刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は荒魂討伐の最前線に立つ刀使達の描写に移ります。
こうして書いていて思うに、アニメ本編での『相模湾岸大災厄』や『年の瀬の大災厄』などの荒魂の数のヤバさを、改めて実感させられる筆者でございます。
(それがほぼ凝縮されたような位置で蠢いているともなれば…。)

それでは、どうぞ。


⑮ 守りたい未来

 ー山梨県上野原市 上野原IC付近ー

 

 大雨が降りしきるなか、最前線で荒魂討伐を行っていた美炎達第五班は辛うじて戦線崩壊を免れ、応援に駆け付けた真希達の第一、第二班の刀使達や特祭隊員達と交代しながら、戦闘を継続していた。

 その応援の派遣よりも先に荒魂と対峙することとなった、智恵ら第五班は、手負いの美炎を後衛に回して戦場を駆け巡る。

 

 

 

 

「美炎ちゃんは、私の後ろで荒魂たちによる不意討ちを防いで!呼吹ちゃんは前衛で荒魂を斬りつけつつ、深入りしないように攻撃を続けて!」

「「了解!!」」

「由依ちゃんは、呼吹ちゃんが弱らせた荒魂を斬り祓って!万が一の時は金剛身で防御!」

「はいは~い!まっかせてください!!」

「…やっぱり、ミルヤのようにはいかないわね。」

 

 じゃじゃ馬のごとく動き回る呼吹を制御できている時点で、智恵の指揮能力も大概凄い部類に入るのだが、これを実戦でフル活用できるミルヤの統率力を、この場で改めて実感していた。

 

「美炎がぶっ倒れそうになったら、アタシが引き連れて救護所に搬送するが、瀬戸内智恵、それでもいいか?」

「…ええ。この場は、この場だけは、貴女を信じて美炎ちゃんを任せるわ。」

 

 この事態の少し後*1に敵同士として向かい合うことになる智恵と暁だが、今は同じ刀使として美炎の身を彼女に任せることにした。単純に、智恵も美炎の方にまで手が回らないという事情もあるのだが。

 

「おう、お前が考えているような風にはしねえよ。それにアタシはこんなナリだが、仲間を見捨てるようなマネは絶対にしねえ。それだけは誓って言わせてもらうぞ。」

「まあ、ちぃ姉。今は暁さんを信じてあげて。…それに、◯◯さんも暁さんのことは信用しているって聞いているからさ。…それじゃあ、ダメかな?」

「……ふぅ。稲河さん、もしここから美炎ちゃんを連れ去るような真似でもしたら、私は絶対に許さないから。」

「少なくとも今、コイツを連れ去るようなマネはしねえよ。…アイツも助けられたって聞いたら、尚更そんな気は起きねえ。」

(……それに、こんなアタシのペースをかき乱せるのもアイツくらいだしな。…ったく、いつからアイツのことを気に掛けるようになっちまったんだよ。まったく。)

 

 暁の親友が当主として率い、自身も所属している日高見派からすれば色々な思惑が渦巻く美炎だが、それ以上に今は多少なりとも暁の(公私ともの)秘密を知っている彼のことが気になる。

 

「ああっ!クソッ、今度アイツと顔合わせたら、一発入れねえと気が済まねえ!だらあっ!!」

 

 ふと湧いた怒りのエネルギーを、暁はやってきた荒魂へとぶつける。

 彼女も彼女で、素直には言わないにしても彼の安否を気に掛けていたのだ。

 

「へへっ、アイツやるじゃねえか。オラオラァ!こうなりゃ、この辺一帯の荒魂ちゃん達を全部刈り尽くしてやるぜ!」

「あ、ちょっと呼吹さん!?私、荒魂に当てられるような趣味は無いんですけどぉ!?―というか、なんかアタシの方に荒魂がやってきてるんですけどぉ!?」

 

 暁の動きに対して、呼吹や由依も釣られるように動き始めた。

 

「んじゃ由依、右は任せた。左の荒魂ちゃんをジャンジャか斬りまくるぜぇ!」

「あー、もう分かりましたよ!!こうなったらアタシもやってやりますよ!」

「へへっ、じゃあ戻ってこれたら何か奢ってやるよ。お前の場合、何でもするとか言ったら最後、アタシの身に何か起きそうで怖えーからな。」

「グッ、先手を取られましたね…。―じゃあ、鎌倉駅前にある清香ちゃんセレクトのケーキ屋さんで!ああそれ、調査隊のみんなの分ですよ。」

「いいぜ、あの野郎も戻るみてぇだから、それに手伝ったお疲れ様会でもやるか。」

「その時は葉菜さんにも声を掛けてみますね。来てくれるかまでは、分かりませんけど。」

「なら、葉菜にも吉報を届けねえとな。それ、おりゃおりゃおりゃぁ!!」

 

 呼吹は更に御刀を振るう速度を上げていき、由依は呼吹へ向けて攻撃してくる荒魂を返り討ちにしつつ、一体一体への斬撃精度を高めていく。

 調査隊や暁以外の同じ第五班の刀使たちもまた、大量の荒魂を嫌がりつつ対処に当たる。

 

「あーもうこっちに来ないでよぉ!あっち行って!」

「ごちゃごちゃ言ってないで、早く体を動かして!荒魂がもっと来るじゃない!」

「私打たれ弱いんだから、どうにか倒していってよぉ~!」

 

 増殖を続ける、荒魂との斬り合いはまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー山梨県上野原市 桂川橋北側ー

 

 真奈美らの策謀により、無残にも落とされた桂川橋。増水している今、船舶以外で対岸に渡ることはほぼ不可能であった。落橋した橋を前に、辛うじて転落を免れた車両や、半ば水没しつつも奇跡的に橋の欄干に引っ掛かって流出を免れた車両から、生存者や既に亡くなった方を続々と救出していた。

 

 

 

 

「負傷者は近隣のショッピングセンターの駐車場にて救護を実施しろ!無事な民間人は、建物内で救助を待つように指示!」

「まだ動ける刀使は、ファイブマンセルにて周囲を警戒しつつ、荒魂の対処に当たりなさい!負傷した刀使は無理をせず、必ず申告なさい!」

 

 扇状から円状へと、荒魂討伐の完了したセーフティーゾーンを拡大していく真希達。大量発生する荒魂に対しての安全地帯が存在しない以上、自らでその場所を確保する必要が出てきたのだ。

 そんな中で、この付近をそのセーフティーゾーンとして抑えたのには理由があった。

 中央道での移動車中にて、真希達は第六班の桂川橋南側付近での救助活動を無線で聞いていた。その際、荒魂と爆破により事実上手が出せない状況にあった、北側の負傷者あるいは死者を救い出す必要性があったためだ。この現場では衛生科と医療班によるトリアージも行われているが、多くは軽症の緑タグで済んでいることが不幸中の幸いとでも言えようか。とはいえ、依然として楽観視が全くできない状況であることには、変わりないのだが。

 

「第五班、瀬戸内智恵の部隊の状況は。」

「今のところ、上野原IC付近で荒魂の掃討戦にあたっていますわ。市役所付近の荒魂はだいたい討伐を済ませたようですので、此方に近づいてもらいながら攻撃を行ってもらっているところですわね。」

「真希様、第一班も再出撃の準備は整いました。いかがいたしますか。」

「和美、僕の班は一度待機させておいてくれ。作戦本部からの指示を待つ。」

「了解しました。そう伝えます。」

「綿貫さん、私の班の人間にも用件を伝えていただけませんか?」

「はい。」

「『大月方面から来る荒魂の討伐への増援準備を怠らないように。』という内容ですわ。お願いしてもよろしくて?」

「畏まりました、此花様。では、私はこれにて。」

 

 真希と寿々花は、和美に指示とお願いをしながら、今後の展開を予想する。

 

「さて真希さん。私達はこれから、どう動くべきでしょうか。」

「どちらにせよ、僕たちは今、荒魂に挟まれているような位置にいるからね。瀬戸内の部隊の方に合流するのを優先するか、もしくは現状で危機的状況とされる第三班への援護射撃として、後方から荒魂を叩くか。先に僕たちの取れる選択肢は、この二つだろうね。山間で出現している国道20号線の荒魂は、取り敢えず後回しの方針だから尚更に。」

「…苗場さんの指示通り、あちらの方から刀使や特祭隊部隊を引き抜いて大丈夫でしたの?」

「報告によれば、第七班に合流した第八班と戦力の融通を行いながら、漸減作戦を展開しているそうだ。あちらの荒魂は幸い、此方ほどの数は居ないみたいだからね。…というか、その万が一のために、君は自分の班に準備を怠るな、なんて言ったんじゃないのかい?」

「あら、こうしたところでは鋭いのですね。…それはともかく、先に負傷した民間人の搬送を行いたいものですが…。」

「この雨では、まだ難しいだろうね。神奈川の陸上自衛隊には応援を要請したけれど、まだまだ長い闘いになりそうだ。」

 

 ザーザー降りのなか、未だ明けぬ戦いに辟易する二人。しかし、そんな中でも希望は見える。

 

「…彼は、無事に見つかったようですわね。」

「ああ。…気になるのかい?」

「そういうわけではありませんわ。…ただ、ここに居ればどれほど心強いことだったか、とは思いますわね。」

「奇遇だね、僕もだ。」

「真希さんほどの方が、意外ですわ。」

「彼が居なくなって気付かされることもあるさ。特に、後方だね。僕達刀使だけでは、決して荒魂討伐が成り立たないってことを余計に痛感させられるよ。」

「…そうですわね。あの大災厄の時も、彼らのような後方の方々がいたからこそ、あの程度の被害で収まっているのですから。」

「……○○、君の闘いは終わったのかい?」

 

 この場には居ない彼に、真希はそんな問いを投げ掛けた。最も、彼は彼で別のモノと今は戦っているのだが、それは後に綴らせていただこう。

 雨はまだ、降り止まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー中央自動車道 藤野PA南東側ー

 

 藤野駅付近で展開していた第三班は、荒魂達との度重なる連戦により、疲弊度合いが悪化の一途を辿っていた。

 

「写シが…!?」

「急いで下がりなさい!死ぬわよ!」

「キャアアアアーーッ!!」

 

 この現場に派遣されていた刀使の数は、決して少ないものではなかった。だが、その数倍にも上る荒魂の群れがこの部隊に集中攻撃を続けていた。結果、彼女達の戦線は下げざるを得なくなり、散発的な戦闘こそ前方であれど、防衛線そのものは既に数百mの後退を余儀なくされていた。刀使が戦いにくい市街地であることも、その影響に拍車を掛けていた。

 後方に控える一般の特祭隊員も、刀使たちへの援護射撃のため、対荒魂用拘束ユニットや対物ライフルによる12.7㎜弾を多数発砲する。僅かな、だがその数瞬の足止め時間が、疲労困憊のなかにある刀使達の生死を分けていた。

 

「何としても、中央道には荒魂を近づけさせないで!!線路は最悪、目を瞑りなさい!」

 

 鉄道施設はどのみち荒魂が出現した段階で、既に架線などの電気信号設備への被害が起こっていたため、復旧工事が必要になることに変わりは無かったが、中央道までもとなれば話は別だ。ただでさえ交通量の多いこの道路が長期間使用不能になれば、相模湖周辺での渋滞は激しいものになってしまう。加えて、湖上に架かる橋が軒並み落とされている状況では、残った橋に車両が集中することが目に見えて分かるため、中央本線が守り切れないならばせめて中央道だけでも死守したい、と臨時指揮所の作戦参謀本部は考えていた。

 

「荒魂の数は残り幾つよ!?」

『残り95体!無人航空機(UAV)からではそれだけの数が確認されています!ドローンは、荒魂の数が多すぎて近寄れません!』

「りょーかい!ああもう、クソッタレ!!」

 

 嘆きたくなる第三班の隊長。

 

「せめて、美濃関の衛藤さんなり、平城の十条さん達が派遣されていれば…。」

 

 荒魂討伐に関して実力に申し分のない彼女たちだが、先日の『鎌倉事変』発生により、戦闘能力が他の刀使達よりも高い者達を、万が一に備えて敢えて後方の本部に控えさせていたのだ。本部の方針が間違っていたわけではないにせよ、これだけの荒魂と対峙する羽目になるのならば、もう少し派遣する人数を増やしてほしかったところである。

 

 

 

 

 それでも、臨時指揮所の面々は彼女達を見捨てたわけではなかった。間違いなく、実力に指折り付きの刀使達がここには送り込まれていたのだから。

 

「おいエレン、あのジジィが言っていたヤツってのはもう届いたのか?」

「そろそろ届くって連絡がありましたヨ。さっきの轟音がそうじゃないですかネー。」

「もしかして、エレンちゃんがこの前話してくれてた装備の話?」

「Yes!!―グランパはきっと、ワタシ達を助けてくれるはずデスから。」

「んじゃまあ、そのプレゼントが届くまでは暴れてやるかあ。行くぞ、ねね。」

「ねー!!」

「あっ!薫ちゃん、2時方向から荒魂が来てるよ!」

「サンキュー、舞衣。―どっせい!!」

 

 アスファルト舗装が砕けるも、その斬撃上にあった荒魂は二つに両断される。薫の御刀である《祢々斬丸》は、元々のサイズからして“斬る”というよりも“叩き割る”という表現が近い程の高い攻撃力を持つ。大太刀は御前試合のような対人戦闘には不向きである一方で、こうしたデカブツを相手にした対荒魂戦闘にこそもってこいの御刀であるのだ。

 

「オ~、やりますネー薫。」

「まっ、こんなもんだろ。…それより、こっちはスタミナ切れが近いぞ。」

「ね~…。」

「薫ちゃん、ねねちゃんは一度後ろに下がって。…中島さーん!こっちの方を少しカバーしてもらってもいいですかー?」

「りょーかーい!!こっちはどうにかなりそうだから、ここが片付いたら柳瀬さんのほうには後で向かうわねー!」

「ありがとうございます!」

 

 応援として送り込まれた里奈達は、現在舞衣達の近くで荒魂討伐の最前線に立っていた。

 

「麻美さん、私と一緒に来て!他の娘は荒魂に突破されないように牽制を続けて!」

「はい!」

「「了解!!」」

 

 薫達第四班と、里奈達第六班にいた刀使たちは、第三班の増援に来た際にローテーション方式で戦闘継続を維持する方針を固めた。その時に、麻美は里奈の指揮下に置かれたのだ。

 

「まったく、アイツが帰って来てもやることは変わらないってのがねぇ。―はあっ!!」

「それは私だって同じですよ。―せいっ!!」

 

 荒魂を斬り祓いながら、二人は愚痴をこぼし合う。

 

「よくよく、考えたら、麻美さんと一緒に荒魂討伐するのって、初めて、よね……だらぁ!!」

「ええ、そうですよ。兄から中島さんは御前試合に出てくるような刀使と遜色ないくらい、凄い刀使って聞いてましたけど、本当に強いです、ねっ!!―そいっ!!」

「ふふっ。私からすれば、ただの民間人が御刀を振るっていた方が驚き、だったけどね!」

「兄にも、怒られましたけどね。今はむしろ、兄の状態の方が気になりますよ!はいっ!!」

 

 断続的に荒魂がやってくる。斬っても斬ってもキリがない。それでも彼女達は斬り続ける。何事にも終わりはあると信じて。

 

「まあ、彩矢も、顔見知りの人間も多いし、大丈夫よ。存外アイツ、私情に身を任せるタイプじゃないから!」

「私も、そう、信じてます!!」

 

 二人は、消耗が近づいていた舞衣達のカバーに入っていった。

 彼に近しい人間は、揃って彼が筋の通らぬ行動をしないことを確信に近いものとして感じていた。

 

 

 

 

 

 

 ー刀剣類管理局本部 医療施設ー

 

 相模湖周辺で多くの刀使たちが身命を賭して戦うなか、先日の『男性排斥運動』による襲撃で瀕死の重傷を負った刀使が、ここでは眠りに就いていた。

 その彼女の傍らでは、酷く痩せこけて目の下に隈が出来ている男が、固く左手を握り続けていた。いつ握り返されるか、あるいは二度と握り返されることはないのかという、その手をだ。

 

 

 

 

「…もう、一週間以上になるな…。…なあ早希、そろそろ目を覚ましてくれよ。…もう、俺は限界だよ…。」

 

 それに返す言葉はない。早希はまだ、あの銃撃を身に受けた日以来、意識を取り戻していないのだ。

 彼女の手術を執刀し、現在は治療にあたっている担当医師からの話では、早希がこのまま目を覚まさなければ、彼女は昏睡状態から植物状態に陥る可能性がある、と告げられている。一時的に脳への血液と酸素の供給が止まったことで、検査では捉えられないようなほどの脳機能に異常が起きたことも疑われているのだ。

 

「頼むよ、早希。……早希……。」

 

 静かに、彼女の左手をギュッと両手で握り続ける。

 既に彼女の家族へは、もしもの時に備えるように医師から説明を受けている。それは勿論、誠司も例外ではない。希望を捨てたくはないが、仮に植物状態へと症状が悪化した場合は、後の事を考えねばならなくなるだろう。…ただ、殉職したその後に何をやるべきなのか、というのは、既に以前誠司と早希の二人の間で決めてあったのだ。問題は、半ば獣害に近い荒魂討伐時によるものではなく、明瞭に示された他人の悪意によるものであったことが、誠司の中で納得のいっていない感情として浮かび上がっていたことだ。

 

「…早希は、ただ俺を助けようとして…、…自分のことよりも俺を優先して…。…これなら俺が、撃たれた方が良かったじゃないか…。…悔しい、早希を守れなかった自分が悔しい。」

 

 

 

 

 早希が治療中の際の誠司は、里奈や姫乃に迷惑を掛けないように気丈に振る舞っていた。

 しかし、実際には早希の容体が気になり過ぎたことで、体調をかなり崩していた。病室での対面時間が終わって官舎の自室に戻ると、人知れず泣き続け、自身の行動の不甲斐なさをずっと責め続けた。早希が撃たれた後では結果論となってしまったが、誠司は彼の言っていたことの意味を身を以って理解し、その後悔が心を潰していった。

 

(…早希が居なくなっただけで、こんなにも俺は何もできない愚鈍な男だったのか。…彼女の婚約者とか自分で格好つけて言っていた癖に、俺は結局この体たらくだ。…俺に関わったせいで、早希は今も死にかけているんじゃないのか。)

 

 普段は彼のネガティブマインドを少し笑うことがあったが、いざそれが自分の身に降りかかってみると、何のことはない。むしろ、普段の彼以上に誠司の精神はズタズタに壊れていた。悲しいことに、誠司はどちらかと言えば、刀使達の身に今回襲い掛かった問題を解決する側にあるので、自身のフォローアップができない状況に晒された。同僚たちも忙しく、気軽な相談は不可能であった。かくして、今の今まで、誠司自身は自身の行動を悔やみ、否定し続け、自分が関わったことで早希が不幸になったであろうことを、誰にも相談を持ち掛けることができなくなった。

 

 

 

 

(……なあ○○、生きてたら助けてくれよ。早希を助けてほしいなんて無茶は言わない。…だから、俺の言葉だけでも、静かに聞いてほしい。……もうそろそろ、俺の精神(こころ)は限界だよ。)

 

 

 

 

 今抱える自分の悩みを誰にも相談できず、自身の全てを投げ打ってでも一生を賭けて愛すると誓った彼女は、未だに目覚める前触れすらない。そんななかで、誠司のメンタル面は崩壊一歩手前まで進行していた。

 精神が粉々に打ち砕かれているなかで、誠司は早希の近くに置かれた生体情報モニタ上の波形が少し変化していたことに、気付くことはなかった。

 

 

 

 

 それから誠司が彼の救出を知ったのは、この日の夕方から夜にかけてのことであった。一人遠方で耐え続けていた彼の心労が晴らされる時が訪れるには、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 様々な人々の気分を陰鬱なものにするこの雨は、未だ降り止まない。その重い空気を糧にするかのごとく、未だ悪意を振り撒こうとする者達の動きは止まることを知らない。

*1
とじとも時空での話。本編は日高見派との衝突前の時系列となる。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

次回は、直接対決の時を迎えます。特祭隊は、凶行を拡大しようと画策する真奈美達を果たして止められるのか。

それでは、また。
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