今話は鎌府側の作戦状況となります。
それでは、どうぞ。
ー鎌府女学院 体育館ー
大門付近の部隊の全滅を確認後、現状を一般の特祭隊員に引き渡したミルヤ達刀使連合は、ヘリポート付近の部隊や人質を無視し、戦術目標である鎌府女学院体育館へと向かっていた。
大門からは裏道的に整備された鎌府への抜け道があったため、それを活用することでヘリポート付近の武装集団に気付かれることなく、展開することができた。
「綾小路隊は正面より、長船隊は彼女達の後ろに付いて敵を引きつけろ!鎌府の刀使は、気づかれぬよう屋根からの侵入を果たせ!全員、無事に救い出すぞ!」
「「「了解!!」」」
現場の陣頭指揮を執るミルヤ。迅速な人質解放が求められるなか、一般の特別祭祀機動隊員たちの身を挺したシールドの展開により、相手側からの銃撃を凌いでいる状態だった。
ここに最も多くの刀使達が投入された理由、それは体育館の構造にあった。
非常用隔壁が相手側により下ろされていることで進入路が制限され、闇雲に突入すれば人質、刀使を含め多大な被害が出ることは容易に想像できた。
(急がなければ、本当に人質が撃たれかねない。何としてでも、救い出さなければ……。)
ミルヤ自身の焦りとは裏腹に、密集した配置による高火力の銃撃が正面側の刀使達や特祭隊員たちへと襲い掛かっていた。本来なら暴徒鎮圧時に重宝されるライオットシールドも、数十発ものライフル弾に耐えられるほどの防弾性を持っているわけではなかった。
「ぐわっ!!」
「撃たれた奴はすぐに退け!的になるぞ!」
「組立て式盾を急いで回して!」
ついにライオットシールドが耐えられる限界を超え、続々と弾丸が貫通し始めた。
それにより、盾を持っていた特祭隊員たちへと銃火が襲い掛かってきた。
「鎌府の刀使はまだなの!?」
「このままじゃ、私達も危ない!」
組立て式盾は金属製であるため、ライオットシールドよりも防弾性は高い。だが、元々の設計思想としては御刀を“滑らせる”ことに主眼が置かれていたがために、弾を弾いても盾の表面で滑った流れ弾が跳弾として後方の刀使達に襲い掛かろうとしていたのだ。まして、本来の用途とは異なる使い方でもあったため、今回の場合では盾を70~80°ほどの角度で前傾させながら進むこととなった。これにより、余計に進行速度は落ちている。
校内の机などは、アサルトライフルの銃撃に耐えられるようなものがほとんどないため、持ち込んだ装備の中で消去法的に残された組立て式盾が最後の防御壁となっていたのである。
「負傷した特祭隊員は直ちに後退しろ!手当ては後方に控えている衛生科の者に!」
「木寅隊長!このままでは、突入できません!負傷者が依然拡大中!」
「グッ…。」
(狭所での攻撃、しかも発砲している人間は四~五人程度。後方にまだ複数いることを考えれぱ、此方の損害は激しくなる。……鎌府の刀使が屋根から所定位置に着けていない以上、この状況を打開するには刀使を突入させるしかないのか…?)
ミルヤは銃声飛び交うなか、必死に頭を回転させていた。自身のもつ能力である鑑刀眼の能力を使おうにも、この閉所では分析できる範囲が限られる。せめて、体育館全体が見渡せる入口付近まで進められれば…。
そう思った時、隣にやってきた刀使が直接進言してきた。
「ミルヤさん。僕を突入させてください。」
「鈴本葉菜!?―貴女、自分が何を言っているのか分かっているのですか!」
「はい。…ミルヤさんも分かっているんじゃないですか?誰かが突入しないと、今のこの状況は覆せないってことを。被害も増えていく一方ですし、何より時間がありません。」
「ですが…!」
「ミルヤ、大丈夫デス。それなら先頭は、ワタシが務めマス!」
「古波蔵エレン!……確かに貴女の金剛身の段階ならば行けるかもしれませんが、無事ですむ保証はありません!」
「…No problemデス!―ワタシ達を信じてクダサイ、ミルヤ。貴女ならば、最適な方法を導き出せるはずですから。」
途中から流暢な日本語へ変わっていったエレンの言葉。
「鈴本先輩が行くなら、私もお供させてください!」
「わ、私も行きたいです!」
「え、歩!?」
さらに手を上げたのは、葉菜の一つ下の後輩である麻由美*1と近衛隊の時の後悔が未だ残る歩だった。歩の隣にいた美弥*2は驚いた様子で彼女を見やる。
「貴女達は…。……いいでしょう。行くなら一つ条件があります。無事に私の元へ帰ってくること。それが守れないのならば、ここに残ってもらいます。」
「勿論、守りますよ。ミルヤさん。」
「Of Courseデス!」
「はい!了解です、木寅先輩!」
「はい!…衛藤さんのためにも、必ず戻ります!」
突入を志願した四人に、少し躊躇いを持ってほしかったとも思ったが、
「まあまあ、ミルヤさん。皆さんがやる気なら、行かせてあげましょうよ。私も一緒に女の子達を救う一番槍になりたかったですけど、私の《蛍丸》だと勢い余って相手を殺してしまうかもしれませんから。」
「はあ…。山城由依、確かに貴女の言葉も最もですね。」
調査隊で共に活動する由依からの真面目な言説に、自身も腹を括る覚悟を決める。
「総員、突入する四人を援護しろ!一瞬でかたを付けるぞ!!」
「「了解!!」」
ミルヤは、四人に突入のタイミングを伝えようとする。
ちょうど武装集団側が弾倉交換のため、一時的に弾幕が止んだ瞬間があった。その時だった。
「今だ!行け!!」
ミルヤの号令のもと、エレンが金剛身の段階を移動ができるギリギリのところまで高める。
「行きマスね!!」
「鈴本葉菜、行くよ!」
「行って参ります!!」
「衛藤さん、見ていてください。今度はちゃんと振るいますから!」
エレンら四人は、銃弾の嵐を避けるべく壁を蹴って通路を進む。
待ち構える『男性排斥運動』側は、事前の示し合わせどおりに行動を起こす。
「おい!来たぞ!人質は無視して構わん、殺れ!!」
「――!!全員伏せろぉーー!!」
人質に向けられる多数の銃口。十数人が一斉射撃に出れば、おびただしい血の量が流れることは誰の目に見ても明らかであった。
「―!!―長船隊、綾小路隊、突入しろ!!何としてでも発砲を阻止せよ!!」
ミルヤは相手側の意図を即座に理解し、刀使全員を突入させる。だがそれは、先行した四人以上に間に合うかどうか怪しいものであった。
(―もう間に合わないのか…?私の判断は間違っていたのか?)
彼女は、僅か一秒足らずでそんなことを逡巡してしまった。人質に向けて無数の鉛弾が振り向けられる、そんな錯覚が見えた時だった。
ドーーン
突如、天井から砂埃とともに黒い影が複数落ちてくる。
たまたまそのあたりには人質が一人もいなかったことから、それによる死者などは出なかった。
「……よお、生きてるかぁ?ウチの生徒達は。」
「全く、七之里さんはいつも言葉足らずなんですからー。生きてますよー、少なくとも私は。」
「呼吹、つぐみ。…やるよ。」
そこに居たのは、呼吹、つぐみ、そして沙耶香だった。
舞い上がった塵が晴れる前に、人質を取り囲んでいた武装集団の一人がいきなり崩れ落ちる。
「な、なんだ!?」
「まさか、増援だと!?」
「撃て撃て!!」
武装集団側は突然の出来事で動揺が止まらず、統制が困難になりつつある。
「呼吹、相手の銃だけを狙って。」
「ったく、ミルヤの泣き顔を見れるからやるけどよぉ…。出血大サービスだぜ、今日は。」
「そういうわりにはノリノリですね、七之里さん。じゃあ、私も。」
鎌府の三人が、武装集団側の混乱を巻き起こしていく。続けざまに、他の鎌府の刀使達も体育館のフィールド上に、降り立っては散っていく。高所から落ちる流水のこどく、彼女達は瞬く間に広がっていく。
先ほどまで酷く押されていたはずの刀剣類管理局側は、流れが変わったように勢いを取り戻す。
「せりゃぁあー!!」
「へぶし!」
沙耶香たちがかき回しているうちに、追い付いたエレン達も峰打ちや銃を両断するやり方で武装集団側を制圧していく。
「はあぁぁぁーーっ!!」
「ぐっ、糞ぉーーっ!!」
茶髪のサイドテールを靡かせる葉菜が、御刀の刀身をダイレクトに戦闘員の一人の腹部へと峰打ちを叩き込む。苦悶の表情を浮かべつつ、負け惜しみともとれる雄叫びを発すると共に、一人、また一人と倒れていく。
同様に麻由美や歩も、武装集団に対して峰打ちで応戦していく。
「無力化した人間は直ぐに拘束しろ!銃は破壊のうえ、相手の持つ近接武器には十分注意!!―特に手榴弾には、絶対に手を掛けさせるな!」
ミルヤは矢継ぎ早に指示を飛ばす。この機を逃さないために。
幸か不幸か、『男性排斥運動』側は充分な連携が取れていないようにも見えた。敵味方の位置などがヘルメットに表示されるはずであった、データリンクシステムの不調が未だに続いていたのだ。また、ヘルメットをしていたことで視界が赤外線映像に邪魔をされ、思うように動くことができなくなっていた。これこそ、電子情報ばかりへと頼ってきたツケが表れた瞬間だった。碌な連携が取れず、次々と無力化されていく彼女達。
そして、人質を奪還してもなお体育館内にいた『男性排斥運動』側の最後の一人が抵抗を続ける。
「来るな!!―それ以上近づくならば、これを起爆させるぞ!」
その彼女の両手に握られていたのは、リンゴ型の手榴弾。アップルとの別名もあるそれを見せながら、威嚇を続ける。それに対処していたのは一般の特別祭祀機動隊員たち。アサルトライフルは破壊したものの、自身を引き換えにした捨て身の戦法に打って出たのだ。
「バカな真似は止せ!お前達の戦いはもう終わった!無駄な抵抗は止めて投降してくれ!」
「……ふっ、終わったのはお前達だ!いずれ、あの方が全てを成就してくれる!私達をここで死なせたことをいつか後悔するといい!」
その言葉からすぐ、彼女は退避が終わっていない人質の方へと一個の手榴弾を放り投げる。安全ピンは投げると同時に外されていた。
「ま、まずい!」
「死なば諸共。女性万歳!女王万歳!!」
戦闘員は刀使や特祭隊員達のリアクションが変わる前に、抱きかかえるようにしてもう一つの手榴弾の安全ピンを抜く。
「全員退避!!急げえぇぇーっ!!」
「鈴本葉菜!空中の手榴弾を御刀で斬れ!!」
「了解!!」
手榴弾はその特性上、起爆・炸裂までに数秒の猶予がある。ミルヤは、投げられたモノに一番近い葉菜へ指示を飛ばす。
(――届けぇぇぇーっ!!)
葉菜の御刀の切先が、向かい落ちてきた手榴弾を捉えた。
そして、彼女の振るった弧を描くような銀閃が、手榴弾を両断する。
ドカーンッ!!
斬られた瞬間、空中に投げられた手榴弾は爆発こそすれ、御刀に斬り飛ばされた反動でより高い空中で炸裂した。
結果、葉菜以外の人間に被害は出なかった。
「…くっ!」
だが、近くで対処に当たった彼女は爆発により、手榴弾の破片こそ刺さらなかったが、爆発の威力で写シが剥がされる結果となった。
「鈴本葉菜!無事か!!」
「写シは解けましたが、僕は生きてます!!」
「よし!すぐには動かず、衛生科の者が来るまでその場で待機せよ!」
「了解です!」
そして、間に合わなかったもう一発の方は、盾を展開していた特祭隊員達が爆炎を防いでいた。…同時に、肉が焦げたような臭いが広がる。
「……ケガ人は!」
「数名が破片を受けて負傷!ただし重傷ではありません!」
「了解!……やはり無傷での作戦成功は、難しかったのですね。…人質や私達に死者が出なかったことが、唯一の救い、なのでしょうか。」
ミルヤは悔しく思いながらも、爆死した戦闘員へ布か何かを掛けるように指示を出す。残念ながら、ここの武装集団全員を生け捕りにすることは叶わなかった。
最後まで抵抗した戦闘員は、確かに何人かを巻き添えにして壮絶な最期を遂げた。
だが、刀剣類管理局側は戦略目標であった、鎌府の生徒・職員達を全員救出することに成功した。人質が取られたケースでの、人質側が無傷だった事例は数えるほどであるため、少なくとも姫乃がミルヤに指揮を任せたことが、ここでの奇跡に繋がった側面は大きい。最も、その奇跡を呼び込んだのは、個々の刀使達や特別祭祀機動隊員達の奮闘があってこそだったのだが。
鎌府や特祭隊本部での屋内空間での作戦は、後に類似の事態が起きた時にどうするべきなのかという点で、非常に多くの教訓を残した。この騒動が終結した後に、刀剣類管理局側は武装組織の侵入対策や人質救出時のマニュアルの明確化を実施することとなった。
[鎌府女学院体育館付近での被害]
・『男性排斥運動』側:死者/1名、重傷者/6名、軽傷者/6名(峰打ちによる無力化時に負傷)、無力化後拘束/7名
・特別刀剣類管理局側:重傷者/11名(いずれも銃創)、軽傷者/14名(銃撃による写シが解かれたものも含む)
<備考>
人質奪還作戦時、事前に武装集団側の配置が把握しきれていなかった場所の一つでもあり、刀剣類管理局側では犠牲者が出ることも予測していた。鎌府の刀使の突入が遅れた原因は、屋根上からの侵入に手間取ったため。
(突入時、天井の骨組みが人質に直撃する恐れがあったため、安全かつ状況を逆転できる突入進路を探していた結果。)
その後、臨時作戦本部は人質に取られていた鎌府の刀使にも、今後の事態に対してのミルヤの言葉や、姫乃などからの情報を示すことで、最後に残る作戦への協力を促した。最後の一ヶ所、ヘリポートに残る刀剣類管理局本部職員たちの救出を成功させるために、である。
体育館には、『男性排斥運動』側が刀使達から取り上げた大量の御刀が置かれていたため、刀使達の戦力化が容易だった。これにより、早い段階での作戦遂行が可能となった。
武装集団側にやられっ放しだった刀使達や刀剣類管理局側は、着実に奪還作戦を進めていく。
ただし、その目的は武装集団の殲滅ではない。あくまでも人質奪還と武装集団側の無力化だ。刀使達や特祭隊員達が己の持っている力を振るうということは、それだけそれに伴うリスクを覚悟する必要がある。
後方に備える姫乃は、彼女ら彼らが誤った行動に出ないことを祈るしかなかった。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
今回は特に、不遇不遇と言われた綾小路の面々を少しは活躍させたいと思った、筆者でございます。
カルト集団となるとこのような事を考える者もいるだろう、ということを考えつつ執筆いたしましたが、現実は小説より奇なり、とでも言えるような出来事がちらほらあるのは考えようですね。
それでは、また。