とじともでは夏の空気が漂うイベントになっていますが、今日からいよいよ10月ですね。朝晩と昼間の寒暖さの激しさに、身体がまだ慣れない時節柄でございます。
さて、今回からは彼と真奈美ら『男性排斥運動』との直接対決の回となります。
それでは、どうぞ。
ー県立相模湖公園 臨時指揮所ー
葵から真奈美発見の報を受けた、作戦参謀の面々。当然のことながら、テント内ではどよめきが沸き起こった。なぜ彼女達がここに出現したのかが、全くもって理解できなかったからだ。
情報を受け取ってもなお動揺気味の和歌子が、葵に対して怒りとも嘆きともとれる感情を露わにして、声を荒げる。
「ちょっと、水無月さん!祇園さんが見つかったとはどういうことですか!?」
『どういうことかと私に言われても困りますよ…。苗場さん、私はありのままのことを伝えただけですから。それに、画像情報も送りましたし、この情報をどう使うかは、それこそ指揮を執られる苗場さん達次第なのですが…。』
「そ、それは分かっていますが…。」
和歌子自身も、こんな突発的な事象に対して有効な手を打てるようなほどの経験は積んでいなかった。まして、一般人相手ともなれば余計に不測の事態であるに変わりなかった。
「苗場さん、何か深刻な問題?」
「ええ、はい…。一週間ほど前に鎌倉の本部が襲われたことはご存知でしょうか。」
「それはね。」
「その関係者と目されている綾小路の人間が、今この湖上にいると連絡を受けました。…ですが。」
「どうしたん?何か悪い事でも起きてるの?」
「はい。…相手が他の仲間と共に、飛行中のドローンを銃撃してきたと。」
「じゅ、銃撃!?」
「残念ながら、私は武装した一般人である彼女達を抑えられる方法を知りません。…浦賀さんは?」
「…私も駄目ね。知っていたとしても、刀使の娘達を危険な目に遭わせるわけにはいかないもの。」
OGである奈緒も、相手が武装し銃撃をしてくるような戦闘経験はない。彼女も彼女で、非戦の方向に向かざるを得なかった。当然のことながら、今は少し席を外している絹香も知っているわけがない。
「…それにしても、彼女の狙いは一体何なのでしょうか。」
「う~ん。銃撃してきたところを見るに、わざわざ観光しに来た、という穏やかなものではないんじゃないかしら。…問題は、その武装している理由ね…。」
「どうした、苗場、浦賀も。」
頭を抱える二人の姿が目に入った彼は、作戦参謀本部の人間が詰めているテントへとやって来た。
「あら、○○君。私らも貴方のことを待ってたんだよ。お帰りなさい。」
「遅くなったな、浦賀。それについては謝る。―で、何か厄介事か?」
「…本当なら貴方に頼るのは癪なのですが、仕方がありませんね。少し、お力添えをしていただけませんか?」
「構わないぞ、苗場。」
「んんっ、実はですね、祇園真奈美の消息が掴めまして。」
「本当か!!」
「―ちょ、ち、近いですから!?」
彼が前触れなくノーモーションで一気に零距離まで近づいてきたため、思わず驚いた和歌子。彼もすぐにそれに気付き、すまないと口にこぼした。
「で、彼女、今はこの湖の上でモーターボートに乗っているところを哨戒中のドローンが捉えたんです。」
「アイツの居る地点は分かるか!?」
「ええっと、現在は藤野駅付近…もっと言えば
「浦賀、ここから出せる船はあるか!?」
「確か、近くに少なくとも二、三隻は泊めてあったはずだけれど…、…まさか!?」
「俺が祇園を確保する!」
切迫したような彼の姿勢に、奈緒は急く彼を止めようとする。
「ま、待って○○君!そんなに慌ててどうしたの!?」
「浦賀、祇園は四条に危害を加えただけでなく、俺達を閉じ込めた張本人だ。そんな人間が何の考えもなく、ここを遊弋しているとは思えない。絶対に何かを起こすつもりだ。」
「で、でも!相手は銃で武装しているのよ!危険すぎるわ!」
「浦賀や苗場は荒魂討伐の指示や指揮でここを動けないだろ。幸い今なら、俺は動ける。おまけに、こっちは実際に対人戦闘も経験してんだ。伊達に刀使たちにしごかれていねえよ。」
「そ、それでも!」
「…浦賀さん、止めても無駄ですよ。この男は、言い出したら聞きませんから。」
彼と奈緒の押し問答に、和歌子がため息を吐きながら割り込む。
「で、でも!」
「…○○さん、勝算はお有りですか。」
「ある、とも言えないが、どの道止めなきゃならないだろ。まして、刀使に水上戦闘は不利だからな。一般人相手には一般人で対応するのが、色々と面倒も後腐れもなくて済むだろ?」
「……はあ~、分かりました。寿々花様や獅童さんには私から伝えておきます。刀使以外の特祭隊の方も何名かは率いて構いません。」
現場の全権指揮は和歌子が持っているため、和歌子がいいと言えば他の人間は口出しできない。これはOGである奈緒であっても同じことが言える。奈緒はこれにより、彼を引き留めることができなくなった。
「すまない苗場、まだ迷惑を掛けるな。」
「いえ、私は貴方が得意ではありませんし。ここに長居して貰わない方が、むしろ粛々と任務をこなせそうですから。」
「…そうだな。悪いな、押しかけて。」
(…○○さん、八つ当たりしてすみません。ですが、今の私はちょっとしたことでイライラしてしまうようですので。…あとで、お詫びしましょうか。)
色々な感情が渦巻いていた和歌子に、彼は自分の顔が見えないように背を向けて去ろうとした。だが、不意に左腕を掴まれる。掴んでいたのは、今にも泣き出しそうな奈緒であった。
「待ってよ…、折角皆が貴方のことを一生懸命になって捜してくれたのに、それでも○○君は行っちゃうの?」
「…浦賀、許してくれとは言わない。だが、これは多分俺がやらなきゃならない事なんだと思う。兼任であったとはいえ、自分の部下が犯罪行為に手を染めたんだ。これ以上罪を重ねさせるわけには、いかねえんだよ。」
「貴方が死んでしまうかもしれないのに?」
「その時はその時だ。自分の部下への落とし前もつけられないんじゃ、上司失格だしな。…それに、浦賀も含め、刀使の手を血で染めるわけにはいかない。その手を染めるのは、俺のような一般人でいい。彼女達の手は、人を殺めるためのものでは決してないからな。」
「……分かったよ。じゃあ、戻ってこれたら、一日…いいえ一泊は私に付き合ってもらうから。―や・く・そ・く、ね?」
「…おっ、おう…。」
話しているうちに表情がみるみる変わっていった、奈緒の圧の強い笑顔の前に、かなり強めの指切りを交わされた彼。しかし、彼女が自分を止める理由も分かっていた。相手の武装も分からないのに、わざわざ死にに行くような馬鹿な真似をする必要はない、と。実際に彼女が止めようとしていた理由は少し違うのだが。
それでも、彼は止まらなかった。いや、止まれなかった、が正しいのだろう。
湖上で真奈美達を捕らえるため、彼に率いられる部隊の人間が、ライオットシールドやフリードマンが送り込んでいた新型シールドなどの制圧・防弾装備や、交戦に備えて89式小銃と対物ライフル型の対荒魂用拘束ユニットなどを、お借りした船舶へと積んでいく。
今回は四艘に分乗し、二艘ずつで相手側の船舶の進路をブロッキングする作戦を立てていた。幸いなことに、真奈美達のいる地点でたまたま炸裂した急速冷凍弾が付近の湖面一帯を凍てつかせていたため、時間に追われる心配がなかったことは、彼にとって救いであった。
「…まさか、海保の短期出向で経験したことがこんなところで活かされるとはなぁ…。」
「あっ、居たいた!」
湖畔の船着き場で作業中だったところに、傘を差した彩矢が彼の姿を見つけて近寄ってきた。少し濡れ気味だった彼の体を、相合傘の要領で雨から体温低下と濡れを防ぐ。
「あれ、なんで彩矢がこっちに?」
「各班の刀使の皆や物資の仕分け作業とかが終わってね。浦賀さんや西さんに聞いたら、船着き場に居るって聞いて、来てみたんだ。」
「そっか。…ってことは、彩矢はもう知っているのか。俺が次に何をしようとしているのかを。」
「まあ、ね。本当だったら、私も浦賀さんみたいに止めたいところだけどね。…君の場合は、私が止めたところできっと、他の要因で行くしかない状況に置かれちゃうみたいだからね。」
「……悪い、彩矢。さっきはあんなことを言った癖に、こんなことになって。」
「ううん。むしろ、やっぱり君らしいなって思っちゃったから。自分のやるべきことに実直に向き合う、そんな姿が今も変わらないんだな、って。」
そう言った彼女の顔を見て、彼はふと微笑み、そしてつい数時間前に体験したことを告げる。
「…なあ、彩矢。俺、夢の中であの先輩に会ったよ。『秩父会戦』で殉職した、先輩に。」
「えっ、そうなの?―それで、何か言ってた?」
「ご兄弟の今後の成長を見守って欲しいってのが一つ、俺に幸せになれって言っていたのが一つだったな。…夢の中での先輩は、あの時*1の選択が今のお前に繋がるキッカケになったとは言ってくれてたが、結局それって、俺が赦しを得ようとしているだけなんじゃないのかと思えてならないんだよな…。夢の中だったから、余計に。」
「……私は、先輩のその言葉、本心だったんじゃないかなって思うな。きっと、もう君がこれ以上あの出来事に縛られる必要はないって、遠回しに言いたかったんだと思うよ。」
「…彩矢は、そう取るのか。」
「君は、もう十分に頑張ってきた。それは今までずっと、里奈からの話で伝わってきたよ。あれだけ頑張ってきて、それでもまだ働けって言うなら、その先輩の霊でもいれば、私は祓っちゃうかもしれないけどね。」
「…彩矢が言うとシャレにならないから、あんまり言ってやるなよ。」
未だに適合する御刀さえあれば刀使として現役復帰が可能なのだから、割かし彼の言っていることも嘘ではないのだ。
「あ、そうそう。これ、一個食べる?」
「酢昆布か。頂こうか。」
彼女の大好きな酢昆布。彼も塩気が欲しくなった時に摘まむこともあるため、嫌いではない。彼女の好むものであれば、拒む理由も特になかった。
「…あー、塩分補給にもなるからいいよな。コレ。」
「そういえば君は以前、私が酢昆布好きって言った時でも、あんまり驚かなかったよね。なんでかな?」
「それ多分、麻美が原因じゃね?―確か、前に俺は麻美から、彩矢が酢昆布が好きって話を聞いた記憶があるんだよ。それに、ウチに寄った時とか普通に食べてたじゃねえか。俺に言わなかっただけで。」
「…どおりで打ち明けた時にリアクションが薄かったわけだね。でもおかげで、付き合う人を選り好みしないってことも分かったし。いいこともあったと思うよ。」
並んで酢昆布を食べつつ、積み込み作業を確認する彼。
「…もうそろそろ、支度が終わるな。」
「もう、行っちゃうんだね。」
「果たすことを果たしてから、後でゆっくりお茶なり何なり一緒にしようじゃないか。その方が、彩矢にとってもスッキリした気分で色々話に花を咲かせられるだろ?」
「…必ず、帰ってきてね。私も待っているから。」
「ああ。生きて帰らなければ、麻美や捜してくれた皆に申し訳ないしな。彩矢もそうだが。」
「うん。」
「じゃ、打ち合わせが終わったら、行ってくる。」
そう言って、静かに彩矢のことを数秒間ハグすると、彼は急ぎ足で本部のテントへと戻っていった。
「……ズルいよ、君はやっぱり。」
今よりもっと好きになっちゃうよ、とは口に出せなかった彼女。彩矢はその後、誘導要員として第三、第四班が展開するエリアへと追加派遣されることになった。時刻はまもなく、午後1時を迎えようとしていた。
ー相模湖湖上
航空機搭載型急速冷凍弾の絶大な凍結能力により、相模湖の投下地点周辺は水面から約1mは固い氷で張り巡らされた。大雨が降りしきるなかで起きたことだったため、空中も一部の水滴が凍ったままであった。
「女王!氷が厚く、進軍不能です!いかがしましょうか!?」
「船を突っ込ませましょうよ!それで全て解決します!」
「バカ言うな!そんなことやったら船体が傷ついて、いずれ浸水して沈むぞ!」
「何おう!なら、代わりの案を出せ!反論だけならいらない!」
「ぐっ、このお!!」
危うく内部分裂寸前のところで、高鍋が真奈美に助け船を出す。
「女王、手持ちのロケットランチャーで氷を吹き飛ばしませんか?」
「そんなことできるの?」
「凍結しているのは比較的浅い深度のところまでです。ならば、吹き飛ばして道を拓いた方が結果的に速いかと。それに、この雨なら氷が解ける速度も早まります。」
「…いいわ、それでいきましょう。それなら、船そのものも軽くなってもっと速く着くかもしれないしね。」
ロケットランチャー分の弾薬が無くなれば、ダムを襲撃した時には銃と手榴弾で対処しなければならないが、最後までロケットランチャーを持ち続けることは必ずしも得策であるとは限らない。そうであるならば、先にここで発射する選択肢はそこまでおかしなものではなかった。
「さ、やってちょうだい!!」
「撃てっ!!」
一発目が氷上に着弾し、大きな穴が形成される。無線で後方のボートへも指令を飛ばし、二発、三発目が発射される。
するとどうだろう、先ほどまで氷原のように真っ白な湖面が広がっていたのに、黒々とした水面が姿を現したではないか。
「次発装填を急げ!もたもたしてると蜂の巣になるわよ!」
「「りょ、了解!!」」
真奈美は焦っていた。大雨による視界不良もそうだが、湖面の凍結というイレギュラー要素が加わったことで、目的のダム管理事務所への到着予測が全く読めなかったのだ。これでは、明るい時間のうちに各地のダムを吹き飛ばすことが困難になる。その視覚的効果が強烈に発揮されるのは、現在の昼間の時間である。ハイエナの如く特ダネを欲する既存マスメディアは、何かショッキングなことがあればセンセーショナルな見出しでダム爆破を報じるだろう。そして、そのタレコミに刀使や刀剣類管理局が至近距離に居たにも関わらず何もしなかった、と一言付け加えるだけで更なるイメージダウンや風評被害を生み出せるというわけだ。
「…女の結束、舐めるんじゃないよ。とっとと突破して、私達の未来を切り拓くんだから!!―破砕急げ!」
真奈美の言葉を守る、残された『男性排斥運動』の面々。檄を飛ばした甲斐があったのか、凍結からおよそ三十分ほどで相模ダム側への啓開航路が拓かれる。
「よし、全速力で向かうわよ!」
だが、道を拓くために彼女達が費やした時間は、相手側に与える時間にも等しいものであった。
ー相模湖湖上 相模湖ICの南東1㎞付近ー
彩矢や梢などに見送られ、決死の覚悟で参加した志願者二十一名が、真奈美達確保のために出港した。部隊を率いるのは、つい数時間前に救出されたばかりの彼であった。各船舶の船首を相手の進行方向である相模ダム側に向け、単縦陣にて迎え撃つ準備を整えていた。
「各船、状況報告を。」
『こちらアユ、両舷にネットランチャーとゴム弾仕様のブローニングM2重機関銃の展開を終わらせましたが、転覆しないかが心配です。』
『後方のヤマメ、アユ同様に展開完了。こちらも転覆に注意しつつ、操船を行います。』
『サケ、89式と対荒魂用拘束ユニットの両舷展開完了。それぞれ片舷二機ずつで問題ありませんか?』
「メダカよりサケ、問題はない。マグネシウム合金製の新型シールドはすぐに展開できるよう、手近に置くように。他のアユ、ヤマメも同様だ。」
『『了解!』』
旗艦である船の名称として便宜上メダカとしたが、これはもし戦闘になった時にはコールサインが分かりやすいほうがいい、という梢からのアドバイスもあったため、今回は川魚の名前を採ったわけである。メダカに積んでいるのは、ネットランチャーこと対刀使用捕縛ネットとゴム弾仕様の89式小銃、そして各種通信設備である。横広で屋形船に近いタイプである他の三艘と異なり、クルーザーに近いこの船は接触に備えて簡易的な緩衝材と装甲を取り付け、船首側に衝突されても多少は防ぐことができる。沈まない確証はないが。
そのため、船に乗る全員にライフジャケットの着用を厳命した。
「それにしても、君まで付いて来る必要は無かったんじゃないのか、四条。」
「多分、真奈美を止められるとすれば私しかいないんじゃないかと思いまして。他の方には足手まといになってしまい、ご迷惑をおかけしますが。」
「○○さん、彼女が一緒に埋められていたっていう?」
「ああ、四条千里さんだ。今から俺らが捉えようとしている女子の友人にあたる。」
「そういうことですか。」
「彼女は射撃経験があまり無いからな、比較的軽めのリボルバー銃を渡してある。ゴム弾だからまあ、相手が死ぬことはないだろうよ。」
護身用ではあるが、何分この湖上では逃げ場がない。なので、応戦しながら身を守るしか手立てはない。一緒に乗っている隊員も、彼の言葉の意味を悟り、深く追及はしなかった。
「○○さん。獅童さんや此花さんには、この作戦概要を伝えたのですか?」
「『そっちは任せた』とだけ。まあ、無理もねえよ。向こうは向こうで、荒魂とやり合っている最中なんだ。こっちを構っていられる余裕はねえよ。」
とはいえ、銃撃をしてくるような相手にどう立ち向かえばいいのかなど、普通の特祭隊員は経験していない。まして揺れ動く船上であれば尚更の話だ。
「無線の感度は良好、有効視界はだいたい500mくらいか。…あまりやりたくない方法だけどな、この作戦では。」
彼が考えている作戦は、実際に海上保安庁でも行われた実績のある停船方法であった。とはいえ、その方法自体がかなり危険の伴うものであり、場合によっては率いている隊員達に被害が出る可能性を否定できなかった。
「タブレットでは伝えたんだが、ぶっつけ本番でどこまでできるものか…。」
高倍率の照準器を取り付けた89式やブローニングM2を双眼鏡から見ながら、その時が訪れるのを待つ。
そして、耳を澄ませていた彼が、南西方向からやってくる船の音と、僅かだがその船影を捉える。
「全艦再始動!タブレット上に表示した予測航路に沿って、操船せよ!」
『『『了解!!』』』
「各班、戦闘準備!何としてでも確保するぞ!」
メダカ、サケ、アユ、ヤマメ、それぞれの船に乗る特祭隊員達が、銃やネットランチャーのトリガーに指を掛ける。セーフティーロックは既に外した。
だが、その最初の火蓋が切って落とされたのは、相手の遠距離先制攻撃だった。
ビー ビー ビー ビー!!
「前方よりロックオンアラート!本船着弾まで十秒!」
「チャフ発射!!左に回頭しろ!!」
元々高速航行に不向きな湖用の船舶であるため、加速には時間が掛かった。その加速の遅さに食いついた二発のロケット弾が、展開していた特祭隊の船舶に襲い掛かろうとしていた。
ドォーン! ドォーン!
ロケット弾は、彼らがギリギリで展開した空中のチャフに命中し、空中で真っ赤な大輪の花を咲かせて小規模な衝撃波をもたらす。
「グワーッ!」
「―!!各班、被害報告!!」
『サケ、二名負傷!いずれも耳をやられました!』
『ヤマメ、負傷者なし!ただし船内に多数のガラス片が散乱!』
『アユ、一名負傷!目と耳をやられたようです!』
「被害報告、確認した!アユの一名は応急処置を受けた後、操舵室に退避しろ!」
「サケの二名は!?」
「これ以上負傷しないように耳栓か、無ければイヤーマフを付けろ!銃撃戦になれば耳はどのみち酷いことになる!」
『りょ、了解!』
「サケの小隊長へ、負傷した二名にはタブレットかスマホで指示を出すように。がなり立てても仕方がない、ともかくこれ以上傷が増えないようにするんだ!」
『サケ小隊長、指示を承りました。』
「…ウチのところは一人負傷か。イヤーマフがあるから、これを付けて応戦してくれ。」
耳を負傷した女性隊員に、イヤーマフを手渡す彼。
初手で早速四名が負傷したが、これ自体は予想されていたことであった。問題は、次の攻撃以降である。
「もしまだロケット弾を持っているなら、接近するのは危険だな。だが…」
(双方の距離を10m前後まで近づけられれば、仮に発射したところで巻き添えを受けるはず…。ならば。)
「ヤマメ、メダカと共に、攻撃してきた敵船舶への接舷を第一目的として行動せよ。これより先、各班の正当防衛射撃を許可する。各人の記録用カメラを必ず起動し、発砲時の行動を録画せよ。」
『『『了解!!』』』
彼らの船隊は一度左に舵を切ったことで、真奈美達の乗る二艘の船舶から離れてしまった。しかし、船速は此方が少し上回っていたことで、視界不良の状況を活用して先回りした展開をすることができた。
真奈美達『
ご拝読いただき、ありがとうございました。
本文中でも少し触れていた、彼が考えていた停船方法ですが、分かりやすい例では九州南西海域工作船事件において、実際に巡視船二隻が工作船を挟み込もうとしたケースを想定しておりました。
…最も、特祭隊がこうした水上戦闘の事案に関わることなど、そうそうあり得ないとは思いますが。(あるとすれば、ノロの海外密輸などのケースでしょうが。)
次回も続きます。あと残り数話というところまで、この本編の終着点は見えてきました。いい加減、以前の流れに戻りたいところ…。(筆者的にもここまで長くなるとは…。)
それでは、また。