もうすぐ暦の上ではお盆休みが迫ってきておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今回は刀使達や主人公の妹の会話風景や、折神家の面々の諸議論の場面をお送りいたします。
それでは、どうぞ。
ー鎌府女学院 食堂兼レストプレースー
鎌府が襲われて三日後の夜。
数多くの刀使や生徒達がこの夜、ここへ集まっていた。寮の一部設備が破損するなどして、一時的に疎開する者もいれば、単純に食事のために来ていた者もいた。
その一角、長船の制服を来た小柄な少女のもとに、美濃関の制服を着た栗色のポニーテール姿の刀使が寄ってくる。
「薫さん。」
「ん?おお、麻美か。…よくそんなに食べられるなあ、おい。」
「鎌府の食堂は、お米が美味しいものですから。つい。お茶にも合いますし。」
「ま、確かにな。…その美味しい理由として、元親衛隊の奴の中にお米にうるさい人間がいるから、ってのもあるかもしれないがな。」
「へー、そうなんですか。」
ニコニコと笑顔を向けてくる麻美に、薫は少し彼女のことを気に掛ける。
「…それよりも、お前の兄は大丈夫なのか?―オレもついさっきだが、アイツが行方を眩ましていると聞いてるぞ。」
「ま、まあ大丈夫だと思いますよ。薫さんも知っているでしょう?あの兄の悪運の強さを。どんな目に遭っても死なないほどの運の良さを。」
「…まあ、確かに巻き込まれ体質なところがあるのは知っているけれどな。それにしたって、もう少し心配や不安はないのか?」
「そのうち帰ってくると思います。…こう言うと難ですが、ウチの家族、こういう状況になれている節がありますから。ああ、もちろんですけど心配はしてますよ。」
「……麻美、ダメ押しで聞くが本当に大丈夫なのか?」
「生存確率が一番厳しいって言われた、秩父の時に比べたらこれくらい全然です。まだ事情は知らせてませんけれど、彩矢さん*1ももしかしたら心配しているかもしれませんから、早く見つかってほしいって思っているのは正直なところですよ。」
「そういうものか。」
「はい。そういうものです。…それに、兄が失踪してから、刀使の皆さんが浮足立っているようにも見えるんです。」
「浮足立っている?…まさか。」
そんなのは麻美の気のせいだろ、と薫は返した。しかし、反論するように麻美は口を開く。
「その証拠に薫さん、ねねちゃんに夕食を与えているのに、目の前の夕食を全然摂られてないじゃないですか。ハイパワー型の薫さんが少食だとは、一般的な刀使である私からすればそうは思えないんですよね。」
「ね?」
「……ち、バレてたか。どうも食欲が湧かねぇんだよ。かんぴょう巻きはまだ進むんだがなあ。」
薫の表情が少し曇る。
「今回の襲撃といい、精神的な動揺はここにいる全員が大なり小なり持っているだろうよ。……アイツは舞草の時でも荒魂討伐の時も、立場が変わろうが何の違和感も抱くことなくオレ達と接してくる。言っちまえば、アイツは周囲の人間関係を上手く転がす潤滑剤みたいなもんだ。そんな変わった人間が居なくなったと聞いて、慌てない奴がいるのか、という話だな。」
「つまり薫さんは、慌てる人だと。」
「…ま。それは麻美、お前自身が考えてくれ。…そういや、エレンを見掛けなかったか?」
「エレンさん、ですか?……そういえば、見当たりませんね。」
「…一体、どこで油を売っているんだ?―バカエレン。」
何だかんだ言いつつも、エレンを気に掛ける薫。
その後、エレンのことを一旦意識から外した時に麻美の肢体を見やると、年下にスタイルでまた負け越したと思うような気がしてならなかった、彼女であった。ちなみにねねは、エレンが来るまでの間に麻美の胸へ乗ろうとするも、逆に麻美からぬいぐるみのように抱き締められてしまい、むしろ動きを縛られたことでじたばたする羽目になった。してやられたとは、こういう時を指すのだろう。
ー鎌府女学院 某廊下ー
その頃、薫から何をやっているのか疑問に思われたエレンは、とある場所へ連絡を入れていた。
「――というわけなのデスが、グランパ、どうにか力を貸してもらえマセンか?」
『愛しの孫娘のためなら、と言いたいところなんだが、すまないエレン。今は仕事の関係上、ちょっと手が空きそうになくてね。僕個人が動くのは難しそうだ。』
「そう、デスよね。グランパ、我が儘を言ってゴメンナサイ。」
『いや、僕の方こそすまない。―あ、ただプレゼントはできそうだ。』
「プレゼント、デスか?」
『うん。誰もが簡単に使える物を送らせてもらおう。』
「何なのかは、楽しみに待ちますネ。」
『今日はゆっくり休むんだよ、エレン。』
「はいデス!グランパ、おやすみなさい。」
騒動後、エレンはフリードマンへと何かの根回しを行っていた。電話を切ると、ちょうど舞衣と沙耶香が彼女の近くを通り掛かる。
「エレンちゃん。」
「あっ、マイマイ、サーヤも一緒だったのですか。」
「今どこかに話していたけれど、心配事でもあったの?」
「イエイエ。…どっちかと言えば、“備え”デスかね。」
「備え?」
「ハイ。…ついこの間のようなコトがまた繰り返されないように、デショウか。」
「もしかして、何か頼み事でもしていたの?」
「まあ、そうですネ。…そう言えば、マイマイ。心の方は大丈夫ですカ?」
「うん…。もっと、心に深い傷を負った娘もいるけれど、私は大丈夫。…それよりも、三原さん、心配だね…。」
「私も、心配。……鎌府の刀使の中で、珍しく私に優しく接してくれる人だったから。」
「……ダーリンも、無事でいてくれればいいのですが、ネ。…取り敢えず、腹ごしらえが先デスかね。」
三人はその後、食堂へと向かう。ちょうど同じタイミングで夕食を摂ろうとしていた、可奈美と姫和も巻き込み、そして麻美と話していた薫やねねとも合流する。奇しくも、鎌倉事変後では初めて、鎌倉の六英雄が再び集まったわけである。時は再び流れていく。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー
ところ変わって、一部を除いて正常な機能を取り戻した、特祭隊本部。局長室では、朱音と紫、そして特務警備隊の四人が打ち合わせをしていた。
「それで、水沢の部署からの情報は?」
「現段階までの調査の結果、祇園真奈美が○○××、及び四条千里を誘拐した可能性が非常に高いとの報告を受けています。また、その誘拐には協力者がいた可能性も示されています。紫様、朱音様、こちらの資料をご覧ください。」
真希は、里奈と葵から渡された少々厚みのある書類を、二人と他の三人に手渡す。
「…道理で、外部からの侵入に気付けなかったわけだ。この許可証、刀剣類管理局に関わる人間であれば、適切な手順さえ踏めば発行できるからな。まさか、それが抜け穴になるとは。」
「ですが、これを全て無効にするというのは、物理的にも不可能です。現に修復・修繕工事を請け負っている業者であっても、これが無ければ往来することができませんから。」
「…つまり、侵入を未然に防ぐことは困難であったわけですわね。」
「但し、腑に落ちない点もあります。祇園真奈美は、一体どの段階で鎌府女学院から消えたのでしょうか。少なくとも、武装集団が占拠した段階ではまだ鎌府の学生寮に居たことは、証言が得られていますし。誘拐の実行犯であったにしても、消えるタイミングが不自然過ぎます。」
普通に考えてみれば、仮に真奈美が二人の誘拐の実行犯であったとしても、行方を眩ませるならば誘拐したその日であった方が、より遠くへと逃げられる可能性が高まる。ならばなぜ、彼女はわざわざ鎌府に戻ってきたのだろうか。
「…獅童さん。失踪する前の彼女の行動に、不審な点はありませんでしたか。」
「いや、少なくとも手元の資料には…、いや、夜見。一つだけあった。祇園真奈美の滞在していた部屋は、戦場のように多数の弾痕と荒らされた形跡があったと。」
「弾痕と、荒らされた形跡ですの?」
「はっきりしているのは、パソコンやタブレット、携帯までが粉々に撃ち抜かれていたそうだ。」
「そのおねーさん、なんかまるで、何かを隠したがっていたように思えるけどなー。それ聞いちゃうと。」
結芽が何の気なく呟いた一言に、他の五人ははっとした。見落とすところだった事実を。
「―!!まさか!?」
「朱音様、至急水沢さん達の部署へ連絡を入れても構いませんか?」
「…その用件は何でしょう、此花さん。」
「サーバーへのアクセス履歴の調査です。あの武装集団、我々が電波妨害にあっていたあの時、一体どうやって互いの通信を取り合っていたのでしょうか?」
「分かりました。至急、確認をお願いします。」
「夜見、相楽学長に連絡を入れてくれ。失踪したあの二人の部屋から、何が見つかったのかを。」
「承知しました、紫様。朱音様、獅童さん達、少し席を外します。」
「え、えっ?」
結芽だけは状況を上手く飲み込めていないようだが、他の五人は点と線が繋がるような感覚を得ていた。…真奈美が、『男性排斥運動』側に関与していた可能性が浮上してきたのだ。
十数分の後、寿々花のもとへ里奈と葵達が調査した結果が寄せられた。里奈達へ問い合わせた用件である、刀剣類管理局本部と特別祭祀機動隊本部のサーバーの使用履歴の中には、不審なアドレスや送信先が複数含まれていることが分かった。それも、本部などが『男性排斥運動』に占拠されていた時間帯に前後してである。
また、夜見が結月に確認を取ったところ、千里の部屋からは特に何も出なかったのだが、真奈美の部屋からは銃器ボックスと大量の書籍が見つかった。書籍の多くは東側諸国の思想解説であったり、男尊女卑の社会を憂いている筆者が書いた物であったり、多種多様なものが積んであったという。そして、極めつけは、現金が見つかったことだ。しかも、ただの現金ではない。外貨であった。
「…まさかとは思ったが、本当に外患誘致*2までを疑いに入れなければならないような事態になりつつあるな。祇園真奈美は、もしかすれば我々の想像以上の背後団体から支援を受けていたのかもしれん。」
「紫様。明日、拘束した者達への一斉聴取を行いますか?」
「ああ。この情報が上がってくるということは、関係者の聴取はなるべく早い方がいい気がしてきたな。―再び、ここが狙われかねない。二度目は我々も防ぎきれないからな。」
「畏まりました。全体に通知を出します。神奈川県警にも捜査協力の応援要請を行います。」
朱音や紫、特務警備隊の面々は真奈美の裏の顔を剥ぎ取るべく、行動の迅速化を図る。その一方で、ほったらかし状態になっていたもう一つの懸案を、紫が口に出す。
「……さて、並行してだが○○と四条の捜索はどうする。一応、場所の目星は付きつつあるとの報告は、水沢の方から受けてはいるが。」
「…紫様には非礼ながら失礼致しますが、本来行方不明者の捜索は警察の領分です。我々が関与できるのは、せいぜい捜査協力まででは。」
「真希さん。…とは言いますが、攫われたのは私達の同僚ですわ。ただただ指をくわえて待っているというのも如何なものでしょう?」
「しかしなあ、寿々花。僕達は荒魂討伐が目的の組織だ。それ以外で行動することには制約がある。それで一体どうしろって言うんだ…。…そりゃ、僕だって捜しには行きたいさ。でも、法を破るわけにはいかないだろう?」
真希の言っていることも正しい。刀使達は本来、荒魂討伐を目的とした行動はできるが、それ以外のものに関して制約が掛けられている。助けに行きたくとも、行けないのである。
だが、長年局長を務めてきた者から、ある意味ウルトラCの解決策を提示される。
「―ならば、捜索範囲一帯に予防的措置として荒魂討伐の名目で刀使や特別祭祀機動隊を派遣することは、どうだ?」
「「!?」」
「…確かにその方法ならば、法的な問題に触れることなく、刀使や特祭隊員を派遣することは可能です。前例も複数ありますから、それなら押し通せるはずです。私の権限ならば、実行はできるはずです。」
「朱音様も。」
「○○さん達が見つかってほしいと思っているのは、私も同じですから。…それでは、捜索計画の立案をお願いしましょう。獅童さん、此花さん、作戦参謀本部との調整をお願いできますか?」
「勿論です、朱音様。」
「私も、微力ながら尽くさせていただきますわ。」
「えー、私は置いてけぼりー?」
不満げな結芽。とはいえ、彼女が元々抱えていた身体的負担を考慮すれば、不整地への派遣はどうしても慎重にならざるを得ない。
「結芽は紫様と朱音様の警護を頼む。夜見、少し手伝ってもらってもいいかい?」
「…構いませんが、燕さんの様子はちょくちょく見に行くつもりですよ。燕さん、何をするのか分かりませんので。」
「えー。夜見お姉さん、私への信用低くなーい?」
「…信用しているからです。燕さん。」
「…もー、仕方ないなあ。ちゃんといい娘にしてるから、ね?」
「後で何か一緒に食べよう。それまではしっかり警護を頼むよ。結芽。」
「りょーかい。真希おねーさん達。いってらっしゃい。」
「ああ、任せるぞ。結芽。」
真希と寿々花、そして夜見は作戦参謀本部へと赴く。
ー刀剣類管理局本部 彼の部署ー
姫乃と葵が収集してきた情報のなかで、転落した黒いバンの行動履歴、そして真奈美が運転していたバイクの追跡調査を行った。
「中島さん!祇園が寄っていた、バイク屋の店主に確認が取れました!」
「で、何て言っていたの?」
「その日、代車としてバイクを一台借りていたそうです。バイクの返却時間はだいたい午後9時半頃で、祇園が鎌倉に戻ってきた時間帯を考慮すれば、十分犯行は可能です。」
「ただ、二人を誘拐したっていう決定的な証拠が無いのよね。状況証拠は揃っているんだけれど。」
「やはり、見つけるしかないのでしょうか。」
「せめて、共犯者が分かるか捕まるかしてくれれば、もう少しで辿り着けそうなのよね…。」
神奈川県警の手によって黒いバンの所有者の捜索と家宅捜索は進んでいたものの、その男性さえも見つかっていない。万事休すか、そう思われた時だった。
「はーい、こちら▽▽(彼の部署名)の嵯峨野ですー。……少々お待ちください。今、お繋ぎします。」
「ん、嵯峨野さん、どうかしたの?」
「里奈っち、県警から連絡。何か分かったっぽい。」
愛実は内線を切り替え、里奈が応対する。
「はい、中島です。…はい、…ええ、…えええっ!?―了解しました!情報提供、ありがとうございます!」
「何だったのさ、里奈っち。」
「黒いバンの所有者が見つかったって。何か数日前に相模湖で浮かんでいるのを、ダムのパトロールをしていた船が拾い上げたらしい、とのことよ。すぐさま病院に搬送されたものだから、警察の捜索が及ばなかったらしいわ。」
「…ってことは、○○さん達がどうなったかを知っているってことですか?」
「恐らくは。…ただ、今は昏睡状態だとも連絡を受けているわ。聞き出すのは不可能でしょうね。」
折角手がかりが見つかったというのに、また真実から遠のくように思えた里奈。
しかし、それを聞いていた葵が、あることを尋ねる。
「中島さん、その男性が相模湖から引き上げられたのは、何時頃か分かりますか?」
「…えーっと、確か、あ、今捜査資料が届いたわね。……発見時刻が、二人が失踪した日の翌日、0時20分頃のようね。炎や煙は確認できなかったそうよ。」
「昨日鎌府から送られてきた、車の燃焼時間の実験結果と比較して…、だいたい四時間ほどは炎上し続けていたことになります。ということは、その情報に矛盾がないと仮定した場合、車が移動できる範囲は…。」
複数の情報を総合したうえで、近隣のインターチェンジを通過してから車両炎上までの時間を逆算し、黒いバンが走行した可能性のある範囲を表示する。
「中島さん、おおよその経路計算はできました。ですがこれは…。」
「うっ、これは広いわね…。」
相模湖周辺のおよそ10km四方が、車の移動した可能性のあるエリアとして表示されていた。建物に監禁されているのか、埋められているのかも分からない以上、これ以上捜索範囲を絞るのは難しかった。
「このうち、あまりにも急勾配が酷い区間や、一般人の立ち入りが不可能な施設などを外すとどうなるかしら?」
「……それでも、一割程度減ったくらいでしょうか。」
「…仕方ないっか。水無月さん、獅童さんたちに伝えて。場所はある程度絞った、あとは人海戦術しかないって。」
「はい。……これで◯◯さん達、見つかるんでしょうか。」
「そこは……、諦めないでいたいわね。少なくとも私はだけど。」
他の同僚二人は諸事情で身動きが取れないなか、唯一動ける里奈が、仲間であり、友人であり、上司である彼の捜索活動を打ち切る*3という判断もできた。
ただでさえ混乱を極めている状況であるため、現状はいいとしても、真希同様此方からの捜索を諦めることも考えていた。しかし。
(ここで投げたら、私はきっと後悔する。それに、彩矢の耳にも恐らく届くだろうし。…彼女を悲しませるようなことはしたくないわね。ホント、私情を交えて判断してしまうようになったのは、誰の背中を見てきたせいなのかしら。)
平城を卒業したとはいえ、彩矢とは未だ関係者として情報交換を行うことも間々ある。親友である彼女の悲痛な表情を見ることは、里奈としても避けたかった。
「…生きている可能性に賭けて、動くしかないか。」
「中島さん、今しがた獅童さんに伝えました。あの情報をもとに、捜索プランを練るそうです。」
「そう。水無月さん、ありがとうね。…姫乃の代わりに無茶ばっかり吹っ掛けて。」
「ま、まあ。水沢さんが悪い人じゃないのも分かっていましたし、自分の限界を押し上げてくれるような気がしていましたから、水沢さんや中島さん達には感謝しかありませんよ。」
「…そう言われるだけ、ありがたいものね。私達は。……祇園さん、一体何を考えているんだか…。」
「……ともかく、一つずつ物事を片付けていきましょうか。」
その会話の後、里奈は翌日以降に行われるであろう、彼と千里の大規模な捜索活動の下準備を済ませていった。
ー刀剣類管理局本部 駐車場ー
多くの生徒や刀使達が学生寮へと寝入るなどするなか、ミルヤと、現在は大学生となった智恵とが話し合いの場を持った。
場内は照明の灯された場所を除き、薄暗い空間が広がる。
「…それでミルヤ、頼み事があるって言っていたのだけれど…。」
「瀬戸内智恵。貴女に、安桜美炎と七之里呼吹、山城由依を連れて、特務警備隊が立案中の捜索活動へ加わってもらうよう、お願いしたいのです。」
「捜索活動って、○○君のこと?」
「はい。建前上では荒魂討伐を目的とした広域封鎖ですが、実際には人海戦術による捜索になりそうだと、此花寿々花から連絡を受けました。ですので、それに倣うのならば機動力と打撃力の高い人間を派遣するのが適当かと思いまして。」
智恵はなるほどと頷きつつも、そのお願いをした彼女本人のことも訊ねる。
「ミルヤは、一緒に来ないの?」
「行きたいのはやまやまですが、折悪く私には、鎌府女学院と本部ヘリポートでの人質奪還作戦時の状況説明や、参加した刀使達からの証言確認など、まだやるべきことが残っていますから。六角清香と、負傷して療養に戻っている鈴本葉菜は、何かあった時に備えてこちらに残しておきます。…本当なら、全員で捜しに行きたいのですが、こればかりは致し方ありません。」
「…そうね。また、数日前のようなことが起こらないとも限らないから、ね。その代わり、私達も全力で捜索活動に加わるわ。」
「お願いします。―あ、大学の方には何と伝えますか?」
「大規模な討伐で人手が足らなくなったと言っておけば、大丈夫よ。大学側もそのあたりは柔軟だから。」
「忙しいなか申し訳ありませんが、後はお願いします。」
「ええ。他ならぬミルヤの頼みなら、ね?」
「ふふっ、やはり貴女は頼りがいのある人ですね。」
そう言って、二人は並んで夜空を見上げる。その時にほんの一瞬だが、上空で流星が光線を描いた。
今後の未来が縁起の良いと暗示しているのかもしれない、とミルヤは柄にもないロマンチックさを感じながら、不意にそんなことを思った。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
麻美が彼を対外的に呼ぶ時は、基本的に「兄」で押し通します。薫編のように彼が場にいたり少人数で纏まっている時は「お兄ちゃん」呼びとなります。場所ごとの使い分けができているということでもありますが。
さて、いよいよ舞台は章題どおり相模湖周辺へと移ろいでいきます。果たして、彼らは生きたまま発見されるのか?
それでは、また。