刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は救助活動までの一幕を綴って参ります。

投稿前日は、とじともメインストーリーの更新日(分割一回目)となっております。
日高見派の動向と美炎の状態が気になりますがはてさて…。

それでは、どうぞ。


※亜戸 健一@沼太郎様 誤字報告をしていただき、ありがとうございました。
当該箇所は確認後に修正しております。


⑫ 帰還 後編

 ー神奈川県相模原市 某建造物付近ー

 

 ねねが二人のもとに飛び込む、その少し前。

 機械では間違いなく空洞の地下空間が確認されているにも関わらず、特祭隊員達が建物内をいくら調べても、防爆対策の施されたスロープ状の搬入口以外に、地下への入り口らしきものは見つけられなかった。その搬入口も、地下深くまでの空間を占めているような雰囲気ではなかった。

 

「ちくしょう、一体どうなってんだ?この建物、何か変だぞ。」

「益子さん、建物の周囲を見回してきたんですけど、あの変なパイプが張り巡らされていること以外は、特におかしなものは見つかりませんでした。」

「そうか、ありがとな。美弥。」

 

 美弥からの報告を受けて、建物外部から地下に進入する選択肢は外れる。ならば内部なのだが、これも見つかる気配はない。

 

「薫さん。…やはり、見つからないんですね。」

「ああ。水沢が入れたアプリがおかしいとは、俺には思えないんだよな。」

「私もそう思いますが、……もしかして、携帯だけがココに?」

「…あり得ないと切り捨てられないのが、悩ましいもんだ。」

 

 捜査の攪乱のために証拠品を全く関係の無い場所に置くことは、数多くの事件の中でも起こってきた話である。そのため、薫も先程の発見がぬか喜びに終わってしまったのでは、と考え直さざるをえない状況に追いやられつつあった。

 

「隊長。」

「おう、桐生副隊長。そっちはどうだった?」

「何度か質問を試みましたが、知らぬ存ぜぬの一点張りです。これでは、捜索に何の影響も与えません。」

「そうか…。…あと残ってんのは、あの扉のヤツだけか。」

 

 薫も怪しいと睨んでいるのは、あの扉の向こう、いや下に延びる空間だろう。超音波測定器でも調べてみたのだが、なぜかこの穴の地下方向のデータは表示されなかった。

 

「さて、どうするか…。」

 

 どの道、ここの捜索が終われば臨時指揮所へと戻らなければならない。

 

「なあ、この中の方は調べたのか?」

「いいえ、確かまだ確認していなかったかと。…お調べになりますか?」

「そうだな。ここも一応、調べておいてくれ。」

 

 薫は、この穴を調べてもなお、特に異常がなければ引き上げるつもりでいた。荒魂討伐への時間を割くことを考えれば、気にはなっても指揮官としては撤収を決断しなくてはならなかったからだ。

 

「はあ…。まさか、無駄足だったのか…。」

 

 穴の調査をしている間、レインコートの上に乗るねねの感覚さえ、段々と重く感じ始めていた。隠世にまだ潜っているため、質量など感じるはずはないというのに。

 

 

 

 

 だがそれは、穴を調査していた者達の悲鳴で、状況が一変する。

 

「おっ、おい!この穴何か変だぞ!カメラやドローンが壊される!」

「……は?」

 

 にわかには信じ難い言葉であった。しかし、薫も確認したのだが、穴に突っ込んだ機械という機械が、焼き切れたかのように破壊されて戻ってきたのだ。

 

「…迂闊に調べようと言い出さなくて良かったな…。」

「隊長、赤外線暗視装置で穴の内部を覗いてみたところ、多数のレーザー光が見つかったそうです。」

「…ただの穴ってわけでは無くなったわけだな。これで。」

 

 人ひとり通るのが困難なほどの幅であるというのに、そんな場所に過剰とも言えるものが設置されているとなれば、何かしら隠しておきたいものがあるという証拠であるように、薫は感じた。

 

「赤外線は穴全体にか?」

「はい。カメラやドローンが焼き切れた原因は、恐らくこれでしょう。」

「……仕方ねえな。人も機械も投入できない。怪しいものがあっても調べられない。…匙を投げてもいいか?」

「隊長、せめてあの穴の先がどうなっているかだけでも、調べませんか?」

「…桐生副隊長。だが、どうやって調べる。」

「そ、それは…。」

「ねねちゃんでは、ダメですか?」

「麻美。」

「まだ、諦める前に調べる方法ならあります。」

 

 麻美は、その案について薫と葉月に持ちかける。曰く、ねねならば隠世に潜れる特性を活かして、レーザー網を掻い潜って穴の底までたどり着くことができるだろうと。

 

「だが、たどり着いた先がどうなっているかは分からないだろ?どうするんだ?」

「ねねちゃんにスマホを持たせます。もし、ここで兄が生きているのならば、それを操作してくれるでしょうから。」

「…だそうだが、ねね、大丈夫そうか?」

「ねー…、ねねっ!!」

 

 任せておけ、とでも言いたげなねね。

 それを見て、薫も腹を括った。

 

「よし、分かった。ねね、お前に任せるぞ。」

「ねねっ!」

 

 薫は、ねねにスマートフォンを括り付け、あとは天運に任せることにした。

 

 

 

 

 ねねは、張り巡らされた強力な赤外線レーザー光を確認し、穴へ飛び降りると同時に隠世に潜り込んだ。穴に沿うように進むも、上下左右が少しでもずれれば、隠世から出た瞬間に土の中で圧縮されてしまう。ねね自身のもつ野生の勘とでも言うべき感覚で、降下していく。

 

 だいたい、地下三階分に匹敵するほどの深度まで下った時だった。

 

(ねっ!)

 

 この深さで穴が終わると踏み、現世に飛び出す。そしてそこは、彼らのいる物資搬入口であった。

 無数のレーザー網を掻い潜って、ねねは彼と千里のもとにたどり着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ー現在 某建造物地下ー

 

 一週間以上ぶりに聞いた仲間の声に、彼や千里は安堵し、腐らず信じた甲斐があったことを喜んだ。

 

「薫、ねねは無事だ。今、四条に抱かれて喜んでいるみたいだ。」

『まあ、そいつは良かった。で、そっちはどうなってんだ?』

「最低限の衣食住が確保されていたおかげで、医療面と情報、娯楽を除けばまあまあな生活だったさ。ただ、今日分の物資が来なかったもんだから、ふと不審に思っていたところだ。」

『そうか。』

(…つーことは、やはりあのトラック、ここにあの積荷を落としていたわけか。)

 

 後で分かった話だが、あのレーザー網は物資投下時には解除のためのカードを用いることで、簡単に解除できたという。とはいえ、異常な網であったことに変わりはないのだが。

 

「外は今どうなっている?」

『お前の居ない間に、色々大変なことになってるぞ。麻美に代わるか?』

「いや、まだいい。地上に出てからでないと話にもならないしな。」

『そうか。…一つ聞きたいんだが、お前のいる空間には上に出られる扉か何かあるのか?』

「あるにはあるが、いくら操作しても開かなかった。恐らく、何かで塞がれたか埋められたかしたんだろう。」

『了解。んじゃ、そのスマホを持ってどのあたりにその扉があるのか、お前自身が移動して教えてくれ。』

「ああ、分かった。」

 

 彼は縦穴になっている円状の扉のあたりに向かい、そこに設置されていた梯子に手足を掛ける。

 

「この辺りに扉がある。」

『了解。時間はかかるだろうが、何とか出られるように手筈を整える。』

「頼んだ。」

 

 一度、薫との通話を切る彼。

 

「○○さん。思ったんですけど、益子さんとの通話ができるようになっているなら、私達の携帯も使えるようになっているんじゃないですか?」

「そうかもしれないが、そうなると十日分ほどの情報が一気に押し寄せることになるから、携帯画面を今開くのはオススメしないぞ。重いロードとか、勘弁してほしいところだ。」

「…それもそうですね。今は、ねねちゃんに思いっきり甘えましょうか。」

「ねねぇ?ねねっ!」

「やっぱり何を言っているのかは分からないが、居るだけで心強いってのは嬉しい限りだな。」

 

 ねねが居るだけで、状況がここまで大きく変わるものなのかと思った彼。

 

(…早く戻らないとな。心配掛けた分は、しっかり返していかないと。)

 

 最も彼は、その大変な状況が今まさに現在進行形で起こっていることを、まだ知らないのであるのだが。

 

「ちょっと名残惜しい時間ではあったが、まあ今後こんな状況に置かれることは無い……と思いたいけれどなあ…。」

「そうですね。でも、どうやって見つけてくださったんでしょうか?」

「その辺の話も後で聞いてみるか。…ここに閉じ込めた人間のことも含めて、な?」

 

 二人は、希望の光が差し始めたことを実感しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 ー神奈川県相模原市 某建造物地上ー

 

 さて、捜索していた二人の生存を確認した第四班。

 通話終了後、薫は早速、半ばほったらかし状態であった臨時指揮所への通信を行う。

 

「あーあー、臨時指揮所、聞こえるか?こちら第四班、隊長の益子薫だ。」

『益子さん!やっと出てくれましたね!』

「ああー、すまないな。その声は梢か?」

『はい!心配しましたよ、不審なトラックを追ってそのままだったんですから。』

「悪いわるい。んで、早速報告なんだが、見つけたぞ。捜索中の○○と、四条をな。」

『…え、…ええーーーっ!?』

 

 梢のかなりの驚きように、薫はスマホを当てていた鼓膜が一瞬狂ったような感覚を覚えた。

 

「…お、驚き過ぎだろうが…。」

『そっ、それは本当ですか!益子さん!』

「本当だ。最も、本人たちはまだ地下空間に閉じ込められたままだがな。」

『りょ、了解です。直ちに本部の方へ簡易報告を行いますが、構いませんか?』

「ああ。心配している奴らをとっとと安心させてやってくれ。二人の救助が完了次第、オレ達も指揮所に戻る。」

『お二人のご無事な姿、早く見せてくださいね!』

「善処する。じゃあな、梢。」

 

 後の報告などは梢に任せ、薫は通信を終了する。

 

 

 

 

 特祭隊員達が集合しているタープテントに薫が戻ってくると、葉月と美弥が話している姿を捉えた。しかも、どうもその表情は暗い。

 

「隊長。悪い知らせが幾つか。」

「なんだ?まさか二人が死んだとかじゃねえよな?」

「いいえ。…○○さんと四条さんが居る空間の上に、大量の燃料が保管されていることが分かりました。燃料保管庫の入り口を発見した際にドラム缶へ入れられていることが確認されていますが、ガス検知器で調査した結果、微量ながらガソリンが漏出している疑いがあります。」

「…つまり、救助のために上から無理やり穴をぶち抜こうとしたら、一発でドカンといく可能性があるってことか。」

「もう一つが、地下空間への入り口です。建物内を再度捜索したところ、コンクリートでカムフラージュされている場所を発見しました。試しに壊してみたのですが、ハッチ状になっている円形の扉を確認しています。…ですが、まったくビクともしません。」

「……埋められているってことか。」

「はい。上に引っ張っても動かなかったところを見るに、恐らくコンクリートのようなものを流し込まれているのではないかと。」

「つまり、二人を出す気は最初から無かった、ってことか。」

「恐らくは。」

「……それってつまり、攫った方は◯◯さんと四条さんをくっつけたかった、ってことですか?」

 

 美弥は、ある意味で真奈美の真意に近い答えを導き出す。が、薫は横に首を振った。

 

「そんな綺麗な話じゃねえと思うぞ。…言い方は悪いが、あの二人の置かれている状況は、檻の中のモルモットに近い。そんな極限状態の環境を強いる奴に、そんなお花畑な発想があると思うか?」

「…そ、それは…。」

 

 薫の言っていることも正しかった。二人をこんな見つけ出しにくい場所に監禁した時点で、人に見られたくないような事でもさせるつもりであったのではないか、という彼女の考察もあった。

 

(まさか、セ……じゃないな、肉体関係を無理にでも持たせようとした?……いやいや、アイツに関してはそれは逆効果だろ?)

 

 彼の場合は、一線を越えようとも自身の心理的圧力が超合金のように硬いため、よっぽど何か外的な要因を加えようとしない限りは、まず性的な脅しや籠絡は不可能と言っていいだろう。

 例えばそう。

 

(……薬剤、それも特殊な用途でしか使わないような、な。)

 

 と、ここまでまさかの可能性が浮かんだところで、少し前に美弥がトラックの運転手に投げかけた質問が気になった。

 

『……ねえ、おじさん。あの荷物、私達に見られたら困る物が入っているってことでいいの?』

『あっ、ああ。そうだ。』

『例えばその…、エッチなものとか?』

『ぶふっ!?』

 

 確か、こんなやり取りをしていたはずだ。

 

(…………!?―ま、待てよ!?もし、あの積荷の中にそんなものがあったら?)

 

 薫は戦慄した。もしかしたら、手遅れだったのでは、と。

 

 

 

 

「すまん、麻美。少しアイツと話をさせてくれないか?」

「えっ、はい。薫さんの頼みでしたら。」

 

 何やら思い詰めたような表情で、麻美からスマホの相手を変わる薫。通話相手は、勿論彼だ。

 二人が放り込まれた場所は確かに圏外ではあったのだが、大手携帯キャリアの電波を周囲に送受信できる機能を持つ、可搬式の通信設備を介することで、二人とのやり取りが可能になっている。

 

「……急に代わって済まない。◯◯、少し確認を取りたいんだが、いいな?」

『えっ、あっ?別に構わないが…。』

「正直に話してほしいことがある。お前、そこの四条千里と、同衾したのか?」

『どうき…ぶほっ!?』

 

 思い当たる節でもあったのか、吹き出した彼。

 

『ちょっと、◯◯さん?』

『薫、お前いきなりなんつーコトをぶっ込んできやがる!』

「こっちは真面目な話だ!事と次第によっちゃ、お前を拘束する必要があるからな。」

『ちょ、拘束って!?』

『益子さん!それはあんまりですよ!』

「……どうなんだ?やったのか、やってないのか?」

 

 薫は、イライラしつつも、同時にこみ上げてくる悲しさを抑えようとしていた。万が一の時は、彼の介錯すら辞さないという覚悟を持って。その彼女に対して、彼は少し間を置いて答えた。

 

『……一つハッキリ言えるのは、俺は四条に手を出してはいない。確かに隣で寝はしたが、それも四条から頼まれてのことだ。別に何もやましいことは何もない。』

『益子さん、◯◯さんはむしろ私をかなり気遣ってくださいましたよ!ですから◯◯さんの拘束なんて、しないで下さい!』

「…………お前の妹に判断を仰ぐ。」

 

 そう言って、薫は麻美の方へと向かう。

 

「今のやり取り、聞いていたよな?どう思う。」

「結論から言うと、大丈夫だと思いますよ。薫さん、冷静でいられないと思ったから、私に聞いてきたんでしょうし。その判断は間違っていませんよ。」

「…悪い。ちょっと頭に血が上ったみてぇでな。」

「それより、兄の方に戻った方がいいのでは?…多分、かなり怯えていると思いますよ?」

「ありがとうよ、麻美。」

 

 薫は再び、彼との通話に戻っていった。

 

「…まあ、あれで嘘をつけるような人間ではないことくらい、あの言い方で分かるから…。…全く、罪なお兄ちゃんだこと。」

 

 麻美には、もしもの時は兄に責任を取らせるにせよ、以前からあれほど強く男女関係を警戒していた人間がそう安易にホイホイと肉体関係を取るだろうか、という断言に近い確信があった。

 

「そう言えば、お兄ちゃんと一緒に居る人、確か私と同い年の娘だったっけ?…お兄ちゃんがどんな感じだったのか、聞いてみたいな。」

 

 麻美はまた、彼と共同生活を余儀なくされた千里の方に関心が向いた。

 

 

 

 

 タープテント内では、彼と千里の救出作業をどう進めていくのか、決めあぐねている様子だった。それも無理のない話である。二人のいる空間は、高さにして地下三階分の位置にある。加えて、その上に置かれた大量のガソリンなどのドラム缶が、エンジンカッターなどの火花が生じる救出用機材の使用を阻んでいたからだ。

 

「時間を掛けて進めてもいいが、もう長いことこの空間に閉じ込められている以上、とっとと救出しなけりゃならない。ねねも長時間離したままというのも、オレの居心地が悪いしな。」

「ですが、問題はこの二人の空間の上にある燃料庫です。これでは、安易に重機などを使っての作業はできません。何か起きれば、爆発などの二次災害の恐れもあります。」

「…だよなあ…。」

「あの、益子さん。」

「なんだ、美弥。」

「○○さん達のところに居るねねちゃんを使って、助け出すことはできませんか?」

「結論から言えば、無理だ。下の二人は刀使じゃない。オレ達のように隠世の空間に潜っても大丈夫なわけじゃないからな。もし、ねねと一緒に隠世の浅瀬にでも潜ろうものなら、下手をすれば空間に入った途端に体はミンチだ。」

 

 厄介なもので、写シや八幡力などの刀使の力は、一般の人間には共有することのできない力である。せいぜい、刀使におぶわれるような形での八幡力を使った移動ならば、一般人でもなんら体に異常は起こらない。

 だが、隠世に潜るとなれば話は別だ。基本的に一般人がそのような事態に遭遇すること自体、まず例がない。そのため、そんな試行実験を行うことも考えられていなかったわけである。

 

「…それじゃあ、○○さん達は…。」

「オレ達の派遣要請がなけりゃ、この場にまだ居たいんだがなあ…。荒魂は待ってはくれないだろうしな。」

「なら、麻美さんだけでもここに置いていってはどうですか?」

「…いいえ、薫さん達が行くのに、私一人がここに残るわけにはいきません。私も行きます。」

 

 半ば一緒の帰還を断念する、薫たち刀使。

 共に帰ることで、疲弊気味の臨時指揮所の面々に少しでも喜ぶ顔を見せてやりたいと思ったのだが、それは諦めるしかないのだろう。

 そう、思われた。

 

 

 

 

 

 

 薫達が臨時指揮所に向けて出発しようとしていた、まさにその時だった。

 

『第四班、益子さん!聞こえますか!?』

「……この声、まさか。」

『こちら、本部の水沢です!聞こえたら応答してください!』

「「!?」」

 

 その場にいた全員が驚いた。姫乃は現在『鎌倉事変』に関する諸事情により、本部から動くことができないのだ。その彼女が、わざわざこの班に通信を飛ばすということがどういうことなのかを。

 

「…聞こえたぞ、水沢姫乃。そろそろオレ達は臨時指揮所に向かうところだったんだが。」

『承知しています。相模湖の臨時指揮所から情報は貰っていますから。…ですが、戻られるのなら、一緒に戻りませんか?』

「…どういう意味だ?」

『そのままの意味です。○○さんと四条さん、お二人も連れて、です。』

「お、お前な。それができたら、とっくにこっちでやっているぞ!本部にも報告したはずだぞ、すぐに救出するなんて無理だと」

『できます。』

 

 姫乃は断言した。全体にはっきりと聞こえるように。

 

「…できる?」

『はい。今朝方フリードマン博士のほうから、米軍で試作して静止衛星軌道上に打ち上げていた、DARPA絡みの人工衛星があるとの連絡を受けました。…軍事機密に触れるので細かいことは言えませんが、宇宙空間から大出力レーザー砲を、ほぼ正確な目標座標に撃てると教えていただきました。』

「…ちょっと待て。つまり、ここに向けてレーザービームを撃つってことか?」

『流石に威力は調整しますよ。せいぜい、お二人を閉じ込めているものを薙ぎ払う程度の威力です。』

「…………信用していいんだな、その情報。」

『事前に○○さんと四条さんには、発射時に目を瞑っていただくように伝えてください。他の方々も同様です。下手をすれば、目が焼けますので。』

「…サラリと恐ろしいことを言うなよ。」

『それと、刀使さん向けに大量のS装備と、特祭隊員の方向けには冷凍弾と新型のシールドを博士の方から送っていただきました。空自の輸送機で臨時指揮所上空に投下する予定です。』

「…助かるぜ、爺さん。」

 

 薫は、遠方にいるフリードマンに感謝しつつ、姫乃のぶっ飛んだ提案に乗っかることにした。

 

 

 

 

 

 

 薫達に発見されて、およそ一時間。彼と千里は、ねねに保存食を少し与えつつ、救助の推移を見守っていた。

 

「……意外に時間が掛かるのな。ま、脱出口が一ヶ所しか無いんじゃ、どうにもならないんだろうけどな。」

「ただ、ねねちゃんをまだここに残しているってことは、益子さんも何か考えていらっしゃるんじゃないでしょうか。」

「だとは思うけどなあ…。」

「ねね~っ。ね~♪」

 

 リスのように食べ進めるねねを撫でながら、のんびり待つ二人。すると、送られてきたスマホから薫の番号で呼び出しが掛かる。

 

「もしもし?」

『◯◯か?待たせた。今、お前のところの水沢から連絡があった。ねねを大きくして、お前ら二人とも守ってもらってくれ。』

「ねねをデカくしろ?…どういう…」

『いいから急げ!あと、お前が言っていた出入り口からは離れた位置で隠れろ!目も瞑っておけよ!』

「りょ、了解…。」

 

 薫の突然の切羽詰まった雰囲気に、彼は首を傾げつつも、スピーカーモードにしていたことで千里に重ねて説明せずに済んだのは、この時においてはファインプレーであったと言えるだろう。

 

「んじゃねね、ちょっとデカくなってくれ。」

「ねっ!!」

 

 彼のジェスチャーを理解し、ねねは普段の愛らしい姿から一転して、獣っぽく大きく変わっていく。

 

「これがねねちゃんの本来の姿…。」

「大丈夫だ。別に食ったりはしねえよ。だろ、ねね?」

『ねねぇ~。』

 

 声は野太いものとなってはいるが、紛れもなく普段のねねと変わりない。

 

(早いところ、ねねと似たような荒魂を多く見つけてやりたいもんだがなぁ…。)

 

 人々に長年植え付けられた荒魂への恐怖心や精神的反射は、そう簡単に拭えるモノではない。だが、ねねがそうであったように、荒魂に少しでも寄り添う人間が増えれば、どれほどの時間が掛かるかは分からないにしても、いずれは荒魂被害も減っていく、と彼は考えている。

 

(エレンの家系がそうであるように、荒魂に対しては俺も戻ったらまだまだやることが沢山あるなぁ…。)

 

 ふとそんなことを思いつつ、彼は薫の言葉に従い、出入り口側にねねを壁代わりに寝転がして、千里共々、目を両手で覆い隠し伏せた。ねねと壁の間に二人がいるような位置関係である。

 

「準備できたぞ。」

『よし、そこから絶対に動くなよ。オレ達の指示があるまでは絶対にな。……動いたら死ぬぞ。』

「え?」

 

 返答しようとしたが、電話は切られた。

 

「……取り敢えず、益子さんに従いましょうよ。」

「そうだな。」

(薫、…いや水沢、一体何を考えているんだ?)

 

 そんなことを思いつつも、彼らは準備を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、赤い光と熱が空間を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほどの時間が経過したのだろう。再び、スマホが鳴り響く。

 

「…もしもし。」

『おう、無事か?』

「まあ、な。四条も無事そうだ。」

 

 横目で隣にいた千里の姿も確認する。ずっと目を閉じていたことで、平衡感覚を取り戻すのに少し時間が掛かっている様子だった。

 地下空間は、焼け焦げたような臭いと多少の煙が舞っていた。

 

「で、どうなった?」

『取り敢えず成功だな。今から、滑車と救助用の担架を開いた穴から下ろす。十分以内には、地上にこんにちはだ。』

「了解。中の荷物はどうすりゃ良い?」

『後で捜査のために確認する必要もあるからな。貴重品以外は置いておけ。』

「…だそうだ。四条。」

「分かりました。…行きましょう、◯◯さん。皆さんが待っていますよ。」

「ああ。」

 

 名残惜しさもあるが、二人は出入り口跡にできた開口部へ向かう。開いた当初は雨が振り込んでいたようだが、今はその上にテントが張られ、上からゴンドラのような担架が降ろされてくる。

 

「四条、お前がねねと一緒に先に乗れ。俺は最後に出る。」

「いいんですか?」

「ああ。」

「…分かりました。ねねちゃん、来てくれる?」

「ねねっ!」

 

 ねねは千里の言葉が分かったのか、彼女が胸元に置いた両掌の上に乗る。

 

(これで薫も安心するだろうよ。)

 

 そうして、降ろされてきた担架に千里が乗ったのを確認した彼。コンコンとゴンドラ状の担架を叩き、上へ昇っていく姿をじっと見つめていった。

 

 

 

 

 彼が地上に舞い戻ったのは、午前八時頃。

 彼の足が着いた瞬間に、現場では大きな拍手が沸き起こった。同時に、大泣きする麻美が抱きついてきた。

 

「ただいま、麻美。…ありがとうございます、皆さん!!◯◯××、無事に戻りました!!ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」

 

 雨が降りしきるなかでも、彼の声はこの場の全ての人間に届いた。

 彼の帰還の報が各方面に伝えられたのには、そう長い時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 反撃の御旗は、もう間もなく掲げられようとしていた。




ご拝読いただき、ありがとうございました。
二日前は寿々花の誕生日ということで、とじともでの誕生日エピソードにはほっこりさせていただきました。

ねねの大立ち回りTake2となりましたが、そこは荒魂であるねねの特性が活きたということでお願いいたします。

光学兵器を積んだ人工衛星の件は、アメリカが以前計画し、浮かんでは消えている戦略防衛構想(別名:スターウォーズ計画、SDI)がもとになっております。
昨今のキラー衛星やら衛星破壊ミサイルなど、宇宙条約が破られそうな雰囲気も漂う国際情勢ではありますが。

次回は、この後編での拾いきれなかった描写を混ぜつつ、各視点の方へと戻ります。
絶望の中で灯る希望、果たして刀使達の状況に道は開けるのか。

それでは、また。
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