刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は、朱音達のいる特祭隊本部を奪還に動く平城隊の状況を綴っていきます。

それでは、どうぞ。


⑰ 計画破綻 中編その2

 ー折神家・特別祭祀機動隊本部ー

 

 時系列は少し遡り、鎌府で刀使達の攻防が起こる前。

 平城の刀使達と高練度の一般特祭隊員達が、各階のクリアリングを行っていく。幸いにも低層構造であったことで、順調に確認が済んでいく。

 

「次の部屋もお願いします!」

「はい!」

「岩倉隊長、部隊を先行させますか?」

「いえ、確実に行きましょう。十条さん、六角さん、お願いできますか?」

「はい!」

「が、頑張ります!」

「あと四名ほど、彼女達の応援をお願いします!」

「「了解!!」」

 

 丁寧さが求められたのは、他でもなくここが指揮中枢であるからこそだからだ。

 もし、他の職員が別に人質に取られていれば、武装集団に何をされるのか分からない。ゆえに、その行動には慎重さが求められた。

 

 

 

 

 一部屋ずつ確認を進めていくなか、万が一の可能性により時間が取られていくことへ歯がゆさを滲ませる早苗。

 

「…すぐにでも、朱音様達を助けに行きたいのに…。」

「とはいえ、すぐに突っ込めないというのもまた事実です。…解答期限まで、残り三十分ですか。」

 

 S装備のHUD*1に表示された時刻を確認しながら、早苗と共にいた刀使の一人がそう呟いた。

 

「……私、怖いな。人の命を奪うかもしれないっていうことが。……刀使は、荒魂から人々を守るために御刀を振るうのに、それを人間に、本来守るべき人達に向けるってことが。」

「岩倉隊長。私も怖いです。自分が荒魂ではなく、人の命を奪いかねないってことに対してもですが。……その感性は、私はごく普通のことだと思いますよ。」

「…そうだよね。―ありがとね。ちょっと安心した。」

「だから、私達は殺さないように動くんです。早く終わらせて、帰りましょ―」

 

 早苗を励ましていた刀使が言葉を終えようとした時、階段の方から複数の銃で武装した集団がこちらに向かってくる。

 

「敵がいたぞー!撃てぇ!」

「敵襲ぅー!!―撃ちまくれオラオラァ!!」

 

 そのまま、銃撃戦に突入してしまった。

 

「きゃっ!」

「ぐほっ!」

「全員!急いで写シを!」

 

 大規模に行われた荒魂討伐後からの疲労を考慮すると、写シの常時展開は難しいこともあり、一部の刀使は精神面での消耗を避けるために解いていた。無論、御刀は手に持っていたものの、発動までのコンマ数秒に銃撃を受けた刀使が複数いた。閉所空間であるがゆえに、銃撃を受ける方向が固められてしまうというのが、平城隊へ非常に不利に働いていた。

 

「盾を展開しろ!刀使達を守れ!」

 

 特祭隊員もどうにか応戦しようとするが、相手が無差別射撃を採ってきたために、個別に狙ってもあまり意味がなかった。ともかく、相手の弾倉内にある銃弾の嵐が一度止むまで耐え凌ぐ。

 

「よしよし押し切れ!皆殺しでも構わん!男は特にな!」

「撃て撃てぇ!ヒャッハー!たまんねえぜー!」

「それそれぇ!」

 

 軍用向けのアサルトライフルが、早苗達に幾重もの銃弾を振り向ける。撃ち回す武装集団側は、銃撃を楽しんでいるようにも見えた。

 

「負傷者を守れ!盾の隙間はなるべく埋めろ!後ろへの流れ弾を防ぐんだ!」

「弾が刺さった者は、抜こうとせず患部を覆え!撃たれた人間は、鉛中毒になる前になるべく早く運ぶぞ!」

(こんな時に…!)

 

 早苗に先程まで声を掛けていた刀使も、銃弾が左腕を掠める怪我を負っていた。

 

「うっ…ぐっ…。」

「今から包帯で覆うから、少しだけ我慢してくださいね。」

「…岩倉隊長、ごめんなさい。」

「謝る必要なんてないよ。…それより、どうすれば…。」

 

 包帯を巻き終えるも、銃撃の過酷さはより一層激しいものになっていた。

 

「岩倉さん!怪我は!」

「十条さん!私は大丈夫!」

 

 S装備を着た姫和が早苗に近づく。

 

「六角さんは?」

「清香ならすぐ来ます。…岩倉さん。アイツらには、私が突っ込みましょうか。」

「……こんなこと友達に頼みたくないけど、お願いしていいかな?十条さん。」

「ええ。……去年の御前試合の時の迷惑を、今ここで返させてください。」

「……分かったよ。私も十条さんの後ろから追うね。」

 

 

 

 

 その後、清香も追いつき、早苗は清香に対し、奥に流れそうな銃弾を迎撃するよう頼んだ。ただ、これはあくまでも保険であった。そうならないように、早期に決着を付ける。

 

「行くよ!十条さん!」

「ああ!」

 

 フリードマン博士達が改良に改良を重ねたS装備は、姫和の迅移の速度や早苗の八幡力を多少なりとも増幅するように作用した。最も、対人戦闘で用いるなど初めてのことではあったが。

 二人は、盾を持った特祭隊員の後ろから壁を伝いながら飛び出した。

 

「はあぁぁぁーっ!!」

「それぇ!!」

 

 姫和が迅移で戦闘員との間合いをゼロにし、《小烏丸》の側刀身を叩きつける。

 

「がはっ!」

「このぉ!」

「えい!」

 

 続けて早苗も姫和に気を取られた戦闘員達に向かって、彼女の流派の特徴の一つでもある、上段からの峰打ちを仕掛ける。ヘルメットに守られている戦闘員も、脳震盪を受けるほどの打撃を加えられれば一溜まりもない。彼女達は次々と倒れ、それに伴って銃火も止んでいった。

 

「十条さん!岩倉さん!やりましたね!」

「清香、まだ終わってないぞ!朱音様達がまだ残っている。……岩倉さん、これからどうする。」

「……取り敢えず、この人達は縛り付けておきましょう。負傷した方は動かず救援が来るまで待機を、私達は先に作戦室の解放へ向かいます!」

 

 このままでは埒が開かないことを悟り、先に朱音達を解放することを決めた早苗。ここでこれだけ足止めされたということは、恐らく他のフロアでも似たような状況に成りうる。ならば、戦術目標を最優先に持ってくるのは当たり前であった。

 

「了解。…動ける刀使は、私達と共に来てくれ!」

「「はい!」」

 

 七~八名の刀使が、姫和や早苗達のもとへ集う。次いで、特祭隊員も動ける数名が来る。彼女達は作戦指揮室へと、なるべく音を立てぬように進んでいった。動けない刀使や特祭隊員達は、四人の戦闘員が起き上がらないよう監視を続けた。

 

 

 

 

「……遅いな。様子を見に行くと言ってから、もう十分近く経つというのに。」

「データリンクもまだ回復しませんし、何が起きているんでしょう。」

「……まあ、ウチのリーダーなら不測の事態の時には何かしら指示を出すだろう。少し待つことにするさ。」

 

 姫乃から便宜上E群とされた、第一部隊こと特別祭祀機動隊本部の制圧部隊長である本町は、至って冷静だった。

 少なくとも無線を使おうと思えばいつでもできる状況であったうえ、建物内を巡回する数名が異常さえあれば知らせるように決めていたからだ。

 

(……にしても妙だ。他の部隊からの通信もない。少し気をつけるべきか?)

 

 そう身構えている時だった。

 

 

 

 

 ダンッ!

 

 

 

 

 作戦指揮室の前に立っていた歩哨の一人が、突如倒れる。

 

「おっおい!どうした!?」

 

 同じように立っていたもう一人の歩哨が、倒れた者を確認しに向かう。が、しかし。

 

 

 

 

 ダダンッ!

 

 

 

 

 

 今度は近寄った瞬間に、歩哨が数mほど後ろに飛ばされる。

 

「……まさか、敵襲!!全員、セーフティーロックを外せ!」

「は、はっ!」

「ラジャー!」

 

 とてつもなく嫌な予感がした本町。

 室内にいた人間の半分、六人ほどを廊下の方へ向かうよう、ハンドサインで指示を出した。

 

「残りは、人質への銃撃と迎撃のために待機。」

 

 少なくとも、視界に映る朱音は条件の受け入れも拒否もまだしていない。であるならば、問答無用で彼女を撃ち殺すこと自体が問題になりかねない。恐らく、外野のどこかの勢力が朱音達の奪還に来たのだろうと悟る。想定こそすれど、あまり相対したくない状況ではあるのだが。

 

(仕掛けるなら来い。容姿はしない。)

 

 廊下を睨むように、本町は時を待つ。

 

 

 

 

 

 

「あー、出てきたな。…発砲用意。」

 

 視点は変わり、人質奪還を行う側である平城隊と特祭隊員部隊。

 歩哨を弾き飛ばしたのは、一般特祭隊員の放ったゴム弾であった。硬質ゴムで作られたそれは、貫通こそせずとも、人一人をその質量と弾速で押し倒すには十分な威力を持つ。ゆえに、実弾など用いずとも無力化することが容易になるのだ。

 射撃目標が完全に出てくるまでの間、一般部隊の隊長がスマートフォン型の通信機器を用い、他部隊の状況を確認していた。本部一帯を覆っていた広域電波妨害装置の逆探知と使われている周波数帯域の特定が完了していたため、由比ガ浜の臨時作戦本部からカウンターハッキングによる妨害無効化が成功していた。このため、通常通り作戦指揮が執れるようになっていた。

 鎌府側でのライオットシールド貫通による被害をリアルタイムで把握していたこともあり、組立て式盾がここでも主に展開されることとなった。持ってきていたライオットシールドは、後方で控える刀使達への流れ弾が当たらないような配置で展開されている。

 

「スプリンクラーは使えるか?」

「今、作戦本部側が防災設備にアクセス中とのことです。……カウント来ました、10秒前、9、8…」

 

 通常は初期消火のために使われる、スプリンクラーを作動させる準備が整う。

 

「3、2、1、水来ます!」

「全員、撃ち方用意、―撃て!!」

 

 雨のように降り注ぐスプリンクラーが、武装集団側に一瞬の戸惑いをもたらした。ほぼ同時に銃撃が再開されたことで、瞬く間に廊下上の数人へとゴム弾が命中する。

 

「十条さん!六角さん!後続の方も行きますよ!」

「「「はい!!」」」

 

 早苗の号令のもと、後方で突入の機会を伺っていた刀使達は、迅移と八幡力を駆使し一斉に作戦指揮室へと突入する。

 全員、ずぶ濡れになりながらも、倒れた戦闘員達を無視して朱音達の奪還へと動いた。

 

 

 

 

 

 

「な、何が起きたというんだ。一体。」

 

 私は、驚くしかなかった。廊下を見やった時、水が降り注いだ瞬間にそこで展開していたはずの人間が続々と倒れたのだから。

 

「朱音様ー!!」

 

 だが、それを気にしている場合ではなかった。わずか数秒ほどで、緑色の服とゴテゴテした機械を纏った人間が部屋へ突っ込んできた。

 

「――っ!!全員、人質を盾にt」

 

 言葉は、最後まで仲間へと届かなかった。

 なぜなら、その人間が勢いそのままに頭突きを私の頭へ向けてかましてきたのだから。

 ヘルメットをしていたにも関わらず、私はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「朱音様!ご無事ですか!?」

「じゅ、十条さん!」

 

 朱音は、最初に部屋に飛び込んできた刀使の姿に驚いた。御前試合で本年度優勝した、姉の親友の娘がそこに居たのだから。

 本町に頭突きをかました姫和は、朱音の前に立つように武装集団と対峙する。

 

「特別祭祀機動隊です!室内にいる武装した方は、直ちに抵抗を止め、武器を捨てて投降してください!」

 

 姫和に追い付くように、早苗が中にまだ残る戦闘員へと警告を発する。その後、人質を守るように刀使達が展開していく。まさにそれは、阿吽の呼吸とでも言えようか。時間にしておよそ三十秒ほどだが、この一連の流れにより形勢が完全に刀使達の方へと傾いた。

 

「クソ!こうなりゃ自棄(ヤケ)だ!皆殺しにしちまえ!」

「隊長の命令は!?」

「ああっ!?―そこでのびている人間のことなら無視しろ!」

 

 往生際が悪いのか、戦闘員の一人が朱音達を狙い撃ちしようと画策する。が、しかし。

 

「はあっ!!」

 

 その前に、姫和がその戦闘員のアサルトライフルを両断する。彼女の左手が握っていた前方のストックの手前から、綺麗な傾斜を描くように斬られたそれからは、中の機構が露わとなる。

 

「なっ、なっ……!?」

「他の奴も、撃つというのならば私が相手になろう。最も、そこで斬り落とした奴と同じ状況になるだろうがな。」

 

 かつては紫を討つべく必殺の一撃を研ぎ澄ますことに集中してきた彼女だが、今振るっている剣はそうではない。可奈美のような非殺の剣である。

 

「どうだ、やってみるか?」

 

 感情的に動きやすい時もある彼女だが、こうして人を挑発するような真似をすることは珍しい。それは、彼女が発砲前に全ての決着をつけることができるという、絶対的な自信と確信からきているとも取れた。

 

「……。」

 

 数秒の沈黙の後、残っていた戦闘員全員が手に持っていた銃を床へ投げ捨てる。ガチャガチャという金属音がうるさく響く。

 

「おっ、お前らぁー!!」

「…とてもじゃありませんが、刀使さん相手に勝てるビジョンがありません。大人しく、貴女方の指示に従います。」

「…賢明な判断だな。」

 

 姫和は、武装解除した四人へそう告げた。同時に、武装集団といえど理性的に判断できる人間がいることも、彼女は知ることができた。

 

 

 

 

「ぐっ、こうなりゃお前だけでもぉぉーー!!―死ねえぇぇーっ!!」

 

 銃を両断されてもなお、最後まで往生際の悪かった戦闘員が、比較的刃渡りの長いサバイバルナイフを持って、姫和に刺し掛かろうとする。

 

「十条さん!危ない!」

 

 しかしそれは、突如割り込んできた少女により防がれる。

 

「清香!」「六角さん!」

 

 荒魂討伐では防御主体の戦闘スタイルである清香。相手が御刀を持たない対人戦闘ならば、積極的に戦闘へと参加したくないのは当たり前のことである。だが、それでも彼女は仲間を守るために飛び込んだ。

 彼女の御刀である《蓮華不動輝広》のサイズ自体は小太刀にあたるものの、こうしたリーチの短い戦闘では非常に頼りになる。ただ、サバイバルナイフすらも簡単にせん断してしまうというのが、御刀のオーパーツめいたヤバさでもあるのだが。

 

 

 

 

 バキン

 

 

 

 

 案の定、刃が互いに接触した瞬間、サバイバルナイフは《蓮華不動輝広》により柄より上の部分がおさらばしてしまう。

 それを見た彼女は、ヘルメットをしていても分かるほどに動揺していた。そして、絶対に放ってはいけない一言を清香に向けて言ってしまう。

 

「……バ、バケモノ、お前たちは化け物だ!!な、何でこんなのが野放しになってんだよ!」

「…………私は化け物呼ばわりでも構いません。…………ですが。」

 

 清香は、静かに怒っていた。とても激しく、である。

 姫和を刺し殺そうと襲い掛かったこと、朱音達に長時間恐怖を与え続けたこと。ともかく、今回の人を傷つけるようなこと全般に対してだった。そして、今の一言が彼女の我慢の限界だった。

 

「友達や仲間を傷つけるような人達に、皆を化け物と言われるのは絶対に許せません!!」

 

 そして、刀使達を侮辱した戦闘員の背中へ、彼女は思いっきり峰打ちを叩き込む。

 

「がはっ!!」

 

 S装備により増幅された八幡力も組み合わさった、この一撃のあまりの威力に、最後まで足掻いた戦闘員は身体を床へ二度バウンドさせると、そのまま気を失った。

 それを見届けた清香は御刀を鞘に納め、ほっとしたような表情を浮かべた。

 

 

 

 

 その光景を目撃した姫和と早苗は、こう漏らした。

 

「…今度から清香を怒らせるようなことは、止めておくか。」

「…そっ、そうだね、十条さん。でも、六角さんは優しい娘だと改めて思ったよ。……この場の刀使は全員、朱音様達の拘束を解きつつ、武装集団の人達を拘束するように!後から、特祭隊員の方が来ますから、引き継ぐまでは気を緩めないようお願いします!」

「「はいっ!!」」

 

 作戦指揮室の解放は終わった。だが、まだ数名はこの建物内にいるはずなので、戦闘態勢は継続した。

 以後、戦闘員制圧の掃討戦へと移り、第一部隊の戦闘員から本部の解放が完了したのは、それからおよそ二十分後の午前6時以降のこととなる。


 [特別祭祀機動隊本部での被害]

・『男性排斥運動』側:重傷者/6名、軽傷者/3名(銃撃戦と峰打ちによる無力化時に重軽傷者はそれぞれ受傷)、無力化拘束/11名

・特別刀剣類管理局側:重傷者/5名、軽傷者/8名(多くが銃撃戦による銃創と擦過傷)

 

<備考>

 鎌府女学院同様、屋内での作戦であったことで閉所空間での銃撃被害が多発。刀使と一般の特祭隊員の損害がほぼ同じくらいの割合になったのも、この作戦現場の特徴でもある。なお、人質に取られていた局長や本部長は、平城学館の刀使達によって無事に解放されている。


 

 

 

 

 コントロールを取り戻した作戦指揮室では、朱音が由比ガ浜にいる姫乃達へと通信を試みる。

 

「水沢さん、聞こえますか?」

『朱音様!…ということは、本部の人質解放は上手くいったということですか!?』

「はい。十条さんをはじめとする、平城の方達が今居られます。貴女が指揮を執っているとお聞きして、通信を入れさせていただきました。」

『それは良かったです。…ということは、後はヘリポートだけですか…。』

「水沢、聞こえるか?私だ。」

『真庭本部長!ご無事で何よりです!』

「まったく、刀使達にこんな無茶をさせるとはな。……だが、お陰で助かった。後で礼は言おう。」

『はい。』

「それで、今はどのような状況ですか?」

『はい。現在はヘリポート以外の人質解放が進んでいます。前局長のいた離宮も解放しました。今は此方に到着していますね。』

「姉様も無事だったのですね。…良かった。」

『特務警備隊の方達は、離宮を奪還した美濃関隊に合流して、現在はヘリポートへ向かっています。どなたか其方へ向かわせた方がよろしかったでしょうか?』

「いえ、ここは十条さん達に守りをお任せします。」

『了解しました。…あ、紫様が来られたので代わりますね。』

「はい。」

 

 画面では、姫乃から紫に姿が移り変わる様子が流れる。

 

『朱音、聞こえるか?』

「ええ、姉様。聞こえます。」

『お前が拘束されているとは知らず、済まなかった。先に逃げるような形となってしまった。』

「いいえ。姉様には何の責任もありませんから。」

『そのお詫びと言っては難だが、水沢の作戦指揮を一部私に引き継いでもらうよう頼んだ。私も責任を持って、残りの人質も救い出すつもりだ。』

「後のことは、姉様にお任せします。」

『引き受けた。…それでは、水沢に代わろう。』

 

 再度、姫乃が朱音と話をする。

 

『朱音様、事後的な話で申し訳ありませんが、S装備その他の使用許可を求めてもよろしいでしょうか。』

「はい。構いません。」

『ありがとうございます。…真庭本部長、作戦終了後に刀使達や鎌府の生徒達への心理カウンセラーの派遣をお願いしてもよろしいですか?』

「分かった。あちこちから手配をかけておこう。」

『解放されたてで大変な時に申し訳ありませんが、お願いします。』

 

 その後、朱音と紗南とのやり取りを経て、姫乃はヘリポート解放への最後の下準備を整えた。

 

「朱音様、真庭本部長、あともう少しだけご不便をお掛けします。」

『作戦が上手くいくことを、願っています。』

『無理はするなよ。水沢。』

「はい。…では、失礼致します。」

 

 姫乃は、作戦指揮室との通信を切った。

 

 

 

 

 そして、鎌倉での戦いは遂に佳境を迎えるのであった。

*1
Head-Up Displayの頭文字より:ヘッドアップディスプレイのこと。人間の視野に直接情報を表示する技術。もとは軍事用だったが、現在では民間への技術供与が進む。いわゆるデュアルユース技術の一つ。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

あと二話ほどで人質奪還作戦の話は終わります。

それでは、また。
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