刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は鎌倉に戻る前に姫乃が向かった、相模湖付近での情報探索の話になります。

長くなりますので編の構成を二部に分け、今話からナンバリングを再びリセットいたします。今話から起承転結の「転」の部分に入っていきます。

アンケート結果を踏まえ、前編と本編は現状維持の形での執筆を継続いたします。今回のアンケートにご協力いただいた読者様、ありがとうございました。
(アンケート結果は、本話の後書きに乗せさせていただいております。)

なお、この編が終わる数話前より、再度現状維持か分離かのアンケートを取らせていただきます。その際にはまた、ご協力のほうをよろしくお願いいたします。

それでは、どうぞ。


相模湖擾乱編(捜索活動~解決まで)
① 一筋の手がかり


[今話までのあらすじ(『鎌倉事変』に至る経過)]

 2019年春、刀剣類管理局本部にある彼の部署に六人の男女が新たに配属された。そのうちの二人、祇園真奈美と四条千里は綾小路の生徒であり、同級生の友人関係であった。

 ある日、千里と彼は真奈美とその仲間によって誘拐され、何らかの施設に監禁されてしまう。誘拐が発覚したあと、彼の同僚達が失踪した彼や千里の情報を必死に収集したのだが、二人の足取りはほとんど掴めなかった。

 

 そんななか、折神家や刀剣類管理局本部などが『男性排斥運動(ブルー・パージ)』と名乗る武装集団によって、制圧・占拠される事態(『鎌倉事変』)が発生。多くの生徒、職員らが人質に取られた。

 無事であった刀使や特祭隊などに対して示された、武装集団側の人質解放条件があまりにも現実的でなく、かつその回答期限も短く切られていたことから、刀剣類管理局側は期限前の人質奪還へと舵を取った。

 だが、この相手が想像以上に重火力であり、人質解放のための突入すらままならない状況が回答期限直前まで続いた。鎌倉市を所管する神奈川県警は単独での人質解放を諦め、自衛隊も動けない状況に追いやられたことも影響している。

 その後は情報収集を進め、人質に取られた本部などの人間や失踪中の彼に代わって、特祭隊全体の指揮権を預かった姫乃の作戦により、刀剣類管理局側は早期に武装集団からの人質・施設奪還を成功させる。

 しかし、その代償も大きく、刀剣類管理局側は早希をはじめとした刀使や特祭隊員などの人的被害、ヘリポートの使用不能といった物的被害を受けることになった。

 

 作戦の事後処理に追われる姫乃達だが、彼女達は決して二人を見捨てたわけではなかった。むしろ、二人を救うべく準備を整える段階に移ろうとしていた。


 

 

 

 

 ー神奈川県相模原市 津久井警察署ー

 

 鎌倉の本部が『男性排斥運動』によって占拠される、その約数時間前。

 彼や千里の捜索指揮を執っていた姫乃は、山中の崖下で見つかった不審な黒いバンの情報を確認するべく、相模原市へと向かっていた。

 

「交通課はこちらです。車を発見した状況も聞けると思いますよ。」

「ありがとうございます。」

「では、私はこれで。」

 

 案内をしてくださった警察官は姫乃達を目的地まで届けた後、元々の部署へと戻っていった。

 

「失礼します。交通課の笹原さんはいらっしゃいますでしょうか?」

「…?失礼、貴女は?」

「あ、申し遅れました。私は鎌倉市の刀剣類管理局本部から来ました、水沢と申します。後ろに控えているのは、同じところの人間です。」

 

 姫乃が右手を使って、訊いて来た警察官へと葵達に向けて誘導を行う。と同時に、葵達三人も会釈をする。

 

「…水沢さん…、―あー!県警本部から問い合わせのあった方ですね。」

「はい、その件で此方まで出向いた次第でして。…お話し等、お伺いしてもよろしいでしょうか。」

「分かりました。少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか。」

「はい。」

「では、あちらの部屋でお待ちいただいても構いませんか?」

「分かりました。…此方も準備をしてお待ちしますね。」

 

 笹原の言葉に従い、姫乃は案内された小会議室へと三人を引き連れて入る。

 その後、運転手だった男性が録音機材を、もう一人の男性が持ち込んだ資料の抜き出しを、そして葵は姫乃と笹原の会話内容を記録するために、パソコンを展開していった。

 

 

 

 

「お待たせしました。水沢さん達。…此方が、今日の朝見つかった車両の詳細です。」

「すみません、拝見させていただきます。」

 

 姫乃は笹原から渡された、黒いバンの情報の入るファイルを見ていく。

 

「…朝早い時間に見つかったんですね。」

「確か、六時か七時頃に付近を通行していた車から通報がありまして、『ガードレールが不自然に無くなっている』という情報が寄せられたのが、この車両の発見に至ったわけです。」

「……つまり、無くなったガードレールを捜索していたら、下から燃えたバンが見つかったということですか?」

「ええ。この道は相模湖の脇を抜けるのですが、ここを通る車はあまり多くありません。現在は整備された上の新道を行く車の方が多いですから、湖畔に沿う下の道路を通行するのは地元の人間くらいのものでしょう。道幅も、離合ができるほどの広さではありませんし。それができるのは限られた場所です。」

「なるほど…。」

「加えて、道の周辺には廃屋も多く、木が茂っている関係で湖の景色も見ることができません。ただ、旧道時代から電線や水道に関してはそのまま残され維持されています。災害時のバックアップのためでしょうね。」

「この黒いバンからは、遺体も見つからなかったんですよね?」

「そこが不思議なところで、ガードレールが根こそぎ抜けるようなほどの速度で落ちたのならば、何かしらあってもおかしくないのですが、発見時には周囲に人体らしき痕跡すらありませんでした。無人で落とすにしても、道路上に残った酷い擦過痕に説明がつきませんし。」

「…確かに、そうですね。」

「フロントガラスも焼け落ちていて、車から投げ出されたのか、はたまた自力で脱出したのかすら分からないんですよ。ドアも複数変形していて、判断しかねているところがありますし。」

「…これは酷い。」

 

 写真を見る限り、これほど激しい車体損傷ならば生存を疑う方が自然だろう。とはいえ、その判断を難しくしているのは、やはり転落場所の地形だ。

 

「本当に少し進むと、湖が目前なんですね。」

「ええ。ほんの二、三十mほどいけばもうそこは相模湖です。もし運転手がそこまで投げ出されているのであれば、水をクッション材にして生きている可能性もあります。ですので、一応湖のほうも捜索は続けております。」

「…ちなみに、今から現場に向かうことは可能ですか?」

「よろしければ、現場の捜査員に話を通しておきますよ。」

「ありがとうございます。」

 

 笹原と話を交えたことで、黒いバンの転落場所への現地調査が可能になった。これは彼や千里の失踪に関する情報が乏しいなかで、姫乃が状況の進展を見出した一筋の光明であった。

 

「では、私達は現場に向かいます。笹原さん。お忙しいところに申し訳ありませんでしたが、お話をしていただきありがとうございました。」

「いえいえ。何かの情報が得られたのならば、調べた甲斐があったものです。」

 

 姫乃は笹原にお礼を告げ、葵達も連れて転落場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ー相模湖付近 転落現場ー

 

 警察署から車を走らせること、およそ十五分。

 うっそうと生い茂る木々のなかを縫うように通された舗装が、ここが生きた道であることを感じさせる。

 

「あ、警察の方ですね。」

「水無月さん、許可証を。」

「はい。」

 

 葵は、先ほど笹原から貰った立ち入り許可証をファイルから取り出す。警察官にそれを見せると、すんなり車を通してもらえた。

 

「……何というか、この道暗いですね。」

「そうですね。……でも、こんなに見通しのいい道で崖下に転落するというのは、何か運転操作を誤りでもしない限り、起こり得ないと思います。」

 

 姫乃の言うとおり、道自体は暗くとも、規制線の奥に見える道路は少なくとも百mほど一直線に延びている。よほどのやらかしでもなければ、こんなところで事故を起こすことは考えられない。もし、何者かの関与や動物との遭遇ではない類の事故をここで起こすなら、車の欠陥か、免許を返納した方がいいレベルでの運転技術であったこととして疑った方がまだ良さそうだ。

 

「運転手さんは、先ほどの転回場所まで戻っていただいて、警察官の方の指示でバックしながら此方へ戻ってきてください。」

「了解です。」

「水無月さん、一緒について来てもらえますか?それと、研究所の方も。」

「はっ、はい。」

「私は主に何を手伝えばよいですか?」

「研究所の方は、車両の状態の写真と車の破片やナンバープレートなどの回収をお願いします。鎌府の新鋭設備なら、こうした金属部品の解析もできるでしょうし。」

「分かりました。」

「水無月さんは、弾痕の解析と車の炎上箇所を調べてください。」

「…?警察の方が炎上箇所の特定は済ませたんじゃあ…?」

「同じ結論になればそれでよし、現地で確認してまた違う結果が出てくることもありますから。私が直接行きたいと言ったのは、こうした現物での確認が重要になってくるからですし。来れば、紙や電子情報だけでは分からないことも分かりますから。」

「…なるほど。」

「ただ、下りる時は気をつけてくださいね。斜度が結構急ではありますから。」

「Oh…。」

 

 葵は崖下を見た瞬間、少しクラッとした。下を覗き込むと、車が落ちた時に付けたであろう衝突痕や車両を隠すように茂る木々が見えた。

 

「目測でも10m以上は下にありそうですね。安全帯とハーネスを取り付けますか。」

「…え、まさか生身で下るんですか!?」

「そのために動きやすい服装を、と言ったはずなのですが…。」

(ちょ、ちょっと待って、◯◯さんのところの人達って、こういう経験積んでる人達ばかりなの!?)

 

 姫乃がさらりと流した言葉に、唖然とした葵。自分が兼務するように言われた部署は、もしかしたら魔窟だったのかもしれないと気付くも、既に遅かった。

 

「……?水無月さん?」

「あ、いえ、私も準備しますね。」

(あぁー!しまった、断るタイミング逃したぁ!)

 

 葵は、人生初の懸垂降下をここで体験することになってしまった。姫乃がナチュラルサドであることに気付いていなかったことも、彼女の恐怖体験に拍車を掛けることとなった。

 

 

 

 

 その後、葵は正直に自分が懸垂降下を初めて経験することを姫乃に伝えた。それを理解した彼女は、理詰めな説明により葵の準備を終わらせた後、彼女より先に降下を開始する。登る時は、車に積んでいたウインチで引き上げるとのことなので、下りのみ気をつければいいような空気であった。

 遅れて降り立った葵は慣れない降下作業で酔いつつも、どうにか着地に成功した。

 

「…げっほげっほ…、酔いそうになりますね。……水沢さん?」

「放射線や放射能汚染の可能性はなし…、自然界レベルの数値だね。」

 

 流れるように取り出していた、放射線を測定するガイガーカウンターの値を見て、こう判断した姫乃。流石に何の異常が無かったからこそ良かったのだが、落ちた車が何を積んでいたのか分からない以上、警戒する方が自然というものだろう。

 

「まだこう…、焦げ臭いニオイがしますね。ガソリンの残り香もしますし。」

「警察の方も、あまり周囲の捜索を行ったわけではなさそうですね。」

 

 周囲を見渡せば、車両の爆発で飛散したであろう、バンパーやドアの一部、基部が剥き出しのカーバッテリーまでが転がっていた。

 

「あまり長居するのも危険です。車体の捜索のみに絞りましょう。」

「本当に手がかりがあればいいんですけれど…。」

 

 葵がそう呟くのも無理はない。これほど焼け落ちてしまい、車としての原形すら留めていないにも関わらず、はっきりと二人が乗っていたという痕跡が残っているとはとても思えなかったからだ。

 

「……。」

 

 姫乃は防塵マスクとゴーグルを着用しながら、焼けた車内を捜索する。

 

「…えーと、この弾痕は9mmで、これも9mm…、これもか。……全部そうね、これ。」

 

 黙々と作業する姫乃をよそに、葵は弾痕のサイズをノギスを用いながら一つ一つ確認を続けた。一部は蜂の巣状に弾痕が集中しており、この車に相当な恨みでもあったのか、と彼女はそう思わずにはいられなかった。

 

「水沢さん、弾痕の調査終わりましたよ……、って何をやっているんですか?」

「……本当に無いのかな、○○さん達の手掛かりは。」

 

 顔中に煤を付けた姫乃。何もかも焼き尽くされていて、二人の痕跡になりそうな体液などは消滅していた。姫乃は軽く絶望しながらも、一度新鮮な空気を得るためバンから離れる。葵も彼女を追い、ノギスと弾痕を一緒に写したモノを姫乃へ見せた。

 

「…水無月さん。弾痕の調査、ありがとうございます。これで、使われた銃器の種類を絞れそうです。」

「それならまあ、良かったです。」

「……今更な話ではありますが、証拠隠滅を図るなら放火は妥当な選択です。しかし、そこにわざわざ銃器を用いる必要性がどこにあったのでしょうか。」

「…確かに、謎ですね。」

 

 姫乃は、相手の不自然な行動に疑問を持った。もし単なる証拠隠滅でないとしたら、それはよほどの重大犯罪か、何らかの細工のためか。情報が乏しい現状ではそのどちらの可能性も捨てきれない。

 

「ん?水沢さん、あれ何ですかね?」

 

 ふとして森の方へと向けた葵の目には、角の光る何かが見えた。

 

「プラスチックの…、板?」

 

 姫乃もそれを確認し、近寄る。

 

「……!!―こっ、これは!?」

 

 それは、本来ここには無いはずのモノだった。

 

「どうして、本部への進入許可証がこんなところにあるんですか!?」

 

 一部焼け焦げた部分もあるが、ほぼ原形を留めていたラミネート加工済みの紙。端にICタグの取り付けられた特徴的な膨らみから、それを確信する。

 

「…ひょっとして、あの車にあったとか?」

「事前のデータ照会では、管理局の車の中にそこの車の情報はありませんでした。ただ、数日おきの間隔で情報の更新が行われますから、その間のデータは反映されません。となれば……」

「確定してよさそうですね。あの車が、◯◯さんや四条さんを連れ去った車であると。」

「同時に、この許可証があることで、内部に誘拐を手引きした人間がいることもはっきり示されたわけです。」

「……いよいよ、嫌な感じになってきましたね。同じ職場の人間を疑うなんて。」

「◯◯さん…。…殺されていなければいいのですが。」

 

 姫乃は犯人の足跡を追うにつれて、ますます彼の生存確率が下がるような気がしてならなかった。

 

「取り敢えず、バンパーや遺留品の一部を上に運びましょう。もし証拠隠滅が目的であれば、そう遠くない場所に二人が運ばれたということでしょうし。車両本体は、県警の方にお任せしましょう。」

「……そうですね。水沢さんも嫌でしょうから、あまり暗い話は止めにしましょうか。」

 

 場の空気を入れ換えるため、作業に戻る二人。実のところ、後に判明した彼や千里が監禁されている場所とこの車の転落場所は10km圏内にあった。

 だが、まだ彼らの居場所を特定する段階には至っていなかった。加えて、この晩に真奈美ら『男性排斥運動』が鎌倉の本部を占拠したことで、二人の捜索活動は中断せざるを得ない状況に追いやられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 ー??? 某建造物地下ー

 

 監禁からかれこれ二日。彼と千里は、意外と冷静さを保ったままこの生活に慣れていた。

 

「あー、やっぱり緑茶は落ち着くわな。」

「…ふ~、ふ~。これ、熱くないですか?」

「茶葉からだしたお茶は、ちょっと熱いくらいがちょうどいいんだよ。ま、あくまでも俺の飲み方だけどな。」

 

 食料品の中に混ざっていたお茶の袋とお茶パック。この二つがあるだけで、彼的にはだいぶ心の保ちようが違っていた。千里もまた、彼の淹れたお茶の味に、感化されはじめていた。

 

「…こんなお茶を淹れられるのに、どうして女の子の一人や二人居ないのか、凄く不思議になりますね。少なくとも私は、◯◯さんのお茶の虜になりそうですよ。」

「う~ん、元々は他人様に向けて出すことを考えていなかったからな。勿論、そう四条に言って貰えるのは嬉しいんだが、あまりに褒められると今度は俺自身がつけ上がりそうでなあ。」

 

 慢心は禁物、そう考えてしまうのは彼の性格でもあるのだが、千里の言葉には含むような雰囲気が無いため、彼女自身の率直な言葉で言っているのだろうとは思えた。

 

 

 

 

「あのー、◯◯さん。この状況が長期化しそうなので、一つお願いがあるんですけれど。」

「なんだ?」

「今日から寝るとき、同じ部屋で寝てもらえませんか。」

「えぇ…、それはマズくないか?」

 

 彼は露骨に反対の意思を示した。ただ、別に千里が嫌いだからという理由ではなく、むしろ彼女の身を案じての理由だった。

 

「もし四条に親しい男の子や彼氏がいるなら、その人にとっては物凄く不快なことになりかねないし、まして、この状況だと俺も精神的にどうなるか分からん。……最悪、同じ部屋の四条を襲わないとは言い切れないぞ。いくら性欲が死んでいるとはいえ、俺も男だ。四条に一生の心の傷を負わせるような事態になる前に、その芽は事前に摘んでおきたい。」

 

 突発的な性的衝動に対して、自分でもそれをはっきり否定したかった。しかし、誰の目も届かないなかでは彼の持つ鋼の理性も緩みかねない。自制心に絶対の自信があっても、環境がそれを阻もうとしている。

 言い換えてしまえば、千里に異性としての魅力を多少なりとも感じている、ともとれる訳だが。

 

「……なら、我慢できなくなった時は私を襲ってください。それで◯◯さんが苦しまずに済むのなら。」

「ふあっ!?」

 

 千里の回答に目を剥いた彼。斜め上の返しに頭を抱えそうになった。

 

「あのな、四条。…俺はこんな状況で安易に手を出して、戻ってからも気まずい関係を続けたいとは思わないぞ。何より、四条の家族から何と言われるか。とてもじゃないが、俺の理性が保っているうちは絶対にダメだ。四条自身を守るためにも、な?」

「……○○さん。私、怖いんです。密室に閉じ込められていることもそうですけど、一人でいると真奈美に襲われたあの時の記憶が不意に甦ってくるんです。」

「……あ~もう、分かった!それならもう、仕方ないな!」

 

 彼もこれ以上、ゴネることを諦めた。

 

「なら寝る時に、俺の手を紐で軽く縛ってくれ。それなら、四条も少しは安心だろ?」

「―はいっ!」

 

 妥協案として、彼は自身の動きに制限をかけることで同じ部屋で眠ることを受け入れた。

 

 

 

 

 そして、いざ眠ろうとした時。

 

「……四条。確かに縛れとは言った。だがこれ、意味ないんじゃ…。」

「◯◯さん、別に私の手と結んではいけないとは言いませんでしたよね?…それにこれなら、私も安心して眠れますし。」

「かなり寝返りをうちにくいんだが…。…まあ、仕方がないか。」

 

 千里は彼を縛る際、それぞれの手と胴を八の字に交差させながら動きを抑え、彼の右手と彼女の左手を更に紐で繋いだ。ここまで紐まみれでは、正直動きにくいところがある。深夜にトイレへ行きたくなった時が心配ではあるが、そこは翌朝まで我慢するしかないだろう。

 

「◯◯さん、寝る前に一つお願いがあります。」

「……聞くだけならまあ。」

「私が寝つくまで、手を握っていてはもらえませんか?それなら、落ち着いて眠れますから。」

「…分かった。握るだけならな。」

 

 紐で腕同士を縛られている関係上、布団の配置も隣り合わせにせざるを得ない。彼としては千里がそこまで計算していたかまでは分からないにせよ、ある種策士だと思えた。

 

 

 

 

「んじゃ、寝るか。」

「はい。…おやすみなさい、◯◯さん。」

 

 部屋の照明を落とすと、視界は暗闇に包まれた。

 彼女の手を軽く握ってはいたものの、それが千里自身の安心に繋がるかはまた別の問題だ。

 

「なあ、四条。寝にくくないか?」

「……Zzz、……Zzz。」

「……寝付くの早いな、四条。」

 

 夜目が利くうちに、隣の少女の表情を確認する。どうやら、彼の想像を超えて安心しきって眠っているようだ。穏やかそうな顔で寝ている姿を捉える。

 

(人の感情を推し測れるようになれ、と中島からもよく言われているが、ホント、そうした方がいいのかもな。)

 

 内心そんなことを思っていた時だった。寝言なのか、千里の口から言葉が漏れ出る。

 

「……ぇ。」

「ん?」

「…………ゆうすけ、…ゴメンね…。…ダメなお姉ちゃんで、本当にゴメンね…。」

(…何か、あったんだろうな。四条の人生にも。)

 

 彼は翌朝、彼女と気まずい雰囲気にならなければ、今聞いた寝言の意味を訊ねてみようと思った。

 

 

 

 

 

 

 奇しくもこの晩、遠く離れた鎌倉の地では、自身の部下や刀使達が大規模な戦闘へと突入していった。それを彼が知るのは、一体いつの日になることか。夜は更けていく。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

導入はこのような形となります。
色々散乱している話を回収していけるようにしつつ、進めて参ります。

アンケート結果は以下の通りです。

・現状維持に賛成/16名
・分離に賛成/8名
・どちらでもよい/1名

改めて、ご協力いただきましてありがとうございました。

それでは、また。
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