刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は姫和編その2 後編です。
文章量としては、可奈美編 その2後編と同等です。
少々長くなっていますが、ご容赦ください。

UA4500、全話PV10000を突破いたしました。(執筆当時)
読者の皆様、ありがとうございます。

それでは、どうぞ。


③ 田植えと宿泊体験 後編

 ー奈良県某所 十条家ー

 

 柳瀬家の執事である、柴田の運転するハイエースが、姫和の家の前に停まる。

 ドアロックを解除する音が聞こえると、車のスライドドアが開かれる。

 

「姫和ちゃ~ん!」

 出会って早々、姫和の方に飛び込む。

「おい可奈美!いきなり抱きつくな!」

「ええ~いいじゃん!」

「全く、お前って奴は…。」

 口では可奈美にこう言うが、満更でも無さそうな姫和。

「おーい、エターナル。家に上がってもいいか?」

 頭上にねねを載せた薫が、姫和を弄る。

「誰がエターナルだ!…まあ、遠路遥々ここまで来たんだ。上がっていってくれ。」

「すまねえな。」

「お邪魔シマース!」

「ねぇー。」

「…お邪魔します。」

 薫とねね、エレン、沙耶香の三人と一匹は、先に姫和の家の方に上がる。

「あれ?そういえば、舞衣ちゃんは?」

「ああ、舞衣ならそこに。」

 姫和は、車道の方を指差す。

 可奈美は、その指差す方向を見ると、柴田と話す舞衣の姿を捉えた。

 

「舞衣お嬢様、それでは私はこれで。明日の夕方頃、皆様をお迎えに上がります。」

「いえ、私の方こそごめんなさい。柴田さんに、負担をかけさせるような頼みをしてしまって。」

「お嬢様、私どもはこれが仕事ですので。ご学友と楽しい一時を過ごされて下さい。」

「…はい!父の方にも、よろしく伝えておいて下さい。」

「かしこまりました。」

 車をUターンさせ、柴田は、奈良市街へと戻る。

 舞衣は、車が見えなくなるまで、その場に立っていた。

「…さて、可奈美ちゃんやみんなが待っているだろうから、行こうかな。」

 舞衣も、家の方に上がっていく。

 

 

 舞衣が、姫和と可奈美に合流したのは、それからすぐのことだった。

「舞衣、ご苦労様。」

「姫和ちゃん。今日から一日よろしくね。」

「ああ。…それと可奈美、荷物を置いたら少し手伝ってくれ。」

「えっ、いいけど何かするの?」

「田植えの準備に必要なものを、田まで下ろすのを手伝って欲しい。」

「分かったよ。」

「舞衣、ちょっとこいつを借りるぞ。」

「うん。…姫和ちゃん。私たちは、まだ待ってた方がいいかな?」

「先に着替えを済ませておいてくれ。準備が終わったら、恐らくアイツが教えに来るだろうから、その時下りてきてくれ。」

 アイツと言われて、舞衣は誰のことか一瞬考え込んだが、姫和がアイツと言う人間は、一人しかいないことを思い出す。

「了解。可奈美ちゃん、また後でね!」

 母家の方へ駆け出す舞衣。

「私たちも行くとするか。」

「うん。」

 二人は並びあって、歩き始める。

 あの時を彷彿とさせるように。

 

 

 

 

 姫和の先導の下、農業用作業小屋にやってきた二人。

 既に先に来ていた彼が、二人を出迎える。

「おーい!二人とも!」

「お久しぶりです!」

「元気にしてたか?」

「はい!」

 帰還後、初めて直接会話を交わす彼と可奈美。

 数分ほど話し続けていると、小屋から姫和が出てくる。

「おい二人共、話はそこそこにしろよ。用具を出さないと、先に進まないからな。」

「えーっ。久しぶりにお話しするのに~?」

「後ででも出来るだろ!急がないと、日が沈み出すぞ!」

 時間自体は午後1時を少し回ったくらいだったが、山間部は日の入りが早いこともあり、姫和の言っていることもあながち間違いではなかった。

「ともかく、持って下りるぞ!手伝え、可奈美!」

「姫和ちゃん、人遣いが荒いよ~!」

 二人が、八幡力を使って運搬しているのを見ていた彼は、

(こんな時に刀使の力を使わんでも良かろうに。)

 とも思ったが、これを口に出すのは憚られるとも思った。

 ちなみに、二人共御刀を持って動いている。

 

 そう言う彼も、稲の苗床を積んだ軽トラックを駆る。

 事故防止のため、スピードの出にくい、キャタピラタイプに改造された車両を運転する。

 

 彼が、特別祭祀機動隊で研修を受けた時、運転免許に関する講習と実技が受けられるプログラムがあったため、その時に受けてみたものの、内容は多分に大変なものであった。

 何せ、現役の交通機動隊所属の、警察官指導の下でやったものだから、みっちりもいいとこみっちりなプログラムだった。

 最後までやり切ったのは、彼含め四人程。確か、一人は平城の制服だったような…、と過去の出来事を逡巡する。

 軽トラックのクラッチを、シフトチェンジしながら道を下る。

 

 

 

 

 ー田んぼー

 

 予想以上に来るのが遅い彼に代わり、姫和が家で着替えを済ませた四人を呼び出し、目的の田んぼに誘導する。

「ここが、姫和ちゃん宅の田んぼ…。」

「舞衣…、何だか楽しそう。」

「結構広いな。本当にここ一面だけなのか?」

「ねー。」

「薫ー、ワタシ田植えするの初めてデース!」

 各々が感想を言う。

 姫和は、やれやれと思いながらも四人と一匹に促す。

「お前たち…、とりあえず、そこの長靴を履いてくれ。何かあっては困るからな。」

「はーい!」

 可奈美と姫和も、先に田んぼに入った四人の後を追う。

 

 

 少し遅れて、彼の運転する軽トラックが、田植えをする田んぼの横に停まる。

 姫和が、田んぼから駆け上がってくる。

「みな、お待たせ。苗床を持ってきたぞ。」

「遅かったじゃないか。何かあったのか?」

「坂道を下るのに、ちょっとな。それと、この苗床はどこに置けばいい?」

「そうだな…。端に置いていいと思うぞ。あとはそれぞれ、カゴの中に苗を突っ込んでいくだろうからな。」

「分かった。…姫和。すまんが、これを下ろすのを手伝ってくれないか…?」

 彼が、苗床とは別に長い筒状のものを指差す。

「これは…『ごろ』か?」

 『ごろ』とは、手植えで田植えを行う際に使われる道具で、回転させながら一定の間隔で苗を植えるためのものだ。

 基本的な機能は変わらないが、地域によって形状もまちまちではある。

 

「まだ、上に残っていたやつを持ってきた。姫和たちが、大半のものを持っていってくれたから、こっちはだいぶ楽だったよ。」

「そうか…。とりあえず、これを先に持っていくか。これが無いと、間隔もバラバラになってしまうからな。」

「姫和ちゃ~ん!みんなを連れてきたよ!」

「ありがとう、可奈美。さて、田植えの始まりだ!」

「おー!」

 かくして、十条家での田植え体験が始まった。

 

 

 

 

 一同、中腰になりながら、一本ずつ稲を植えていく。

「しっかし、ヒヨヨンもこんな場所で生活してきたなんてなぁ。」

「ねー。」

「確かに、不便ではありますネー。でも、今時こんな和な場所も、そう無いと思いマスヨー。」

「…エレンちゃん!稲が倒れてるよ!」

「ワオ!マイマイ、ありがとうございマース!」

「…田植え、結構、大変。」

「大丈夫?沙耶香ちゃん。無理しちゃダメだからね。」

「うん。」

 雑談も交えながら、田植えは進む。

「そういえば、姫和ちゃん。」

「何だ、可奈美?」

「私達と会う前も、こんな感じに田植えとかしてたの?」

「父が亡くなるまでは、田植えを手伝っていた。そこからは、ほとんど親戚に任せっ放しになっていたがな。」

「そっか…。」

「だが、今はこうして、皆と田植えを楽しんでやれている。まあ、荒魂が出れば直ぐにでも向かうがな。」

「まあまあ。今日明日はお休みしないと、ね?」

「そうだぞ、姫和。休む時に休めないと、肝心な時に動けなくなるからな。」

「…そういうお前はどうなんだ?ここ最近、ずっと働き詰めだったと聞いているが?」

「誰がそんなことを?」

「本部長と(五條)学長。」

「…働かせっ放しって認識はあったわけだ。」

 定期的に休みくらい取らせろよ、と悪態を吐く彼。

「まあ、私達が戻ってくるまでの間、薫ちゃんや紗耶香ちゃん達も頑張ってくれていたから、みんなに感謝しなきゃね。」

「…ホントだな。」

 三人は、隣で植えている四人の方を見る。

「さて、もう一踏ん張り!やっちゃうぞー!」

「張り切り過ぎるなよ。可奈美。」

「俺も、ちゃっちゃかやるか。」

 昼前まで土色だった、半反(約150坪)程の田んぼは、今では大部分が緑に染まっていた。

 姫和は、こんな時間も悪くないものだな、と感じた。

 

 

 

 

 田植えが思いの外早く終わり、六人は庭や縁側で寛いでいた。

 姫和特製のおはぎとお茶が、六人と一匹の血糖値を上げる。

 一方、彼は薪をくべ、風呂の準備を始めていた。

 十条家の風呂は、ガス・ボイラー併用可能なものであったため、普段体験することが無いであろう、薪ボイラー方式の沸かし方をすることにした。

 姫和にこれを話した時には、

『まさか、覗きでもする気か!?』

 と言われ、少し凹んでしまったが、きちんと理由を説明すると、彼女は納得した様子だった。

「なんで俺が、犯罪紛いのことをここでせにゃならんのだよ、姫和さんよ。」

 さっきのことが、ちょっと尾を引いていたようで、内心暗くなりながらも、ボイラーの中に薪をくべる。

 姫和の家は、昔ながらの日本家屋とはいえ、一部は現代化改装されている。風呂場は、その一例だ。

「お湯の温度は…、もう少し熱くてもいいな。」

 彼は、風呂の湯の水温を40℃として、六人が入ることを考えると、二回に分けて沸かす方がいいと考えた。このため、作業自体はあと一度やる必要がある。

 また少々熱めの方が、後続で入る人間には丁度良い湯加減になるからだ。

「姫和が、適当に誰かを風呂に入れていくだろうから、それまでちょっと作業するか。」

 そう言うと、彼は少し離れた位置で、薪割りを始めた。

 

 

「全く、アイツは何をやっているんだか。」

 彼を呼びにやってきた、姫和。

 一向に顔を見せないので、心配して来たのである。

「せい!…う~む。綺麗には割れないか…。もういっちょ!」

「…今は、いいか。後で呼びに来よう。」

 そっと離れる彼女。

 皆のために働く彼を、後で労ってやろうと思った。

 

 

 

 

「いただきま~す!」

「ね~!」

 時間も夕食時を迎え、姫和が準備したそうめんと、切り終えたキュウリなどの野菜類の山が置かれる。

「こうしてみんなと食べるのも、久しぶりだね。」

「…うん。舞衣と一緒になれるの、久しぶり。」

「どんどん食っていけよ~。無くなるぞ~。」

「薫~。取り過ぎデス!」

「落ち着け、エレン。まだあるから大丈夫だ。」

「ハ~イ。」

「なんか、こう、俺要る…?」

 ワチャワチャする中、男一人でそうめんを喰らう彼。

「日頃の行いのせいじゃないのか?」

 姫和が隣に座る。

「そうかもな。」

「…色々と、ありがとな。」

「?何のことだ?」

 本当に何のことか、よく分かってない彼。

「もう…、お前って奴は…。もういい!」

「ええ…。」

 スタスタと彼から離れる、姫和。

「何だったんだ?一体?」

 頭の上で?を作る彼。

「…お互い、大変そうだな…。」

「そう、デスね。…どっちも鈍感過ぎデス。」

「ねー。」

 薫とエレン、ねねは、二人のやり取りを見ながら、溜め息を上げる。

「あっはっは…。」

「姫和、なんで怒ってたの?」

「う~ん。怒ってはいない、かな。」

 可奈美、沙耶香、舞衣もまた、苦笑しながらも、二人の成り行きを見守ろうと思った。

 

 

 

 

 

「ったく、さっきは一体何だったんだ?突然姫和は怒って行っちまうし。」

 夕食も終わり、皿などを片付け終えた彼は、今晩泊めてもらう離れへと向かう。

 姫和や他の娘たちも、彼の人柄(夜襲をかけたりなどしない人)を知っているので、泊めることを許可してもらっているが、着替え等を考えると、やはり別々に泊まった方が良いため、姫和に離れを空けてもらったのである。

「皆、風呂も入り終わっていたみたいだし、一度水を抜いた後に、もういっぺん沸かし直すか。」

 彼も、彼女たちや自身の立場を考えて、もう一度(正確には二度)沸かそうと考えていた。

 

 着替えと体を拭く用のタオルを持ち、風呂場へと向かう。…のだが…。

「あれ?電気が点いている?…今、誰も入っていなかったよな…?」

 念のため、浴室と脱衣場を隔てる扉をノックする。

 

 コンコン

 

「誰かいるのか~?」

『!?お、おい!その声!』

「…まさか、姫和か…?わ、悪い!…のんびりしていたところ、邪魔しちまって…。」

『私の方こそ、すまない。…もうそんな時間だったか?』

「いや、単に俺が早く来過ぎただけだ。…一旦戻る。」

 先ほどのこともあったため、彼は気まずくなる前に、この場から離脱しようとした。

 だが、

『ま、待て!』

 ザバーッという音と共に、浴室内の姫和に呼び止められる。

「…そんな急に上がらなくても…。」

『ち、違う!そうじゃなくてだな!』

「?じゃあ、なんだ?」

『…さっきは、すまなかった。』

「あっ、ああ。別に気にはしてねえが…。」

『…可奈美たちのために、色々手伝ってくれて、ありがとう。…さっきは礼を言おうとしていたんだが、無礼な真似をしてすまなかった。』

「そう、だったのか。てっきり、また俺が何かしでかしたのか、とばかり思ってな。」

 

 

 ガンッ

 

 

 突如、二人を隔てていた扉が開かれ、そこから姫和が飛び出てくる。

「えっ、ちょ、まっ。」

 あまりの出来事に、状況に流されるままの彼。

 そのまま、姫和が彼にタックルするような形で、上に覆い被さる。

 二人を隔てるのは、彼の服と姫和が巻いていたバスタオルのみだ。

 

 

 

 

「あの~。姫和さん?」

 実質馬乗り状態の中、姫和は口を開く。

「…風呂に入りながら、考えていたんだ。お前のことを。」

 姫和は、息がかかりそうな距離で彼の顔を見る。

「…お前は、いつも私のことを気にかけてくれていた。私が知り得る限り、男ではお前か博士くらいなものだ。」

「そう、だったのか?」

「ああ。…今日、過ごしていて思ったんだ。お前の存在は、私の中で大きくなっていたのだな、と。」

「…そういえば、やたらメッセージが来ていた頃があったよな。というか、今もだが。」

 コクリと頷く、姫和。

 

「母の仇のことしか考えてこなかった私に、女としての生き方も示してくれたのは、他でもない。お前だ。」

「…ただ復讐のためだけに生きているなんて、寂し過ぎると思ったんだよ。…俺の、余計なお世話だったかもしれないが。」

「だが、少なくとも私は、お前のことを…。その…。いい奴だと思っているぞ。」

 

(女子のいい奴って発言、大体はどうでもいい奴のことを指すんだが…。この状況で、その線はないな…。)

 冷静に分析している場合か、とも言われそうだが、彼自身こうした経験が無い以上、頭を働かせるしかない。

 次に発するべき言葉を熟考する。

 

「…なあ、姫和。次に長い休みがとれるなら、二人きりでどこか行かないか?」

「えっ。」

 姫和の表情が、更に明るいものになっていく。

「…いいな。それまでに、任務を片付けておかないとな。」

 彼自身、彼女に気が無い訳ではなかった。

 だが、今の状況も含めて、まだ言うべき段階ではないと考え、その代わり、彼女にこう頼んだ。

「姫和、このまま抱きしめてもいいか?」

「えっ?私をか?……構わないぞ。ただ、優しく頼む。」

「仰せの通りに。お嬢様。」

 優しく、彼は姫和を抱きしめる。

 一線を越えることこそ無いが、彼女を誰かに取られたくないという気持ちも、心のどこかにはあった。

 ……もう、離したくない。

 彼は、何が何でも姫和を守り抜こうと、その心に誓った。

 思わず、腕に力が入ったが、姫和は何も言わず、彼を抱きしめ返した。

 

 

 

 

 なお、可奈美含め、この時に二人の出来事に気がついた者はいなかったが、翌朝、離れで抱き合ったまま寝ていた二人を、最初に見つけた薫は、泡を吹いて倒れたそうな。

 

 姫和と彼の仲は、ようやくその重い一歩を踏み出した。

 可奈美の何気ない言葉が、この二人を前に進ませることになるとは、当人でさえ思わなかっただろう。

 十条家での、田植え体験と宿泊体験は、こうして幕を下ろした。




ご拝読ありがとうございました。

…姫和がここから積極的になったら、どうなるんだろうか?

次話は、舞衣編を予定しています。

感想等ございましたら、対応させて頂きます。
それでは、また。
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