刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は、若干の状況の進展と、事後処理的な話として刀剣類管理局とマスコミ向けの会見の様子を綴っていきます。

それでは、どうぞ。


② 横浜特別会見

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 二人の失踪から四日目。

 姫乃から依頼された情報は、葵の手によって部署内での共有が進められていた。

 

 

 

 

 会議の音頭を執る里奈が、揃っている全員へ確認を求める。常駐組では里奈のみ、実働部隊からは倶晴、葵、愛実、圭吾が顔を合わせている。誠司と姫乃はそれぞれ事情があり、席を外している。

 

「皆、姫乃からの情報は届いてる?」

「はい、何とか。」

「ですが、糸崎さんを外したまま会議を始めても、本当にいいんですか?」

「……今は、彼女の傍に居させてあげましょう。早希さんの容体がどうなるのか、まだ分からないんだから。」

 

 里奈は、会議に集まった他の人間にそう告げる。

 早ければ今晩が峠と言われている早希の容体。意識はまだ戻っておらず、誠司が施設側の許可をもらってずっと彼女の側に付いている。早希の家族も既に鎌倉入りしている。現状の彼女の命は、まさに風前の灯火とも言える。そんな中で早希のもとから彼氏を引きはがす真似を試みるほど、里奈の精神は図太くなかった。

 意識を会議の場に戻すと、倶晴が手を挙げる。

 

「人質に取られていた生徒や刀使、特祭隊員の方々の、その、精神的な面はどうなんでしょうか。」

「北野君の懸念は最もよ。現在、朱音様と本部長がカウンセラーの手配を進めているわ。…特に美濃関の人と鎌府の生徒は優先的に診てもらえるように上申しているところよ。」

「なぜその二校の生徒を?」

「美濃関に関しては、戦闘に参加した刀使が直接死体を見ているしね。鎌府で人質に取られていた生徒は、あの抑圧的環境と精神的なダメージが大きいことを考慮しての優先度よ。」

「…中島さん、私もそのカウンセリングに加わってもよろしいですか?」

「いいけど、どうしてまた?」

「……これを言うと引かれるとは思いますけれど、言わないと参加理由が説明できないので話しますね。」

 

 

 そう言って、倶晴は自身の素性を説明する。

 

 

「私の実家は寺でして、昔から住職を務める祖父の手伝いをしながら生活してきました。両親もいますが、だいたい親代わりで祖父が私の世話をしてくれていたのです。」

「ほぇ~、また変わった経歴の持ち主ね。」

「続けます。その祖父の手伝いの中に、お祓いも含まれていまして。実際にお祓いを担うこともありました。…その頃から、お祓いをした方から黒い靄のようなものが消えていくのを見る機会が増えていきまして。祖父にそれを話すと、それは一般に『悪い気』というものだと言われました。祖父はうっすら判別できる程度だったそうですが、どうやら私はかなり強く判別できる体質だったそうです。」

「それって~、所謂霊感ってヤツですかい?」

 

 倶晴の説明に対し、愛実が若干馴れ馴れしい感じの口調で訊く。彼はそれに対し、素直に答える。

 

「今となっては、恐らくその表現が正しいでしょうね。とはいえ、ストレスから生じるものと、本当に霊的な何かに憑りつかれたものと、大きく分けて二つありますから、人によって対応方法は異なりますね。」

「…つまり、北野君はその気とやらを祓うことができる、って認識でいいのね。」

「はい。つい昨日も、いらっしゃった水沢さんの背後に黒い靄が見えましたので、清めの塩を含んだ水を飲んでいただきました。」

「いつの間に……。というか、姫乃にも憑いていたのね。」

「水沢さんの場合は恐らく、作戦中に亡くなった死者の霊あたりが憑りつこうとしたのかもしれませんが。幸い、時間がそう経っていませんでしたので、除くことができました。」

「ちなみに、今いる人間でその黒い靄が濃いのって、誰?」

「それなら水無月さんですね。この場合は、恐らく疲労からくるものでしょうが。」

「わ、私ですかっ!?…まあ確かに、疲れっぽいなあとは思っていましたけれど。」

 でもそんな科学的根拠のないものを信じたくはない、と若干抗議めいた言葉を漏らす葵。

 

「確かに水無月さんの仰られていることもまた、根拠に乏しいと言える理由になり得ます。とはいえ、それを言い出したら中島さんのような刀使さん達も科学的説明ができないと思いますよ。どうして神力が引き出せるのか、とかでしょうか。」

「うぐっ、…そ、それは…。」

「とりあえず、ただのハッタリとかでは無さそうね。―分かったわ。カウンセラー業務への参加を認めます。その代わり、記録役兼監視役の人間を一人付かせるわ。そのあたりでは不便をかけるわね。」

「了解です。…まあ、仕方のない話ではありますから。」

 

 倶晴の希望に沿う形で、カウンセラーとしての派遣が認められた。以後、刀使達や特祭隊員達への精神的ダメージを解消するべく、彼は持ちうる力を全て振るってこの事態に対処していくのだった。

 

 

 

 

 議題に戻り、今後の彼、千里、そして新たに失踪が発覚した真奈美の捜索に関しての方針を協議する。

 

「姫乃と水無月さんの情報によると、二人を連れ去ったであろう車は相模湖近辺の崖に転落。今、その一部部品を鎌府の研究施設で解析してもらっているけど、今晩中には意図的な放火か、事故による火災かの結果が出るそうよ。播さんを中心とした、長船や鎌府の合同研究チームが死に物狂いで解析中だから。」

「…銃撃痕があったのが気になりますが、仲間割れでもあったのでしょうか。」

「案外、金の切れ目だったりしてねぇ~。」

 

 愛実の推測は一部当たっているのは、彼女の持つ発想力の豊かさが影響しているのかもしれないが。

 連動して、圭吾も呟く。

 

「…ということは、○○さんや四条さんもその近くに居る、もしくは埋められているという可能性が?」

「まだそこまでは…。…水沢さんの考えでは、恐らくという話ではありましたが。」

「ん~でもさあ、今のところ死体の一つすら見つかってないんでしょ?犯人はバイクで逃げたとかないのかねえ。」

「…バイク、…………ああっ!!」

 

 愛実の何気ない一言に、葵が驚いたように大声を上げていきなり立ち上がる。

 

「ど、どうしたのさ、葵っち。」

「中島さん、プロジェクターとパソコンの電源って入ってますか?」

「ええ。いつでも使えるわよ。」

「カーテンを閉めてもらってもいいですか。それと、ホワイトボードも準備させてください。」

「…?構わないけど。」

 

 葵はスクリーンに映像を投影するとともに、ホワイトボードへ何かを描き始める。

 

「水沢さんと一緒に調査した、この転落した黒いバンですが、実は後部座席の部品が見つからなかったんです。」

「後部座席の?」

「はい。ですので、二人を連れ去った人間は一般的な人員輸送目的ではなく、何か大きな物を運ぶスペースを確保しなければならないような仕事をする、もしくはしていたのかと推測はしていました。…ですが、お二人の誘拐時にもしバイクを一緒に乗せていたのならば、転落現場周辺で人の痕跡が見つからなかったことに説明がつきます。」

「え?二台で分けて行ったとかではなく?」

「もしそうなら、各地のNシステムや防犯カメラ映像に先走り、あるいは追走する車があっておかしくありません。ですが、そんな痕跡は転落現場からも、各映像からも見つかりませんでした。」

「別にそう不自然な話ではないのでは?先に現場で待ち合わせていてもおかしくないでしょうし。」

「…車道のタイヤ痕が、一つしかなかったんですよ。しかも、砂の上に残っていたものが。」

「「!?」」

 

 そう、葵がおかしいと言った理由。それはタイヤ痕の数である。転落現場近くにあった、一本道の道路を半分近く覆う砂の山には、警察車両以外のタイヤ痕が一つしか見つからなかったという。もし二台で来ていたのなら、タイヤ痕は二つあるいは三つ無ければ変である。この道の途中にあるNシステム付きの信号も、この車しか通行していなかったという証拠が残っていた。

 また、爆発の際に吹き飛んだであろう右後輪のタイヤが道路上で見つかっており、タイヤ痕も一致していることからほぼ間違いないという。タイヤ痕が来た方向の一つしか無いという事実が、車の通行が一台だけであったことを補強したのだ。

 

「ですがこの砂の山、困ったことにバイクは余裕で通過できるほどの隙間があるんです。行きにもし把握していれば、避けることは容易いことでしょうし、特定は難しいでしょう。」

「車の往来は少ないのに?」

「意外とツーリングをされる方や、配達や配送のためにこの道を通行される方が多いようなんです。ただ、この車が転落したであろう日や時間帯に通行したという目撃情報や証言は、残念ながら得られていません。」

「でもなんで、バイクとこの車とが線で繋がるわけ?」

「…もし、バイクで逃げることが可能であるならば、○○さん達が失踪した日のこの人の動きが、より一層怪しくなってくるんです。」

 

 そう言って、葵は一人の人物像をプロジェクターから映し出す。

 

「―!?嘘、だろっ!?」

「……やっぱりねぇ。」

「そんな、まさか。」

 

 驚きと確信が混じる中、里奈はその人物の名を上げた。

 

 

 

 

 

 

「『祇園真奈美』、ね。」

 

 

 

 

 

 

 葵と里奈は、じっと同僚の情報を睨みつけるのだった。その中の写真からは、愛想も嫌悪も感じられない、虚無の感情が滲み出ているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー神奈川県横浜市 TKPガーデンシティ横浜 某貸会議室ー

 

 里奈達が色々と話し合っているその頃、姫乃の姿はこの場所にあった。その理由は単純明快だ。『男性排斥運動』からの人質奪還作戦の総指揮者にして、本作戦上の責任者であったからだ。混乱極まる状況が一通り落ち着いたこともあり、マスメディアから詳細な説明を求められたことから、責任者を代表して彼女が説明責任を果たすことになったわけだ。無論、無責任なマスゴm…もといマスコミから姫乃ばかりに集中攻撃を向けさせないよう、他の刀剣類管理局本部の職員も矢面に立つ。

 

「…はぁっ。気が重いですね…。」

「水沢さん、大丈夫?なんだったら、後ろで控えているのも…。」

「いいえ、大丈夫です。―私達は今回被害者ですから。それに、必死に頑張ってくれた刀使さん達を護るためなら、このくらいのこと、やってみせます。」

「…強い娘ね。水沢さんは。」

 

 一緒に前で応対する女性職員から、そう言われる姫乃。内心考えていたのは、刀使達のことだった。

 

(里奈さんや三原さん達刀使さんは、荒魂じゃないのにも関わらず、命を賭して多くの人の命を救い出してくれました。…なら私は今、彼女達が不遇に扱われることのないよう、発信することだけを考えましょう。)

 

 強い想いを抱きつつ、彼女は部屋へと進めていった。

 

 

 

 

 マスコミへの通達は前日の深夜であったにも関わらず、多くの在京、全国ネットの放送局、新聞社、あるいは動画配信サイトの関係者などが詰めかけていた。各テレビ局のアナウンサーが会見の様子を報じるなか、姫乃達は粛々を準備を整える。

 

「えー、只今より、昨日発生いたしました特別刀剣類管理局及び特別祭祀機動隊本部、鎌府女学院での集団占拠事案に関しての会見を始めさせていただきます。なお、質疑応答の時間は最後に設けますので、その際に本件につきましての疑問点や不明瞭な点をご質問ください。説明中でのご質問は進行の妨げとなりますので、お止めいただきますようご協力をお願いいたします。」

「それでは、説明に入らせていただきます。」

 

 マスコミにつけ入る隙間を与えぬよう、即座に説明に入った姫乃。ここから先は、此方のターンである。まずは発生日時と場所を前置きして話す。

 

「本件は特別刀剣類管理局本部、折神家私邸、特別祭祀機動隊本部、鎌府女学院、及びその敷地内を銃火器で武装した集団によって、完全な強制排除までの約八時間半にわたってこれら施設を占拠されたものです。以下、この武装集団は彼女達が僭称していた『男性排斥運動(ブルー・パージ)』という名称を用い、続けさせていただきます。今回、対応が遅れた原因として、ヘリコプターにより侵入されたことで我々が空挺降下による武力行使を想定していなかったこと、職員や生徒達の人命を優先した結果、『男性排斥運動』側の容易な制圧・占拠を許したものと考えております。」

 

 実際のところ、コトの始めはこんな感じであっただろう。細かなところは、まだ調査する必要があるだろうが。

 

「その後、人質に取られていた生徒や職員の一部は『男性排斥運動』側より銃口を向けられ、生命に関わるほどの多大なストレスを強いられました。把握している限りですと、『トイレに向かおうとしただけで射殺される恐れがあった。』ということや、『男性職員に対しての暴行が激しいものがあった』ということが挙げられます。事実、男性職員の一部は人質として拘束中に灯油を掛けられております。救出後に直ちに医療機関へと搬送しております。」

 

 次に、人質に取られていた職員たちの実態を明かした。

 

「その後、『男性排斥運動』の主導者と、特別刀剣類管理局局長、折神朱音とで直接交渉の場が設けられました。その際の人質解放の条件として、此方側には『刀剣類管理局及び特別祭祀機動隊からの可塑的速やかな男性の排除』、『伍箇伝の各校からの男性生徒・職員の排除、今後一切の敷地内侵入の禁止。従わない場合は迅速な物理的排除の実施』、『今後折神家は『男性排斥運動(ブルー・パージ)』の策定する案のもと、主導的立場として、荒魂討伐などにおける刀使などの刀剣類従事者と男性のいかなる接触を禁止すること。これに逆らった者は毅然たる措置として、重度のペナルティーを科すことを義務付けること』、そして、『前述の内容を刀剣類管理局は不可逆的なものとして認め、以後、男性の社会からの排除に賛同する団体や活動に対し、これを妨げないことへと協力すること』の四点の完全履行を求められました。また、この回答期限は昨日の明朝6時とされ、この時刻を過ぎた場合、男性職員を優先的に殺害するとの警告を受けました。」

 

 そして、最も重要な、『男性排斥運動』側の異常点を強調するように、人質解放条件を開示した。

 

「此方はそれら要求を受け入れるわけにはいかず、また、回答期限までの短さもあり交渉による人質解放は事実上不可能と判断しまして、武力行使による人質奪還作戦を実行した次第となります。残念ながら、この作戦時には戦闘による死傷者も発生しております。なお、人質に取られていた人員は、全員生還しております。本件の概略については以上です。」

 

 最後に、武力排除を行ったことを説明する。当然ながら此方に非は全くないのだが、『男性排斥運動』側が何らかのメッセージを示してくる可能性も踏まえ、敢えて正当な権利であることは伏せた。

 

 

 

 

 

 そして、マスコミからの質疑応答に移る。比較的簡素な説明にしたこともあり、色々と聞かれる可能性はあったため、姫乃は身構えていた。

 

「それでは、質疑応答に移らせていただきます。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。」

 

 すると、室内を見渡す限りの手の数が挙がる。

 

「それでは、右前の緑色の腕章の方。お願いいたします。」

「はい。え~□□新聞の伊藤です。今回、武力行使に至った経緯、その際に生じた被害について教えてください。」

「では、その点について説明させていただきます。」

 

 姫乃が答える。

 

「今回、『男性排斥運動』を名乗る武装集団は、自衛隊の装備に匹敵する自動小銃や重火器を保持していました。特に当該集団は、ロケットランチャーによる攻撃で神奈川県警の車両を二台破壊し、警察官を数名負傷させております。また、対空機関砲も配置しており、これらが敷地外の市街地に向けて発砲された場合、近隣住民に多数の死傷者が生じる恐れが高いという問題もございました。当該集団の火器が実弾であることは報告を受けておりましたので、生徒・職員の生命を最優先として武力行使による『男性排斥運動』側の排除を決定いたしました。」

 

 一度息継ぎのため、マイクを口元から遠ざける彼女。

 

「武力行使に際し、まずは被害を最小限にするための先制攻撃を行いました。その際に、特別刀剣類管理局本部正門付近に展開中であった当該集団の大多数を、死亡を含めて無力化したうえで突入しております。この一連の作戦において、特別刀剣類管理局側での現在死者は出ておりませんが、重体の刀使を含めて重傷者11名、軽傷者67名となっております。人質については先述の通り、全員解放しております。」

「……ありがとうございます。」

 

 生々しい情報の開示に、会議室内では若干重苦しい空気が流れ始める。

 

 

 

 

 次に質問したのは、比較的攻撃的な論調で知られる新聞社であった。

 

「△△新聞社の江田です。刀剣類管理局は本当に今回、武力行使を行わなければならなかったのでしょうか?説明を聞く限り、我に正義有りと言わんばかりに、その『男性排斥運動』側の人間を殺しているようにしか聞こえないのですが!?」

 

 若干の煽りも交えて質問をしてきた。

 もちろん、その対策もしている。

 

「……その決定を下したのは、私です。」

「ほう、貴女が。じゃあ、貴女の一存で簡単に命を奪ったわけですか?そんな若いのにも関わらず、後先考えないで人の命を奪ったという。そんな資格が貴女にあるのですかねえ?―はっきり言って、人殺しですよ貴女は。」

「ちょっと、貴方!!」

 

 批判しようとした女性職員を、静かに手で制した姫乃。罵声ともとれる江田の発言に対し、彼女は静かに口を開いた。

 

「……私も、物凄く悩みました。私達は本来、荒魂を討伐し、ノロを回収することが使命の組織です。そんな組織なのに、一般人へ攻撃を行うことへ躊躇するのは当然の話です。江田さんの言っているとおり、私はまだ若く、人の命を奪う権利などないはずでした。」

 

 しかし、と一呼吸おいた。

 

「ですが、状況はそれを許してはくれませんでした。局長をはじめ、本来指揮を執るはずだった多くの方々が人質に取られたこと、先述のとおり、多くの職員や生徒達の命が危険に晒されていたこと、そして何より、荒魂討伐を行えない状況が長引けば長引くほど、あの『鎌倉特別危険廃棄物漏出問題』や『年の瀬の大災厄』のような状況が起こった時に、荒魂に抗う術を持たない人たちの命が危険に晒されかねないこと。これらの理由が、頭の中で過ぎったわけです。当然、この戦闘で亡くなられた方にだって人権はあります。ですが、他人の命を脅かすような行動を起こして、殺害まで仄めかしたあげく交渉も決裂したともなれば、正当防衛と緊急避難に基づいた対応を執るしか、私達に残された方法はありませんでした。」

 

 涙も出そうになっていたが、堪えて続ける。

 

「江田さん。もし、もし貴方の大切な家族や同僚の方が人質に取られ、自分が相手を殺さなくては誰も救えないと分かった時に、貴方はその大切な方々を見殺しにできますか?―助けられる力があるのに、それは何もしない方がいいということですか?……残念ながら私は、友達を、大切な職場の人達を見殺しにはできませんでした。例え、相手側に多くの死者を出してでも、その遺族から死神や人殺しと罵られようとも、私達にとっての当たり前の日常を守りたかっただけなんです。理解はしなくても構いません。ただ、知っておいてください。…以上です。」

「……ありがとう、ございます。」

 

 江田は、感情論に見せての具体的かつ法律的観点からの考えを入れ込んでいた姫乃の言葉に、詭弁だとは言い返せなかった。なお、全国で中継されていたこともあり、会見終了後から一週間ほどは△△新聞社への抗議の電話やメッセージが殺到したという。

 

 

 

 

 続いては、上下白のスーツを着たアナウンサー風の女性記者であった。

 

「では、そちらの白いスーツを着た方、お願いいたします。」

「はい。**テレビの白井です。会見内容で少し触れていらっしゃっていましたが、重体の刀使の方もいらっしゃるというのは、事実でしょうか。」

 

 若干の戸惑いの後、視線をさげていた姫乃は白井に向き直る。

 

「…事実です。今回の人質作戦では、刀使の皆さんが『男性排斥運動』側の人々を殺さぬよう慎重に無力化していただきました。本作戦に参加した刀使の多くに小型カメラを取り付けてありますので、疑われる方に対して情報を開示させていただいております。……重体になった刀使は、私の友達でもあります。彼女には、私達から見ても相思相愛と言われるほどの仲だった彼氏がいました。彼女は彼氏を守ろうとして、『男性排斥運動』の人間の凶弾に倒れました。今は生死を彷徨っている状態です。」

「…発言しにくいなか教えていただき、ありがとうございます。」

 

 白井の質問はそれで終わった。

 

 

 

 

 広範に及んだ多数の記者からの質疑応答も終わり、最後に姫乃が世間へ向けたメッセージを送る。

 

「…報道関係者の皆様、あるいはこの中継を見ておられる視聴者の方々に、お願いがあります。私達、刀剣類管理局の人間に対して、様々な意見・お怒りの声があることを存じ上げています。ですが、現場で日々荒魂と命懸けで対峙する刀使の方々を、非難し中傷するようなことだけはどうか止めていただけますようにお願いいたします。全ての責任は、私達にあります。今この時も荒魂と戦い続いている彼女達を、どうか責めないよう、お願い申し上げます。」

 

 生中継であったことから、この言葉は全国へと拡散されていった。後に、姫乃の活躍の語り草となる、この横浜の特別会見はつつがなく終了した。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

静かに狭まる包囲網、同僚達は果たして真相に辿り着くことができるのか…?

それでは、また。

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