刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は再興を目論む真奈美側の視点と、失踪した二人の捜索活動に光明が差し始める回となります。

本日はとじらじ生!の配信日でありますが、どんな感じの内容になるのでしょうか?

それでは、どうぞ。


③ 燻る火種とアリバイ崩し

 ー神奈川県相模原市 相模湖付近ー

 

 姫乃が横浜でマスコミへの対応に追われた、その数時間後。

 鎌倉でのクーデターに失敗した真奈美達『男性排斥運動』の残党は、ここ相模湖近くにある大規模な拠点へと戻ってきていた。警察の追跡をかわすため、一度散り散りになったものの、甲府・大月・八王子の各方面から再結集した。なお、鎌倉から無事に脱出できたのは、十人に満たなかった。

 

 戦況を覆すことが不可能と判った時点で、真奈美は脱兎の速さで他の戦闘員達を置き去りにしていった。指揮官としては正しい選択でも、組織のトップが取る行動としては、最悪の選択肢であっただろう。しかしながら、その反論ができる人間はそもそもこの拠点には戻ってこれていない。生きている者は軒並み、武装解除のうえで拘束されるに至ったのだから。

 

 

 

 

「…っ!!女王!ご無事でありましたか!?」

割子(わりこ)、他の人間は?」

 

 割子と呼ばれた少女が、敬礼で真奈美達を迎えつつ返答する。当たり前だが、作戦が失敗した真奈美としては、だいぶ不機嫌な表情であった。

 

「プランCの実行のため、各地に散っております。早ければ一週間以内には戻ってくるかと。」

「そう。……割子、組織の損害状況を報告してもらえる?」

「はい。女王。……結論から申し上げますと、損耗率にして全体の六割に上ります。」

 

 割子が見せたのは、二度と繋がることはない戦闘員達のヘルメットの映像。全てが『No Signal』と青画面で表示されていた。

 

「やはり、ね。」

「幸いにして、C4爆薬や携行できる銃火器は備蓄分も含めて、まだかなりあります。ですから、敵討ちの反撃を行うこと自体は可能です。ですが、鎌倉でやったような大規模な行動をもう一度行うのは、正直難しいと思います。」

「…その必要は無いわ。プランCに追加の命令を出すから。」

「…?追加の命令、ですか?」

「ええ。『プランCの実行は、雨降り落ちる時まで待て。』と。」

「はあ。…了解しました。そう各地に命令を出しますね。」

 

 割子は、真奈美からの命令を各地に散っている構成員に対して送る。

 

(…さて、鎌倉の時は失敗したけれど、今回は違う。天候が味方すれば、私達の目的も格段に近づく。……あんな煮え湯を飲まされて、ただで終わる私じゃないのよ!)

 

 真奈美はこの拠点へ戻る途中、鎌倉の折神家や刀剣類管理局本部などへ銃火器による襲撃を仕掛けたにも関わらず、それを返り討ちにしたという、刀使や特祭隊員達への持ち上げるようなニュースに苛立っていた。

 現に今、拠点のテレビに映し出されていたのは、鎌倉での『男性排斥運動』を排除したことに対して、疑問をぶつけてくるマスコミと毅然とした態度で渡り合っていた、姫乃の姿であった。しかも作戦の責任者というテロップ付きで、である。

 

(……いい気でいられるのも今のうちよ。また、絶望の淵に叩き落としてあげるのだから。せいぜい、今だけ天狗になってなさい。…水沢姫乃、アンタも排除しておくべきだったわね。それは私の作戦ミス、としか言えないわね。)

 

 事前の対策として彼を手中に収めていたにも関わらず、まさか奇襲によって壊滅的損害を被ることになるとは思っていなかった。名目上でも率いてきた仲間を拘束した元上司に対して、憎悪を膨らませていた。

 真奈美はこう決めていた。自分の理想に邪魔な者は、何人であれ徹底的に排除する。男のみならず、女性の憧れの象徴でもある刀使やその周囲さえも、ついには敵と見なし、再び攻撃に転じようと。

 彼女を止められる者は、組織で生き残った人間のなかにはもういない。周囲の都合のいい言葉にしか、耳を貸さなくなっていく。

 

 狂気は、更に加速していく。

 その舞台は鎌倉から、穏やかな人工湖である相模湖へと移ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー

 

 時間軸は少し遡り、姫乃の会見映像を流しつつ、里奈を筆頭とした同僚達が、二人の誘拐犯として浮上してきた真奈美についての話に移っていた。

 

「水無月さん、なぜ祇園さんが怪しいと思ったのか、その根拠を教えてもらえないかしら?」

「はい。まず、○○さんと四条さんが失踪した日の、祇園さんの行動です。」

「行動?…ですが、彼女にはアリバイがあったはずでは?」

 

 圭吾の疑問は最もである。里奈の取った調書と真奈美から提出された映像からでは、真奈美の当日の行動からすれば二人を誘拐することなど不可能に等しかったからだ。要するに鉄壁のアリバイがあったがゆえに、聴取時に里奈も深く追及できなかったのである。

 

「それが、実は崩せたんですよ。各地の諸々の映像と、提出してもらったあの映像データによって。」

「んん?どゆこと、葵っち?」

 

 葵は室内の全員に、真奈美が聴取時に語っていたことと、実際に彼女が行動していた情報を、ホワイトボードに書きながら時系列ごとに見せていく。

 

 

 

 

「この、○○さんと四条さんが失踪したであろう時間帯ですが、証言によればこの頃は藤沢市内のバイク店に向かい、車両点検を依頼していたとあります。確かに、この証言自体は本当のものでした。」

「なら、その時点で誘拐は不可能じゃないのか?」

「…いいえ。車と違い、バイクですので、狭い路地でも容易に走行ができます。更に言えば、祇園さんの所有するバイクは普通二輪車です。車両重量が軽いうえにエンジン出力も高いものですので、混雑する海岸沿いの道路を使わずとも、山間部を横断するように移動すれば二十分かからずに藤沢駅周辺に到着できます。」

「でもそれだと、○○さんを襲うことはできないんじゃあ…。平日日中でも大混雑するあの江ノ島周辺を通る道が、一番分かりやすいはずですし。時間だって、車ならバイク以上に掛かりますよ。あの黒いバンで移動するのなら。それに、入出記録にあったバイクの往来自体は、その祇園さんのもの一台だけしかありませんでしたから。いくら協力者が居たとしても、物理的には…。」

「……なら、江ノ電ね。」

 

 ふと、里奈がそう呟く。

 

「ええ。出場時間は15時01分。ここから飛ばせば、十五分ほどで藤沢駅に着くと仮定して、だいたい15時20分頃が店への到着時間になるでしょうね。」

「恐らく、共犯の黒いバンに乗せてもらえば、藤沢駅15時24分発の電車に藤沢市内のいずれの駅かで乗れれば、あっという間に和田塚駅に着くわ。それも、16時前にはね。」

「…確かに、そこから本部までは遠くないですから、事前にタクシーでも手配しておけば、16時以降の犯行は可能です。」

 

 犯行当日、管理局内の屋外の防犯カメラ映像が機能していないこともあって、徒歩や自転車を利用した生徒や職員の往来状況は分からない。であるが故に、この可能性は現実味を帯びてきた。

 

「あれ?でもさあ、真奈美っちって藤沢駅あたりの映像を撮ってたんでしょ?ならそれって、もしできるとしても覆すの無理じゃないのさ?」

「……データは、嘘をつきませんから。」

 

 そう言って、葵は真奈美から送られてきた映像データの情報を見せる。

 

「…?やっぱり、失踪のあった当日じゃん。この映像が撮られたの。」

「この映像データ、不自然な箇所が二つあるんです。」

「二つ?」

「はい。一つ目は、……この部分の映像ですね。」

「…………うん?あれ?これ、なんかさ、証言の日と違うような…。」

「嵯峨野さんのその違和感は正解です。この映像が撮られた日、◯◯さん達の失踪する前日の、失踪推定時刻と全く同じ時間なんです。」

「「えっ?」」

「その証拠に、ほんの一瞬映っていますが、駅周辺のお店の宣伝用看板の日付が、失踪前日のものになっています。」

「本当だ。映っている時間が一秒も無かったから、見落とすところだったな。」

「そしてもう一つが、ファイルデータの改竄です。」

「改竄って、つまり?」

「日付が弄られていたんですよ。ファイル名の時間は、表面上は確かに失踪当日のものになっています。ですが…。」

 

 葵はスクリーン上へ、この複数のデータに人の手による変更があったことを示す。表示されているのは、データ更新のログだ。

 

「恐らくですが、スマートフォンで撮影したこともあって、SDカードの日付変更が上手くいかなかったのでしょう。変更した端末のIPアドレス名が、撮影していたものと数字が異なっていますから。デジタルデータは、紙媒体以上に改竄すればするほど積み重なっていきますから。」

「だから、データは嘘を吐かない、って言ったのね。」

「はい。」

「あの、中島さん。カウンセリング業務の間に、私が手伝えることはありますか?」

「ん~、そうねぇ…。なら北野君。祇園さんのカルテがここの医療施設にあるなら、それを調べて持ってきてほしいの。もちろん、許可を貰ってね。」

「カルテ、ですか?」

「ええ。……もし、朱音様達から寄せられた情報が事実なら、精神疾患をも疑う必要もあるし。」

 

 まだ完全にクロと決まったわけではないが、真相解明に必要となるモノを揃えておきたいと考えている、里奈。

 

「大変な目に遭っている姫乃や糸崎がいない間、私が少しでも多くアイツや四条さんを見つける手掛かりを探さないと…。」

「…中島さん。」

「―そう気負いすぎない方がいいって、里奈っち。」

 

 若干の焦りが見えた里奈に、愛実は優しく肩を叩く。それにハッとしたように、里奈は彼女を見た。

 

「ご、ごめんなさいね。つい、体に力が…。」

「愛実の言う通りですよ、中島さん。俺達は、中島さん達を支えるために、ここに集まっているんですから。」

「亀岡君…。」

「データ関係は私が解析を進めます。水沢さんがいない間に、足は引っ張りたくありませんから。」

「私も微力ながら、尽くさせていただきます。」

「水無月さん、北野君…。みんな、ありがとうね。」

 

 目前で友人の倒れる姿を見て、精神的動揺は未だに続いている。であればこそ、周囲からの応援の声が大きな支えとなる。パンパンと両手で頬を叩き、気合いを入れ直す。

 

「…よし、祇園さん以外に不審な点のあった人物がいれば詳細を追っていって。亀岡君と嵯峨野さん、それをお願いするわ。水無月さん、私と一緒に祇園さんの行動を追うわよ。北野君は、カウンセリングの準備に移っていいわ。」

「「「「了解!!」」」」

 

 推定ながらも遂に里奈達は、彼と千里の行方を知っている可能性が高い真奈美の、失踪当日前後の行動を追跡することにした。その後の推移は、また追々綴ることとしよう。

 事態は、ようやく前進した。

 

 

 

 

 そしてこの日の夕方をもって、彼と千里の失踪が、伍箇伝はじめ刀剣類管理局全体へと正式に公表されることとなった。

 多くの人間はそれに動揺し、驚愕をもって受け止めたが、この公表がその後の彼らの行動を大きく変えていくことになった。混乱冷めやらぬ情勢の中で、刀剣類管理局全体が横断的に、そして一丸となって事に向かい合っていくその切っ掛けとなった。

 

 彼の存在が、伍箇伝を中心とした刀剣類管理局や特別祭祀機動隊、そして刀使達にとっていかなるものだったのか。それが分かる機会は目前にも迫っていた。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

里奈達のもとへ情報が揃い始めるなか、再度不穏な動きを見せる真奈美達。
そして、刀使達への情報公開がこの先の未来に一体何をもたらすのか。

それでは、また。

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