刀使の幕間   作:くろしお

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姫和編 その1です。

時系列的には胎動編と波瀾編の間のあたりです。
なお、筆者は時系列は適当に進行させていくつもりです。

短めですが、どうぞ。


姫和編
① 実家訪問


 ―奈良県某所―

 

 鎌倉の刀剣類管理局から向かうこと三時間。

 奈良市内にある平城学館に立ち寄った際、俺は五條いろは学長から、十条(じゅうじょう)姫和(ひより)のことを頼まれた。

 彼女は、鎌倉の夜の一件以降、いわゆる燃え尽き症候群をこじらせていた。

 

 関東一帯では、隠世に逃げたタギツヒメが多量のノロをまき散らし、荒魂を数多く生み出していた頃だった。

 各伍箇伝の刀使や、刀匠などを関東に派遣していたため、補充要員も含めて人手が足らなくなっていた。

 それに加えて、荒魂に対処しようとする負傷する刀使の数も増えたことで、世間の刀剣類管理局に対する風当たりも強まっていた。

 

 そんな折、俺は平城学館へと関東出向組の近況報告を届けに向かったのだが、頼まれた以上は見に行かない訳にもいかず、近畿日本鉄道橿原神宮前駅からタクシーに乗り込み山へと向かう。

 

 

 タクシーが、姫和の自宅の前に止まる。

 車から降りると、棚田や藁葺き屋根の家など、のどかな田園風景が広がる。

 この風景が、心の内にどこか懐かしさを感じさせる。

 

「来たのか。学長から話は伺っている。」

 家の方を見ると、白い三角巾を頭に巻き、白エプロンを付けた姫和の姿があった。

 ちょうど家事をしていた様子だったようだ。

 

「わざわざこんなところまで済まないな。上がっていくか?」

「有り難い。色々聞きたいこともあったしな。」

 姫和の言葉に甘え、手入れの届いた藁葺き屋根の家へと入れさせて貰った。

 

 

 チーン

 

 

 家に上がって真っ先に、彼は十条家の仏壇の前に線香をあげる。

 昨年他界した姫和の母、十条篝。旧姓柊篝の写真がそこにはあった。

 

「ありがとう。母の為に線香を上げてくれて。」

「なに、篝さんや美奈都さんがいなかったら、あの大災厄はもっと酷いものになっていたかもしれなかった。俺にできるのは、これくらいのことだよ。」

 故人を偲ぶことが、細かい諸事情を知らない者にとっては、一つの償いだとも彼は感じていた。

「そうか…。…少し時間はあるか?」

「まあ。五條学長からの頼まれ事もあるし。」

「ちょっと食べてはいかないか?」

「わざわざ手料理をか?…感謝するよ、そこまで気を回してくれるなんて。」

「元々、私一人の夕飯が二人分になるだけだ。お前が気にすることは無い。それに、誰かとたまには食事をしたいと思っていたところだったしな。」

「お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

 姫和が料理を作っている姿を見ながら、いろはから渡された資料に目を通す。

 ふと、彼女の姿を見る。

 手早い包丁捌きで、野菜や肉を鍋に流し込む。

 自分でも自炊はするが、ここまで速い動きはできない。

 凄いと感じると同時に、今まで母親の世話や復讐のことを考えると、この娘には幸せになって欲しいものだな、とそう願った。

 

「出来たぞ。」

 姫和がお盆に料理を載せて、テーブルの上に皿を乗せる。

 ご飯に小松菜の味噌汁、茄子とピーマンを和えた野菜炒め、冷奴とレパートリー豊かだ。

 

「「いただきます。」」

 二人は、箸を進める。

「美味いな…。」

「そうなのか?」

「ああ。いつでも食べていたい味だ。」

「なっ!」

「ん?今俺おかしなことを言ったのか?」

「いや…、何でもない。」

 ちょっと頬を赤らめる姫和。

 その後も幾度となく言葉を交わしたが、姫和の態度はどこかよそよそしかった。

 

「「ごちそうさまでした。」」

「さて、俺が来た本題だな。」

 俺は、五條学長から頼まれたことを姫和に聞く。

「ああ。…この先、刀使を続けるかどうかだな。」

「正直、俺は君が決めたことに対して、何だかんだ言う資格はない。ただ、もし刀使を続けるつもりなら、その時俺は君に協力したいと思う。…何ができるかは分からないがね…。」

「いや、そう言ってもらえただけ充分だ。…気持ちの整理にもう少しだけ時間が欲しい。」

「わかった。五條学長にもそう伝えておこう。」

 姫和が二つの湯呑に注いだお茶は、どちらも静かに茶柱を立てていた。

 

 

「そろそろ戻るかな。ちょっと電話を借りるぞ。」

 タクシーを呼び出し、荷物を整理して帰宅準備を始める。

「なあ?」

「ん?どうかしたのか?」

「いや、もし刀使を続けるなら、また会える機会はあるのか?」

「?そりゃまあ。何だったら連絡先を交換するか?」

「⁉…いいのか?」

「ああ。別に減るものでもないし。」

 あっさりと互いの連絡先を交換する二人。

 ちなみにこれ以降、二人のやり取りが高頻度になることを、知る者はまだいない。

 

 

 タクシーが姫和の家の前に止まる。

 俺はトランクに荷物を積み込む。

「おい!」

「うん?」

「今度、また会えたら…その時も手料理を食べてくれるか?」

「…当たり前だろ。あれだけ美味しい料理を食べないと言う方が、おかしいだろ。」

「そうか。」

 姫和は、見送り際に俺に微笑みかける。

 

 

(チョコミントの料理…、アイスだけでも食べられるようにしてみるかな。)

 橿原神宮前駅に向かうタクシーの中、復讐心から解放されつつある一人の刀使の好みを考えながら、彼は東奔西走の日常に戻る。




ご拝読頂きありがとうございました。

姫和は作中でもタギツヒメの存在に右往左往させられた一人でした。
それだけに、こういう場では平和な日常を送ってもらいたいな、と思ったところです。
(無論、あくまでも私の考えですが。)

さて、次は誰の回になるのかな?
甘い雰囲気を書くのは、筆者のスペック的に厳しいのでご容赦を。

感想等ございましたら、感想欄等で対応させて頂きます。
それでは、また。
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