いよいよ今話から、作戦実行の回となります。
それでは、どうぞ。
ー刀剣類管理局本部 正門付近ー
回答期限まで一時間を切り、既に正門付近に展開している部隊、姫乃達が呼称するB群こと第五部隊は、警察の突入もなかったがためにだいぶ気分を良くしていた。
「しっかしここまで上手くことが運ぶなんて、ウチのリーダーは切れ者ですね。」
「そうだな。ただ、期限切ってる6時までは気を抜くなよ。それよりも前に突入でもされたら、折角の計画が全ておじゃんだ。」
「ですよね。分かってますよー。」
と、彼女達がこんな風にのんびりしていた上空では、特別祭祀機動隊の
同刻。
「S装備射出用コンテナ、1番、2番、発射!!」
横須賀基地から、専用のVLS*1より二機のS装備射出用コンテナが空へ放たれる。作戦開始の指令を受けたそれらは、上空三万mという高高度へ向けて打ち上げられる。あっと言う間に、機影は見えなくなった。
発射からおよそ数十秒を経て高度三万mに到達すると、二機のコンテナは鎌倉市方向へ少し滑空したのち、再び地上に向けてその質量と共に急降下を開始する。
目標は、折神家・特別祭祀機動隊本部付近の正門、そして大門付近の車両だった。
そして、それが地上に到達する頃には、音速を超えて迫っていた。
「…おい!あの赤いのはなんだ!」
「こっちに迫ってきてないか?」
「た、対空防御ぉ!!」
展開中のB群は、接近する“何か”に恐怖し、それを対空装備で撃ち落とそうとしていた。
だが、彼女達は選択を誤った。生き延びたければ、その場に留まって応戦するのではなく、逃げるか対ショック姿勢を取るべきだったのだ。
ドドオォォーーーン
ドオォーン
音を超えて落ちてきたS装備射出用コンテナは、そのソニックブームにより生じた風圧と、その質量がもつエネルギーとが重なり合いながら地上に到達した。その衝撃は、バリケード代わりのトレーラーを吹き飛ばすか、フレームを大破させるほどには威力の激しいものだった。
着弾地点周辺は約数mの深さのクレーターが形成されていたことからも、現代でもいかに質量兵器や砲弾が馬鹿にできない威力を持つのかが、こうした時に伺い知れる。
着弾したのは正門と大門にそれぞれ一機ずつだが、大門の方のコンテナは、建立されている鳥居などに激しい被害がないよう地面との接触寸前で逆噴射を行っていたこともあり、その威力は正門の十分の一ほどへ抑えられた。
だがそれでも、着弾にたまたま密集していた大門のC群こと第六部隊は、着弾時の衝撃により悲惨な結果となった。この部隊は、着弾から僅か数秒経たずに全滅した。
悲惨さの規模で言えば、正門付近も大概であった。
多くの戦闘員は、高空からの脅威に成す術無く散っていった。展開していた四十名中、即死を免れたのは二十人足らずであった。その二十人足らずも、風圧の衝撃により身体を打ちつけられたり、鼓膜が破れるなどして、とても戦えるような状態ではなかった。また、トレーラーのコンテナに置いていたロケットランチャーなどの弾薬にも誘爆し、着弾地点から数十m以内は惨憺たる状況であった。
生き延びた者達は、一瞬で地獄と化した目の前の光景を目撃しても、なお頭の処理が追い付かなかったわけなのだが。
なお、『男性排斥運動』側も上空監視のための人間を、ヘリポートに展開していた第二部隊から二人割き、刀剣類管理局本部の屋上に配置していた。刀剣類管理局側もそれを把握しており、これを排除することとした。その方法は、コンテナ着弾の数秒前にゴム弾での威力減衰が起こらない射程距離のビルから、ボルトアクション型のスナイパーライフルによる狙撃であった。
結果は成功。ヘルメット越しでも威力そのままに気絶へ追い込むことに成功した。これにより、こちらの展開状況の情報が相手に伝わることを妨げたのである。
そこへ着弾から遅れること一~二分後、舞衣や早苗が率いる美濃関、平城の刀使達とエレンや沙耶香率いる長船・鎌府連合の刀使達が入ってくる。
刀使達は後方支援の者を除いて、原則全員がS装備を着用していた。刀使達の能力増幅だけでなく、銃撃を受けても多少の防弾性はあることから、着用を行う指示が出たのだ。これらの装備は長船や長久手にある特別稀少金属利用研究所から、多数送り込まれたものだ。まさに総力戦だった。
変わり果てた正門付近から、刀使達は目の前に広がる光景に唖然としながらも、警戒しつつ進行する。
「こっ、これって…!?」
「突入していいのかな、これは。」
「……マイマイ達は先に行ってクダサイ。ワタシ達が一通り確認してから、鎌府へ向かいマス。」
「舞衣、早苗、行って。」
「……分かったよ、エレンちゃん、沙耶香ちゃん!」
「後のことは、お願いします!」
エレンや沙耶香からの言を受け、美濃関隊と平城隊はそれぞれ先行して作戦遂行を優先することにした。
「…連れてきていた、他の特別祭祀機動隊員の人は?―あ、来たみたい。」
「メディーック!メディックプリーズ!ここに女性が倒れてマス!抵抗できないようですので、至急手当てをお願いシマース!!」
「刀使の皆さん、ここの武装集団は我々がどうにかします!急ぎ、鎌府女学院へ向かってください!」
長船、鎌府の刀使達は、一般の特祭隊員から正門付近の制圧を代わりにやると告げられたことで、当初目的の鎌府女学院体育館へと脇目もふらずに向かう。焼けた土壌と砂塵の舞いようが、たった数分のうちにこの場で起きたことを彼女達へと知らしめるかのようであった。
正門付近で負傷した『男性排斥運動』の戦闘員は、元々封鎖していた市道上の医療テントや野戦病棟へと運び込まれた。
作戦開始前、事前に姫乃ら刀剣類管理局側から寄せられた報告より、ある程度の死傷者がここで出るという予測がされていただけに、医療従事者側も対策は取っていたわけである。
「ストレッチャーを回せ!助かるものも助からなくなるぞ!」
「輸血急いで!!首はなるべく動かさないように!」
テントへは、続々と負傷した戦闘員が搬送されてくる。
本来は、刀剣類管理局側に多数の死傷者が出ることが予測されていたものの、最初の戦闘では『男性排斥運動』側の構成員ばかりが運び込まれている。ついにはトリアージタグを付けられる者まで現れた。
結局、正門付近での刀剣類管理局側の戦闘による死傷者はゼロだったものの、『男性排斥運動』側は半数以上が死亡する結果となった。半分は着弾時の衝撃による即死だったが、弾薬の誘爆という形で命を落とす者もいた。死を免れた残りの戦闘員も、全員が重軽傷という惨憺たる状況であった。だがこれは、まだ戦いが始まったばかりの値なのだ。ひとまず、塞がれていた玄関を破壊しつつも刀使・特祭隊部隊は敷地内へと散開していく。
なお、正門付近ではトレーラーのコンテナに積まれていた、多量の弾薬への誘爆に伴う爆発が続き、化学消防車を含めた消防車両の突入は、全てが終わった午前六時過ぎのこととなった。その間、刀使達や特祭隊員達が被害を受けないように緊急展開された、対荒魂用の大型硬化シールドが、爆炎や飛散する破片などから彼女達を守っていった。普段は荒魂討伐のために使われるものが、多くの人々の命を護り続けたのである。
[正門付近での被害]
・『男性排斥運動』側:死者/27名、行方不明者/4名、重傷者/7名、軽傷者/2名
・特別刀剣類管理局側:軽傷者/3名(負傷した全員が焼けたコンテナなどに触れたことによる火傷。)
<備考>
道路付近が大きく抉れる被害。コンテナ内に積んでいた弾薬などが衝撃で誘爆し、被害が拡大。
[大門付近での被害]
・『男性排斥運動』側:死者/10名(全滅)
・特別刀剣類管理局側:なし
<備考>
当該部隊は、展開初期から神奈川県警の車両に向けてロケットランチャーを撃ち込むなどしていた。コンテナ着弾時は、全員がたまたま密集してやり取りをしていたという偶然が重なり、全滅という結果をもたらした。それゆえ、刀使達が突入した際には一時慎重に進まざるを得ない状況となった。
ー鎌府女学院 学生寮某室ー
さて、正門付近からは最も離れた位置にある鎌府の学生寮。その立地ゆえに真奈美と高鍋は当初、寮全体を大きな縦揺れが襲った際に、それが刀剣類管理局側の先制攻撃であることを見抜けなかったのだ。
「高鍋!地震!?」
「そうかもしれません!………意外とすぐに止みましたね。」
揺れが収まった学生寮。
直ちに部隊に被害がないかを確認しようとする。…だが、ここで思いもよらないトラブルが発生する。
「…ちょ、嘘でしょ!電源は点いているのに!」
「どうしました!?女王?」
「各部隊との通信ができないのよ!」
実はS装備射出用コンテナの着弾時に、インターネットなどの通信ケーブルの主要幹線がその衝撃の直撃を受け、通信設備へのアクセスが困難に陥ったのだ。地震などの際にデータの破損を避けるため、刀剣類管理局本部等で各設備が災害時モードへと切り替わったことが原因であった。…つまるところ、振動の誤検知が原因だったわけである。
この結果、管理局の通信設備への
「緊急地震速報なんて鳴らなかったわよ!?…一体、何が起きているっていうのよ!?」
「女王、落ち着いてください。ひとまずは情報戦部隊に合流しましょう。通告期限まであと、一時間を切っているわけですし。」
「そっ、そうね。急ぎましょう。」
後の検証で、この時もし鎌府の学生寮の通信状態が通常どおりのままだったならば、刀使や特別祭祀機動隊側の被害は計り知れないものとなっていたであろう、ということが試算されている。だが、通信環境の多重化を怠ったという点が、『男性排斥運動』側にとっての最大の慢心であり致命的な弱点であったことは、紛れもなく事実であった。
一連の流れの潮目は、徐々に移り変わろうとしていた。
ー折神家離宮ー
大規模な衝撃音と、遅れてやってきた森を抜ける強風がD群こと第四部隊を襲っていた時。
じっと機を伺っていた紫が、遂に動いた。
「…皆、動くならば今だ。」
「…!!はっ!結芽!思う存分、暴れていいぞ!但し、殺してはダメだ!」
「やったぁ!真希お姉さん、言質取ったからね!」
突然の神風とも言える状況の混乱を利用し、紫達も攻撃を開始した。
闇夜を駆けるように進む真希と結芽。なるべく木を伝いながら、相手を見つけ次第倒していく。
「やあっ!」
「何だ…、銃が!?」
「どうした…、ぐわぁっ!?」
「な、何事だ!」
「て、敵襲っ!!」
悲鳴に近い声を複数聞いた武装集団側の数人が、森林内で発砲を始めた。……のだが、その射線上には多くの仲間が立っていた。せっかくの情報共有機能も、先程のコンテナ着弾以降、その機能を見事に喪失していたために味方の退避確認すら行われなかったのだ。このため、敵味方の区別が付かず、所謂
「うっ!」
「ぐはっ!!」
「おっ、おい!発砲指示は出してないぞ!撃ち方、止めっ!…がはっ!」
突然の恐怖に駆られたことによる複数の発砲に、慌てた第四部隊の隊長は即座に命令を出したのだが、それは既に手遅れであった。
終いには、部隊指揮を執っていたその隊長までその凶弾に倒れることとなってしまった。…それも味方の銃弾で、である。
これでは紫達への牽制どころの話ではない。だが、暗闇のなかで『男性排斥運動』側が互いに潰しあっているうちに、真希や結芽が峰打ちなどをしていき、数名はどうにか銃弾に身体を貫かれることなく無力化されることとなった。…結局、彼女らは最後の最後まで戦術目標も戦略目標も果たせぬまま、自滅の一途を辿っていった。
ここに、事実上陽動としての役割も果たしていたD群こと第四部隊は、瓦解するのであった。
舞衣達、美濃関隊が現場に到着した時には、既にこの場での全ての戦闘が終結した後であった。驚きの光景が広がるなかで、目標であった妨害電波装置の破壊を行う。といっても、こんな状況ならばわざわざ弾を叩き込むよりも御刀でぶった斬る方が楽なのだが。それに連動して、『男性排斥運動』側が飛ばしていた自動操縦状態のドローンも落下する。
「紫様、ご無事ですか!?」
「衛藤…、柳瀬もか。」
「私達だけじゃありません。複数の美濃関の刀使がここには来ていますから。遅くなりました、申し訳ありません。」
「いいえ、助かりましたわ。柳瀬さん。衛藤さん達も。」
紫の後ろから、寿々花がひょっこり現れる。遅れて夜見もやってきた。
「…皆さん、お怪我はございませんか?」
「「はい!」」
夜見の諸事情を知っている者もこの中にはいたが、この場は感情をぶつける場ではない。自分たちは彼女達を救援にやってきたのだから。そうした話は後回しである。
「紫様!」
「真希、結芽も。周囲の敵はどうだった。」
「賊はあらかた気絶させましたが、…その、既に息を引き取っている者も多く、無力化できたのはわずか数名程度でした。」
「ふむ。」
「…死んじゃったら、私の凄い姿、伝えてもらえないじゃん…。…もう、ありえないよ…。」
真希や結芽も、同士討ちという形で死んでいった武装集団側に、何とも言えぬ感情を向けた。特に結芽は以前沖縄で同じような出来事*2に遭遇したこともあって、今回の出来事に対して「自身の活躍」と「人の死」に対して納得いっていない部分があった。死んでしまっては、自分の活躍ぶりを証言してもらえないではないか、と。
「…紫様、無力化した賊はどうされますか。」
「離宮の中にある収納から、麻縄を持ってきてくれ。それで取り敢えず拘束しておく。」
「はっ!…柳瀬、刀使を何名か貸してくれないか?」
「分かりました、獅童さん。―すみませんが、ニ~三名ほどお手を貸してください!」
舞衣の呼び掛けに応じた者の中から、先着で三名が真希の手伝いへと向かう。
「紫様、…亡くなられた方はどうしますか。」
「ふむ…。ここにはお前たちだけが来るのか?」
「いえ、後続から一般の特祭隊員の方達が来られます。」
「なら、森の中の遺体は彼らに任せろ。このあたりの遺体は、布を掛けてやろう。…流石に、何もしないのはこの者達にも失礼だろうからな。」
「…分かりました。」
舞衣は、離宮近くで転がっている遺体に布やブルーシートを掛けるよう、刀使達に指示を出す。突然の出来事だったのか、目を開いたまま屍となった者もいた。そうした者達の瞼を、刀使達は一人ひとりそっと閉じていくのであった。
ある程度、戦闘員の拘束や遺体への布掛けが終わった頃、紫に可奈美が話しかける。
「…不謹慎な言い方かもしれませんが、紫様が無事で良かったです。もし、間に合わなかったら、……私、お母さんに合わせる顔がありませんでした。」
「案ずるな、衛藤。私はまだ死ねない。今は刀使としての力は失ったが、お前達の成長を見届けるまではまだあの二人のもとへは向かわん。それが、残された私にできる、美奈都や篝への最大限の報いだ。」
「…はいっ。」
バイザー越しの可奈美は、紫にしっかりとした表情を向けた。勿論それだけではなく、紫から剣術を学びきれていない、ということもやはり彼女の中にはあったのだが。
それでも、紫を無事助け出すことができて良かったと思えた彼女であった。
その後、本部からの当初の作戦案の流れに従い、舞衣は特務警備隊へ人質奪還作戦に加わるよう要請した。通信を受け取ったうえでの紫からの言葉もあり、彼女達もすんなりとそれに加わることを承諾した。
そして、現在は刀使ではなくなった紫を、数名の刀使が安全地帯まで逃がすべく隊から分派した。そのおかげもあり、紫は無事に刀剣類管理局の一時的な拠点である由比ガ浜海水浴場へと着地することができた。以後、姫乃達と情報共有を進めながら、間接的に指示を出すことにより本作戦の精度を高めていくことに繋がった。
離宮での戦闘では刀剣類管理局側に被害らしい被害もなく、美濃関隊は一味先にヘリポート付近への所定位置での展開と、特祭隊本部へ向けて人員の一部を割くことに成功した。これにより、刀剣類管理局側は人質奪還作戦を優位に進めることができた。
[折神家離宮での被害]
・『男性排斥運動』側:死者/14名、無力化後拘束/6名
・特別刀剣類管理局側:軽傷者/5名(森林内での転倒など)
<備考>
持ち込まれた機械の破壊などを除き、建物への被害は無し。森林からは弾痕が多数見つかる。
人質奪還作戦は次なる局面へと進もうとしていた。長い夜明けの時は続く。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
部隊の展開状況は、デザインワークスをお持ちの方がいらっしゃいましたら、それと照らし合わせながら見ていただければ幸いです。
(無くても大丈夫なようには執筆して参ります。)
双方が無傷で済むのならベストですが、なかなかそうはいかないという事実…。
刀使を歩兵として見た時は最強なのかもしれませんが、数十発のマシンガンの弾を受けると写シも解けてしまうため、彼女達は必ずしも無敵なわけではないのですよね…。
(そう考えると、複数人の銃武装をした銀行強盗を、単身で制圧した美奈都さんのヤバさが際立つという。)
それでは、また。