今回は姫和編その2 前編です。
タイトルが安直ですみません。(ちょっとタイトル詐欺っぽくなっていますが、ご容赦ください。)
今話も少し長めになっています。
時系列は、二人の帰還後のあたりです。
…アニメ後のことを書くのは、ここが初めてになるのでしょうか?
UA3900を突破いたしました。
今作を読んで頂きまして、本当にありがとうございます。
それでは、どうぞ。
隠世から無事現世に帰還した、可奈美と姫和。
二人が消息を絶ってからというもの、他の仲間達は、もう二度と会えないかもしれない、それでもまた会いたい、と思い続けていた。
それだけに、二人の帰還の報がもたらされた時には、関係者一同、泣きあり、笑いありの大歓迎で二人を歓待した。
姫和のことを案じていた彼もまた、その一報が知らされた際には、
『姫和が無事で良かった。本当に良かった。』
と、他の同僚がドン引きする程の量の涙を流したそうな。
帰還時の顛末はここでは省かせてもらうが、多くの人々が二人の帰還を喜んでいた。
現世の時間にしておよそ四ヶ月に及んだ、二人の隠世からの旅路は、ここでようやく終わることとなった。
そして、可奈美との逃避行が始まった、あの一年前の御前試合から、再び同じ顔同士での決勝戦が行われた。
事実上、あの時の試合の仕切り直しとなった訳だが、今度は互いにしっかりと刃を交え合うことになった。
会場は、選手・観客どちらとも非常に盛り上がるものとなった。
ー奈良県某所 十条家ー
それから少し経った、ゴールデンウイーク真っ只中のこの日。
真庭本部長と五條学長に許可を貰い、姫和は、関東出向以降初めて、自宅に帰ってきた。
彼女が不在の間、折神家当主の折神紫と、紫の職務を代行していた妹の朱音の指示のもと、十条家の建物は、舞草の構成員が手入れを続けていた。
そのため、姫和が自宅を見た時には、自身が離れた時と変わりない姿で、そこにあった。
「…本当に、あの時のままだな。」
姫和は、家の全てのブレーカーを上げる。
部屋の電灯が点くのを確認し、家中の窓を開ける。
新鮮な空気が、家中に流れ込む。
「さて、溜まりに溜まったホコリを取り除くか。」
姫和は、行きがけにホームセンターに寄り、箒とちりとり、その他掃除に必要な諸々を買ってきていた。
畳の上の埃を箒で取り払い、灰色にまとまった綿ぼこりをちりとりに突っ込む。
「よし。ひと通り掃き終わったな。次は…。」
ピーンポーン
玄関前の呼び出し鈴が鳴る。
「もう着いたのか?」
姫和は、玄関の方に向かう。
万が一に備えて、御刀も持っていく。
「はーい。」
「姫和、俺だ。」
不審者か関係者かを見分けるため、姫和は外の男に、質問を投げかける。
「…私が好きな食べものは?」
「チョコミント入りのもの全般。」
「私の得意料理は?」
「姫和のばあちゃん直伝の煮物。」
「よし入れ。」
引き戸が開けられる。
眼前に立っていたのは、件の彼だった。
因みに、姫和がいない間の、十条家の家全般の手入れも、一部彼がしていた。
「すぐ開けてくれたって、いいんじゃないですかね?姫和さん。」
「見ず知らずの人間かもしれないだろ。…まあ、私も少し意地悪くらいしたくなってな。」
「ええっ…。」
「冗談だ。丁度いま、部屋全体を掃き終えたところだ。上がっていいぞ。」
「お邪魔しま~す。」
彼は靴を揃え、彼女の家へと上がらせてもらった。
姫和自身も、一度休憩がてら、二人分のお茶とせんべいを持ってきた。
彼自身、緑茶が好みであったこともあり、姫和も彼が好む濃さのお茶を持ってきていた。
「いつもすまない。…うん、丁度いい濃さだ。」
「まあ、私は薄めでもいいんだがな。…ふぅ。やはり落ち着くな…。」
縁側で、お盆を挟んで隣あって座る二人。何も知らない人間がこの雰囲気を見たら、新婚ホヤホヤの夫婦にも見えなくはなかっただろう。
お茶とせんべいで一息ついたところで、彼も姫和の掃除を手伝うことにした。
というのも、可奈美たち五人が、昼過ぎ頃にこちらにやってくるので、ある程度家の中を綺麗にしておきたい、という姫和の頼みを聞いたためでもある。
彼が今日、姫和の家に来た訳は、元々、可奈美たちが十条家の田んぼで行うつもりの、田植え体験の手伝いだった。
実のところ、彼女の不在中に姫和の親戚が、十条家の農地の田植え作業を、大部分終わらせていた。
だが、関東出向に戻っていた際に、鎌府の学生寮で姫和が、
『そういえば、親戚の人に田植え作業を任せたままだったな…。見に行きたいが…。』
とぼやいていたところを、可奈美がたまたま聞いていて、
『姫和ちゃん宅って、田んぼがあるんだね!…そういえば、姫和ちゃんのところ、田植え体験とか、出来るのかな?』
と言ったところから、今回の実家帰り&田植え体験に繋がっている。
刀使六人が、一時的に任務から外れるのは大丈夫なのか?と突っ込まれそうだが、『働き詰めの彼女達に、リフレッシュさせる機会も必要なのでは?』との意見もあったため、纏めて休暇を出すことになった次第だ。
加えて、姫和が親戚に確認をとったところ、一面だけまだ稲を植え終わっていなかったことも聞き、晴れて彼女たちの田植え体験に繋がったわけだ。
ただ、ここで問題が一つ。
田植え作業をするには、人手が足りない点である。
姫和の親戚も手伝いには来るのだが、男手がどうしても足りない。
さて、どうする?
…となって、彼が派遣された訳である。
本部長からのお願いでもあったが、最近姫和と碌に話してなかったことも、彼女に見抜かれていたため、話す機会を設けさせて下さった形だ。
ただ、全国を飛び回ることは、今も変わっていなかったこともあり、鎌倉から、京都の綾小路武芸学舎へ向かい、そこでノロのアンプルをスーツケース二つ分を受け取って、それを岡山の長船女学園へ運びに向かう。
そこで今度は研究レポートの一部を受け取って、奈良の平城学館に渡してくる、ここまでを一日でこなすという、超強行軍の後で向かうことが条件だった。
流石に彼が平城学館に着いたのは、夜十時をまわった頃だったため、翌朝彼女の家に向かうことにした。
そのおかげか、こうして二人揃って、少しばかり話しができたわけではあるのだが。
「さて、俺は床を拭くか。」
「分かった。じゃあ、任せるぞ。私は、上の階の片付けをしてくる。」
ポリバケツに水を汲み、姫和が買ってきていた雑巾を、水の中に放り込む。
水滴が垂れない程度まで雑巾を絞り、木張りの廊下や縁側を拭き上げる。
「畳は…、乾拭きでいいか。」
部屋の畳は乾いた雑巾で拭き、箒で取りきれなかったホコリを吸い付けていく。
「あとは…窓くらいか?」
木枠の窓には、少しホコリが溜まっていた。
彼は、持参していた新聞紙を千切り、窓を丁寧に磨き落としていく。
「姫和ー。終わったぞー。」
「なら、少し片付け始めてくれ。こちらもそろそろ終わりそうだ。」
「りょーかい。」
ホームセンターのビニール袋の中に、掃除用具を入れていく。
箒とちりとり、雑巾は後で姫和に聞いて、どこかにしまって貰おう。
掃除も終わり、可奈美たちが来るまでの間、二人は先に昼食を摂ることにした。
今日は、彼が手料理を振る舞うことにした。
「いいのか?わざわざ手伝いもしてくれたのだから、そこまでする必要も本来無いだろう?」
「いつも訪問した時には、姫和が俺に手料理を振る舞ってくれていただろ。なら、こっちもしないと俺の気が済まないからな。」
「そうか。それならば、できるまで待たせてもらおう。」
「おう!任しておけ!」
来る時に買って来ていた食材と、綾小路や長船で頂いた貰い物を使う。
半時ほど経過して、姫和のもとに料理を運び込む。
「お待たせ。こんな感じになった。」
「…いや、お前これ上手いと思うぞ。焼き加減も見た限り。」
ご飯と豚汁、ブリの煮付けに鮎の塩焼き、シーザーサラダと、昼食にしては少し重めなメニューになった。
「いや~、実のところ貰った食材考えたら、こうしかないかと思ってな。」
「それじゃあ、食べるとするか。」
「「いただきます。」」
二人分とはいえ、カロリー換算だとまあまあいきそうなものとなったが、思いの外味が良かったのだろう。
「美味いな…。特にこの煮付け。」
「砂糖醤油ベースだが、かつお節も入れている。まあ、好みは人によりけりだがな。」
「今度、お前から料理を教わろうか…。」
「時間が許せば、いつでもいいぞ。…逆に俺は、十条家秘伝の煮物を教えて欲しいもんだが。」
「分かった。それで手打ちにしよう。」
二人の箸は、意外にも速く進んでいった。
「「ごちそうさまでした。」」
無事完食し終わった二人。
「皿なら、私が持っていくぞ。」
「いや待て。俺にやらせてくれ。」
「いや、私が。」
「いや、俺が…。…何やってるんだろな、俺ら。」
「ふっ。まあ、いいじゃないか。なら、いっそのこと、二人でとっとと終わらせようじゃないか。」
「同感だ。…さて、やるか。」
結局、どちらも折れて、二人揃って皿洗いをすることになった。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「ん?なんだ?」
「お前は、私の居ない間、どうだったんだ?」
「どう、とは?」
「その、まあ、私が居なくても、キチンとやっていけてたのか、ということだ。」
少し考え込む彼。
「う~ん。……正直、姫和が居なくなったと聞いた時は、全身の血の気が引いたね。」
「そこまでか!?」
「…考えてもみろよ。大切な人が、ある日から突然居なくなったんだぞ。まして一度は、隠世の果てまで、タギツヒメ諸共突っ込もうとした娘をだぞ。頭では、そうなることも分かって覚悟していたつもりでも、体は全くそうではなかった、ってことでもあったんだろうがな。」
「そう…だな。」
「でも、今はこうして隣に居る。こんな人と再会できたことに、俺は感謝しているよ。」
彼は、姫和に笑顔を向ける。
彼女もまた、微笑み返す。
皿洗いも、ある程度進んだ頃。
姫和は、再び彼に問いかける。彼女は、少し暗い顔をして尋ねた。
「…もし、私がまた、似たようなことを起こしたら…。お前は、どうする?」
「仮定の話は、あまりしたくない。だが、その時は全部の選択肢を探した上でも…、何が何でも止めるだろうな…。…でも、それでも君は、いってしまうんだろ。」
「私にしか為せないことであれば…だが。」
「どうしようもなくなった時は、君と一緒についていきたいな。…君のことだから、恐らくそれも断られそうだけどな。」
内心、彼のその言葉に嬉しさを感じつつ、自身の背負っているものを半分持つ、と言ってくれた、可奈美のことも思い出す。
「…そうした場面になった時には、可奈美にまた怒られると思うけれどな…。実際、あいつのおかげで、ここに帰ってこられたのだからな。」
そうだな、と同意する彼。
ふと、彼は腕時計の方を見る。
「…まあ、暗い話もこの辺にして。…そろそろ、可奈美たちがやってくるだろ?」
「あっ、もうこんな時間か!?」
「慌てなくていいからな。俺は、先にモノの準備をしてくる。」
「分かった。…私も、出迎えの準備をしないとな。」
十条家の遠方から、車の近づく音が聞こえる。
彼女の友人たちが、もうすぐ家にやってくることを感じさせる、初夏の昼下がりだった。
ご拝読頂きありがとうございました。
感想等ありましたら、対応させて頂きます。
次回は後編です。
それでは、また。