刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

政府内の動向がちらっと登場しますが、これは今回の騒動における第三者的視点からの話となります。
今話は主に、鎌府から離れていたことで難を逃れた刀使達の視点からの話となります。

それでは、どうぞ。


⑫ 作戦立案 前編

 ー神奈川県鎌倉市 由比ガ浜海水浴場ー

 

 朱音が紗南に託した命令は、確かに各学長へと届いていた。美濃関、平城、綾小路の三学長は、直ちに現地に近い刀使及び生徒へ、本部の人質奪還作戦に加わるように指令を出した。距離的に鎌倉から最も遠く、学長が人質に取られている長船に関しては、綾小路の相楽学長が代行で指示を出した。長船の今回の役割は、主に後方の備えと人質奪還作戦のために生じた各地の穴を埋める荒魂討伐、そして、装備支援である。

 

 たまたまこの日は、夜間に中小サイズの多数の荒魂が、同時多発的に東京周辺に散るようにして暴れ回っていたため、多くの刀使達がその対処に当たっていた。それがほぼ一段落した時に、本部が急襲を受けたというわけである。そのため、可奈美など鎌府に出向していた刀使達の多くは、鎌倉で人質に取られるという難を逃れたのだ。

 

 現在は、本部に展開中の武装集団との間で緊張状態が生じていた。だが、此方から仕掛けることは、まだできなかった。迂闊に奪還へ動けば、人質が殺害される恐れがあったためだ。そのため、本部の敷地の内外では睨み合いが続く。…荒魂討伐が終わった直後にこの混乱なので、刀使だけでなく特祭隊員、さらには各学長までもが、現在の状況に対して感情には出さない怒りを持っていた。

 連日連夜続く、休みなしの荒魂討伐へ動いてきたのにも関わらず、その休息すら与えないような仕打ちをしてきた武装集団に対して、刀使達などの中から本部への強行突入を図ろうと考える者が現れてくるのは、それは当たり前な話だった。何とかその者達の行動を宥めながら押さえ込んでいるため、特別祭祀機動隊は空中分解せずに済んでいる。

 

 この海水浴場に臨時作戦本部を設置したのは、現在の時間帯が深夜であるため、騒音などに対する周辺住民への配慮と、管理局以外の敷地で準ずるほどに広い場所がここくらいしかなかったという、現実的な諸事情からだった。荒魂討伐から帰還した刀使達は、一まずここで待機することになった。

 

 

 

 

 まず、舞衣と可奈美は、討伐終了後すぐに美濃関にいる江麻から詳細な情報を得ようとする。

 

「羽島学長!今の状況を教えてください!」

「鎌府の人達や、朱音様達は無事ですか!?」

『落ち着きなさい、柳瀬さん、衛藤さん。…結論から言えば予断を許さない状況ね。「男性排斥運動」を名乗る武装集団は、朱音様や真庭本部長だけじゃなく、鎌府にいた生徒、刀使、職員達までをも人質に取っているわ。簡単には、人質解放に応じるつもりは無さそうね。』

「そんな……。」

「じゃあ、私達が突入できないのは、刀使では相手を殺してしまうかもしれない、からですか?」

『いいえ。衛藤さん、それは違うわ。刀使であっても、今回みたいに本部が攻撃を受けたり占拠された場合では、正当防衛と緊急避難で法律上は押し通すことができるわ。ただ…、』

「何か、問題があるんですね?」

『その通りよ、柳瀬さん。…まず、相手の数が多く、しかも統率が取れているのよ。まるで軍隊のようにね。そして、少なくともヘリポートでは人質が逃げられないように、男性の人質の周囲に何らかの油が撒かれていて、要求を呑まない場合や奪還に動いた時には火を放つと公言しているそうよ。…すぐにでも助け出してあげたいところだけど、そんな状況では迂闊に手を出すことはできないわ。』

「……酷い。同じ人間なのに、こんな酷いことができるなんて。荒魂から多くの人達を守るために、ここへ勤めてらっしゃる方達ばかりなのに。」

「要求は、お金目的では無いんでしたよね。…自分の主張だけで、こんな多くの人達を危険に晒すなんて…。…許せない。」

『二人とも、今は堪えなさい。…必ず、貴女達の出番は来るわ。それまでは休んでいて。』

「「…はい。」」

 

 可奈美と舞衣は、江麻からの言葉を受け止め、一度テント内の簡易ベッドで横になった。彼女達がこれまで経験してきたものとはまた異なる、一般のカルト的集団との闘いは不可避になりつつあった。

 

 

 

 

 一方、姫和や清香、早苗といった平城の面々は、いろはからの説明を聞きつつ、今後のことを告げられる。

 

『…ということなんよ。それで、えーとね、早苗ちゃん。』

「はい!」

『貴女に平城の娘の指揮を任せたいんよ。…ごめんけど、お願いできはるかしら?』

「構いませんよ。…あ、五條学長。人質になられた方の救出作戦の時、総指揮は誰が行うことになっているんでしょうか?」

『えーと、確か、◯◯君のところの…そう、水沢ちゃん?だったかしら。彼女が執るみたいやね。』

「水沢……水沢姫乃のことか!」

「十条さん、何か知っているんですか?」

「清香、あの女は確かに凄い奴だ。…だが、私やお前とは合わないだろうな。」

「え?どうしてですか?」

「……あの女、私に胸が大きくなってきたことを自慢してきてな…。…それ以来、私はどうにも苦手なんだ。……自分は胸が大きいからって、その自慢は私への嫌がらせか!」

(あー、そういうことでしたか。)

「…十条さん、女の子の魅力は別に胸だけじゃないから、ね?…それに、私は十条さんが凄いって言えるだけの人がどんな人なのか、それを知りたいな。」

「……岩倉さん。その優しさが、私の胸には痛いです。」

(これは、ちょっと立ち直るまでは時間が掛かりそうだなあ…。十条さん。)

 

 とまあ、持つ者と持たざる者(ホライズン同盟)との意識が若干表に出てきたものの、三人ともいろはに対して、自分達が姫乃の指揮下に入ることを承諾した。

 

 

 

 

 そして、在籍する学長が人質に取られた薫やエレン、沙耶香は、ミルヤや由依などの綾小路の生徒達とともに、鎌府と長船の代行指示権を受け持った結月からの話を聞き終える。

 

「…さて、益子薫。この作戦、貴女はどうしますか?」

「残念ながら、オレはこの作戦には向かない人間だからな。仕方ないが後方で待機するとしよう。…学長、まさか本当に襲われるとは…。」

「マーマー、仕方がありませんネ。どうしても薫は荒魂討伐以外の任務では、《祢々切丸》のビッグサイズが裏目に出ますカラ。」

「ねねー。」

「ミルヤさん。鎌府の女の子達は大丈夫でしょうか?」

「山城由依、貴女のその質問に充分な解答を用意したいところですが、現状では何とも言えません。……糸見沙耶香、先ほどから鎌府の方を見ていますが、鎌府の生徒のことが心配ですか?」

「…分からない。でも、お世話になった人もいっぱいいる。……だから、私も助けに加わりたいと思っている。」

「…どうやら、私が思っていた以上に、貴女の仲間意識は強かったようですね。…まあ、私もそうなのですが。」

「……心外とか言われるかもしれないが、そうだろうな。ただの御刀フェチな有能指揮官なだけとは、オレも思っていないし。」

「…それに。」

「ん?」

「近衛隊にいた刀使達は、ここぞとばかりに汚名返上の機会を窺っていましたから、今回の作戦に関しては余計に心配しています。功を焦って競うものでもないでしょうに…。…大丈夫でしょうか。」

 

 薫に漏らした、ミルヤの偽らざる本音の一部。特に綾小路生の中でも葉菜や歩*1などのタギツヒメに近かった刀使は、校内の極一部の人間からは未だに白い目で見られていた。そのこともあり、こうしたまたとない機会でその印象をひっくり返したいと考えている者が多かったのだ。

 

「……ま、心配しても仕方ねえよ。◯◯が居ないことは、公式な発表は無いにせよ既に刀使達の方にも知れ渡っているようだしな。それに残念ながら、姫乃じゃそれを止めるだけの言葉の力はない。何分、アイツの本当の凄さを知っている者が少ないからな。◯◯ほどには、実績が確かに目立たねえし。」

「では、どうするつもりですか。」

「大丈夫だ。今から指揮しようとしているのはアイツの部下、それに情報に精通している人間なんだ。それも計算に入れているだろうよ。…ミルヤ、少しは肩の力を抜いてもいいんだぞ。」

「…はい。少し、綾小路の生徒と話をしてきます。気を落ち着かせた方が良さそうですし。」

「おう。…そんじゃ、ついでにアソコで他の刀使に抱き付いているヤツも連れていってもらえたら、助かるんだが。」

「―山城由依!!―すぐにその刀使の拘束を解け!」

「あー!待ってくださいミルヤさん、これは……アァーッ!!」

「……はあ、一人残るってのも、何だか妙な気分だな…。」

「ねー?」

「何でもねえよ、ねね。…たまには、後ろで控えるってのも悪くはないか。」

 

 薫はねねの頭を撫でながら、荒魂討伐用の緊急出動(スクランブル)要員側のテントへ進む。

 誰もが自分のできる範囲のことを、こなそうと動いていたのである。

 

 

 

 

 

 

 そして、午前1時30分。

 今回の人質奪還作戦の指揮を執る姫乃達が、多数の刀使や特別祭祀機動隊員が集まる海水浴場へと辿り着く。

 姫乃は来てすぐに、臨時作戦本部に設置されたマイクのスイッチを入れ、こう告げた。

 

 

 

 

「皆さん、遅くなりました。今回、人質奪還の指揮を執る水沢姫乃です。……これより、日常を取り戻します。どうか皆様方の力を、私にお貸しください!!」

 

 

 

 

 その姫乃の言葉に、拒否を示す者は居なかった。むしろ、待ってましたとばかりに拍手が巻き起こる。

 年齢を、立場を、主義主張を越えて、卑怯な手段で突きつけられた理不尽な要求を跳ね返すべく、彼ら彼女らは立ち上がるのだった。

 

 旗は揚げられた。(Show the flag.)姫乃は、彼が経験してきたことを、今度は自分がやり遂げる番だと腹を括り、情報の取り込みを始める。

 刀使達の、今の自分達の居場所を取り戻すために。

 

 

 

 

タイムリミットまで、あと4時間30分 

 

 

 

 

 ー東京都千代田区 総理大臣官邸ー

 

 時系列は少し遡り、話のフォーカスは一般的には「首相官邸」やらただの「官邸」やら、名称がごっちゃになりやすい、日本の政治的中枢の一つである総理大臣官邸へと移る。時の政権陣営の多くがタギツヒメや維新派に唆された結果として、最終的に引き起こされた『年の瀬の大災厄』。政権側としては降って湧いた復興バブルにより、東京都心部が被った経済的損失を誤魔化すことに成功していた。そんななか、それに冷や水を浴びせるような緊急事態の知らせが、総理の元へ届けられた。

 

 そして、午後十一時より国家安全保障会議(NSC)が開かれることとなった。今回は緊急事態大臣会合という扱いで招集がかけられ、その参加者は総理大臣、官房長官のほか、外務大臣、防衛大臣、そして国家公安委員長であった。

 

 

 

 

 予め現時点で掴んでいる情報を、警察庁公安部より報告を受ける首脳陣。それを聞いたうえで、官房長官が総理大臣に今後の動静を尋ねる。

 

「…で、総理。いかがなさいますか。」

「取り敢えず、相手の要求は政府にではなく、あくまでも刀剣類管理局に対してだ。彼女達が抑えきれないとなった時には、機動隊や自衛隊を派遣する方がいいだろう。…何も自分達から政治的失点を生み出そうとする必要性は、無いと私は考えるがね。官房長官。」

「しかし、現在鎌倉の刀剣類管理局本部を占拠・制圧している『男性排斥運動(ブルー・パージ)』という団体は、以前の我々の調査では浮上してきませんでしたよ。…本当に、大丈夫でしょうか。」

「…こんな時のための組織であるはずの公安は、一体何をやっていたのやら。そんなことでは、自衛隊の派遣は容易にはできますまい。我々とて、情報の裏付けが無い状況で突入させるといった愚策は、実際に人員を送り出す側としては御免被りたいところだ。…殉職する隊員など、出したくもない。」

(…防衛大臣の意見は最もだ。『年の瀬の大災厄』の際も、罷免覚悟の決断があったからこそあの程度の被害で済んでいるのだからな。)

 

 唯一、今回の事態への直接的な関わりが薄いであろう外務大臣。とはいえ、国際的にも『年の瀬の大災厄』時の日本政府の対応に批判が向けられていたこともあり、刀使達の存在のお陰で日本の信用が完全に失墜することを避けられていたため、陰ながらも彼女達に一番感謝している人物でもあった。それもあって、もちろん外務大臣本人の手腕もあったが、国際的なジャパン・バッシングからの回復が速くかつ上手くいった側面もあった。

 そして、この中で出血を最も負いかねない防衛大臣こと自衛隊への感情も、理解できた。ただ、口には出さないが。

 

「…国家公安委員長。『男性排斥運動(ブルー・パージ)』と名乗る団体の徹底的な調査、及び資金源と武器の流れを掴んでもらいたい。早急にな。」

「はっ!」

「防衛大臣、私からの命令があるまでは自衛隊の展開を要請するつもりはない。…但し、備えは怠らないように。」

「分かりました、総理。」

「……本当に、男を抹殺でもしようとでも考えているのか、あの武装集団は。」

 

 真偽の分からないなかでの、この総理大臣の呟きは今の首脳陣、政治家達が抱く最もな思いであった。

 

 

 

 

 政府は結局、鎌倉での事態が収束するまでは静観に徹したことにより、マスコミからのバッシングに再び晒されることになるのだが、ここでは触れない。いずれにせよ、この時点では自衛隊による武力奪還という選択肢が取れなくなったことより、事実上、刀剣類管理局独自で解決せざるをえない状況へと追いやられたことに変わりはなかった。

 

 そしてそれは、作戦総指揮を担う一人の少女の両肩に、重く圧し掛かるほどの責任を伴う難事であった。だが、現在、そして未来においてもそれを知る者は少ない。

*1
内里歩のこと。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

刀使達の会話の一部を今回執筆したわけですが、もちろん今回名前が挙がっていない娘たちもいますし、あるいはこのタイミングでは元々の学び舎に偶然戻っていたという娘もいます。
あくまでも、世界線の一つという捉え方をしていただければ幸いです。

何だかんだで、本話で(本編が)100万字を超えるとは思わず…。積み重ねてきた時間やら、文量やらを痛感させられます。

それでは、また。
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