とじともでは現在(執筆当時)、ナース服の智恵やエレンなど、人によっては刺さりそうな要素が満載の衣装が登場していますが、よくよく考えたら刀使達の世界では病院との繋がりは結構深いという…。
そうしたところから、福利厚生を手厚くしなければ人が来ないという闇を若干なりとも窺い知ることができますが。
話を戻しまして、今回は流れが変わり始める回となります。その理由はお読みいただければ分かるかと思われます。
それでは、どうぞ。
ー中央自動車道 相模湖ICー
真奈美達が複数箇所で解き放った、カテゴリーサイズ3~4クラスの中型荒魂は、日本の大動脈の一つである中央自動車道、あるいは中央本線へ向けて侵攻を続けていた。
「危険ですから直ちに東京方面へ引き返してください!荒魂が複数出現しました!」
「この先は大月JCTまで通行止めです!警察の指示に従い、至急付近から退避してください!」
付近ではNEXCOの職員や警察官らが走行してくる車両に対して、強制的に下り線の高速道路を降りてもらうように誘導する。
荒魂の複数出現に伴い、山梨方面へ向かう国道や県道も封鎖したため、物流を担うトラックなど東京方面へと引き返せない一部車両は、相模湖IC・相模湖東IC周辺で足止めを受けていた。
しかし、その車両に乗る人々にも、荒魂の攻撃の矛先が及ぼうとしていた。
ドドーン!
「ああ!俺の車があ!!」
「そんなことより早く避難しろ!車以上にお前の命の方が大事だろうが!」
「ちきしょう!ついこの間買い換えたばっかりだってのに!クソォ!!」
命からがら脱出した人々は、東京方面へと脱出するべく行動を起こしていた。
荒魂の出現を見聞きした人々は、相模湖ICに近い中央本線の相模湖駅へと集まっていた。
幸いにも東京方面側の電車がまだ運休しておらず、平日の日中であるにも関わらず、車内は通勤ラッシュ並みの大混雑となっていた。大月へ向かう電車も運行打ち切りにより、この駅で臨時の高尾行きへと行先変更が行われていた。
相模湖駅より山梨側に進んだ藤野駅付近では、既に迫り来る荒魂と刀使達との間で戦端が開かれていた。
「駅周辺に展開する刀使達へ!荒魂を絶対に駅へ近づかせるな!駅周辺にいる民間人の避難が完了するまでは、何としても現状を死守せよ!!」
藤野駅付近で展開していた第三班の刀使達と特別祭祀機動隊員は、荒魂が藤野駅周辺に到達する前にどうにか部隊の再展開を終わらせられた。
だが、現状はジリジリと東京側への後退を余儀なくされており、とてもではないが勇ましい言葉を発するだけでは難しい状況に立たされていた。
(◯◯さん達が発見されたというのに、一体なぜこのタイミングで!)
不幸中の幸いだったのは、彼や千里の捜索のため、相模湖周辺の一部地域で住民の避難を進めていたことと、それに伴って刀使達を派遣していたことであろうか。もしこれが普段どおりなら、とっくの昔に中央道と中央本線は壊滅的被害を被っていたはずだ。また、一部の刀使がこちらの現場に増援として送られていたことも、まだ戦闘継続が続けられた一因であった。
「今は何としても踏ん張れ!応援もそう遠くないうちに到着するはずだ!」
第三班の刀使部隊長はこう励ましたものの、この雨天では増援のためのヘリを派遣することは容易ではない。せめて、あと一時間守りきれれば、そう願って止まなかった。
ー男性排斥運動 相模湖拠点ー
一方、荒魂を周辺に広域かつ同時多発的に発生させた男性排斥運動側。
此方からすれば、多数の荒魂は陽動なのだ。刀使達はその存在を無視することができない以上、此方への介入に構っていられる時間はない。作戦を進めるタイミングとしては、この上なく最良な時であった。邪魔が入らないという意味で、非常に好都合な瞬間である。
「高鍋、準備ができたなら私と共に来なさい。私達の要求を呑まなかった刀剣類管理局、日本政府、そして愚かな国民に対しての見せしめの時よ。」
「女王、杞憂であればいいのですが、やってくるであろう陸上自衛隊へはどのように対応を?」
「それなら、携帯式の地対空ミサイルを各ダムに送った人間に持たせているわ。これだけの雨よ。空路を止めて仮に陸路で行くにしても、関東のダムの同時起爆ならば絶対に間に合わない。ゲリラ戦に備えた対策も仕込んでおいたはずだから、作戦に問題は無いわ。」
(あとは、私自らが相模ダムの起爆コマンドを入力して、決壊させればこちらの勝ちね。混乱に乗じて静岡方面へ逃げれば、あとは海上拠点に籠もるだけだし。)
既に沼津港には、男性排斥運動の活動拠点である偽装貨物船が停泊している。停泊場所として横浜港や熱海などを選ばなかったのは、相模川流域の作戦成功時の影響を考慮しての計画だったからだ。
「さ、高鍋。あと宮原、伊田も。下の船で相模ダムへ向かうわよ。」
「「「はっ!」」」
(…いよいよ。いよいよよ。さあ、目前で貴女達が守ろうとした下らない世の中が崩れ去る瞬間を、その目ではっきり見せてあげるわ!荒魂なんかに構っていた結果が、より多くの人間の命を奪うのよ!)
荒魂との死闘を繰り広げる刀使達の動きを尻目に、真奈美達は停泊させていた大型ボートに乗り込んでいく。
目標は、相模ダム管理事務所。男性職員らを拘束後、逃げられないようにあれこれ手を施す予定だ。その後、以前深夜のうちにダムへ取り付けておいた大量のC4爆薬を、一斉に起爆させるための装置とその起爆コマンドを起動させ、相模ダムの堤体構造そのものを破壊する。あとは放出される圧倒的な水量によって、下流域のダムなどを圧壊させるというわけだ。
(ま、私が起爆コマンドを打ち込まない限り、他のダムの起爆装置が作動しないというのは、少し面倒なことをしたとは思っているわよ。)
この背景には、真奈美自身が悪名であろうとも自分の名前を歴史に残したいというのが一つ、もう一つが、末端の人間が勝手に暴走して爆破しないようにするための保険というのがある。結局のところ、最後まで信じているのが自分自身だけというのは、組織という点では最悪の行動ではあるのだが。
(……いずれにせよ、◯◯××。これが成功すれば、お前が信頼していた刀使達は無能であるという醜態を、世間から拭い去ることは永遠にできない。結局、男が関わるから女は駄目になっていくという、私達の主張が正しいことが世間に示されるというわけよ。)
女の純潔を破るのは常に男だ。今の刀使達は男に絆されたことで、昔に比べて絶対的に弱くなっている。ならば、男が関わらない昔の高貴な姿の刀使を取り戻すべきだ。真奈美の刀使への見解はこんなものであっただけに、今の男、いや男子と話しているような刀使達がいかに邪魔な存在であるのか、彼女としては男の存在そのものが許せないものであった。
(…諸外国の思惑など知らない。私は、男が反吐が出るほど大嫌いだ。千里もあの男の毒に染まってしまった。いっそ、この国全てを浄化してしまうのも悪くない。だから、これは手始めの儀式だ。心を悔い改めて、男と関わることを止め、荒魂討伐だけに専念すれば、かつての強き刀使の姿、男に虐げられることのない女性としての誉れ高き姿を取り戻すことができる。私がそう示すことができれば、男どもの排除が加速する。……汚れを持つ男や、毒された思想を持つ女どもは一掃されてしまえ!!)
そして、全てがリセットされたこの国で、彼の絶望する顔を眺めながら、嬉々として女性中心の社会を実現する。彼女はその時が近いことを、穏やかな表情を浮かべながら非常に喜ばしく感じていた。
真奈美達を乗せたボートは、舟屋造りの拠点から静かに相模ダムへ向けて航行を開始した。この作戦が成功した場合、首都圏の壊滅が空想から現実のものへと大きく変貌を遂げようとしていた。
ー神奈川県相模原市 臨時指揮所ー
難航していた救助活動は、姫乃が手繰り寄せた先端技術的な解決方法により、彼と千里は待っていた多くの仲間達と無事に合流を果たしていた。荒魂の多数出現により、あちこちを迂回しながらの移動となったわけであるが。むしろ視界に映る雨が、二人へ外界に出られた証であるような風に印象づけたわけである。
臨時指揮所へ戻った時、彼へ真っ先に声を掛けてきたのは、自身の部署の仲間であった。
「―◯◯!」
「中島。悪い、待たせた。」
里奈達の第六班は桂川橋付近での救助活動を終え、上野原市方向からの荒魂討伐の応援に向かうべく、ここで補給と人員編成を組み直しているところであった。その際に彼と千里の発見の報を受けて、出発を少し遅らせていたのだ。
彼の姿を見つけるや否や、里奈は全力で駆け寄り、そして彼を抱き締めた。
「おっおい、中島!」
てっきり殴られるのかと思っていた彼は、里奈の意外過ぎる行動に驚いていた。その代わり、彼女は抱き締める腕の力を強めていった。
「……もう、心配したのよ!アンタがどんだけ色んな人に迷惑を掛けていたのか!もう二度と、生きて会えないかと思ってたんだからぁ……。」
そうして、里奈は彼の肩で泣き始める。その際に零したのは、大粒の涙であった。
彼は彼女をそっと撫でるように、しかし確実に聞こえる音量で語りかける。
「ゴメンな、迷惑かけて。ちゃんと帰ってきたから。あとでその埋め合わせくらい、幾らでも付き合うさ。」
「もう、バカァ!」
彼は里奈を落ち着かせるように、優しく頭を撫で、彼女の身体を抱き返していた。里奈もまた、口では悪く言いながらも、抱き締める以外は何もしてこないところを見るに本気で心配していたことがわかる。
それから少しして、有志として捜索活動に加わっていた彩矢も、荷物の積み込み作業が終わって指揮所へ戻った時に彼のもとへとやってきた。当然、親友である里奈ががっちり彼へ抱きついている時にであるが。
「あー。どうやら私、来るタイミング悪かったみたいだね。」
「彩矢も来てたのか!…悪い、心配かけた。」
「麻美ちゃんから聞いた時には驚いたよ。まさか、誘拐されるなんてね。……でも、君だったらきっと生きているって、私はずっと信じてたよ。お帰り、◯◯君。」
「ああ、ただいま。彩矢、中島。それと、皆。」
里奈が抱きついたままで言えていなかったものの、彩矢以外の指揮所内の人間にもお礼の言葉を告げる。
「「お帰り(なさい)、◯◯さん(君)!!」」
指揮所の人間もまた、そう返した。そこには疑いようがないほどの、温かな空間が広がっていた。
しばらくして里奈も泣き止み、すっと彼から離れる。
「…ありがとね。◯◯。」
「これくらい、今までの迷惑料に比べれば全然安い御用よ。」
「じゃあ、次は私の番だよね。◯◯君?」
と言って、今度は彩矢が彼の右腕を抱き寄せる。
「えっ、ちょ、彩矢!?」
「里奈はぴったりくっついてて、私は駄目ってことは無いよねっ?」
「…セクハラ覚悟で言うけど、胸、当たってないか?」
「気にしなくていいよ。私の意思でくっつけてるだけだから。それに、君と私の仲だし、ね?」
「……まあ、今は俺がとやかく言える立場でもないから。彩矢の気の済むまで、どうぞ。」
「言質取ったからね?」
「あ、もし続けるつもりなら左手でお願いするわな。右手はちょっと扱うし。」
「それならいいよ。…なんか、だいぶ久しぶりに君と一緒に居られるなあ…。」
一応言っておくが、彼から見た彩矢は親友である。とはいえ、長らく音信不通であった以上、そのお詫びの対価がどんなものであれ払う理由はあるのだ。例え本人にとっては不可抗力であったとしても、である。それに、今の彼女が向ける笑顔を崩させるような態度を示せるほど、彼の対応は無神経でなかった。
(……彩矢も、結構心配してくれてたんだな。中島、いやそれ以上に俺の腕を強く抱きしめているのが分かる。…ホント、彩矢にも悪いことをしたなぁ…。)
今回は自身にとって抗えるものでなかったにせよ、元々いつ死んでもおかしくない行動を取ると周囲から見られている以上は、その心配を現在目に見える形で体感しているわけである。
(…つくづく、俺はいい同僚や仲間達に恵まれたなぁ…。)
そうであるからには、今後はあまり無茶なことはできなくなるな、などと彼はふと思ってしまった。
荒魂の同時多発的発生により、臨時指揮所の慌ただしさは時間を追うごとに更に増していた。
救出されたばかりとはいえ、彼もその対処の一端を担うべく情報の把握を進めていた。彩矢に続けるなら腕を変えてくれと言った事情には、利き手が右手であることが関係していた。渡されたタブレットと書類を見ながら、今回の荒魂達への考察を始める。
なお、里奈は薫たち第四班の刀使とともに、藤野駅周辺で攻防を続ける第三班の応援に向かった。同じ班の一部の人間は、臨時指揮所に残していったが。
「……まるで、狙い済ましたかのように荒魂が展開・進攻しているな。おまけにこの地形と橋の遮断状況だと、両岸を行き来しながら救援を出すのは難しいな。橋も事実上使えないとなれば尚更で。」
「…ねえ、◯◯君。この荒魂達、山梨側にはあまり進んでないように見えるんだけれど、私の気のせいかな?」
「ん?ちょっと待てよ…。……本当だ。全部、下流の方向に向かって進んでいる。……ってことは。」
「ってことは?」
「ここには作戦参謀本部の人間は居るよな!?」
「は、はい!私ともう何人かがそうです!あとは先輩方が数名ほど。」
奥の方で討伐作戦を練っていた少女達が手を挙げる。次いで矢継ぎ早に指示を出す奈緒や絹香、和歌子の姿を捉える。
「現状どおり中央道と中央本線側の荒魂の討伐を優先しつつ、荒魂を纏めて誘導するんだ!」
「それだと、我々やこの先のダムの方に被害が出ます!幾ら何でも刀使の絶対数が足りません!!」
「ダムはカテゴリー3~4くらいなら、短時間は耐えられる強度を持ってる!それと、対荒魂用急速冷凍弾は準備してあるか!」
「一応あります!先ほど本部から届けられた約50発分が。追加分はこれから自衛隊の輸送機で、S装備ごと投下するそうです。」
「なら冷凍弾を荒魂へ向けて撃ち込みつつ、一部は湖の方へ誘導しろ!あまりに重ければ、浮上に時間が掛かるからな。しかもこの雨だ。これなら、凍結と解凍に時間が掛からん!」
「冷凍弾の使用は国道方面からですか?」
「ああ!そこから二個小隊分の刀使と一個小隊分の特祭隊部隊を引き抜いて、相模湖駅側へ急いで回してくれ!船ならそう時間は掛らないはずだ。ともかく今は人だけでいい。急いでくれ!」
「はっ、はい!」
真希や寿々花は、前線指揮のため臨時指揮所から離れており、指揮所でまともに指示を出せる人間は物理的にも限られていた。そうであるがために、彼が戻ってからの戦線の再構築は、非常に速やかで鮮やかなものであった。ともかく、藤野駅から相模湖IC付近まで押し込められた防御線を、どうにかして真希達のいる上野原方面へと押し上げなければならない。そして、刀使達が必死で守り抜いている今のうちに、補給線の構築と攻略の糸口を見つける必要もある。
「…やっぱり凄いね、◯◯君。」
「凄いのは、こんな無茶苦茶な指示に従ってくれる皆だ。俺の力じゃないよ。…それに、そのヒントをくれたのは彩矢だし。」
「…君は、あの時と変わらないね。全部考えたうえで、みんなが無事に帰ってこれる最善の一手を導き出そうとする。…一番、君が大変なはずなのに。」
「これくらい、何だってないさ。…彩矢達や民間の人たちがケガせずに帰ってくるためなら、自分の力を出し惜しむ理由なんてない。現場で頑張っている皆に比べればこれくらい…。」
「……無理しちゃ、ダメだよ。」
「年の離れた親友の顔を泣かせるような真似は、俺自身も御免被りたいものだけどな。」
穏やかな顔を彩矢に向けながら、彼は嘘を混ぜた言葉を返す。
(…悪いな、彩矢。俺の無茶で誰かが無事で済むなら、俺はその無茶を全力でやり遂げる。…身勝手で、ゴメンな。)
彼女への言葉に罪悪感を感じつつも、彼は彼なりの曲げられない理由を口に出すことは無かった。
その頃、里奈達第六班が乗っていた指揮車両では、補給作業の待ち時間のうちに葵が相模湖周辺の状況を監視し続けていた。国土交通省の許可を貰いながら、彼や千里の発見の報がもたらされて以降も、出現した荒魂や湖そのものに異常がないかを、湖面上に放ったドローンと
葵が、複数のドローンのうちの一台を、上流側に向けて飛行させていた時であった。
赤外線カメラが、湖面を動く何かを捉えていた。
「ん?何だろう、これ。」
気になった葵は、赤外線映像からデジタル映像に切り替えてその何かを追おうとしていた。
「……船?でも、今は一般船舶の航行は禁止のはずなのに…。」
不審に思った葵は、微速前進する船の進行方向へ先回りし、船上を確認しようとした。
ドローンが船の前に回り込んだ時だった。突然、船の方から複数の光が放たれる。そして、その後にドローンの回転翼の一つが破損する警告が、彼女のディスプレイ画面に表示される。
「!?―まさか、銃撃!?」
するとほぼ同時に、刀剣類管理局の顔認証システムが警報音を鳴らし始めた。
「今度は何よ……、ってはあ!?」
葵は目を疑った。失踪していたはずの真奈美の顔が、ドローンの映像から検出されたのである。この顔認証システムの一致率の精度は約九割以上であるため、この船に乗った人間の中に真奈美がいるということになる。
「これ、急いで指揮所に知らせないと!!」
彼女が何を企てているのか分からない以上、一刻も早く真奈美を捕まえなければならない。葵は繋いでいたマイクを掴み、臨時指揮所内へ緊迫感のある声を届けた。
「大変です!失踪していたはずの祇園真奈美さんが、相模湖を航行中です!!」
臨時指揮所内は騒然とし、そして更なる危機感を募らせていった。
だが、彼はその状況中でもう一つ別の要請を本部経由で行っていた。それは何なのかは、すぐに分かる。
ー相模湖湖上ー
小型船舶免許を持つ宮原が航行させていた、真奈美達の乗る船は、近づいてきたドローンへ向けて発砲し追い払っていた。
「女王、申し訳ありません。撃ち落とせませんでした。」
「仕方ないわよ。動対動射撃なんて、普通の人間には難しいもの。むしろ、一発命中させるなんてスゴいじゃない。流石、私の見込んだ参謀だこと。」
「お褒めに預かり、恐縮です。」
「さて、何者かには恐らくバレただろうし、宮原ぁ、スピード上げて。」
「はい。かしこまりました。」
(とはいえ、これでもとっくに最大船速なんですよ、女王。)
無理とは言えない宮原。それでも努力している風には装うことができる。
「伊田、トミーガンの調子は?」
「ドラムの詰まりもないですし、後付けの銃架のおかげで横揺れはほぼありません。船を制圧しようなんて馬鹿な考えをする人間には、私の鉛弾が命中しますよ。」
「ふふっ、頼もしいわね。」
(さて、あとはダムまでに邪魔が入らなければいいだけね。)
油断はしていないが、武装している以上はそう簡単に攻撃を受けないであろう、と真奈美は思っていた。
ゴオォォーン
突如、耳を切り裂くような轟音が上空から響き渡る。
「…一体、今の音は…。」
「…女王、あのパラシュートは一体何ですか?」
「……!?―宮原、全速後退!あのパラシュートから離れなさい!」
「はっ、はあ?」
真奈美の指示で、急遽船を逆進に切り替えた。ガクンと乗船者全員が慣性に引っ張られたものの、船はゆっくり後ろへ下がっていく。
真奈美の意図が読めないなか、ジッとパラシュートを見つめていた時だった。
カチッ
ドドーン!!
湖面からおよそ20~30m上空で、真っ白な氷華が咲き乱れる。
その爆音とともに、前方数百mが瞬時に
「は?……嘘でしょ?」
今は雨の降りしきる梅雨。まして太平洋側の気候に属するこの場所で、湖面が瞬時に凍結するなど自然法則ではあり得ない。となれば。
「まさか、動きが読まれている!?」
「いいえ、あのドローンを追い払ってまだ一分も経っていません。恐らくですがあれは…。」
「……おのれおのれおのれ!刀剣類管理局ぅ!!この怨み、後で数倍に返してやる!!」
真奈美は心当たりがあったようで、酷くキレていた。当然ながら、湖面の解凍がなされるまでの間、彼女達はしばらく足止めされることとなった。乗っている船は砕氷船ではないうえ、どれほど湖面が凍結しているのか分からない以上、氷の上を歩かない判断ができる程度の理性や知性は残っていた。後続から来たもう一艘のボートも、足止めを受けることになった。
この湖面凍結を引き起こしたのは、折神家と刀剣類管理局が開発していた航空機搭載型急速冷凍弾によるものであった。その性能を簡単に言えば、
これをここまで搬送してきたのは、航空自衛隊小牧基地を拠点としていた輸送機部隊である。愛知・長久手にいるフリードマンが手を回し、近隣の当該基地にて新型シールドやS装備などの多くの物資をC-2輸送機へ載せた。また、恭一*1たち長船の技術班が不測の事態に備えて、これらとは別の荷物として試作段階のモノを、随行する戦闘機に搭載させてもらっていたのだ。
その情報を聞いた彼が、輸送機部隊の方へ冷凍弾の指定座標へのピンポイント投下を要請したのだ。どのみち相模湖上空でCDS*2による物資の投下を予定していたので、投下タイミングとしては好都合であった。それに、炸裂させる予定の場所は民間人の避難が完了している湖畔寄りの湖上空である。人的被害は想定しなくて良かったからこそ、大胆な手に打って出たのだ。
かくして、この冷凍弾のおかげで荒魂の進行を一時的に食い止めることに成功した。凍り付いた荒魂を斬り祓いつつ、ノロの収集と防御を固めていく。
これにより、真奈美達は大幅なタイムロスを、刀使達は荒魂討伐に費やす時間をかなり削減した、という結果をそれぞれもたらすことになった。この彼の要請が、後に起こり得た事態を先延ばしにしたのだ。
C-2輸送機から投下された大量の物資は、相模湖上空がほぼ無風であったこともあり、正確に臨時指揮所のある県立相模湖公園の敷地内へ送り届けられた。任務を終えた輸送機隊は、航空自衛隊入間基地へ向けて進路を東に取り、雲上を飛び去っていった。
戦況は、一気に刀使達の方へと傾き始めていた。
ご拝読いただき、ありがとうございました。
冷凍弾の技術を発展させていったら、市街地では容易にぶっ放せないモノまで出来上がりました。
(科学技術とか兵器開発って、基礎理論さえ完成してしまえば後はどうとでもなるという…。)
とはいえ、刀使達や彼らからすれば意図しない時間稼ぎとなったわけで、これが後々に大きな影響を及ぼします。
それでは、また。