今回は鎌倉での戦闘、その最後の話になります。
…これで発端からの時系列がまだ三日目って、なかなか濃いなぁ(白目)
刀使フェスが始まりましたが、せめて舞衣の衣装は確保しておきたいところです…。
それでは、どうぞ。
ーヘリポート外延部ー
姫乃からの突入合図を聞いた早希と里奈が、まず一番近くにいた戦闘員に向かって突っ込む。
「やあぁぁぁーっ!!」
「うわっ、刀使!?」
ヘリの爆発という予想だにできない事柄の中で、今度は刀使の突入ときた。これでは、反撃しようにもその対応にタイムラグが現れるのは、無理もないことであった。だが、突っ込んできた刀使が向けたのは御刀ではなく、国産のアサルトライフルだった。
「糸崎君の仇ぃーーっ!!」
「ちょ、私誰も殺してな」
反論の余地無く、戦闘員の一人が早希のゴム弾による銃撃で倒れる。完全な気絶のため、ダメ押しにヘルメット越しから御刀が叩き込まれる。峰打ちとはいえ、接触面の関係でバットによって殴られるよりも気を失う確率が高くなる御刀は、相手を殺さずに抑える点では有効ではあった。…警棒が使える状況ならば、それが一番良かったのだが。
早希と里奈が突入したのを確認し、伍箇伝各校の刀使達も続々と突入を開始する。中には弾幕を受ける者もいたが、銃を叩き割るなり斬り落とすなどで、戦闘員の無力化を進めていった。作戦開始時間ギリギリで間に合った、鎌府の刀使達もこの増援に加わる。
「手榴弾くるぞ!金剛身で対処!」
「「了解!!」」
時々、主に真奈美側の派閥の人間である『男性排斥運動』側から、手榴弾などの投擲兵器を向けられることもあったが、刀使達は己の持つ能力を駆使し、怯むことなく果敢に挑む。
「結芽ちゃん、行くよ!」
「《千鳥》のおねーさん、その相手私のぉ!――!!やあっ!!」
「凄い、結芽ちゃん!」
「おねーさんも、まだまだだね。」
その中でも、やはりというか、可奈美と結芽の連携が凄まじかった。彼女らがバシバシ倒していくものだから、他の刀使達は二人の動きの巻き添えにならないよう、順次人質の解放へと動いていった。
「北見さん!」
「上川!…状況は見てのとおりよ。場は混乱していて、どうにも収拾がつかないわ。」
「それよりも、タイマーがまずいですって。あと残り十分もあればいい方ですよ!」
「だからよ。急いで投降するわよ。」
「…!?あっ、はい!」
北見に押されるように、上川も彼女の指示に従う。
「刀使さん、刀使さん!!私達は投降します!ノーコンバット!」
「―!!みんな!あそこの人達は無理矢理抑えないで!銃も両手で上に掲げているから!」
舞衣は混乱した状況のなかから、北見と上川の二人が降参の意思を示していることを確認する。
「貴様らぁ!やはり裏切ったかあ!―成敗してくれる!」
案の定というか、真奈美の派閥である戦闘員が、その二人に向けて銃口を向ける。彼女らの中では、人質よりも、裏切った仲間を粛清することのほうが感情的に優先された。
「―させないわ!」
「死に晒せえっ!!」
北見と上川を狙う戦闘員に対し、里奈と早希が詰める。早希に至っては、左手で89式小銃を撃ちながら御刀を持って接近する。文字通り、鬼気迫る表情であった。
「―!なっ!!邪魔をするなぁ!!」
里奈と早希に標的を変えた戦闘員だったが、
「糸崎君!」
早希は持っていた89式を一度手放し、太股のホルスターに巻いていた拳銃を取り出す。それに戦闘員が気を取られるよう、彼女は視線誘導を行う。
「ゴメン、援護して!」
「よしきた、任せろ!」
拳銃への視線誘導を受けた戦闘員が次に見たのは、早希から投げられたそれを瞬時にキャッチし、銃口を此方へ向ける誠司の姿だった。
「はっ、しまっ」
「くたばりやがれこの野郎!!」
「はあぁぁーっ!」
「とっとと眠りな!お嬢さん!」
気づいた時には遅かった。戦闘員は、早希からは持ち直した89式小銃のゴム弾を、里奈からは上段からの峰打ちを、誠司からは自動拳銃の弾を、それぞれ複数受ける。傍から見れば、オーバーキルである。
気を失うなかで、彼女はこう思った。
刀使なんかに、喧嘩を売るんじゃなかった、と。
「糸崎君!」
「早希!」
戦場で抱き合う二人。離れていた僅か数時間が、永遠のように感じられる。
「…っと、銃はこれでよしっと。」
相手の装備の無力化に成功する里奈。銃も縦に割ってしまえば、ただの鉄くずである。…まあそんな無感傷に抱かれた感情も、隣のダダ甘な空気を無視できないのだが。
「糸崎、イチャイチャは後回しにして。まだ戦闘中だから。」
「…っと、悪いな。中島。」
「というか、よく早希さんの動きに合わせたわね?」
「以心伝心ってやつだよ。早希がどうしたいのかは、すぐ分かったし。」
「…愛は思考すら超える、ってことかしらね…。」
「それより早希さん、あそこの方達は」
「柳瀬さん達に任せましょう。私らは制圧し終えたら、すぐにヘリポートの人質を逃がすわよ。」
「「了解!」」
里奈は解放した誠司も含め、人質の避難誘導にあたる。この時点で、『男性排斥運動』側の戦闘員は八割ほど制圧されており、その残り数人も抑えきるまであと少しのところだった。
視点は北見と上川の方に戻る。投降の意思を示していたため、舞衣と真希が彼女達の応対に向かった。
「投降するということでよろしいんですか?」
「はい。ただその前に、貴女達に急いで伝えたいことがあります。」
「何だ、一体?」
真希は不快そうに聞くが、その不機嫌な表情は次の句で一瞬にして変化することになる。
「実は、そこの格納庫と燃料タンクに爆弾が設置されています!あと五分以内に起爆します!」
「「な、なんですって(だって)!?」」
「ともかく時間がありません!人質の方を一刻も早く、ヘリポートから避難を―」
ダダーンッ
二発の銃声が、防弾チョッキの隙間から北見の胸を貫いた。
「よくも女王の作戦を台無しにしてくれたなぁ!楽に死ねると思…ぐはっ!」
「対象制圧!殺人未遂と銃刀法違反の現行犯で拘束しろ!」
まだ健在な戦闘員が北見を銃撃したのだ。その後、刀使と特祭隊員により制圧される。
北見はその場でへたり込むようにして、吐血していた。
「北見さん!」
「ゴホッ…。…上川、あとのことは、任せるわよ。」
「獅童さん!この人を!」
「…分かっている。柳瀬、作戦本部に一刻も早く情報を!」
「はい!」
北見は患部からの出血を抑えるため、真希にお姫様抱っこをされながら、医療施設へと向けて運ばれていった。
場に残された舞衣は、上川から爆弾のサイズなどを聞き、それを由比ガ浜へと口頭で情報を送った。
ー由比ガ浜海水浴場 臨時作戦本部ー
姫乃は、新たな情報に戦慄した。もしも、航空燃料の油槽が大爆発を起こせば、少なくともヘリポートの人質や刀使達は助からない。人質の避難誘導の完了には、あと十分ほど掛かるという見立てが出ていた。
「…ここまで、頑張ってきたのに…。」
姫乃は、心が折れそうだった。折角、死者をなるべく出さない方法を取ってきたというのに、最後の最後で水泡に帰してしまうのでは、と。
「諦めるにはまだ早いぞ。水沢。」
「……紫様。」
折れそうな彼女の心を押し戻したのは、紫だった。
「柳瀬、一つ聞きたい。起爆装置は、タイマー方式か?」
『爆弾の形式はタイマー方式ですか?……はい、そのようです!』
「よし、特別祭祀機動隊の臨時即応部隊に伝達!直ちに爆弾へ向けて、冷凍弾を撃てと伝えろ。」
「冷凍弾…、まさか!」
「そのまさかだ。…あの男の置き土産は、まだまだ使えるということか。」
紫が指示した冷凍弾。それこそ、荒魂討伐時における荒魂の動きを封じるために、現在失踪中の彼が生み出した、あの対荒魂用拘束ユニットのことだ。
電子部品が使われている爆弾の弱点は、超低温の環境である。爆弾処理に液体窒素が多様されているのは、電子回路内の電子の動きを極端に抑える側面があるからだ。瞬時に凍てついてしまえば、電子とて身動きが取れなくなる。紫は、それを瞬時に導き出した。
「紫様、本当にありがとうございます。」
「礼はいい。それは、作戦が全て終わってからだ。」
「…はいっ!!」
姫乃は、即応部隊が起爆前に間に合うことを祈るしかなかった。
ー鎌府女学院 学生寮ー
本来の生活者である生徒達が未だ戻れず、事実上ここを占領下においていた真奈美達は多くの部隊との通信が回復しない中で、回答期限の午前6時を迎えた。
別の寮で活動していた情報部隊と合流するも、やはり状況は好転の兆しを見せなかった。
「高鍋。」
「はい。女王。」
「…残念だけれど、撤退するわよ。これ以上の作戦継続は、無意味だわ。」
「…了解です。第二部隊の方は、置いていきますか?」
「ええ。…まあ、彼女達には最高のフィナーレを飾ってもらうつもりだから、私は気にしてないけど。」
「フィナーレ、ですか?」
「ええ。血と悲鳴の渦巻く中での、ね。」
ゾワリ
(な、何?今のは。…女王に対して寒気?)
腹心の高鍋も感じるほどの、冷血さをもつ真奈美。だが、当の本人は全く気づいていない。
「さ、早く車を準備してちょうだい。私達の拠点に戻るわよ。」
「「はいっ!!」」
真奈美は情報部隊の面々に指示しながら、スマートフォンの画面を操作する。
「女王?何処かへ連絡されるのですか?」
「ええ。まずは刀剣類管理局側へ。その次に、冥土の土産を持たせるためにあの女へもね。」
「あの女、ですか?」
「ええ。北見よ。…最も、もう死んでるかもしれないけど。」
真奈美は、刀剣類管理局側へはメールを送る。中古端末からの捨てアカウントなので、これは後で川にでも捨てるつもりだ。内容は、約束を違えた刀剣類管理局は二度と拭い去ることのできない汚点を刻むであろう、というものである。
「…これでよし。んで、後は。」
そう言って、真奈美はIEDを起爆させるため、携帯電話番号を打ち込む。設置したのは三ヶ所。いずれも広範囲に被害が及ぶように設置したものだ。
「さて、まずは―」
そう言って、最初は燃料タンク傍のIEDを呼び出す。基地局は正常なので、あとは繋がるかどうかだ。……繋がった瞬間にドカンなのだが、そこは些細な問題だというものだ。
………………繋がらない。
おかしい。確かに設置したと、第二部隊の自分の派閥の人間から報告を受けた。だが、鳴らない。
「…設置ミスでもしたのかしら。」
そんなことをぼやきながら、二つ目の番号も鳴らす。
しかし、やっぱり鳴らない。
「IEDだし、所詮は着く着かないがあるわよね。」
そう自身を納得させながら、三つ目も鳴らす。
…………着信音は、やはり鳴らない。
三つ目の番号を切ったあと、真奈美はプルプルと震える。
「女王?」
「……っざけんじゃないわよ糞がぁ!!」
真奈美は地面へと思いっきり、電話を掛けていたスマートフォンを叩きつける。その顔は非常に赤々と、そして幾重ものシワが浮かんでいた。その表情から察さずとも、非常にキレていた。
「…はあっ、はあっ。……まあいいわ。結局、役立たずどもだったというだけだし。長居は無用よ。高鍋、帰るわよ。」
「はっ、はい。」
(……あそこまで女王がお怒りになられるなんて…。一体、何があったのでしょうか。)
高鍋は、真奈美の怒りようの真意が分からずも、彼女が投げつけた携帯を拾い上げる。その画面は、バキバキに割れていた。
その後、彼女達は敷地外へと脱出し、協力者が準備した車へ乗り込んでいく。時刻は、午前6時15分であった。彼女達の乗った車は、混乱する鎌倉市街へと紛れるように消えていった。
ー刀剣類管理局本部 ヘリポートー
「時間がねえ!急ぐぞ野郎ども!」
「「おうっ!」」
時間は少し巻き戻り、回答期限の午前6時前後。
真奈美の願望を打ち砕いたのは、彼や陸上自衛隊などで鍛え上げられた、精強な臨時即応部隊であった。彼らは紫の指示のもと、刀剣類管理局本部で荒魂出現時の対策として置かれていた、対荒魂拘束ユニットを持ってIEDの設置された箇所へと分かれていく。
「まず燃料タンクだ!準備でき次第、発射!」
近接信管に取り付けられた距離別安全装置を解除し、IEDへ向けて各個に自由射撃を開始する。着弾と同時に冷凍弾が降り注ぎ、周囲の凍結を始める。僅か数秒ほどで、IEDの周りはガチガチに凍りついた。
「撃ち方止め!タイマーが止まっているか確認しろ!」
「はっ!」
二人掛かりでデジタルタイマーの表示を確認する。時間表示は、起爆数分前で停止した。
「タイマーの停止を確認!」
「よし!ウチの部隊の担当は、あともう一つある!急ぐぞ!」
「「了解っ!」」
こうして、特祭隊員たちの迅速な行動により、設置されていた三ヶ所のIED起爆は阻止された。ヘリポートや刀剣類管理局本部が爆炎に包まれることは、未然に防がれたのだ。この作戦対処と同時並行で進められていた、人質の避難誘導は八割方完了していた。
鎌倉での戦闘は、あともう少しで収束に至る。誰もがそう考えていた。
ー刀剣類管理局本部 ヘリポートー
北見が戦線離脱の前に発した命令は、彼女の派閥の戦闘員達に届いていた。刀使から制圧される前に無事であった戦闘員の一部は、ヘルメットを外したうえで刀使に対して攻撃の意思が無いことを示した。後ほどちゃんと投降することを条件に、即席ながら刀使達との共闘に打って出た。
「牽制射撃を続けろ!刀使さんには一発も当てるな!」
「「了解!」」
屋上から撃たれた戦闘員の多くは北見の派閥ではあったが、むしろ刀使達に協力的なハンドサインを送るなどしたこともあり、真奈美の派閥の戦闘員を抑えたいという意図が伝わったようである。三~四人程度の集団ではあったが、真奈美シンパの戦闘員の意識を人質から彼女達に逸らすことで、作戦の成功がより確実なものへと移っていった。この隙に、人質達を順次誘導していく。
「美濃関隊と夜見さんは、銃撃を回避しつつ制圧活動を!あともう一押しですわ!」
「「はいっ!!」」
「…了解しました。」
寿々花の指示のもと、統制された攻撃を続ける。これは紫が指示する鎌府・長船側や、ミルヤが指揮する綾小路側でも同じであった。
「くっそおっ!!」
「どりゃぁあーーっ!!」
「動きを縛れぇ!」
真奈美シンパの戦闘員達は銃撃や手榴弾による爆撃で応戦するも、圧倒的な戦力の前には適うはずもなかった。
撃ち合いになり相討ちとなるケースもあったが、多くは刀使の力を借りながらの制圧となった。
そして、抵抗する戦闘員が残り
「おのれおのれおのれぇ!!―お前達刀使も男の味方をするんだなぁ!」
「…確保ぉ!!」
最後は鎌府・長船の刀使連合により、戦闘員の制圧が完遂された。
相手側の制圧が完了したと思われ、先陣を切った里奈や早希も写シを解いた。その二人に、先ほど少し銃撃のアシストをした誠司が合流する。
「終わったぁ…。」
「これでもう、安心だね。」
「中島、早希、お疲れ様。……しかしなあ、早希。お前には逃げてくれって言ったはずなんだが。」
「ごめんね。…里奈さんが、私の我が儘に付き合ってくれたの。」
「まっ、あなた達二人が揃ってこそのウチの部署も少しは輝くんだし、私も得られるメリットが大きい方を取るわよ。」
「中島……。ありがとな。」
「礼は早希さんに言ってやりなさい。」
「ああ、…っていうかお前、早希のこと、いつから名前で」
「ついさっきよ。」
と、ヘリが燃えるなかであっても、普段どおりの日常に戻るであろうと、今話していた里奈達はそう思っていた。
里奈達から少し離れた位置では、舞衣と上川が『男性排斥運動』側の戦闘員の数の確認を行っていた。制圧漏れが無いかを調べるためだ。
「はい、…はい。19人、ですか?分かりました。」
「……おかしい。この場に展開していたのは20人だったはず。一人足らないとは…。」
「……まさか、まだ潜んでいるとは考えられませんか?」
「こんな遮蔽物のない空間でか?」
「でも、それしか考えられないんです。」
上川が嘘を言っているようには、舞衣は思えなかった。だが、舞衣のこの直感は当たっていた。……しかし、それに気が付いた時には遅かった。
戦闘もほぼ終結し、あとは怪我の検査をする程度だろうと考えていた、里奈達三人。
「あー、疲れたぁ。」
「糸崎君。今回の作戦が完了して、◯◯さんも見つかったら、二人っきりで旅行に行かない?あと、お義父様やお義母様と里奈さん達とでお話したりとか。」
「おっ、いいな、それ。…まあその前に、早希とは最近ご無沙汰だったし、部屋でしっぽり過ごしたいもんだな。」
「もう、糸崎君のエッチ///」
だが、そんな冗談まがいなやり取りは、唐突に終わりを迎えた。
早希が一瞬、首を後ろに向けた時だった。無防備な誠司の背中へ、黒く光る銃口が向けられていた。
「誠司君、危ない!!」
ダダダダーン!!
早希が誠司の盾になる形で、数発の弾丸が彼女に突き刺さる。そのまま、二人は倒れた。
「ちっ、外しただと!仲間の仇討ちだ!もう一度食らえ!」
「―!!―こんのくたばりぞこないがぁ!だあぁぁーっ!!」
激昂する里奈が瞬時に写シを張り、二人へ向けて銃撃した戦闘員を制圧する。その際、ヘルメットの側頭部が激しく凹んだようだが。
「糸崎!早希さん!しっかりして!」
「…いててっ…。一体、何が…?」
相手を無力化した里奈が詰め寄った時には、見た限り誠司のほうは無事そうであった。
しかし。
「早希さん…!早希さん、しっかりして!」
「……里奈、さん、…糸崎、君は。」
「貴女が庇ったお掛けで無事よ!」
「そう、ですか…、グホグホッ!」
早希の口からは、赤黒い鮮血が飛び出す。
「さ、早希!!すぐ助けを呼ぶから!」
「……良かった。…糸崎君が、無事で。」
「なあ、早希!死ぬんじゃねえ!まだ俺と一緒に過ごしていきたいんだろ!?死ぬ時は一緒に、ってさっき言っただろ!」
「…ゴメンね、…その約束、守れそうに、ないよ…。」
早希は弱々しく、誠司の言葉を返していく。
「至急至急!刀使一名が銃撃を受け重傷!トリアージタグは赤!お願い!誰か、三原さんを助けて!!」
里奈は、急ぎ衛生科や救護部隊の人間を手配するよう、必死に本部へ呼び掛ける。
「早希!しっかりしろ!まだ逝くんじゃねえ!」
彼女の出血量を少しでも減らすため、うつ伏せに近い状態にする誠司。弾が貫通していなかったのはまだ良かったのだが、無情にも、その銃創から血が少しずつ流れ出ていた。彼女の口や背中からの流血が、早希を抱き寄せていた誠司の手や胸を赤々と染めていく。
早希も自分の状態を悟ったのか、誠司に遺言めいたことを告げていく。
「…糸崎君。…今まで、私の彼氏でいてくれて、ありがとうね。……またいつか、会えるといいなぁ…。」
「…おい早希!絶対に死ぬんじゃねえ!頼むから、俺を一人残して死なないでくれ!なあ!」
「…糸崎君。顔、向けて。」
「早希、な…んっ!!」
その口づけは、血と鉄の味だった。彼女が保てる最後の力で、誠司と目を合わせた。その表情は、重傷者が浮かべるとは思えない、非常に穏やかな微笑みだった。
「…誠司くん。……私は、ずっと、そばにいるから…………。」
その一言を最後に、彼女は言葉を発さなくなった。
「……おい。…おい早希、……早希!返事をしろっ!――さきぃぃぃーっ!!」
誠司は、うつ伏せにしていた彼女の身体を抱くように、悲嘆の咆哮をヘリポートへと轟かせた。
[刀剣類管理局本部 ヘリポートでの被害]
・『男性排斥運動』側:重傷者/4名(重体含む)、軽傷者/11名(銃撃の擦過傷など)、無力化拘束/9名
・特別刀剣類管理局側:重傷者/2名(重体含む)、軽傷者/37名(気化した燃料を吸うなどの化学的受傷も含む)
〈備考〉
IEDの設置など想定外の事態は重なったものの、概ね作戦は成功した。しかし本作戦上で唯一、刀使に重傷以上の深手を負う者を出す現場ともなった。伏兵として隠れていた戦闘員から、刀使が身を挺して一般男性を守ったことがその理由である。
この現場では、エンジン始動中だったヘリのパイロットも拘束者の中に含めている。
人質奪還という戦略的目標は、全員生還による解放として無事達成された。しかし、この作戦は最終的に後味の悪さが残る結果となってしまった。
この後味の悪さを打ち消すかのような、一人の刀使が愛する人を身を挺して守ったという話は、良くも悪くも世間へと拡散されていった。
このようにして『相模湖擾乱』の第二段階である、男性排斥運動が刀剣類管理局本部で引き起こした武力クーデター未遂、通称『鎌倉事変』は幕引きとなった。だが、結果としては首謀者である真奈美達が作戦上の混乱を利用して逃亡したことで、最終的に『相模湖擾乱』という事態へ突き進む、最後の分かれ道となった。
そんなことを全く知らない、心身に傷を負った刀使達や管理局側への試練は未だ続く。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
次話は鎌倉での事後談を綴りまして、いよいよ編のタイトル回収に参ります。
それでは、また。