原さん、座布団借りるわよ。」

「一応言うと、私の家では無いんですけどね。」

「何を言ってるのよ、お義母様呼びしている時点で家族公認の仲なんでしょ?ということは、ほぼ家族と言っているのと同じことでしょうに。」

「…そっ、そうですかっ!」

「え、そういうことでしょ?…違うの?」

(あれ。もしや私、三原さんに何か変なスイッチ入れたのかしら?)

 

 赤面する早希の顔を見て、里奈は余計な一言を告げたのだろうか、そう思ってしまった。 

 

 

 

 

「……なるほどね。どうして糸崎が一緒に逃げなかったのか、その理由もよーく分かったわ。……はあ。全く、ウチの部署の男は、どいつもこいつも、女の子にイイ恰好付けようとしたがるんだから…。」

「まあ、そうであっても私を優先しようとした、糸崎君のことは責めないであげてくださいね。」

「分かってるわよ…。その状況なら、アイツの判断は正しいと思うわ。一緒に逃げなかった点を除いてだけど。」

 

 里奈は他の三人の説明から、誠司が囮として武装集団に立ち向かっていったことを知る。…もしも自分が居れば状況は違ったのだろうか、そうは思っても、まだ戦闘慣れしていない愛実や圭吾を抱えながらでは、どの道難しい判断を迫られただろう。

 

「…それじゃ、嵯峨野さん、亀岡君。二人は先に眠っておいて。明日にはどう転ぶか分からないから、早めに寝て体力を回復しておきなさい。」

「りょ、了解です。」

「ほーい。…圭吾っち、久し振りに私と一緒に寝る?」

「ば、馬鹿を言うな。どうして、お前と一緒に…」

 

 圭吾は愛実の提案を拒もうとしたが、彼女に手をギュッと握られる。そして、上目遣いでこう告げられる。

 

「圭吾っち、…ダメッ?…私とじゃ、嫌?」

「…!?…っ、し、仕方ないなぁ、今晩だけは一緒に寝てやる。」

「やったぁ!圭吾っち、だ~い好き!」

「おっ、おい!」

 

 そんなこんなで、愛実と圭吾は奥に用意された畳敷きの部屋にある、二組の布団を敷いていった。里奈からの言葉を守り、疲れていたのか、日付変更前には二人とも眠りについていた。

 

 

 

 

 誠司の母親より頂いたお茶を飲み終えてから数刻、里奈は早希からの言葉に耳を傾ける。

 

「…あの、里奈さん。……一つ、無茶な相談を聞いて頂いても構いませんか?」

「…大方の予想はついているけど、聞くわよ。」

「……どうか、糸崎君…いえ誠司君を、…私の大事な人を救い出すために、里奈さんの力を貸してくれませんか…?」

 

 早希は里奈に向けて、背筋を綺麗に伸ばしたまま土下座をする。その顔は、悲痛なものだった。

 少し考えこむような素振りを見せると、里奈は口を開いた。

 

「……結論から言えば、『私一人では無理』、ね。」

「えっ。……そう、ですよね。…里奈さんは、奥のお二人をお願いします。私だけでも、彼や捕まっているであろう人達を助け出します。」

 

 彼女からの答えを聞いた早希は、土下座を戻し、すぐに出立しようと立ち上がった。その顔には、うっすらとした涙が浮かんでいた。が、立ち去ろうとした時に里奈が彼女の腕を掴む。

 

「ちょっと待ちなさい、三原さん。確かに今『私一人(・・・)では無理』と言ったわ。でも、『私は行かない』、なんて、一言も言ってないわよ。」

「……!?―そ、それって。」

「協力して助け出すのよ。アイツも含めて捕まっている人達を。それにまだ、ウチの頭脳に連絡を取り付けてないでしょ?」

 

 そう言うと、里奈は姫乃の発信画面を早希に見せた。

 

「里奈…さん…。」

「生憎と私も、仲間を見捨てるほどの恩知らずで根性無しじゃないしね。…これも主に、どっかの刀使想いでお馬鹿な上司のせいかしらね。だから、貴女が泣くことなんてない。…やるからには、全力で救い出すわよ。」

「……ずっ、―はいっ!!」

(…全く、糸崎(アイツ)が彼女かつ将来のお嫁さんにするには、本当にもったいない娘ね。…糸崎、アンタは果報者よ。こんな一途な大和撫子に、ここまで想われて。)

 

 泣きそうになっていた早希の表情に、笑みが戻る。

 里奈は改めて、早希の誠司に向ける愛の深さを実感すると共に、誠司を含めた本部周辺の人質奪還作戦のための準備を始める。

 

 

 

 

 その後、相模湖方面に向かっていた姫乃にようやく連絡がついたことで、彼女が鎌倉方面に戻る途中、里奈達を回収してもらえる運びとなった。その際、誠司の母親が早希と里奈の見送りをしに来てくれた。

 

「お義母様、申し訳ありません。こんな夜遅くに出ることになってしまって。…上で眠っているお二人は、翌朝まで泊めて頂けたら有り難いです。」

「何を言ってるのよ、早希ちゃん。ウチの息子のために、わざわざ危険を賭してまた戻るんだろう?」

「…誠司君を残したままにはできませんから。必ず、お義母様、お義父様のもとに誠司君を連れ戻して来ます。」

「…すまないねえ。荒魂討伐でも大変なのに、息子の救出まで…。」

「いえいえ。…それに、頼もしい人達が沢山居ますから。」

「必ず、私の身に代えてでも息子さんと早希(・・)さんを揃ってお宅までお帰りさせてみせます。今晩はありがとうございました。今度来る時は、ウチの同僚と早希さんとで一緒に顔を見せに来ますから。」

「…待っているわ、その日を。」

「では、向かいます。」

「行って来ますね、お義母様。」

 

 里奈達は、門扉前に停まったワンボックスカーに乗り込む。そして、二人を乗せると静かに発進していった。

 

 

 

 

「誠司、アンタは良い彼女と仲間に巡り会えたもんだねえ…。…ウチの息子を、どうかお願いします。」

 

 離れゆく車に、深々とお辞儀をする誠司の母親。先ほどの約束を果たせるかは、これからの作戦の成否に掛かっている。二人の刀使は、日頃の任務とはまた異なる緊張感を抱くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誠司の実家を離れ、鎌倉への移動車中で、里奈が姫乃に話しかける。

 

「ねえ、姫乃。」

「何です、里奈さん。」

「向こうで収穫はあった?」

「ありましたが、今は状況が状況です。◯◯さんのことは取り敢えず後回しにします。…現在本部周辺では、数百人単位で人質が取られていますから。」

「す、数百っ!?―嘘でしょ!」

「……私も嘘であってくれとは思いましたが、ざっくりとした概数でもそれだけは確実に居るそうです。…正直、相手側の制圧も含めて、全員を生還させる作戦というのはかなり難しく、やりにくいです。」

 

 姫乃はずっとセパレートタイプのパソコンに相模湖付近での報告書を作成しながら、人質の奪還作戦を頭で組み立てていた。

 

「まずは、衛藤さん達など任務で鎌府を離れていた方達と合流しましょう。数は正義です。」

「…そうね。まずは合流ね。」

 

 何のプランも無く闇雲に突入しても、人質が死傷した時点で此方の負けは確定する。そうならないように、対策を練る必要がある。

 

「…それで姫乃、…水無月さんが魂抜けたように脱力してるみたいだけど、あれはいいの?」

「向こうで慣れないなか、私の探し物を手伝っていただいたんです。どっぷり疲れておられても無理はないですよ。」

「まあ、そうよね。(―怒られそうだから言わないけど、姫乃、結構Sっ気あるものね。)……早希さん、貴女は少し眠っておきなさい。」

「…はい、里奈さん。そのお言葉に、甘えさせてもらいますね。…おやすみなさい。」

 

 里奈は早希の恵体に薄手の毛布を掛け、アイマスクを渡す。これにより、少しでも快適に眠れると良いのだが、とは里奈も思った。

 しかしながら彼女のその懸念は杞憂に終わり、アイマスクを付けて一分と経たずに早希は寝息を立て始めた。

 

「……すぐ、眠ったみたいね。やっぱり、アイツ(誠司)のことで相当ストレスが溜まっていたのね。」

「…そういえば里奈さん、さっき三原さんのことを『早希さん』って…。」

「……糸崎の実家でね、今から最愛の彼氏を助けに行きたいって、誠心誠意を込めたお願いをされたのよ?―そんなこと、ただの他人に普通は頼めるわけないじゃないの。だったら、私も彼女に対して他人行儀でいるのはやめるわ。…それにね。早希さん、ずっと私の名前を呼んでいたのに、私が彼女を苗字で呼ぶってことを、もうそろそろ止めてもいい機会だとは思っていたしね。」

「…里奈さんらしいですね、やっぱり。筋には筋を通すっていうのは。」

「で、そういう姫乃はどうなのよ。」

「…取り敢えず、糸崎さんと結婚なさった時にはそう呼びましょうか。ごっちゃになりますし。…その未来を実現させるには、奪還作戦を行う必要がありますが。」

「……そうね。」

「…!?―里奈さん、今本部の方からメッセージが届きました。」

「えっ?こんな時に?」

 

 突然のメッセージに驚くも、二人は送られてきた内容を見てそれぞれの顔面には青筋が立てられていく。

 

「……里奈さん。私、キレてもいいですか?―何ですか、この糞みたいな要求は。」

「……全くもって同感よ。私達だけで回るなら、とっくにやってるっての。だからこそ◯◯や糸崎のような奴も加わって、女子だけの閉鎖的な、かつ高負担にならないような職場環境を目指してきたんじゃないの。…思想信条の自由と、その実現のための武力行使を同じ次元で語るなんて、以ての外よ。」

 

 本部が送信してきた内容。それは『男性排斥運動(ブルー・パージ)』が突きつけてきた条件、そしてその解答期限のタイムリミット、現在の制圧下に置かれた職員らの状況であった。このメッセージは、相手側の人間が一度ならず二度確認した上で、刀剣類管理局の全端末に向けて送信されていた。その内容を読んだうえで、二人は憤慨した。

 何だ、このふざけた(狂った)内容は、と。

 

 市民の生活と平和を荒魂という怪異から守るための組織が、ぽっと出の武装集団にあれこれ縛られる所以など、何処にもない。しかも、相手は武力行使でその条件を呑ませようとしている。それに対する情状酌量の余地など、微塵もない。

 

 故に、姫乃や里奈はまだ構想段階ではあった人質解放作戦を、絶対に成功させようと決めた。本部や多くの仲間達を危険に晒した者達を赦す腹積もりなど、一切無かった。

 四人を乗せた車は鎌倉市へと近づきつつあった。時間は、もう間もなく午前一時である。

 

 

タイムリミットまで、あと5時間 

 

 

 

 

 いよいよ、『相模湖擾乱』は人質奪還を含めた第三局面へと進み始めようとしていた。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
今話からはタイムリミットまでの残り時間に下線を引いております。ゼロになるのが先か、それとも…。

次話に続きます。

それでは、また。
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