今回はタイトル通りな内容となります。
一部胸糞悪い描写もございますので、読まれる際にはご注意ください。
それでは、どうぞ。
ー東京都千代田区 気象庁本庁ー
日本周辺の気象観測や地震波測定などを主としている気象庁では、現在雨雲が停滞している関東甲信地方や静岡県の24時間雨量の予測を行っていた。既に数十年に一度と言われる大雨が降り続いており、各河川に流入する水の量が徐々に増加の一途を辿り始めていた。
「おいおい、これ不味いぞ。」
「どうした?」
「スパコンを使った今後の降雨予測なんだが、…これ、ダムが耐えられるのか?」
二人の気象庁職員が見ていたシミュレーション結果では、過去に関東各地で発生した水害をもたらしたほどの大雨が各地で降り及ぶものが上がっていた。
「なんか世の中がきな臭い感じなだけに、かなり不吉な感じだな。一応、部長に報告して避難勧告や避難指示の要請を各自治体に出してもらうように、促してはみるさ。どのみち、この感じだと会見することになりそうだけどな。」
「すまないが、頼む。」
書面で預かった降雨予測を託し、シミュレーションしていた職員が再び画面に向き直る。
「…国土交通省は、この事態を把握しているんだろうか…。」
この職員の不安がシンクロするように、この日の朝は世間的にも非常に目覚めの悪いものとなった。
ー東京都東大和市 村山貯水池(多摩湖)ー
この多摩湖は、東京都民の水資源確保を目的に昭和時代初期からこの地に水を貯め続けてきた。上下二段に分かれるこの湖を縦断する都道と、その接続先である県道(埼玉県側)を車などで往来する際には、まるで湖に掛かる橋であるかのような錯覚を覚えるほどの、強靭なアースダムが膨大な水量を押し留め続けていた。
ある二人のとび職人が乗る中型トラックが、埼玉方面から東京方面へと下っていた。二人はいつもと変わらず、車内で他愛もない会話をしていた。昨日は草野球チームの試合があり、兄貴方の職人はそれに参加していた。その時のことを思い出しながら、弟分の職人と話を続けていた。
「あー、前日の試合の分の疲労が抜けきらねえなあ~。どこか変な筋肉でも使ったかあ?」
「兄貴、大丈夫ですかい?今日は確か、高所作業も控えてましたぜ。」
「まあ、どうにかなるだろ。後ろに積んである角材や鉄パイプを濡らさないように走るくらいの緊張感は、疲れようがあるしなあ。」
「もしぶっ倒れそうになったら言って下せえ。すぐに他の連中を呼んで、仕事を代わりますんで。」
「俺もなかなか、気の利く新人を持ったもんだ。」
「兄貴、新人つってももう三年目でっせ?そろそろ、ヒヨッコ呼ばわりは止してもらいたいもんでっせ。」
「ま、そのうちにな。あともう少し仕事を覚えれば、新人卒業だろうよ。」
フロントガラスに叩きつける雨が酷いとはいえ、二人はまた普段通りの日常がやってくると思っていた。
梅雨時の日の出を迎えてもなお、空は厚く黒々とした雲に覆われる。
トラックが多摩湖上の堤防に差し掛かって数秒後、それは突然に起こった。
ドドドドドドーン!!
二人の走っていた道が、目前で
「あ、兄貴ぃーー!!」
「うあぁぁぁぁーーっ!!」
青く塗られたトラックは、まるで落とし穴にでも落ちたのかのごとく重力に引かれていく。だがそこに、土は無かった。
このトラックは、村山上貯水池から村山下貯水池へと大量流出した水に呑まれ、消えていった。
この時は朝の通勤時間帯にあたり、付近では最低でも三十台ほどは往来していた。この多数の車は、村山上ダムに仕掛けられた多数のダイナマイトの起爆によって、全て水中に巻き込まれていった。爆破により、都道の土台であった堤体が破砕されたのである。
およそ200mもの堤体崩落により、村山上貯水池は貯水池としての役割を喪失してしまった。不幸中の幸いだったのは、この頃の村山下貯水池がたまたま優先的に水を利用されていたため、普段よりも湖面の水位が下がっていたことで、爆破された時に流入してきた水をどうにか受け止めることができたのだ。これにより、下側のダムが連鎖的に崩壊することは免れた。
しかし、今回の爆破に巻き込まれた死者・行方不明者は、分かっているだけでも数十名に及んだ。その多くが絶命に至ったのは爆発によるものではなく、水死や溺死であったという。
「がはっ!!」
水中に一度呑まれた兄貴分の職人だが、どうにかシートベルトを外すことができ、湖面に浮上した。たまたまトラックに載せていた角材が浮かんでいたことにより、彼はこれにしがみついて救助を待つことができた。
「……勘介、おい勘介。―どこ行ったんだよ、勘介ぇー!!聞こえたら返事をしろーーっ!!」
だが、隣に乗っていたはずの弟分の名前を叫んでも、周囲は泥の混じる黒々とした水面がただ広がるだけであった。
その日、弟分の職人であった勘介が生きて湖面から上がってくることは、残念ながら無かった。後に揚収された勘介の亡骸には、仕事でいつも頭に巻いていた手拭いが、その手の中で固く握られていたという。
このように、一般の人々には何の前触れもなく、理不尽な死が襲い掛かった。この職人達の例は、この悲劇の中での描写のほんの氷山の一角に過ぎない。実際には死亡した数十名の家族や友人、親戚達までが、その突然の出来事に向き合わざるを得なくなったのだ。なぜこんな事が起きたのか、その原因は何なのかを、遺族たちが知るのにそう長い時間は掛らなかった。
この事件の発生により日本政府を含めて東京周辺は、一瞬で混乱状態に陥った。なお、多摩湖が以前と同様の機能を回復するまでには、これより約一年の時間を要することとなる。
ー神奈川県相模原市 県立相模湖公園ー
視点は再び、相模湖へと戻る。
上野原市付近と国道20号線付近での荒魂の大規模な出現情報に、臨時指揮所にいた人間は戦慄した。
「各班、状況報告を!」
「各地の避難状況は!?」
「討伐用の装備確認急げ!!」
此方も、総数にして百を軽々と超す荒魂の出現で、非常に混乱していた。最も、鎌倉の本部よりも近いこの場所だったがゆえに、情報の収集も早く済んだという利点はもちろんあったが。
彼と千里の捜索中に荒魂が出現した時には、即座にその討伐への切り替えができるように事前の打ち合わせを行っていた。しかしながら、それは災厄クラスに匹敵するほどの数を想定していたものではなかった。おまけに、荒魂のサイズがカテゴリー3~4という中型サイズの荒魂が中心であったことから、急ぎ刀使を集中投入する必要があった。
その作戦を練る羽目になった作戦参謀本部の人間は、OGの奈緒や絹香も加わって、大急ぎで戦力展開図を作成することになった。
「奈緒ちゃん!」
「どうしたの、絹香。」
「上野原市の方の荒魂討伐に向かえる部隊が足らないのよ!―どうしよう、綿花ちゃんが危ないのに!」
「…ええっ~とねえ、絹香。取り敢えず、今の配置状況を見せてもらえるかしら。」
妹のことが気掛かりなのは分かるが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。奈緒は絹香が主体的に展開図を作るのは危険であると判断し、各捜索隊の現在位置を確認する。
「え~っと、まずは第一から第三班はここにいるから、中央道を使って送り込むとして…」
「一番近いのは第五班ね。真っ先に現場に急行しているから、彼女達を軸にしていこうかしら。」
「国道20号の方は、第七、第八班に任せるわ。」
「第四班は…、遠すぎるから今から展開させにいくのは不可能じゃないかな。小池さんのいる第六班は、どう動いてもいいように準備ができたって言っているけれど。」
「絹香、なら第六班の人に連絡を入れて。国道20号方面の荒魂討伐に向かってほしいって。」
「了解!」
班員として組ませていない刀使も数名いるが、彼女達はこの臨時指揮所の防衛にあたらせることにしていたため、動かせない。
「浦賀、状況は!?」
「獅童さん!…結論から言えば、かなり旗色は悪いわね。数が多すぎるのよ。」
「編成はどうなっている?」
「ここから第一~第三班を、最前線で戦闘にあたっている第五班への応援として派遣する予定よ。ただ、これだけの小隊運用のできる指揮官がいないのが問題でしょうね。」
「なら、僕と寿々花が行こう。それなら、カバーができるはずだからね。」
「…お願いしますね。ここの指揮管理は、こっちでどうにかするから。」
引き受けるとは言ったものの、真希の表情は固いものであった。幾ら修羅場をくぐり抜けてきた彼女でも、現在荒魂が進行中である市街地は戦闘にはあまりに不向きであるため、やれることは少ないことを同時に理解していたのだろう。
「……このままだと、第五班は潰走するわね。応援が間に合うといいんだけれど…。」
日の出を迎える頃ではあったが、大雨により状況観測用のドローンが使えないことで、討伐環境そのものは非常に悪いものとなっていた。ともかく、一刻も早く応援を送り込むしか、多量の荒魂を斬り祓う方法は無かった。奈緒は各班の現在位置を確認しながら、次の手を考える。
ー山梨県上野原市 上野原市役所付近ー
一部住民の避難が完了していなかった上野原市では、大規模な荒魂出現により逃げ惑う住民たちが多数生じた。緊急事態であるにも関わらず、山間にある市街地や河川沿いにある周辺の狭い道路がネックとなり、避難活動が上手く進んでいなかったのだ。
「美炎ちゃん!あまり突出しすぎないで!」
「ちぃ姉、了解!」
「呼吹ちゃん、2時方向から荒魂が近づいてきてるわ!迎撃お願い!」
「ったく、チチエもミルヤに似て来てるなぁ。おい由依、後ろのカバー任せるぜ。」
「呼吹さん、アタシもっと頑張っちゃいますからぁ!」
その上野原市の現場に最も近かったのが、美炎や智恵などの調査隊メンバーが中心で組まれた、第五班であった。美炎たち以外にも刀使は数名編成されているのだが、上野原市民の避難誘導に当たっている関係上、即座に荒魂討伐へ加わることができなかったのだ。一般の特祭隊員達よりも先行して現地に着いていたのだが、その混乱は予想以上であった。一般の特祭隊員達の到着は、避難する住民たちの渋滞に巻き込まれ、まだ時間が掛かるとの連絡を受けた。対荒魂討伐用の装備も大量に積んでいることから、迅速な行動が取れないのだ。
(…マズいわね。美炎ちゃんだけでなく、呼吹ちゃんも体力がどんどん無くなってきているわ。この雨のせいで、体力の消耗も早くなってる。…もしもの時は、皆を逃がさないと。)
智恵は、この少人数での戦闘継続は難しいことを分かっていた。そうであればこそ、非情ではあるが住民たちの避難確認ができていない場合であっても、刀使達の生命を優先する選択肢を考えなければならなかった。
「ぜぇ…、ぜぇ…。まだまだいっぱいいる…。…でも、負けない!―らあぁぁぁっ!!」
「あっ、おいミホっち!!―そっちは!」
呼吹が気付くも、既に彼女は駆け出していた。…三方向から荒魂が迫っていることに気付かぬまま。
「いけない!美炎ちゃん!」
智恵も遅れて気が付いたが、その時には美炎は周囲を荒魂によって包囲されていた。
「はっ、ちぃ姉!!」
目前の荒魂を討つことばかりに目が向いていたが、時すでに遅し。美炎の逃げ場は無くなっていた。
「…どうしよう。今の私、全力を出せないのに。」
美炎は自身の御刀である《加州清光》を使用している際に起きた、八幡力などの暴走原因が分からないため、ミルヤから全力での刀使の能力使用を禁止されている。これがこの時には大きな足枷となって、彼女自身の行動を制限してしまったのだ。
とはいえ、周囲を多数の荒魂に囲まれてしまっていては、すぐに抜け出すことも叶わなかった。
(私、どうしたらいいの?…もし暴走したら、薫さんや糸見さんの時みたいにちぃ姉達を傷つけちゃうかも。…でも、この荒魂達がもっと被害を広げてしまったら…。)
葛藤する美炎。そんな彼女を荒魂達が待つはずもなかった。
ガキーン!!
美炎は、一体の荒魂から振り下ろされた斬撃を受け止める。その攻撃は、非常に重い。
(―ぐっ!…私はどうなってもいいけど、ちぃ姉や皆、今逃げている人たちが傷つくのは嫌だ!)
学力が低くとも、彼女はその頭をフルに回転させて考えようとする。―が、数秒の後その回転活動を放棄する。
(……考えちゃダメだ。ともかく、ちぃ姉達に合流することだけ考えよう。)
退路を自分で斬り開かねばならない状況ではあるが、軽く見回しても二十近くの荒魂との混戦で、スペクトラムファインダーを見る僅かな時間すら無い。どの方向に智恵達がいるのかさえ分かれば、活路は拓けるというのに。
荒魂はどんどんと美炎を押し潰そうと迫っていた。
絶体絶命の状況に追い詰められた美炎の焦りがピークに達した、その時だった。
彼女の鼓膜に、微かだが爆音が震え伝わる。
「―バイクの音…、――もしかして!」
「うらぁっ!!」
美炎が音源の方向へ振り向いた時、ほぼ同時に視界を横切った、黒いジャケットを羽織る少女が目前の荒魂を
「…待たせたなあ、美炎。」
「あ、暁さん!!」
絶望の淵にあった美炎の目が見開かれるように、彼女の前に立つ少女。《山姥切国広》を御刀に持ち、一部では美濃関学院最強の一角と目される刀使が、仁王立ちで荒魂達を待ち構える。
「まだ写シは張れるか?」
「あと一回だけなら、何とかなります…。」
「よしっ、アタシが道を拓く。お前は早く、他の仲間と合流しろ!」
「暁さんは!?」
「アタシは大丈夫だ!…バイク、後で回収すっかな…。」
バイクが壊れるのが怖かったため、アクロバティックな登場方法は避けたものの、取り敢えず美炎が無事であったことは本当に良かった。
(ただの仲間想いなだけなら良かったんだがなあ…。まこっちゃん*1や優稀*2のためにも、美炎を見殺しにするような真似はしたくねえからな…。)
この頃の暁はまだ、《加州清光》の暴走に関する出来事を知っている事を美炎本人に伝えこそすれど、日高見派の総本山である秋田へ連れていくことには至っていなかった。そのため、美炎に何かあっても困るという日高見派の老g…もとい旧態依然の連中の意向がもとで、時が来るまでの間、彼女は美炎への尾行ないし監視を押し付けられていた。
(…それにしても、この荒魂の数。一体何が起こってやがる?…ウチのところで勝手に行われる実験でも、これほどの荒魂は確保してないぞ。……詮索は後だな。)
「美炎!金剛身を使え!強行突破するぞ!」
「は、はい!暁さん!」
暁の局所的急襲ともいえる突撃で、美炎は辛くも最悪の結末を免れた。だが、以前増殖する荒魂達の動きを封じることは、現段階では非常に困難であった。
美炎はその後、智恵達と合流して荒魂討伐のため攻撃態勢の準備に追われることになった。なお、暁もそのままの流れで第五班の指揮下に入り、荒魂討伐の一翼を担うこととなる。
ー山梨県上野原市 桂川橋付近ー
相模湖の奥まった位置、山梨側に架かる県道35号線の道路橋は、市街地から避難しようと南下する車列によって大渋滞が起こっていた。困ったことに、現場に向かうための反対方向の車線も、渋滞の発生により動く見通しが立っていなかった。
国道20号線上の荒魂討伐に向かっていた第六班の車両群も、この渋滞に半ば巻き込まれ、交差点の右折レーンでの停車を余儀なくされていた。
「ここを渡れれば、荒魂の発生している現場に近づけるのに…!」
「とはいえ、こちらは四~五台に分乗していますから、信号の切り替わりも含めると全員が現地に揃うにはそれなりの時間は掛りますよ。」
「…分かっているわよ、亀岡君。」
なぜ刀使達は降りず、自力で現場に向かわないのか。それこそ、その理由が前日から降り続く大雨であった。現場に到着するまでに体力を消耗してしまっては、目的である荒魂討伐が果たせなくなる可能性が高かった。直線距離は数㎞程度ではあるものの、この大雨と視界不良では体感的に倍以上の距離があると錯覚してしまうほどなのだ。なればこその車移動だったのだが、今回は裏目に出た。
「里奈、他のルートに変更する?」
「ってもねえ…、このサイズの車両だと丁字路で転回なんかできないわよ。あと五分待ってダメなら、自力で移動するしかないわね。刀使はレインコートと滑り止め付きの手袋を携帯して。手元が滑るから、御刀の取り扱いには十分注意するように!」
『了解!』
他車両に乗る刀使達が、里奈の指示に応答する。
「中島さん、臨時指揮所からです。『現在、上野原市街の荒魂出現数が増殖中。応援に向かう刀使及び特祭隊員達は十分注意せよ!』とのことです。」
「んなの見りゃ分かるわよ!現に今、その間接的被害を被ってるんだからさあ!」
遅々として進まない車列にイラついていたのもあって、里奈も少しキレ気味ではあった。
だが、そんな感情すら吹き飛ばすような出来事が、彼女達の目前で起こる。
ピカッ
ドドーン!!
突如として、指揮車両を大きな横揺れが襲う。
「な、何が起きたの!?」
「―!!中島さん、橋が!!」
「え、…な、うそでしょ…」
葵が窓の外を指差すと、その先では先程まで大渋滞を起こしていたはずの桂川橋が、中央部にある橋脚跡を境にへし折れていた。さらには、川底へと引きずり込まれる車両や人々の姿が目に入る。一部の車両や人間は、たまたま生じたアスファルトの亀裂に引っ掛かったり、橋の欄干に捕まるなど、大雨で増水した川に呑まれないよう必死に抗っていた。
「…!!―刀使隊へ、命綱を付けたうえでの人命救助に当たれ!特祭隊員は目前の事態に迅速に対応せよ!!」
『『りょ、了解!』』
里奈の思考転換は早かった。対岸の荒魂討伐よりも、目前の人命を優先したのだ。
「里奈…。」
「彩矢、貴女が特祭隊の指揮をお願い。私は刀使の指揮と臨時指揮所への連絡を行うわ。」
「…小池彩矢、中島隊長の指示を承りました!これより、任務を開始いたします!」
「任せたわ、彩矢。」
彩矢はすぐにレインコートを羽織り、責任者であることを分からせるためのゼッケンを着用する。彼女の胸のラインが強調されるものの、こんな大雨での視界不良下では一目で識別できるものであった。
「行ってくるね、里奈。」
「気を付けてね。」
彩矢は指揮車両を飛び出すと、各車両への指示を行っているようだった。
「…橋が落ちたってことは、車は迂回をするしかないってことかしら。これだと、すぐに応援に向かうのは絶望的ね。」
(…さっきの光、多分あれは雷なんかじゃない。誰かが人為的に爆破したってことよね。…でも、意図が分からないわ。何の目的であんなことを…。)
ともかく今は、突然起きた惨状に巻き込まれた、目の前の消え落ちそうな命を救うために、第六班の面々は行動するのだった。
ー県立相模湖公園 臨時指揮所ー
桂川橋が崩落したのとほぼ時を同じくして、数名の特祭隊員がアウトドア用の長椅子とタープテントを借りて、雨により水面が波紋を無数に生み出していた相模湖へ向きつつ休憩していた。
「これから荒魂討伐かあ…。あの坊主、まだ見つかってねえのにか?」
「元々俺達は荒魂討伐の名目でここに派遣されてんだ。それを無視しちまったら、本末転倒だろ?」
「それもそうだな。」
ハハハハハ、と談笑している時であった。
ドーン!!
一瞬湖面が明るくなった途端、オレンジ色と黒色の混じる爆炎が上空に舞い上がる。大雨をものともせず、モクモクと膨れ上がる。
それに遅れて数秒後、衝撃波が彼らの身体を震わせる。
「な、なんだあ!?」
「お、おい!!―あそこ、橋が無くなってるぞ!」
「なにぃ!!」
特祭隊員達は、自分の目がおかしくなったのではと思ってしまった。だが、それは紛れもない現実であった。
つい先ほどまで架かっていた相模湖大橋の一部は、湖底に没していた。
その報告は、あと数分で応援に向かう予定であった真希と寿々花のもとにも届けられた。
「なに!?相模湖大橋が!」
「それは本当ですの!?」
「複数の特祭隊員が確認しております。鎌倉から来る
「―報告!!県道76号線の
悪い流れは連鎖する。奈緒は相模湖周辺の地図を表示しながら、非常に険しい表情を浮かべていた。
「……獅童さん、此花さん。これは非常にマズいかもしれません。相模湖を南北に跨ぐ橋が軒並み使えません。あっても、細い橋がたった一つだけ。これでは、第六班と第八班が第七班の応援に急行できません!」
「―仕方ない、先に上野原市街地周辺の荒魂討伐を優先する!それが片付き次第、国道20号線上の荒魂討伐に向かう!!第七班には、後退をしつつ何としても死者を出さないように伝えてくれ!」
「「はいっ!!」」
真希の苦渋の決断の後、続々と車両へと向かう刀使や特祭隊員たち。真希は寿々花に、ある疑いを口にした。
「…寿々花。考えたくはないが、これがもし、意図的に次々と引き起こされているものだとしたら…。」
「…応援に向かう私達自身も危険であるということでしょうね。ですが、このまま多くの民間人を放置するわけにも参りません。鎌倉の本部にも、応援を要請するべきですわ。」
「意見が一致したね。―至急、本部長に応援刀使の増員を打診してくれ。僕たちは先行して、荒魂討伐に向かう。」
「「獅童さん、此花さん、ご武運を!!」」
多くの指揮所の人間が不安げな表情を隠しながら、二人の実力者を見送る。
真希達のいる第一班と第二班は、荒魂出現に伴い通行止めとなった中央道で緊急車両走行扱いを受け、上野原ICまで移動することができた。だが、半分以上の荒魂の集団は既に上野原ICを通り過ぎ、藤野駅方面へと侵攻していたのだ。
このため、最も遅く出発した第三班がその連絡を受けて、多数の対荒魂用装備を展開しつつ国道20号線を西進した。他班よりも遅く出発したために荒魂達との戦闘の最前線に立つ事になったのだが、この部隊こそ『相模湖擾乱』時においては、最多数の荒魂と死闘を極めることになってしまった。特別祭祀機動隊側が荒魂を迎え撃つべく、藤野駅から藤野PAまでの区間の甲州街道一帯が戦場と化す時が、もう間もなく迫ろうとしていた。
刻々と、刀使部隊壊滅の危機が各所で迫っていた。だが、それを嘲笑うかのように降り止まない大雨と、自身の目的のためには良心なき行動を取ることを厭わない者達の計略が、彼女達をより苦しめていく。
それでも、
ご拝読いただき、ありがとうございました。
投稿前日は防災の日にあたります。
大型台風が接近しているなかではありますが、災害時に困らないために備えることもまた大切であると考えております。
(昨今の台風は激甚化の一途を辿っておりますので…。)
それでは、また。